ヱヴァンゲリヲン新劇場版 〜ASKA REVERSE〜

Quickening〜終局

第弐幕

presented by マルシン牌様


零号機が収容されたケイジに入ったカヲルはその痛々しい機体を見ると、一つため息を吐いた。

「遅かった…か。」カヲルの言葉に怪訝な表情でマリは問い詰める。

「ゼーレの適格者ってまだ来ないんじゃなかったの?」

そう、本来であれば最後の使徒との戦いの時に渚カヲルは投入される予定であった。しかし問題は次の使徒である。
即ち、次の第十一使徒はネルフ側が用意した適格者では通用しないという現れでもあった。現に渚カヲルとMrak’06は第十使徒で苦戦を強いられていたのだ。
それを考慮すればこのシナリオは妥当である。それはカヲルしか判断できない『惣流・アスカ・ラングレー』の新たなシナリオでもあった。
彼女は救援信号を密かにゼーレへ送っていたのだ。それは渚カヲルが居るという確信を持っていたと考えるべきである。
カヲルはマリの問い掛けにいつものアルカイク・スマイルを押し殺して、神妙な顔つきになって呟いた。

「本来なら来るはずはないよ…ただ彼女が待っているからね…助けないと彼に怒られる」

マリはカヲルの『彼女』という意味を明確に『碇サクラ』だと考えた。サクラから得た情報と今居るゼーレ適格者である渚カヲルが間違いなき証拠であった。
ただカヲルが言った『彼』とは誰の事を指すのかはマリには見当もつかないのはこの場ではしようが無い。彼らの本当の姿を彼女は知らないのだから。
一方でカヲルは既にこのケイジ内に綾波レイが居ないという事に若干顔をしかめていたが、決意したようにとある場所へ歩みを進めた。
恐らく治療施設へ移送されたであろう綾波レイは後回しせざるを得ないが、渚カヲルがこの非常事態を好機と捉えているのは確かである。
あのネルフ側が宝の持ち腐れとして判断した『ロストナンバーの鍵』の奪取である。そしてあわよくばネルフの組織の凍結も視野に入れている。
これは完全なるゼーレの失態、渚カヲルに全権を持たせたのが彼らのミスである。妄目にまでゼーレは渚カヲルを支援していたのだ。それがカヲルの最大なる好機となった。


総司令室には項垂れる碇ゲンドウとその横で俯き加減の冬月コウゾウが居た。ノックの音で彼らはその扉の向こうに誰が来たのかを察した。

「入りたまえ、渚カヲル」

碇ゲンドウは憔悴しきった顔色と声で扉の向こうに居る者を呼んだ。カヲルはそんなネルフ総司令の許可を得て扉を開けたのだ。

「失礼するよ。ずいぶんと暗い総司令室だね。まるで、今の貴方方の心情を物語っているかのようだ」

カヲルは冷笑をゲンドウ達に向けていた。今やシナリオはゼーレやネルフから離れている。
惣流・アスカ、渚カヲルの新たなシナリオに置き換わっている事を理解すればだれが優位に事を運べるのか判るであろう。

「ゼーレの適格者。シナリオ通りであれば最後の使徒戦が初陣ではなかったか?」

冷静を装いつつゲンドウはそう切り出した。あの第十使徒戦を観ればこれが彼の去勢であるのは判り切っているがそれでもこの言葉を出したのは総司令という矜持である。

「うん、本来はそのようなシナリオだったね。けれど、『碇サクラ』さんが脱落して貴方達の戦力は無きにひとしくなったでしょ?だから僕が救援に来たんだよ」

カヲルがそういうと冬月が礼を返す。

「助かったといえばいいかね?一応なりともゼーレのシナリオは未だ健在だからな。我々はゼーレの行く末の助力として扱ってもらえると助かるが…」

冬月の言にカヲルは冷笑で切り返す。

「我々ゼーレのシナリオも今や破綻したも同然なんですよ…。貴方方もお判りでしょう?この使徒戦で一番優位に立っていた人物を?」

カヲルのこの一言でゲンドウも冬月も悟った。今までの流れを本当にコントロールしていたのは『碇サクラ』であるという事を。

「そうか…やはり『碇サクラ』か。疑わしい事は今までも在ったがあの娘…考えたな。いつでも私を断罪できたろうに。やはり私の下から離して正解だったか…」

ふとゲンドウの言葉からは何故か碇サクラの行為を非難はしなかった。ゲンドウは初号機無き今ゼーレがどのような施策を使って『真のヱヴァンゲリヲン創造』
をするのかなど眼中にない。ただ今は、娘の行く末を見守るしかないと悟ったのである。ある意味ゲンドウもまたこの『碇サクラ』に助けられた一人になるのは間違いなかった。

「渚君、我々は既に指揮系統もこのネルフ本部も使い物にならない。この後我々はどう君たちを見守ればいい?ゼーレから言を貰っていないかね?」

冬月がそう切り出すのをカヲルは即答する。

「そうだね…ネルフはこれを以て解散したほうが良い。ゼーレは僕たちで何とかするよ。
国連軍のお偉方に伝えておく、『ネルフ本部及び全支部の解体を以て超法規権限を破棄すると』ね」

このカヲルの言葉にゲンドウも冬月も衝撃を受けた。これは暗に最後のシ者であり、ゼーレエヴァ適格者でもある『渚カヲル』がゼーレから謀反を起こすという事である。
無論、それは死を意味する事である。

「渚君、それは…まずいのではないかね?」

冬月は慌ててカヲルへ問いかけるが、それを制し、カヲルはアルカイク・スマイルを崩さず言い放った。

「何、簡単な事ですよ。僕と『碇サクラ』はこの地球の存続を願っているからね。
ゼーレの方たちにはそろそろ退場してもらわないと平和な暮らしが彼女たちに訪れないからね」

その言葉でゲンドウは何も言わなくなった。『碇サクラ』がこの渚カヲルに付いているのであれば、間違いなく彼女たちの勝利になるという確信があったからである。
が、しかし、当の『碇サクラ』は先の第九使徒戦でやられてしまったわけでそれを起こしてしまったのはゲンドウ自身の手痛い失策でもあった。
そのことをカヲルに伝えると、こう返されたのだ。

「うん。それは僕としても見過ごせなかったかな。でもね、碇総司令。彼女はこうなることを織り込み済みだったはずだよ。
でも、確かにこれは痛い損失だね…そういえば、総司令は極秘にあの『ネブカドネザルの鍵』の隠密番号をベタニアベースから奪取していたっけ?
それの管理を僕がするよ。あの鍵は猛毒だからね」

カヲルは饒舌に今回の目的の趣旨を伝えた。更にカヲルは碇総司令と冬月副司令をネルフから去るように説得したのだ。その後、カヲルの行動は早かった。
国連軍と折衝をし、ネルフを安全な地域へと隔離するように伝え、次の使徒との戦いに備えるのであった。

「次の使徒戦…今度こそゼルエルが来る…」

渚カヲルの表情は何時になく険しくなっていた。






To be continued...
(2012.03.03 初版)


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