第参幕
presented by マルシン牌様
『碇サクラ』は夢を視ていた。いつか視た夢の続きだ。
その夢の中で、『惣流・アスカ』は得体の知れない化け物と戦っている。
その中で、恋人である『碇シンジ』が救出した。さらに、その化け物を退治したのである。
『碇シンジ』の居る夢の中のアスカは本当に輝いていた。ほっとした刹那、その映像が途絶え、今度は新たな映像が浮かんだ。
あの紅い世界で『碇シンジ』が言っていたように、此処は精神世界だと気が付いたのはアスカと相対した相手を見てからだった。
「アスカ、此処で終わったら碇君になんて詫びるの?」
「!?ファース…ううん、レイ?」
アスカの前に現れたのは間違いなき、紅い世界でリリスとなり、陰で『碇シンジ』と『惣流・アスカ』を見ていた綾波レイその人だった。
綾波レイは今までの事を知っていると思われる。その証拠に綾波レイは涙を流しながらアスカを見ていた。
「そっか…私、第九使徒に身体乗っ取られたんだっけ?まぁ、後の事はアイツが何とか凌いでくれるでしょ」
とても自身が陥った状況とベクトルが違う前向きさを発揮するアスカである。
というよりこの乗っ取りも全て承知の上であったと解釈すれば彼女の戦いはこれからが本番だともいえる。
「で、レイは私の目覚まし時計って事ね…うん。妹が姉を起こすってシチュエーションって新鮮で良いわ」
「ううん、私の事はいいの。でも、一言だけ。アスカ…この世界での私の事、しっかりと見守ってくれてありがとう」
綾波は知っている、惣流・アスカの真の強さを。
現況では確かに不安が付き纏っているが、アスカ自身が大丈夫という意思表示をすることでこの世界の綾波レイに話が及んだ。
それを認めたアスカは綾波にしっかりと八つ当たりともいえる文句を言い放った。
「シンジから聞いていたけど、アンタもっと自分を大切にしなさいよね…。ったく柄にもない事しないといけなかったじゃない。
でもまぁ、楽しかったしあの子とも仲良くできているから安心しなさい。ただ、私が使徒であることには気が付いているからそのことでどう接していいのかよく判っていないのよね」
「アスカは、アスカのまま。そのことだけを忘れずにやればこの世界は救われるわ。
そろそろ時間よ、私からの最期のお願い。碇君の願いしっかりと叶えてあげて」
「判っているわよ。この世界は私とアイツとで救う。まぁ、アイツにこれから迷惑をかけるってのは癪なんだけどね」
そういってアスカと紅き世界でリリスとなったら綾波レイとの邂逅は終わった。そして始まる、第十一使徒との戦いが。
ネルフが超法規権限を国連へ返上した翌日、カヲルはその異様なほどの威圧感のある敵、第十一使徒と戦っていた。
既に一時間は経過したその戦いは碇サクラも予期せぬ死闘となっていた。
時は遡る事二時間前、カヲルはネルフの関係者等を集め、最後の確認と今後の話し合いをしていた。
「では我々、ネルフ職員はすべて、国連軍が所有する航空母艦『カレイジャス・グローリ』へ移送されることになった。
よって今後一切の使徒殲滅活動をこの渚カヲルに託される。この世界の命運は渚カヲルの手腕に委ねるしか方法がないのだ」
そういって、碇ゲンドウはこの会議から去っていく。国連軍から来た高遠エミはカヲルとスケジュールの確認や移送方法の最終調整に入っていた。
その矢先警報が鳴ったのだ。即ち、第十一使徒襲来であった。
Mark’06に乗り込んだカヲルはすぐさま自身の持つATフィールドを最大限展開して第十一使徒と相対した。
「綾波レイ、惣流・アスカ・ラングレー、そして碇シンジの思いを今ここでぶつけてみせる!」
そう凄惨な戦いになると予測しているカヲルがエントリープラグ内で呟いた。
目前には、綾波レイ、惣流・アスカ、そして碇シンジが苦心して撃退させたゼルエルに相違ない使徒、第十一使徒である。
ここで忘れてはならないのが先の第十使徒における苦戦である。カヲルは先の戦いによって使徒の強さが大幅に『碇サクラ』によって、高められていると考えていた。
前の世界同様、使徒は次の生命体に情報を与えるという進化を遂げていた。この世界でもそれは同じであるとカヲルは結論づけたのだった。
戦いは壮絶なATフィールドの張り合いと化していた。Mark’06所有の槍にアンチATフィールドをまとい、即殲滅を狙ったカヲルであったが、
それ以上の強固なATフィールドを二十にもまとった第十一使徒は二枚のATフィールドを残し、アンチATフィールドを防ぎ切ったのである。これにはカヲルも驚愕の表情を見せた。
さらに第十一使徒は驚くべきことに槍をATフィールドによってレプリカ複製をし、Mark’06に向けて放ったのである。
それに応戦する形でカヲルは機体を翻し、難なく回避するが、使徒が放った槍には追尾機構がついているのかいつまでも追ってくるのである。
カヲルは額から汗が噴き出るのを感じつつも、ここで焦っては逆に自身が倒されかねない状況に追い込まれていることを悟った。
(まさか・・・ここまでとはね。でも僕の思いはこれくらいでくたばれるようなモノじゃないよ…。)
だが、そう決意したカヲルであったが、ここまでの死闘ですでに一時間という長い戦いとなっていた。
使徒の因子を持つカヲルの表情も疲労が見えていた。一息入れた後、カヲルは決意した。
(ここまでだね…。したくはなかったが…やはりこの結末になってしまうか…)
そうして、カヲルは二度の衝撃から続く三度目の衝撃…サードインパクトを引き起こしたのであった。
カヲルが引き起こした三度目の衝撃。いわゆる、サードインパクトはカヲル自身の願いの集合体であった。
あの紅き海は二度目の衝撃。セカンドインパクト以前のように青く、生命に溢れる海へ一瞬にして変貌した。
しかし、その余波で中国大陸や、米国大陸の一部が大津波によって破壊的なまでの損害を被った。
だが、ゼーレやネルフが目指した最終目標の代償に比べれば安い損失といえよう。
ゼーレもネルフもカヲルが断じるならば『前の世界の結末と同じこと』だと言えるからだ。
そうして、地球規模による戦いによって第十一使徒は殲滅されたのである。
Mark’06に乗るカヲルはサードインパクトの余波から守るために宇宙空間に移送されたカレイジャス・グローリに居るネルフ関係者らのもとへ向かっていた。
最後の詰めの調整が未だ完全でなく、特に適格者名簿の変更などの処理が待っているからである。そこには式波・アスカがカヲルを迎えに来ていた。
「で、アンタがゼーレとかいう、馬鹿げている機械人形のお召使い?」
そのアスカの言葉にカヲルは静かに反論した。
「ゼーレと僕は繋がってないよ…まぁゼーレのお偉方は僕を使ってさっきのようなサードインパクトの本来の姿を目指そうとしていたらしいからね…。
すでに世界はセカンドインパクト前となってしまった以上、ゼーレももうすでに堕ちたようなものだよ」
「ふ〜ん。なんにしてもサクラもこの船に移送できて良かったわ。サクラには大きな借りもできちゃったし…。
でも本当に大丈夫なんでしょうね?アンタ結構サクラの事知っているんでしょ?」
「ああ、碇サクラは大丈夫、検査データは知っているだろう?一種の冬眠状態、自己防衛本能によって一時の眠りについているだけだよ」
そこでカヲルは一息入れ、式波を険しい表情で見、続ける。
「ただし、彼女は今第九使徒によって乗っ取られている状態の可能性がある。
今後、目覚めるタイミングではそれが現実になるかもしれない。そのことだけは十分に用心していてくれ」
そのカヲルの言葉に、ゴクリと喉が鳴る式波。
わかっていたことでもある、赤木リツコ曰く『処置が必要なこともありうる』という言もすでに聞いていた。そのことを再認識したうえで式波はカヲルに告げた。
「万が一、サクラが使徒として私たちに向かうことになったら、私も出撃する!
今ミサトたちが二号機の改修をしているの、万全じゃなくても私は出るわ。それがサクラへの恩返しだから」
とカヲルに宣言したのち、視線を隣に居た真希波・マリ・イラストリアスに向けた。
「ったく、なんでマリも居るのよ…。それに二号機を勝手に操縦した挙句、あの裏コードまで使って、それで勝てないなんて」
その式波の言い草に慣れているのかマリは反論する。
「アスカには判らないでしょうけど…あの第十の使徒はそこにいる渚カヲル以外に勝てる人いなかったよ。私たちでは絶対ね」
そのマリの言葉にカヲルは否定をした。
「マリさんの言葉は確かにそうなんだけど、例外な人物が居てね…。式波さんならわかると思うけど、『碇サクラ』ならあの使徒を倒せたよ」
カヲルの言葉に殊の外、驚きは二人になかった。それもそうだ、片や真希波はサクラがゼーレなどとした機密の大半を知る人物という評価をしている。
そして式波はサクラこそがエースパイロットであると第八使徒戦後より公言し、評価していたためだ。式波は、ぼそりと呟く。
「やっぱ、サクラには勝てないわね」
「さて、真希波さん、貴女は今後の使徒戦やゼーレ戦から外れてもらうよ…大凡、『碇サクラ』から言われているかもしれないけどね」
そのカヲルの言葉に反応したのはアスカだった。
「な、なんでよ、渚。マリは…義姉さんはゼーレを憎んでいるって判っているんでしょ?って、サクラも義姉さんの事知っているってこと?」
「あはは、あのサクラって子。今に始まった事じゃないけど只者じゃないのよ、アスカ。
極秘に日本に来たとき運のないことにサクラに会っちゃって、既に私の素性ばれちゃってね。スパイなんか頼まれちゃったのよ」
アスカとしては義姉の問題行動の数々を昔から見ていたため大凡、とんでもな状況でサクラとばったり出会ったのだと勘ぐっていた。
「義姉さんはどっか抜けているところあるのよね…昔から」
ため息交じりにアスカは義姉に零した。
「あ〜あ、とうとう私もお払い箱になるってことね…良いよ、あのネルフの猫さん。
すッごく面白いし、頼りになるみたいだし、ゼーレから離反した渚君もあの子と繋がっていたってわかったなら、
安心してアスカの先祖様にいい報告ができるってことでしょ?なら私の戦いは終わり。
あとはお願いね、アスカ。あの子とまた一緒に戦いたいんでしょ?」
「義姉さんがそこまで言うなら渚。しっかり義姉さんの事頼むわよ。
本当なら義姉さんとも一緒に戦いたかったんだけどさ…。あのときはサクラに付き添うって決めていたからね」
こうして真希波・マリ・イラストリアスは使徒との、ぜーレとの戦いから日常へ帰ることになった。
To be continued...
(2012.11.24 初版)
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