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第二話
presented by マルシン牌様
高町なのはがインテリジェンスデバイス『レイジングハート』と、フェレットである『ユーノ・スクライア』と出会ったのは、
近藤・アスカが『ジュエルシード』の存在を知る二日前の事であった。
その日の朝、なのはは夢見がとても良いとは言い難い目覚めとなった。
夢の内容はどうにも通常の夢とは言い難く、現実味溢れるモノの感じをなのはは覚えていた。
そこは森林の奥にある、観た限りどこかなのはが住む海鳴に在る小さな湖に似ている場所が舞台だった。
そこで一人の少年が得体の知れない影と戦っていた。少年は手負いの状態、対して得体の知れない影は三体に今しがた分離し、少年に向かって咆哮を加えた。
少年はそれに対抗すべく、手許にある紅い宝玉を構え、その得体の知れない影に向かってシールドらしきモノを纏わせその咆哮をなんとか防ぎきったのだ。
だが、その防御で少年は追撃せねばならないはずだが、手負いとなった少年にその力は残っていなかった。
少年はその場に倒れ、得体の知れない影はそれを観て、その場から立ち去ってしまったのだ。残された少年は最後に誰かに訴えるように呟いた。
『誰か…僕の声を聞いて。力を貸して…魔法の力を…』
なのははそんな朝の夢が気がかりでその日の学校の授業に身に入らないのは仕方のないことだと断じても良いだろう。
昼休憩時、学校の屋上でそんななのはの様子を察していた、クラスメートで友人関係にある、アリサ・バニングス、月村すずか。
二人に指摘を受けたのはなのはにとっては当然の事であった。
「今日のなのは、いつもより元気ないけど、どうしたのよ?まさか近藤さんと何かあった?」
アリサがそう切り出した。アリサが近藤さんと呼ぶのは『近藤・アスカ』の事である。
滅多にない事であるが、なのはとアスカが意見の相違によって険悪な雰囲気になることがある。
今日のなのはを見てそんな日が珍しく起きたのかとアリサは感じていたのだが、どうも様子がそれとは違う。
「にゃはは、アスカお姉さんとは普段通りだよ。ただ、昨夜(ゆうべ)の夢がちょっとあれだったから」
その夢の内容をアリサとすずかに伝えたのだった。
「確かに変ね。そういえば朝方その湖の散策路、緊急の工事かなんかで通行できないって朝のニュースでやっていたような?」
アリサは朝のそんな軽く流されたニュースを記憶していたのだった。
「なのはちゃんはその現場に行きたいって事なのね」
すずかがそうなのはの心情を読み、言ったのだった。
夕暮れの海鳴はとても幻想的である。海と山に恵まれた地理がそうしているのだろう。
森の中を歩き、件の小さな湖に行ったなのははそこで人生が変わる出会いをするのだった。
今朝の惨状が残る小さな湖畔をなのは達は散策していると、なのはにだけ唐突に魔導師ならば誰もが会得している術を以て(なのははまだ知らない)それを受信したのだ。
『助けて…』
なのはは少々驚きつつも、一度この声を聞いたことがある故にその呼びかけに応えるべく、足をその助けを求めている方へ向けた。
それに気が付いたアリサ、すずかもそれに倣いなのはを追いかける。
「ちょっと、なのはちゃん?」
なのはが見つけたのは負傷しているフェレットであった。すぐさま、アリサやすずかと共に、近くの動物病院へ駆け込んだ。
そこでなのははフェレットの首輪に紅き宝石を見つけていた。
後に、なのはは『レイジングハート』を初めて見たとき綺麗な宝石だと感じたと語っている。
また、それがデバイスだったとは天地がひっくり返るほど驚いたとも語っている。
病院に一晩過ごすように手続きをしたのち、帰宅したなのはは両親にフェレットの存在を伝え、家が喫茶店であるが、しっかりと飼育管理することを約束し、飼うことが決まった。
その際、父親がフェレットについて全く判っていなかったという余談付である。
そのことをアリサ、すずかにメールにより知らせて就寝しようとベッドに潜ろうとした刹那、再びそれを受信した。
『僕の声が聞こえますか…。聞いてください、僕の声が聞こえる方。お願いです、力を貸してください』
その声を発していたのは件のフェレットであった。そしてその彼に黒き影が忍び寄っていた。
一方その頃、近藤・アスカは、ちょうど時空管理局のデバイス管理部で仕事をしていた。
将来、高町なのはがこの魔導の道へ歩むことになった際に必要な彼女の能力に見合うデバイスの製作を独自のルートで進めていた。
無論、そのようなことがない事がアスカにとっても重要であるが、魔導適正がある事や自身の出自によって、
アスカ自身がスカウトせざるを得ない事態が起きるということも懸念してのことだった。
「あの子はおそらく一点特化型よね。高町家は剣術を得意としているから近接であって欲しいんだけど…。
あの子は真直ぐな性格だし、運動神経は奇跡に近いほど落第点。そうなると砲撃型が一番妥当よね。
ふぅ、こりゃクロノにこっそり教えてもらうしかないかな」
そんなアスカの悩みは数日後、思わぬ形で幕引きとなり、懸念事項は予測通りの結果となるのであった。
To be continued...
(2013.08.03 初版)
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