「ぶっちゃけ、ネルフなんぞ不要な件について」
「先生、2回目2かいめ(^^;」
 二人だけでいるときにこの発言をするならともかく、第三者、しかもネルフ寄りの人間が一人いる中での発言だ。
「耳が痛いわね……まさかあんな方法があるとは思わなかったわ」
 ネルフ側の当事者、科学者のリツコには予測などできようはずもない。そもそも科学とはまったく別の概念による力だからだ。
 リツコにしてみれば単に鉄球を投げつけただけにしかみえず、それでもMAGIの計測結果から1球目が電気を帯びていたこと、2球目が超低温だったことしか分からずにいる。
「質は数を凌駕する、その典型的な例だよ。逆もまた然り、だがな」
 リツコの問いに珀夜は答えた。

 技術部長室。そこに室主であるリツコと客分として珀夜が居座っている。
 ラミエル撃破からすでに2週間。その時間のほとんどとMAGIの処理能力の実に70%近くを戦闘解析に費やしたものの、彼女が知ることが出来た経緯は現実をかけ離れていた。
 数億ワットの電力を集めようとしたネルフもまた非常識だが、数百万ボルト級とはいえ何も変哲も無い鉄球に"放電無しに帯電させ続ける"のも異常な話だと考えている。もっともリツコは、珀夜に世界の常識を当てはめようとすることの無意味さに既に気付いていた。当然弟子であるシンジにもその嫌疑は掛かっているのだがさすがに言葉にはしない。
「それで、突然尋ねてくるぐらいに急ぎの用でもあるのかしら」
「何、そろそろあの武器の謎が解けたかと思ってな」
「何も分かっては居ないわ。分かったのは電気を帯びていたことと超低温だったことだけよ。
 まぁその原因は貴方たちにあることぐらいは想像しているけれどもね」
「で、回答は」
「降参。貴方が何かしたにしても時間と道具が足りなさすぎるわ」
 そもそも道具も時間も必要としてないのだから、想像の枠外であっても仕方が無い。
「種明かししてほしいぐらいだわ……」
 この2週間、リツコの疲労度数は飛躍的に高くなっている。原因はもちろん
「それも含めて話があるのだが」
 この男なのだが……。

 ともあれこの会談以降、リツコが神凪家に浸ることが多くなったのは間違いの無い事実である。







新世紀エヴァンゲリオン――時の迷い子

第漆話――人の造りしもの

presented by 神凪珀夜様




 使徒ラミエル撃破の報告はやはりすぐにネルフの内部を駆け巡った。今回に限り某作戦部長のちょっかいが無かったのは全て副司令である冬月の考えるところにある。そしてそれをしっかりと実行させたのは他ならぬ冬月だった。
 やはりというか当然というか、ゲンドウは冬月が考え実行した案を覚えてはいない。知っているのは結果のみで査問が始まるのも彼にしては当然なのだろう。
「何故だ冬月」
「せめて主語を付けろ。ただでさえお前の言葉を翻訳するのは難しいのだぞ。
 まぁ良い、葛城君のことならお前がワシに任せたではないか」
「なんだと……?」
 もちろん覚えているわけが無い。そもそも冬月とリツコ以外はその内容を知らないのだ。諜報部にしても冬月を経由した『司令の命令だ』という言葉で抑えてあるし、その命令経路もいつもと変わらないため不審なところは全く見当たらない。普段書類整理を行わないツケだろう。
 口頭約束ではこういうあたりゲンドウは扱いやすい。言ってもないことをデマのように流すことが出来るのだから。
「覚えておらんのか? お前がワシに一任しただろう、『問題ない』と言ってな」
「……それで」
「だから主語をつけろというに。
 葛城君なら戦闘妨害の危険がある、との指摘が技術部からレポート付きで上がってな。当時は独房に居た」
「……何故だ」
 終わったことに対する質疑はあきらめたのだろう。ゲンドウは経緯と経過を確認し、報告の材料と捏造準備するために質問を重ねる。
「ネルフの存在意義を忘れたか。我らは使徒殲滅のためにあるのだぞ。技術部、作戦部からも指摘があってな、使徒殲滅を妨害するならそれなりの対応が必要なのは当然だろう」
「老人たちが黙っていないぞ」
「そのためのお前だ、まぁ責任回避はお手の物だろうだしな。適当にあしらう事だな」
 その言葉と共に冬月は司令室を出て行く。
「まて冬つ……」
 ゲンドウの制止の言葉は閉まる扉と共に効果を失った。

「それで、何だこの手紙は?」
 場所をリツコ専用研究実験室に戻し、珀夜の発言。その珀夜の手には一通の手紙が存在している。
「それ? 日本重化学工業からの招待状。ネルフ宛なんだけど特別顧問の貴方にも判断して貰いたくて」
「内容は」
「JA-大きなおもちゃの品評会。サイズはエヴァクラスね」
 大きなため息を一つ。そして珀夜は言葉を続けた。
「無駄なことを。悉くこの国の人間は平和ボケしていると見える」
「その根拠は?」
「これはある意味使徒との戦争だ。勝つか負けるか、ただそれだけがある戦いに第三者が入り込んで何になる。大方死の商売のための拡大工作といったところだろう。
 で、ネルフはというと邪魔されたくない、情報漏洩、その他個人的な考えにより妨害工作といったところか」
「ええ、その通りよ」
 ネルフの思惑も含め、ほぼ9割を読みきった珀夜に今更ながらこちら側に付いてよかったと思うリツコ。
「まったくバカどもばかりめ。
 赤木博士、今からその工作を止めることはできるかな」
「一応可能よ。もちろん申請とそれなりの根拠を出して貰わないとならないけれど」
 根拠があってもあの司令を覆すのは簡単ではないのだが、リツコは冬月が意をひるがえしている可能性を状況からなんとなく読んでいる。そうなれば冬月が味方に着くことになり、且つ空気を読んでくれればゲンドウ一人をあしらうことはできるだろう。それも全体を通してそう低くない確率で。
「ならば簡単だ。出るだけ無駄だということを証明すれば良いのだろう」
「その通りね。そのための工作なのだけれども?」
 暗に妨害して当然であることを含ませるがそれを読めない珀夜ではない。
「私が行こう。口撃で止まればよいが、そうでもないなら力ずくだろう。とすると機械相手だ、プログラムの改竄が手っ取り早い。だかこの時期の工作はネルフが疑われるだけだ。
 ならば正常に動作させておき、妥当なところでエヴァとの戦闘。次点策で操作そのものを乗っ取るか」
「あの司令がエヴァの出撃を認めるとは思えないわよ?」
「だから私が行くのだ。別にエヴァで戦闘を行う必要も無いな。保険ぐらいでシャムシエル戦の映像も持っていけばよい。機密に触れるというならエヴァが写っているところを除いても構わん」
「それで?」
「要は使徒の攻撃力を見せ付ければ良い。N2地雷による攻撃でも構わん。この程度できなくて使徒、引いてはエヴァに対抗するつもりかと」
「なるほどね。その方向で進めてみるわ」
 暗躍者2名の裏話はここに決着を見た。

 尚、上層部の良心の片割れである副司令の計らいによりエヴァの戦闘シーンの公開が為されたことは補足しておこう。更に上位である組織に呼び出しを食らうのは当然である。
「碇、弁明はあるかね」
「し、しばしおまちを!!!」

 そしてJAの完成発表会。
「分かりきったことでは有ったのだが……」
「こうしてみると、如何に底が浅い団体か良く分かるわね……。まるで子どもだわ」
 ネルフのテーブルは会場のほぼ中央に置かれ、卓上にはほとんど何もなく、手の届かないような中央にビール瓶1本が乗っているだけである。ある意味見ものといえば見ものだが。
「その点はいくらでもクリアできるものさ。さて、発表が始まるようだな」
「私は何も手出ししないから、全てお任せするわ」

……
………
「以上がJAのスペックになります。ご質問等ありましたらどうぞ。
 ……そうですね、ネルフの――赤木博士、如何でしょう? 」
 時は移り質疑応答に入る。日重――司会の時田からの問いかけに対し珀夜は答えた。
「9点だな」
「それはそれは、高評価を」
 10点中9点と勘違いしたのだろう。割り込むようにして珀夜は続ける。
「何を勘違いしているんだ。私の話おれのバトルフェイズは終わってはいないぞ。
 100点中9点に決まっているだろう。これでも高すぎる評価だがな」
「な!」
「一つ。なぜ内蔵機関を使用している」
「5分以上戦えないロボットよりはマシだろう!」
 声を張り上げ対抗する時田に対し、いたって冷静に返す珀夜。両極端の世界だ。
「そうでかい声を出さずとも聞こえているぞ?
 私は"使徒戦を想定したというJA"のことを聞いている。どこぞの秘密組織が作成した非公開機体との比較など興味は無いのだ。そもそもその5分制限は暴走した場合の時間制限なのだ。
 話を戻す。なぜ、内蔵機関、核を使用している」
 これには時田では無く、リツコを含めた周囲が驚いた。
 正確には協力者だが、ネルフがエヴァを5分しか稼動させないのは安全対策だと明言したに等しいからだ。
「れ、連続稼動150日が可能なのだ!」
「だからバカだという……。戦争じゃない単なる戦闘に150日も必要か?
 戦闘とは刹那の瞬間をその中に見出すことが重要なのだ。ただ長く動けるだけでは戦闘に出て即破壊で終了だ。放射能漏洩のおまけつきでな」
 その言葉にドキッとした軍人が居たことは珀夜もリツコも見逃していない。
 さらに時田は続ける。
「ぼ、暴走の危険がある非人道的兵器よりましだ!」
「どちらがというか、貴様が暴走しているのだ。それに戦闘とはその刹那の瞬間にこそ意味がある。5分もあれば十分なのは第四使徒を持って証明しているだろう。
 もう一度言うぞ。ヴァカか貴様は。暴走を許しても5分で停止する機体、暴走をして150日破壊を続け放射能を撒き散らす機体のどちらが非人道的だ」
「た、対策は施している! 全ては完璧だ!」
「もちろんそうだろうとも。使徒との戦闘を目的に対策を施すのは当然だな」
「と、当然だ! ……ええい、そもそも貴様は何なのだ! ネルフの一員ではあるまい!」
 ブチ切れた時田はなりふり構わず相手を引きずり落とす作戦に出たようだ。それでは好印象をもたれるはずもないが、珀夜だけに相手が悪かったというところだろう。
 今までと同じように冷静に、珀夜はリツコに問う。
「だそうだが、私の立場はどうなっているのだ?」
「ネルフ特別顧問ね。厳密にはどこにも所属はしていないけれども権限としては副司令に次ぐ第三位よ。ちなみにサードチルドレンは貴方の直轄」
「ほう、そんなに高位だったのか。
 だそうだぞ。すまんな、形ばかりの役職に興味が無くてな、自分の役職すら知らなんだわ」
「なんだと!!!」
「すまん、また逸れたな。その使徒だが、第三使徒の光の槍、第四使徒の光の鞭、第五使徒の加粒子砲をそれぞれ武器としている。エヴァはそれなりに対応してみせたのだ。通常兵器が効かない使徒相手に一歩も引かず、な。当然……」
 薄い笑みが、その顔に浮かぶ。
「当然JAも通常兵器は効かないのだろう? そういうデモンストレーションは無いのかね」

 買い言葉に売り言葉。喧嘩の売りあいでは常に冷静な方が勝利する。もちろんこの場合も例外ではなく、口撃は珀夜の勝ちで終了した。
 ついでに言うとJAは起動には成功したが口頭でのデモンストレーション要望を実現しようとして失敗。
「まったく、身の程を知らんのか」
 その言葉で珀夜は動き出す。
Ice Wallアイスウォール
 氷でできた壁にJAを封じ込めるだけだ。そしてJAは依然放射能汚染の恐怖を参列者一同に撒き散らしている……。

 だが、この行為により軍の目はJAやエヴァ、チルドレンではなく珀夜個人に向くことになる。これも彼の思惑のうちなのだろうか。

「やれやれ、だからバカだといったのだ。身の程を知らずして戦いには勝てようはずもなかろう」
「『己を知り相手を知れば百戦危うからず』孫子の教えね」
「ほう、そんな教えがあるのか」
「知らなかったの?」
「少なくとも私の場合は独学だな。生きるためには相手の実力によっては戦を回避する事も必要になる。ウサギがライオンと戦っても仕方あるまいよ」
「それもそうね」
 動物ですらできる本能による危険回避。知恵を手に入れたが為に本能が薄れた人間が、それをできないとはある種の皮肉か。

 JA起動実験にして同時刻。
「まったく、毎度毎度ご苦労なことだよ」
 シンジの手に握られているのはビニール袋。見た目からしてパンパンで、相当量が入っているのだろう。……しかし、なぜ破れない?
「レイ、どう?」
「もうちょっと」
 シンジに珀夜という師匠が居るように、レイはシンジに色々なことに対して教えを乞うた。
 彼らが持つ技術――機械技術のそれではなく、魔法や思考技術としてのそれ――は現代のそれを遥かに超えている。中世ヨーロッパでの錬金術が別方向に発展したならともかく、現代社会にはそもそも魔法技術など存在しないため比較の仕様が無い。
 そういうわけであまり広めるべきではないと考えているシンジに対し、珀夜は
「別に良いんじゃね?」
 の一言で終わらせている。
「のんきですねー」
「安易に力を求めるものは力に飲まれやすいものだよ。力は力であり、それを施行するのはあくまで人だ」
 無駄に巨大な力を持つものはそれをひけらかすようなマネにでる。身近な悪例では拳銃や刃物が当てはまるだろう。道具はあくまで道具であり、それをどう使うかは人次第なのだ。
「その点レイならば意図して抑えることも出来よう。シンジ、お前も一人弟子を持ってみるか?」
 と、そんなこともありシンジに弟子入りすることになったレイであるが
「・・・【Frost Diverフロストダイバー】っ!」
「・・・お見事」
 意外に高い素質を持っていたようだ。
「ただちょっと時間が掛かってるかな。もうちょっと早く詠唱できるともっといいね。」
 こんな風に、とシンジは続けた
――天の怒りもて 彼の敵を殲滅せん
  【Thunder Stormサンダーストーム】!
 天からの雷で、レイが凍らせた石像を打ち砕く。氷に電撃と、比較的扱いやすい連撃コンボだ。
「・・・はやい」
「まだまだ、先生に比べたら、ね(^^;」
「まったくだ、Lv1でその詠唱だと先が長いぞ」
――墜ちろ 【Thunder Storm】
 突如後方からの声と先のThunder Stormと同じ場所に比較にならない威力の雷が落ちた。
「先生、TSThunder Stormのレベルいくつで撃ちました?」
「さぁ? とりあえず実用範囲での最大威力だな」
 魔法を使うにはある程度意味と力をこめた言霊ことだまが必要になる。これは魔法ごとに決められているようなものではなく、個人がマナを魔法に変換する際の意識構築のための自己暗示に近い。もちろん長い詠唱ほど高位、或いは高威力の魔法に近づく。
 だが、ただ一言の言霊でこれほどの威力。
「相変わらずですね・・・」
「すべては己の意思次第、だよ」
 珀夜は静かにレイを見る。驚きに満ちたその顔、手も足も、雷の前に固まってしまっている。
 レイの姿は儚く淡くあるが、はっきりと存在しているのだ。 

 己の意思。レイがこれを持ち、この世界を破壊するも守ろうとするもレイの意思なのだろう。
 良くも悪くも世の中は無情だが、きっと悪い方向には繋がるまい。二人の姿を見て珀夜はそう、信じていた。 

Write by: 神凪 珀夜
Homepage: 徒然草

To be continued...
(2008.08.16 初版)
(2008.11.08 改訂一版)


(あとがき)

 ・・・えーっと、おひさしぶりです? 珀夜です。
 予想外に時間が掛かりましたというか、予想外に他に時間を食われました。人生に多分一度しかない大イベント準備中で、今年中はキリキリ働けという状況です。隔週での更新が目標でしたが、しばらくはその2〜3倍時間が掛かるかと思います。
 ご了承くださいませ(;;)
 一応次回は9月中、の予定です。
 あと、ルビの文字サイズをすこし大きくしてみました。ルビが読めないという意見があったのですが、これだとどうでしょう?
 賛否両論お待ちしています。

 さて今回はJAとその裏舞台。どちらかというと外伝に近い話です。本筋では一応メイン入りしてますからこちらも、ね。 

 ではいつものように登場魔法の解説です。

Ice Wallアイスウォール
氷で出来た壁を作り出し、敵の進行を阻む。
うまいことタイミングが取れれば氷の壁の中に閉じ込めることも可能。

Frost Diverフロストダイバー
対象の単体に氷塊を投げて攻撃する。投げられた氷塊は対象にぶつかった後、対象を凍結させることがある。
対象が凍っているときにこの魔法を使用しても効果は無い。

Thunder Stormサンダーストーム
指定した位置に稲妻を落とし、周囲の対象を攻撃する。


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