見渡す限りの闇に漂う、人。一切の光が無いということは即ち自らの身体も確認できないということ。
 それほどの深遠が彼を包む。
『飛んだか……これでいい』
 彼は想う。考える。
『果たして私が望む道にたどり着けるかな・・・?』

『何を望むの』
『さて・・・』
『何を願うの』
『己の望みを知ることを』
『何を望むの』
『失われし半身を』
『何を願うの』
『……すべては流れのままに』







新世紀エヴァンゲリオン――時の迷い子

Time comes round under the Tree of Sephiroth.

presented by 神凪珀夜様




「ここは……」
 気がつくと闇から抜け、深淵くろの世界が真紅あかの世界に変わっていた。
 目の前には崩れかけた白い物体と赤い海。おおよそ生物の気配はなく、見えるのは地平線と水平線のみ。
「この世界は……」
 ギンヌガの海か? 彼は考える。
 ギンヌガの淵から生まれた巨人。世界の元となった巨人で、この巨人の血が世界の海になったと伝えられている。ちなみに肉は大地になったはずだ。
「いや、違う」
 少なくともその世界には木々が存在する。が、ここにはそれすらもないのだ。
「しかし、なんというマナ濃度だこれは。天上界でもここまではないぞ」

 魔術師。
 世界のことわりを知り、捻じ曲げ、練り上げ、人が魔法と呼ぶ現象を作り上げる人々のことを指す。
 その発現には"マナ"という要素が必要になる。人が自身で持つマナと自然界のマナ。魔術師はその両方を利用するのだ。

「……ん、こっちか」
 彼のマナ探査網にあるものが引っかかったようだ。

「あれは……」
 一人の少年が波打ち際で蹲っていた。
「人?」
 ぶつぶつと独り言を繰り返し、彼が近付く事にも反応を見せない。
 反応を見せないことをいいことに、彼は少年の額に手を載せた。
「……これは…………。難儀なことだ。
 とりあえず目を覚ましてもらわねばな」

 さて、ここですこしマナについて話をしよう。
 マナとはあらゆる物質が持つもっとも基本的なエネルギーを指し、目に見えない物質であろうと大なり小なり必ずマナを保有している。
 そしてマナは一定のルートを一定の時間をかけて通ろうとする性質があり、マナを保有する物体によってそれらも大きく変わってくる。そしてマナの流れが正常に近付けば近付くほど、物体の性質もまた正常に近付くのだ。
 すなわち……

「あれ、ここは……」
「気がついたか、少年」
「あ、あなたは!? それに、ここはいったい?!」
 少年が気がつくということに繋がる。少年が持つマナの流れをある程度正常な流れに導き、少年の思考を正常に戻したのだ。
「というか、ここはだれ?!!」
 だが正常だからこそ暴走にも繋がるのも確かで……
「落ち着けというに……」

「落ち着いたかね」
 彼は話し出す。
「あ、はい。取り乱してすいませんでした」
「構わぬよ。この世界では気をたがえても仕方あるまい」
「この世界……?」
 ふと、気付き問いかけた。
「その話は後だ。この世界で何があった」
「それは……」

 少年――シンジは話し出す。
 2015年から続いた戦争。親と子の確執。身の回りの大人たち。そして親友……。
「そして……僕はこの手で彼を……」
 立て続けに起きる事件。そして最後には
「サードインパクトか……」
「……」
 サードインパクトによる全生物の還元。彼にとっては重要な話だ。
「なるほど、難儀なことだ……
 シンジ、一つ聞こう。君はどうする」
「どうする、とは……」
「このままでよいのか、ということだ」
「……良いはずがないですよ
 けど僕には」
「仮定はなしだ。君がどうしたいかだけを教えてほしい」
「僕は……
 分からないんです……」
「ふむ」
 軽く頷き、続きを促す。
「けど、この世界は、こんな世界は何かが違う。何かが間違ってる
 誰かが直さなきゃいけないと思うんです」
「なるほど」
「けどここには誰もいない。だれも直すことができない……」
 赤い、紅いだけの世界を見つめ、シンジはつぶやく。
 しばらくして、男が答えた。
「……ではシンジ。君にそのための力を授けよう」
「え?」

 彼は赤い海に右手を着き、左手で紋様を描いた。水の上だというのに残るその文様に向かい、そして唱えた
――万物の源たるマナよ。
――万物の元素たるマナよ
――我が声に従い集い
――真なる新なる神なる姿を我が前に現せ

 真言とともに赤い海が濃縮される。海を……地球を覆いつくすすべての紅い海が。
 その紅い海が圧縮され――というには足りなさすぎる現象だが――ソレがシンジの手の上に収まる。
「それをシンジ、君に授けよう」
 それは手のひらに乗るビー玉程度の大きさの……

「赤い……石……?」
「哲学者の石、天上の石、大エリクシル、赤きティンクトゥラ。
 呼び方はいろいろある。だが本質は変わらず、その基礎となるのは巨大で、様々な色を持つマナ。
 凝縮し圧縮し、集めた石をこう呼ぶ」

 賢者の石と。

...

......

.........

『コレでよかったのかい?』
『分からない……けど、私では力になれないもの』
『……。彼は?』
『私に彼を送る力は無い、けど誰かを呼ぶことはできた』
『そういうことかい』
『そう……』
(碇くん…)

Write by: 神凪 珀夜
Homepage: 徒然草

To be continued...
(2008.04.12 初版)
(2008.04.26 改訂一版)


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