気がついたらココにいたと少年は言うだろう。
あの激動の瞬間に比べるとなんとココは穏やかか。
……穏やかすぎて逆に怖くなる。
もっとも穏やかという表現は相応しくない。その単語はあるモノが取り立てて激しくない様子、静かな様子を指し示すからだ。
よってただのふたつしか動きを作るモノは存在この世界では穏やかとは言い難い。
少年が過ごした激動。その最後、すべてが滅んだとも言える。
地球上で残ったのは、崩れかけた巨人と、同じく崩れた建築物。
心を持つ生き物はすべて消え去った。残すは赤い服に身を包む少女と、件の少年。
ふと、隣の少女に目をやる。
彼を求め、拒絶し、振り回し続けた、彼が好きだったかもしれない少女がそこに横たわる。
彼はその少女に手を掛け……
「きもちわるい……」
その一言を最後に少女は消えた。
すぐ目の前にある赤い水になった。
そして少年はすべてを失った。
Time comes round under the Tree of Sephiroth.
presented by 神凪珀夜様
幾星霜の時間をそこで過ごしただろう。
彼に時というものを感じることができたならば、すでに何らかのアクションを起こしていたはずだった。
それができなかったのは生けるモノとして当然の欲求――人間ならば三大欲求として食欲・性欲・睡眠欲が存在する――が起きてこないのだ。そのため彼には時の流れが分からず、またそのことに興味を持つことができなかった。
人間の、それも世界が生きていた頃の時間で言う、数年の時間が経っていたのだが……
それでも少年は何かを待ち、生きることを諦め、ただひたすらに
さらに数年の時が過ぎる。彼にとってはほんの一瞬でしかないかも知れないが、過去のヒトと呼ばれる者たちの基準で数年。その数で赤い海は彼を浸し、身を覆っていた。
ヒトが計測できないほどの時がさらに流れ、ようやく彼は外に意識を向け始めることができた。
(ココで待っていても仕方がないのではないか)
やっとその考えに至ったというのも難しい話ではある。なにぶん彼に影響する一切のモノが排除されてしまっているのだから。
そうして外に意識を向けたとき、存在していたはずの白い巨人は風化し存在しなかった。
目の前はただ赤く、自分の体は赤い海に沈められていた。
赤い海。過去、それをLCLと呼んでいた。
あの瞬間、生きとし生けるモノがすべてこのLCLに変質した。
生物が生物として生きていけるための空間――それをやはり過去では
自己を保てなくなれば己が生きているかどうかすら判断が難しくなる。なにせそこに自分というモノがないのだから。
彼は容易にその考えにたどり着いた。
しかしこのLCLに限っては生物そのものだとも言える。
そして彼はその生物そのものであるLCLに沈み、永劫の時を掛けて自身の体に吸収している。
だからこそ今の彼が外に意識を向けることができ、だからこそ己が分かるはずもない他人だったモノたちの知識があり。
――だからこそ、世界は終わったのだと認識できた。
そう、世界は終わったのだ。
母は生前にこう言った。
『だって生きて居るんですもの。生きていればどこだって天国になるわ……』
母はこの、赤い無の世界を望んでいたのだろうか……
赤い海に浸り、いつしかあの時へ戻りたいと考えるようになり始めたのはその頃、生命が絶滅してから実に10世紀を超える時間が経過していた。
『あなたは何を望むの』
『あなたは何を望むの……』
『望む……』
『あなたは何を望むの……』
『いや、なのかな……』
『あなたは何を望むの……』
『叶うなら、この世界を……』
『そう……』
確かにそう聞いた気がする。
しかし、それを確認する術は彼にはもうなかった。
世界は形を失いはじめ、彼もまた時の海に投げ出される。
時は巡る
Time comes
round.
Time
comes round under the Tree of Sephiroth.
Write by: 神凪 珀夜
Homepage: 徒然草
To be continued...
(2008.04.05 初版)
(2008.04.26 改訂一版)
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