ヱヴァンゲリヲン新劇場版 〜ASKA REVERSE〜

Again〜序

第肆幕

presented by マルシン牌様


(綾波レイ、碇ゲンドウが生み出した。リリスと初号機に取り込まれた碇ユイさんからの子供。この世界でも先の起動実験で失敗の余波で身体中に大怪我を追う羽目になった。
まぁそんな事は司令のなんか謀略めいたものでもあるのか果たして判らないけど…。でも、私の妹っていう事には変わりないし、司令の謀略ならいい気分には慣れないわね。
レイは司令の人形じゃないのに…。それに今までレイが味わった無の感情を取っ払うには少々骨が折れる分、司令には感謝ね。苦労する喜びを私に与えるんだからさ)

病室の扉をノックして、病室に入ったサクラは包帯姿のレイを見て目を見開いた。

(シンジから聞いていたより酷いじゃないの。こんなんでケージまで運んだって?危なかったわ、私が即決で反応してなかったらレイはより危険な目に遭っていたかもしれないわね。
そうなったら、司令は変わりを用意でもするんでしょうけど、そんな事は私が許さないからね)

「こんにちは、綾波さん」

声を掛けられた綾波はサクラの目を見て、一言呟いた。

「貴女誰?」「今日付で、第三の適格者として登録された碇サクラ。貴女と同じ一四歳よ」

「貴女私と似ている?」「へぇ〜。ほんのわずか見ただけで綾波さんは判るんだ」

「ええ、貴女使徒ね?」綾波は自身と似た雰囲気を持つサクラを一目見てこの場で云うには不味い事を口に出す。それにそれほど驚かずにサクラも反論する。

「ちょっと、こんなところで物騒な言葉吐かないでよね。目と耳があるんでしょ?」

「貴女がその目と耳を抑えている。違う?」

綾波が答えを簡単に解いてしまったことに舌を巻いたサクラが観念して正解と事のあらましを伝えた。

「バレていたか。加持さん並な大層な事は出来ないけど、その真似事くらいなら出来るからね」「私になんか用?」

「強いて言えば、貴女のお見舞いかな。これ果物の詰め合わせ。食べる?」

ずいぶんと周到に用意された果物の詰め合わせは前もって食べやすいようカットされたリンゴとパインをプラスティック密閉容器に入れたもの。

「いえ、私はこれがあるから」綾波はベッド上にある机の上を指した。そこには数多くのサプリメントらしき錠剤を収納しているタッパーが置いてある。

「アンタね。そんなので栄養とっても何にもならないじゃないの」

「『栄養が取れるならこれでもいい』って赤木博士から云われている」

(リツコ。何てこと言っているのよ!あ〜もう〜。他人に世話を掛けさせるような性格に育てているんじゃないわよ)

「まぁ少しでも食べてみなさいよ。これ結構高いリンゴとパインだったのよ?」

押しの弱い綾波はサクラの気迫に負け、リンゴを指す。「一口だけ食べるわ」

サクラが爪楊枝にリンゴを差して手を動かせない綾波に食べさせる。リンゴの淡い酸味と余韻として残る甘味を綾波はシャリシャリと咀嚼することで得た。

「…美味しい」「でしょ〜。リンゴは酸化しやすいの。余したら勿体ないから、私も少し戴くわ」

(ふぅ、レイもなかなか、可愛いとこあるわね。懸案は『私』だけって事だけど。実績がある分有頂天になってなきゃいいけどさ)

「お邪魔したわ。また来るわね」「ええ、待っているわ」

少しだが感情が芽生えたのか微笑みを浮かべてサクラへ返した。ただ、自身で微笑んでいたという事実はまだよく判っていないようだが。

(なんだ、すっかり親しんでくれたじゃない。シンジの時より最速は予定外だけど。確かに、同性ってのはあるかもしれないわね。でもこれでひとまず安心ね)



病室から出たとき丁度葛城が迎えに来ていた。サクラを探してここまできていたようだ。

「サクラさん、どうだった?レイの様子見に行ったんでしょ?」

「黒服の人に聞いたんだ。そうね、最初取っ付き難いかなぁって印象だったけど。一言二言話していたら慣れてくれたみたい。あの子結構可愛いわよ?」

「そ、そう?意外かも、あの子司令とリツコ以外あまり会話という会話しないみたいだから」

「そんな子には見えなかったわ、ただ少し感情表現が鈍いって感じはあったけどさして問題じゃないわ」

「そうなの?案外、貴女が来てくれて本当に良かったかもしれないわね、あの子」

「で、葛城二佐が此処へ来た理由ってなんです?」

「あ、そうそう。貴女の住居だけど一時的に私の家に住まいを移すことになるよ。それの確認よ」

(大方、私の監視目的ね。まぁ使徒として覚醒してあの赤い海に一度は溶けた私には料理なんてお茶の子さいさいだけど、このミサトもレトルト系で占めているんでしょうね)

「ええ、いいわ。ネルフの部屋も十分だと思ったけど、一人じゃ寂しいし。葛城二佐も思うところあるんでしょうし」

(げ、サクラさんって結構鋭いのね…迂闊な事しゃべれないじゃないの)

「決まりね、じゃ、荷物等用意したら出発するわよ」「判りました」


個室から必要な物を一通り荷造りし、業者(とはいえネルフ関係系列会社)へ荷物を渡した後、葛城の車でドライブすることになった。
勿論葛城の車は先の爆発の影響をうけたそのままの格好で外見上よろしくないそれだ、そんな道中ふと葛城がサクラへ提案した。

「さ〜て、今夜はパァ〜っとやらなきゃね〜♪」

(相変わらず祭り好きねミサト)内心いつも通りの葛城の感じに苦笑いを浮かべていた。

「何をするんです?まさか未成年に酒でも振舞おうなんて考えていませんよね?」

「え、サクラさんお酒飲んだことあるの?」「ええ、一応この間私の仮の保護者の目を盗んで少し飲んでみましたよ」

(そんなわけないけど、此処は少し遊んでやらないとミサトの暴走って疲れるけど楽しいのよね。これでシンジが居たら本当に良かったんだけど…。
ううん、負けちゃダメよサクラ。シンジのためにもここは楽しくいかなきゃ!)

「なんだ、それなら今日の夜飲んでみる?」「だから、未成年に酒を振舞うのを国連の下部組織であるネルフの要人がそう簡単に許可していいの?」

「大丈夫、私が権限使って許可します」その自信満々の葛城に対しため息を零すサクラだった。(こりゃ、ミサト地獄に落ちるわ…ってなんの権限履行なのよ)

道中のコンビニ『Lawson』で様々なレトルト系食品やら『UCC上島珈琲ラベル』のコーヒーやらをレジ籠一杯に詰め込んだのをレジに通している最中の事。
井戸端会議をしながら通る女性達の話しを聞いていたサクラが居た。

「やっぱり引っ越されますの?」「ええ、まさか本当に此処が戦場になるなんて思ってもみませんでしたから」

「ですよね〜。うちも主人が『子供と私だけでも疎開しろ』って。なんでも今日一日だけで転出届が百件を超えたそうですよ」

「そうでしょうね。いくら要塞都市だからってネルフじゃ何一つ当てに出来ませんものね〜」

「昨日の事件だって思い出しただけでぞっとしちゃいますもの」「本当に…」


(やっぱりネルフは相変わらず陰口叩かれる組織ってわけね。仕方ないわね『人類補完計画』なんて馬鹿げた代物を計画遂行するヘンテコリンな組織なんだから)

冷めた表情でその陰口にそう突っ込んでいたサクラであった。そんな陰口を葛城も聴いていたのか何か思うところがあったらしい。
レジを通して、車に戻り、エンジンをかけるとサクラに寄り道をする旨を伝えた。

やってきたのは第三新東京市を一望できる小高い丘の上である。夕暮れの第三新東京市は本当に何もない街並み。
それが意図した要塞都市である事を何よりも知っているサクラには何も感慨など感じないが少しだけ呟く。

「何もないのね、こんな寂しい大きな街って他にあるのかしら」サクラの呟きに反応して腕時計と睨めっこしていた葛城が言った。

「時間だわ」サイレンが鳴り響き、突如として夕暮れの街から高層ビル群が徐々に露わになっていく。

「へぇ〜凄いわね。これが第三新東京市、使徒戦のための要塞都市の一端なの?」

「そう、私たちの街、そして昨日サクラが使徒から守った街だわ」



夜の帳が完全に下りた頃、漸く、葛城邸へたどり着いた。

「サクラさんの荷物はもう届いているわね。実はね、私も先日此処へ引っ越したばかりなのよ。入って」

「ありがとうございます。仮住まいとはいえよろしくお願いします」

こうして、葛城邸の中へ入ったサクラを待ち受けていたものは、まさしくゴミ天国とも言える状態の部屋、部屋、部屋だった。

(これって、シンジからあんまり詳しくは聞いてなかったけどこんなに酷かったのね…)

「ちょっち、散らかっているけど、気にしないでもらえたらうれしいかな」

そんな葛城の言葉をざっくりと断罪するサクラだった。

「これのどこが『ちょっち』なのよ?私の葛城二佐の印象変えないといけませんねこれは」

と腕まくりしながらその汚れたダイニングテーブルやダイニングに放置されたごみを掃除にかかるサクラであった。

(これをシンジがやっていたんなら相当苦労したはずね…。でもそのシンジは居ないんだから私がやらないと、ミサトの矯正もしないといけないわね)

と妙に意気込んでいた。そんな中、家主はさらに注文を加えた。「食べ物は冷蔵庫の中に仕舞っておいてね」「了解です」

半分あきれた状態で云って、冷蔵庫の中を確認するとそれこそ二重の呆れとなってサクラを襲った。

(冷凍庫は氷のみ、冷蔵室その一はつまみ類、そして最後のドアにはもちろんビールやらの酒類よね。おまけにやっぱりヱビスビールばっかりだし…。
なにやってるのよあの生活無能者!!とはいえ私も元生活無能者だけど、此処までひどくなるって奇跡よね)

サクラの悪戦苦闘の末、ダイニングテーブルの上のごみ類を片付けた後、夕食に相成ったのだが…此処まで大半が電子レンジフル回転である。
先ほどから六回いい音を鳴らしてレンジが動いている。

(流石に、これほどレトルト満載だと飽きないのかしら…ミサトの味音痴ってここでも健在ってわけね)

サクラは葛城邸に入ってから数知れぬ呆れのため息をもう一度ついた。「いっただきま〜す♪」

葛城がそう云って、ビールのタブを開け、一気にそのビールを飲み干した。

「ぷっは〜〜〜〜〜〜!やっぱ人生、この時のために生きているものよね〜」

(それはミサト、アンタだけよ…多分ね。そうまでしてこのビールって美味しいのかしらね)

結局、サクラもビール一缶をもらい一口飲んでみていた。

「葛城さん、一気飲みはあまり健康によろしくないんじゃありませんか?」

「え〜。ビールはこうやって飲むっていろんな人に聞いたんだけど…違ったけ?」

(まぁ一気飲みはあんまりおすすめできないってシンジが云っていただけなんだけどさ)

「まぁ良いです。二日酔いだけは勘弁してよね。一応、国連下部組織の要人が二日酔いだと、世間体に悪影響だわ」

ちゃっかりシンジの受け売りを最初から葛城へズバッと言い放つサクラだった。はずだったのだが、三〇分後のダイニングテーブルの上には数多くのビールの空き缶がピラミッド上に積まれていた。

(余裕なのねミサト。まだ正常な思考回路ってどうよ)

「そうそう、云い忘れていたけど、サクラさん。何も遠慮せずにこの家使い廻して良いから。という事で先にお風呂入っておいで。風呂は命の洗濯なんだから」

その証拠がこれだ。流石にビールをピラミッド状に積まれるまで飲んでこのセリフは大した酒豪である。
もう何も言うまいとサクラはその酒豪葛城を見て呆れを通り越した心境に陥りながら、お風呂へ向かった。

(なんか忘れているようにも感じるけどまぁ良いわね)裸になったサクラはマジマジと自分を見た。

(まさかこれだけスタイルのいい日本女性が居るなんてね〜。こりゃ碇ユイさんに感謝ね。
という事はあの子もこうしてきちんとした食生活をすれば私のようになるって事よね。俄然矯正しなきゃ)

なんてことをのたまって、いざ風呂の扉を開けた瞬間の出来事である。なんとペンギンがバタバタと羽を震わせ水滴を払っていたのである。
葛城邸にはペンペンというペットが居たという事実をすっかり忘れていたサクラは慌てて、葛城のところへ駆け寄った。

「なによこれぇ〜!ミサト!何この動物は!!」すっかり狼狽したサクラはとっさに前居た世界での葛城の呼び名を叫んでいた。

「いきなり何、呼び捨てで?」「あっ、葛城さん…あのこのえ〜と…」

そんな慌てているサクラを見て若干笑いながら葛城はふともう一羽の同居人(?)を思い出した。

「あ〜。彼は温泉ペンギンていう鳥の仲間よ。名前はペンペン」

「そうですか…ってあぅ〜、動物だけどオスに女見られちゃったわ…」

アスカ時代の感覚がよみがえっているのかペンペンに愚痴を零しつつ、おずおずと風呂へ直行するサクラであった。

(まずったわね…ペンペンの事すっかり忘れていたわ…ミサト絶対感づいたでしょうね)

そのサクラの度忘れで反省したが、その後葛城との会話で影響は無かったことが証明される。その証拠に葛城はビールをいつも以上に飲んでいた。
そのお蔭で、若干酔いが廻っていた所為で一瞬だけ呼び捨てされたことを気にしたがその後は何もなかったように過ごしていたという結果だったのだ。
続いて、葛城がほぼ酔いがさめた状態で風呂に入り心の洗濯をしている最中での事。ふと考え事をしていた。

(予備報告もなく、唐突に選出されたサクラさん。それに呼応するかのようなタイミングでの使徒襲来…。
合わせて同意の上とはいえ半ば強引とも取れるような接収された碇司令の娘。同意したサクラさんも違和感はあったけどそれ以上にこの案件は不可思議ね…。
しかし、あの使徒を倒したはずなのに私も意外と…)「嬉しくないのね…」



風呂から上がったサクラはそのまま宛がわれた寝室の布団の中だった。

(ふぅ、色々と大変な世界に来ちゃったわね。改めてだけど、私が元居た世界とはかなり違う。ミサトの階級の違い、使徒のナンバリングの違い。
他多数あるけど、どれも私が知っている情報とは差異がある。一番の問題は真希波という人の存在よ。私の知らないパイロット…気になる子ね)

そう思案にふけながら眠りについたのであった。






To be continued...
(2011.10.08 初版)


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