ネルフが使徒殲滅の準備に掛かっているその間。シンジと珀夜は自宅でのんびりと雑談会を始めていた。第五使徒ラミエルの掘削作業が始まってすでに10時間、未だラミエルはがんばって掘削中、ネルフは未だに眺めているだけのようだ。
 そんな状況を、珀夜は一言で切り捨てる。
「ぶっちゃけ、ネルフなんぞ不要な件について」
「件についてって……」
 シンジも珀夜の言うことが分からないわけでもない。シンジにしてもネルフが存在しない方が動きやすいのは確かだ。
(無駄に邪魔をしてくるし、話聞かないし)
 本音はこんなところだろう。
「いや、わかりますよ、分かりますけどね? だからといって簡単に排除できるものでもないでしょう」
「それはそうなのだが、あそこまで無能ではな」

 ネルフの悪い点を挙げればキリはない。思想は押し付け、何事も命令だけ。非公開組織であることを盾に情報公開はしない、国連直属を名目かつ上位組織命令により協力体制を敷かず必要なものは奪う。おそらくこの話題だけで1週間は語れるだろう。そんなネルフに辟易しているのは何も珀夜だけではない。
 もっともこの評価を受けているのはネルフの上層部のみであり、シンジや珀夜に話しかけてきたような整備部や技術部、作戦部の一部は結構友好的である。
 ネルフ下層部が友好的であることとネルフが外部に敵対的であることはなんら関係は無く、ネルフ上層部のせいという共通項が見つかるだろうがそれだけだ。
「よくもまぁこの世界の人間はここまで従順にいられるものだ」
 ネルフ設立のために民間から捻出される税金は格段に跳ね上がった。その額はセカンドインパクト以前に比べ倍以上。さらに優秀な研究者、技術者の半強制的な引き抜きを行い、拒否するものは殺害。おかげで研究者や技術者は地下にもぐり、新たな技術の発展は見込めなくなった。そしてこの状態で10年、経済は下降までは行かないがセカンドインパクト後の技術・経済レベルの維持がやっとという有様だ。
「使徒がどうこう言えるのはここの住民だけなんですよ。日本ですら使徒の存在は秘匿されているんです。でも戦自でも役に立つか分かりませんよ? ラミエルぐらいなら戦術でどうにかなったのに、結局力のごり押しに頼ってるんだから」
 ただ闇雲に火力を発するだけで良いなら世の中戦術論など必要なくなる。力と数の暴力を地で行くネルフだが、戦術・戦略で負けることなど往々にして在り得る話だろう。数の暴力などはそれなりの質を伴わなければ意味が無い。
 特に珀夜一人を敵に回すだけでネルフ本部の崩壊は免れないと思うのはシンジだけではないはずだ。
「でも、どうするの? エヴァがないと使徒は倒せない」
 レイの言葉に珀夜は答える。
「実際のところ、あの程度なら問題が無いな。まぁもうしばらくはネルフに踊ってもらうさ」







新世紀エヴァンゲリオン――時の迷い子

第陸話――決戦、第三新東京市

presented by 神凪珀夜様




 一方そのころ。

 そのマリオネットネルフの内部、戦闘で重要な位置を占めている――と本人は思っている――ミサトは心底憤慨していた。原因は友人だと思っていた人物の裏切りに等しい行為――これも本人談――だ。

 数時間前にようやく行われた無人機による威力偵察の結果がようやくでてきたのだ。
 一定距離以内に存在する無人航空機は荷粒子砲で撃ち落とす。
 範囲外からの攻撃はATフィールドで防ぎ、防ぎきったところで射撃攻撃。
 肉眼で確認できるほどのATフィールドを持つ。
 作戦部が行った威力偵察はざっとこのような内容になり、そしてその結果からミサトが弾き出した作戦は超長距離射撃。
 文字にすればものすごく簡潔なものではあるが、防御はATフィールド、攻撃は荷粒子砲とある一点に特化しているため生半可な攻撃では倒せないのはミサトにも分かる。
 ならば防御を上回る攻撃を加えるというのもある意味自然な発想ではある。そしてその中から取り得る作戦としてミサトは最もシンプルなものを選んだつもりだった。だがそれは同時にエヴァ以外の戦力で使徒を倒せることを意味していた。エヴァの力に頼らずに実施できることをわざわざエヴァを使う利点がない。――偽装工作以外では。
 原因はほんの些細なリツコの一言。だがそのリツコの一言が、ミサトの思考を真っ赤に染め上げ頭から煙を噴出させる事態になったのだ。

「別にエヴァに撃たせる必要も無いわね」

 この言葉により、ミサトのもともと無いも同然の神経は限界に達した。挙句、味方だと思っていたリツコに裏切られたとまで考えている。
(このままじゃ私の復讐を遂げることが出来ないじゃない……!)
 ミサトの思考はただこの1点。これをシンジと珀夜に話せば鼻で笑われるような内容ではあるが、当人にとっては実に切実な内容なのだ。セカンドインパクトから15年、復讐だけを目的に生きてきた。そして目の前に敵が居るのに復讐が遂げられないとなるとこの15年を否定されるような気持ちになってしまう。
(全部あのサードチルドレンのせいよ)
 黒い感情がミサトの中を駆け巡る。

 これをリツコが聞けばやはり一言で切り捨てるだろう。
「無様ね……」
(何故自分で撃とうとしないのかしら)
 ただ引き金を引くことなど人でも機械でも出来るし、ミサトの"自らの手で使徒殲滅"にもっとも合致するだろうに。
 だがリツコはその程度の準備など簡単に出来る等とは一言も言わない。

 ミサト、リツコの内心はともかく、状況は着実に進んでいた。
 まずはラミエルを撃ち落とすためのライフルを準備するところから始まった。ラミエルのATフィールドを撃ち抜くためには2億ワット程の電力が必要と試算されたが、ネルフにそんな大出力に耐える砲台は存在しないのだ。
 ネルフには存在しないのは確かだが、必要なものは幸い――開発元にとっては不幸だが――戦自で開発されている。当然の流れで徴発することになっただけのことだ。戦自で開発していた超長距離射撃用大出力ライフル、陽電子砲。国連を通してネルフはこの陽電子砲の徴発を進めた。
 無論、戦自内で猛反発があったのは言うまでもないが、ネルフが"指揮権を戦自に渡すことを検討する"と提案したら即回答があったとか。戦自虎の子の陽電子砲があろうが無かろうが、戦自内に戦力になるような戦力を持ち合わせていないことをネルフは知っている。提案はただの揺さぶりでしかないし、仮に陽電子砲が残ったとしても発射のための電力が確保できず負けるだけだと分かりきっていたのだ。単に戦自が使徒から逃げただけの話であり、協力体制を敷けばよかったものを独占を望んだネルフの2組織の関係の結果がこれだ。。
 ともあれ、陽電子砲の徴発に成功し、これらの移動、組み立ては半日ほどで終了した。計算上10時間程度を残している。ミサトがエヴァでの射撃作戦を立案し、司令部の承認を得てから8時間程度の出来事だ。
 さらにリツコが改良した射撃プログラムのシステム化と稼動確認がその1時間後に完成。それでもまだ9時間。予想以上に空き時間ができたのだが、だからといってネルフの悩みは尽きることは無かった。

 まず、文字通りのぶっつけ本番一発勝負。試射しようにも発射先が無く、こればかりはどうしようもない。2億ワットのエネルギーなどそうそう使えるものでもないし、万が一地表にでも当たったときには付近の地形は臼型に変わること間違いないだろう。それに銃を構えるだけで反応するラミエルがそれほどのエネルギーを見逃すとも思えない。
 もう一つがエヴァパイロットの離散。問題はこちらのほうが大きかった。

「ンなもん、ネルフの特別権限を使ってさっさと……」
「できるなら今頃ネルフに詰めてるわよ」
 作戦部長室。部長席に突っ伏しているミサトにリツコが問う。
「あ、あら……リツコ……」
「それより、作戦はできたのかしら」
「ええ、当初の作戦通り、エヴァによる超長距離射撃を行うわ」
 それは初めにミサトが描いた、彼女の理想の殲滅方法だ。作戦としては見た目は良いが、次善の策が存在しないという、作戦とも呼べないような、決められたひとつの未来を決定されているかのような内容。
 さらに言うと今のリツコにはミサトに協力する気は一切ない。今ここに来ているのもネルフの行く末に僅かながらに案じているからだ。ただ、だからといって協力するかと言われればそれはまた別問題になる。今までみたいに作戦の根回しといった、ミサトの作業を引き受ける気は一切なかった。
「そう、ならちゃんと上申しておくことね」
「リツコ?」
「当然でしょ? アナタは作戦部長、私は技術部長。完全に管轄が違うものをどうして私が上申するのかしら」
「うぐっ」
 至極当然の話だ。
「私はアナタが望む……訂正するわ、アナタが申請する武器の試作・調整はしてきたわよ?
 それをどう使うかはアナタ次第ではないかしら」
「そ、そんなぁ〜」
 机に突っ伏すミサトを、リツコは冷たく突き放す。
「私はアナタがちゃんと仕事してるか見にきただけよ」
 そして、幾ばくかの空白。
「そういうアンタはどうなのよ」
 空白を打ち破り、目を吊り上げたミサトがリツコに問う。
「私はちゃんと引継ぎして、あとはマヤに任せれば大丈夫にしてあるわ。細かい調整ぐらいあの娘にも指揮を執ってもらわなきゃ」
――それに、あんなことを言われて素直に引き下がるとでも思って?
 言葉には出さないが、リツコの心にはシンジの言葉がこびりついている。
 最新技術を扱っていると自覚しているリツコにとって、その技術面での不手際は彼女自身のプライドに大きな傷をつけていた。現在ではプログ・ナイフを応用した剣、劣化ウランから変更したタングステン鋼等、作戦部が申請してこないものを自分から上申、許可も取り付けすでに試作品は完成している。
 エヴァを取り巻く技術で不手際を指摘されるなど、彼女にしてはあっては成らないことなのだ。
「今のところ大丈夫そうね。アナタの仕事の邪魔になるようだから私も仕事に戻ることにするわ」
「ちょ、リツk……」
 ミサトの声はドアにさえぎられリツコには届かない。
――シンジ君と……ハク、だったかしら。
 心底あの二人を面白いとリツコは思う。今まで当然だと思っていたことがことごとく打ち破られるのだ。それで面白いと思わないほうがどうかしている。――或いは、人によっては恐怖を感じるだろうか。
――今度は何を見せてくれるのかしら……?
 彼女の肩から仕事ネルフが抜け落ちている今、彼女の心はネルフには、なかった。

 ほぼ同時刻、シンジでもリツコでもないところ。
「まったく碇のヤツ、面倒ごとはすべてワシに任せよる」
 普段使われていない副司令室に冬月が居た。もっともその理由もゲンドウにあり、冬月の意たるところではない。
(シンジ君の確保など、今のネルフに強制できる力などないだろうに)
「副司令、こちらに居られましたか」
「赤木君かね、待ちたまえ、今開けよう」
 冬月の思考はリツコの訪問と共に打ち破られる。書類の確認に目を離すことなく、席の端に設置された開錠スイッチに手を伸ばし、入り口を開ける。
「副司令がこちらに居られるのも珍しいですね」
「仮にも専用に準備されている部屋だからな。使ってやらねばホコリが溜まる」
 そういって苦笑する。もちろんリツコにも原因はゲンドウにあることを分かっての発言だ。常にゲンドウの傍らでサポートを行っているせいか、冬月の居るところにゲンドウが居る、もしくはその逆であるとネルフ内部のすべてで認識されている。
「さて、それは良いだろう。今回は何用かね?」
 その言葉を待っていたようにリツコは素早く回答を返した。
「サードチルドレン、シンジ君の件です」
 それを聞いてようやく冬月は顔を上げた。
「ふむ」
「副司令はシンジ君のことをどうお考えでしょうか」
 二人の密談はその後しばらく続く。

 MAGIの計算ではあと4時間ほどですべての隔壁が突破されるとされる20時。
 その頃シンジの家に冬月とリツコが訪れていた。リビングに置かれている家庭用テーブルに4人が向かい合って座っている。
「副司令という役職は名目か……雑用係もなかなかに大変だな」
 これは珀夜の言葉だ。もちろん冬月の頬は良い感じに引きつっているし双方とも単なる皮肉であることはわかっている。
「ま、まぁ碇のヤツも手が離せんのだよ……」
 内心珀夜の言葉には同意しているのだが。そんな冬月の内心は別に、シンジは話を進める。
「ところで今日はどういった御用でしょうか。まぁあんなのラミエルが居る以上用件は分かっていますけど」
「そうだな。
 シンジ君、キミにエヴァに乗ってもらいたい」
「お断りします」

 1秒も満たない即答に冬月は絶句する。
「…い、一応理由を聞いても良いかね」
「理由ですか?
 開発された機体に乗るという内容に協力したのに関わらず、その当人を殺されそうになる組織を知っていますから」
 もちろんネルフのことであり、対サキエル戦の話だ。
「ソレを言われると耳が痛いな……」
「ネルフとは言ってませんよ? 自覚でもあります?
 あと協力だというのに成ってもいない立場を押し付け、挙句それを名目に独房に入れようとする組織とか」
 もちろんミサトのことであり
「本来の目的を忘れエヴァにこだわるあまりに目的すら見失っている組織とか」
 ネルフ上層部のことである。
「そういう組織を知っていますからね。多少慎重になっても良いでしょう?」
 とシンジは締める。これは相当悪い印象を持っていると冬月が考えてしまうのも間違いではないのだが、シンジにはただの嫌がらせでしかなかった。
 とりあえずシンジの言葉は聞かなかったことにし、リツコが問いを重ねる。
「ではシンジ君、あの使徒を倒すことに協力してほしいとお願いしたら協力してくれるのかしら」
「もちろんです」
「ありがたい、では早速ネルフに……」
「エヴァに乗るとは言っていませんよ」
 歓喜モードの冬月にシンジは水を差す。
「だが使徒に対抗するにはエヴァでしか対抗できないのだよ」
「先生が対抗して見せたでしょう?」
 僕に試験を与えるぐらいの余裕付きで、とはさすがに言わない。
「だが、組織の立場というものもあるのだよ」
「使徒はエヴァで倒さなければならない、か」
 今まで無言だった珀夜が言葉を足した。
「ひとつ訂正しておこう。組織の立場とはネルフだけの認識であり、戦自に行けばやはり戦自の立場がある。
 ネルフがネルフなりの考えを持つのは構わんが、それを他組織や私たちに押し付けるな。不愉快だ」
 軽い威圧感と共に言葉を放つが、これは珀夜の本音でもある。ネルフをここに来てようやく見限ったのだ。
「……あなた方が我々に頼めることはひとつだけだ。
 エヴァに乗る。もしくは使徒を倒す。
 もちろん倒す場合の手段はこちらで準備するしそのための協力はあるかもしれないしそれがエヴァである可能性もある。だが、基本的に立案、実行は我らにある」
 ネルフ不要論。
 シンジが再三珀夜に提言してきたことだが、珀夜はこれを受け入れネルフを見限り単なる道具として扱うことにしたのだ。
「……そうか」
 いつものネルフであればその回答に対し強制或いは沈黙でもって回答をしていただろう。だが今回は違った。
「副司令、それなら答えは決まっています」
「赤木君?」
 悩む冬月にリツコは簡単に答えを返した。
「ひとつだけ聞かせてちょうだい」
「何なりと」
「あくまで協力者という立場であり立案・実行はあなた達なのは分かりました。
 その作戦でエヴァひいてはネルフが必要となったらどうなるのかしら」
「簡単なことだ。
 こちらからネルフに協力を申請する。それに答える答えないはネルフの自由だし、協力が無かったといってネルフに責任を求める無粋な真似はせぬよ」
「ありがとう神凪さん。
 副司令。私としてはシンジ君に"使徒を倒す協力"をしてもらうようにお願いするべきだと思います」
 リツコの提言に冬月は目を見開いた
「赤木君、それは……」
「もちろんネルフの意義も存じております。ですが使徒を倒すだけならばエヴァでなくとも構わない、私はそう断じました」
「ふむ……」
 リツコが裏の事情を知っていることを、冬月は知っている。その上でリツコがそう判断するならば間違いはないだろう。仮にゲンドウの意に背くとしても悪い方向には進まないと考えられる。
「わかった。
 シンジ君、使徒を倒すために協力してくれないだろうか」
「条件がいくつかあります」
 シンジが即答する。
「聞かせてもらえるかね」
「再三言っているように協力者としての立場を確立させること、これは絶対条件です。今までみたいな小細工、葛城作戦部長のような強制等、ネルフに属させようとする動きがあったらその時点で協力者ではなく対立者になります。」
「うむ」
「二つ目。僕が協力してもらう人たちに危害を加えないこと。別に守れとまでは言いませんが、そちらから手を出さなければ結構です。」
「三つ目。ネルフに借りた物品の弁済を僕たちに求めないこと。ネルフに協力してもらう際ネルフが所有する何かを借り受け、それをそのまま無傷で返せないことが多いでしょうし。エヴァの装甲の傷とかね。僕からは以上です」
「なるほど」
 以前の契約より格段に緩くなってはいる。国連が絡まない辺り彼らには十分だろう。それすら珀夜の計算の内であることは冬月には想像すらできていないが。
 更に珀夜が条件を追加した。
「私から四つ目だ。
 この契約の破棄は双方の合意を持たずに為される。一方が契約破棄を申し込んだ時点で他方が受け入れずともな」
「ちょっとまってくれ、それは……」
「今までのネルフの態度を鑑みるだけだよ。拠って、この契約も口頭でのみ存在し、電子・紙媒体等の書面効果は一切無効とする。契約破棄はお互い知らぬ存ぜぬを通せばよいだけになるし、書類偽造もやりやすかろうよ。偽造のためにサインをと言われても協力はできんがな」
 なるほど、と冬月は思う。
 確かに協力体制を敷いたとしてもミサトやゲンドウ辺りは平気で無視してくるであろう。あの二人は書面が有ったところで平気で無視或いは読まない人物の代表だ。その点この契約には赤木博士もいるし、MAGIによる偽造や破棄も簡単にできるであろうと冬月は踏んだ。
「良いだろう、ではその通りに」
 かくしてシンジとネルフの協力は成り、ラミエルに対峙することになる。

 そんなシンジの作戦会議(?)の部分記録がここにある。
 冬月とリツコがネルフに帰った後、シンジは珀夜に聞いたのだ。
「ケド先生、ラミエルどうするんですか?」
「あいつの武器は光線なのだろう? 加粒子というものは良く分からんが、光であれば遮ればいいし質量であれば逃がせばよい。要はその規模にある」
「規模、というと」
「ヤツの防御を突破するのに2億ワットもの電気が必要とする相手だ。攻撃も同じかそれに準ずる威力を持っておかしくはあるまい」
「2億ワットがそのまま攻撃方法ですか。厄介だな」
 そのシンジの言葉にレイがそっと付け加えた。
「大丈夫」
「レイ?」
「加粒子は荷電粒子。荷電粒子はその性質上、長距離砲には向かない」
「レイ、続けて?」
「……荷電粒子は電気。電気そのものだから磁気等の影響を受けやすい」
「あ〜、なるほど〜」
 シンジサイドの作戦は決まったようだった。

 そして時間は23時。ラミエルが隔壁全突破するまで1時間。シンジから使用する武具の準備のみがリツコに端的に伝えられ、その準備がすべて終わったところだ。
 とはいえ、ネルフの準備とは使用する武器の準備だけであり、鋳造した鉄球を2つ準備しただけだ。だがリツコもシンジも目の前の結果に十二分に満足していた。
「これで、十分かしら?」
「ええ、十分です。まさか2つも準備できるとは思ってませんでしたから」
 シンジがリツコに出した要望にある武器の準備がある。武器は目の前にある鉄球だ。だがその要求は結構厳しい。
――多少持ちにくくても歪んでいても構いませんから、溶接などで繋げていないボール、鋳造で金属性ボールを1つ作ってください。但し、エヴァサイズで。
 口頭契約の直後にリツコに入ってきた連絡がそれだ。使用する武具は聞いたが、細かい作戦内容はまだ知らない。
 エヴァサイズと聞いてエヴァも使用するだろうと準備を進めさせたが、果たして必要なのかも分からない。
「十二分に働いてくれたな、シンジ」
「ええ」
 これでラミエル退治の準備は整った。

 作戦はものすごくシンプルだ。
 ラミエルが放つ加粒子砲をある程度無視して準備した鉄球を投げつける。
 1行で書くとこうなる。だがその鉄球には電力を付加させたり、加粒子砲を弱めるための策を施すなど色々準備はしているのだが、それすらネルフには成しえない作業だろう。
「けど本当に大丈夫なのかしら」
「そのためにこれから僕たちが準備するんですよ。ね、先生?」
「そうだな。ではこれから30分後出撃しようか」
「ええ、じゃぁこっちは風をくっつけます」
「ならば私は水だな。これで予想以上に楽に行ける」
「そうですね」
 二人の顔に笑みが浮かび、リツコはその言葉と笑みに首を傾けていた。

 実際の戦闘も至極シンプルに終了した。
「ふん、私の作戦じゃなきゃどーせやられるだけよ……」
 との発言があったとのことだが、ネルフの総意で無視されている。

 さてその内容だが、ある意味サキエルよりも楽に終わったため、記録のみ追うことにしよう。
 エヴァ発進のタイミングで、エヴァとラミエルの中間に珀夜が【Delugeデリュージ】と【Wall of Fogウォールオブフォグ】を発動。
片方に【Lightning Loaderライトニングローダ】、もう片方に【Frost Weaponフロストウェポン】を帯びた鉄球2つを投げつける。
 ラミエルの加粒子砲は【Deluge】によって強められた【Wall of Fog】によって拡散され、さらに【Lightning Loader】を帯びた鉄球によって両方の軌道が捻じ曲がる。双方とも直撃には至らない。
 加粒子砲を無力化されたところに【Frost Weapon】を帯びた鉄球がラミエルを貫通し、【Frost Weapon】の効果でラミエルは凍結、加粒子砲を無力化。さらに追撃でエヴァの体当たり、手刀でラミエルを破壊して戦闘は終了した。

「準備だけしていたのだが、【Gravitation Fieldグラビテーション フィールド】は無駄に終わったな。何よりだ」
 珀夜の声が風に解ける。
「このまま無事、終わってくれればいいのだが……」
 右手に収まる紅い球。世界はどこに向かうのか、珀夜も、シンジも、使徒も誰も知らない。

Write by: 神凪 珀夜
Homepage: 徒然草

To be continued...
(2008.06.07 初版)
(2008.06.14 改訂一版)
(2008.06.28 改訂二版)


(あとがき)

 ふぅ、やっと戻ってこれました。珀夜です。
 ここ数週間、引越しと私的重大イベントの準備でどったばたしてました。お久しぶりです。

 そんなわけで(ネルフに対する)決戦、第三新東京市をお送りします。
 実はこれを完成させるまでに外伝3つほどできていたりして、いかに本編が進まないか痛感している限りです(苦笑
 戦闘を省いている辺り、もーね、ガギエルもすっ飛ばして一気にイスラフェルまで進もうかなとか思っても今までのストーリがソレを許さなかった りとか悩みがいっぱいです(^^;
 今後どう進めようか・・・

 さて今回も色々と新魔法が登場しています。
 こちらの掲示板でどなたが指摘されているように、アレがひとつ加わっています。多少アレンジが入っていますよ?
 というところで今回はお開き。また来週投稿できるといいな、また次回お会いしましょう!
 最後に今回初登場の魔法リストへどうぞー

Lightning Loaderライトニングローダー
指定した武器に一定時間風属性を付与する。風は空気を司り、風属性を付与させられた武器は、名前が示すとおりに主に電気を発生させる武器となる。
今回は電気を帯びさせ、荷粒子砲に干渉するための材料として使用した。

Frost Weaponフロストウェポン
指定した武器に一定時間水属性を付与する。
水属性を得た武器は瞬時に触れる物質を凍らせたり、水分を奪取等が可能になる。

Delugeデリュージ
指定した地域上にマナで発生させた水を散布する。この水の上ではすべての水属性攻撃力が増加する。
尚、この水には相手への行動干渉力はなく、動きを遅くするならばQuagmireを選択するべき。

Wall of Fogウォール オブ フォグ
指定した地域を中心に霧の壁を発生させる。この霧に包まれた相手を暗闇に近い状態にし、命中率が低下する。
この効果は近接・遠距離・魔法攻撃を問わず有効になる。
尚、この回では水の壁であることに着目、伝導体として利用している。

Gravitation Fieldグラビテーション フィールド
指定した地域を中心に超重力結界を作成する。
この範囲内の物体は生死・敵味方を問わず攻撃速度が減少し、重力による崩壊のダメージを受ける。
しかし高難易度の魔法であるため、発動者は【Gravitation Field】が発動している間は一切の行動が取れない。
陸話での出番なし。


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