愚者たちの断罪の狂宴

第一話

狂宴のはじまり、とある外道達の帰還と末路?

presented by 光齎者様


《時はA.D.2015年――――》




「ムッ? 何だ、此処は!?」

燦々と太陽が眩しく輝く青空の下、閑散とした商店街の一角に、その髭面の男は立っていた。

見回す周囲の商店の入り口は皆一様に降りたシャッターで固く閉ざされ、髭面の男の足元には一般的なサイズのスポーツバックが唯一つ、ポツンと置かれている。




「此処は一体何処だ? 俺は何故、このような場所にいる!?

周囲には全く人の気配は無く、アスファルトに反射した陽光の熱気により、視界の先はゆらゆらと陽炎めいて揺れている――――








「ぬおっ!?」








と、突如、ゴゥ……ッ!! と轟音が鳴り響き、近くの電線に止まっていた鳥たちが騒々しく鳴きながら一斉に、群を成して空へと羽ばたき飛び去った。

その轟音に僅かに遅れてやって来た衝撃波が店頭のシャッターや電線を激しく揺らし、近くの車道の信号の灯りがチカチカと、不明瞭に点滅する。




「なっ、何だ? 何が起こった!?」

困惑する髭男の耳に続けて、空を切り裂くプロペラ音とズシン…ズシン…と何かを踏み締めるような、大きな音が鳴り響いた。

泡を食って音源の方向へと向けた髭男の視線の先で、数機のVTOL式戦闘用ヘリが山間から飛び出し、その背後からのっぺりとした仮面をつけた人型の巨大な生物が姿を現す。




「なっ!? あれは……!!」

見覚えのあるその姿に髭男が意識を奪われた次の瞬間、VTOL式戦闘用ヘリが一斉に巨大生物へとミサイルを放った。

「ぐぉ……!? 熱っ……!!」

巨大生物に着弾したミサイルの爆風の余波に吹き飛ばされ、熱く焼けたアスファルトの路上を転げる髭男の視界の先でVTOLが1機、巨大生物の右手の甲から突き出した光のパイルに貫かれ、鉄屑となって髭男へと降り注ぐ。








「がぁ……っ!?」








頭上から降り注ぐ戦闘ヘリの残骸と、ミサイル着弾の余波で砕けたコンクリートの塊にグシャ……っと見事に押し潰され、髭男は苦悶の声を上げた。

全身血塗れになり、立つことすらままならない身体で必死に鉄屑とコンクリートの山から這い出しながら、髭男は自分が置かれた状況に困惑する。

(馬……鹿な…………!?)

もはや声すらも出せずただ驚愕し、朦朧と視界が霞む髭男の頭上僅か目と鼻の先で、何十発ものミサイルが巨大生物へと着弾し、周囲をさらに爆風で吹き飛ばした。

粉塵入り混じる熱風に煽られ、満身創痍の髭男はさらに数十メートルほど陽光に照らされて焼けたアスファルトの路上を転げ回り、ジュゥ……と嫌な音を立ててその皮膚や肉、流れ出した血液や体液諸々が焼けて、錆びた鉄のような臭いがその周辺に立ち籠める。




(これは……夢か!?)

だとしたら、酷い悪夢だ……。そう現実逃避する髭男の視線の先に続け様に突如、自分に向かって爆走してくる1台の、青色のスポーツクーペ・アルピーヌ・ルノー・A310の車体が映りこんだ。

そのルノーはスピードを全く落とすことなく髭男へと向かって行き――――




――――やがてキキィーーーーッ!!!!
と激しいブレーキ音を立ててアスファルトの路上にタイヤの跡を刻みながら、後輪に髭男を巻きこんで勢いほぼそのままに急停止をする。








「○×△×○□×△×○×△×○□×△×!!!!」









アスファルトの路上以上に熱く灼けたゴムのタイヤに全身を轢き裂かれて、その髭男「六文儀ゲンドウ」は声にならない悲鳴を上げながら、その意識を完全に落とした――――












《第3新東京市の近く、第3使徒が侵攻している街の路上――――》




「まぁ〜ったく、なぁ〜んでこのわたしが、こんなことしなくちゃいけないのよ!?」




スラリと指の先まで細長く伸びたしなやか手でルノーの運転席のドアを開け放ち、腰元まで伸びた陽光に透けて金色の煌めく癖の無い髪を風に靡かせて、ひとりの見目麗しい女性がしゃなりと優雅にアスファルトの路上へと足を降ろした。

周囲を吹き荒ぶ爆風や爆音には全く関心を向けず、やや色素の薄いシアンの瞳で悠然と周りを見回すその女性の身体を護るように、時折八角形の紅い光の楯が疎らに明滅を繰り返している。




「さてと……、“あれ”はいったい、どこにいったのかしら?」




一通り見渡す周囲に目的の“モノ”が見つけることが出来ず、彼女は徐にその瞳を閉じ、視覚以外の五感を未だ鳴り止まない爆風・爆音以外の僅かな物音・気配へと集中させた。

そのまま暫く瞑目の後、彼女はゆっくりと双眸を開き、しゃなりしゃなりと優雅な仕種で自分の運転して来たルノーの後ろ側へと歩を進め、その後輪の方へと視線を落とす。




「ああ、あった、あった




ルノーの後輪に全身の半分以上を下敷きにされ、ビクンッ!ビクンッ!と痙攣する“それ”を発見し、彼女はルノーのトランクの奥から薄汚れた大きめの頭陀袋を引き出して、薄いビニールの手術用手袋をその両手にはめた。

その一部が引き千切れるのもお構い無しに“それ”を後輪の下から引き摺り出し、“それ”の千切れた部分も回収して纏めて頭陀袋の中に詰めこんだ後に入れ口を固くきつく締めて、彼女はその頭陀袋をドスンッ!と無造作に後部座席に放り入れる。




「よしっ! 回収完了!!」




一仕事終了と軽く息を吐き、彼女は血や油や泥で汚れた手袋を外して路上に無造作に放り捨て、軽やかに身を翻しながら颯爽と運転席へと乗りこむと、もう其処には用は無いと言わんばかりにルノーを急加速で発進させた。












《日本国際連合直属非公開組織特務機関NERV、その一室――――》




「なぁシンジ、本当に、奴等を放っておいて良いんか?」




眼下に臨む見苦しい光景、前方の巨大なスクリーンに映し出された巨大な生物と、それに成す術も無く一方的に殲滅される戦力にただ怒号を上げるだけの無能な男達の姿をあからさまに侮蔑して、青年は傍らの青年に問い掛けた。

自身は戦場には赴かず、ある程度安全が保障された場所から見ているだけのくせに顔全体を口にして、眼前の男達はただ身勝手に、意味の無いことを只管喚き散らしている。




「ここでは碇総司令だよ、鈴原副司令

そんな眼下の騒ぎなど事ともせず、その青年「碇シンジ」は傍らの青年「鈴原トウジ」に軽く肩を竦めて見せた。

そうしている間にも事態は二転、三転し、前方の巨大スクリーンに映し出された映像内では突如して、戦闘ヘリや戦車隊等が巨大生物の周囲から撤退をし始める。




「おやおや、どうやら漸く、N2地雷を使用する時間になったみたいだ」

「本当に、良いんか? 街がひとつ、消し飛ぶぞ?」

一般市民の避難はもう済んでいる。あとはわざわざ、構いだてする必要は無いさ」

そうだろ? どこか訝しげな表情で眉を顰めるトウジに顔を向け、シンジはクスッと軽く、唇の端に笑みを浮かべた。




因果応報、自業自得……か」

何処か楽しげに嗤うシンジの姿に僅かばかり天を仰ぎ、トウジのほうもやれやれと、両肩を軽く竦めて嘆息する――――












《第3新東京市に近いひとつの街の何処か――――》




「うっ……、此処は、何処だ…………?」

四方を鉄壁で囲まれた広い空間、薄暗い明かりに照らされた冷たい床の上で、その男は目を覚ました。

周囲にはキンッ!と冷たい空気が立ち籠り、不気味なくらいに深い静寂が、辺りの場の一面を昏く包みこんでいる。




「う……っ?」

「む……っ?」

と、突如、朦朧とする男の視界の中に、幾つかの蠢く姿が映りこんだ。




「お前達、どうして!?」

薄暗がりに慣れてきた視界の先に見知った男達の顔を確認し、最初に目を覚ました男が驚愕の声を上げる。




『う……っ! ぐぐ…………っ!?』

よくよく周囲を見渡してみれば、床の上に倒れこんでいたのは男達3人だけではなかった。

両手だけでは数えきれないほどの人数、しかしその何れも見知った顔触れが、薄暗い明かりに包まれたその空間で次々に目を覚ましていく――――








「何ーーぃ……っ!?」








と、突如、男達の集団の一画から、悲痛な驚嘆の悲鳴が響いた。




「っ……!?」

「馬……鹿な…………っ!?」

反射的に悲鳴の発信源の方へと視線を移し、男達はその先に書かれた文字を見て其処がどこであるか皆一様に把握をし、同時に皆一様に驚愕の声を上げる。




それは其処が、とあるひとつのシェルターであることを示していた。

但し、そこにいる男達全員にとっては、ただのシェルターというわけでは無い!




何故なら――――








『…………っ!?』








其処が“間接的であれ直接的にであれ、嘗てその男達の手によって焼失した筈のシェルター”であることに男達が気がついた次の瞬間、白く眩しい光が周囲を包み込んだ。

続け様に、凄まじい威力の爆風と衝撃波が逃げ場の無い密室に充満し、そのシェルターの中を縦横無尽に荒れ狂う。








「が……っ!?」








「ひぃ……っ!?」








「た、助け……っ!?」








阿鼻叫喚の地獄絵図さながらの光景の中、嘗て戦自やUNの将校であった男達や隊員であった男達は皆、あるものは四方の壁面に、またあるものは床や天井に叩きつけられ、全身を焼く爆風に腕や脚、頭等を吹き飛ばされながら、苦悶の中で例外無く絶命した。






To be continued...
(2016.04.30 初版)


(「あとがき」という名の「本編補足」)


本作はTV版新世紀エヴァンゲリオンを基に、キャラの立場や役処を入れ替えて本当の外道共(ゼーレやゲンドウに洗脳されたとか関係無く、完全に自分の意思で人類補完計画に携わっていた畜生共とか)を断罪ついでに甚振って遊ぼうというものです。

他の作品ではまず見掛けない特殊なキャラ設定や、特殊なカップリングとなっておりますので、第2話目以降も読んでくださる方はその旨をご留意しておいてください。


ちなみにちょとネタバラシになりますが、第1話目にして六文儀がいきなり満身創痍になり、その手足がもげていたりもしてますが、此の外道髭、実は不死身(無敵では無い)となっているため絶対に途中退場等は致しません。

その点は完全に保証いたしますので、ご安心(?)くださいませ――――



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