EVANGELION 〜未来に光を〜

第五話 麦わら帽子とカキ氷 Self−Abhorrence

presented by 琥狼様


一人の少女とネコが食事を始めて、10分が過ぎたであろうか、ドアの向こう側から、徐々に荒立っていく野太い声が聞こえてきた。

紅茶髪の少女――アスカは溜息を吐き、壁に掛かっている時計を見る。20時ジャスト……此処の人間が、酔ってチルドレンの部屋の前で怒鳴り散らすなんて事は、常識では考えられない。そして、この声は聞き覚えがある、というか毎日聞いている。

そう、ドイツ支部の作戦部長――名前なんて、覚えていない。良くして貰った覚えなんて、一つも無いのだから当たり前だ。

野太い声が、また大きくなる。カヲルも不機嫌そうな顔をしながら、向こう側に居る顔の知らない男を睨んでいる。

ネコは表情が無いというが、今の顔は明らかに不機嫌な顔、そのものである。人間の人格があるから、と言う理由もあるのだろうが、食事を邪魔されれば、ネコだって怒る。

ドアの前に立ったアスカが、深呼吸をしてドアノブに手を伸ばそうとした瞬間、人を殴りつけたような鈍い音と、獣のような呻き声が聞こえた。

部屋の中に緊張の糸が張り詰める。

「おーい。アスカ居るかぁ? 俺だ。カギ開けてくれないか」

先ほどの野太い声とは一変、間の抜けた声が聞こえ、アスカは戸惑うが、すぐに警戒を解いてカヲルに顔を向ける。

「どうやら、向こうから来てくれたようだねぇ。とりあえず、ボクの事は内緒にしてくれないかな?」

アスカは少し顔を顰めたが、さっきよりドアを叩く回数が増えているため、渋々頷いてドアのロックを解く。

「分かったわよ……あ、ごめん加持さぁん。今から開けまぁす」

明るい声と共に、ドアが開け放たれて、無精髭を生やした、加持と呼ばれる男が部屋の中に入って来る。

シャツはヨレヨレ。体からはタバコの臭いと共に、独特な硝煙の香り。ネコの姿になり、嗅覚が敏感になったカヲルは思わず、咳き込みそうになった。

硝煙の臭いさえなければ、普通のだらしないオジサンである。

ソファーで身体を丸めている子猫を見た加持は、意味深な笑みを浮かべて、ソファーの前に屈み、ドアの前で突っ立っているアスカに目を向ける。

「久しぶりだな、アスカ。で、これが例の子猫かい?」

加持は、丸まっているネコの耳を引っ張って遊んでいる。

その対象にされているカヲルは心底、嫌そうに尻尾を上下させている。時折、爪を立てて加持の手に襲い掛かるのだが、簡単にかわされる。

他者から見れば、始めてあった人間にじゃれ付いている人懐っこいネコ……否、加持から見てもそうなのだろう。

「ほら、メーア。加持さんにご挨拶!」

アスカの言葉で渋々ながらカヲルは加持の前に歩いていき、首を垂れた。

ソレを見た加持は、物珍しそうにカヲルの頭を撫でて笑う。

「おっ、随分頭が良いんだな。なんか芸とかしないのか?」

「メーアは最近、お座りとお手を覚えただけですよ」

そういって、アスカはカヲルを傍に寄せ座らせると右手を出すと、可愛らしい声を発しながら片前足をその手にちょこんと乗せる。

ソレを見た加持は再び感嘆の声を上げるが、急に真剣な目つきになり、その視線をアスカに向けた。

「ところで良いニュースと悪いニュースがあるんだが……どっちから聞きたい?」

「良いニュースからお願い」

アスカも今までの軽い調子の声から、鋭い声に変わる。

「本部の副指令から、日本行きが言い渡された。俺もいっしょにな」

ソレを聞き、アスカの硬かった表情が一瞬緩まるが、再び真剣な顔に戻る。

「で、肝心の悪い方は?」

「日本に付いたら、俺とはマンションがバラバラになる」

「ふ〜ん。そう……で、それだけなの?」

アスカは素っ気無く言葉を返すと、カヲルを抱きながら設置されているテレビを付けてニュースに耳を傾けている。

その様子を見た加持はポカンとした表情になり、ネコの芸を見たときより物珍しい顔をした。

「そ、そうって。なんか、ネコ飼いはじめて、性格変わってないか?」

「ん。料理は作るようになったけど……別に性格は変わってないと思うけど?」

いや以前なら、もっと猫被ってたと思うんだが。と言う加持の思いもテレビから聞こえるニュースキャスターの声に打ち消される。

『日本で使徒が現われ……』やら『初号機が消滅』ココまでなら加持の情報にあったであろう。が、その後が問題であった。

『日本に居るファーストチルドレン。サードチルドレンが行方不明になり、未だ見つかっていません』

部屋に沈黙が流れる。テレビからは、聞きなれたドイツ語が流れるばかりである。

「……はいぃ!? 」

何分ほど経っただろうか。その硬直を最初に解き放ったのは加持の奇声であった。

「へぇ、なかなか凄い事してるじゃない。ファーストもサードも」

「のんきに笑ってる場合じゃないぞ!? アスカ」

アスカの方は意外と冷静になっているのか、違うニュースを見ている。

膝に乗っているカヲルも欠伸をしながら、その画面を見ていた。

「だってねえ。来ない使徒を待つより、実行した方が良いわ。それに向こうの司令から連絡してこないんなら、なんか特別な事情でもあるんじゃないの?」

そう言ってアスカは飲んでいた紅茶を机に置き、頭を掻いている加持を見てからドアの方を向いた。


「と、言うわけで。外で騒いでる司令とか作戦部長とか、黙らしといてくださいね。ちょっと疲れたから、シャワー浴びてくる。メーア、こっち来なさいよ」

「ほぉ。ネコと一緒に風呂入ってるのか? ネコが羨ましいな」

加持はいやらしい笑みをカヲルに向けたが、当の本人は明後日の方向を向き欠伸をしている。

「早く、外を黙らしといてね。覗かれるのは嫌だから」

「やれやれ。アスカも随分、変わったな……この缶詰、結構いけるな」

そんな感じでアスカにもネコにもあしらわれた加持は、溜息交じりでドアの方に歩いていった。

ちなみに箸でつついているのは、ネコ缶。マグロ100%であるらしい。

カヲルは2口目で飽きたとか……


水滴で湿ったシャワールームで、バスタオルを身体に巻いたアスカは真剣な顔をしてカヲルに問う。

その手にはノミ取り猫用シャンプー。カヲル自身、ノミが多くて困っているらしい。

アスカが手を動かすごとに、カヲルのふさふさの毛皮は見る見るうちに泡立っていく。

「……カヲル。加持さんって、なにやってるの? なんか、変な雰囲気だったんだけど」

「三重スパイ。でいいのかな? バカみたいな言い訳付きだけどねぇ」

答えたカヲルは心底あきれたような声を発し、目を瞑る。

「ふぅん。でも、何で私なのよ?」

桶の温い湯がカヲルの全身にかけられ、毛先からポタポタと水が滴り落ち、カヲルは控えめに身を振るわせた。

そして喉を鳴らしながら、タオルで水気を取っているアスカに顔を向ける。水気のある場所でタオルを使っても意味がない感じもするが、マットを濡らさないようにする処置としてなら充分だろう。

「ふふ。気付いてないみたいだね。キミは、ボクと会うまで、ずっと洗脳されてたんだよ? って言っても、洗脳教育のほうが良いかな。彼は随分、知ってるみたいだねぇ」

「もしかして、ドイツの司令とか?」


水気を取っているアスカは嫌そうな顔をしながら、常日頃見ているオヤジ顔を思い出し、身を振るわせた。

そして身体に纏っていたタオルを取り、シャワーを自分に向ける。

それを見たカヲルは顔を背け、曇りガラスと顔を合わせている。

「大正解。それにしても、惣流さん……何もキミまでシャワーを浴びなくても」

「何言ってんの。女の子は、身だしなみが大切なのよ。それにアンタには、もう充分見られてるしねぇ」

アスカは嫌みったらしく笑う。他人が聞いていたら100%誤解されそうな気がする。と思いながら、カヲルは曇りガラスに顔を向けながら溜息を吐いた。






銃口が、椅子に凭れながら寝息を立てているシュウに向けられ、少女の細い指が拳銃のトリガーに掛かる。

人を殺す直前だというのに、手が震えてすらいない。さっき会ったばかりの赤の他人なのだから尚更である。

この男に情けをかける必要も無ければ、助けを請われても逃がすつもりは無い。少女の無表情な顔が一気に憎悪が入り込み、感情の無い仮面が割られた。

連続して鳴り響く銃声。少女の腕が垂れ、拳銃から薬莢が吐き出される。

埃と煙が消し去られると、少女はシュウが眠っていた椅子へと足を進める。

ドサリという、柔らかなものが落ちる音が聞こえ、少女は床に落ちた機関銃を二つ持ち、歩幅を狭めながら進む。

転がっているのは白衣の男。弾痕はあるものの、すでに息は絶え、体が固まっている所から見ると、随分前に仏になったようである。

少女は小さく舌打ちし、周りに警戒しながら銃口をスライドさせていく。

丁度、180度回ったところで、喉元に冷たいものが当てられ、口の中に布を突っ込まれ、そのまま強引に床に押し倒される。うつ伏せに倒された少女は、憎しみを篭めた眼を上に向ける。

微かに見える、自分と同じ赤髪、シュウと言う男。楽しそうに話していた、あの時の彼の眼では無い、殺意が止めどなく流れている。

だが、少女は動揺する様子も無く、その目を伏せて、大人しくなった。

その行動と反するように、背中の重圧がいきなり解かれ、少女の前髪にシュウの手が触れ、額を撫でられる。

シュウの顔は先ほどとは一転して、人懐っこい笑みを少女に向けている。その笑みに少女の殺意が一層に深まった。

すでにナイフは目の前に落ちている。

「バーカ。殺気を立て過ぎだ……そんなんじゃ、猫一匹も殺せねぇぞ?」

「っ……うるさい!」

小馬鹿にしたようなシュウの言葉に、少女の怒りが頂点に達する。

機関銃を手放し、目の前に落ちているナイフをしっかりと握り、鼻先に向かい突き出すがシュウにあっさりと止められる。

「そんな強がりは、やめとけって」

「お前たちは……許さない!」

少女は憎悪に満ちた眼で、再びシュウを見据えると今度は右の回し蹴りを繰り出すが、ソレも難なくかわされ、再び間合いが開く。右手にはナイフの柄だけが虚しく残っている。

ソレを見た少女は悔しそうに顔を歪め、獣のような唸り声を上げている。

「あいにく、アメリカに行く機会はなかったんだが?」

そう言って、少女の鳩尾に軽い一撃を与えた。

少女の意識が深い海に沈んでいく。



――なぜ何もしなかったんだろう

できなかったものはしかたない

――なんで私は、まだ生きているんだろう

生きたいと願ったんだろう?

――なんで……ひとりなんだろう

殺したんだろう? 笑いながら歓びながら……殺したんだろう? 唯一を


どのくらい寝ていただろう。私は冷めた液体が顔に掛かっているのを感じ、顔を上げた。

目の前には水筒の水を私の顔に零している、私と同じ髪の男が居た。シュウといっただろうか?

さっきまで生死をかけて戦っていたというのに、男はへらへらと笑いながら私の顔を覗き込んでいる。

「よ、起きたかい。獣姫さま」

「私には、ちゃんとした名前があるんだが?」

全くのウソだ。私に付けられているのは不規則なナンバーと他愛のないアルファベットだけ。

「そうか? じゃ、名前を教えてくれませんか、獣姫さま」

なんとなく嫌悪を感じたので殴ってやった。シュウは奇声を発して地面に突っ伏した。

さっきまで戦っていたのは、幻だったのではないかと疑うくらい弱い。

しかも、銃で頭を打っている。

「私の名前は……アオイだ」

咄嗟に浮かんできた名前を言ってみる。しかし、少し違和感があった。

「髪が赤いのにか?」

「うるさい。どうでも良いだろう」

「で、苗字は?」

……良い苗字が浮かんでこない。その前になぜ私は、この男と話しているのだろう。

――わからない

なぜコイツと戦う必要があったのだろう。殺してまで戦う必要があっただろうか?

――ワカラナイ

いつの間にか私は思考の奥深くに潜っていた。

「おーい。聞いてるかアオイちゃん」

アホらしい声が頭の中に響いた。こっちが真剣に考えているというのに。

「ちゃん付けは止めてくれ。まったく、お前からは嫌悪しか感じないな」

自分で言って、自嘲してしまう。嫌悪しか感じないのは当たり前だ私は……

「嫌悪しか感じないのか?」

「な!? 何でわかるんだ」

「いや、声出てたぞ」

言われてから口を押さえる。私がやったというのに、まったく滑稽な光景だ。

きっと私はスパイとかには向いていないんだろうな。と、思いながらもう一度自嘲する。

多分、そんなものでさえ表情には出ていないだろう。笑うという行動は随分の間していない。

多分、アイツを殺そうとしていたのも嫌悪からなのだろう。

また、思考の深みに潜ろうとした所で、あの嫌悪に満ちた声がした。

「なんで嫌悪しか感じないんだ? それから、俺を襲った理由は……」

だから、さっきまで考えようとしていた所だというのに!

さっきから、コイツと居ると嫌悪しか感じない。まぁ、当たり前なのだが。

「私だって昔は笑っていた……と、思う」

そう。記憶が曖昧すぎて分からない。確か笑っていた時期もあったはずだ。

「たしか、此処には5歳頃に連れてこられて、ずっと銃の使い方とか機械の使い方を教わっていた」

シュウも言葉を発さなくなった。これで嫌悪を感じなくて済む。

「その5年後に私より2つ上の少年が来て、それ以来そいつと遊ぶようになった。勿論ボールなんて無いから銃とか手榴弾だけど」

「随分、物騒な遊びで」

だから、無いものをどうやって調達しろというのか。コイツの言う言葉の全てが嫌悪に感じる。

それを片隅に置いておき、再び目を閉じて記憶を起こさせる。

「4ヶ月……私が感情を持つことが出来たのは、4ヶ月だけだ。それでも長かったと思っている」

「……此処で、なにやってたんだ? 見た感じ研究所と同じ設備と……隔離部屋は見たんだが」

「使徒の遺伝子の解析。それから、子供同士の殺し合いと賭け事。」

今、私はどんな顔をしているだろう。冷淡な顔だろうか、それとも少なからず悲しんでいるような顔なのだろうか。

――きっと、どちらでも無い。そう、私はどちらでもナイ

どんな表情も出来なくて、きっと能面みたいな顔なんだろう。永遠に取り外しの出来ない、感情のない能面。

うるさいアイツも、黙って私の顔を見ている。鏡が欲しいと思ったのは、きっと今日が初めてだ。

「7歳を越した子供を1週間半ほど絶食させて、2人を隔離部屋に入れて殺し合いをさせる。それを見ながら研究者は笑って金を賭けていく。もちろん、子供だから殺人衝動なんてない。だから、ソレを強引に引き出すために、賭けの前日に人の肉を食わせて味を覚えさせるんだ。ま、慣れるまで嫌悪感しか沸かないが」

「子供は獣と同じ扱いか。よく頭が壊れなかったもんだ」

アイツがまた嫌みったらしく話を持ち出す。

「壊れないと思うか? 冷徹になれない奴、頭が壊れたのは全員、翌日には皿の上で変わり果ててたんだ……話を戻すぞ。アイツとは4ヵ月後に当ったけど、私もアイツも殺す気なんて無かった。それでも、髭を生やした臭い親父やハゲてる爺さんが『殺せ』と笑って、私たちを見下してた。結局、終わったのは3日後……周りから笑い声が聞こえてた」

ソレを思い出すと、今でも嫌悪で満たされる時がある。

いまの私と男の子が部屋に居て、周りからキモチワルイ声が聞こえて、目を開けたら男の子が笑みを浮かべながら死んでいる。

最悪のトラウマだろう。それでも……

「その日から殺すことに対する感情が無くなった」

「その子を助ける方法を考えなかったのか?」

「……殺さなければ私が殺されている」

「なんで両方、助かる道を考えなかったんだい?」

そんなこと、できるはずが無かった。コンクリートで出来た壁と電気が流れる有刺鉄線。

部屋では一日中、監視されていたし、あの殺し合いの時は周りが全て敵だった。

そんなことを考えながら、また記憶を辿っていく。

「結局、私だけが生き残って、基本的な戦術と銃器の扱いを教え込まれた。その後は実験の材料と同じ扱いだった」

「具体的に言うと?」

「知ってるだろう。そこら辺に居る獣の内臓より、人間の内臓の方が高く売れるんだ」

たしか、サルとか狼の肝臓も使ってた気がする。麻酔を使っていなかったから、痛みも良く覚えている。

もう、嫌悪以外の何ものでもなかった。

「たかが、それだけの為に戦術や殺し合いさせるかぁ?」

コイツは質問が多い。そんなに知りたければ、そこら辺の資料を開ければ出てくるだろうに。

「エヴァの混血としての適格者。エヴァは適格者を受け入れて、制御したうえで操縦が出来るが、ソレは力を抑えつけているだけだ。シンクロ率を高めても、人はエヴァに近づく事はできない」

「じゃあ、混血ってのはなんだ? んな事したら、暴走しかしないぞ」

「はっきり言って、コレは動いたら成功というレベルだったんだ。暴走したら、研究所は消えても自分達の名は残るとでも思ったんだろうな。私たちは被害者として一纏めにされ、名前すら出されない。次に混血のことだが……私にはリリスの複製遺伝子も植え付けられている。オリジナルが消えても私が残っている」

シュウの顔が強張った気がした。きっとオリジナルは消えたのだろう。

サードインパクトは起きない……と、思う。確証は無い

「人殺して、自分が神だと思ってる奴より低脳だな」

「……この世界は歪んでいる」

そう、神も無ければ悪もない。極楽が無ければ地獄もない。

ただの中立、コレが中立としてのセカイなのだろう。

「ところで、今のアンタはどっちなんだ? リリスとして使徒という存在なのか、もしくは人間としての『アオイ』と言う存在なのか」

なるほど、なかなか良い事を聞いてくる。だが、答えは無い。何故なら

「どちらでも無い。リリスでも『アオイ』でもない、曖昧な存在。良い例えを言ってやろう。ファーストチルドレンの綾波レイは人形として育てられたが、碇シンジというサードの存在で自我を持った。人形が自我を持ち、心を持ったら人形ではない。かといって、一部の者にしか心を開かずに、命令どおりに動いているのは……これは人間か?」

きっと私はどちらでもない。感情を持ったのは4ヶ月間、その中で彼から優しくされた回数は数え切れない。

――それでも

どちらでもないのだ。糸が無くなった操り人形は地に落ちるだけ。意図を失った人間が何も出来ないように。

だから私は『どちらでもない』

「答えは、どちらでもない存在……ねぇ。ところで、知ってる名前が普通に出てきたんだが、それは能力か何かか?」

きっと碇シンジや綾波レイの事だろう。

「リリスの記憶だ。何もしなくても、入り込んでくる」

本当に嫌なチカラだ。もっと楽な力を与えて欲しかった。

「つまり自分以外の知識や記憶を適当に、ぶち込まれてんのか。リリスってのも不憫だな。万能って言葉も色あせてくる」

「お前が来るまでは、そうでもなかった。アイツの声が聞こえてたからな」

「……あぁ、四号機のか? あのコアにはやっぱ、嬢ちゃんのクローンの魂が入ってんの?」

この男は分かって言ってるのでは無いだろうか。私が自分に心を寄せるなど、できるはずが無い。

「私の殺した親友だ。さっき話しただろう?」

「うわ。悪趣味な奴ら……っと、もう夜も遅いんで寝ますか?」

確かに、久しぶりに話しに耽ったせいで疲れた。

久しぶりに嫌な過去を思い出したから、もう寝たほうが良いだろう。普通なら

「残念だ。眠りたいのは山々だが、少し兄弟喧嘩をしなければならないらしい」

たしか、この無機質な身体をもっている奴の名前は……

「ラミエルか。すこし、身体が訛っていた頃だ丁度いいな」

「四号機の出撃かい?」

四号機? コイツはそんな名前じゃない。数字なんかじゃない……私とは違うんだ


そう………私とは違う


――ボクの名前、決めてるんだよね。キミは何がいい?

ここから出られるはずが無いだろう?

――ダメだよ。そんな悲観的な考えは

じゃあ、お前が決めてくれ。私の名前を

――藍なんてのはどう?

……私の髪は赤色なんだが? まぁ、いい。で、お前の名前はなんだ?

――ボクの名前は……ね


「さて――エヴァンゲリオン初陣だ。いくぞ……アスター!」





南極大陸跡地、かつてセカンドインパクトが起こり、全ての生物が死滅した場所。

そこには神も居ない。何も無い……一本の槍、そして2人の少年と少女を除いては。

少年の名は碇シンジ、サードチルドレン。目を覆うほどのフードを深々と被っている。

もう一方の少女の名前は綾波レイ、ファーストチルドレン。コチラは厚手のコートを何重も重ね着している。

「ロンギヌスの槍か。コレを壊せば、全部終わるね」

「そうね……人間の化学の繁栄そして滅亡……死期が延びただけ。でも」

「それでも良い人が居るんだから。少しでも考える時間を……ね?」

フードを少し上げ、シンジは綾波に子供をあやすような笑顔を向ける。

それに応ずるように、綾波もシンジに控えめな微笑みを向けた。

「零号機は改装中なんだっけ?」

「ええ。零号機のコアを初号機のコア……碇君のお母さんに取り替えている所」

――――あの後、シュウさんから聞いた話では最初から初号機のコアをスペアのコアに替えてあったらしい。泣いた意味、あんまり無かったな。

そして息を合わせたかのように眼前に広がっている赤い海を見渡す。

此処には何も無い。虫も居なければ草も無い。ホントに嫌になるほど静かである。

「此処はホントに何も無いんだね。寂しいくらいだよ」

「……ホントね。寂しくて、息が詰まりそう」

――そう、何も無い。静かで、町の喧騒が恋しくなるほどに……

赤い海と崩れた氷……そして、麦わら帽子を被り半袖でカキ氷を売っている男。

………

……………

はい?

「そこの仲良しカップルさ〜ん。南極の氷で作ったカキ氷を買いませんか!!」

――すみませーん。少し考えて良いでしょうか。

そこには、当然とでも言うように半袖ハーフパンツといった夏スタイルを惜しげもなく披露している男が居た。

東京でなら違和感は無かっただろう。北海道でもギリギリで許される格好だろう。だが

「シロップは南極の赤い水です。神秘のカキ氷、いまなら30円! いやー暑いっすね。お客さん」

南極でカキ氷売るのは、いささか問題があるのではなかろうか。

その前に、なにゆえ南極で夏スタイルを維持できる? どんな事をしたら、南極で額に汗が噴き出ますかね?

そして日本語を完璧にマスターしている所から見て、人外では無い事は確かである。

「……ふたつお願い。シロップ抜きで」

「綾波食べたいの!? って、二つ!?」

そして、ソレを買う人もどうだろうと思う。

「毎度アリ〜。いや、1ヶ月目にしてようやく売れたよ。マユミちゃんから教えてもらったけど、時給700円の仕事はやっぱキツイな」

………

……………

…………………

――母さん。聞こえているでしょうか。僕は今日、初めて人を海に突き落としました。




ドイツ――エヴァンゲリオン弐号機格納庫

「これがエヴァンゲリオン……やはり、兵器としてしか使用されないのでしょうか」

暗い倉庫の中で眼鏡をかけたロングヘアーの少女、山岸マユミは独り言の用に呟き、その紅い機体を見上げた。

「まぁ、今回はチルドレンとコレの護衛ですから大丈夫ですね」

そういって、マユミは悲しげな表情で紅い機体を見詰める。

「セカンドチルドレン……アスカさん。エヴァパイロットのエース……いい人だと良いんですけどね」

そう言うと、紅い機体に頭を下げ、その格納庫を後にした。


そして、格納庫から出ると広く青い空を見上げて、思い出したように手を叩き、眼前に広がる海を見る。

「神坂さん大丈夫でしょうか? 1ヶ月前に南極へ言ったとは聞いてましたけど……」

と、言葉を区切ると遠い目で再び空を見上げた。

「まぁ、あの人は南極の海に飛び込んでも生きてそうですけど」

流石に無理ですかね。などと言いながら舟の方へ歩いていった。




ネルフ本部、技術部。

コアの積み替えを終えた一つ眼の機体は静かに佇んでいた。

「リツコさーん。もう、こっちは出来てますよ! 完璧です」

その肩の部分で顔のあちこちに煤をつけ、リツコに向かい手を振っている着物姿の少女。

高校1年になったばかりであるが、彼女の手の器用さに勝てるのは世界中で10人居るか居ないかとも言われている。

だが父親からは結構、反対されていたとか。彼女の名は黒桐シオリ

「あら貴女もこっちに来てたのね、シオリちゃん」

「勿論ですよ。こういう時にしか役に立てませんから」

そうは言うものの、今回の作業は彼女が指揮をして行われていたようだ。

普通の高校生に、こんな統率能力は無い。

「改装は出来てるみたいね……で、頼んで置いたものは?」

「未完成です。はっきり言って、このままじゃ機体に負担を掛けるだけですよ」

そう言うとシオリは軽い身のこなしで、足場から足場へと飛び移りリツコの前に舞い降りた。

着物を着ながらの動きとしても、普通の人間としても目を見張るほどである。

「完成すれば……いえ、扱えるようになれば無敵のエヴァになると思いますけど」


暗闇には色々なコードに繋がれた、一つ眼の魔獣が息を潜めている。

狩りの機会を待ちながら。ゆっくりと……ゆっくりと






To be continued...


(あとがき)

第5話 書き終わりました。

そして作者が冬眠から目覚めました。11月2日に冬眠を開始し
青葉「なぁ? もっとマシな言い訳を思いつかんのか?」
すいません完全に寝溜めしてました。そしてネタが反乱起こしてパニくってました。
青葉「じゃあ、これから1ヶ月間貫徹な」
ゴメンナサイ。俺が悪かったです。作者死んでませんギリギリで生きてます
青葉「ついでに俺を出せ」
―――――次々回くらいに出現予定。そういや、名前すら出て無かったよな
青葉「あんた、完全に忘れてたよな!?」
ソレはさて置き。新キャラが出てますね馬鹿キャラが
青葉「常識を考えろ。あそこまでギャグに徹するな」
シュールなギャグじゃ笑えんでしょう。だから直下型のを投入したまでだ
青葉「しかも、そろそろクロスオーバー表示すべきでなくて? 着物と黒桐て……」
まだ、オリキャラの領域だ。全然、許容範囲だ
青葉「さいですか……話が変わるが……幾つ貰った?(チョコ)」
ま、お菓子会社の陰謀に嵌っちゃいけないね
青葉「もっと捻った言い訳できないのか?」
……黙れ。

更新が遅くなり本当にすいません。これから立て直していこうと思います。

ちなみに作者はネコ缶を食いました。かなり美味かったですが人間として、まだ威厳は保ってるつもりです。

作者(琥狼様)へのご意見、ご感想は、メール または 感想掲示板 まで