エピローグ 〔神世紀〕
後編
presented by 睦月様
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
たっぷり一分は呆けた後シンジの口から出た言葉がそれだった。
周りの皆はさもありなんと言う感じで頷いている。
「もう一度言うわね、結婚する気ない?」
「なにそれ?どういうこと?」
「そうね・・・いきなりもいきなりだし・・・実際見てもらった方が分かりやすいか・・・」
「分かりやすい?一体何を分かれって言うのさ母さん!?」
ユイは狼狽しているシンジを無視して内線を取った。
何処にかけているかはわからないが「例の物を・・・」と言う言葉だけが聞えたので何かをここに持ってこさせているのだろう。
電話をかけ終わったユイがソファーに戻って三分後、部屋の扉が開いた。
「日向さん?マヤさんに青葉さんまで?」
入ってきたのはオペレーター三人衆、しかもその後ろに続々と他の職員が続いている。
全員に共通しているのはその手に大きなダンボールをもっていることだ。
しかも結構重いらしい。
そのダンボールは次々に積み重なり、部屋の一角を占領した。
「これが見せたい物?」
「中を見てくれるかしら?」
ユイに言われた通り近くにあったダンボールの中身を覗く。
冊子と言う感じの本がたくさん入っていた。
なぜか本は豪華な表紙をしている。
中身より表紙の方が高いのでは無いだろうか?
シンジは一番上にある物を取り上げると開いて中身を見る。
そこには一枚の大きな写真と反対のページに簡単なプロフィールが乗っていた。
「・・・母さん、これって・・・」
「見た通りお見合い写真よ」
「・・・・・・母さん、知っているだろうけどもう一度確認するよ?・・・ぼくは男だ!!」
そう言ってシンジは何処の誰のものともしれないお見合い写真を床に叩きつけた。
開いたそこに載っていたのは美形ではあったが明らかに男の写真、プロフィールの名前も男のものだ。
「勘違いしないでシンジ、それは貴方宛の物じゃないわ」
「え?」
「アスカちゃんやレイちゃん達宛の物なのよ。」
「どういうこと?」
決戦の後、チルドレン達は一躍アイドルとなった。
考えて見れば当然なのだが世界を救ったと言う事実、そして彼女達のあの容姿を考えればメディアが放っておくわけがない。
さらにゲンドウもその点を利用し、平和維持のためにプロパガンダを頼んだのだ。
同時に、人の目に晒されている事、そして周囲に重要人物と認識される事でゼーレの残党の報復を避ける意味合いもある。
ちなみにシンジはそれに関わっていない。
シンジはもともと名声がほしくて戦ったわけでもないし、これからもブギーポップと共に闘う以上、名前を知られていたり顔が有名な事などマイナス要因しかない。
そこで本部のMAGIが吹っ飛んだのをいい事に自分の功績を全てアスカ、レイ、カヲルの功績として書き換えたのだ。
戦自に提出した資料もネルフはA-801の罪を戦自に追求しないと言う条件で消去、捏造し、クラスメイトの友人などは口止めした。
そう言う経緯でシンジはチルドレンでありながら世界中から賞賛を受けるでもなく、一般人に戻ったのだ。
ゲンドウ達は最大の功労者であるシンジにもと再三言ったのだが使徒との戦いが終わって統和機構が契約を守りつづけるか確信がなかった事もあり、シンジはこの町を離れる事が出来ない事情もあって諦めた。
「彼女達が有名になりすぎたの」
「有名になりすぎた?」
「ついでにマナちゃんとマユミちゃんもね」
「はい?なんであの二人まで?」
話を聞くとチルドレンの護衛としてあっちこっちについて行ったマナも目をつけられたらしい。
マナのあの活発な性格が沢山の人に受け入れられたのだ。
「でもマユミさんまでどうして?」
「彼女は本の方で有名でしょ?その流れから他のみんなとの関係が分かっちゃって・・・」
そう言ってユイは横目でゲンドウを睨んだ。
ゲンドウもばつが悪そうに視線をそらす。
山岸マユミ、最終戦において能力を使いすぎた彼女だがその後、レイの能力と適切な治療により失明などの最悪の事態は避けられた。
彼女は戦いの後、一冊の本を書き上げている。
内容はネルフの真実をノンフィクションでまとめたものだった。(と行ってもある程度の辻褄あわせはしたが)
それがゲンドウの目に止まり大々的に出版と相成ったのだが・・・しかしゲンドウはここで一つの失敗をした。
たしかに本によってメディアの届かない場所にもこの戦いの意味と真実を伝えることには成功した。
ゲンドウのもくろみは成功したと言える・・・失敗は本の著者をマユミのままで出版した事だ。
普通に考えれば書いたマユミの名前で出版するのは自然だが内容が内容だけに世界に真実を伝えた少女としてチルドレン三人に負けない有名人にランクアップした。
「このお見合い写真は去年から続々来ているの、あなたならこの意味分かるでしょ?」
「要するに世界を救った英雄達を自分達の国に引き込みたいってこと?」
日本の法律では16歳から結婚が可能だ。
チルドレンと言う生きた伝説をほしがる国は多い。
政略結婚というのは今の世にも存在する。
「頭の回転が速いわね、時代錯誤もいいところだけどアスカちゃんのこともあってね・・・」
最終戦後、アスカはドイツからの帰還要請を突っぱねた。
ドイツ支部で世界を滅ぼすための量産機を作り、その制作費の大半がドイツ市民の税金から出たとあってドイツ政府も厳しかったらしい。
ゲンドウと同じようにアスカをアイドル(文字通りの偶像)とすることでイメージアップしたかったらしいがそんな茶番にアスカは付き合う気はなかった。
シンジがいる日本を離れたくなかったという理由もあるが本人は認めていない。
顔を真っ赤にして否定すれば誰が見たってばればれだと思うのだが・・・
そんな経緯で彼女はさっさと日本に帰化して永住権を取得、父親と義母を説得し、面倒が二人に行かないように名前をラングレーから母と同じツェッペリンにして関係が切れたことをアピールしたのだ。
「そんなこんなでこのお見合い写真の山・・・」
「直接の要請がだめだったからって絡め手でってこと?」
「中にはその国の高官のご子息のものもあってむげに焼却処分にも出来ないのよ。一応お断りをしないとならないし・・・そうなると外交関係上面倒な体面を繕う必要もあるし・・・数が数だけに通常業務にまで支障が出てき始めているの。」
「事情は大体理解したけど、何でそれでぼくの結婚に繋がるわけ?・・・まさか!!」
シンジははっとなって思わず立ち上がった。
こんなときにもシンジの先読みは冴えている。
それを見たユイがニヤリと笑った。
「気づいたようね?いきなり結婚は無理でも許婚がいるということになれば単純計算でこのお見合い写真の5分の1が減ることになるわ」
「それじゃ政略結婚と何も変わらないじゃないか!!」
「あら?まったく違うわよ?」
「どこが!!」
「本人同意だもの」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?」
シンジは思わず聞き返した。
今ユイはなんと言っただろうか・・・本人同意?・・・誰が?
呆けるシンジを無視してユイは内線をつないだ。
どうやら外に待機していたらしくすぐに扉が開いた。
入ってきたのは・・・
「エントリーナンバー一番!!」
はっと正気に戻って見ればキョウコがどこから取り出したのかマイク片手に司会者役をしている。
しかもノリノリだ。
ユイはキョウコの様子を見て笑っている。
胎教に大声を出すのはよくないと遠慮したらしい。
「私の娘、アスカちゃん!!ツンデレだけどその強がったところがかわいい自慢の娘、シンジ君のおよめさんなら文句ないわ!!」
「マ、ママ・・・」
まずはアスカだった。
薄紅色のウエディングドレスを着ている。
手に持つブーケの花は赤いバラを使ってある。
花言葉は「情熱、愛情・あなたを愛します、貞節、美、模範的 」、アスカのイメージカラーでよく似合っている。
その顔が赤いのはキョウコのせいだけじゃないだろう。
「エントリーナンバー二番、綾波レイちゃん!!クールービューティーを地で行くおとなしい子、ユイによく似ているし、笑った顔がとってもかわいいの!!」
「シンジ君・・・」
アスカの後ろに続いて入ってきたのはレイだ。
薄い水色のウエディングドレスが彼女の髪の色とあっていて神秘的な雰囲気をまとっている。
持っているブーケの花は胡蝶蘭、大輪の花の意味は「幸福が翔んでくる・愛しています・優しい愛」純粋なレイを表すように白い花だ。
その白い顔が薄く桜色になっていて初々しい。
「エント−リーナンバー三番、霧島マナちゃん!!とっても元気な子でおばさんも大好き、きっとぐいぐい引っ張って行っちゃう頼りになるいい子よ!!」
「そ、それって褒められているんですかぁ〜?」
さらにマナが続く。
ヒマワリのような黄色系のドレスが彼女の闊達な性格を現している。
ブーケの花はひまわり、「情熱・輝き・憧れ・熱愛」の花、マナの笑顔のように大輪の花だ。
その笑顔もひまわりのように大輪の花を咲かせている。
「エントリーナンバー四番、山岸マユミちゃん!!おっとりした文学少女の彼女、大和撫子って感じね、きっと夫を立ててくれる奥さんになるはずの優良株、でも浮気とかはすぐにばれると思うわ!!」
「ち、ちょっと恥ずかしいですね」
マナの後ろから入ってきたのはマユミ、純白のドレスが髪の色と対照的でお互いの印象を高めている。
トレードマークの長い髪が印象的だ。
その手に持つのは白と紫の桔梗、「変わらぬ愛、誠実、従順」・・・実に彼女らしい。
今日はトレードマークのメガネをかけていないようだがコンタクトをしているのだろう。
メガネをかけていないマユミというのも新鮮だ。
「最後に、渚カヲルちゃん!!いろいろ規格外な自分の事を僕って呼ぶ女の子?、一体どんな結婚生活になるのか分からないけれどきっとエキサイティングになると思うわ!!」
「ふっドレスは良いね〜」
最後にカヲルが入ってきた。
薄い紫のドレスは初号機をイメージしたのだろうか?
大人びた雰囲気を持つカヲルには良く似合う。
ブーケは撫子、「いつも愛して・思慕・純愛・才能・無邪気・純粋な愛・大胆・貞節、お見舞・快活・女性の美」
アルカイックスマイルではなくはにかんだ笑みを浮かべている。
5人は呆けているシンジを無視して部屋の中央に一列に並んだ。
装いが彼女達に影響を与えているのかいつも闊達なアスカやマナも一緒になってその顔を薄い紅色にしている。
「シンジ、女の子を前にしていつまでも呆けているんじゃないの!」
ユイの言葉でシンジは我に返った。
しかし我に返っただけで混乱は現在進行形・・・ナニガオコッテイルノカリカイデキナイ
「な、何でいきなりお見合いパーティーみたいになっているのさ!!しかも何で司会役がキョウコさん!?むちゃくちゃテンション高いし!!」
「そのものずばりね、男のほうはシンちゃんだけだけど〜」
別人の声にシンジが見ると扉のところにミサト、山岸、凪の三人がいる。
山岸などはマユミの姿を見て滂沱の涙を流していた。
「ミサトさん!!な、なんで!?」
「そりゃあ私たちがこの子達をコーディネートしたから」
「凪さんも!?」
「失礼なやつだな、霧島の保護者は私だろうが?」
孤児であるマナには両親がいない。
凪はその代理と言うことだ。
「そんなことは問題じゃないわよシンジ?」
「へ?」
「あなたは誰を選ぶのかしら?」
はっと気づけば5人の顔がみな赤い。
じっとシンジを不安そうに、でも目をそらさずに見ている。
その真摯な視線に中途半端な答えは許されない。
「で、でもぼくは・・・」
世界の敵を排除するためにこの手を血に染めてきた。
そしてこれからも・・・そんな自分の手が誰かを抱き寄せていいものだろうか?
「この子達はあなたを選んだの、あなた以外の誰が彼女達を選ぶの?」
ユイは母として息子をいたわりながら女として少女達の思いを理解している。
だがしかし・・・ユイはいい意味でも悪い意味でも普通じゃなかった。
「ちなみにハーレムルートもありよ」
「はーれむるーと?」
「日本政府に一夫多妻制を認めるように働きかけているわ、いやな言い方だけどこの子達の影響は彼らも無視できないからね、他の国には渡したくないって言う事情もあるのよ。法案が通れば5人ともシンジのお嫁さんね〜」
「何だよそれ!!緊張感ぶち壊しじゃないか!!何考えているんだよ母さん!!」
「もちろん子供たちの幸せ」
ほかに何を気にする必要があるの?とばかりにシンジを見返すユイにシンジは頭が痛くなってきた。
不意に視線のあったゲンドウと強烈なシンパシーを感じる。
シンジは初めてゲンドウの偉大さを悟った。
こんな母の相手が出来る時点ですばらしい。
「まあそんな諸事情はおいておいて」
「置くの?」
「基本方針は決めておいたほうがいいと思うのよ。」
ユイはそういうとシンジの背中を押して5人の前に引き出す。
さっきのやり取りにも5人はまったく動じない。
頬を紅色の薄化粧に染めたままで希望と不安の内包した視線をシンジに向けている。
「う・・・あ・・・」
「ここで腰が引けていたら男が廃るわよ?」
「誰のせいだよ!!」
最初の状態ならば勢いに任せて誰か一人を選んでいたかもしれないがそんな空気はきれいさっぱり霧散していた。
(ひょっとしたらそれが狙いか?)
空気によってのぼせた頭で選ぶのでは無くきちんと自分の意志で選ばせるためにシンジを正気に戻したのだろうか?
そんなことを考えてユイを見ると・・・どうやらそうらしい・・・やさしい微笑を浮かべてシンジを見ている。
5人は自分の持つブーケを目の前に突き出した。
どうやらブーケの花を自分に見立てて、望むブーケをとれと言うことらしい・・・それをシンジの答えとしろと言うことだ。
それを見たシンジはあわてる。
何の覚悟もできてはいない。
そんな状態で答えを出していいものだろうか?・・・断じて否だろう。
しかし目の前で恥らいながらもシンジを見ている彼女達は答えを求めている。
アスカを選ぶ、レイを選ぶ、マナを選ぶ、マユミを選ぶ、カヲルを選ぶ、もしくはユイの言ったように全員を選ぶの6通り・・・
たちの悪いゲームの選択肢のようだ。
シンジが答えられずに固まっていると救いの手は意外な形でもたらされた。
「ただいま〜」
緊張が場違いなほどに明るい声で霧散する。
全員の視線が集まったそこにいたのはトテトテと言う感じで部屋の中に入ってきたメイだ。
お供にペンペンを連れている。
「あら?お帰りなさいメイ」
「メイちゃんお帰り〜幼稚園は終わったの?」
「うん。あれ?お姉ちゃん達キレ〜」
ドレス姿の姉達を見たメイが一直線に駆け出した。
きらきら輝いた瞳で5人を見ている。
この世界に戻ってきたメイは今、幼稚園に通っている。
もともとが5歳児だったので幼稚園にいっても違和感が無い。
シンジはほっとしてメイに近寄る。
横目で見ると機先を削がれた少女達は多少不満そうだったがさすがに相手が5歳児ではとがめるわけにも行かない。
シンジは苦笑しながらメイの相手を始めた。
問題の先送りだろうがシンジとしてはもう少しいろいろなことを考えてから答えを出したいのだ。
「お帰りメイちゃん?」
「ただいまお兄ちゃん。」
メイはいまユイの娘と言うことになっている。
メイには戸籍が無かったので作るときにユイの娘と言うことで登録していた。
あながち間違いでもないので何も問題は無い、ちなみにレイもユイの娘として登録しようとしたのだが本人が嫌がった。
理由は「・・・碇君と結婚できなくなるから」と言うことらしい。
お熱いことだ。
シンジは視線をメイの顔からその胸元に移した。
「お目付け役ご苦労様、余計なことしゃべらなかっただろうね?」
『わ〜ってるよ』
胸元のアンクから返事が来た。
いわずと知れたエンブリオだ。
今ではペンペンと一緒にメイのお目付け役をしている。
当然、外で不用意にしゃべらないように言ってあるし、自分の声がすでに聞こえているか聞こえないとわかっている人間の前以外でしゃべるなときつく言ってあった。
ちなみにメイのお目付け役を頼んだのはシンジではなくユイとキョウコだ
二人とも子供が幼いときにエヴァの中に取り込まれ、気がつけばすでに中学生、シンジはすでに自分の助けを必要としてなく、アスカに関しては・・・親以上に頼りにする存在を見つけていた。
二人そろって子育ての一番楽しい時期は過ぎ去っていたのだ。
その分メイに愛情を注いでやりたいらしい。
「ペンペンもご苦労様」
「クワワ!!」
シンジのねぎらいにペンペンは片方の羽を上げて答えた。
どこまでも良く出来たペンギンだ。
今夜は生魚を差し入れてやろう。
「シンジおにいちゃん?」
メイがいきなりシンジの名前を呼んだ。
シンジが見ればじっとメイはシンジを見ている。
「どうかしたのメイ?」
「これ」
メイは一枚のプリントを差し出した。
シンジはそれを受け取る。
プリントの上に書かれているのは「しょうらいのゆめ」、幼稚園らしくひらがなだ。
それを見たシンジは自分も同じ題材で作文を書いたのを思い出して苦笑する。
幼稚園児も高校生もたいした差は無いらしい。
メイがこれを自分に渡したと言うことは読めと言うことなのだろうと判断したシンジは何が書かれているのかと視線を下げて・・・固まった。
「シンちゃんどうしたの?」
ミサトが動きを止めたシンジを怪訝に思って近寄り、横からプリントを覗き込んで・・・噴出した。
しかしそれも仕方が無いだろう。
しょうらいのゆめ:およめさん
これはいい、女の子なら誰もが一度は憧れる夢だ。
しかし問題はそれに付随するオプション・・・”ブギーポップの”の一文、続けて読めば”ブギーポップのおよめさん”である。
ブギーポップになれる人間などそうそういない
となるとブギーポップのおよめさん=ブギーポップになったシンジのおよめさんの公式である。
シンジは完全に動きを固めた。
「お兄ちゃん?」
「え?」
シンジは聞きなれた声に視線をプリントから下に落とす。
レイと同じ赤い瞳とぶつかった。
いつの間にかメイが真下にいたようだ。
潤んだ瞳で見上げてくる。
「・・・いや?」
そんなことをいわれて「うん」などとほざくやつは人間じゃない。
いたら死ねばいいと結構まじめに思う。
「そ、そんなことは無いよ」
「本当に?」
「本当だよ」
メイの顔に花が開いたような笑みが浮かぶ。
自分にしがみついてきたメイを抱き上げながらこの世で最強なのは無垢な子供だなとシンジは悟った。
「・・・青田刈り」グサ!!
ボソッといわれた言葉がシンジの心臓をえぐる。
声の主は凪だ。
「な、凪さん?」
「第三次源氏物語計画・・・」
「おう!」ゾブ!!
凪の言葉がシンジの心をえぐる。
この状況では反論できないだけにきつい。
ちなみに第一次は源氏物語の光の君で、二次はゲンドウ・・・思い当たることがあるのかゲンドウがあらぬ方向を向いて我関せずの姿勢をとった。
シンジは心に突き刺さる言葉にダメージを受けながらも、メイを抱いているので耳を塞ぐことも出来なかった。
「お兄ちゃんどうしたの?」
「な、なんでもないよ〜」
メイに無様なところを見せるわけには行かないとの想いがシンジのすべてだった。
どうやらメイを選ぶという7つ目の選択肢があったらしい。
しかしこれを選んだ時・・・何もかもが終わる。
「メイちゃん、ちょっとこっちに来て。」
「あ、ユイお母さん、な〜に?」
「おやつがあるのよ、一緒に食べない?」
「おかし?うん、行く〜」
メイはシンジの腕からスルリと降りるとユイと一緒に部屋を出て行った。
他のみんなも一緒にになって出て行く。
その後姿を見送った後、無人になったシンジは深いため息をついた。
さすがに幼稚園児はシンジの守備範囲を外れすぎている。
「・・・いいご身分ね?」
訂正、部屋の中にまだ他に残った人間がいた。
出来れば一緒に出て行ってくれるか気づかないままにおきたかった人物達だ。
シンジが意を決して振り向くとそこにいたのは5人の少女達・・・みんなすばらしく”殺す笑み”になっていらっしゃる。
一世一代の決意を込めた告白だったのだから仕方が無い。
(気がつけば【Tutelary of gold】(黄金の守護者)に周りを囲まれているしな・・・)
紫の巨人(3メートル)12体にぐるりと円包囲された状況では苦笑すら沸いてこない。
「話し合いをしたい」
「遺言?」
「死ぬの確定か?裁判も無いんだな?」
「ロリペドは死罪と相場が決まっているわ、わざわざ裁くまでも無いでしょう?」
「そんな不名誉な分類でくくるな!!」
シンジとしてはそこのところはこだわっておきたい。
そうじゃないと碇シンジとして最低限のものすらなくしてしまう。
しかし怒り狂った彼女達はこの世で理性と言う言葉から最も遠いところにいた。
「まったく・・・私たちに手を出さないわけよね〜まさか幼女趣味だったなんて・・・」
アスカは顔を引きつらせながらシンジを指差して断定した。
シンジは悲しかった。
「シンジ君・・・メイはだめ・・・」
レイが悲しそうにシンジを見つめる。
シンジは自分は悪くないのに罪悪感を覚えた。
「まさかシンジ君がそんな趣味だったなんて・・・今度試してみる?」
マナは何か決意を固めた。
シンジは何を?と突っ込みたかったがやぶへびにしかならないと思ってやめた。
「シンジ君?病院にいきましょう。疲れてるんです。」
マユミがいたわりの瞳でシンジを見つめる。
シンジはその理不尽さに嘆いた。
「そうか、シンジ君はあのくらいの容姿が好みだったのか・・・こんど”なってみよう”かな?」
カヲルがありえないことを当然のように言い出す。
シンジはもうどうしようもないといろいろなものをあきらめた。
「この世には神も仏もいやしない。」
悪魔ならいる・・・多分、今自分のすぐそばでどんなお仕置きをするか楽しそうに考えているアスカとか、嬉しそうに同意しているマナとか、「命令ならそうするわ」とか言っているレイや、実ににこやかにに「そうですね〜でも・・・」などと助言をしているマユミ、そしてそのすべてを一歩ひいて見ているカヲル・・・彼女らの着ている清楚なドレスや化粧をされた顔、きれいなブーケなど美しいと言う要素を彼女らの発散している雰囲気がすべてをぶち壊していた。
しかし、悪魔がいれば当然・・・神もいる。
それはシンジの中に・・・
(シンジ君?)
「ブギーさん!!」
思わずシンジは大声でブギーポップの名前を呼んだ。
全員の視線が驚きとともにシンジに集中する。
(一体何事だい?これは?)
「そ、それより世界の敵ですね!?そうなんでしょう!!」
(ああ、そうなんだが・・・)
「なら行きましょう!すぐ行きましょう!!風のごとく光のごとく迅速かつ最大速度で!!!この世界の平和はぼくが守る!!」
そういうと扉の前に立ちふさがっていた【Tutelary of gold】(黄金の守護者)を【Left hand of denial】(否定の左手)で吹き飛ばして部屋を脱出した。
「あ、待ちなさいシンジ!!」
制止の声にも止まることなく、むしろ加速してシンジはその場を離れていく。
ブギーポップの力も借りて尋常じゃない速度だ。
「シンジ君・・・」
「ちっつ!!ぬかったわ!!!よく考えたらあいつの一番近くにいるのはあの死神じゃない!!!!」
「アスカ!!追うわよ!!!」
「もちろん!!」
「わ、わたしも!!」
「僕も行こうかな、面白そうだし」
そんなこんなで5人はシンジを追いかけて走り出す。
結構真剣な追いかけっこのはずだがこの面子にとってはいつものことだ。
皆、遊んでいる子供のような笑みを浮かべている。
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むかしむかし、あるところにひとりのおとこのこがいました。
おとこのこはひとりぼっちでした。
おとうさんはどこかしらないとおくにいってしまい、おかあさんはどこかしらないところにきえてしまいました。
だからおとこのこはひとりでした。
ほかのこにはおとうさんとおかあさんがいるのにおとこのこにはいませんでした。
おとこのこはとてもさみしいおもいをしていました。
あるよる、そんなおとこのまえにくろしょうぞくのおとこのこそっくりのひとがあらわれていいます。
「ぼくにはやらなければならないことがあるんだ。でもそれにはきみのたすけがひつようになる。たすけてほしい。」
そのひとはしにがみでした。
そのしんけんなおもいにおとこのこはこたえます。
「ぼくなんかでいいなら・・・」
そのひからしにがみとおとこのこはおともだちになりました。
おとこのこはしにがみにきょうりょくし、しにがみはおとこのこをまもりました。
おとこのこがしょうねんにせいちょうしたあるひ、とおくにいってしまったおとうさんからおてがみがとどきます。
てがみのとうりおとうさんのところにいってみるとしょうねんはおとうさんにせんそうがはじまったといわれました。
わるいかみさまがせめてきたのです。
しょうねんとしにがみはいっしょにたたかうことにしました。
たたかいのとちゅう、しょうねんはあおいかみとあかいめのおんなこにあいました。
おんなのこはいいます。
「わたしにはきずながありません、わたしはわたしがここにいていいきずなのあかしがほしいのです。」
しょうねんはおんなのこにいました。
「それならぼくときずなをむすぼうよ。」
そういうとおんなのこはびっくりしたかおになりました。
でもおずおずとそのてをのばしてしょうねんとあくしゅをしました。
おんなのこはしょうねんときずなをむすびました。
おんなのこのかおがはじめてえがおになりました。
せんそうはつづきます。
しょうねんはうみにうかぶおふねのうえであかいかみのおんなのこにであいました。
「わたしはだれよりもがんばらなきゃいけないの」
おんなのこはいいます。
「どうして?」
しょうねんのことばにおんなのこはなきそうなかおになりました。
「だってそうしないとだれもわたしをみてくれないの・・・」
おんなのこのめからなみだがあふれます。
しょうねんはあわててなぐさめます。
「それならぼくがきみをみているよ」
おんなのこはかおをあげておとこのこをみました。
「ほんとうに?」
おんなのこのことばにしょうねんはうなずきます。
「うん」
しょうねんのことばをきいたあかいかみのおんなのこはなくのをやめてほほえみました。
それからしばらくしてしょうねんのまえにおれんじいろのかみのおんなのこがあらわれました。
おんなのこはいいます。
「あなたのまわりわにぎやかね?わたしはにぎやかなのがすきなの、だからなまにいれてほしいの、おともだちになりましょう?」
おんなのこはひまわりのようにわらいます。
とてもあかるいおんなのこはしょうねんをたのしいきもちにさせます。
もちろんしょうねんはわらってうなずきました。
「ありがとう」
おんなのこはわらいました。
おんなのこはしょうねんのあたらしいおともだちになったのです。
しょうねんとしにがみはわるいかみさまのつかいとたたかいつづけます。
しょうねんもしにがみもけがをしますがたたかうのをやめません
そのたたかいのなかでわるいかみさまにとらわれていためがねをかけたくろいかみのおんなのこをたすけました。
おんなのこはいいます。
「たすけてくれてありがとう、あなたはとてもつよいのですね?」
おんなのこのことばにしょうねんはてれます。
「そんなことはないよ」
しかししょうねんのことばにおんなのこはあたまをよこにふりました。
「そんなあなたをちかくでみていてもいいですか?」
くろいかみのおんなのこはじっとしょうねんのこたえをまちました
やがてしょうねんがうなずくとおんなのこのかおはぱっとあかるくなりました。
せんそうももうすぐおわりです。
しょうねんとしにがみはがんばりました。
たくさんけがをしたけれどしょうねんはしにがみを、しにがみはしょうねんをまもってがんばってたたかいます。
そんなふたりのめのまえにさいごのてきがあらわれました。
それはぎんいろのかみのおんなのこでした。
「わたしはせんそうなんてどうでもいいのです。しんでもかまわないとおもっています。」
そういうおんなのこにしょうねんはちかづきます。
てきのおんなのこのめのまえにきたしょうねんはいいました。
「それならぼくといっしょにこない?きっとたのしいよ?」
ぎんいろのかみのおんなのこはしょうねんをびっくりしたかおでみました。
しょうねんはだまっておんなのこのこたえをまちます。
おんなのこはじっとかんがえたあと、しょうねんにてをさしだします。
しょうねんもわらってじぶんのてをだすとおんなのことあくしゅをしました。
いよいよせんそうもおわりです。
さいごにわるいかみさまがあらわれました。
それはとってもおおきなひとです。
わるいかみさまはしょうねんをたべてしまおうとしました。
でもそんなことはさせません。
あおいかみのおんなのこも・・・
あかいかみのおんなのこも・・・
おれんじいろのかみのおんなのこも・・・
くろいかみのおんなのこも・・・
ぎんいろのかみのおんなのこも・・・
みんないっしょにたたかいます。
わるいかみさまもさすがにしょうねんたちにはかてなくてまけてしまいました。
せんそうはおわったのです。
しょうねんはまわりをみまわしました
きがつけばひとりっきりだったしょうねんのまわりにはたくさんのおともだちがいました
きえてしまったはずのおかあさんともさいかいして、おとうさんももどってきました。
みんなわらっています。
しょうねんのまわりでわらっています。
「「「「おめでとう」」」」
みんながしょうねんをしゅくふくしました。
さみしくてないていたしょうねんはもうどこにもいません。
みんなのわのなかでわらっています。
そしてしょうねんのそばにはいつもみたいにしにがみがいました。
それがしょうねんとかわしたやくそくでありしにがみのいしなのです。
どんなことがあってもしにがみはしょうねんのともだちでした。
そしてこれからもずっとおともだちです
しょうねんはみんなにむかっていいました。
「ありがとう」
しょうねんはしあわせになりました。
これは天使と死神と福音と少年の物語
〜FIN〜
(あとがき)
長々とお付き合いくだっさって感謝です。
長い長いとは思っていましたがやはり100話は超えましたね、他のも合わせると自分が書いたものは130話くらいでしょうか?
書きたいことを全部積み込んだ結果というか・・・よく話が破綻しなかったなと・・・なにはともあれ天使と死神と福音とはこれにて終了です。
誤字の修正に付き合ってくださったナオキさんや掲示板で指摘してくださった方たちには頭が下がる思いです。
そしてそれに付き合ってくださったながちゃんさんにも、これから誤字が出たときにはお願いすることになると思いますがよろしくお願いします。
(ながちゃん@管理人よりのコメント)
正にお疲れ様の一言です。五ヶ月という短い期間を一気に駆け抜けられた達成感は一入かと思います。
数日かけて一気に読ませて頂きました。実は今回が初読です。勿論相当有名な作品であることは知っておりましたが、舞さんとこでは言うに及ばず、うちに投稿して下さった後も(誤字修正の時さえも)手を出しておりませんでした(汗)。
ですのでじっくりと舐めるように読ませて頂きました。
その際一読がてら誤字チェックでもして差し上げようかなと、逐一見つけてはメモをとり始めたんですが──
無理。
無理っす(笑)。
のっけ(プロローグ)から躓きました。メモの多さに(爆)。
だから他人様に期待しましょう(おい)。
私には無理でした(おい)。
ああ大丈夫。誤字くらいへっちゃらです。読めます読めます(おい)。
つーか人間些細なことなんて気にしちゃいけません(おい)。
……ゴメンなさい。m(_ _)m
でもこれ、ある種の才能ですね。前を見て後ろを振り返らない。倒れるなら前のめり。潔い姿勢です…………ちくしょう、全然フォローになってねえ……(汗)。
は、話を戻しますね。
清々しいほどの性善説なシンジ、そして登場人物たちでした。
拙作のドロドロキャラとは真逆ですな。きっと作者の心の清濁の差でしょう(笑)。
クロス元についてですが、私は小説を殆ど読まない人間なもので(汗)良くは知りませんでしたが、違和感なく読めたと思います。
さて、結局のところシンジは誰をパートナーに選んだのでしょう?
娘の名前と容姿からしてアスカかレイの二択かとは思うんですが、でも最後に何かいいように嵌められたような感想を漏らしてたことを考慮すると……やはりハーレムエンド?
いえいえ、ハーレム万歳ですよ。
ただ何にしてもヒカリだけハーレム要員じゃなかったのは(個人的に)残念かな……見たかったですねヒカリルート(笑)。
最後に、悪も悪なりにそれを成し遂げようという覚悟の描写があって見事でした。
まあ彼らに限らずどのキャラについてもそうですが。ただケンスケだけは違うというか、コイツ最後まで懲りてねえなーとは思いましたけどね(笑)。
さてさて、まだまだ年内は(少なくとも)修正作業が入るかとは思いますが、これからも頑張って下さいね。
大変お疲れ様でした。新作も期待しております。
ではでは。
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