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第伍幕
presented by マルシン牌様
「この訓練の目的は相手のコアへの直撃…一ついい?ATフィールドで阻まれるかもしれないし、それ以前にあの硬い皮膚にこの特殊弾丸って威力あるの?」
サクラははっきりと意見を言ったのはネルフへ登録された二日後の訓練の開始前のミーティングだった。
サクラの意見も前以て聞かれるとはっきり判っていた葛城はそれを肯定したうえでこういう場合に有効だと諭した。
「そうね、サクラさんの言う通りよ。この弾丸で倒せるとはあまり思っていないわ。だから足場を固めるまでの時間稼ぎになるわね。
いきなり相手から攻撃されることも考慮しての事。それにそのライフルの弾丸は通常の弾丸よりも重めに作られていると赤木博士から指摘も受けているの。あまり有用には使えないと思うのよ」
「了解。足止め目的のライフルなら確かに必要ね。それにこの弾丸で万が一倒せたら御の字って事ね」
「そういう事、だから少しだけ練習に付き合って頂戴」
その葛城の言葉でミーティングが終わり、実践へと移る。「凄いわ、サクラさん。コアへの命中率96%にその後の回避に至っては98%で成功。天性の戦闘能力かしら」
興奮気味に葛城がサクラを讃えた。とはいえ、その凄さをどこか見覚えがあったのも事実。
(そういえば、アスカもこれくらい出来たわね…でもアスカ。サクラさんと勝負したら勝てるか判らないわよ。回避行動だけはアスカの成績を超えているわ)
葛城がアスカとの共通項を気にし始めていた。ただし、完全に一致させるとまでは葛城にも無理な話であった。
それからの訓練では普通であるなら無謀とも思えるようなmissionを徐々に増やしてサクラの能力向上の支えとなる。一方で、赤木リツコはこの結果に不審をはっきりと覚えた。
(碇サクラ、一四歳。何も取り得もないはずの少女。報告書にはそう書かれていた。けれどこのミサトの報告書を見る限り何かあるようにしか思えない…。
果たしてこれが彼女の能力なのかしらね。冬月副司令もそれとなく疑惑の目で彼女を見ていたようだし。調べる必要がありそうね)
こうして、葛城と赤木は温度差のあるサクラへの評価をするようになった。なぜ葛城はサクラの能力に不審を覚えなかったのか。
それは、サクラにはその能力に裏付けされるだけの反射神経があったからだ。葛城が理論を以て教えることに対し、即座にサクラが行動に移せる。
この事は軍人葛城の目にはしっかりとした一流に成れると軍人碇サクラとして認めたからにすぎなかった。
会って数日と経ってはいないが、既に葛城のサクラに対する信頼感は鰻登りと最高値へと昇華されていたのである。ただ、葛城にも違和感としては当初残っていた事は事実。
流石に初日に教え込んだことを全てクリアできるなどとは思っていなかったからだ。しかし、そんな葛城の違和感は嬉しい誤算として消え去った。
理論として教え込み、それを実践する。 その殆どを理解できていたことがその違和感を薄めていた。葛城にとって文字通りの天才が自分の部下となった事に満面の笑みを浮かべていた。
これにはサクラ自身も自覚していた危ない冒険であったのだが、結論から言えば『碇サクラ』という血筋が解決した。
父親は謀略家として名を馳せる碇ゲンドウ、母親は天才科学者として有名であった碇ユイの両親が『碇サクラ』の内なるポテンシャルを上げた原動力となったと後に赤木と冬月両名も認めることになった。
訓練が終わって汗を流したサクラは葛城邸に戻り、夕飯の支度に取り掛かっていた。最初はドギマギした感じで知識をフル活用し、何とか食べられる料理を作ることに成功し始めていたが、それも二日間あれば解決した。
(ふふ、まさか私がミサトの身の回りの世話ができるようになるなんて夢にも思ってなかったわ。これでミサトももうちょっと生活面で頑張ってくれると嬉しいんだけどね)
葛城が帰宅したのは二十時を過ぎた頃だった。「おかえりなさい、遅かったのね。何かあったの?」
「ええ。来週からサクラさん、第壱中学校へ転入してもらいます。レイも同じ学校だし恐らく同じクラスになると思うからレイの事もよろしく頼むわ」
「来週か、判ったわ。綾波さんも居るなら安心よ。こっちに来て間もないから知り合いがいないってなったら不安になるところだったわ」
葛城が着替えを済ましてサクラの用意した料理を見てにんまりと笑みを零していた。本日のサクラの料理は全て中華。
青椒肉絲[チンジャオロースー]と干焼蝦仁[カンシャオシャーレン](干焼蝦仁とは日本での一般呼称はエビチリソース。その四川料理名)
という葛城にとっては酒の肴としてもってこいの献立。ただしサクラが葛城に対して何故ただのエビチリではなく干焼蝦仁にしたかは悪戯心である。
エビチリはケチャップを使う事で豆板醤の辛みを抑える。しかし、干焼蝦仁の場合ケチャップは使わない。
よって豆板醤の辛みと旨味を直に味わえるという事になる(陳建民風の作り方参照)。
無論、サクラはそこまでの辛さは食べられないし、自身はエビチリにしている。そんな悪戯心など知らない葛城は何も無かったかのようにその料理を次々に胃袋へ納めていった。
(確かに悪戯心で四川料理風にしたけど、あれの辛みを感じない味音痴って不思議だわ)
空き缶のピラミッド形成していた葛城の周りを見て、脱力感に苛まれていたサクラであった。
翌週、サクラは第壱中学校2-Aの教壇で挨拶をしていた。「初めまして、碇サクラです。これからよろしく」
何となく冷めた口調で言ったために何か変な空気が包まれる教室。だが、その空気を打ち破ったのは意外にも綾波だった。
「よろしく、碇さん」
その後の教室は騒然となった。まさか無口で定評(本人に失礼極まりないが教室内の常識化している事)のある綾波が挨拶をした事実に皆が目を丸くし、勿論論争へ発展。
一限目は当然の如く無法地帯と化したのである。「え〜!!綾波さんと碇さんって知り合いだったの?」「ええ、最近知り合ったわ」「どこで知り合ったの?」
その言葉に綾波は詰まった。それに気が付いたサクラはこの際は『バレて止む無しね』と思いながら答える。
「私たち、ネルフのロボットのパイロットなのよ。だから戦友でもあるわね」
サクラの言葉を遠目で見ていた男子に気が付いたサクラが意図して自分たちの所属と役目を簡単に答えた事で、綾波がサクラを見つめていた。
授業自体は一度習ったことである。さらに以前とは違い漢字の読み書きも慣れたことによってスムーズにその天才振りを学生生活では示すことになる。
しかし、この学校生活初日にしてサクラが一番懸念していたことがあった。
鈴原トウジの妹の件だ。以前シンジから一度聞いたことがあった事件が今回も起きていたのか気になっていた。
サクラの懸念は鈴原に呼ばれたことによって確信に変わった。鈴原がある種の八つ当たりとしてサクラを怒鳴りつけるのに対しサクラはその言い分をしっかりと受け止めていた。
「わしの妹があの戦闘の時怪我をしてしまったんや。おのれもおなごならよう判っているんやろ?」
「判ってはいるわ。でも、鈴原君。シェルターまで反動が来ることは想定しておかないといけない事よ?相手も私が乗るエヴァも巨人なの。
そんな巨人が動けば地震のような地響きが起きて当然よ?これは私以外がエヴァで戦っても同じこと」
懇切丁寧に鈴原の文句が八つ当たりであることをしっかりと教え込むサクラに、納得したのか鈴原が謝った。
「そうなんやな。なんや、わしえらい勘違いしとったんか。碇さんスマン」
「でも怪我したことには変わりないし。放課後でも、お見舞い付き添うわ」サクラは鈴原と和解し、教室へ戻ろうと振り向いたとき、綾波がやってきた。
「碇さん、非常招集…行きましょう」「了解。あ〜、鈴原君今度はシェルターにきちんと避難するのよ?間違っても外に出ようなんて考えないでね」
「そんなん当たり前やないか、碇さんも心配性やな」(妹の件がある鈴原には云われたくない科白ね、でも絶対、相田の言いなりになるんじゃないわよ?)
その心の言葉はしっかりと鈴原へ届いていた。その結果が最悪の形にはならなかったが、ケンスケはこの使徒戦後、サクラにコッテリと絞られる結果となる。
『移動物体はパターン青、これより移動物体を第五使徒と認定します』そのオペレーターの報告を聞き、葛城が声を上げた。
「総員第一種戦闘配置!」モニタは次々と承認された情報を指し示す。『了解。都市対空迎撃戦闘用意』『第三新東京市戦闘形態に移行します』
ビル群が収納され、その収納されたビル群と変わるように爆撃要塞のような趣がある固定砲台等の迎撃システムが次々と露わになる。
『政府及び関係各省への通達終了』「非戦闘員及び民間人は?」『既に退避完了との報告を入っています』
シェルターに避難した第壱中の生徒達の中で愚痴を零している少年がいた。
「ちぇ、まただ」「また文字だけなんか?」「報道管制ってやつだよ。僕ら民間人には見せてくれないんだ。こんなビッグイベントだっていうのに…」
少年が手に持っているのはハンディカムの機能の一部、ワンセグで情報を見ていたのである。
とはいえ少年も言っていた通り、マスコミ関係各社は取材等が出来ないよう規制を布かれており『特別非常事態宣言発令』という状況になった場合は
報道自粛及びその他の放送等も全てできないようになっていた。余談であるが、少年が言っていた『ビッグイベント』という解釈は如何なものか。
しかしこの少年の欲望というか好奇心は凄まじいものがある。少年は鈴原に対し、提案を持ちかけた。
「なぁ、ちょっと二人で話があるんだけど…」その言葉に機転を利かす鈴原はクラス委員長へ断りを入れ、お手洗いへ直行したのである。
手洗い中少年は鈴原に欲望そのままに提案する。「で、なんや?」「ああ、死ぬまでに見たいんだよ!」呆れ混じりに鈴原がため息をついた。
「上のドンパチをか?止めとき、碇さんが云ってたんや、不要な怪我人を増やしとうないってお前が見たいってのは判る…けどな?」
「碇さんの事も判っている…けれどどうしても見たいんだよ!なぁロックだけでも外すの手伝ってくれよ」
「しゃ〜ないな〜。後で碇さんにガッツリ絞られんのを覚悟で云っているんならワシは何もいわへん。わしは碇さんとの約束がある。
お前だけ一人で外へ出れよ?間違っても死ぬんやないで」
少年が提案を行動に移そうとしていた時、外では国連軍らの敵への攻撃が始まっていた。
とはいえ、国連軍がネルフへ渡している兵器類では、使徒と呼ばれる敵に致命的なダメージを与えることが出来ない事は先の第四使徒戦で証明されている。
従って、この攻撃は主力であるエヴァが登場するまでの繋ぎである。弾幕を張って第五使徒の食い止めを図るが相手は先の使徒よりも容姿等が違う。
見た目にはイカのような形に腹部に相当する辺りにはエビの足のようないくつものがある。ただし足は飾りのようで空中を泳いでいるような感じ。
発令所の赤木博士や葛城二佐が牽制目的での弾幕を見ていて、国連軍の攻撃が全く効いていないことに皮肉る。
「税金の無駄遣いね」「この世には弾を消費しておかないと、困る人達も居るのよ」
そんなことを零していると、オペレーターから連絡が入る。『日本国政府からエヴァンゲリオンの出動要請が来ています』
「はぁ、そんな事言われなくても出撃させるわよ。サクラさん準備は良いかしら?」
ため息交じりに葛城二佐が自国政府にも少しだけ愚痴る。理由はよく判らないがイラついている葛城二佐がサクラと連絡を取った。
そのサクラは初号機内で葛城二佐の状況を感じ取りリラックスを与えようと呑気に答えた。
「ええ、大丈夫よ。今度の使徒はどんな形状しているか確認していたわ。あれはイカなの?エビなの?はたまた新種の貝?
あれをエビチリ風に調理してって言われても困るわよ?私はあんなの食べたくないし」
サクラは使徒の情報を見て、こんな生物がホントにいたらと怖気を感じていた。さらに言えば、葛城二佐への当初のリラックス目的と同時に追加した皮肉も忘れない。
「使徒がイカやエビを参考に擬態したって言ったって、いくらなんでも巨大化しているわね。それにあれを食べようなんて思わないわ。
とりあえず、サクラさんがリラックスできているなら十分よ」
葛城二佐もサクラの皮肉を素直に否定した。これほど信頼できる師弟関係には赤木と伊吹以上だと感じていた周りのオペレーター達であった。
『エヴァ初号機、出撃準備が完了致しました。碇サクラは葛城二佐の合図とともに攻撃を開始してください。くれぐれも先の使徒戦のような独断専行は慎むように』
オペレーターの忠告に頷いたサクラが葛城二佐の合図を待った。
「練習通り、ライフルは初動攪乱、その後相手の攻撃を見切りながら踏み込めたら速攻攻撃。万が一の場合戦略的撤退の後再度侵攻の二段構えで行きます!エヴァ初号機発進!!」
ケンスケは神社の境内に入り込み、高台で街を一望できる特等席へ走っていた。絶好のカメラアングルを見つけたケンスケはその場で興奮気味にカメラをまわす。
「すげえ、トウジも来ればよかったのに。苦労した甲斐があるよ、こりゃ」
興奮を抑えきれない状況でさらにその興奮を倍加させる。サイレンが鳴り、初号機が現れたからだ。
「出た〜!エヴァだ!!初号機だ!!」どこから漏れたかケンスケは一目見てエヴァ初号機だと判っていたのだった。「頑張れよ!碇さん」
ライフルを持ち、使徒に対し、牽制しながら足場となる広い道へ出る。しかし使徒もサクラの狙いを見切ったのか、瞬時に攻撃に移る。
光の鞭が二本、凄まじい速さで初号機に襲い掛かる。
「ち、これじゃどうにもならないわね」
避けようにも光の鞭の攻撃は回避不能と化していた。その結果、足元を掬われて、そのまま空高く飛ばされる。
その結果としてエヴァの命、アンビリカルケーブルの断線である。
(これは予想外…ち、結局シンジのようになっちゃったじゃないの)
更に飛ばされた方向も運が悪かった。たった一人シェルターから抜け出していたケンスケが居る神社の方向だったのだ。
「こっちに来たぁあああ」ケンスケの叫びが境内に響き渡った。山へ大の字になった初号機。サクラは一瞬目を疑った。(最悪だ。相田が結局出てきている)
発令所は混乱の渦の中に居た。まさかあれだけ訓練では優秀さを発揮していたサクラが敗北寸前まで追い込まれていたのだ。ただ、葛城二佐だけは慌てなかった。
『慌てないでください。サクラさん、その子を早く逃がして』
「葛城二佐それは厳しい要望ですよ。彼腰が抜けかけているわ。できればこのプラグに避難させた方が無難なんじゃないかしら」
敵が目の前に居る中で至って冷静に答えるサクラ。普通の精神であればここまで冷静にいられるはずはないが、此処は演技という事で肩を震わせている振りだけはしている。
とはいえ全く冷静で居られることには変わりない。サクラの申し入れに一瞬言葉詰まらせる葛城二佐であるが『仕方なし』と了承をするのであった。
「仕方がないわ、報告書は私が書きます、サクラさんはその場でエントリープラグイジェクト作業を」
「了解です」サクラは外部スピーカーを起動させ、ケンスケを呼ぶ『相田、今降りてくるワイヤーにつかまって!』
エントリープラグを一時的にイジェクトし、サクラがケンスケに命令する。それに応じたケンスケはすぐさまエントリープラグの中に入る。
「水浸し!?カメラが〜!」「本来なら入れられないのに無理して入れているんだから文句言わないでくれる?」
刹那の油断が危機になることを承知で、このような行為をしている身にもなってくれと呆れながらこの戦闘が終わった後のケンスケへの対応をどうしようか悩み始めたサクラであった。
『LCL電荷』『リスタート、内臓電源残り三分です』
その手には第五使徒の武器である光の鞭を抑えている。サクラの表情はあまり芳しくは無いが、それでも撤退を余儀なくされることは明らかであった。
照明が回復したエントリープラグでそのサクラの様子を見たケンスケは自身の行いの愚かさを悔いていた。
『サクラさん、敵を飛ばして撤退は出来そう?』
「いえ、両手の損傷等が激しい。更には民間人搭乗後のシンクロのし難さを考えたらここは捨て身のほうが最善。時間も残り三分と聞いたから撤退は愚策と考えるわ」
『そうね…確かにシンクロ率57%、先の70%より低下幅が大きい。現場判断優先で残り三分で使徒殲滅をお願いするわ』
「了解。相田、シートにがっちりしがみ付いているのよ!」「わ、判った」
サクラの行動は早かった。使徒を飛ばし初号機を起き上がらせ瞬時に駆ける。しかしシンクロ率の一時的低下はサクラの予想以上だった。
(相田が居る分。動きが鈍い…けどここでやられたらどうにもならないわ。しょうがないか…裏技でも使ってみるしかないわね)
決心した瞬間微かに目が紅く光った。サクラが持つ使徒としての能力『身体機能増幅機構』を微弱ながら施行したのだ。
ケンスケは一瞬の出来事であったがサクラのそれを見逃していなかった。(碇さんの瞳が一瞬紅く光ったような気がするけど気のせいかな)
『身体能力増幅機構』の発動は微弱という環境でもエヴァに多大な効果を生む。シンクロ率等数値に変動は無いが、格段に動きは楽になるのだ。
その結果、駆ける速さや光る鞭の回避が改善された。
(これで少しは出来そうね…来なさいシャムシエル。私がじっくりエビのチリソースにしてあげるわ)
光の鞭を回避しながら音速に近い速度で第五使徒の赤いコアへプログレッシブ・ナイフを突き立てる。
(残り四〇秒余裕ね)コアにひびが入り、そのまま使徒は形状崩壊しその場に崩れ去る。一帯には紅い雨が燦々と降り続いていた。
エヴァは内部電源が空になったためその場で動作を終えてしまっていた。
(ふぅ、危なかったわ…何とか勝てるっていう状況はあまり好ましくないわね…。でもまぁ無事に倒せたことだし良しとしましょうか…で、後はこいつね)
エヴァの収納と同時にサクラとケンスケはシャワーを浴びた後、待機室で葛城二佐を待っていた。その中でサクラがケンスケへ詰め寄った。
「相田、なぜシェルターから抜け出してどういうつもり!」「碇さんの戦っている姿を観たくて…」「あんたバカでしょ。そんなの自殺行為の何があるのよ」
バン!と机を叩きながらケンスケを睨み付ける。
「いい?相田、これはお遊びじゃないの。人類と人類の敵との戦争なの!私たちが戦わなければ相田たちは既に死んでいるのよ?
私たちは人類を守るっていう使命を以て戦っているの。興味本位やお遊びでカメラ片手に戦場に来ること自体が間違っているの」
何時になく凄みを利かしたサクラの物言いで明らかにケンスケは動揺と共にうっすらと涙を流していた。
これほどまでに人を怒らせたことが無かったケンスケにとってこれは流石に効いたのだ。
「ゴメン。ホントにゴメン!」そんな状況を待機室前で聞いていた葛城二佐は驚きと共に内心やることが無いことに愚痴っていた。
(サクラさん、それは私がすべきことなのに…私の仕事減っちゃうわね…)とはいえ、厳重注意処分がケンスケには待っていた。
「失礼するね…ありゃ、サクラさん、もしかして…」
「ええ、このバカに今回の行動が最悪の場合どうなっていたか教えていた所です。全く好奇心で外に出るとか問題外ですよ」
「そうね、相田ケンスケ君。多分サクラさんから色々言われていると思うけど、私からも一応上からの指示でね。
貴方を厳重注意処分として該当するハンディカム等の情報機器を一時的に徴収することになったわ。
これは貴方の行為がそれほど危険を孕んでいたという意味合いでもあるの。これ以後反省の意味でお願いね」
サクラから頂戴したお叱りが効いていたお蔭で素直に非を認め、それ以降表立って行動をしなくなったのはサクラとしても意外な事になる。
次の朝、サクラは鈴原と共に鈴原の妹の見舞いに来ていた。
「此処や。アイ、来たで〜」「初めまして、鈴原のクラスメートの碇サクラです。ごめんなさい、貴方達に大怪我負わせてしまって」
あの日の出来事を出来うる限り鈴原アイに伝えた。勿論ほかに怪我をした人達にも例外なく見舞いをしていた。
「兄ちゃんったらこれくらいの怪我で大げさなんだから」確かに命に関わるような状態ではなかった。サクラはほっとした様子でアイとトウジと共に会話に花を咲かせていた。
「なんやそならサクラって親と絶縁状態なんか?」「そ、あんまりいい感じでこっちには来てないのよ。こんなエヴァとかに乗せられていい気分はしないわ」
「お姉さんちょっと可哀そうなんだね」「せやけど、ケンスケは乗ってみたいって言ってたんやけどなぁ」
「相田は命知らずなだけよ」(あれに乗りたいとか狂人のすることよ)最後の呟きは誰にも聞こえていなかった。
「でもお姉さんって凄いんだね」「そりゃそうや。第壱中の自慢の生徒やさかい」トウジはサクラを褒め称えていた。
(まぁ、ご機嫌取りってあまり好きではないんだけど…まぁ良いか)長い事会話に花を咲かせて、また来るからと云ってアイと別れたのだった。
To be continued...
(2011.10.15 初版)
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