リターン・オブ・エンジェルズ

プロローグ

presented by クマ様


「う・・・・・・ひぐっ・・・・・・えぐっ・・・・・・無理やりなんてひどい、ひどいわ・・・・・・」

朱い波が打ち寄せる何もない海岸線に、一人の女性の泣き声が聞こえる。

泣いているのは全裸の女性。

乱れているもののきれいな金髪を腰の辺りまで伸ばした、妙齢の美女だが、着ていた服は引きちぎられ、彼女のまわりに散乱している。 さらに膝を抱え、背中から生えた純白の三対六枚の翼で体を覆い隠して、震えながら泣いている。

さらにその周囲には、同じく背中から翼を生やしたこれまた全裸の美女、美少女が、抱きしめ合いながら何人も眠っている。

しかしその表情はまちまちだった。

ある者は泣きはらした後なのだろう、目の周りを赤くし、涙の跡がある。

別のある者は、満ち足りた表情で眠りについている。

そして少しはなれたところには、岩に腰掛けて、どこか遠くを眺める全裸の少年と、その足元に横座りし、その太ももに全裸の上体を預けている漆黒の六対十二枚の翼を持つ美女がいた。

「・・・・・・はぁ、いつまでも泣いて落ち込んでないで、少しはこの行為を楽しみなさい。
この行為はリリンの生み出した究極の快楽なのよ?」

黒い翼の美女は、少し前までの行為のせいで上気した顔をあきれた表情に変え、白い翼の美女に声をかける。

「だからって無理やり・・・・・・ルシフェルさんはいいですよ、まともな頃の人界で散々遊んでいた方ですから。
でも私は初めてだったんですよ!? それをあんなに強引に・・・・・・あんまりです」

「だからって言っていつまでも落ち込んでいたってしょうがないでしょ? こんなのは早くなれて楽しんだ方の勝ち! ほら、譲ってあげるから使いなさい」

そう言って立ち上がり、白い翼の女性にゆっくりと近づいて行く。

ビク!! ガタガタガタ

一瞬体を固め、より激しく震えだす女性。

「やめなよ、ルシフェル。
いくら抵抗したミカエルが悪いとは言っても、初めてが体の自由を奪われての抜かずに十連発はさすがにきつかったと思うよ? 僕も腰が痛かったもん」

「そうですか?シン様がそう仰るなら止めておきますが、こういうことは経験をつんで慣れた方の勝ちですよ?」

凄まじくひどいことを言う少年、シンに、ある意味正論(?)を返すルシフェル。

ちなみに経験者に言わせると、気持ちいいのは三発目まで。 五連発目以上は『苦痛以外の何者でもなかったわ』だそうである。

「ヒッ!」

立ち止まったルシフェルとシンの言葉にほっとしたミカエルだったが、足音も気配も感じさせずに背後に回ったシンに、いきなり翼ごと抱きすくめられて悲鳴を上げる。

ガタガタ、ブルブル、ガチガチ

震えが激しくなり、歯の根も合わない。 

大天使長として、全ての天使の頂点に立つ自分を、片手間で拘束してしまう相手だ、抵抗しても無駄に終わり、また犯されると思っている。

「良いか、ミカエル。 お前は僕のものだ。
この体も(右手で脇腹を撫で)、この心も(左手で胸をもみ)、その力も(首筋を舐める)。
ルシフェルも、アシュタロトも、ガブリエルも、ウリエルも、僕に逆らうことは許さない、逆らったときは、消滅させる」

「ヒイッ! わ、わかりました、決して裏切りません」

恐怖と絶望に染まり、震えることも出来ずに答えるミカエル。

しかし、恐れていたために気付かなかったこともある。

シンの瞳の奥にあった感情、ようやく得たものを失うことに対する怯え、そして寂しさを。

その感情を見たルシフェルは、しばし哀れみの表情を浮かべていた。




どのくらいの時間をそうしていただろうか? 柔らかく、それでいて張りのあるミカエルの体を堪能した(といってもただ単に押し倒して抱きしめていただけ)シンは、ゆっくりと立ち上がった。

「さて、この世界も見飽きた。
過去に戻ってまともな未来にでも書き換えようか」

「「「「「書き換える?」」」」」

周りにいて、今までに起きていた天使・堕天使達が、一斉に首をひねる。

「そう、こんな世界は面白くない。 僕の望む世界を復活させるんだ。
人がいて、動物がいる。
子を産み、育て、やがては土に返る、そんな世界を復活させたいんだ」

その言葉に、LCLのサルベージか過去に戻っての補完計画の防止と思った全員が、喜ぶ。

彼女等にしてみても、管理する世界が荒野よりも命にあふれている方が良いに決まっている。

しかし次のシンの言葉に、天使達が凍りついた。

「過去に戻り、僕を道具にした者達、僕を見下した者達、僕を利用し、騙した者達、僕の大切な人を利用し、傷つけたうえ、僕を裏切って切り捨てた人類に復讐し、生命に明るい未来を与えるんだ」

暗い笑みと供に出たこの言葉に堕天使が活気付くが、ルシフェルは真剣な顔だった。

なぜならシンジは人類といった。 つまりはシンジにとっては大切だった人以外全ての人類を滅ぼす可能性もあるのだから。 そして

「この世界はどうします? シン様がいなくなれば崩壊しますが?」

「ちゃんと考えてある。 これを使うよ」

そう言うとLCLの海に手を入れ、銀髪の少年を引きずり出す。

「ほら、起きろタブリス(ゲシッ!)」

腹を思いっきり蹴り上げてたたき起こすシン。

女性陣(除ルシフェル)は呆然として見ている。

「・・・・・・ウ、ウ〜ン。 ? ここは?
シンジ君? ここは補完の終わった世界かい? シンジ君がサルベージしてくれたんだね? やっぱりシンジ君は優しいねえ、好意に値するよ、つまりはす(バシッ!)ど、どうしたんだい!?」

勝手なことを言いながらシン=シンジに向かって手を差し伸べるが、当のシンジによってその手をはじかれ、目を丸くする。

「僕は自分の使命を忘れ、たかがリリンの出来損ないごときに従い、本来保護・監視すべき人界を消滅させるきっかけのひとつになったタブリスなんかに好かれたくないよ。
なぜ天使の模造品に過ぎない使徒の君に、天使クラスのATフィールドが与えられているか、忘れたの?
すべては他の使徒が暴走し、人界に害をなすときに、リリン達の自由を守るため使徒を君のATフィールドで封印するためじゃないか。
それを自分の自由意志を優先するなんて、なに考えてるのさ。
君の司る自由は、リリンの自由だって事を忘れたのかい?
タブリス、いや、カヲル君の真似をすればこうなるよ、『自分勝手な使徒だねえ、侮蔑に値するよ、つまりは嫌いって事さ』」

「シ、シンジ君!?」

「これは新たなる管理者からの厳罰だよ、『罪を自覚せよ』

「ガアアアッ!?」

タブリスの手をはじいたシンジの右手から光が迸ると同時に、タブリスの背中に逆十字架が浮かび、血が流れ始める。 左右に伸びた傷の両端から、まるで涙のように。

「シン様、これは?」

「己の罪を自覚するまで、彼の身を、なにより心そのものを形作るATフィールドを傷つけ、責め、苛む。
彼の原罪、それを自覚し、悔い改めるまでね。
まあそれはついでかな?
本来の効力は、この世界の維持、管理。
S2機関しか持たないタブリスでも、生命体が存在しないこの世界程度なら、何とか維持できると思うよ」

冷徹なセリフに冷たい視線、そして愉悦に歪む口元。 本がきれいな顔だけに醜い。

「さて、過去に戻ろうか・・・・・・
その前に寝ている連中を起こさなきゃ、まったく主に起こさせるとはなに考えてるんだろう・・・・・・」

そう言って倒れている天使達のほうに歩いていくシンジ。

ほとんどの天使達は寝ているのではなく気を失っているのだが、こういった経験がまったく無かった為、区別が付かないらしい。

そして一人残ったルシフェルに、姿も見せず話しかける何かがいた。

「本当に戻って、シンジ君の思い道理にするつもり? おそらくはリリンの大虐殺ですよ」

「間違えるな、シン様だ。
そんなことはさせない。 やれば間違いなく、あの御方の心が壊れる、すぐではなくとも、必ず。
シン様は、どんなに強く装っても、優しく、そして弱い。
そんなシン様に、重荷を背負わせるわけにはいかないからな、無断ではあるが、歴史をいじっておこう」

「分かりました、では、我らはシン様方とは別に戻り、歴史の改変に入ります」

「うん、お願いね、ベルゼバブ」

気配も消え、一人たたずむルシフェルに、シンジが声をかける。

「行くよ、ルシフェル!」






某大学構内で

「失礼、少しよろしいですか? 私、こういうものです」

差し出した名刺には、『碇総合研究所 人材開発室室長 シエラ・パイモン』となっている。

「パイモン、さん? 私に何か?」

「はい、あなたをスカウトしにきました。
どうでしょう、お母様を越えて見ませんか?」


某都市の喫茶店で

「こ、これは・・・・・・」

初老に足がかかり始めた男性が、何かの写真と書類を食い入るように見つめている。

「これがあなたが付いて行こうとしている、碇、いえ六分義 ゲンドウという男の、本性です」

「こんな奴が、ユイ君を本気でサルベージするとは考えにくいな・・・・・・」

「どうでしょう、我々と共に、碇財団に来ていただけますか?」

「・・・・・・いいだろう、君達と共に行こう、ファッサゴー君」

彼の手に在る写真には、腕を組みながらホテルから出てくるゲンドウとナオコの姿が、日付と共に写っていた。 その日付けは、セカンドインパクト直前、そして直後のもの・・・・・・


某組織内部で

「はあ? 作戦部の、実地研修ですか? 国連アジア方面軍で?」

「ええ、そうよ。
貴官に求められるスキルは作戦立案の統括及び情報収集の統括。
理屈だけではなく実地、つまり実戦を経験している必要があるポスト、貴官では経験不足と国連は判断しました。 しかし司令は国連軍からの新たなる人材派遣を拒否。
よって貴官にはアジア一の激戦地、中朝国境付近及び黄金の三角地帯で、対北朝鮮ゲリラの掃討作戦並びにアジアンマフィア壊滅作戦で経験を積んで貰います
これは国連軍の、最大限の譲歩であり、上位機関よりの命令です」

「ハア(遺書、書いとくか)、了解いたしました、ハルパス少佐」


各地で、堕天使達の暗躍が続いていく。

そしてここでも。


『議長、これは本当ですか?』

『うむ、紫禁城の地下倉庫内から、つい先日発見されたらしい』

『死海文書の対訳表、さらには新しい死海文書ですかな?』

『これを信じるなら、碇 ユイ博士の訳は誤訳だらけですな』

『それだけではない、補完計画など、まるで見当違いな計画ですぞ?』

『おそらくこの対訳表は正しい。 矛盾点が無い』

『それに引き換えユイ博士の訳は、おなじ字が別の意になることがある』

『しかしこれは運が良かった』

『議長? どういう意味です』

『このままならば、財産を食いつぶして全人類集団自殺にまっしぐらであったわ。
それをせずに、子や孫に全てをゆだねられる・・・・・・人類の未来を憂いたのがSEELE創設の意思。
そこに立ち戻ろう』

『そうですな・・・・・・』






碇 シンジ生誕と共に、歴史は動き出している。







To be continued...


(あとがき)

つたない駄文を、勢いに任せて書いてしまいました・・・・・・
え〜〜、シンジ君があれですけど、次から元に戻ります。
だいたい十四年の歳月をかけて築き上げた性格が、早々変わってたまるもんですか。
一時の気の迷いです、はい。
さらには天使達の尻にしかれるでしょう、彼なら・・・・・・
天使については、全員女性です、今は。
理由は、『生命の最終進化形態は命を育める女性型。 性転換できる魚が雄から雌に変わるのがそれを示している!』なんて説をどっかの小説のあとがきで読んだことがあるもんで・・・・・・
それと更新遅いでしょうが、見捨てないでくださいね。
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