第一話 逆行者 Error & Confuse
presented by 琥狼様
海の中を悠々と泳いでいた謎の巨影が、海面へと姿を現す。
丸い目と、嘴がついた仮面を被っているその姿は、異形の物としか思えない。
「正体不明の物体、海面に姿を現しました!」
「物体を映像で確認!!」
「映像、主モニターに回します」
モニターには、その怪物の姿とUNの文字が書かれた戦車が怪物に砲撃を開始している姿が移されていた。しかし、その攻撃はまったくとして受け付けていない。
その部屋は暗く、顔を映す光源はモニターから漏れる光だけ……ここは特務機関ネルフ第一発令所。
「15年ぶりだね」
その機関で最高の位置に値する司令室で、白髪の老紳士が呟いた。
「ああ……間違いない。使徒だ! 来るべき時がついに来たのだ。人類にとって避ける事ができない試練の時が」
その呟きに、机の上で両手を組んだ赤いサングラスを付けている髭の男が答える。
「試練ねぇ。オレに言わせりゃ、薄汚い大人が仕組んだ子供への嫌がらせとしか、思えませんけどねぇ? セカンドインパクトって、本当にアダムとリリスだけが原因なんかねぇ?」
その二人の後ろから、黒目で赤い髪をした男が笑いながら、サングラスの男に近づき、目線より高い位置から見下ろしている。
男のその赤い髪には混じりっ気が無く、血の赤を彷彿とさせる。
サングラスの男は、その男を睨みつけたが、白髪の老紳士がすぐに制した。
「貴様は……特殊技術部一課の」
「篠滝シュウだ。覚えとけ、バカ髭指令。それから、そこの紳士ぶったオッサンも。もうちっと、礼儀ってのを教え込んどけ。副指令のやるべき事だろ」
「少しは言葉をわきまえろ。私は指令だ!」
「あっそ、で? オレをリストラさよなら〜ってか。まぁ、そうなっても文句は言わんが、アンタ等の言う優秀な社員が一気に消え去るぜ? ま、とりあえず。戦自の上層部に圧力かけてNN地雷は凍結させといたから、エヴァ初号機の準備しといたほうが良いぞ。それに、もうすぐ届くんだろ? そのパイロットがさ」
『本日12時30分、東海地方を中心とした、関東全域に特別非常事態宣言が発令されました。住民の方々は速やかに指定のフィルターに避難してください』
アナウンスが流れる駅のホーム。
その外では、鞄を持った黒髪の少年が『ベートーベンの第九』を口ずさみながら歩いていた。空は雲ひとつ無く、快晴。
セカンドインパクトの影響で、常夏となってしまった日本に季節というものは無い。
セミが鳴き続け、立っているだけで汗が滲むような暑さが、毎日続いているのである。
「ん〜。此処で待ち合わせの筈なんだけどねぇ?」
その手には『来い』とだけ掛かれた手紙と、妙齢の美女が誘うようなポーズをとっている写真がある。
少年は溜息を吐くと、近くに設置されていた電話ボックスへと足を進めたが、ふと後ろの方に何者課の気配を感じ、ゆっくりと後ろを向いた。
そこに立っていたのは、銀髪の少年。しかも、自分と同じくらいの年齢であろう。しかし、とても中世的な顔立ちをしている。
「うーん。歌はいいね。そうは思わないかな? 碇シンジ君」
「それは同感だね。それにしても、なぜ僕の名前を? キミは誰なんだい?」
シンジと呼ばれた少年は、銀髪の少年の顔をまじまじと見ている。
「僕? 僕は綾波カヲル。キミと同じ、仕組まれた子供だよ」
カヲルと名乗った銀髪の少年は、シンジに右手を差し伸べたが、当の本人は差し出された右手を見ながら小首をかしげている。
まぁ、それが当たり前の対応だとは思うが。
「君は極端に一時的接触を拒むんだね。怖いのかい? 人と触れ合う事が? 確かに、裏切られる事もなければ傷付くことも無いからね。でも、寂しさを忘れる事は出来ないよ」
「そういうモノなのかい?」
シンジが首を元に戻し、カヲルに尋ねた。
「キミの心はガラスのように繊細だね。キミのそういうとこは」
「好意に値するよ。だね? ……この言葉だけは譲れないねぇ」
二人は、しばらく対峙していると、カヲルが沈黙を切り裂くかのように含み笑いをし始めた。それにつられるかのように、シンジも薄らと笑みを浮かべる。
「もう、変装ゴッコは止めようか。『カヲル』くん」
さっき、カヲルと名乗った少年は、シンジに向かって問い掛けた。
(もう、お気付きの方もいるかもしれないが、黒髪の方がカヲルであり、銀髪の方がシンジである。この二人の事は、話が進むにつれ分かると思うので、これ以上の説明はしない。ここからは、本当の名前で示します)
カヲルはあごに指を当てながら上の方を向いて、なにやら考え事をしている。
「キミはリリスのことしか、考えていないと思ったんだけどねぇ」
「……そりゃ、綾波とは早く会いたいけどさ」
「彼女も14年も待たされて、さぞストレスが溜まっているだろうねぇ」
その言葉を聞いたシンジは固まってしまい、顔が少し青くなっている。
カヲルは、石となったシンジを丁寧に退けて、電話ボックスの中に入り、受話器を上げると、財布の中からテレフォンカードではなく、十円硬貨を取り出し、投入口に入れた。
しかし、ダイアルを回しても、受話器の向こうから聞こえてくるのは、ピーピーという無機質な音だけである。しばらく粘った後カヲルは諦めて、電話ボックスの中から出てきた。
「ミサトさんが来るまで待とうかな……いや、でも綾波を戦闘に出しちゃうし……車でも盗んじゃおうか?」
「ぼ、ボクに同意を求めないでくれないかい?」
シンジの目線の先には、50CCのバイクが放置されている。
確かに、非常時であるのは分かるが、人のものを盗むのはどうだろう? と、言うカヲルの思っている場違いな疑問はそっちのけで、シンジはバイクの鍵を探しているようだ。
ようやくシンジがバイクの下に鍵を見つけた時、遠くの方から土煙を上げて迫ってくる一台の黒いスポーツカーが見えた。
確実にスピード違反であるが、この誰も居ない町に咎めるものは誰一人としていない。
「あれ? ミサトさんなのかな。でも車の色違うしぃ……」
黒いスポーツカーはお約束? 通り、シンジとカヲルの横に急ブレーキを掛けながら突っ込んだ。
そしてドアが開くと、赤髪の男が頭を掻きながら出てきた。
「お〜スマンスマン。迎えに行くはずだった奴が二日酔いで、ダウンしてるってんで、変わりに来たんだが……どっちが碇シンジ君だ?」
「あぁ、僕ですよ」
そう言ってカヲルが手を挙げた。それを横目で見たシンジは、赤髪の男にお辞儀をして
「どうも、綾波カヲルです。ヨロシクお願いします」
どうやら、この二人は少しの間、隠し通すつもりで居るようだ。
「おぉ〜そうかい。(綾波……ねぇ)オレはネルフの特殊技術課の篠滝シュウって言うんだわ」
「……特殊?(そんなトコ無かった気がするけど?)」
「まぁ、来たら分かるさ。ハイさっさと乗りなよ」
シュウは困惑している二人(シンジだけだが)を後部座席に押し込み、シートベルトの確認もせぬまま、何の躊躇もせずにアクセルを踏み込んだ。
シートベルトを装着せずに猛スピードで走れば、大抵の人は結果が分かるであろう。(わからなかったら、お父さんかお母さんにでも頼んじゃいましょう)
数秒後には、後の二人は完全に乗り物酔いでダウンしていたが、シュウは一向にブレーキを踏もうとはしない。それどころか、メーターが限界まで振り切っている。
「しゅ……シュウさん!?(ミサトさんより酷いって……)」
「気にするなって。特急料金は要らないからさ〜」
「そうじゃなくってぇ〜!」
ちなみにカヲルは脳による自己防衛反応の為、完全に意識がなくなっている。
「おっ。ようやく、人類の敵さんのご登場ですなぁ」
シュウは車の窓を開け、ビルの隙間から見える巨影を見据えた。
「アレが使徒っていう……まぁ、そこで倒れているシンジ君が戦う相手だ」
「……(おかしい。エヴァンゲリオン初号機を突然見させて、恐怖心を植え付けるのが、父さんのシナリオじゃなかったのか?)」
「イカレタ奴が作ったシナリオってのは、半分くらい崩した方が見栄えが良くなるんだ。覚えておきなよ。綾波カヲル君」
それ以降、二人の間に会話が交わされる事はなかった。
数十分後、ようやく車のエンジン音が止まり、シンジとカヲルは肩を貸してもらい、なんとか地に足をつくことが出来た。その時間は随分長く感じたとか。
「あら? ずいぶん早かったのね。えと……2人共、話せそうに無いわね」
「お〜赤木姐さんじゃないっすか。どうしたんすか? レイちゃんの看病は?」
「……う(リツコさん? でも、綾波の看病って……え? あれ!?)」
シンジが驚くのも、無理は無いであろう。
目の前に居る、赤木リツコの髪の毛は金色ではなく、日本人独特の黒色の髪であった。
「レイは容態が安定してきたから、ベッドに寝かせてあるわ。それに、サードチルドレンのシンジ君を持っていかないと、初号機に無理矢理、レイが乗せられるんだから」
「はぁ、つまりボクがその初号機とやらに乗れば良い。そう言う事なのかい?」
「貴方が碇シンジ君ね。そっちの銀髪の子は?」
「あ。えと、綾波カヲルです」
リツコはニコニコと意味ありげに笑顔を浮かべながら、カヲルに扮しているシンジの顔を見て、興味を持ったのか、何処からとも無くペンと手帳を取り出した。
ちなみに、手帳と一緒に注射器を持っているのは、おそらくご愛嬌であろう。
その場はとりあえず、シュウがリツコの暴走を食い止める事が出来たが、迷ってしまいそうな通路を進み、赤い水が張ってある下水道のような所をボートで進んでいる今でも、まだリツコはシンジの方をチラチラと見ている。
しばらくすると、光源が殆ど無くなり、いかにも『何かあります!』と主張しているような赤い液体のプールと下水道のような場所を繋いでいる橋にボートがつけられた。
「へぇ〜まるでドブネズミの住んでる所みたいだねぇ」
「ごめんなさいね。ウチの司令って、顔の割に演出にこだわるの……困ったものよ。って、貴方のお父さんだったわね。ごめんなさい」
「いえいえ、構いませんよ。とりあえず、父を出してくれませんかねぇ?」
カヲルが皮肉をこめて、闇の向こうに言い放った。
すると、目を突くような光と共に、巨大な鬼の顔が現われ、4人を睨んでいる。
シンジとカヲルの横で、何故かリツコは口元を緩めていた。
「そうでしたか……父はロボットに改造されましたか」
「そういうことだ!」
突然、上の方からはせられたその言葉に、リツコとシュウは思わず吹き出し、シンジの方は腹を抱えながら笑っている。
「い、碇。シナリオ通りやれば良いというものでは……」
「久しぶりだなシンジ。おまえは、これに乗るのだ!」
上のお二人のうち、一人は既にヤケクソの模様。横でアドバイスをしている老紳士の言葉は、まったく届いていない。一方、下の四人は怪しげに口を歪め、ニヤリとしている。
「貴方は誰でしょうか? 横の白髪の人はともかく、色眼鏡かけて口元隠してる髭の人は、なんか女の人、襲ってそうですねぇ。そうとは思いませんかリツコさん?」
「えぇ、何度も襲われそうになって。その度に、シュウ君に助けてもらったわ」
リツコは目元にハンカチを当てながら、泣く振りをしている。
「くっ。も、もういい! 人類の存亡を賭けた戦いに臆病者は要らん!」
第三者的立場から見て、会話が噛み合わさっていないのは仕方のないことか。
すでに、サングラスの男は話に取り残されている。
「シ、シンジ君。これがキミのお父さんなんだが」
すかさず、白髪の老紳士がサングラスの男を指差して、柔和な目でシンジを見る。
「え? ボクの父はこのロボットじゃないのかい? それでも、自分の息子にそんな口調で話し掛ける人には迷わず、塩と一緒に絶縁状を叩きつけるけどねぇ」
「ごめんなさいねシンジ君。私も科学者として、遺伝子を組み変える事が出来れば、簡単に裁判に勝てるのだけど……今は我慢して」
「ふ、冬月! レイを呼べ!」
完全にシナリオから外れているが、シンジ達は淡々と言いたい事を述べている。
その様子を呆れる様に見ていた老紳士、冬月は咳払いをして、周りのどよめきを押さえた。しかし、シンジ達は罵声を止めるどころか、益々酷くなっていく。
「レイは重症で歩くことも出来ないのに、何て酷い髭なのかしら」
「え〜それサディストじゃないですか!? 人道を脱線してますね」
シンジは軽蔑の視線を向けながら、自分の銀髪を触っている。
「ちわーっす。ファーストチルドレン連れて来ました〜」
四人の後ろから声が聞こえ、振り向いてみると、そこには写真と同じ顔の女性……ミサトが、手や頭に包帯を巻いている無表情な青い髪の少女を担架に乗せ、こちらに向かってきている。しかし、ミサトの体からはアルコール臭が発せられている。
命令が出されてから、数分も経っていないのに……この行動力は素晴らしい。
青髪の少女、レイの紅い視線がシンジに向けられ、二人の視線が交わる。すると、今まで無表情だったレイの頬が桜色に染まった。
「レイ。予備が使えなくなった。出撃だ」
「……了解」
何故かその時、レイの表情はとても嫌そうだったとか。
その後ではシンジがカヲルに何か耳打ちをしていた。
(カヲル君……もうすぐ来ると思うから、ATフィールドの準備しといて)
(はぁ。キミはホントにリリスの事がスキなんだねぇ)
「シンジ君だっけ!? あなたが乗らなきゃ、あの子が乗るのよ!」
ミサトがカヲルの肩を掴んだ時、赤い水が揺れ、普通なら立てなくなるような振動がその場に居た全員を襲う。
しかし、シンジはこけるどころか、レイのほうに向かって走り出し、ベッドから落ちそうになったレイを腰から抱きかかえる。
間髪をいれずに、レイの頭上から鉄の塊が降ってくるが、当る寸前で赤い光により、接触は拒まれた。
「な、に……ATフィールドだと!?」
サングラスの男が硬直し、シンジの方を睨みつける。
「こぉの! 人類の敵ぃ!」
ミサトがホルダーから拳銃を抜き、6発の弾丸を吐き出させるが、すべてATフィールドによって接触する前に消滅していく。
しかし、ミサトは諦めようとせずに、手持ちの弾を全て使い切るような勢いで発砲している。
カヲルは横目でその様子を見ながら、妖しげな微笑を浮かべた。
「使徒を確認した。保安部は火器を全て持ち、殲滅に徹しろ!」
冬月は硬直している言動を尻目に、保安部に向かい指示を出す。
そして、シンジの方を向き、抱きかかえられているレイの唇が動いていることに気がついた。
「ごめんね。もう少し早く来たかったんだけど」
「いいの……碇君」
シンジが自分の銀色の髪を手で掴むと、銀色の毛の塊がごっそりと抜け落ち、黒い短髪の髪が現われた。
その言葉とカツラで銃を構えた保安部は硬直し、命令を下していた冬月も思考が停止する。
命令で使徒の殲滅を言い渡され、場に着けばファーストチルドレンがその使徒に向かい、サードチルドレン(及び司令)の苗字を言い放ち、その両腕は少年の首に巻きつけられているのだから仕方ないであろう。
つまり色々と起こり過ぎて頭がパンク状態なのである。
しかし、そうした状況下でも、ミサトはシンジに発砲を続けている。
そして、サングラスの男の方は机を叩き、シンジだと言い張っていたカヲルを睨み、再びレイの方へ視線を移した。
「レイ! 早くその男から離れろ!」
「あなた誰? まっくろ○ろすけ?」
シンジに抱きかかえられていたレイが、真面目な顔をしてそう言い放ち、周りに居た保安部(推定平均30歳)が一斉に吹き出し、中には腹を抱えて笑っているモノも居る。
「な、何を言っている!? 私を忘れたのか? 碇司令。ゲンドウだ!」
「そう……あなたト○ロって言うのね」
遂にミサト以外、全員が腹を抱え笑い出し、完全に戦闘不能の状態へと陥った。
中でも冬月は咳き込みながら笑い、呼吸困難寸前までなっている。
「くっ! ……問題ない(ま……まぁいい。修正範囲内だ)」
いいのか!? もう後戻りは出来ないぞ? ゲンドウ。
「そう、とろろで良いのね……すり鉢どこ?(エロ髭は用済み……)」
ゲンドウの髪の毛が一気に白くなり、周りからの大きな笑い声が遠ざかっていくような感覚になった。
横で咳き込んでいた冬月はその場に入れなくなり、トイレへと駆け込んでいる。
下に居る保安部からの、哀れみの視線が思いっきり突き刺さる。
「そういえば、母さんも僕を寝かせるときに、よく言ってたよ。『あの人も可愛いところあるのよ。顔は怖いけど』って行ってた記憶があるんだけど」
「……司令の可愛いところ? 微塵も見つからないわね」
「もしかして、サングラスを外すと少女漫画チックな瞳が! とか?」
はっきり言って、そんなメルヘンチックなゲンドウは見たくない。
想像してしまった哀れな所員が、口を押さえてトイレに向かい走って行く。
間一髪で吐き気を逃れた者も、呼吸困難に陥ったり、床でのた打ち回ったりしている。
……メルヘンゲンドウ恐るべし!
「おさげもオプションとして付けておきましょうか?」
「し、シンジ君。それは可愛いんじゃなく……て、気持ち悪いというのよ」
リツコは口を押さえながら、漏れる笑い声を押さえようとしている。
「ふふ。さて、そろそろ出撃しないといけないねぇ」
保安部に混じり、爆笑していたカヲルは目じりに涙を浮かべながら、初号機の方を向いた。
「な、何を言っている!? この男がシンジなら貴様は何者だ!」
「ボクかい? 綾波カヲル。あなたたちが言うファーストチルドレンの兄で第17使徒であるはずのダブリスですよ」
カヲルは上の方で喚いているゲンドウに向かい、アルカイックスマイルを浮かべ言い放つ。
その言葉にミサトがシンジから目を離し、カヲルを鋭い眼光でにらんだ。
威圧を掛けられているにもかかわらず、カヲルは笑みを崩さずに、歯軋りをしているゲンドウを楽しそうに見ている。
どうやらレイの兄と言う事より、使徒と言う事の方がシナリオに影響を与えるようである。
「それに、僕に命令してたじゃないですか。もしかして、忘れてるんですかねぇ?」
「い、言った覚えは……『お前がこれに乗るのだ!』……!?」
「これ、証拠になんねぇっすか?」
ゲンドウが振り向くと、シュウが命令した時に撮っていた映像を、全員に見せていた。
「な!? 貴様。私を裏切る気か!」
「良いじゃないですか。シンクロできりゃ、俺ら助かるんすよ?」
「ぐっ……アレはシンジしか乗れんのだ!」
「いえ。パーソナルデーターは書き換えておきましたので、心配要りませんわ」
ホントはそんな短時間で、書き換えられないのだが、ゲンドウは言葉を詰まらせ、頭を抱えている。
他のモノとしては、誰が出撃しようが知ったこっちゃないのだが、ゲンドウにとって、此処でシンジを乗せなければシナリオが狂うのである。
勿論、そんな事は誰も知らないので、この場にいる全員がカヲルを出すことを指示しているのは間違いない。
つまり、此処でカヲルの出撃を拒否すれば、全員から反感を買うのは必須なのである。
「ふん……使徒を信じれると思うか?」
「ボクの使徒としての使命は、もうすぐ終わりますよ。アダムとの融合を果せばね」
この言葉にゲンドウとトイレから帰って来た冬月が凍りつく。
「出来ると思うのか?(此処のリリスの事を言っているのだな? ふっ、意味のない事を)」
「ちなみに、僕の言っているアダムは、此処の地下に眠っているリリスではなくて、ドイツに居る方。あなたが欲しがっているアダムですよ」
全員の視線がゲンドウへと向けられる。疑いの視線や、困惑の視線。
もし、切り抜ける事が出来ても、疑いの視線は消せないであろう。
「サードインパクトが目的か!?」
「何を言ってるんです? アダムが胎児の状態なんですよ。自我を全く持っていない、ただ暖かい場所を求めるだけのね。今のうちに精神を取り込んで融合させてしまえば、サードインパクトは起こりません。アダムが成長して、自我を持たなければ、殆ど無害ですね。むしろ、ボクの中に居た方がサードインパクトの起こる確率は低いといえます。それに、ボクはセカンドチルドレンにすこし興味がありまして」
カヲルがそこまで言うと、ミサトが放った弾丸がカヲルの背中に当る前に消滅した。
「アスカをどぉするつもりよ!」
「では、あなたに聞きましょうか。自分が一番になることしか考えず。いえ、考える事が出来ない状態で、常に崖っぷちに立たされている人間。これは復讐することしか考えていない大人の、くだらないエゴで作られてるんじゃないんですかねぇ?」
「っ! アンタねぇ」
声を張り上げようとはしたものの、目の前に居る少年に、アスカの事や自分の事をまるで知っているかのように言われているのだ。
これで動揺しない人間は、なかなか居ない。ミサトは震える銃口を下に向けた。
「では、出撃しましょうかねぇ。シュウさんでしたっけ? 乗り方を教えてください」
「ああ、こっち来い。ホントは赤木姐さんの仕事なんだが。『本当のシンジ君』とレイちゃんを連れてかなきゃ、いけないからな」
「えぇ、それじゃ。私はシンジ君とレイを部屋に連れてくから、後は頑張ってね」
「エントリープラグ挿入」
「プラグ固定終了」
「第一次接触開始」
「LCL注入」
シュウの指示の元、着々と作業が進められる。
技術部の面々は最初のうちはカヲルを疑っていたものの、目の前に使徒がきているため、すぐに拭い去った。
エントリープラグ内に赤い水が流れ込み、カヲルの顔まで覆い尽くす。
「この水は、血の味がするねぇ」
「我慢しなさい! 男の子でしょ!?」
「ボクは美味しいと言ってるんだけどねぇ。言葉が足りなかったのかい?」
「んなっ!?(やっぱ、コイツ殺しとくべきだったわ!)」
妙な殺意を抱いているミサトを尻目に、カヲルはシュウに武器の説明やATフィールドについて教えられている(カヲルは使徒だからATフィールドの説明は必要無いと思うのだが)ちなみに、髪の色は黒から銀色に、瞳も赤色に変わっているが、それを質問する物は誰一人としていない。
「火器は無いのかい? 出来ればマシンガンみたいモノがいいんだけどねぇ」
「一応、あるんだが、劣化ウラン弾だから多用はしたくないんだ」
「じゃあ、このナイフと兵装ビルが主戦力ですか。まぁ、兵装ビルは意味無さそうですね」
実際、ナイフだけで突っ込んでも、ATフィールドを使えれば楽勝な相手なのだが。
「ふん! 戦いの素人がナマ言ってんじゃないのよ」
「じゃあ、あなたが乗って戦ってくれると、とても助かるんですけどねぇ」
ミサトは完全に感情に流され、カヲルを皮肉ろうとするが、当の本人はまったく意に介した様子も無く、笑いながらシュウと話している。
「主電源接続」
「全回路動力伝達。起動スタート!」
「A10神経接続異常なし」
「初期コンタクト全て問題なし。双方向回線、開きます」
そこまで言うと、さっきまでシュウの横でオペレートをしていたマヤが目を見開いて、カヲルの姿が写っている画面を見た。
「……どうしたんだ。マヤちゃん」
シュウの声で我に返り、首をぎこちなく回し、シュウに向け、声を振り絞った。
「あの……シンクロ率125.4%です」
その結果を聞いたシュウはニヤリと笑ったが、ミサトを含めた面々は呆然と立ち尽くし、何も言えなくなっている。
使徒なのだから、この位は出来るのかもしれない。しかも、協力をすると言っているのだから、これほど良い話は無い
ミサト以外の所員はその思いに耽っていた。
「誤差も全くありません! 奇跡ですよ!?」
「ハーモニクスはどうだ?」
「正常です。暴走の危険性もゼロです」
マヤは興奮した様子で、シュウに伝えていく。
それを聞いたミサトは、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。
「いけるな。んじゃ、使徒がなんか止まってるみたいだから、距離に余裕あると思う。多分、お前のATフィールドに反応してんのかもな。ま、射出されたら、一度ちゃんと動けるか試してみてくれ」
「へぇ〜随分、逃げ腰ねぇ。ぱっぱと、やっつけなさいよ」
「生き残るためには戦略と防御。んでもって、逃げる事が大事なんだ。突っ込むだけじゃ、犬死するだけだからな。んなのは、まっぴらゴメンだぜ?」
またしても言い包められたミサトは、舌打ちをして、自分の椅子に座った。
「エヴァンゲリオン初号機! 発信準備」
苛立っているミサトの声が室内に響き渡る。
「第一ロックボルト解除」
「解除確認、アンビリカルブリッジ移動!」
「第1第2拘束具除去!」
「1番から5番、安全装置解除」
「内部電源充電完了、外部電源・アンビリカルケーブル異常なし」
「エヴァ初号機射出口へ!」
射出口へと移動していく紫の鬼。おそらく、知らぬ物が見れば、こちらが敵だと認識してしまうかもしれない。
「5番ゲート。スタンバイ」
「システムクリア。オールグリーン」
「発進準備完了!」
おそらく、リツコと同じ位の立場であるシュウの最終確認が出される。
シュウはモニターに移っているカヲルを一度見てから、発令所に居るゲンドウと冬月を見上げた。
二人はなにやら真剣に相談をしているらしく、シュウの目線には気付いていない。
「何やってんのよ! もう良いんでしょ……エヴァンゲリオン初号機発進!」
時間が経つにつれ苛立ちを募らせるミサトの声と共にカヲルを乗せた初号機は射出口固定台ごと地上に吐き出される。
かなりのスピードなのだから、それ相応のGが掛かる筈だが、カヲルは堪える様子も無く、鼻歌混じりに前を見ている。
その姿を見た所員は、カヲルが普通でないことに改めて気付かされることとなった。
激しい揺れと共に、カヲルの乗った初号機が地上へと押し出される。
「カヲル君。準備はOKかい?」
「勿論、いつでもどうぞ」
カヲルは簡単に手足を動かし、準備運動をしている。
『目標は最終防衛ラインの手前です』
モニターには第三新東京街に入り、立ち尽くしている第三使徒の姿が写っていた。
(なんで。使徒に助けられなきゃいけないのよ!)
ミサトが聞こえぬように呟いたその言葉は、誰一人として聞く事は出来なかったが、聞こえていたとしても10人中9人がこう言うだろう。
『生き延びる事が出来るなら、悪魔でも使徒にでも手を貸すよ』と
「……碇。これは修正できんのでは無いか?」
「……問題ない」
To be continued...
(あとがき)
どうも始めまして。琥狼(ころう)と言います。
この作品。とりあえず、シンジとレイが幸せになれば。と思って書いた小説ですが、LAKもあります。と、言いますかゲンドウと冬月とゼーレ以外は、確実に幸せにします。最高の幸せってのは無理なのも居ますけどね(ケンスケとか時田とか)
色々、逆行してます。オリキャラもいます。リツコさん髪染めてません(ゲンドウ嫌いみたい)
戦自のNN地雷は使われなかったので、フィルター内の人も死んでません。
リツコさんは何気にレイの良いお姉さんやってるようです。
ゲンドウは無残な殺し方するつもりです。ユイさんは復活するかどうか未定。
まぁ、それ以上は余り決めてません。マユミやマナはホント未定です。
二話で少しだけアスカ出るかもしれません。ちょっと、本編とは違った展開をして行くつもりなんですが、まぁハッピーエンドは確実ですので。
あと、レイも逆行してます(まぁ、反応見れば分かりますね)
二話の執筆も進めている最中です。これ何話まで続くんだろうか。
もしくは私がいつ倒れるんだろうか……。
此処まで読んで下さった方。アリガトウございます。では、また二話でお会いできたら会いましょう。
それでは、これからよろしくお願いします。
(ながちゃん@管理人のコメント)
琥狼様より「EVANGELION 〜未来に光を〜」の第一話を頂きました。
このSSは逆行物のようですね。いろんな方々が逆行してきています。
カヲル君も初っ端から登場しているし、しかもLRSでLAKときたもんだ!
主人公は一応、シンジ君ですよね?(なんか怪しいオリキャラもいますが・・・)
えーと、シンジ君がカヲル君で、カヲル君が実はシンジ君で・・・結構ややこしいですな(汗)。
でも何のための変装ゴッコだったのでしょうか?
・・・サブタイトルの「CONFUSE」って、実はコレのことだったりして?(爆)
ゲンドウの「CONFUSE」ぶりも滑稽でしたね。
でも、ゲンドウと冬月とゼーレ以外は確実に幸せにするってことは・・・ミサトも救済するってことですよね?
酒乱だし、無能だし、性悪だし、いきなり発砲するし、偽善者臭いし、復讐心に囚われているし、何より目の前には使徒がいるわけだし・・・前途多難ですよ?どうやって改心させるのでしょうか?
ま、お手並み拝見といきましょう♪
あと、カヲル君は名実ともに使徒みたいですが(ATフィールドも使えるし)、シンジ君はどうなのでしょうか?
最後に・・・フィルターじゃなく、シェルターです。どうでもいいですが・・・。
次話を心待ちにしましょう♪
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