リターン・オブ・エンジェルズ

第壱話 戦乱の開幕

presented by クマ様


NERV本部・発令所

『目標は依然健在。第三新東京市に向かい進行中』

『航空隊の戦力では、足止めできません』

発令所に次々と届けられる悪い報告。

「総力戦だっ!! 厚木と入間も全部あげろっ!!」

「出し惜しみは無しだっ!! なんとしてでも目標を潰せっ!!」

興奮のあまり戦自の指揮官2人が叫き散らし、1人が無言で持っていた鉛筆をへし折った。

「なぜだっ!? 直撃のはずだっ!?」

「戦車大隊は壊滅・・・・・・。誘導兵器も砲爆撃もまるで効果無しか・・・・・・」

「駄目だっ!! この程度の火力ではラチがあかんっ!!」

次々に舞い込む悪報に苛立ち、苦虫を潰した様な顔で既に山盛りとなった灰皿へ煙草を押し付ける指揮官達。

「・・・・・・やはり、ATフィールドですか?」

「ああ・・・・・・。使徒に対し通常兵器では役に立たんよ」

司令席の様子を鼻で笑っていた中年の女性・赤木 ナオコ『副司令』が、傍らに座る悪趣味な顎髭に赤いサングラスの男・碇 ゲンドウ『総司令』に話しかけると、ゲンドウはサングラスを押し上げてニヤリと厭らしい笑みを浮かべる。

「クッ! やはりATフィールドとかいう代物があるのか!? このままでは、事務総長と安保理が、N2の発動を命じてくるぞ!?」

「民間人を巻き込んでは、戦自の名折れだ、何としてでも止めろ!」

「「!!」」

この発言に目を見張る二人。

それはそうだろう、NERVの最高機密、使徒とエヴァにしか展開できないATフィールドの情報は、人類補完委員会とNERV、そしてSEELEしか知らないはず。 多少の情報漏れは覚悟しているが、それとてダミーを織り交ぜてあるため、いまだ検証段階のはずで、彼らレベルにまでは伝わってないと踏んでいたのだから。

「司令、これは・・・・・・」

「セキュリティはどうなっている!
保安諜報部の、防諜課課長は厳罰だ!」

実際のところは、(NERVが公開しないため)某組織から国連軍へ、極秘裏に直接データが転送されており、現場指揮官レベルでの情報のやり取りで戦自側にも伝わっていた。

もっとも戦自の指揮官は、実際に見るまでまるで信じていなかったが・・・・・・

後のことになるが、ゲヒルン時代に冬月がヘッドハントしてきた有能な、洞木という名のこの防諜課課長、人件費以外には消耗品を揃えるのがやっとの予算しか与えないのを棚に上げ、責任のみを追及して彼等曰く正当な(常識的に見て不当極まりない)三佐からの二階級降格及び大幅な減俸(親子四人が暮らしていくのが到底無理なくらい)処分を下した司令部に激怒、あっさりと他の企業にヘッドハント。 さらにそこから某所に出向して、NERV本部に対して牙をむくことになる。

そしてその頃、地上ではゲンドウにとっての予備部品であり、初号機を目覚めさせる起動キーに過ぎないはずの少年、実際にはこの世界を統べる管理者である神、碇 シンジが、NERVに到着した。






暫く前

非常事態宣言が出されたばかりの頃、誰もいない第三新東京市を疾走する一台の車があった。

葛城ミサトのルノー・アルピーヌA310を思い浮かべた方、そんなことがある訳がねえ! 牛こと葛城 ミサト作戦部長(公称)は今現在、飲みすぎて夢の彼方だ。

そこを走っていたのは黒いフォード・マスタング・コブラ。 1970年代の、アメリカンスポーツカーの名車が走っている。

そのコクピットに納まっているのは、詰襟の、漆黒の服を着た十四、五歳くらいの黒髪の、少女と見紛う美少年であり、ナビシートに納まっているのは十六、七歳ほどの黒いメイド服を着た金髪の美少女。

いわずと知れた碇 シンジであり、少女はなんとミカエルだったりもする。

「シン様、待ち合わせ場所には行かなくてもよろしいのですか?」

「ああ、どうせ来やしないよ。
来ても大幅な遅刻だろうし、それに非常事態だよ? 一刻も早くNERVに駆け付けるべきだよ」

「ですが、ルーシー達の暗躍で歴史は変わってきています、もしかしたらということもあり得るのでは?」

「絶対無い!」

面白くもなさそうにそう言い切るシンジ。

逆行後、数人の軍人と交流を持ち、その常識を改めて体験し、さらにはそれは軍属経験者にとっては当たり前以前の常識であり、本能のようなものだという事をまざまざと見せ付けられ、ミサトにはもはや蚤の爪の先の欠片ほども期待をしなくなっていた。

事実ミサトは今現在酒臭い息を吐きながら鼾をかいて夢の中なのだから、断言するだけの価値(?)はある。

それでもやはり気になるのだろう、心配そうな顔をしてシンジに問いかける。

「ですが兆が一ということもありえます、一度行ってみた方が」

・・・・・・1000000000000分の1の可能性しかないらしい・・・・・・

「大丈夫、その可能性が、僕が以前のシンクロシステムのままで、初号機を起動させることが出来る可能性と同じくらい低いとしても、完全にゼロというわけじゃないからね、その為にルーシーには待ち合わせ場所に行ってもらったんだ
まあ僕特製の十字架を持っていったから、あの牛が来るかリツ姉が外しに来るまで、待ち合わせ場所で待ちぼうけかな?」

少々気になることを行っているが、つまり時間どうりに来るあてほとんどゼロな場所に、そのルーシーという人物を、行動を縛り付ける何かを持たせて向かわせた、ということだろう。

そんなシンジをやはり心配そうに見ているミカエル。

「大丈夫だよ、肉体を得たとはいえ、彼女はルシフェルだよ? 最強の堕天使が、たかが天使の模造品ごときに易々とやられたりはしないよ、痛い思いはしても。
これは今日がどんな日か知っていながら、寝込みを襲っていつもの騒動を起こした罰だよ」

その言葉に赤くなって俯いてしまうミカエル。 いつもの騒動、つまりシンジの寝込みを襲ったルシフェルを見たミカエルが、『シン様もルシフェルも、不潔よ〜〜!!』と屋敷内を暴走、シンジに取り押さえられるまで当たるを幸いなぎ倒しまくったのだ、天使達を。

その頃ルシフェルは、待ち合わせ場所の第三新東京駅で一人呟いていた。

「フッフッフ、この私を待たせるつもり? それともこれは放置プレイ? 私はマゾじゃないわ、そう扱っていいのはシン様だけなのよ? 葛城 ミサト。
呪ってやる、呪ってやる、呪って・・・・・・」

最強の堕天使の呪い、さぞ効果が・・・・・・あるんだろうか、あの牛に・・・・・・

「しかし、前回はあんな手紙でよく来る気になったものだよね。 今回なんかもうちょっとで無視するとこだったよ」

そういって遠い目をしだすシンジ。






それは一週間前のことだった。

京都郊外にある碇家敷地内にある碇 シンジ邸。 祖父シンゾウ邸の隣にある、一見したところ高級旅館か何かにしか見えない邸宅に、一通の手紙が舞い込んだことから始まった。

実はシンジ、四歳で捨てられるまではゲンドウの許で暮らしていたのだが、捨てられるとすぐに京都に直行し、祖父の許に身を寄せたのだった。

祖父とは暫く一緒に暮らしていたものの、大量の天使や堕天使が入れ替わり立ち代りやってくるため、ゆっくり会えるようにと本来はユイの新居にと建ててあった離れ(?)にシンジを住まわせた。

前回のシンジの養育係とどこが違うと思った方、全然違います。 なんせシンゾウ氏は、暇を作ってはシンジに会いに行っている、と言うよりも入り浸っている。

そのシンジ邸にいきなり届いた『来い  ゲンドウ』の手紙。

はっきり言って全員が首をひねった、シンジさえも。

ここで暮らし始めてからのシンジは、祖父を心配させないために、(偽名を名乗って)積極的に外に出て友達を作り、満ち足りた生活と(天使、堕天使相手の)性活を送っていたため、ここ数年この手紙とゲンドウの存在をころっと忘れていた。

そのせいで性格が(表面上)以前のものに近づいている、明るくなったが。

その為この手紙を、過去に雇った情報屋か何かからの暗号と勘違い、誰が雇ったのか?とかどう解読すればいいのか?とかを真剣に考えていた。

もっとも大半の天使たち(書くのが面倒なので天使達は天使のみ、天使たちは天使、堕天使ひっくるめ)は、一緒に送られてきた葛城 ミサトの二枚の写真を見て、自分の胸と見比べて殺気を放っていたのだが・・・・・・

ちなみに天使たちは、ほとんどの者達がバストサイズが小さい。 というのもシンジのベッドor布団占有率60%を誇るミカエル(就寝時、起床時はルシフェルの70%)が小さめながらバランスの取れたプロポーションのため、他の天使たちが小ぶりかつバランス重視の体形に変えた為だ。

実際シンジは、ミサトのせいでへんな偏見を無意識下に持ってしまい、巨乳を嫌う傾向がある。 にもかかわらずミサトの写真を熱心に見ていたシンジに、天使たちが『やはり大きい方が良かった!?』『でかいだけの分際で、シン様を誘惑するつもり!?』と、暴走状態になっていた。

後にこの写真、複製が大量に作られて、堕天使特製呪いの五寸釘の餌食になる。

結局は一週間もの間思い出せず、つい昨日シンゾウが『そういえばこの男、シンジの遺伝子提供者であったわ!』と言い出したことで、この手紙がシンジを呼び出す為のものである事を思い出した。

そして今日、朝一で出発、使徒が来る前にNERVに殴り込みを!と意気込んでいたのだが、前述の通り、いつもの騒動のため出発がかなり遅れて非常事態宣言の中車を走らせている。



暫く車を走らせることに集中していたシンジは、何を思ったかミサトが送ってきた写真を取り出し、それを眺め始めた。

別に意味があった訳ではなかったのだろうが、一応は楽しい思い出もあった前回の生活、それを思い出し自然と顔が和んでくる。 別に無視し続けるだけで、苛めるのはやめようかな?などと考えていたのだが、ふと視線を感じ横を見て、慌てた。

「ミ、ミカ!? どうしたの!?」

目にした光景、それは小さく震えながら、瞬きもせず、声も出さずに涙を流し続けるミカエル。

「・・・・・・私では代わりになりませんか? やはり大きくないとダメなんですか? 小さくても精一杯がんばりますから、どうかお傍においてください・・・・・・」

「ち、ちょっと、ミカ、落ち着いて!」

キ〜〜〜ッ!!

急ブレーキをかけ、慌ててミカエルの頭を抱きしめるシンジ。

「ミカは代わりなんかじゃない、ミカはミカだ、ミカじゃないとダメなんだ! 大きくないとダメとか、小さいとかはよく分からないけど、ミカに傍にいてほしいんだ!!
(おのれ、葛城 ミサト、何が原因かは分からないけど、牛のせいに違いない!
たかがアル中ビヤ樽廃牛BSEホルスタインの分際で、僕のミカを悲しませたな〜〜! 絶対不幸にしてやる! 苛めてやる! 貶めてやる〜〜!!)」

この時ミサトは、寒気を感じて目を覚ましたらしい。

実はミカエル、バストサイズにコンプレックスがある。 自分と同等の力を持つルシフェル、同格のガブリエルやベルゼバブと比べると、思い切り小さいせいだ。

別にシンジは気にしていないが、シンジの心の奥底に触れ、シンジに従うことを受け入れ、シンジを愛し始め、外見相応の乙女心のようなものを持ってしまったミカエルにとって、『やはりシン様に御満足いただく為には、もっと大きくなければいけないのでしょうか?』などと悩むことしきりだった。

しかし心の叫びを見ても分かるが、相変わらず鈍感ではあるものの、実際のところ、京都ではおしどり夫婦だの碇のバカップルだのと言われ、見る者全てを辟易させていた。

ちなみのこの二人、どちらもまだ告白していない。 そのものずばりなセリフを言っているが、それを告白とは思わず、双方メイドとして付き従っていると思い込み、それを内心寂しがっている。

まあとにかく必死になってなだめた結果、ミカエルが落ち着き、(けっこうディープな)キスをしてシートに座りなおしたとき、二人の心に触れる者がいた。

『シン様、ミカエル、よろしいですか?』

『ベルゼバブ? どうしたの?』

『例の少女を発見しました。 ただ状況が・・・・・・とりあえずご覧ください』

例の少女、つまりは鈴原 トウジの妹、ナツミのことだった。

前回のサキエル戦でナツミが重傷を負ったことにより、その治療を取引材料にトウジが参号機に乗っている。

参号機は既に手を打ってあるものの、助けられる人は助けたいと思い、裏方大好きのベルゼバブに保護を頼んだのだが、何かあったらしい。 彼女の視界が脳裏に浮かんだ途端、二人は絶句した。

『『なぁッ!!』』

そこに浮かんだのは、確かに以前写真で見た少女・鈴原 ナツミだった。

しかしその姿は無残だった。 着ていた服は引き裂かれ、体にまとわり付いているだけ、体中に白い粘液がまとわりつき、一部には血も付いている。 その目は開かれていても瞳は何も映さず、何が行われたか一目瞭然だった。

『簡単なDNA検査の結果、犯人数人の身元が割れました。
あの髭が他人の後で満足するとは思えませんので、最初に犯したのは髭でしょう。
犯人の内二人は、この少女を瓦礫の中に埋めようとしていたので、死なない程度に後悔してもらっています』

つまり、十歳の少女を(おそらくは)朝いちでさらってきて事におよんだらしい。

犯人という足元で痙攣している二人、黒服を着て怪しいことこの上ない。 さらにその足元に散乱する所持品の中には、NERV保安部員のIDカードが。

『・・・・・・ベルゼバブさん、髭以外の犯人の始末、お願いします。
決して殺さず、精神崩壊も許さず、その魂が消滅するまで責め続けてください』

『了解です』

おなじレイプ被害者、思う所はあるのだろう。

『記憶の改竄と、傷の再生も頼むよ。 初めては好きな人とがいいだろうから』

『はい・・・・・・』

「・・・・・・クククククク、クク・・・・・・、髭、僕の意思を踏み躙ったね? 僕が助けようとした人を穢したね? 貴様は許さん!」

こちらは今の恋人に、過去に同じ事をしてしまった者として、思う所があるのだろう、凄まじく重い言葉だった。 自分勝手な怒りが混じっているが。

その言葉と共に、車は走り出した。






ふたたびNERV本部。

戦自の指揮官達の発言に防諜課課長の厳罰を決めた直後、正面ゲートの守衛所から発令所に連絡が入った。

「司令、正面ゲートに碇 シンジと名乗る少年が来て、司令に会わせるように言っているそうです」

「なんですって!? 葛城一尉が、時間どうり動いたの!?」

このセリフに副司令が目を丸くし、報告を入れてきた名も無き一オペレーターに問いただす。

「いえ、少年と、少し年上のメイド服の少女の二人だけだそうです」

「分かりました、保安部員を数人向かわせなさい、シンジ君のみ確保、その少女については保安部員にまかせます。
司令、私が行ってまいります」

「任せる」

この状況下での即断即決即行動は立派だし、保安部員の派遣はやるべきだろうが、ここの保安部に任せるとどうなるか、分かっているのだろうか?

とにかく急いで正面ゲートに向かうナオコ。

彼女が消えてからすぐ、今度は作戦部の副部長(国連軍のゴリ押し)日向 マコト二尉が、あきれきった様子で声をかけてきた。

「司令、葛城作戦部長から、ジオフロント直行のカートレインを寄越す様に言ってきています」

「・・・・・・(赤木君はいないんだったか)今、どこにいる?」

「ステーションの先およそ一キロの地点です」

「・・・・・・減俸五%三ヶ月。 カートレインを準備、到着次第ケイジヘ連行(フッ、ケイジヘ逝くか)」

そういって席を立つゲンドウ。

「「了解」」

総務部から勤務評価に来ていた職員と、ものの見事にハモった。

所変わって正面ゲート。

駆け付けたナオコの見た光景は、受け入れ難いものだった。

「こ、これは?」

「厭らしい目つきと仕種で、私の胸を触った上、さらおうとしたので抵抗させていただきました。
正当防衛の範囲内と解釈いたします」

そう答えるミカエルの周りには、間接が増えていたり口から血を流したりしている保安部員がおよそ一ダース。

「これはやりすぎよ、第一あなたは何者? ここにはシンジ君以外呼び出していないわ」

「碇家のものが、あれに呼ばれて一人で来ると思いますか? ミカは僕専属のメイド兼護衛です。
ついでに言いますと、これはあくまで正当防衛です。 ミカの胸をつかんだ手を払ったら、抵抗するか、とか、抵抗できない女を犯るのもいいもんだ、とか勝手なこと言って、スタンガンを取り出したんですよ?」

なるほど確かにスタンガンが数丁落ちている。

ちらりと守衛所内を見ると、守衛達が苦りきった目で保安部員を見ている。 どうやら事実らしい。

ナオコはここで機嫌を損ねるのはまずいと判断し、仕方なく二人を誘導することにした。

「ここではなんだから、とりあえず中に入ってくれるかしら?
私は赤木 ナオコ、ここの副司令兼技術部長をやっているの。 シンジ君、あなたのお父さんの部下に当たるわ」

「何か勘違いをしているようですね? 僕に父はいません、いるのは遺伝子提供者です。
さらに言えば、あの男は、碇家の財産を横領しておきながら、返還命令を無視し続けている犯罪者ですよ」

「!? と、とにかく、司令に会ってほしいの、来てもらえるかしら? あ、ミカさんだったかしら、ここからは関係者以外立ち入り禁止なの、あなたはシェルターに行ってもらえるかしら」

その言葉を聞き、無言で視線を交わすシンジとミカエル。 ミカエルは一つ頷くと、ナオコに話しかけた。

「赤木さん、でしたね? 関係者以外立ち入り禁止というのなら、シン様も関係者ではありません、非常事態宣言が解除された後再訪致しますので、シン様は私と一緒にシェルターに避難します。
シェルターへ案内をお願いできますか?」

知らない人が常識的に考えて、正論だ。

しかしここでシンジにシェルターへ行かれては、ナオコが困る、そしてゲンドウが困る、何より人類が困る、はずだ。 慌てて返すナオコ。

「いいえ、シンジ君は司令の御子息ということで、許可が出せるのよ。 けど碇家のメイドというだけのあなたにはそれが出せないの。
そう云う訳だから、あなたはシェルターに行ってくれるかしら?」

物分りがいいと助かるわ、という感じの話し方だが、そんなことは関係ない。 あくまでも丁寧に、最後通牒を出す。

「そうはまいりません、私は碇家親族会議より、シン様の御意思なき場合は常に御身の警護を成し、シン様の遺伝子提供者氏との会話、交渉を余さず伝えるよう厳命を受けております。
もしこれを無理やり妨害された場合は、碇の全血族が、全力を持ってNERVを取り潰すそうです」

実は碇家、財団としてはそれ程の物ではない。 アジア有数ではあるものの、最大というほどの規模でもなければ、独占企業というわけでも(一応は)ない。

碇の真の恐ろしさは、血縁。

前回のときはゲンドウが知らなかったために離散してしまったが、碇宗家を中心とする分家、血族は世界中の政財界、さらには貴族、王族にまで広がっている。 実のところローレンツ家にも遠縁が入っている。

碇を敵に回す=世界中の政治・経済を敵に回すということだ。 だからSEELEも、碇に一目置く。

シンジが微笑みながら聞いている以上、これは本当のことなのだろう。

「・・・・・・仕方ないわね、二人とも来てくれるかしら」

ナオコは敗北を認めざるを得なかった。

「じゃあミカ、行こうか」

「はい、シン様」

そうしてナオコ、シンジ、サキの順でケイジにむかった。



・・・・・・クックックッ・・・・・・クックックックッ・・・・・・クックックッ・・・・・・

ケイジヘと向かう道中、ずっと聞こえ続けるシンジの笑い声。 抑えたくても抑えられないようだ。

(さあどうする? 僕は来た、しかし僕の精神は弱くない、更にはユイなんかは必要ない。
僕にはミカがいる、ルーシーが、ガブリエラがいる。 呪われた騎士シバレース達も僕とは親友だ。
さあ髭、どうやって僕の精神を壊す? 僕は強いよ? 彼女達も強いよ?
僕を楽しませて見せてよ、僕の復讐に華を添えてよ、ネエ、オトウサン?)

そう思いながら、ニヤリと笑うシンジ。 ゲンドウ以上に不気味だ。

こんなことを考えているから、無意識のうちに、ここ数年かけらも出さなかったドス黒い威圧感をあたり一面に振りまいている。

前後の二人はというと

(何、何なの、この威圧感は!?
この二人、ほんとに親子? 司令のエセプレッシャーなんかじゃない、本物のプレッシャーよ?
これが碇の血なの!?)

(シン様、落ち着いてください、逝かないでください、戻ってきてください、私の優しいシン様でいてください。
逝ってしまわれるなら私も連れて行ってください)

二人とも真っ青だが、頭の中は別々だ。 特にミカ、何気に所有権を主張している。

それにナオコ、エセプレッシャーって、見抜いてらっしゃるし。

ともあれこのプレッシャーに耐えかねたナオコ、本来通す予定のなかった幹部専用通路を使ったため、LCLの上の船旅はなしであっという間にケイジに着いた。






ようやく、と言うには早くに着いたエヴァケイジ。 お約束のように真っ暗だ。

シンジは思い出したのだろう、威圧感を和らげ、微笑を浮かべているが、何も知らないミカエルは、つい疑問を口にしてしまった。

「どうしてここは真っ暗なんでしょうか?
節電ですか? たしかNERV本部は、全NERVの予算を一括して受け取りながら一ユーロどころか一銭たりとも支部には予算を出さないと聞いております。 人が来るのが分かっていながら照明すら節約するとは、いったいどこに予算を使っているのですか?
それとも今どき四流映画でも使うのを躊躇うような演出ですか?」

周りから、整備部所属の職員達の、なんとも言えない気配が漂ってくる。

実はつい先ほど、ゲンドウの命令で照明を落としたところだったのだから。

「れ、連絡が行き届いていなかったようね、今つけるわ」

突如として明るくなるケイジ。

そこにいた紫色の機神を見て、シンジは呟いた、誰にも気付かれることなく。

「久しぶりだね、初号機、そして碇 ユイ。
残念ながら君の活躍はなくなったよ。 僕がシンクロする気ないからね。
すぐにそこから出してあげるから、待っててね」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・これが、NERVが開発した汎用人型決戦兵器エヴァンゲリオン、その初号機よ」

「それで、その初号機とやらがシン様の遺伝子提供者なのですか?」

『そうだ!って今なんと言った!?』

「いくらシナリオだからって相手のセリフくらい聞いてから言いなさいよ・・・・・・」

「? シン様の遺伝子提供者に合わせるといって連れて来られ、会わされたのがその初号機、と言うことは、初号機がシン様の遺伝子提供者なのでは? それで、そちらの方はどなたですか?」

「NERV総司令、碇 ゲンドウ。 シンジ君のおと、遺伝子提供者よ」

「・・・・・・イマ、ナントオッシャイマシタ?」

「え?」

今の今まで、完全無欠のメイドぶりだった少女の、突然の変化、目は空ろだし、小刻みに震えている。

「あれがシン様の? シン様の可能性? あれが?」

「ちょっと、ミカ? どうしたの?」

「あれがシン様の将来!? 私のシン様がああなってしまわれるのですか!?」

「「・・・・・・」」

同時に見上げるシンジとナオコ。

「・・・・・・その可能性は、高いわね・・・・・・」

「「いや(だ)〜〜〜〜〜!!」」

「私だって信じたくないわ。
こんな美少年が将来はグラサン髭怪人?
いえ、母親似の可能性も、いえ、そうに違いないわ、今からつば付けとこうかしら・・・・・・」

かなりひどいセリフ。 ナオコまでけっこうひどいセリフを呟いてる、て言うかナオコってもしかしてショタ?

『(怒)出撃!』

「(グシャッ! ギャアッ!)待ってください司令、零号機は凍結中です、まさか初号機を使うおつもりですか?」

「・・・・・・ブツブツブツ、ふふふ、お姉さんが優しく教えてあげるわよ・・・・・・」

『外に方法はない!(クッ! なぜシナリオ道理喋らんのだ、ナオコ!)』

ゲンドウ、そして突如ケイジへ連行され、入るなり出番とばかり、連行してきた保安部員を踏み潰して叫ぶミサト。 ナオコは未だにショタモード。

上と下ではゲンドウのシナリオ(無軌道アドリブバージョン)を進めているが、助演女優と助演男優、イレギュラー女優はまったく別の、遺伝の脅威やら将来像やら明るい家族計画やらに思考が移っている。

そしてついにお約束のセリフが、ゲンドウの口から飛び出した。

『乗るなら早くしろ! でなければ帰れ!』

『医療班、レイをつれて来い』

『了解』

レイの状態を知るミサトが、慌ててシンジに詰め寄る。

「シンジ君、乗りなさい」

「へ? ああ、良いですよ」

「逃げちゃダメよって、へ?」

あっさり承諾されて拍子向けするミサト。 う〜ん、間抜けヅラ。

「い、いいの?」

「ええ、何か乗らないとまずい事になりそうですし、条件次第で乗りますよ(そのほうが面白そうだし、ククク)」

「そ、そう、アリガト」

こんな会話を無視して、ゲンドウの阿呆なセリフが続く。

『葛城君、臆病者に用はない!(フッ、シナリオ道理だ)』

このセリフに切れた人物約一名。

「臆病者? 十四歳の子供に会うのに、これだけの距離を置き、サングラスと視たところ強化ガラスですか?そんなものを挟み、スピーカ越しでなければ会話も出来ない極めつけの臆病者に、シン様を臆病者呼ばわりされるいわれはありません!」

確かにそのとうり。

そして凄まじい(ゲンドウ、ミサト感覚)視線をゲンドウにむける。

そのプレッシャーに逃げ腰になるゲンドウ。

そんな時、レイが運び込まれてきた。 これをチャンスと見たゲンドウ、ミカエルの事を無視して話を進めることにしたらしい。

『レイ、予備が使えなくなった、もう一度だ。』

「は、はい」

そう答えると、弱々しく起き上がろうとする包帯姿の少女。 そのとき

ド・ドオーーーーン!!

「ウワアッ!」(シンジ)

「「キャアッ!」」(ミカエル&ナオコ)

「アウッ!」(レイ)

「「「「「「ウワアアアーーー!」」」」」」(整備員一同)

「にょえ〜〜っ(ズデッ!)プギャアッ!」(ミサト)

『むおおっ!や、奴め、こここ、ここに気付いたか!?』(ゲンドウ)

突然の轟音と振動に、それぞれがそれぞれの悲鳴を上げる。

ゲンドウなどはどもりながらもシナリオ道理のセリフを入れているが、実は気付いた訳ではない。

今まで真っ当な戦自指揮官達が必死になって止めていた事態、つまりはN2爆雷が投下されてしまったのだ、事務総長直々の命令で。

そしてこの振動で、彼等の眼前で惨劇が起きる。

ガコンッ! ヒューーーーーーーーーッ、グチャアッ!!

ゴトッ! ゴロゴロゴロ

「「『・・・・・・レ、レイ!』」」

「シン様?」

「ミスったね。でもこれ以上苦しまずに無に帰れたんだし、良しとしようか」

周りから人がよってくる中、小さく囁き合いながら、ミカエルは足元に転がってきた少女の頭部を抱き上げると、悲しそうに目を瞑り泣きはじめる。。

そんなミカエルを気遣いながら、シンジはゲンドウに向かって言い放った。

「条件次第で乗ってやると言っているのに、貴様は何をトチ狂っている! 
人の話を聞かず、事前に必要な情報を集めずに作った、自分勝手な思い込みと、自画自賛の自己中心的で、独善的かつ自己完結、実情に合わずに修正の余地のないシナリオに拘るからこんなことになる!
良いか、ゲンドウ、貴様が自腹で五千万ユーロ払うなら乗ってやる、即答しろ!!」

何気に傍にいる人たち以外に聞こえないようにユーロと言っている。

「も、問題ない」

「(ニヤリ)良いだろう、五千万ユーロ(一円=二百十円)、後できっちり払ってもらうぞ!」

『な、何い!』

五千万ユーロ、しめて千五十億円也。

「さあ、どうすれば良い?説明してもらおうか」

『あ、赤木博士に聞け』

ゲンドウ、既に目が空ろ。

ちなみにこの金額、ユイの遺産の総額だったりする。

「シンジ君、来てくれるかしら」

こうしてシンジはエントリープラグに向かった。

「ククククク・・・・・・ヤッてやろうじゃないか。ネエ、みんな・・・・・・」







To be continued...


(あとがき)

なんとか、一週間で書きあがった・・・・・・
仕事忙しくなったんで、次は無理だろうな〜
今回シンジとミカエルをラブラブ状態にしましたが、あくまでクマはハーレム派です。 そのうち潜り込んでくる者、シンジが引き込んじゃうものなどがいます、絶対に。
た〜だ〜し、レイやアスカはハーレム入りしませんので期待しないでね。
それとレイ、ちゃんと生きてますんでよろしく。
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