
![]()
第参幕
presented by マルシン牌様
ケージへ帰還した後、サクラは葛城二佐と冬月副司令に呼ばれ、既に覚悟をしていた査問室での尋問が行われた。
「サクラさん、どうして独断専行で事を運んだの?」
葛城の言い分は尤もである。一般的に先に起こしたサクラの行動であれば査問会議に掛けられるべき無謀な行動。
だが、今『碇サクラ』はネルフの協力者という立ち位置である。 よって、査問会議はご法度。それ故、強制力を弱めた尋問という形をとっている。
この尋問には葛城二佐作戦課課長、碇ゲンドウ総司令の代理として冬月コウゾウ副司令がサクラへ聞き取りを行っている。
本来ならば碇ゲンドウは此処にいるはずであるが、サクラの殺気で倒れた、恐るべきは娘である。
余談であるが、今居る碇家で強力な発言力があるゲンドウを抑えた娘を『大したものだ』と国連軍の指揮官三名はサクラと褒めちぎっていた。
いわゆる国連軍へのスカウトでもある。それにはサクラ自身もきっぱりと断った。
「申し訳ありません。けれど、云いたいことは云わせていただくわ。あの場合相手に先手を打たれる前に処理したほうが良いと判断したの。
それに昼間に見た敵の印象は硬い皮膚と何か壁のような防壁手段。後は光の槍のような物さえ気を付ければ楽に勝てる見込みがあるって思っての事よ」
冬月は感心と共に畏怖した。昼間の出来事を客観的に分析できるほど冷静で居られた彼女の精神の強さに。
と同時に何か別の組織に在籍し、『何か戦闘訓練等をしていた』のではという危惧も生まれたが、資料を見る限りそれは無いと冬月は考えた。
だが、これは由々しき事態でもあった。ゲンドウや冬月の考えていたシナリオ上、そこまでの精神力と戦闘能力を彼女が有しているとは考えていなかった。
同時にあのATフィールドをどうやって破ったのかそこに興味が湧いた。
「サクラ君、あの敵にはATフィールドという防御機構があるのだが、君はそれをどうやって破ったのかね?」
「無意識にやったことだわ。で、オレンジ色の壁のようなものをATフィールドというのね、あのATフィールドというのを無理やりこじ開けただけ。
想像以上に硬かったから疲れたけどね。それにしてもあの初号機って力持ちって感じ。後、思ったことと云えば結構思った通りに動いてくれるって事。確かにあれが兵器っていうのも頷けるわ」
サクラの説明に冬月は聞きたいことを聞き終えたとして葛城に閉会するようにと諭した。
「葛城二佐、もういいのではないかね。ある程度証言は得られた。此処至って、彼女はまだ正式にネルフの職員でもない。
これ以上の勾留は時間として少々問題がある。サクラ君、今日はネルフの宿舎で一晩お願いできるかな」
「ええ、出来ればそうしてほしいわね。何より宿が無いんじゃどうもまま成らないわよ」
査問室から出たサクラは黒服の人に寝床となる場所へ案内された。
「君には『不自由なく暮らせるだけの用意を』と司令から仰せつかっている。何か問題があれば私達に声を掛けてくれ」
そう黒服たちは言って、立ち去った。
(なんかキナ臭いわね。あの司令がそんな私に配慮するとか、まさかレイ似だから贔屓目でも見られたかしらね)
そのサクラの予想は大体合っていたりする。流石は元来がアスカである。
その頃、どこかの暗部な会議室では先の戦闘の総括が行われていた。モノリスを前に立ち直ったばかりのゲンドウも出席していた。
モノリスから次々、ゲンドウへ確認の報告をしていく。なお、モノリスは七基有り、此処もアスカとして戦ったあの世界でのモノリス一二基とは異なる。
『第四の使徒襲来とその殲滅。そして三番目の子供の接収およびエヴァ初号機の初起動…。しかし、三番目の子供のあの強さ規定値を大きく逸脱している恐れがある』
『初号機本体は完全な無傷で予算とは関係なくありがたい限りではある。だが、規定値を超えるあの強さは予定外だ』
『凍結された零号機の解凍を急がねばならない事態になるかもしれん』
『多少の規定値逸脱は修正を行えばよいのだ。第五の使徒襲来時に初号機の様子見を行えばよい。先の殲滅と大差が無ければ三番目の子供の能力と考えればいいのだ』
総括は終盤へ向かった。そこに初めてゲンドウが発言する。
「万に一つの考慮として、三番目が不要と貴方方が判断された場合の対処はこちらで致します。また弐号機と付属パイロットもドイツにて実証評価試験中です」
それを認めたのかモノリスが発言する。
『参号機以後の建造も計画通りに…な』
『ネルフとエヴァの適切な運用は君の責務だ。くれぐれも失望させぬように頼むよ』
『左様、使徒殲滅はリリスとの契約の極一部に過ぎん』
『【人類補完計画】その遂行こそが我々の究極の願いだ』
「判っております。すべてはゼーレのシナリオ通りに」
ゲンドウの締めの言葉でこの総括は終わった。
翌日の朝、葛城、赤木、伊吹の三名は昨日の戦闘区域で調査を行っていた。とはいえ得られた情報は殆ど無かった。
「第四使徒のサンプルを採取出来なかったのはちと予定外。でも、パイロットの証言からATフィールドは力押しでの攻略も可能らしいわ。
このあたり、兵器としての信頼性は今のところ概ね良好といったとこね」
「このあたり一面の赤い海…。ATフィールドを失った使徒の崩壊によるものだと考えられるけど予想以上の状況ね」
「まさに血の池地獄。なんだかセカンドインパクトみたいで嫌な感じですね」
「エヴァは使徒にかなりの優位性を以て勝てる。この事実があれば人類に僅かな希望と成り得る」
「そういえば、その希望を担うパイロット。情報室で他のパイロット達の情報を集めているそうよ」
情報管理室として使用されている区画には碇サクラと付添の黒服の男が監視として付いていた。
「では貴女が情報と得られるのはlevel3程度迄の情報に限られています。それで構いませんね?」
「ええ、level3と云っても同僚となるパイロットの情報はある程度得られるのでしょう?それで構わないわ」
そう言ってコンピュータの電源を入れ、教えられたとおりにパスワード等を入力していく。
「現在所属しているパイロットは日本在籍で第一適格者『綾波レイ』。ユーロ空軍のエースパイロット第二適格者『式波・アスカ・ラングレー』。
そしてユーロ支部に在籍する適格者名簿には載ってはいない『真希波・マリ・イラストリアス』の三名。なるほど、今私がいないと日本には一人しか在籍してないのね?」
「そうです。しかし綾波レイは現在重傷を負っており、日本のパイロットは貴女が来るまで居ない状況でした。全治まで後一週間ほど掛かると見込まれています」
(なるほど、それにしても『私』の名前は違うって事と実績があることは許容範囲として、真希波なんて人全く知らないわね。
結局下手な行動が出来ないって状況じゃない。でも、レイとは親しくしてもいいかもね。後は『私』の性格と謎の真希波さんの動向か)
「そういえば、その綾波レイさんとはお話出来るのかしら?できれば会って話してみたいんだけど」
「はい、構いませんが、しかしサクラさん、彼女との会話はなんというか難しいと思いますよ」
「え!そんなに酷いんですか?」
「いえ、彼女には失礼ですが、無口な性格なために誰とも会話をしたことが無いと噂で聞いておりますから」
「ふ〜ん。でもお見舞いくらいはしたいわ。案内出来ますか?」「ええ、出来ますよ」
(無口な性格ね〜。そりゃあの司令のお気に入りに仕立てようとした結果だからしょうがないじゃないの。矯正すればいいことだしね、頑張ってみますか)
エレベーターを待っていると、同じエレベーターヘ乗るのか碇ゲンドウがやってきた。
「サクラか。昨日は良くやってくれたな。今後も期待しているぞ」
そう小さく震える声でゲンドウはサクラへ語りかけた。
「ありがとうございます。で、私は結局第三適格者として登録なの?さっき辞令は見たわ」
エレベーターに乗った三人はそれ以降無言だったが、ふとサクラは気が付いたようにゲンドウに言った。
「情報室の端末で他の適格者情報を確認したわ。此処に居る綾波レイさんって子。今からお見舞いしたいんだけど良いかな?」
「お前が行く必要はない」とりつく島もない、いつもの簡略な言い回しで、黒服の男も内心気が気でない。
「とはいってもさ。一応適格者としては先輩だし。社交辞令くらいはいいじゃないの?」「なら問題ない」
(はいはい、やりにくいったら世界一じゃないの?ドイツ支部の人たちよりもやりにくいわよ)
そうしてゲンドウとの一応のやり取りの後、病室へと歩を進めた。
To be continued...
(2011.10.08 初版)
作者(マルシン牌様)へのご意見、ご感想は、または
まで