時を少し巻き戻そう。
「なによなによなんなのよあのくそじゃりどもはぁっぁあああああああああ!!!!!」
 少々ブチ壊れているが、司令室に向かう途中のミサトである。
「使徒は私じゃなきゃ倒せないってのにあのドシロウトどもがああぁぁぁっっぁぁああああ!!」
 少々かなりブチ壊れているが誰も気にしない。というより、司令室近くではまったく人気はない。おかげで変人扱いされないで済んだのは彼女の不幸中の幸いか。下がるような評価がすでに無いという現実はさておき。
「……葛城一尉、出頭致しました」
 司令室に到着するミサトがいた。

『……葛城一尉、出頭致しました』
(来たか)
「……入りたまえ」
『失礼致します』
 ぷしゅっ。
 司令室というが現在この部屋の主は不在で、冬月のみがそこにいた。度重なる失態を報告するため、ゲンドウ自らがドイツに向かっていたのだ。
 そんな事情は露知らず、いったい何の用なのかも考えられないミサトのことだ。この先のことも読めるはずがない。
「さて、葛城一尉。まずは弁明を聞こうか」
「は? 弁明ですか?」
 己に失態などなかったかのように振舞うが、これは"彼女の記憶の中では"自身による失態がなかっただけの話であり、単なる認識の相違にすぎない。
 もちろんミサト以外の認識では、職務放棄に近い、敵前逃亡あるいは利敵行為のような認識をされている。もちろん副司令の冬月の中でもだ。
「キミが第五使徒戦でも自らの職務を放棄したことに対する弁明だよ」
「あ、あれは私のせいでは!」
 記憶でごまかしている以上、指摘されたところで反発するだけに終わる。がそれは年の功に組織の長。
「作戦部長として作戦を提示できない状態が3度続いた。確かに初戦、第三使徒戦では慣れていないこともあったろう。
 しかし、その後2回続けて合計3回のミスだ。内容はすべて同じ。"初戦敗退と再戦勝利"。だがネルフは初戦勝利を求めているのだよ。
 さてこれでキミに作戦部長を続けさせられると思うかね? 次も同じ失敗を繰り返すのだろう?」
「しかし、私でなければ使徒は倒せません! すべてはあのくそじゃ…サードチルドレンが私の命令を聞かないからです!」
「ならばキミの命令を聞くチルドレンが居れば勝てるということかね」
「そのとおりです」
 言い切ったよこの人。
「……ではこれが最後のチャンスだ、葛城一尉。
 これから太平洋沖まで弐号機の受け取りに向かってもらう」
「弐号機、ですか」
「うむ。セカンドチルドレンとも顔見知りと聞いている。今回は海洋上太平洋艦隊に向かってもらう。目的は弐号機の引取りだ。そのために必要な物資人材はいくらでも持っていって構わん。尚、引取り後はセカンドチルドレンの意向により作戦部に所属することにする」
 これが最大限の譲歩であり、この条件で失敗するようなら……と示唆も残す。
「……了解しました。只今より任務に着きます」「うむ。朗報を期待しておるよ」

「コレでよいのかね、碇…私にはお前の目的が分からんよ」
 冬月の苦悩はまだ終わりそうになかった。

 そんなことがあったが、ミサトは単身太平洋艦隊に向かう。もちろん大きな試練が待ち構えていたのだが……。
 即ち、ガギエル襲来。







新世紀エヴァンゲリオン――時の迷い子

第捌話――アスカ、来日

presented by 神凪珀夜様




 前述の試練が無事(?)終了し、ミサトの首がいよいよ細胞一片にのみ繋がっている状況の中、肝心のセカンドチルドレンたるアスカはというと騒ぐため(?)だけに発令所にきていた。
「わ・た・し・が! エースパイロットの惣流・アスカ・ラングレーよ!」
 当然のように、パイロット間の親睦という名目で発令所に呼び出されたシンジとレイ。もちろん珀夜とサキも後ろについているし、一部を除く発令所のメンバーもこの場にいる。だが親睦というわりには親睦会には程遠いとリツコは思う。現にマヤは口の端が引きつっているし、シゲルに至っても肩を竦めて若干呆れている。
 ちなみにマコトはこの場に居ない。甚大な被害を及ぼしたということで始末書作成に追われているミサトの足を掴み上げるためにだが、これが余計なお世話だということを当人のマコトは理解していなかった。
 そんな裏事情はだれも気にせず、淡々と自己紹介は進む。
「・・・綾波、レイ(この人、嫌)」
「碇 シンジだよ。ちなみにパイロットなだけでネルフ一員じゃないからね」
「ネルフじゃないって・・・ちょっとどういうことよ!」
 後半はシンジが意図して釣り針を仕掛けたのだが、案の定大きな赤毛の娘が釣れてしまった。わかっててこの言葉を繰り出すのもどうかと思うが。
「どういうことって、何が?」
「エヴァを操縦する以上アンタはネルフのチルドレンでしょうが!」
 ちゃんと強調することを忘れないあたりまだ理性が残っているらしい。「それが違うんだよ」
 真っ赤な顔をして食いかかってくるアスカをシンジは宥め、抑える。何度聞かれてもそれチルドレンであることだけは否定しておかないと後が大変なのだ。中途半端に認めると、着任を承認したと勝手に物事を進める髭がいるのだから。
 いつまでたっても埒が明かないため、アスカの矛先は別の人間に向かった。
「リツコ、本当なの??!」
「彼の言っていることは本当よ。彼らはチルドレンではないわ」
 ということで、生贄はリツコになるはずだったのだが。
「だからキミも、チルドレンなんて名前じゃなくて名前って呼んでくれるとうれしいな」
 ここでスキル:天使の笑顔スマイル0円が発動。効果はばつぐんだ。アスカの顔を耳まで真っ赤にさせ、それを見たレイを思い切り不機嫌にさせるというおまけまで付いてきた。
「で、でも……!」
 それでも収まらないようで、更にリツコに説明を求める。
「本来ならサードチルドレンとして登録されるはずだったんだけれども、彼との契約内容で外部協力者になってるわ。だからレイやあなたと違ってシンジ君の上司は後ろにいる……」
「神凪 珀夜という。ネルフの特別……」
 …5秒。
 …10秒。
「……?」(レイ)
「……先生?」(シンジ)
「……なによ」(アスカ)
 3人のジト目が集まる。
「いや、自分の立場を忘れてしまってな」
「なんですってええええええええ!!!!!」
 アスカの超音波兵器が近距離の2人を打ちのめした。幸いシンジは体勢を崩すのみだが、レイは床にぺたんと座り込んでしまっている。なんとなくコネコを思い浮かばせるその姿を見たリツコの助言が入った。
「(はぁ……)特別顧問よ。いい加減覚えて頂戴」
「そうだった、すまない赤木博士。その特別顧問とやらいう位置に居る。このサキも一応部下という位置に居るらしいぞ」
 役職なんか気にしてません私は。な雰囲気バリバリだ。
「サキといいます。業務はレイちゃんの専属ボディガードといったところかしら?」
 こちらはまだ仕事、というより友人としての動きだろうか?
 これは発令所での出来事とはいえ、ネルフの日常。それは即ちアスカの知らない日常。
 己が知らない事実を認められない、認めることができないアスカは叫ぶ。
「な、なんなのよこいつらは!!!」
「アスカ、これが彼らの日常なのよ……」
「だからといって……!」
 激昂するアスカを、リツコの冷たい目線が押さえつける。
「アスカ、これを気に覚えておくといいわ。もちろんマヤに青葉君もね」
 逸るアスカを宥めつつ、リツコは言う。
「私はネルフに居ると言っても一個人の尊厳を振り回す気はさらさら無いわ。究極には神凪顧問みたいに役職なんか気にしないで居れればいいのでしょうけど、所属していることとやるべきことは別。
 平時どんなことをしていても構わない。もちろん日常業務をこなした上でね? 貴方たちはチルドレン、ではないわね。エヴァパイロットとしてさらに緊急時に即対応できるようにし、結果を残すならば何も言いません。
 結果を残せない、つまりは使徒を倒せないならば私たちは死ぬのだから」
「その通りだな」
 これは珀夜の言。内心"エヴァなんぞなくとも……"と考えているがそれは置いておこう。
「だからといって失敗しましたハイ、クビということもないけれどもね。けれどもそれが続くようならその人の能力に地位が見合っていないことになるわ。それはチルドレンであっても例外ではありません」
「私は……!」
「チルドレンであっても解任はありえるのよ。そのことをよく覚えておいて」
 その背景には、少し前の会議がある。

「14時48分。エヴァを載せた太平洋艦隊に第六使徒、ガギエル襲来。
 同 49分。エヴァ弐号機起動」
 ブリーフィングルームでスライドを挿む作戦部と技術部。もちろん珀夜も特別顧問として参加しているがチルドレンたちはこの場にはいなかった。
 特別顧問の招集による使徒戦反省会。それがこの会議の主旨だった。
「ふむ。続けて頼む」
「はい、同50分。セカンドチルドレンの命令無視、使徒による攻撃で空母3隻、戦艦6隻が沈没、ほぼ全艦が損傷を受けています」
「原因は弐号機か?」
「その通りです。弐号機の移動に甲板を使用しています。また遠回りで移動したため被害が拡大しているのも原因です。
 尚この件は国連から抗議が届いています」
「作戦部では問題がありそうだな、定型文で終わりそうだ。抗議文は私が対処しよう、後で回してくれ。続けて頼む」
「同 52分。エヴァ二号機の内部電源が尽きる前にソニックグレイブによりガギエルを殲滅。ソニックグレイブはドイツより同時輸送されていたもので、弐号機の起動時に同時に持ち出したものです。
 ただし旗艦である"オーバー・ザ・レインボウ"、使徒と共に沈没」
「ふむ」
 スライドにはガギエルを、オーバー・ザ・レインボウごと串刺しにする弐号機が写っていた。珀夜は首を縦に振り、続きを促す。
「同 55分。海底より弐号機を回収。空母は全滅し海上輸送船も沈没したため海底から吊り上げることはできず、弐号機は複数戦艦による海中牽引となりました。セカンドチルドレンはエントリープラグ強制排除により弐号機から脱出、移動の約3時間を船上で過ごしています。
 現在弐号機はケージに格納済みです」
「国連からの抗議は?」
「太平洋艦隊への被害賠償が殆どです。被害額は5千億を超えると見られています。
 重軽傷者は約300人、死亡者及び不明者は500人を越える模様です」
 そのほとんどが弐号機であることを珀夜は当然として、技術部も作戦部も当然理解している。理解していないのは作戦部のごく一部とチルドレンの一部のみだ。
「それだけの大艦隊を一気に殲滅する弐号機、というよりパイロットが厄介だな。
 まぁ物的損失はどうでもよい、修理なり新造すれば良いだけだ。人的被害の殆どが弐号機というのがな」
(やっかいな……)
 物は使うほど磨耗していくのみだが、人は使うほどに成長していくのだ。そういった点で人的被害の殆どが弐号機、ひいてはネルフによりもたらされたとなると頭が痛くなる。
 それに、人の意識が絡む事件ほど、人の数が多い事件ほど、物事に対する意識と念は複雑に絡むものなのだ。

 もちろんそういった事情は弐号機パイロットであるセカンドチルドレン、惣流・アスカ・ラングレーには伝えられていないし、上司も伝えようとはしないだろう。
 ちなみにココで言う上司とは作戦部長たるミサトのことであり、間違いなく内容を伝えられるような器の持ち主ではない。更に言うなら理解もしていない。
 本人が自力で気付けることが一番なのだが、今の状態ではそれもままならないだろうし、他人を認めるような意識はそもそもそこに存在していなかった。

 ともあれ本人の意向を他所に、アスカは作戦部に編入されることになる。
 トップであろうとするアスカと復讐に拘るミサト。彼女らは一体ネルフをどこに連れて行くのか。
 ゲンドウは一体何を考え、何を目指しているのか。
 未来にはまだ暗雲が立ち込めていた。

≪おまけ≫
 夕食前の神凪亭。珀夜が新しいメンバーを紹介していた。
「そんなこんなで、家族に魚が加わりました」
「魚っていうんじゃねぇ!」
 叫ぶのは背が高くほっそりとした男性。だが見た目とは裏腹に脆弱との印象は持たない。細く見えるが、それは引き締まった筋肉の結果だ。
「名前はガール」
「だが断る!」
 珀夜の言葉に彼は叫ぶ。仕方のないことだろう。
「つれないなぁ」
「何が悲しくて"Girl少女"なんて名前を、男がもたにゃならんのだ!」
「まぁいいじゃないかガール」
「よくねぇよorz」
 このあとこの不遇な子の名前は"海人カイト"と決まった。
「ま、いっか。イメージどおりといえば通りだし」
「真っ白なのに? 海人うみびとならもっと焼けてないと」
「うわあああああん!!! サキ姉がいじめるううう!!!!」
 この御仁、意外と脆いところもあるようだ。

≪おまけの2≫
「どうでもいいんですけど先生?」
「どうした」
「弐号機のエントリープラグ排出、どうやったんです? 潜水技術なんてあったんですか?」
 シンジの問いだが、弐号機沈没中のエントリープラグ排出のことを指している。弐号機は電源接続されていない状態だったために沈んだままになったのだ。その状態では内部電源を使いきって操作できないし、生存用非常電源では水圧を超えるほどの力は得られないはずなのだ。
 そして質問の内容自体もある意味当然といえば当然だ。陸上であればとある魔法のおかげでほぼ問題ないとはいえ、戦闘のあった場所は海中なのだから。
「ふむ。魔法とはイメージということは話したな。そのありようはATフィールドに近い」
「ええ」
「ではヒント。【Water Ballウォーター・ボール】という魔法があるな。あれは水を操り打撃を加える魔法だ」
 少しの間考え、シンジは頷く。
「……ああ、なるほど」
「イメージなど加えなくても、応用だけでどうにでもなるものだよ。
 電気分解という手もあるが、それだけでは酸素中毒になってしまう。かといって水中に空気を持ち込むだけでは酸素濃度が足りなくなる」
「だから【Water Ball】の応用で水ではなく"空気の玉"を持ちこみ、持続的な電気分解で酸素濃度を調節していた、と」
「ほぼ正解」
「ほぼ……ですか」
 どうやらまだ詰めが甘いらしい。
「残った水素はどうする? H2OH2水素O2酸素に分解されるのだぞ」
「そのまま水中開放じゃないんですか?」
「それでも良いのだが、今回は爆発物として利用した」
「……魚雷もどきで拘束具破壊、ですか。同時3魔法の制御なんてどこまで人外鬼畜なんですか先生」
「失敬な」
 今日も神凪亭は平和です。

Write by: 神凪 珀夜
Homepage: 徒然草

To be continued...
(2008.11.08 初版)


(あとがき)

 珀夜です。おはようございます、こんにちわ、こんばんわ、ではさようならはしないでええええええ!
 そして遅れに遅れて第捌話です。うーん、ペースアップがんばらないと・・・。
 今回のお話は太平洋、ガギエル戦です。いささか彼は不幸ですね……。あっけなくというか、ほとんど登場しませんでした。ああ、今後も登場するか分からないのに!
 ともあれ、ようやくチルドレンがネルフに勢ぞろい。本格的に暗躍開始しそうです。今後どう進めようか本気悩み中。
 ということでちょっとだけアンケートを。

1)ネルフ(≒ゲンドウ)はぶっつぶす
2)○○はたすけてあげて! or 仲間に引き入れないの?
3)展開(又は公開スピード)おせええええええ!

 3ばかり着そうでガクブルしている珀夜からでした。

 ではいつものように今回登場した魔法の解説です。

Water Ballウォーター・ボール
水面より水を操作し、弾丸として敵にぶつける。
水そのものを操作する魔法のため、水面がない地域でこの魔法は使用出来ない。

水面でしか使えない魔法にも関わらず、使用できる相手はほとんどが水際に居る敵(≒水属性)というのはある意味皮肉。
水属性に水魔法。カエルに放水とか軽減もいいところだ。


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