ヱヴァンゲリヲン新劇場版 〜ASKA REVERSE〜

Again〜序

第壱幕

presented by マルシン牌様


世界は終末を迎えた。最悪なのか、それとも最善の結果の末だったかは人それぞれ違う。
その中で生き残ったのはたったの二人。その二人は男の子と女の子だ。さしずめ、アダムとイヴの状況に酷似しているとも言えなくもない。
何故このような世界が生まれたのか。それは、どうしようもならないほど矮小な人間達による身勝手な欲望によって引き起こした人災に他ならない。
二人はその生き残りの被害者だ。他の億万人の生命は赤い海へ溶け合い一つになった、その矮小な人間達が改悪した計画を実行した結末でもある。


『人類補完計画』というモノがある。その内容を噛みくだいて説明すれば、全ての生命を一つの輪に括り付け、
その後、新たな生命を一個の個体として昇華させようとしたのだと考察できる。要約すれば、神になろうとした人類の業である。
その決意をせざるを得なかった人間達の気持ちも判らなくもない。だが、しかしやはりこれは罪、彼らに課せられるべき業ではなかった。
しかし、当時の彼らにそのような計画が裏であったなど知らずこの結末を迎えた。




見渡す限りの赤い海。その海に面した砂浜には一人の少女が今にも少年に手を掛けられそうになっていた。
『気持ち悪い』と少年を諭し、ふと自我を取り戻した少年が涙を流しながら少女を抱きかかえている。抱きかかえられた少女は少年に呟く。

「何いつまで泣いているのよ」

「ごめん、ごめんよ、アスカ…助けに行けなくて…僕が弱いばっかりに…こんなことになって…」

「救いようがないのはあのバカ老人と総司令と副司令だけだわ。私たちはその駒で、被害者なの。判っているでしょ?」

そのアスカと呼ばれた少女が何とか少年を落ち着かせようと試みるものの、その少年が負った傷は予想以上に深かった。
少女もまた包帯を各所に纏って痛々しい状況であるが、今は特殊な環境の中であったようで痛みなど無いらしい。
ただ一つ彼女に欠損があるのは片目を失っている事だろう。彼女はこの結末が起こる直前まで死闘を演じていたのだった。

「シンジ、もういいわよ。謝ったって彼らは還ってこないわ。私たちは特別な存在になったのよ。
これはあのバカ老人達の想定外、イレギュラー。ある意味彼らの目的は瓦解して成功しなかった。その結末を迎えたのが私たちの運命だったって事よ」

前の彼女では考えられない前向きな姿勢だ。彼女は既に過去を克服しているのだ。
この惨劇中、あの原初の海と呼ばれる赤い海の中に一度は溶けた身であり、その中で全ての事実を知った。
暗い過去を乗り越えたその少女は前よりも強くなったともいえる。

「アスカは…アスカは僕を憎まないの?こんな世界にしたのは僕の責任なんだよ?」

「バカな事は云わないの。なんでアンタを憎まないといけないのよ。私だってあの原初の海へ一度は溶けた身。
ある程度アンタの事情はあの世界で知ったわ。でも確かに、前は憎んでいたというのは本当。
でもね、今はそんな事どうでもいいの。何よりアンタの事…好きだったし」

「え?」

「ま、それも儚い夢に終わっちゃいそうだけど…安心しなさい。アンタは此処で終わりになるわ。
シンジ、例えばこの中の誰かが過去に戻ってこの世界のような結末を回避することが出来るならどうしたい」

アスカが突拍子もないことを口にした。そんな彼女に目を見開いてシンジは戸惑っていた。

「えっとそれって…どういうこと?」

歯切れの悪いシンジに呆れながら彼女が吠えた。

「アンタバカァ?今の私たちは人類を超えた使徒と同義の存在なのよ?一八使徒リリンが覚醒した状態。
ミサトから聞いているでしょ?それにアンタは依代とされた唯一無二の存在でもあるわ。
第二使徒、第一七使徒の遺志を体内に宿した第一九使徒でもあるの。そんなイレギュラーが存在するっていう事判っている?」

「それはそうだけど…まさか」

ふとシンジは思いついてしまった。この二人と世界の状況を打破できるであろう秘策ともいえる術を。

「アスカはもしかして…そのやり直しをしたいって言うの?」

「ええ、そうよ。ただし、この場での儀式になるとフォースインパクトを起こせるような状態ではないわ。
だから対価ってのが必要になるわね。それをアンタにやって欲しいのよ」

その唐突な願いに愕然とするシンジ。彼はアスカと共に戻るという選択を見出していた。
だが、アスカが言った通り現状それほど大きな現象を引き起こせることなど不可能に近いのだ。
となると選択肢に残るのはシンジのみであった。そう結論に達した途端再びシンジは涙を流す。
まさか相思相愛に成れたかと思った矢先である。こんな残酷な別れなど思ってもいなかったのだ。
しかし、アスカの決意は堅い。ならば最後に彼女の願いを叶えるべきだ。とシンジは思い、一つ頷いた。

「シンジ、お別れだね…今度は皆が幸せになれるような世界創ってくるから…見守ってね」

アスカはシンジに最後抱きしめながら呟き、光に包まれてこの世界を後にした。そして残ったシンジは呟く。

「アスカ…行って…らっしゃ…ぃ」

碇シンジの物語はここで終わった。彼は原初の海へ還ったのだった。




ヱヴァンゲリヲン新劇場版〜ASKA REVERSE〜 Again〜序〜

Image Classic マーラー交響曲第2番『復活』第二楽章

Image Sound 『Jリーグ・ディヴィジョン2所属 コンサドーレ札幌』 ホーム選手入場テーマ及び『グランツーリスモ』OPテーマから
      Andy's 『Moon Over The Castle』




無事アスカは逆行を果たした。しかしこれは無事にと云えるのだろうか。アスカは『来た場所を間違えたのでは』という感想を持ってしまう。
どこかの電車の中でふと目を覚ましたアスカは辺りを見渡した。

(あれ、ここどこ?ドイツじゃないわね…ってこの列車。第三新東京市行きのじゃないの)

そんなことを思っていると、車内アナウンスが流れる。その流れた言葉にアスカは焦り始めた。

(まさかこれってシンジが経験したサキエル戦の前触れ?そんなじゃ、私って今『碇シンジ』?)

案の定、思案にふけていると係員に諭され、列車から降ろされた。

アスカはふと思い出したかのように自身が持ってきたと思われる鞄の中を探る。
出てきたのはシンジが愛用していたカセットウォークマン通称SDATを始め、ネルフからの出頭状。(とはいえ碇ゲンドウからの『来い』という単純且つ明快な一言のみ)
とそれに添付されたネルフのIDカード他多数だった。そのIDカードと出頭状に書かれていた文面を見て驚いた。

(私の名前…『碇サクラ』って…この世界では女の子なのね。よかった、シンジのマネしろって云われたってそんな完璧に出来るわけじゃないし。
身体も全て『碇サクラ』みたいだし、どうしてこうなったのか判らないけど…仕方ないわ。碇サクラが私ならそれで行くしかないわね。
それにしてもよ…何でシェルターが近くにない駅に着く訳!司令のシナリオってほんと馬鹿げているわ。
いくら予備扱いの人物でも死んだら意味ないっての。ほんとシンジって天性の運があるのね。それにしてもミサト遅いわね…何しているのかしら。
非常時なんだからさっさと来なさいよね。それからこれね。この出頭状、なんなの喧嘩売っているの?碇司令って最っ低)

愚痴を零していると、戦闘機のターボバーナーの音があたり一面に響き渡る。

「始まったのかしら、避難しないと危ないわね。このあたりの建物で安全そうなのって…ないじゃない!!あ〜もう前途多難だわ」

サクラが明後日の方向を見やると、数十機の国連軍の戦闘機と共にサキエルが闊歩していた。
突如と響くミサイルの発射音とその弾道、ついにはサキエルへ当たるのだが、何もダメージが無い。

「あれにはATフィールドがあるんだし全く効果無しだわ。エヴァであの壁を中和してやらないと全く意味が無いのに。けど、時間稼ぎにはなるわね」

サクラが呑気に状況を見渡していた。そんな最中一機の戦闘機が墜落してくる。

(やっば!!こっちに来るし…あ〜こんな始まりの地で死ぬとか勘弁だわ)

その時漸く、一台のスポーツカーが到着する。

「ゴメン、お待たせ」

(ミサト遅刻していんじゃないわよ)

サクラは愚痴を思いながらも一つ頷き、助手席へ乗り込む、間をおいている暇はない葛城はハンドルを切って、その場から立ち去った。


特務機関ネルフ発令所には現在国連軍指揮官三名が代理で指揮を執っていた。しかし、なかなか思い通り敵を足止めできないでいた。

「総力戦だ。後軍の第四師団も全て投入しろ!」

「出し惜しみは無しだ。なんとしても目標を潰せ!!!」

それに呼応するかのように現場では先ほどよりも大量のミサイル類が掃射されている。様々な爆弾等を使ってなお、その敵は何もなかったかのような足取りで動き始める。
その様子をモニタ越しで見ていた国連軍の指揮官の一人は苦渋の表情と共に激昂した。

「何故だ!!直撃のはずだ!!」

「戦車大隊は壊滅、誘導兵器も砲爆撃もまるで効果無し…か」

「ダメだ、この程度の火力では埒が明かん!!!!」

その様子を後方で見ている二人の人影。一人は椅子に座って、もう一人はその座っている人物の横で補佐をしているように立ったままその国連軍の戦果を評した。

「やはりATフィールドか」「ああ、使徒に対し通常兵器では役に立たんよ」

そう発令所に居る国連軍指揮官らが焦り募るなか一本の連絡が入る。

「判りました…予定通り発動致します…」

上層部より連絡が入ったが、実行に苦慮する命令が下ったために苦渋に満ちた表情でその電話を切った。


安全地帯へ走らせたサクラを載せた車の中で葛城ミサトは敵と戦闘機のやり取りを双眼鏡で見ていた。
ふと観察していると戦闘機が敵から逃れるように去るのを見て取れる、その撤退の意図する事に気が付いた葛城は叫んだ。

「ちょっとまさか…N2地雷を使う訳!?伏せて!!!」

その葛城の叫びと共にサクラは慌てず伏せた。その上には葛城の体重もかかっている。

(ちょっとミサト重たいわよ?このミサトも結局はビールばっかり飲んでいるのかしら。まぁ今日は有事ってことになっているから酒臭くないわね)

国連軍のやりたい放題に半分現実逃避していた。

そのN2地雷と呼ばれる兵器は確かに凄まじいものがある。数Km離れたサクラ達が居る場所までその反動が襲ってくる。
車は何度も横転を繰り返す、その中でなんとか生き残ったサクラと葛城であった。
通常これほどの爆撃をうけたならば、それこそあたり一面は廃墟と化し生命は途絶えるだろう。しかし、この敵は違った。
格というかなんというか普通の生命体とは全く違ったのである。それを知らぬ国連軍の指揮官の一人は狂喜する。
更にはこれで安心したとばかりに皮肉すら云う指揮官も居た。

「やった!!!!」「残念ながら君たちの出番は無かったようだな」

出鱈目、規格外、敵にとってみれば想定外な爆撃。無論この爆撃によって機械であるモニタ映像は必然的に一時不通となった。その中で国連軍の指揮官は興奮を抑えきれないでいた。

「その後の目標は?」「あの爆発だ。蹴りはついている」

そう自信満々とばかりに指揮官は言うが、映像が回復した瞬間その自信は奈落の底へ突き落される。敵はある程度のダメージしか受けておらず健在だったからだ。
更には何か禍々しいほどに回復機能まで付与されたと感じる程。そんな映像の敵を前に国連軍の指揮官は各々に悪態をついた。

「我々の切り札が…」

「何てことだ…」

「化け物め!!!」

そんな中また新たに連絡が入る。後ろで座って待機をしていたこの組織の長が呼び出され、国連軍の指揮官と対峙した。

「今から本作戦の指揮権は君に移った」

「お手並みを見せてもらおう!」

彼らは憔悴しきった表情である。しかし、厭味ったらしくもある国連軍の指揮官の言葉に頷く組織の長。

「了解です」

「碇君、我々の所有兵器では、目標に対し有効な手段が無かったことは認めよう」

「だが、君なら勝てるのかね?」

その言葉に自信があるのかサングラスのずれを直しつつ宣言する組織の長。

「そのためのネルフです」




「特務機関ネルフね…あの父親が総司令をしているという、嫌な予感しかしません。大方私はあの敵と戦えっとか言い出すかしら?
あの父親の考えている事ってはっきり判らないのよね。それにタイミングが良すぎるわよ」

葛城の車はネルフ本部の車両専用のエスカレーターのような移動機械に入ったところで何となく呟くサクラに殆どが当たっていると冷や汗を流す葛城。
しかし、一応とばかりに持参されているはずである物の確認を取る。

「そういえばサクラさん、お父さんからIDもらってない?」

「ええ貰っているわ、このカードでしょ」

鞄を漁った時に出しやすいポケットへ納めておいたIDカードを葛城に渡した。

「ありがとう」

IDと共に差し出された乱れた紙の内容を見て一瞬嫌な顔をする葛城。紙の内容は『来い、ゲンドウ』ととても投げやりで雑な字で書かれたそれである。

「とりあえず、これでも読んでおいて」

今度は葛城から差し出された冊子『ようこそ、ネルフ江』と表題された物。

「これ読んでおけば何か役に立つんですね?」

ジト目で葛城を見るサクラはこの冊子は広報部発行の表情報しか載っていないことを良く知っていた。

(まぁ良いわ、今、下手に動きでもしたら怪しまれるし…それにしてもこっちのアスカも気になるわね)

半分流し読みに入ったサクラは別の課題を思い始めた。とそんな中でやはりジオフロントが景色として現れると反応しなければならない。

「へぇ〜ここがあのジオフロントね、地下にこんな大層な施設があるなんて普通は考えられないわね。
このあたり父さんに感謝かしら。こんな有名な場所に招待されるのだから」

「そう、此処が私たちの秘密基地ネルフ本部、世界再建の要。人類の砦となる所よ」

(とかいうけど結局のところは私たちは使い捨ての駒ってこと。
ミサト判ってないのよね、それなりに踊らされてみましょうか。時機が来たら行動に移せばいいのことだし)

ネルフ本部を見て少し驚いたのはサクラだった。

(ちょっとだけ本部が違うわね、若干大きさが大きくなっているかしら)

その違和感はエレベーターを見てからも思う事になる。

(エレベーターもちょっとだけ運転速度が速い…なんか変ね)

そんな思いをしつつも手許にある『ようこそ、ネルフ江』の冊子をのんびり眺めていた。
目的階に着いたのかエレベーターのベルが鳴る。 そして開くとそこに赤木リツコが居た。
丁度、相対した葛城は冷や汗を掻くことになる。実際問題若干の遅刻なのだ。そのあたりこの赤木リツコが黙っているはずは無く当然。

「到着予定時刻一二分オーバー。あんまり遅いので迎えに来たわ、葛城二佐。人手もなければ時間も無いのよ」

「ゴミン」

そのやり取りを間近で聞いていたサクラを不思議がった。

(ちょっと待ってよ、ミサトって一尉じゃないの?という事はこの世界、私たちが経験した過去とはちょっと違うのかも知れないわね)

「例の女の子ね。技術局一課E計画担当責任者、赤木リツコ。よろしく」

「あ、はい。よろしく」

(とりあえず、このあたり不安要素かもしれないわね。下手な動きさらにできないわ)

早くもアスカとして経験したことと差異が生まれたことで不安を持った現、碇サクラで在った。






To be continued...
(2011.10.01 初版)
(2012.01.14 改訂一版)
(2013.02.09 改訂二版)


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