ヱヴァンゲリヲン新劇場版 〜ASKA REVERSE〜

Again〜序

第弐幕

presented by マルシン牌様


発令所からサクラに会いに行くネルフ総司令である碇ゲンドウは右腕である冬月コウゾウへこの場を託す。

「では、後を頼む」

簡易のエレベーターのようなもので下階層へ降りて行った。それを見ていた冬月が呟く。

「約六年ぶりの再会か…ユイ君の性格を受け継いで居て欲しいものだ」

その冬月の懸念ははっきりと後に問題となった。碇ゲンドウと碇ユイの娘は突然変異の出来事として処理されてしまった結果により
ドイツに居る第二の適格者『式波・アスカ・ラングレー』にとても似ている少女として報告書の性格欄に載るのであった。


突然暗闇の中を歩くことになったサクラは内心ではワクワクしていた。

(シンジの乗っていた初号機に乗れる!!そしてサキエル速攻で潰してみんなを驚かせてやるんだから)

間違っても今のサクラは過去の教訓からプライドの殆どを捨て理論派の戦闘体としてやっていこうと考えている。
無謀な操縦はしないと誓っているのだ。そんな中で赤木の声はこの暗闇の中良く通る声と同時に反響し合った。

「碇サクラさん、貴女に見せたいものがあるの」

その赤木の言葉と共にいきなり照明が付くと目の前には顔である、それも想像以上に巨大である。
どんなに準備をした人間がそこに居ても必ずびっくりするだろうし、下手をすれば気絶物だ。
サクラも一応覚悟はしていたが、そのあまりの突然の事で地べたに座り込んでしまった。

(あはは、こりゃシンジ、幼い時に見ていたとしてもこれはいくらなんでも強烈ね。ったくこのリツコといい、司令といい、いい根性していんじゃない)

「葛城さんと赤木さん、そんな唐突に明かりつけないでよね。腰ぬける所だったわ」

サクラの反論に赤木と葛城は思慮が足りずに反省した。赤木としては本当に驚かせるためのシナリオだったのだが。

(この子、結構云うわね…それにしてもあの女にそっくりね…)

赤木にとってこのサクラは天敵である。この世界に似たような顔をもう一人知っているためでもあるが。

「人の造りだした究極の汎用人型決戦兵器人造人間エヴァンゲリオンその初号機。我々人類のとっておきの手よ」

「へぇ〜紫の巨人ね。で、これも父さんの仕事の一環ってわけ?」

半分興味が失せたかのような物言いに葛城と赤木はサクラを見やるがサクラが見ているのは上に居る碇ゲンドウのサングラスだった。
そんなわが娘の様子にたじろいだのは碇ゲンドウだった。

(サクラ…久しい割に冷めた目をして…何があった)

確かに何かが起こったのは事実だ。だがそれを知っているのは残念ながらサクラ自身。それ以外の人物に知る由など無い。
それが、いくら事前調査していたとしても。ただ、流石というべきかネルフという巨大組織の長である彼には瞬時に判るほど目があるようだ。

「そうだ。久しいな、サクラ」

ゲンドウはそういって威圧してみるも窓という壁がそれを半減させていた。意を返さずサクラは勝手に本題に入る。

「そうね、久しぶりね、何年振りかしら。正直言って何年ほったらかししていたかなんて興味はないわ。で、父さんは何の要件で私を呼び出したわけ?」

その言葉の裏に何があるかあまり関係が無いのかゲンドウは即断で告げた。

「出撃」

その言葉に呆気に取られ、サクラは苦笑する。

(シンジの親父ってどういう思考回路か気になるわね。けど良いわ。ここで駄々をこねていても始まらないわね。
土産として、貴方達にとっては驚愕もののシンクロ率を達成してやるわよ)

「ふ〜ん、結局あの外の化け物と戦えってのが父親の要件ってわけ。良いわ、その紫の巨人に乗ってあげる」

完全に乗らないであろうと考えていた葛城は驚いた表情を作り、また赤木は殊の外スムーズに乗ると宣言した少女に疑惑の目を向けた。

(はいはい、ミサトもそんな驚かなくてもいいのに。けどまずったわね、リツコは疑惑の目を向けるのは普通ね。まぁ成り行きに任せるしかないっしょ!)

「ちょっとサクラさん?そんな簡単に決めていいの?」

「ええ、あの人の事です、私が拒否したら帰れとか言い出すんじゃないの?そうでしょ父さん?」

にやりとゲンドウ譲りな感を持つ笑みを零すサクラを前にさらにたじろぐゲンドウ。
その姿に若き日の妻であるユイを思い出したのかは定かではないが、ゲンドウの足はガクガクと震え始めていた。そんな様子にサクラは内心でガッツポーズをしていた。

(間違ってもレイを出させて危険な目に遭わせるわけ行かないじゃない。それにシンジを辛い目にあわせた罰よ。どんどん罰を与えなくっちゃね)

「そうだ、乗るなら乗れ!乗らないのであれば帰れ!」

「そうね、帰ったらたぶんもう私達に勝ち目は無いんでしょうから、此処は父さんの顔を立ててやらないとね。初めての親孝行かしら?
で、どうやってこの巨人に乗ればいいのかしら?説明してもらえる?」

「ああ、赤木博士、後は頼む」「判りました。じゃあ、サクラさん、こっちに来て頂戴」

様々な現在のエヴァの起動までの進捗状況が流れる中、初めて搭乗した初号機のエントリープラグを見渡すサクラ。そんな中伊吹マヤの声にふっと我に返る。

『エントリープラグ注水』じわじわと変にオレンジ色をした液体が流れ込む室内。普段は気にしないサクラであるが此処は初めての地だ。
反応しないと逆に怪しまれるであろう。

「ちょっと、なにこれ。何か水漏れかな?」至って自然に問いかけるサクラである。

「大丈夫よ、そのままその液体を肺に入れてください。肺がLCLに満たされれば直接血液に酸素を取り込んでくれます。すぐに慣れるわ」

ゴボゴボと肺にその液体を流し込んでやる。この身体が初めての事もあり、自然と思った言葉を呟いた。

「気持ち悪い…」あの赤い世界を思い出したサクラであった。

『A10神経接続後のコミュニケーション回線開きます。シナプス計測シンクロ率…ぇ』

「どうかしたの、マヤ」『えっと、シンクロ率63.4%です』

「なんですって!プラグスーツも何もなしにその数値ですって?計測は間違いないのよね?」

赤木が慌ててマヤのモニタへ駆け寄る。

『ハーモニクス全て正常値、暴走もありません』

赤木もマヤのモニタを見て異常がないのを確認すると葛城に出撃のGOサインを出した。

「凄いわ、数値が予想以上に良い。いけるわ」その言葉を聞いて葛城も一つ頷いた。「発進準備!!」

エヴァを固定していた様々な拘束具が外され、今まさに射出口へ移動となったその時通信が入る。

『アンタら、いきなり敵の近くにこの巨人を出そうとか考えてないでしょうね』

発令所内にサクラの怒声が響いた。怒りを纏った証拠に年上に対し『アンタら』である。無論、彼女には年功序列とかは些細な事としての認識だ。
実力主義のドイツで鍛えたのである、有能か無能かそのあたり判別するのはたやすい事だ。此処至って、過去の彼らの素質も一度経験済みで知っている。
ただ、自分を素人扱いされるのが嫌なだけだった。このあたり軍人たるプライドがある。しかし、今『碇サクラ』の立場は素人であるとの認識。
どんなに神経が図太くとも余裕がある素人などいない。そのことをサクラは言ったのだ。
案の定、発令所に居る葛城と赤木、伊吹ら管制官らはその声で足をガクガク震わせている。
更に冬月も腰を抜かし、唯一無事かと思われたゲンドウさえもその殺気に近い声で精神汚染をされているという始末。

これには控えていた国連軍の指揮官三名も呆気に取られていたが、素人にダメ出しされたことに失笑する指揮官もいた。
よくよく考えてもみればこのネルフの上層部は軍人出ではないのだ。ただ唯一の頼みの綱は葛城ミサト二佐のみだった。

「そうね、第四使徒の死角になる場所ならいいわけね。サクラさん準備は良いかしら」

『ええ、いいわ。後、葛城二佐。武器となるものはあるのでしょうね?まさかこの巨人の素手で戦えとか言い出さないわよね?』

「ごめんなさい、武器の製作が間に合っていないのよ」

葛城よりも早く事情をよく知る赤木が渋々と正直に話した。

(アンタらバカぁ〜。これじゃシンジの初戦と一緒じゃない。シンジってば良く生き残れたわ。そうなると私もここで頑張らないといけないわね。
というかまた聞き捨てならない言葉を云っていたわね。第四使徒だって?サキエルは第三使徒のはずよね?やっぱり何か変よこの世界)

次々と何かサクラにとっては不安になることばかりであるが、エヴァの操縦となれば話は別である。現にシンクロ率63.4%という値を出している。
ただこれもサクラが操作してあることである。その気になればリミッター限度、即ちエヴァに取り込まれる寸前である399%まで押し上げることさえ可能だ。
しかしそれは、碇ユイが目覚めるまでの話しである。それ以降はサクラもそこまでの自信は無い。もとより精神は惣流・アスカ・ラングレーそのものだからだ。

「サクラさん、リフトオフの際結構なGが掛かると思います。くれぐれも気を失わないようにお願いします」

葛城の優しき助言によってふと思案を止めた。

(そうね、今考えるのは第四使徒殲滅よ。サクラ行くわよ)

外へ出た初号機は赤木の指示により二、三歩歩いたのち、いきなり奔り始めた。この行動に葛城が静止を促す。

「ちょっとサクラさん、突撃なんて指示出していないわよ!」

しかし、既に手遅れ、サクラは外部との通信を遮断していたのである。発令所では色めきたった。
中でも司令と副司令は今までの成り行き以上のシナリオ外の事に冷や汗と娘をどこか疑う目をしていたのは紛れもない事実だった。

「おい碇、これはシナリオ外の事だぞ…」「も、問題…無い…」

ゲンドウは突っ伏すしかなかった。今もその足の震えと戦っていたから。


一方のサクラと初号機はそのシンクロ率を一時的に80%台まで上昇させ、第四使徒を蹂躙していた。
何も暴走ではなくその腕力に物を言わせた一方的な殴打で使徒の弱点であるコアを破壊せんとしたのである。
しかし、追撃は此処までだった。何を思ったのか第四使徒はその身を団子状にし、初号機に抱き着いたのである。

(ちっ、こいつ自爆する気ね。良いわ来なさい。ATフィールド全開!)

爆発はN2爆雷よりも規模は小さかったものの被害は甚大だった。その中で初号機は無傷の帰還となったのである。






To be continued...
(2011.10.08 初版)
(2012.01.14 改訂一版)
(2013.02.09 改訂二版)


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