将来の夢
2−A 碇シンジ

たとえどんなに偉い人や頭のいい人でもこの世界の中では歯車の一つにすぎません。
それこそ世界を救った英雄だろうがなんだろうが日常が続いていく限り社会と言うシステムに組み込まれていくわけであって、それに特別頭がいいとか力が強いとか言うのは関係無いと思っていたりいなかったり・・・
つまり官僚や政治家がこの世界を動かしているわけで無く彼らもこの世界を構成する部品の一つにすぎないと言うことだろうって考えは間違いだろうか?
むしろこの世界を動かしているのはそんな一部の人間では無くそれ以外の大勢の集団と言うことなのです・・・つまりは一般人万歳!!
政治家や官僚などの給料や公共施設などの建設費は税金から出ている事を考えれば公務員は雇われ人、税金を払っている人達は雇い主・・・ビバ労働者!!
ぼくはそんな歯車になりたい。


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「なんていうことを書いたら担任に「もっと夢を持ちなさいと」言われた上で同情された。・・・ぼくは大マジなのに・・・」
「いや、そりゃあ言われるやろ?」

トウジの突込みが来た。






天使と死神と福音と

エピローグ 〔神世紀〕
前編

presented by 睦月様







シンジは下校しながら自分の書いた作文を見て首をひねる。

「何処が悪いと思う?」
「そりゃあおまえ、もう少し夢って言うか未来の展望とかをだな・・・後は万歳とビバの部分だろう?」

ケンスケが取り合えず指摘してくるが笑いをこらえているのがばればれだ。
隣のトウジもうんうん頷いている。
こっちは何処がそんなに頷くところなのか疑問だ。

「まあ言っている事は間違いじゃないけどね〜」
「十代で枯れすぎなんだよお前は」

ケイタが合いの手をいれてムサシがあきれて突込みを入れる。
毎度のことだ・・・その証拠にこの5人はこの教室で馬鹿レンジャーと呼ばれている。
ちなみに名づけ親は頭文字がS・A・L、サルの彼女だ。

「大体、高二にもなって将来の夢なんて作文を書かせるなんて何考えているんだ?」
「高二だからだろう?来年は進路を決めなきゃならんし、それからじゃ遅すぎるじゃないか?」

5人の名札には第三新東京市第一高校、2−Aの文字と、それぞれの名前が刺繍してある。

「しかし早いもんだな〜もう3年か・・・」

ケンスケがしみじみと呟く。
一緒に並んで下校しているシンジ達も同じ気持ちで頷いた。

あの最終戦争からすでに3年が過ぎている。
その間にシンジ達は問題なく進学し、先日二年生に進級したところだ。

「まさかこうやって全員で歩ける日が来るなんてな〜」
「ケンスケ、縁起でも無い事言うな・・・」
「ははっ悪い悪い」

あの日・・・第三新東京市が襲われたあの日・・・トウジ、ケンスケ、ヒカリはネルフ職員の誘導で避難した。
今まで使徒の来襲で避難する事は多かったがあの日の避難はちょっと違った。
普通ならシェルターに行くところだがネルフ職員達が指示したのは第三新東京市の外・・・いつもと違う避難誘導に戸惑ってネルフ職員に質問した人間もいたが満足のゆく答を得られず。
時間が無いと言う職員達の様子から何かとんでもない事が起こっていると言うことだけは漠然と分かった。

三人はその様子にシンジ達に関係があるのではと考えたがそれを口には出さず、そのまま他の皆と一緒に避難した。
自分達が下手に関わってまずいことになる可能性はかなりある・・・実際一度シャムシェルの時に足手纏いになった前科があるし。
だから三人はシンジのことを気にしつつも、後ろ髪を引かれる思いで第三新東京市をはなれたのだ。

しばらくして振り返った彼らが見たのは第三新東京市の方から聞えてくる砲弾の音と風にたなびく黒い煙、そして空から降りてくる白い鳥のような何かだ。
何が起こっているのかはわからないがシンジ達の身を案じるのには十分すぎる理由だろう。
だからシンジ達と再会した三人は皆の無事な姿に安堵した。

「シンジ、今日はこれからどうする?ゲーセンでも行くか?」
「あ、ごめん・・・今日はこれから行くところあるから」
「ネルフか?って事はムサシとケイタも?」
「ああ」
「まあ僕達一応これでも護衛だから」

実際、シンジと本気(能力込み)でやりあえば間違いなくシンジが勝つわけだから護衛の必要があるかどうかはかなり疑問ではあるのだが・・・トウジとケンスケに別れを告げるとシンジ達3人は別の方向に歩き出す。

「まあネルフの呼び出しじゃあしゃあないわな〜」
「しかたないな、トウジ?俺達だけでゲーセン行くか?」
「ん?・・・ああ、その・・・なんや・・・」

何時もはきはきして歯に衣着せないトウジが珍しく何か迷っている。

「どうかしたのかトウジ?お前も予定ありって事?」
「そ、そんなとこや・・・」

ケンスケはトウジの視線が微妙に自分からそれている事に気がついた。
その視線を目で追って・・・

「ぬな!!」

ケンスケの顔がムンクになる。
そこにいたのは見知った人物だった。
少女漫画か昭和の熱血野球漫画の姉でもあるまいに電柱の影からこっちを見るクラスメート・・・名を洞木ヒカリ
はっきり言ってあれで隠れていると言うのならかくれんぼに対する冒涜だろう。
電柱は明らかにヒカリより細い上にトレードマークのお下げが両側から見えている。

「すまんな・・・買い物に付き合うって言うてしもうたんや・・・」
「トウジ・・・裏切ったな・・・皆と同じで俺を裏切ったんだ!!」
「人聞きの悪いやっちゃな・・・」

トウジは口を尖らせるがその顔はまんざらでもないらしい

「そいじゃあわいは行くわ」

そう言うとトウジはヒカリに近づいていく。
電柱から出てきたヒカリと並んで歩いていく姿は恋人にしか見えない・・・なぜならばヒカリがトウジの腕に自分の手を絡めているから・・・

どこかでゲームセットの声が聞えた気がする。
何かケンスケの中でいろいろ終わったらしい。

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3年前・・・ゼーレの侵攻を退けたシンジ達は残っていた戦自の残存兵力を蹴散らすとネルフ職員を護衛しながら松代に向かった。

目的はミサトがリツコに約束したMAGI2号機の確保と今後のためだ。
いくら最後のMAGIが残っている松代とは言えEVA4機に四方を固められればどうにも出来なかった。
防衛兵器はEVAにとって役には立たないし、全てのEVAにはS2機関がある。
持久戦も無理となれば篭城も意味が無い。
松代の職員が白旗を振って出てくるまでに一時間もかからなかった。

その後、松代を占拠したシンジ達はMAGI2号機を使ってさっそく世界中のコンピューターにアクセスした。
目的はただ一つ、ネルフ本部から持ち出した映像ファイルを流すためだ。

戦自が本部に侵攻して来たとき、当然であるがネルフ側の職員も無事ではすまなかった。
こちらは所詮実験組織の延長、本職の戦争屋とでは雲泥の差がでる。
犠牲者の数自体は凪と亨の活躍で最小限に抑えられたがそれでも皆無では無い。

・・・ネルフから持ち出した映像は戦自に投降した職員が問答無用で撃ち殺されたり逃げるところを撃たれたりしたところを映した監視カメラの映像だった。

これをMAGIを使って発信した所でチェックメイト・・・それを見た国内外から日本政府に抗議の電話が殺到、追撃を考えていた戦自の隊員達も動くに動けなくなった。

所詮政府など国民の代表の集まりだ。
雇い主はあくまで国民であって使用人風情がご主人様の意向を無視するなどあってはならない。
これが世論の力であり国家の基本だ。
しかもこれは明らかにゼーレに味方する行為、世界の世論も黙ってはいない。

命令を下したゼーレ信奉者の閣僚はサードインパクトで全てを丸投げするつもりだったのだろう。
完全に当てが外れてさっさと逃げ出していたようだが・・・数日後、近くの湖に水死体で浮かんでいるのが発見された。
自殺にも見える状況だがおそらくは統和機構が関係しているのだろう。

「統和機構って言えば・・・」
「どうかしたのかシンジ?」
「フォルテッシモが何もちょっかいかけてこなかったなって・・・」

不思議なことだが戦闘中に姿を見た統和機構の最強は戦闘中も戦闘後も姿を見せなかった。
てっきり勝負を挑んで来ると思っていたのでシンジとしては肩透かしを食らったのだ。

「やっぱりあれじゃないの?シンジ君と向こうのトップがお互いの不可侵を約束したから・・・」
「それは無いと思うんだよね・・・」

一回戦ったシンジには分かる。
フォルテッシモは統和機構に所属してはいるがおそらくそれは都合がいいためだ。
だとすれば何が目的でシンジたちを見逃したのか?
考えられるのは2つ・・・
美味い物は後にとっておくつもりかもしくはさらに自分を磨いてから再戦に望むつもりか・・・

「ん?シンジ、どうかしたのか?顔色悪いぞ?」
「え?いや、なんでもないよ」
「そうか?」

顔色に出ていたらしい。
予想が当たっていたらうんざりする話だ。
程なく地下に通じる扉の前にたどり着くとシンジたち三人は自分のIDカードでシャッターを開けて中に入る。
扉の先に現れたのはネルフ名物の長いエスカレーターだ。

当然シンジ達はエスカレーターに乗るがやはり長い、少し時間がかかりながらもエスカレーターが終わるがそこには人影があった。

「あれ?加持さんにリツコさん?」

エスカレーターから降りたシンジは見覚えのある人物を見つけて声をかける。

「ん?ああ、シンジ君か」
「こんにちわシンジ君」

加持とリツコのほうもシンジに気がついて手を振ってきた。

「今日は仕事ですか?」
「いや、仕事明けだよ。」
「大変ですね、保安部は人員が多いから」
「まあね」

シンジの言葉に加持は引きつった笑みとともに苦笑した。
すべてが終わってネルフが新しいスタートを切ったとき、作戦部が解散になった。

それも仕方が無い、もう使徒はこないのだ。
なのに作戦部など存在していても役に立ちはしない。
結果として保安部に吸収される形で作戦部の人員が移動したために保安部はかなりの規模に膨れ上がることになる。
そんな中で保安部部長になったのがこの加持である。
もともと気ままな人間だったために保安部長の肩書きが少し窮屈そうだが加持の性格を考えればこのくらいのことをして引きとめておかないと”彼女”がかわいそうだ。

「そういえばミサトさん・・・いえ、加持夫人はお元気ですか?」

戦いの後、加持とミサトは正式に籍を入れた。

ミサトは籍を入れると同時にネルフに辞表を出した。
再就職先は加持の隣・・・永久就職って奴だ。
二人とも”ある事情”で年貢の納めどきでもあったので好都合だったということもある。

「ああ、本人はいたって元気だよ。」
「お子さんも?」
「もちろん」

二人には男の子供がいる。
時系列的にどうも結婚式を挙げる少し前に妊娠していたらしい。
結婚式が終わってしばらくしてから悪阻がくるまで本人も気づかなかった。
かくして加持は伴侶と息子を同時に手に入れたのだ。

「でもこんなところでリツコさんを口説いていたなんて知れたら事ですよ?」
「ははっさすがにリッちゃんはな〜そんな勇気は無いよ。」
「さすがに奥さんの親友で”人妻”はまずいですか?」

実は結婚したのはミサトだけではなかった。
今のリツコの苗字は赤木ではない・・・時田リツコだ。

告白したのは時田らしい、それをリツコが受けた形だ。
リツコが時田のどこに惹かれたのかはわからないが馬があったのだろう。
誰にも知られずひっそりと交際を続けていた彼らは最終決戦の後、そのことを大暴露・・・マヤなどは軽くあっちの世界に旅立った。

最終戦後、半年ほど期間を置いてから二組のカップルは一緒に式を挙げたのだが・・・実際はそう穏やかでもなかったりする。

式自体はネルフからも出資金があって豪華だった。
もちろん宣伝効果を考えての事でもあるが全員ネルフの幹部であることと、この世界に少しでも明るい話題をと言うことで特に気にしなかった。
むしろミサトなどは式が豪華になると言って喜んでいたほどだ。

問題はチャペル式のメインイベント・・・ブーケトス・・・
ミサトとリツコは同時に投げるはずだったのだが・・・目の前に並んだそうそうたる面子にせっかくの晴れ舞台でありながら寒気を覚えた。

レイ、アスカ、マナ、マユミ、カヲル・・・他にチャレンジャー(誤字にあらず)はいなかった。
何時も静かで寡黙なレイやおっとりしているマユミまで雰囲気が違った。
この五人の本性を知る皆が思った事は一つ・・・

((((((まずい)))))))

ミサトとリツコにブロックサインでトスをしばらく遅らせるように指示すると、全員で何も知らない一般の参加者達を避難させた。
カメラなども証拠隠滅のためにもって行って貰い。
残ったのは新郎新婦の4人とブーケを取るために”全力”で挑む気マンマンの5人・・・

「ミサト!リツコ!!早くしなさいよ!!!」
「ミサトさん・・・リツコさん・・・私へ・・・」
「葛城さ〜ん、赤木博士〜霧間マナ!霧間マナに〜!!」
「お二人とも!!先日約束しましたよね!?私に投げてっくれるって!!私の目を見てください!!!」
「ブーケトスはいいね〜リリンが考えた結婚式のメインイベントだよ。そうは思わないかい?」


アスカ、レイ、マナ、マユミ、カヲルはすでに臨戦体勢だ。

マユミなどは能力で記憶操作をする体勢になっているし、5人の周囲の風景が歪んで見えるのはマナの力だろう。

おそらくトスされたブーケを自分以外に見えなくするつもりだ。

何気にレイの足元の地面が沈みかけているのは単純な身体能力の強化で前に出るつもりらしい。

それと周囲にうっすらといくつかの人影が浮かんできているのはアスカの【Tutelary of gold】(黄金の守護者)が実体化しようとしている証。
ちなみに自然体で立っているカヲルの手の中でオレンジ色のATフィールドが発生していた。

・・・結論から言えば皆周りが見えていない。

一触即発の状況に新郎新婦達が周りを見回すが全員が距離を取っている。
さすがに巻き込まれたらその余波だけで別の世界に旅立ちかねない。

特にシンジは平身低頭で謝ることしか出来なかった。
ブギーポップなしにあんなところに飛び込めば間違いなく死ぬ。
死神のパートナーだからって死ぬときゃ死ぬのだ。

「あの時程シンジ君の事を薄情だと思った事はなかったわ・・・」
「ははっ」

今でも時々ミサトとリツコこの話でシンジを責める。
恨み節と言うわけでなく顔を引きつらせるシンジをからかうためだ。

ちなみにブーケを受け取ったのは5人のうち誰でもなかった。
ミサトとリツコが5人の迫力に押されて投げ渡したとき・・・

ゴウ!!

両者達の間を火線が一閃した。
思わず意表を突かれて全員が硬直する。
ブーケは炎によって起こった上昇気流にあおられて5人の頭上を超えて背後に飛んで行った。

「おまえ達・・・場所をわきまえろ」

そう言ってブーケを取ったのは凪とその隣に並んでいたマヤだった。
誰が取っても無事にすまないと判断した凪が強攻策に出たのだ。
少女達は残念そうだったがさすがに凪に逆らう気は無いらしくしょんぼりしていた。

補足だが今のネルフに伊吹マヤという人物はいない。
ただし日向マヤと言う人物はいる。
もちろん旧姓伊吹マヤだ。

ミサトとリツコの結婚後、日向は憧れのミサトが結婚した事で、マヤは憧れのリツコが結婚した事でちょっと沈んでいた。

・・・まあ、振られたもの同士と言うかそんな感じで付き合い始めたらしく4ヶ月前に結婚、二人とも結婚後もネルフに留まったために時々ネルフの内部で新婚で幸せそうな二人を見る事が出来る。

ブーケトスのジンクス・・・侮りがたし・・・

ちなみにもう一人のブーケゲット者である凪はまだフリーだ。
しかし青葉と健太郎のアタックは続いているらしい。
凪の力とその性格を知ってもアタックしつづけている事を考えれば二人とも本気のようだ。

彼女はいまだにこの町にいて保健医をしている。
もっとも職場は第一中学から第一高に変わっているのでシンジ達は何時も学校の保健室で会っていた。

先日、シンジ達が保健室に遊びに言った時・・・

「結婚か・・・」

とぼそっと呟いたのをシンジ達は聞き逃していない。
どちらになるかはわからないが凪も年貢の納め時が近いのだろうか?
女である凪に使う言葉じゃないがなぜか違和感がない。

「どうかしたの?」
「え?」
「くすくす笑っていたわよ?」

どうやら無意識に笑っていたようだ・・・少し恥ずかしかった。

「ところで、どうしてネルフへ?」
「ええ、ちょっと司令室に呼び出されまして・・・・」
「司令室に?」

リツコと加持は何か思い当たる事があるのか曖昧な笑みを浮かべた。
よくわからないがいやな予感がする。

「どうかしたんですか?もしかして呼び出される理由に心当たりでも?」
「いや・・・俺の口からは・・・」
「そうね、自分で見た方が早いでしょうし・・・」

全く要領を得なかった。
何かを知っているようだがそれをシンジに言うのを避けている。

「何なんです?」
「・・・司令室に行けば分かるわ、多分・・・皆、待っていると思うから早く行った方がいいわよ。」
「皆、待っている?」
「シンジ君・・・がんばれ」
「は?え?ちょおっと!!」

加持とリツコは逃げ出すような勢いでその場を離れた。
残されたシンジ、ムサシ、ケイタはお互いに顔を見合わせる。

「・・・なあシンジ?なんかとんでもないことが起こりそうな予感がするんだが?」
「僕もそう思うよシンジ君」
「そりゃあぼくもそう思うけどさ・・・行かないわけにもいかないでしょう?」

どうやら何かえらいことが事が起こりそうだが”呼び出した相手”が相手なだけに無碍にも出来ない。

「・・・まあ何が起こってもシンジが中心だろうから俺はかまわないけど」
「そうだね、ガンバだよシンジ君。」
「君らの中でのぼくの位置づけって奴をじっくり話したくなったよ。今度拳で語り合おうか?」

シンジ達はひしひしと嫌な予感を感じながら自動扉を抜けてジオフロントに出た。
ジオフロントに出たシンジ達は広大な空間に足を踏み出す。

3年前、本部は自爆したが黒い月と呼ばれる地下空間はいまだに健在だった。
まあこれだけ広大な空間を破壊するためにはN2が数個分必要になるだろう。
元々証拠隠滅などが目的の自爆装置だったのでジオフロント自体は問題なかったが対照的に本部は完全に崩壊していた。

シンジ達が足を向けた方向には工事の音と建設中の黒い建物がある。
新しい本部だ。
わずかに残っている基礎を再利用したほうが安くつくということから以前と同じピラミット形の建物になるらしい。

白かった本部の色がなぜ黒になったかというと、ほとんど一から作り直すことになったのでついでに色を白から黒にしたらしい。
”発案者”に言わせると秘密基地はやはり悪の組織のごとく黒でなければならないとかどうとか・・・本当にどうでもいい理由だ。
松代のMAGI2号機もすでに運び込まれている。

もっとも要塞都市としての機能は無い。
地上の兵装ビルに関しても中身の弾薬を取り出して”まっとうなビル”に改装中だ。
もはや戦う必要の無いこの町には過ぎた代物でしかない。

ちなみに・・・本部の自爆によって当然だがセントラルドグマに通じる道・・・というかセントラルドグマ自体完全に埋まっていた。
新しい本部はセントラルドグマを復活させること無く硬化ベークライトを流し込み、地下への道を完全に埋め立てた上に建設中だ。
レイの育ったあの無機質な部屋も、ダミープラグを開発していたあの部屋も、そしてリリスの体が磔られた十字架のあるあの空間もどうなったか知るものはいない。

シンジ達は工事中のブロックを抜けて目的の部屋に向かった。
それは以前ゲンドウがいた司令執務室の場所・・・その前に立ったシンジは自分のIDカードをスリットに通して扉を開けて中にはいる。

室内の広さは以前と同じだが天井と床にはセフィロトの木はなく、変わりに十分な照明が取り付けられ、何もなかった部屋には書類整理用の本棚や来客用の応接セットがセンスよく並べられている。
所々にアクセントとして小物が置いてあって部屋の主の性格がうかがえた。
ビフォー・アフターでくらべれば断然アフターだろう。
10人が10人ともそう言うはずだ。
そしてこの部屋をコーディネートした張本人は正面の自分専用の机にからシンジを見ている。

「来たよ。待たせちゃったかな?」
「・・・問題ない。」

シンジの言葉にゲンドウが応える。
いつものゲンドウポーズで斜め後ろには冬月が控えていた。
シンジは半眼になって”真横”を見る。

「・・・そんなところで何をしているのさ?」

シンジが視線を向けた先にゲンドウと冬月がいた。
この部屋には場違いと言うか笑いを狙っているとしか思えないような御座を敷き、これまた何処から持ってきたのか木箱の上でいつものポーズを取っている。
木箱の表面に「みかん」とあるのはお約束だ・・・どこから見つけてきたのやら・・・

「「・・・・・・」」

シンジもゲンドウも言葉がない。
話が進まないと判断してシンジは前を向いた。
おそらくこれをやったのは目の前の人物だ。

「これは母さんの仕業?」
「そうよ〜」

母、ユイはニッコリ笑って頷いた。
その横にはキョウコが立っている。

今から7ヶ月ほど前、エヴァに取り込まれていたユイ達は帰還した。
エヴァが本当の意味でいらなくなったからだ。

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最終戦争の後、ユイの睨んだ通りこの世界は混乱した。
影から世界をコントロールしていたゼーレがいなくなり、枷のなくなった各国がこの機に乗じて自国の力を高めようと軍事、経済の両面で騒ぎ始めたのだ。
放っておけば第三次世界大戦に発展していたかもしれない。

リリスの言った通り、あの巨人は量産機とキール達の魂を苗床にしたと言ってもまったく別の種だったのだ。
ゼーレがいなかった事になればこれほどの混乱はなかったかもしれないがどうしようもない。

そんな世界情勢の中で日本も他の国に負けないくらい混乱を極めていたがそれに加えて内閣の重要な閣僚がゼーレに言われるままにA-801を発令した事もあって国民からの支持はどん底、自然に国が崩壊する可能性すらあった。

しかし、そんな乱れた国をまとめる存在が一つだけこの国には存在した・・・ネルフである。
政府はネルフに協力を要請・・・要するに恥も外聞もなく助けてくれとなきついたのだ。

これに面食らったのはシンジではなくゲンドウと冬月だった。
実はこの二人、ゼーレがいなくなった事で自分達の出番は終わったとばかりにMAGIを使って自分達がやってきた事を世界に発信しようとした矢先だった。

本来はゲンドウが全てを行なったとして冬月とリツコは関係ないとするつもりだったようだが二人に気づかれて(MAGIを使うのにリツコに気づかれないように行なうことは無理だ。)問い詰められた結果・・・案の定、二人とも自分も罪を償うと言い出した。
三人だけでの話し合いの後、ゲンドウは冬月が共に罪を償うと言う意思を曲げることは無いと悟って諦めた。
なにせゲンドウが本部で囮になって死のうとしたときにまでついてきたのだ。

しかし問題はリツコだった。
彼女まで巻き込むことは出来ないとゲンドウ、冬月がふたりがかりで説得に当たったがリツコは首を縦に振らなかった。
リツコもかなり強情な性格をしているが・・・ゲンドウと二人だけで個室に入り何時間か後に出てきたときにはしぶしぶではあったが自分は関係なかった事にすると言うことに了承してくれた。
二人だけで何を話したのか・・・その内容は誰も知らないが部屋から出てきたゲンドウのほほが平手の形に赤くなっていた事とリツコが瞳を涙でうるませていた事・・・これ以上の詮索は無用だろう。

ゲンドウ達にとっては自分達の秘密を公開して法の裁きを受ける。
間違いなく死刑だろうがそれでいい・・・けじめの意味でも償いの意味でも・・・もっとも、それで許されるとは二人とも露ほども思っていない。
ただ静かに裁きを待つだけだったのだが、いきなり政府から協力してくれといわれて困惑した。

さらにシンジの言葉も追い討ちをかける・・・ユイがいずれ初号機から戻ってきて自分に裁きを下す。

ユイが自分を裁く・・・会いたいと思い求めて・・・会う資格が自分には無いと分かっているゲンドウは・・・しかし不純ではあるがユイに会える事に喜ぶ気持ちが湧き上がるのを抑えられず・・・彼女に裁かれるのならそれが死刑宣告でも本望、そしてそれは冬月も同じだった。

二人の心は決まった。
子供達のためにも今の混乱しているこの世界を少しでも安定させた状態でユイを迎え入れたい。
その上でユイの裁きを受け、もしそれで不十分なら予定通り真実を公開して法の裁きを受ける。

その後の二人は正しい意味で寝る間も惜しんで働いた。
各国との交渉、平和維持のための仲裁、それがだめならエヴァによる脅しと使える手は何でも使ってこの世界の混乱を抑えるために尽力したのだ。
もちろんそれ相応の代償もあった。
過労で倒れたことは何度もあったし、邪魔だからと言う理由で命を狙われたことも一度や二度じゃない。

しかしその結果・・・世界は一年ほどで危なげなバランスを保ちながらも一応の安定を見せ始めることになる。
さらに次の一年で世界はゼーレがいない世界として構築を始めた。

たくさんの人がゲンドウと冬月の行いに感謝し、ほめたが当の二人はこの程度のことは償いにもなりはしないと漏らしていたのをシンジ達は覚えている。
そして運命の7ヶ月前・・・世界が一応の安定をしたと判断したシンジたちはユイ、キョウコ、メイのサルベージを行った。

以前とは違い、本人達が目覚めている状態に加えてシンジたちのサポートもあり、ユイたちは無事にこの世界に帰還した。

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「う・・・」
「母さん、ぼくのこと分かる?」
「シンちゃん、戻ってきたのね・・・」

コアから抜け出すように出てきたユイにシンジは用意していた着替えを渡す。
ユイはそれを着ると目の前のシンジを強く抱きしめた。
10年ぶりの生身の体での再会にシンジもユイを抱きしめる。
弐号機の前で抱き合うアスカとキョウコ、零号機の前ではレイとメイが抱き合って泣いていた。
メイだけは何故レイが泣いているのか不思議そうではあったが・・・

「・・・シンジ?ゲンドウさんはどこ?」
「私はここだ。」

聞き覚えのある声に顔を上げたユイが見たのは少し離れたところに立つゲンドウと冬月だ。
ゲンドウはいつもかけているサングラスをはずしてまっすぐにユイとシンジを見ている。

「・・・シンジ、ちょっとごめんなさい・・・」

ユイはシンジにそういうと抱きしめていた手を離してゲンドウの元に歩いていく。
一歩一歩二人の距離が近づいていくごとに周囲の緊張が高まった。
やがて二人の距離が触れ合うほどに近くなる。

「・・・ゲンドウさん?」
「む・・・う・・・」

ゲンドウの顔に冷や汗が流れる。

(なんだ?おびえてる?)

シンジはゲンドウの様子に疑問を持った。
よく見れば冬月もだ。
ユイに叱責されるのを恐れているのは分かるがどうもゲンドウの緊張はそれだけではないように思える。

「シンジや周りの皆さんに迷惑をおかけして・・・覚悟は出来ていますか?」
「わ、分かっている。」

ゲンドウは覚悟を決めたらしい。
体から余計な力が抜けた。
それに対してユイは右の平手を振りかぶる。

バチン!!

景気のいい音が飛んだ・・・ついでにゲンドウも・・・

「「「「「「「「なぬ!!!!!」」」」」」」

全員がそろって叫んだのも仕方の無いことだろう。
大の大人、しかもゲンドウはわりと長身でもある。
それがびんた一発で宙を舞ったのだ。

ドシャ!!

床に落下したゲンドウはピクリとも動かない。
全員が唖然とする中で冬月だけは視線をそらしてゲンドウを見ないようにした。
まだ序の口だと知っているから・・・

ユイはゲンドウに近づくとマウントポジションになって左右のこぶしを容赦なく振るう。
一発はいるごとにゲンドウの体が痙攣する。
同時に飛び散る赤いものでユイの拳が真っ赤に染まっていく。

「ユ、ユイ君?」
「先生・・・少し待っていてくださいね♡」

もともと白かった冬月が燃え尽きた。
あまりの凄惨さに誰もユイをとめられない。
レイはメイに見せないように体でかばっている。

呆然とする一同の中で場違いにも笑っている人間が一人・・・キョウコだ。

「ユイったら衰えてないわね〜」
「ど、どういうことなのよママ!?」
「ユイね、ああ見えて合気道と空手の有段者なの、研究の気晴らしで習ったらしいんだけどね・・・シンジ君の強さってユイからの遺伝じゃないかしら?どう見てもゲンドウさんに似てないし・・・」
「そ、そう・・・」

後に碇ユイの暴走と呼ばれる事件は老人愛護の精神に喧嘩を売るように冬月をゲンドウと同じくらいぼろぼろにするまで続くことになる。
二人ともよく死ななかったものだ。

「皆さん、ごめんなさい・・・」
「・・・すまなかった。」
「申し訳ない・・・」

二人のお仕置きに満足したユイは気絶した二人を無理やり起こすと自分も含めて一列に並ばせた。
そしてその場でひざを突くと三人そろって土下座をしてその場にいた皆に謝った。

あっけにとられて他のみんなは何も言えない。
その後、ユイはゲンドウと冬月をつれて個室に向かいお説教が始まった。
時々”打撃音”も交えた数時間に及んだお説教から開放されたとき、ゲンドウと冬月は冗談でなく死に掛けていたらしい。

ユイは多少の検査の後、キョウコ、メイとともに異常無しと判断された。

回復したユイとキョウコはナオコの代わりにリツコを加えた三人で再び東方三賢者と呼ばれるようになった。

今では実質的なネルフの司令、副司令となっている・・・って言うかユイに逆らえる人間などいない。
ちなみに、本部の色を黒くするように指示したのもユイだ。
かなり濃い趣味を持っているらしい。

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「それで?話って何さ?」

ここでこうしていて突っ立っていても話が進まないと判断したシンジが本題に入ろうと話を振った。

「そうね、話が長くなるから座ってくれない?」

そういってユイは応接セットのソファーを指差した。
シンジ達は頷いてソファーに座る。
結構いい物のようで座った部分が沈み込むほど柔らかい。

ユイとキョウコも椅子から立ち上がってシンジたちのところに移動してきた。
そのとき、ユイの下腹部のふくらみがシンジの目に留まる。

「順調のようだね?」
「そうね、シンちゃんのときのことを思い出すわ」

ユイはにっこりと微笑んだ。
こちらの世界に戻ってきたとき行われたいくつかの検査でユイの妊娠が発覚した。
それを聞いたユイはただ微笑むだけ・・・シンジが知っていたのか?とたずねるとユイは微笑んでうなずいた。
話を聞くとユイはどうやら初号機に取り込まれたとき妊娠していたらしい。
しかしごく初期だったためにユイ自身もそれに気がつかなかった。
その事実を知ったのはリリスに聞いたから

「”リリス”は元気?」
「ええ、とっても元気よ。」

しかもユイはまだ魂の入っていない胎児にリリスの魂を入れて出て来たらしい。
その話を聞いたとき、シンジは心から女性に尊敬の念を抱いた。
男には絶対出来ない。

同時に最後の別れのときにリリスが自分のことをお兄ちゃんと呼んだ理由がやっと分かった。
あの時すでにユイとリリスの間で話が終わっていたと言うことだろう。
弟か妹・・・しかも魂はあのリリスだ。
どんな子供になるか想像も出来ない。
まだ生まれてもいない兄弟のために未来に不安を覚えるのはどうしたものか・・・

「・・・コーヒーでも入れよう。」

今まで何もしゃべらなかったゲンドウが立ち上がるとともにそんなことを言った。

「六分儀、私も手伝おう。」
「お願いしますよ先生」

二人は連れ立って部屋の隅に置かれたコーヒーメーカーまで行く。
リツコお勧めの一品

「・・・・・・」

シンジはゲンドウが右足を引きずっているのに気がついた。
あの戦いのときに撃たれた傷だ。
一時は出血多量で死に掛けていたのだが凪の判断と病院でドラキュラ並みの輸血を行ったところ命は助かった。

しかし、銃弾は骨を打ち抜いて砕いていたためにゲンドウの足には後遺症が残ったのだ。
レイの能力で足を直そうとしたのだがゲンドウはそれを拒否した。

曰く・・・「この怪我は私のおろかさが招いたものだ。この傷がある限り私は自分の罪を不自由と言う形で自覚できる。」と言うことらしい。
どうやらゲンドウは思っていた物に輪をかけて馬鹿だったらしい。
もっとも不快な馬鹿ではないが、これがユイの言うかわいいところなのだろうか・・・

程なくシンジ達の目の前に人数分のコーヒーが用意された。

「ありがとうございます六分儀さん」
「ああ・・・問題ない。」

シンジはユイが一生ゲンドウと夫婦に戻ることはないということを知っている。
そしてそれがユイがゲンドウに下した罰であるということも・・・ただユイのそばにいる・・・・・・・他人として・・・・・・

ゲンドウはユイを求めて世界を滅ぼそうとした。
それはただ単にユイに会いたかったから、いとしい妻に会うためだけにゼーレに加担した。
世界を敵に回しても手に入れようとしたユイがそばにいるのに妻でも恋人でもなく赤の他人、二人の関係はそれ以上になることは無い・・・決して・・・すべてをかけて求めたユイは、目の前にいるのに誰より遠い存在としてある・・・自分には決して手に入れられない存在になってしまった・・・それこそ死ぬまで・・・ユイに対する思いが強いほどにこの責め苦はゲンドウを苛む。
だからこそユイはゲンドウへの罰とした。
肉体ではなく心に刻む罰・・・刑期も何も無いということは許されることもないということ・・・ある意味もっとも重い罰だ。

シンジはそれに対して何も言わない。
ゲンドウに関することはユイに一任している。
二人の息子とはいえ口を出すところではない。

しかしシンジは気づいている。
これはゲンドウに対する罰だけではない。
ユイに対する罰でもある。

たとえどんな経緯があろうとも二人は愛し合っていたのだ。
一方通行の愛ではなくお互いが・・・思い上がりかもしれないがシンジは自分が双方向性の愛の結果だと思いたい。
ユイがゲンドウを愛していたのは間違いが無いのだからゲンドウの責め苦はユイにも同じ効果をもたらす。

(まったく・・・どこまでも似ているな・・・ぼくも結婚したらこんな風になるのか?)

二人はその罰を甘んじて受け入れている。
愛し合っているのに赤の他人・・・ドラマのような設定だがこれはノンフィクションだ。

「シンジ・・・」

ユイの口調が変化した。
どうやら本題に入るらしい。

シンジも姿勢を正して聞く体勢になった。

「あ、ひょっとして前に話したネルフがぼく達の手伝いをするって事?それなら答えは変わらないよ?」

今現在のネルフは国連の公開組織になっていた。
その目的はS2機関の次世代エネルギーとしての可能性の模索と新技術の開発、ちなみに第三新東京市は学術都市として再出発をしている。
第三新東京市に遷都の話もあったのだがネルフは日本のものだという主張をしたがっている日本政府の裏が見え見えだったので見送られた。
もともと遷都の話自体資金集めのための方便だった経緯もある。

ここまでは表の話、裏ではシンジを含めた能力に関する研究もされている。
能力者が人類の進化の形ならばその流れを変える事は出来ないだろう。
だったらそれに対する研究は将来的に必要になるとネルフ上層部の判断だ。
研究といっても強制はしないし、非人道的な研究もしないと言うのが基本方針、と言うかどちらも出来ないししたくないと言うのが真実。

まず一番の問題の統和機構だがこの町にいる限り手出しは出来ない。
それがブギーポップとの契約だから、どの道この町にはブギーポップとシンジの目が光っているため”世界の敵”が現れれば速やかに処理される。

シンジとブギーポップが統和機構とかわした協力ではなく契約の関係、それがゼーレに荷担したネルフがいまだ存在できている理由であり能力者の事を知っていながら生きていられる理由だ。
つまりシンジとブギーポップは名実ともにこの町の守護者と言う事になる。
それを敵に回す事は出来ない。

「能力者の研究?まあいいんじゃない、僕の仕事を邪魔しなければね」

と言うのはブギーポップの談だ。
さらに先日世界の敵を倒す事にも協力しようかと言われたがそっちは丁重にお断りした。
あまりに危険すぎる。

「・・・いえ、それとは別件よ。」
「別件?それじゃ何?わざわざここに呼び出したって事は家じゃ話せないことなんでしょう?」

家といってもシンジとユイは同居していない。
母親と息子が同居するのは当然だがいくつかの問題があった。
シンジの家が大改装をしていて住居スペースが狭かったのだ。
ほとんど一人暮らし用のスペースしかなかったのでユイはマンションを一室買った。
場所はもちろんコンフォートマンション、ちなみに3人暮しだがゲンドウは含まれていない。
住んでいるのはユイ、レイ、そしてメイの三人だ。

小さなメイには母親が必要だったし、年頃の女の子が同じく年頃のシンジと同居しているというのはやはり世間的にも問題があるのでユイが二人の保護者となって引き取ったのだ。

アスカも今ではシンジの家にはいない
今はキョウコと一緒に住んでいる。
向こうも向こうで家族としての再出発を始めていた。

だからシンジの家には今シンジが一人で住んでいるが別段寂しくもない。
依然としてシンジの家に集まって皆で食事をする習慣は健在だ。
相変わらずシンジの家は居間扱いになっているのでいつも誰かがいる。
自分たちの家はむしろ個人の部屋という感じだ。
ユイとキョウコも最初はそれにびっくりしたが二人とも賑やかな方が好きな性格をしているのですぐになじんだ(ユイだけはシンジとの同居が見送られたので残念そうだったが)。

だから何か話があるのなら家に帰ったときでも良かったはずだ。
しかもここにムサシとケイタがいるということは聞かれて困る話でもあるまい。
何か矛盾を感じる。

話が見えていない愛息子にユイは笑いかけた。
それを見たシンジがビクッと身をすくませる。
目の前のユイの笑顔がニコッではなくニヤリだったからだ。

「シンちゃん?貴方結婚する気ない?」

時間が止まった。






To be continued...

(2007.09.29 初版)
(2007.10.06 改訂一版)
(2007.10.13 改訂二版)
(2008.01.19 改訂三版)


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