時超えの少年

第一話 やり直し

presented by 森部翼哉様


 気が付いたらここにいた。

 目の前は紅い世界ではなく夕焼け色の世界。

 体もずいぶん違和感を感じる。

 よく見てみると、子供の時の姿だった。

 そして、ここは公園。

「って事はつまり………? 子供時代からやり直し!?」

 その辺に迫っていたいじめっ子達を余所に、シンジは頭を抱えていた。

「やい! 何ブツブツ言ってやがる! お前みたいな奴見てるとむかつくんだよ!」

「そーだそーだ!」

 周りの子供がはやし立てる。

「………うざ、考えもなしに弱者虐めることしか脳に無いようなオツムのガキには用ないんだけど」

 シンジの呟きに時が止まる。

「う…うるさい! かまうことなんかない! こいつをボコボコにしろ!」

 その言葉に反応したいじめっ子の一人が殴りかかる。

 シンジはわざと殴られる。

「…正当防衛、悪く思わないでね!」

 殴りかかってきた子供の胸ぐらを掴み、放り投げる。

 そして落ちてきたところにボディーブロー。

 まるで香港辺りの映画のやられ役のように吐瀉物を吐きながら吹き飛んでいった。

「うわ〜…子供なのにこの力って一体どうしたらいいんだろう? 全力出したら死んじゃうし……」

 その一撃を見た子供達は完全にビビっている。

「やっほ〜、元気かい? 碇シンジ君?」

 突然の声にシンジが振り向くと後ろに誰か立っていた。

「霧崎さ………ん?」

「そうだよ、霧崎だよ」

 シンジが驚くのも無理はない。

 あの紅い世界で出会った霧崎はどう見ても18位だったのに、目の前に居るのは今のシンジと同じくらいの姿形になっているのだから。

「さて、この子供達は影縛りで動けなくした。シンジ君、この子らの未来のためにきついお仕置きをしておかないか?」

 よく見ると、子供達の影に畳針が刺さっていた。

「へっ?」

 シンジの惚け顔を見た後に霧崎が語り出す。

「今の君はあの紅い世界そのものだ。だからその気になればATフィールドや使徒の力、
 それに人知を超えた力を発揮できる。使い方は君次第だ」

 シンジは少し思案をした後、

「じゃあ………こういうお仕置きはどうですか?」

 霧崎に耳打ちをするシンジ。最初は別段変わらない様子だったが、話を聞いている内に表情は明るくなった。

「それいいな、今後は懲りるだろうし。早速やってみようか」

 霧崎の一言に動けない子供達は身を震わせた。中には失禁してしまった子供も居る。

「さーて、僕が温厚な方で良かったね? この程度で許してあげるんだからさ」

 子供の一人にシンジが近づき、指先から出た光を当てる。

「う…うわぁ………うわぁぁあああああああああああああ!!!!」

 そのとたんに暴れ出す子供。なぜか殴ってもいないのに全身に痣などが出来ている。

「さて、張り切っていくよ〜」

 そして、全員がその場に倒れ伏して公園は静まりかえった。





「で、アラエルの力でどういう事をしたんだい?」

 静かになった公園のジャングルジムの上で二人は缶コーヒーを飲んでいた。

「え〜と、24時間絶え間なく殴られ続けられるっていう内容の物を流し込んだ」

「え…えげつな………」

 ちなみにシンジはブラック、霧崎はカフェオレを飲んでいる。

「でもこれからどうなるの?」

 霧崎はちょっと考え込んだ後、

「あの物置は論外だから、あらかじめ建てといた家に住むことにしよう。名義はちゃんとあるから大丈夫だし、
 お金もある。それにその力の訓練と新しいエヴァの操縦システムも勉強しなくちゃいけないしね」

「エヴァの操縦システム? シンクロするの?」

「しないよ。なに、システムとしては変わらないけど液体になる心配もないから」

 シンジはゼルエル戦の後のことを思い出し、少々暗くなっていた。

「さて。このままここでコーヒー飲んでるわけにもいかんし、新居に行く前に野暮用でもすませますか!」

 霧崎の一言にシンジはただ首をかしげたのであった。






「さてシンジ君、あの中に君の持って行きたい物はあるかい?」

 シンジの住んでいた物置を前にして霧崎が聞く。

「ちょっと待ってて」

 シンジが中に入り、チェロのケースを抱えてくる。

「これだけあればいいよ」

「じゃ、遠慮無く」

 霧崎の前に漆黒の空間が現れ、その中に手を突っ込む。

「この辺だったと思うんだけど………ん〜、あったあった」

 霧崎が取り出したのは20リットルポリタンク二個。おもむろに中の液体を物置の周りに撒き始める。

「ふんふふふーん………」

 陽気な鼻歌とは裏腹に辺りに立ちこめる何とも言えない香り。

「霧崎さん、一つ質問いいですか?」

「なんだい?」

 作業する手を休めずにどんどん撒いていく。やがて二つのポリタンクが空になる。

「これってもしかして………!」

「残念、ガソリンじゃないよ」

 漆黒の空間に手を突っ込みながら楽しそうに返事をする霧崎。

「じゃあ、一体なんですか?」

 紙に包まれた円筒状の物体を物置の中に放り込み、更に黒い砂のような物を本宅に向けて導火線の様に撒いていく。

「聞きたい?」

 本宅の周囲に同じように取り出したポリタンクの中身を撒き、一本のマッチを取り出す。

「ポリタンクの中身は比較的手に入りやすい灯油、砂みたいのが黒色火薬。
 あの紙で出来た棒はダイナマイトで、これは昔のマッチ。では、着火はシンジ君にお願いします」

 シンジにマッチを手渡す。

「………さようなら」

 シンジはマッチを靴底で擦って火を付け、灯油の水たまりに放り込んだ。

 とたんに燃え広がり、あっという間に燃えていく物置。

「さて、離れないと爆発に巻き込まれるよ」

 霧崎と共に歩いて去っていくシンジ。

 背後では激しいまでの爆発とサイレンが響いていた。






 それからは忙しかった。

 霧崎と一緒に新しい家での生活、

 なぜか会社を一つ作って経営したり、

 ゼーレの本拠地を探ったり、

 鬼のような修行をしたり………

 そして………








 夏の日差しの中、三人の男女と一匹の猫が立っていた。

 そのうち一人は霧崎。

「まったく、あの牛は仕事する気あんのか?」

 暑さにうだるように霧崎が言葉を紡ぎ出す。

 一人は碇シンジ。

「まあまあ…あれでも一応作戦司令部部長なんだから」

 何とか平静を保っているが、腕に抱えている猫のせいで汗をだらだらと流している。

 そんなことお構いなしにシンジの腕にいた三毛猫が鳴いた。

「さて、時間も三十分過ぎた事だし、そろそろネルフに殴り込みますか」

「そうですね。じゃ行こうか。あ、トムはこれを付けてね」

 シンジがトムと呼んだ猫に、ハチマキと学ランを着せる。

「今時ナメ猫かい…」

 とか言いつつ霧崎も真夏なのに黒いスーツを着て、黒革の鞄を持つ。

「いいじゃないですか? 僕らは一応『営業』に行くわけですし」

 シンジはグレーのスーツ。

「えぅ、足はどうするんですか?」

「これを使います。効果はばっちりです」

 そう言ってシンジとトムを引き連れて近くのビルに入っていった。

「もう着いてますから、早く乗っていきましょう。それに、髭のお迎えは後一時間半ばかりかかるでしょうし」

階段を上りながら二人は上着を脱ぐ。霧崎はインカム付きのヘルメットをかぶっている。

「そうですね」

ビルの屋上にあったのはヘリコプターだった。






「で…あっという間にネルフ内部ですね」

「まさかこんな簡単に侵入できるなんて………」

 少々呆然気味のシンジの腕でトムが事も無げに鳴いている。

「さて、どうする?」

 霧崎に言われてシンジが我に返る。

「とりあえずもうじきN2が落ちる頃だから、先にリツコさんにでも挨拶でもしときましょう」

 そう言ってネルフ内を歩き回ろうとした時に、都合良く赤城リツコが通りかかった。

「あの〜、すいませ〜ん…」

「はい?」

 霧崎とシンジが同時に姿勢を正し、

「霧崎カンパニー、社長の霧崎修一です」

「同じく専務の旧碇シンジこと霧崎シンジです」

 リツコはただ唖然としていた。






To be continued...


(あとがき)

 どうも、ご無沙汰しております………森部です。
 いやあ、ついに始動しましたよ。
 最近体の調子悪かったのとスランプ重なって最悪でした〜
 さてさて、シンジ君について補足説明です。
 霧崎君の発言で「紅い世界そのもの」といってましたね。
 文字通りです。あの紅い世界そのものが現在の碇シンジを構成しています。
 なので世界の記憶、言うなればアカシックレコードを内包しているといっても過言ではありません。
 というわけで、このシンジ君はけっこう無敵です。クレームは受け付けませんよ〜。
 今後も至らないところがあるでしょうが、笑って指摘してくださるとありがたいです。では〜
作者(森部翼哉様)へのご意見、ご感想は、メール または 感想掲示板 まで