エヴァンゲリオン『福音の魔眼』

第十話

presented by 美堂翔様


「なるほど、それであの二人はあんなに脅えているわけか……」

「そうです。」

レナと話すシンジの視線の先には相田ケンスケと鈴原トウジの二人。

「まったく……」

シンジは溜息を付くと自分の隣で美味しそうに弁当を食べるマナをジト目で睨む

「ん〜おいしぃ」

卵焼きを頬張り幸せそうなリアクションを取るマナ二人の会話はまったく聞こえてお
らず彼女の頭の中には『シンジの手作り弁当、おいしい』という単語しかない。

「はぁ……レナちょっとマナの尻拭いしてくるからこいつよろしく。」

シンジはもう一度溜息をつくと立ち上がりケンスケとトウジの元へと向かう

「マナたちから話は聞いている、詳しく話を聞かせてくれないか?」

シンジの声に一瞬体を硬直させる二人

「手荒なことをするつもりは無い、マナには俺から言っておいたから君たちの話を聞
かせてくれないかな?」

「わ、わいの妹がこないだの戦闘に巻き込まれて入院しとるんじゃ…」

トウジはまだおびえながらも話し始める

「………場所を変えよう詳しくその話を聞きたい…放課後一緒に来てくれないか?」


「あ、ああわかったわ…なぁ、本間にお前があのロボットのパイロットなんか?」

「ああ……」

肯定するシンジにくらいつくのはトウジではなく相田ケンスケ

「本当か!?碇。あのロボットの名前は何ていうんだ?必殺技は?コクピットはどうな
んだ?」

先ほどの怯えは消し飛び目をキラ付かせながらシンジに詰め寄るケンスケ

「殺されてもいいなら教えてやるが?アレは国連レヴェルの最重要機密だ……口封じ
ということで下手をすれば殺されるぞ?」

「さ、さすがにそれは…まぁ、どんな話をするにしてもココは色々と面倒だ……」

シンジはそう言うと教室の一角を見つめる彼の視線の先には校内放送用のスピーカー


「え?どういうことだ碇?」

「いや、なんでも無いよ……(やはり校内にも色々と仕掛けて居やがるな………教室
に四つの隠しカメラに三つの盗聴器…しかも全て綾波に向けられている…そんなに彼
女を母さんの代わりとして見て居たいか髭……)」

虫唾が走る…人を人としてみないゲンドウの行動がシンジを怒らせる。
シンジがそう答えた瞬間

「………!?……来たか……マナ!!」

「ネルフからも連絡来たよ……」

ほっぺにご飯粒をつけながら話すマナ。

「碇君……非常招集……先に行くわ」

レイも立ち上がりそう言うと即座に教室から出て迎えに来たネルフの公用車に乗り込


「レナ、後任せた……行くぞマナ!!」

シンジとマナは窓に向かって駆け出すとそのままグラウンドに飛び降りる。
ちなみに校舎の高さは二階……無限城で生きてきた二人だからこそ出来る荒業。

校門脇に留めてあるVFRに跨るとノーヘルで爆走していく。

「さぁ、皆シェルターに移動するよ〜」

それと同時に蛮と銀次が教室に入る

「お二人とも行かなくても良いんですか?」

不思議に思ったレナがたずねる

「ネルフにはカヅちゃんと雨流、十兵衛がいるから大丈夫、それに俺たちの今の仕事
は先生だからね。」

「おい、おめぇら死にたく無かったら早く非難しろ。」

蛮はそう言うとそそくさと教室を出て行く。
相変わらずの放任主義なのだが蛮は生徒からの人気は高い。
言葉遣いは荒いが彼の言動は的を射ているからだ。

〜ネルフ本部〜

「第三防衛ライン突破されました」

「目標は第三新東京に向け進行中、接触するまでの予測時間は600秒」

青葉とマヤの報告に雨流が指示を飛ばす

「サード、ファースト両チルドレンは?」

「ファーストチルドレンは現在ブリーフィングルームで待機中、サードチルドレンは
先ほど霧島二尉と共にネルフ本部に到着した模様です」

マヤが答える

「作戦部長は?」

「自宅にて寝ている模様です、先ほどから携帯にも自宅にも連絡を取っているのです
が全く繋がりません」

日向が困ったように答える

「全く司令も副司令も作戦部長もいないときに・・・・・・・・」

深く溜息をつく雨流

「戦自から入電!!エヴァの発進要請です。」

「了解したとだけ伝えてくれ、シンジの準備が出来次第エヴァ初号機発進、使徒の殲
滅を行う。」

雨流の細かく的確な指示が響く

「・・・・・・・・すごい」

そんな雨流を見ていたリツコは息を呑む
ミサトなどはもちろんのこと自分よりも的確で迅速な命令を出している
かつて一時的とはいえ社会で生きていた男雨流俊樹、本部長まで上り詰めた実力は伊
達ではない

「雨流!!」

そんなリツコをとそにシンジからの通信が入る

「シンジか?早くしろまもなく戦闘区域に使徒が入る、すでに戦自からの要請もある
すぐに出撃準備を。」

『もうエントリープラグ内だよ、使徒の情報を』

確かによく見ればシンジが居るのはLCLが満たされていないエントリープラグ内だ。

「申し訳無いのだがほとんど分かっていない、攻撃手段は使徒の形状からして鞭の様
なものだろうとりあえずはパレットガンで攻撃してくれ。」

『了解、マナは?』

自分と共にネルフへ来た女性の姿が見えない

「お待たせ〜」

シンジの質問と同時にマナが発令所に入ってくる

「遅いわよマナ。」

リツコがにらみつける
ここ二日ほどでリツコはマナのことをマナチャンではなく呼び捨てにするようになっ
た。

「ごめんリツコさん。」

マナはそう言うと先日新たに作られた自分専用のオペレーター席に着く

「さぁて、お仕事お仕事」

マナはそう言うと目つきを鋭くする。
どこかの牛と違い公私混同は行わない。

「シンジ、準備は良いな?」

雨流が確認を取る

『ああ、いつでも良い。』

「よろしいですね赤木博士?」

雨流は現状最も地位の高いリツコに確認を取る。

「エヴァ初号機初し「ちょぉっと待ったぁ――!!」」

雨流の発進命令を妨げる人物・・・・・・・牛

「あんた何勝手にやってんのよ!!それは私の役目よ!!」

先ほどまで自宅にいたことを確認されていたはずなのだがどうやってここまで来たの
だろうかこんな短時間で・・・・・

「「(やっぱり使徒かも・・・・・・)」」

マナとシンジは内心そんなことを考える。

「あなたがいなかったから一時的に俺が指揮をとっていたのだが何か?」

雨流は平然と答える

「私が来たんだからあんたはもう用済みよ!!消えなさい!!」

「・・・・・・いいだろう・・・作戦部長の実力を見せてもらおうか?」

雨流は一瞬の沈黙の後そう言うと牛に場所を譲る。

「日向君準備で来てるわね?」

「はい。」

「エヴァ初号機発進!!」

今度こそエヴァ初号機が射出された。

〜一方その頃〜

「なぁ、トウジ。」

「何やケンスケ?」

シェルター内でトウジに話しかける相田ケンスケ。

「先頭の様子を見に行かないか?」

「あほ、ワイはまだ死にたないで」

「だって碇があのロボットに乗ってるんだろう?それならトウジも興味はあるだろ
う?なぁ、頼むよ。」

「・・・・・・・・・しゃーないな。生のドンパチ見たがるんはお前ぐらいやでほん
ま。」

トウジはそう言うと立ち上がる

「恩に着るよトウジ。」

二人は立ち上がると外につながる通路に歩き出す。

「ちょっと二人ともどこ行くのよ!!」

それをさえぎろうとする委員長、洞木ヒカリ。

「イインチョ。ワイらトイレや」

「分かったから言わなくていいわよ!!」

ヒカリに言われてケンスケとトウジは歩き始めた。

〜その頃の地上〜

「ちぃ!!」

シンジの駆る初号機はパレットライフルを連射しながら第四使徒シャムシェルと戦っ
ていた。
かろうじて魔眼で鞭の軌道を見切ってはいるもののなにぶんエヴァの反応が遅い。
先ほどから何度か攻撃を掠っていた。

『ちょっと何やってんのよサードチルドレン!!』

ミサトの罵声がエントリープラグ内に響く

「リツコさん、他に武器は?」

シンジはミサトの声など気にもせずにたずねる。
無論口を動かしながらもパレットライフルを撃っている。
先ほどから何度も攻撃しているのだがシャムシェルが硬すぎるため弾丸が砕けている
のだ。
けん制程度になら使えるのだがなにぶん弾も無限ではないいつかは切れてしまう。

『ごめんなさいシンジ君まだ、パレットガン以外の武装は・・・・・・・・』

『チョッ何シカトこいてんのよあんた!!』

リツコの声と同時になにやら雑音が混ざるがシンジは気にしない。

「さて、どうしたもんか・・・・・・・・・」

一気に間合いを取るとシンジは打つ手を考えはじめた。

〜所変わって地下シェルター〜

「ふぅ〜すっきりしましたぁ」

レナはそう言いながらトイレから出てくる。

「んあ〜」

同時に銀次も登場。

「あれ?」

ハンカチで手を拭きながらレナが通路に目をやるとシェルターの入り口が開いてい
る。

「んあ〜どうしたのレナちゃん?」

「あ、銀次さん。ほらあそこ・・・・・」

レナはそういってシェルターの出入り口を指す。

「誰かが外に出たのかな?」

まじめモードの銀次。

「確か外からは入れない仕組みだったはずですけど・・・・・・」

「行ってみよう。」

銀次はそう言うと歩き出す。
半歩遅れてレナも歩き始める。

このとき銀次ではなく蛮ならばレナを連れて行くことはしなかっただろう。
それが彼の命取りであった。

「うひゃ〜見ろよトウジ!!」

丘の公園でケンスケはカメラを持ちながら興奮した声を上げる

「………」

トウジは無言、話せないといったほうが正しい。
初号機とシャムシェルの戦闘に見惚れていたのだ。

「鈴原君、相田君。」

違う意味で戦いに見惚れていた二人は同時に声のした方向に振り向く

「仙道に…天野先生?」

「げ…先生」

トウジとケンスケは答える。

「二人とも危ないから早くシェルターに戻ってくれないかな?」

そのとき四人を大きな影が覆った……

〜数分前〜

「打つ手無しかよ……」

既にパレットライフルは弾切れになり手にはプログレッシブナイフ。

シンジは目の前にいるシャムシェルをにらむ。
A・Tフィールドは中和してあるから後は点を突くだけなのだが接近戦を許してもら
えない。
パレットライフルによる点の射撃は何度も行っているのだがシャムシェルは僅かに体
をそらし直撃を避け、コアを撃っても弾が粉々に砕けてしまいダメージは全く無し。


『ちょっとあんた何やってんのよ早く殲滅しなさい!!』

牛がギャーギャー騒いでいるがシカト。
シンジは何とか倒す方法を考える。
その思考が一瞬の隙を生んでしまった。

「っく、しまった」

鞭に初号機の足を取られて吹き飛ばされる。

「くそ、やってくれじゃ…」

反撃に移ろうとしてふと手元を視ると……

「レナ!?それに銀次も!?しかもあの二人は!?」

エヴァの手の隙間にうずくまる四人。
トウジとケンスケは震えており、銀次は尻餅をついて固まり、レナは立ったまま硬直
していた。
無論その映像は発令所にも届いていた。

「レナ!?銀ちゃん!?」

「何をやってるんだあの二人は……」

マナはオペレーター席から立ち上り、雨流は頭を抑える。

「あの二人は誰?」

リツコの指示にマヤが答える

「シンジ君のクラスメートです。」

「何であんなところに一般人が居るのよぉ!!」

ミサトの叫び声が木霊する

「ったく何やってんだよ銀次が着いていながら!!」

シンジは愚痴りながらも外部音声をONにする

『銀次!!』

「え、あ、シンジ?」

シンジの声で我に返る銀次

『そこの馬鹿共連れて早くシェルターに行け!!レナはこっちに乗せる!!』

「わかった。」

銀次はそう言うとケンスケとトウジを担ぐと走り出す。
それを確認したシンジは一度シャムシェルを見やる。
鞭を振らずにこちらに近づいてくるシャムシェル。

「雨流!!奴をしばらく止めろ!!」

それだけ言うとエントリープラグをイジェクトするとシンジは飛び出す。
一気に地上に飛び降りるとレナの元へと近づく
発令所ではマナがシンジの意図をすばやく察しまだわずかな兵装ビルによる攻撃を
MAGIに支持する。
無論雨流も即座に指示を飛ばす。
そして当然牛は喚いていた。

「レナ!!」

「え、あ、シンジ君?なんで?」

「話は後だ!!つかまって」

シンジはマナを俗に言うお姫様抱っこで抱き上げるとそのままエントリープラグへと
向かう。

「へ、あ?」

レナはいまだ状況を整理で来てなかった。
無論そのときの一部始終を見ていたマナがやきもちを焼いたのは意味が無い

「レナ、ちょっと最初は苦しいけど我慢してくれ。」

シンジはそう言うとエントリープラグに入る。
操縦席に着きながらシャムシェルを見やると僅かな兵装ビルの攻撃によりかろうじて
足止めにはなっていた。

「う……」

レナは始めてのLCLに戸惑う

「大丈夫じき、楽になる我慢してくれ。」

シンジはそう言うとレナを抱えて操縦席に着く。
目の前ではシャムシェルが兵装ビルを破壊していた。

「悪いがもう時間をかける余裕は無い」

シンジはそう言うと初号機の右手にプログレッシブナイフ、左手に肩のウェポンラッ
クからニードルを取り出す。

『チョッ、戻りなさい!!サードチルドレン!!』

ミサトの命令が聞こえるがそんなものは気にしていられない。
集中するのに邪魔になるので通信をきる
こちらにはレナが居るのだ、長期戦は彼女の身に危険が及ぶ。

シンジの意識が研ぎ澄まされていく、シンジの中で檄鉄が落ちる。
全ての感覚を目に集中する、大気の流れ、空気中のホコリやチリの動きさえも視る。


そして次の瞬間シャムシェルの光の鞭が迫った。
先ほどまでのシンジならば避けることが精一杯であっただろうしかし今の彼に見切れ
ないものは無い。
本来、人間の反応速度の限界は通常の四倍弱・・・・・・それだけならば大抵のもの
を見切ることは十分であった。
だがこいつにはそれだけでは足りない、シンジは『見切り』の封印を解く。
知り合いの魔女や魔術師からは止められていたそれは人間の限界を超えることだから
・・・・・・・過ぎた能力は己を崩壊させるのだ。

「遅いな・・・・・」

シンジはそう呟くと迫る鞭を避ける。
上空に飛び上がるともう一方の鞭が迫った。

「邪魔だ・・・・・・・」

そう呟くと初号機は右手に持ったプログレッシブナイフを一閃。
初号機を横からなぎ払おうとした鞭はそれにより切断される。

「・・・・終わりだ、まぁ、なかなか楽しめたよ。」

シンジはニヤリと笑みを浮かべる。

「ひっ」

レナはシンジのその顔を見て悲鳴を上げた。
残忍な笑み、彼女の知るシンジの笑みとは似ても似つかない。

「筧流針術・・・・・・飛燕!!」

初号機の左手から直線的にニードルが放たれる
それはシャムシェコアを貫く。
貫通性においてエヴァに装備された最も優れた武器だ。
しかしシャムシェルは今だ動きを止めない。
残っている鞭で空中で身動きの取れない初号機の腹部を貫く。

「がぁ!?・・・・・ちぃ!!」

エヴァのダメージはそのままシンジへと換える。
シンジは腹から出血している

「調子に乗るなぁ!!」

右手に持ったナイフを投擲。
それはコアにある『点』を突く。
シャムシェルのコアは一瞬激しく輝いたかと思うとその活動を停止した。
その後、初号機は着地すると肩ひざを着く。

「シンジさん!?」

レナはシンジを見やる。
腹部からは未だに出血が止まらない、LCLの血の臭いが更に強くなる。

「っ、大丈夫だよレナ。」

シンジは微笑むと意識を失った。






To be continued...


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