新世紀ヱヴァンゲリオン 碇シンジの憂鬱

W

presented by 黒潮様


「我がクラスにやってきた即戦力の転校生、その名も」

「い、碇シンジです」

 即戦力って何? 僕、何かやらされるんですか? というか、SOS団って何? そして、部員(団員?)と思しき二人の人、哀れむような目線を送ってこないでください。

「ここが、SOS団よ。私が団長の涼宮ハルヒ。そこに居るのが団員その1、その2、その3。あなたが4人目よ。みんな、仲良くやりましょう」

 それっきり黙りこむ。それだけですか? 団員の名前は教えてくれないんですか? 一人はわかりますが、他は判りませんよ? というか、皆さん驚いたよう な、疑っているような、微妙な表情をしていますが、歓迎されていないんじゃないですか? 長門さんは無表情でここを一べつしたっきり本に目を戻したけど さ。

「古泉一樹です、よろしくお願いします」

「あ、私、朝比奈みくるです。よろしくお願いしますね」

「……長門有希……」

 気まずい空白が終わり、とりあえず自己紹介も終わったが、一つ疑問が残っている。

「ところで、この部活(?)というのは何をするんですか?」

 SOS団、という名前からはその活動内容は捉えきれない。見た目、緊急信号をキャッチしてそれを助けに行くかのように見えるが、そんな装備があるはずが 無いし、そもそもそんなものは国家権力に任せておくべきなのであって、一高校生団体が行うような活動ではない。ミイラ取りがミイラになるのが落ちだ。

「教えるわ。SOS団の活動内容。宇宙人や未来人や超能力者を探し出して一緒に遊ぶことよ」

 はぁ……何言ってるんだ。宇宙人や未来人や超能力者なんて居るわけ……少なくとも、宇宙人はいるな。長門さんがそれに該当するだろう。偶然だよね、この 一致は。未来人は……思い当たるところが多すぎます。僕、未来人です。誰も信じないだろうけど。超能力者……まぁ、情報操作能力がこれに該当するよね。う ん、否定できない。

「す、凄いですね」

 そうとしかいえない自分がなんとも悲しい。

 その後は、古泉君とオセロをしたり、朝比奈さんのお茶に舌鼓を打ったり、長門さんに本を紹介してもらったり、涼宮さんに……涼宮さんには何もされなかっ たな。少し悲しい、と言うか、連行した張本人なのにほっぽっておくというのはどうなのだろうか? ともかく、そのようにして下校時間近くまで元文芸部室、 現SOS団不法占拠部室で無駄に時間を過ごしていた。

 平和な時って良いね。心のオアシスになりそうだよ。色々な意味で。




「今日の訓練はここまでよ。1時間の休憩の後に技術部に出頭すること」

 銃器を使った射撃訓練を終え、1時間の休憩を許可された。地上に向かうことにしよう。確か、一部のビルとは直通エレベーターで結ばれているはずだから、それで地上に出よう。そうしたら、時間が節約できる。

 『前回』と違って銃器は自衛のためにも携行が必須とされている。自分は、『じょーほーそーさのーりょく』でどうにかなるでしょ、と赤木さんに脅迫されて S&WM500を携行しているが、はっきり言って人に向かって撃つ銃じゃぁない。まっ、ツェリザカではない分ましなのかもしれないけどさ。しかし、どうで もいいけど、『じょーほーそーさのーりょく』は無いでしょ、赤木さん。


「あれ、シンジじゃない」

 まずっ。ビルから出てきた途端に、会うべきではない人に会ってしまった。

「あ、涼宮さん。こんにちは」

 とにかく、穏便に話を終わらそう。1時間以内に戻らなければ、技術部が解剖実験を仕掛けてきかねない。

「ちょうど良かったわ。あんたも付き合って」

「何に?」

「さぁ、行くわよ」

 そうですね。あなたは人の話を聞かないんでしたね。駆け出した彼女を追って、そんな事を考える。あぁ、ごめんよトウジ、ケンスケ。君らとは邂逅できそうに無いよ。初日のメールを、ウイルス付きで返送するんじゃなかった、と後悔。


「それで、ここどこですか?」

「ほら、アンタが転校してくる前日に起こった侵攻事件の爪あとよ」

 いや、それは見たら判るから。多分、サキエルの光弾の着弾後だろうそこは、NATOによって封鎖されている、と知らせる看板が立っている。

「中に入るのを手伝って」

「入ったらだめ、と書かれていますけど」

「んなの関係ないわよ」

 はぁ……この人にルールとか、法律とか、そういった概念は存在しないのか? 全く。

「あれ、シンちゃんじゃない。……ふ〜ん、彼女?」

「違いますよ」

 というか、アンタなんでこんな場所にいるんだ。さっき、訓練が終わってその報告書を書かなきゃ、と言ってたでしょ。あれから10分も経ってませんよ。

「知り合い?」

「まぁね。父親の仕事場の人」

「へぇ……」

 痛いから背中をつねらないで。

「えっと、誰だかわからないけど、とにかく、入ったら問答無用で銃殺刑だから、入らない方が良いわよ」

「つまり、そうまでして隠したい謎があるわけね。それなら……」

 何か、ものすごく嫌な予感がします。それはもう激しく。

「ねぇ、シンちゃん。この子、大丈夫」

「……さぁ?」

 そうとしか応えられない自分が悲しい。しかし、それが現実なのだ。見た目は確かに良いが、中身が終わっている。これなら、アスカの方が遥かにマシだ。




 Neun Genesis Evangelion
 The Merancholy of Shinji Ikari
 IV




「ふむ。そちがサードチルドレンか」

「碇の息子とは思えんな」

「これは、むしろユイさまに似ておりますな」

「あの髭面の血を引いているとは思えんて」

 1時間がたち、技術部に召喚されるはずだった僕は、しかし、国連安保理直属の人類委員会との顔合わせを命ぜられた。目の前にいるのは、ゼーレの一員でも ある人々。だが、朝倉さんの言葉を借りるのなら、彼らの計画は人類の未来に影響しない。そう聞かされたからか、あまり憎むような気持ちは沸いてこない。

「君の活躍、ご苦労だった。我々の時間、金、人命。莫大な資源が君のおかげで失われずにすんだ」

「我々ネルフの上位機関としても、君には労いの言葉を送っておかねばと思ってね」

「そういうことだ。さしずめ、君には何か要望があるかね?」

 赤い人と、青い人と、緑の人が順番に話す。本名を知らないため、適当に色で呼ぶことにしよう。

「第三新東京市外での使徒の迎撃ができるようにお願いします」

 それが、願いだった。

「ふむ。良かろう。強羅防衛線以前で迎撃戦が行えるように設備の整備を開始することを約束しよう」

 バイザーの人がそう言う。他の委員達も異議は無いらしく、うなずいている。

「国連のほうからは、報奨金を君に出そう。後で口座を確認しておくことだ」

「ありがとうございます」

「他には……無いな」

「あぁ、無いな」

「では、これにて解散とする。碇の息子よ、君には被害無き戦果を望んでいる。我々の期待を裏切らんようにな」

 そうバイザーの人が良い、顔合わせは僅か20分で終わりを告げた。

 しかし、人類補完委員会……じゃなくて人類委員会だったか、って結構良い人たちなんだな。確か、ゼーレとも繋がっているはずなんだけどな。




 あの突然の会談から五日間が経った。今日は、国連人類委員会が約束した強羅防衛線の改築作業を見に行くことにした。

「これが新強羅防衛線ですか」

「えぇ。改築前とは異なり、ヱヴァンゲリオンとの共同運用を前提に再設計を加えています」

 強羅市のほぼ全域は既にNATO所管の軍事基地となっており、住民は第三新東京市へと移住させられている。そこに、新たに電源ビルや兵装ビル、ヱヴァン ゲリオン射出ビルを複数建設する工事が急ピッチで進んでいた。いや、建設工事はここだけではない。二子山や芦ノ湖湖底、富士山山麓など、第三新東京市及び その周辺地域に軍事的攻撃を仕掛けられる全ての箇所が要塞化工事を急ピッチで進めているのだという。

 元々第三新東京要塞増強工事向けに建造されていた複数のユニットの輸送先を変えるだけだったから、工事それ自体はかなりのスピードで進んでいて、五日間で30パーセントのエリアの補強・増強工事が終わっていた。

 しかし、人類委員会といい、ネルフの対応といい、銃器携行命令といい、『前回』とは確実に違う点が多い。いや、多すぎる。このままだと、予定外のものが出てくるかもしれないな、と内心不安に思う。

「何時オンステージですか?」

 不安を振り払うようにそう聞く。次の使徒戦に間に合わないようだと困るのは僕だし、別に聞いても良いよね。

「あぁ、1週間後にはある程度は使えるようにする」

「そうですか」

 少し安堵。シャムシエルはサキエルの3週間後、つまり、今から2週間後に来るわけだ。だから、それまでに間に合う、というのは安心する。

「……変わったな」

 そうとだけ呟いてから地下直通エレベーターに乗って本部に戻り、そこから別の直通エレベーターに乗ってから自宅を目指すことにする。地上の直射日光はきつい。僕は実は吸血鬼ではないのか、と疑問に思うぐらいキツイ。そのうち吸血衝動とか出なければ良いんだけど。

 と、そこまで思ってから、『今回』は綾波との接触が少ないな、と思った。いや、『前回』もこの時期はこれぐらいだったっけ? うーん。思い出せない。まっ、ヤシマ作戦を気に仲が一気に進展したようなものだし良いかな。うん。良いことにしておこう。






To be continued...


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