音が聞こえる・・・
始まりを告げる鐘の音が・・・

音が聞こえる・・・
脈動する鼓動が・・・

何よりも遠く・・・何よりも近い場所から・・・
その音は響いてくる・・・

それは過去・・・
封印された記憶のかなたから・・・

それは現在・・・
掴むべく伸ばした手から・・・

それは未来・・・
まだ見ぬ時の果てに向けて・・・

少年の光がすべてを導く・・・

すべての歯車がかみ合い・・・少年は己の真実に向き合う


これは少年と死神の物語






天使と死神と福音と

第拾章 〔招かれざる神入者〕
T

presented by 睦月様







薄暗い闇に何人かの人影が浮かび上がる.。
そのすべてがこの世界を裏から操るほど巨大な権力を持った者・・・ゼーレのメンバー達だ。

「皆ご苦労・・・」

議長のキールの声が響くと全員が頭をたれる。

「・・・碇シンジを召喚する」

開口一番に放たれたキールの言葉に場がざわめいた。
全員がいずれはそうしなければいけないと思いながらも実行するにはいくつかの問題があるため今まで先送りされていた問題だ。

「しかし、碇シンジと統和機構の関係はいまだに確証がありませんが?」
「無論だ、しかし仮に彼の組織との関係があったとしたらこれ以上ネルフにおいておくわけには行かない。」

その言葉に全員が頷く。
思いはひとつ
獅子身中の虫がこれ以上自分たちのシナリオを狂わせる前に・・・

「してどのように?」
「次の使徒は【賢者】のイロウル・・・動き出せばネルフは混乱する」

だからどうしろとは言わなかったがそれを聞いたメンバーは裏の意味を理解して頷いた。
その混乱に乗じてシンジをさらえと言うことだ。
通常の召還では事前に対応の用意をされる可能性がある。
意表をついての召還で事前に何らかの手を打たれるのを防ぐつもりだ。

「邪魔が入った場合排除しろ。ただし邪魔がファーストチルドレンとセカンドチルドレンだった場合はくれぐれも殺すな、これからの計画に響く」
「承知しております。」

どうやらシンジを捕まえる事ができるというのは彼らにとって決定事項らしい。
シンジの生身での戦闘を見たことがないので仕方ないがエヴァがなければどうと言う事はないとふんでいるようだ。
それは今まで彼らを脅かす組織はあっても個人というものが存在しなかったのでそのおごりかもしれない。
ただ、完全にシンジ個人の能力を侮っているのは間違いない。

「すべてはゼーレのシナリオのままに・・・」
「「「「「ゼーレのシナリオのままに・・・」」」」」

この時点では彼らの誰も気づいていなかった。
シンジという少年が自分達の予想の範疇の外にいることを・・・

---------------------------------------------------------------

その日、シンジの家にはミサトを除く全員が集合していた。
全員の視線の先には椅子に座ったレイがいる。

彼女はかなり奇妙な事をしていた。
テーブルに置かれたコップを左右の手で握っている。
その瞳は浅く閉じられていてなにやら集中しているようだ。

「・・・ふう」

レイが息を吐いて目を開ける。

「出来た?」
「・・・多分・・・」

シンジの質問にレイは自信なさげに答える。
赤い瞳は自分の握っているコップに注がれていた。

「シンジィ〜、一体何してるのよ?」

わけが分からないという感じにアスカが質問してきた。
確かに意味不明な状況だ。
他の皆も疑問な顔になっている。

「レイの能力の訓練」

サハクィエル戦でレイが能力に目覚めたことはすでに皆に説明してある。
ここにいるメンバーはすでに能力者の存在を知る者達だ。
ごまかす理由も必要もない。

「訓練ってさっきからなにやってるのかわかんないわよ?」
「そう?」

シンジはレイが握っているコップの片方を受け取ってアスカに渡した。
コップの中身は水道水・・・

「なに?」
「まあぐいっと一気に飲んでみてよ」
「これを?」

アスカはガラスのコップから見える液体をじっくり観察した。
どこからどう見ても水に見える・・・というよりそれ以外には見えない。
しばらく考え込んだアスカだが埒が明かないと口をつける。

「・・・いただきます」

何か引っかかるものを感じながらアスカはコップの中の水を口に含む・・・・・・

ゴク、ブッゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!

口に含んだ瞬間、アスカが盛大にふき出した。

「うをぉぉぉぉぉぉぉぉ」
「わァァァァァァァ」


アスカの正面にいたムサシとケイタはその飛沫をもろに食らう
しかしアスカ本人はそれどころじゃない。

「&#>+*‘{P<”&%$〜」

なにやら壮絶な悲鳴を出しながら台所に駆け込むアスカ・・・それを唖然と見送る取り残された皆は言葉も無い。
一体何が起こったのか?

・・・間違いなくとんでもないことだというのは分かるが・・・

「あっ・・・さて・・・」

その言葉に全員がびくっとばかりに体をこわばらせる。
恐る恐る振り向いたそこにはもう一つのコップを持ったシンジ・・・こっちも誰かに飲ませるつもりだ。
一堂を見回すシンジから全員が視線をそらす。

シンジはしばらく考えてから・・・次の犠牲者を選んだ。
自分の手に持っているコップを新たなる犠牲者・・・マナに差し出す。

「シ、シンジ君?」
「どうぞ」
「ま、まじで?」

マナが壁まで引いて後退する。
盛大に引きつった顔をしているマナにシンジはにっこりと微笑む。

「大丈夫、これは甘いよ」
「あ、あまい?」

実はマナは甘党だったりする。
だから辛くなければ大丈夫かもしれないと思ってしまった。
それが失敗だったと彼女はすぐに知る事になる。

「本当に甘い?」
「もちろん」

恐る恐るシンジからコップを受け取ってじっと見る。
・・・・・・間違いなくただの水・・・のはずだ。

覚悟を決めて一口ふくむ・・・・・・

コク、ブツッッ!!

思わずマナが噴出した水でコップが爆発したようになる。
その巻き添えを食らったのはもちろん・・・

「またかよ!!」
「せっかく拭いたのに!!」


せっかくタオルで水を拭ったムサシとケイタがまた水をかぶる

「*+P’&#!”%$#’」

アスカと同じように台所に駆け込んでいくマナ・・・

10分後・・・

「辛かった・・・」
「甘かった・・・」

アスカとマナがぐったりして感想を言った。
どうやら予想外の辛さと甘さに一瞬で味覚が麻痺したらしい。
舌を出してあえいでいる。

「シンジ、どういうことなんだ?」

凪が二人の様子を見ながらシンジに聞いた。
コップ一杯でこれはいくらなんでも異常だ。

「あのコップにはそれぞれ砂糖と塩を小さじ一杯ずつ入れといたんですよ」
「「うそでしょ!!」」

復活したアスカとマナが異口同音に叫んだ。
二人とも納得出来ないらしい。

「絶対あれもっと塩が混ざってるはずよ!!」
「そうよ、蜂蜜より甘かったのよ!!」
「本当だよ、原因はレイの能力、【Power of good harvest】。」
「【Power of good harvest】?豊穣なる力といったところか」

凪の疑問にレイが答えた。

「…シンジ君に名前をつけてもらいました。」

レイが赤くなる。
シンジに名前を付けてもらった事が嬉しいらしい。
照れてるようだ。

「どういう能力なんだ?」
「要するに水に溶かした砂糖の甘さと塩の辛さを増幅して強化したんです。」
「出来るのかそんなこと?」
「レイの能力は【増幅】と【強化】の概念能力ですからやりようですね」

レイの能力がただの増幅や強化ではないことはすぐに分かった。
零号機の能力の増幅やATフィールドの強化など応用範囲が広かったのだ。
ただの強化だけではありえない。

「それでこの訓練か?」
「ええ、概念能力は応用範囲が広いですからいろいろな事に能力を使った訓練が大事なんですよ。」
「なるほどね」

シンジの言葉に凪が頷いた。
能力者であるシンジの言葉だけに説得力がある。

「だからって人を実験台にしないでよ!!」
「シンジ君ひどい〜!!」
「う・・・ごめん・・・」

二人の言うことはもっともだ。
さすがにシンジも悪いと思ったのか平謝りに謝る。

シンジは二人の機嫌を直す為に今度ゴージャスなクレープをおごることになった。
やはり女の子だけあってしっかりしている。

「それにしてもレイにも能力使えるようになるなんてね〜」

アスカがぼやいた。
ジト目になるのはうらやましいのかもしれない。

「そんないきなりつかえるようになるもんなの?」
「…ある日いきなりだね、ぼくもいつ能力が使えるようになったか詳しくは分からないし」
「私も本を読んでいたらいきなり…」

マユミが沈んだ声を出す。
彼女にとって自分の能力はいい思い出が無い。
それを知っているアスカ達があわてた。

「あ、マユミごめん…」
「いいんですよ」
「その…ごめんなさい…あたしシンジみたいな力…無いから…考えが及ばなかった…」

アスカの言葉にシンジと凪が苦笑いする。
すでにアスカにも歪曲王が発現しているがアスカはそのことを知らない。
直接話してもいいがおそらく記憶が修正されてしまうだろう。
そもそも信じるかどうかさえ微妙だ。

「気にしてません。」

マユミがにこやかに答えた。
今のところアスカの歪曲王の存在を知っているのはシンジ、凪、レイそしてシンジの記憶を読んだマユミだけだ。
そのためシンジはマユミとレイにに口止めをしておいた。
アスカはともかくマナ達がどんな反応をするかわからない。

とくにマユミなどは統和機構のことも読んでいるのでシンジは彼女には注意しているのだが…そこはそれ、自分で強くなるといっただけのことはある。
自分のような特殊な能力者を狙っている組織の事を知ってもまったく取り乱さない。

暗くなった雰囲気に凪が口を開いた。

「そう言えばシンジ、お前はどうやって能力を制御したんだ?」
「ぼくですか?」
「ああ、お前の能力はかなり特殊だからな」
「…苦労しましたよ。なんせ一日平均12回しか練習できませんでしたからね〜」

シンジは苦笑いになった。
昔のことを思い出しているのだろう。

「毎日のように南京錠を開けたり部屋の中を移動したりとね…それでもちゃんと使えるようになるまでに半年くらいかかりました。」
「く、苦労したんだな…」
「ええそりゃあもう…最初は精神の集中が下手だったんで体力的にはともかく精神的につかれましたよ。イメージがあいまいだったり他の事に気を取られてると効果が出ないんです…使い切ってしまうと次に使えるのは2時間後ですから一回一回が真剣勝負でした」

遠い目をするシンジに仲間たちは暖かな視線を送る。
かなり苦労したらしい。

「まあそんなこんなで何とか自分のものにしたんですけれどね」
「あんたの能力って反則みたいなもんだから余計に面倒なんじゃない?」
「…かもね」

シンジはアスカの言葉に適当に答えた。
頭の中にエンブリオの言葉が思い出される。

この能力は本来の自分の能力ではない…そうエンブリオは言った。
だとしたら自分の能力の本当の形とは何なんだろう?
今の時点でアスカの言うように反則じみてはいる。
だがそれと同時にこの能力はひどく使いにくい。

シンジはふとレイを見た。

この前、自分の能力を自覚したばかりだと言うのにほとんど自分の能力を制御できている。
自分はかなりの時間がかかったのに……

(いや、逆なんじゃないか?)
(逆?)

物思いに沈んでいると突然ブギーポップから話し掛けられた。

(彼女のほうが普通なのかもしれない)
(…どういう事なんですか?)
(僕も歪曲王も自分の持つ能力を誰かに教わった事は無い。生まれた時から知っていたからね)
(…つまり本来の能力じゃないから使いこなすまでに時間が必要だったと?)
(そんなところだ。)

シンジは考え込んだ。
確かにそれなら納得もいく
しかしそれと同時に、なぜ自分は本来の能力を使えないんだろう?
エンブリオはこの能力には精神的な殻がついているといっていた。
精神的なものならばそれを作ったのは自分ということになるが覚えが無い。

「・・・・・・」

シンジは横にいるマユミを見る。
彼女は自分の過去を見ているはずだが…もしそんな事があったなら教えてくれると思う。
しかし彼女は何にも言わなかった。

それはそんな“事実”は無かったという事だ。

「シンジ君?」
「え?」

いきなり声をかけられてシンジは慌てた。
見ればレイが自分をみている。

「な、なに?」
「次は何をすればいいの?」
「え?ああ、そうだね」

シンジはポケットから100円ライターを取り出してレイに渡す。
受け取ったレイがどうしたらいいか分からずシンジを見返してくる。

「この火を強化してみて。」
「わかった」
「あ、ちょっとまった!!」
「え?」

注意を言い忘れたシンジが待ったをかけるが遅かった。

ゴウ!!!

ライターから火炎放射のような火が立ち上った。
天井近くまで炎の柱が伸びてまさに劫火という感じだ。

「おわ!!」
「きゃ!」
「なに!!」

同時にライターを覗き込んでいた何人かが飛びのく
避けなければ大火傷をしていたかもしれない。

「ま、前髪が焦げたぞ!!」
「ぼ、僕もだよ!!」

一番前にいたムサシとケイタの前髪がこげたらしい。
2人の今日の運勢は天中殺に違いない。

ボボボボボボボ!!!

ライターからの火は燃え上がり、このままでは他の家具に引火してしまうかもしれない。
しかし肝心のレイは目の前の炎を見て怯えていた。
硬直して動けないらしい。

「レ、レイ落ち着いて!!」
「シンジ君」
「能力を制御するんだ」
「わ、わかったわ、どうしたらいいの?」
「え〜っと水の出ている蛇口をイメージするんだ。そしてそれを徐々に閉じる感じでやってみて!!」
「う、うん」

レイはシンジにいわれた通りにイメージした。
それに従って徐々に火勢は収まって松明くらいになる。
能力の制御に成功したようだ。
それを見た全員がため息をついた。

「…これは綾波の能力を制御するための訓練なのか?」
「そうです。注意が遅れてすいません」
「ああ、被害が無くてよかった」

ムサシとケイタの前髪の事はスルーらしい。
むくわれない二人だ。

「そのままの大きさで燃料が切れるまでがんばって」
「わかったわ」

そんなこんなで訓練は続く。
時々ムサシとケイタに被害を出しながら…


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能力  【Power of good harvest】(豊穣なる力)

レイに頼まれてシンジが命名した。
シンジの力になりたいという思いから発現した力の能力
おおよそ10倍ほどの強化と増幅が可能
当然だが増幅や強化するための元となる対象が必要になる。
自分の体を対象にする事も出来るが自分以外の対象には接触の必要あり
ある程度強化と増幅の度合いをコントロールできる。

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シンジというよい教師を得てレイは自分の能力の可能性と開花させていった。
しかしその思いの根底にあるのは一人の少年の力になりたいという思い。
彼女が求めた“力“はそのためにある。
すべては少女の願いをかなえるための力として…


…ちなみにケイタが能力に目覚めてるのは今だ誰も気づいてなかったりする。

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ネルフ本部にはMAGIのオリジナルがある。
ネルフがある上で欠かせない三台のコンピューター
その影響力は使徒との戦闘だけでなく第三新東京市の維持にまで及ぶ

『エヴァ3体のアボトーシス作業は、MAGIシステムの再開後、予定通り行います』
『作業確認。45から60まで省略』
『発令所承認』

現在MAGIはリツコとマヤを中心に定期健診を行っていた。
次々に文字の羅列が上から下に流れていく。

「さすがマヤ、早いわね〜」
「先輩直伝ですから」

マヤのキーボードさばきでモニターの中を高速で文字が流れていく
そのスピードはリツコと話しながらでも変わらない。

「あっ!!待って、そこ。A−8の方が早いわよ・・・ちょっと貸して」

リツコはマヤから操作を引き継ぐと片手でキーボードを叩く
そのスピードは片手でありながらマヤよりはやい。
さすが本家本元というところか

「さすが先輩!」

マヤは純粋に感心していた。
まだまだ師匠の背は遠いらしい。

「どう?MAGIの診察は終わった?」

一通りのプログラミングを入力し終わるころ、発令所に入ってきたミサトがリツコに話しかけた。

「大体ね・・・約束通り今日のテストには間に合わせたわよ?」
「さぁ〜っすが、リツコ。同じ物が3つも有って大変なのに〜」

いつもの調子で親友を誉めるミサト
リツコのすごさは付き合いの長さと同じ分知っている。

MAGIの表示が検診中から終了に変わった

「MAGIシステム。3基とも自己診断モードに入りました」
「第127次定期検診、異常なし」
「了解、お疲れさま、みんなテスト開始まで休んで頂戴」

職員に指示を出し一息つくリツコ・・・疲れたようなため息を吐いて伸びをする。
その瞳が見下ろす場所にあるのは三台のコンピューター・・・MAGI

「異常なしか・・・母さんは今日も元気なのに・・・私はただ歳をとるだけなのかしらね・・・・・・いつかは母さんよりおばさんになるのかしら・・・それは嫌かも知れない・・・」
「え?なんか言った?」
「人間って不便だと思っただけ・・・」
「そう?」

リツコは苦笑しながらモニターのチェックに戻った。

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翌日・・・

「ほ〜ら、お望みの姿になったわよ!十七回も垢を落とされてね〜」

アスカは不満100%の声で嫌味を言う。
その気持ちはシンジにも痛いほどわかる。

いまシンジ達三人は素っ裸でシャワーの仕切りのようなものに隔てれて並んでいる。
今回の実験は素肌からのシンクロを測定するための実験なのでプラグスーツすら着ていない。
しかも徹底的な洗浄をされたので三人ともいろいろと不満そうだ。

『では三人ともこの部屋を出て、その姿のままエントリープラグに入ってちょうだい』
「ちょっと待ったリツコさん!!」
『な、何かしら?』

いつになくシンジの早い突っ込みにリツコが聞き返す。

「このまま全裸で行けと?」
『大丈夫、映像モニターは切ってあるから、プライバシーは保護してあるわ』
「いやそうでなく」
『このテストは、プラグスーツの補助無しに、直接肉体からハーモニクスを行うのが趣旨なのよ?』
「・・・そもそもなんで男と女を一緒にするんです?最低限男女分けましょうよ!!」

なんとなく沈黙・・・そこまで考えてなかったんじゃなかろうか?

『やっぱりシンちゃんもおっとこの子ってことね〜』
「ミサトさんですか?そこまで言うなら・・・今度、男子更衣室に放り込みますよ?それで着替えるまで出しませんがよろしいですね?」
『・・・ごみんなさい』

そんなほのぼのとしたやり取りをしているとレイがさっさと外に出て歩き出した。
それを見たアスカの顔は赤く、シンジの顔は青くなる。

「な!!シンジ!!あんたは後ろ向いてなさい!!何してんのレイ!!」
「?・・・早く行かないと実験に遅れるわ?」
「だからって!!」
「シンジ君に見られるのは初めてじゃないし・・・」
「『『何!!』』」

アスカと実験場のスタッフがユニゾンした。
レイは何故そんな大声を出されるのか分からないといった感じに首をかしげている。
話のもう一つの中心であるシンジはレイたちに背中を向けながら無言・・・耳を手で塞いで何も聞こえないようにしている。
「聞いちゃだめだ・・・」とかエンドレスっぽく繰り返しているのは彼なりの現実逃避だろう。

『シンちゃん・・・そこまで進んでいたなんて・・・』
「ミサトさんも似たようなもんでしょ?風呂上りに下着だけで部屋を徘徊する癖・・・直ってるんですか?」

通信機の先で噴出すような音がする。

『シ、シンちゃん何言うの!?・・ちょっとミサト!!あんた何してんの!!・・・う、うそよそんなの!!・・・シンジ君が嘘言ったって言うよりかは遥かに説得力があるわ!!・・・そんな!!親友でしょ!!・・・親友だから許せないこともあるわ!!あんた子供に!そこまで飢えていたの!?・・・そんな人間失格みたいに言わなくても!!・・・自分の半分しか生きてないような子供に手を出すのは十分に人間失格よ!!自首しなさい!!!・・・私は犯罪者じゃない!!・・・不潔・・・』

通信機からミサトとリツコ、ついでにマヤのとどめの不潔が炸裂したのが聞こえてくる。
シンジはその間にアスカとレイを先に行かせた後で自分もさっさとエントリープラグに入った。
気にしたら負けだ・・・いろいろな意味で・・・

---------------------------------------------------------------

混乱から立ち直ってやっと始まったシンクロ実験・・・実験場には上半身だけの模擬体が三体並んでいた
それぞれにシンジ達が乗っている。

『各パイロット、エントリー準備完了しました』
『テストスタートします』
『シュミレーションプラグを、挿入』
『システムを模擬体と接続します』

順調に進んでいく実験を見ながらリツコはモニター上の数値をチェックする。
モニターの中の数値や表示はさまざまな情報を示しているが特に異常な部分は見受けられない。
問題ないと判断したリツコがシンジ達の模擬体に通信をつなぐ。

「三人とも調子はどう?」
『何か違いますね・・・』
『感覚がおかしいのよ。右腕だけはっきりしていてあとはぼやけた感じ?』

シンジとアスカの感想にリツコが頷く。
エヴァそのものではないのだから違和感はあって当たり前だ。

「レイ?右手を動かすイメージをしてみて?」
『了解』

レイの乗っている模擬体の右腕が力瘤を作るように曲げられる。
その動きはまさに人間のそれで・・・エヴァのように装甲が無い分その動きは筋肉の動きまで分かって生々しい。

『シンクロ位置、正常』
『シュミレーションプラグを、模擬体経由でエヴァ本体と接続します』
「データー収集順調です」

リツコはマヤの言葉に頷く。
実験は順調に進んでいることにリツコは満足した。

「貴重なデーターね、MAGIを通常モードに移行」
「了解」

マヤがキーボードを操作すると実験情報がMAGIに送られてた。
それを受けたMAGIが対立モードに移行して審議を開始する。
モニターに映るMAGIの三台のコンピュータが審議中の表示になった。

「ジレンマか・・・。造った人間の性格が伺えるわね」

リツコのつぶやきを聞いたミサトがいぶかしげな顔になる。

「なに言ってるの?造ったのは、あんたでしょ?」
「・・・あなた、何も知らないのね」
「リツコが私みたくベラベラと自分の事、話さないからでしょ」

リツコはミサトの言葉を聞いて少し考えた。
確かにめったにこんなことは他人に話さない。
話す機会も話そうという気もなかった。

「そうね・・・私はシステムアップしただけ、基礎理論と本体を造ったのは母さんよ。」

ピーーー

MAGIの審議が終了し、議題が決議される。

---------------------------------------------------------------

「確認しているんだな?」
「ええ、一応」

発令所では冬月と青葉が難しい顔をしていた。
二人はじっと小さなモニターを覗き込んでいる。

「3日前に搬入されたパーツです。・・・ここですね変質しているのは」
「第87タンパク壁か・・・。」

青葉がモニターの一部を指差す。
そこには壁の一部に妙な紫のしみがあった。

「拡大するとシミの様な物が有ります。何でしょうね?これ?」
「浸食だろう?温度と伝導率が若干変化しています。無菌室の劣化が良く有るんです。」

日向が隣から口を挟んだ。
たしかに無茶な工事期間で完成させたために不良品が混ざったり、工事が疎かになった可能性は捨てきれない。

「工期が60日近く圧縮されてますから・・・また気泡が混ざっていたんでしょう?・・・ずさんですよ。B棟の工事は」
「そこは使徒が現れてからの工事だからな・・・」
「無理ないですよ。みんな疲れてますからね〜」

人間のやることに完璧はありえないのだ。
まして無理をさせればそのしわ寄せは必ずどこかに出てくる。

問題なのは間違いがないが理解も出来る・・・かといって放っても置けない。

「明日まで処理しておけ・・・六分儀がうるさいからな」
「「了解」」

冬月の言葉に答えると日向が実験場に連絡を入れた。

---------------------------------------------------------------

「また水漏れ・・・?」
「いえ、浸食だそうです。この上のタンパク壁」

発令所からの電話を受けながらマヤはリツコを振り返った。
リツコはいやそうな目で自分の頭上を見上げる。

「まいったわね・・・。テストに支障は?」
「今の所はなにも」
「では、続けて・・・。このテストはおいそれと中断する訳にはいかないわ。司令もうるさいし・・・。」
「了解」

リツコは模擬体に視線を戻して再び実験をつづける。
途中でやめたりは出来ない。
模擬体を経由してエヴァとパイロットとのラインをつなぐ。

『シンクロ位置正常』
『シミュレーションプラグを模擬体経由で、エヴァ本体と接続します。エヴァ零号機コンタクト確認』

ケージにある零号機の目が光った。

『ATフィールド、出力2ヨクトで発生します』

---------------------------------------------------------------

エントリープラグの中でシンジは退屈していた。
暇でしょうがない。

(やってることってパイロット側から見るといつものシンクロテストと変わらないんですよね〜)
(彼らにとっては何か意味があることかもしれないよ)
(ところでこれちゃんとモニター切れてるんでしょうね? )
(さてね)
(これモニターされてたら究極の羞恥プレイですよ?)
(ご愁傷・・・ん?)

話の途中でブギーポップが何かに反応した。
シンジもその変化に気がつく。

(どうかしたんですか?)
(まずいな・・・近い・・・)
(な、何がですか?)
(すぐにわかると思うが聞きたいかい?)
(ぜひ聞かせてください)
(使徒だよ)

その一言でシンジの顔が緊張したものになる。

(これ以上無いくらいシンプルですね。どこですか?)
(この真上)

さすがにシンジも噴出した。
通信機の先が何かあわただしい。

この日、ネルフは初めて本部内に使徒の侵入を許した。






To be continued...

(2007.07.28 初版)
(2007.10.06 改訂一版)


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