僕だって指揮部長!

第十話 もう出てきたの!?

presented by ピンポン様


 さてと、どうしようかな。僕の目の前ではエヴァ量産型が二体に分かれたイスラフェルを空中から攻撃してる。両手にライフルを持っていて、寸分狂わずイスラフェル二体に同時に当てている。そのためイスラフェルの回復が追いつかず、体が穴だらけになっている。

 僕は彼にとりあえず好きにやらしている。量産型の動きを見つつ、どうやろうか考えようと思ったからだ。でも、早く作戦を決めなきゃ彼が死んじゃうね。誰が乗ってるのかは分からないけど、自由自在に量産型を動かしてるんだ。その動きはとても洗練されたもので、素人が乗っていないことだけは確実だった。

 僕の時はアスカが頭を潰したり手足をちょんぎっても何の効果もなかったよね。てことは、エントリープラグをパイロットごと破壊するか、コアを潰すしか方法は無いんだね。

 それをやるにはまず、地上に降りてきて貰わなきゃいけない。でも、彼は飛べないし……う〜ん、ここで使っちゃおうかな〜。このままだと何もしないで負けちゃうし……よし! 使っちゃおう!

 そう考えた僕は手を地面にかざしてディラックの海を展開した。辺り一面に真っ黒い影が広がった。その中心ら辺から、この前パクッてきたJAが浮かび上がってきた。

 本当はマトリエルの時に使おうと思ったんだけど、このままじゃ何もせずイスラフェルが死んじゃうからね。さて、さっそく動かしてみよう。

『これは君の味方だから安心して。僕がこれに乗って飛んでる敵を地面に落とすから君はそれを好きに攻撃してね』

 彼にそう告げてからJAのコックピットに向かった。

 僕が改造したこのJAは遠隔操作なんかじゃなくて、人が乗り込んで使うんだ。本当はトウジをどうにかして乗せようと思ってたんだけど、間に合わなかったからしょうがないよね。

 JAの操縦席は何もない広い空間なんだ。僕はそこで戦闘機のパイロットみたいなヘルメットを被る。すると、僕の視線がJAの視線になった。うんうん、我ながら見事に出来てるね。

「起動開始」

 ヘルメットに付いてるマイクにそう言うと、僕の体が大きくなったような感覚に襲われた。

 JAの操縦方法はエヴァと全く同じで、自分の思ったとおりに動くんだ。唯一違うのは、自分の体を動かすこと。だから操縦席には何も無くて広い空間にしたんだ。あと、フィードバックなんてものは無いんだ。まあ、JAが壊れたらその爆発にパイロットは巻き込まれるだろうけど。

 僕の視線の先では、JAを全く無視してイスラフェルに攻撃を加えている量産型がいた。為す術の無い彼はただ逃げ回っている。

 ふふ、僕を無視したことを後悔させてあげるよ。じゃあ、まずは僕も空を飛ぼうかな。

 僕はJAの外見をあまり変えなかったんだ。あまりってことは少しは変えたって事で、その変えた部分に僕は手を突っ込んだ。

 え〜ッと、これじゃないし、これでもない…………お!? あったあった! これを頭に付けてポチッとな。

 すると重さ何十トンといったJAが鮮やかに空に浮かび上がった。僕を見た量産型の動きが止まってる。ふふ、驚いたかな? まさかこんなプロペラ一つで空を飛べるなんて思わなかったでしょ?

 旧世紀に流行ったアニメの主人公、猫型ロボットの秘密道具の一つ「タケコ○ター」を真似て作ってみたんだ。JAのお腹にはさっき手を突っ込んでこれを探してた、白くて半円の袋も付けてみた。

 他にも色々と秘密道具を作ってみたんだけど、それを披露する展開にはならなさそうだね。それはさておき、量産型をイスラフェルに叩き落としますか。

 僕はお腹のポケットに手を突っ込みごそごそとやった。その中はディラックの海に繋がっていて、作っておいた武器をいつでも取り出せるようにしておいたんだ。これぞ、本当の四次元ポケット!

 その中でお目当てのものを探し当てると、それをポケットから出して構えた。それは、大きさがエヴァぐらいの日本刀ってところかな。材質は適当な鉄とかだけど、僕のATフィールドを混ぜ込んであるから、もの凄い強度なんだ。

 両手で日本刀を握り量産型に構えた。すると、敵は僕に向かってライフルを乱射してきた。その銃弾は僕を正確に捉えていた。でも僕はそれを飛びまわってかわし、隙を見つけようとするも見つからない。

 いや〜、全く以て凄いね〜。射撃の腕もさることながら、全く隙を見せない。パイロットは誰なんだろう? まあ、いつか弾が切れて地上に補給しに行くはずだし、その隙をつこう。

 そんな事を考えながら、時速百キロを楽にオーバーするスピードで飛び回っていたんだ。すると漸く弾切れになったらしく、僕を追う銃弾が止んだんだ。

 チャンス! そう思った僕は量産型を地面に叩き落とすべく向かっていったんだ。僕が敵を倒すのはルール違反のような気がするから、サポート役に徹するつもり。

 刀を振りかぶった僕に敵は慌てるでもなく、じっと動かなかった。

 もらった! そして僕が刀を振り下ろすも、紅い壁に阻まれた。そっか、忘れてたけどATフィールドを使えるんだもんね。僕が中和してもいいけど、それはJAの力じゃないから反則だよね〜。

 ATフィールドによって弾かれた刀を握り直し、どうすればいいか考えていたんだ。すると量産型は僕を無視して地面に着地した。敵が着地した近くから何か飛び出して、それを見事にキャッチしていた。

 よく見てみるとそれはロンギヌスの槍のようだった。

 いつの間に南極へ取りに行ったんだろう。そんなことより、あれはまずいよね。イスラフェルが如何に修復する能力が凄くても、ロンギヌスの槍の前では何の意味も成さないし。

『その槍に絶対に当たらないように気を付けて!』

 そう呼びかけて、僕も彼の近くに降り立った。分裂してる彼らの前に立ち、量産型を睨む。敵は油断無く構えて、一切の隙を見せなかった。

 どうしようかな、あの槍の前ではJAも全くの無力だし。数の上ではこっちが有利だからそれを生かそう。

『僕が敵の背後に回って牽制するから、君は攻撃を喰らわないようにATフィールドを中和して』

 そして僕は量産型に突っ込んでいった。敵は僕を串刺しにしようと突いてきたが、僕は大きくジャンプしてかわし、背後についた。

 量産型の前には二体のイスラフェル。背後には僕が駆るJA。そんな状況なのに全く狼狽えた様子のない敵に、僕は感嘆の意を送っていた。

 本当に凄いね。しつこいようだけど、一体誰が乗ってるんだろう。僕の時にはこんなチルドレンは居なかったのに。まあ、倒せば分かるか。

『僕が突っ込むからATフィールドの中和を頼んだよ! 隙が出来たら君も攻撃してね』

 そう呼びかけて、僕は量産型の背後に斬りかかっていった。

 けど、敵は慌てることなく振り向くと、僕の刀を槍で受け止めた。その結果、僕の刀は受け止められたところがボロボロになって、それが本物のロンギヌスの槍ということが分かった。

 そして、敵は僕に槍を振り下ろしてきた。刀で受け止めるも、あっさり真っ二つにされ、JAの装甲の一部が削り取られた。

 一旦、距離をとろうと後ろに飛んだんだけど、量産型はそれを読んでいたみたいで、僕に迫ってきた。そして、僕を殺そうと槍を振りかぶった瞬間、敵の体が吹っ飛んだんだ。

 何で? そう思った僕が量産型がいた所を見るとイスラフェルが立っていた。君が助けてくれたのか。

『ありがとう。助かったよ』

 そう呼びかけたら、彼らは片手を上げ、気にするな、とでも言っているようだった。

 それを見ながら僕は微笑み、量産型を倒すべくポケットをごそごそと探った。取り出したのはエヴァが使ってるようなライフルを一丁。ただし、このライフルからは弾は出ない。出るのは火炎。そう、これは火炎放射器なんだ。エヴァに乗っていながらこれを喰らうと、生身で焼かれてる様で結構効くと思ったんだよね。

 イスラフェルに吹っ飛ばされた量産型がいるであろう所にもくもくと土煙が立ち上ってる。僕はそちらに向かって油断無く構えた。

『僕がこれを敵に喰らわせるから、怯んだ隙に君らも突っ込んできて』

そして白い巨体が見えた瞬間、僕は少し近づき火炎をそれに浴びせた。量産型は最初ビックリしてATフィールドでガードしたようだったが、イスラフェルがそれをすぐに中和してくれて、敵に直撃した。

 熱いのだろうか、片膝を突きながら頭を抱えている。これを逃せば勝機は無い!

『今だ!』

 火炎を止めずイスラフェルにそう呼びかけた。それを聞いた彼らは猛スピードで量産型に向かっていった。

 燃えさかる火炎の中で苦しそうにしてる量産型。そんな中にイスラフェルは平然と入っていく。僕は手を止めず、火力を最大にして、彼らに任せた。

 炎がどんどん広がっていき彼らの居る所がはっきりとは見えなかった。でも、何かが動いてるシルエットだけは見えた。やがて、一つのシルエットが素早く動くと、彼らが居たところから大きな十字の炎が上がった。

 それを見た僕は笑顔になった。まさか、あの状態からイスラフェルを倒せないでしょ〜。今のは量産型が上げた炎だよね? やっと君に勝ったよ! シン!

 そんな風に喜んでいたら炎の中からゆっくりとこちらに歩いてくる一つの影が目に映った。徐々に姿が鮮明に浮かび上がってくる。それを見ていた僕は自分の目が信じられなかった。

 あの中でどうやって彼らを倒したの!? 君は熱くなかったの!? 君は、何者?

 そう、僕の目の前には所々焦げ跡が付いているエヴァ量産型だった。炎から出てきた彼は僕に攻撃してくるわけでもなく、ただ涼しげにそこに立っていた。見る見る火傷が修復されていく。流石はS2機関っていったところかな。

 僕が呆然と見ていたら、彼は音も無く地面に吸い込まれていった。僕の事なんかまるで眼中に無いかのように。

 残された僕はJAの中でまたしても負けたことが悔しかった。

「ちくしょう……ちくしょう……」










 この前の敗戦の後、どうやって家に帰ったのか覚えていない。気が付けばベッドに寝ころんでいたんだ。念のため、ディラックの海の中に入っていってJAがあるか確かめたけど、ちゃんとあってホッとした。無意識の内にしまってたんだね。まあ、所々壊れていてすぐには使えなさそうだけど。

 そして、いつもの様にシンが僕の所に来て、反省会をすると思って待っていたけど、彼は来なかった。その所為で量産型の事や、綾波、アスカのことを聞けなかったんだ。

 だから今日、この日を楽しみにしていたんだ。休み明けの一週間の始まり、月曜日。学校に行けば綾波達がどうなったか分かると思ったからね。

 僕はいつもより早めに登校して、A組を覗いてみた。すると、まだ時間が早いせいか、誰も登校していなかった。

 そのままA組で待っていようと思ったけど、ホームルームが終わってからまた来ればいいや、と思い自分の教室に入っていった。

「碇はいるな?」

 の、いつもの一言でホームルームが終わると、僕は足早にA組に向かった。

 そこではまだホームルームが終わってないらしく教室に入れなかった。中から女の子の「きゃー」といった黄色い声が聞こえてきた。

 どうしたんだろう? 何かあったのかな? そんな事を考えていたら、前の扉からA組の担任が出てきた。やっと終わったか、じゃあ、行こうかな。

 そして僕がA組に入ると、一部に女の子の人だかりが出来ていた。僕はそれに特に興味を持たず、シンちゃんの姿を探した。だけど、彼の姿は何処にも無かったんだ。

 風邪でもひいて休んだのかな? トウジにでも訊いてみよう。そう思った僕は窓際にいるトウジとケンスケの元へと歩いていった。

「やあ。シンちゃんの姿が見えないけど、休んでるの?」

 何やら話していた二人に声を掛けた。

「ん? ああ、シンジは休みだぜ。綾波と惣流もな」

 僕の問にケンスケが答えてくれた。

「ふ〜ん、この前の戦闘でケガでもしたのかな? 三人揃って休むなんて」

 シンちゃんはともかく、綾波とアスカは生きてるのかな? こっぴどくやったからな〜。

「さあ? 先生は何も言ってなかったからな」

 両手を天に向けて、分からない、といったジェスチャーを加えながら話してくれた。

「そっか、じゃあ、放課後シンちゃんの所にお見舞いに行かない?」

「別にええで。わしらもちょうどその話をしとったところやし」

「良かった。じゃあ、放課後にまた」

「おう」

 朝早く来た意味は無かったけど、放課後になれば分かるんだし、まあいっか。そして、自分の教室に戻ろうと扉に歩いていった時にも、まだ女子が固まっているのが目に入った。何話してるのかな? やけに盛り上がってるけど。僕は前の時を思い出して、こんな風に盛り上がってる所を見たことが無いのでちょっと引っかかるも、大して気にしなかった。

 そんなこんなで昼休みになり、いつもと同じように裏庭で寝転がっていた。

 ここは気持ちがいいね〜、学校が生んだ憩いの極みだよ。なんてカヲル君チックに考えていたら、どこからか鼻歌が聞こえてきた。

 これは、第九? 珍しいな、クラシックを好きな人が僕以外にいるんだ。どんな人だろう。その人物が気になり、鼻歌の方へ歩いていくと思いもよらなかった人物がいた。

「カヲル君!?」

 なぜかカヲル君がサンドウィッチを手に芝生に腰を降ろしていた。

「僕の名を?」

 僕の声に反応した彼はゆっくりとこっちを見て穏やかに言った。

「え? あ、いや、その…………」

 僕がしどろもどろになっていると彼が話し掛けてきた。

「僕はカヲル、渚カヲル。よろしくね、碇シンジ君」

 カヲル君は立ち上がって僕に握手を求めてきた。

「よ、よろしく……でも、どうして僕の名前を知ってるの?」

 彼の右手を握り返してそう訊いた。そう、どうしてカヲル君がここにいるの!? 僕の時とは全然違う。やっぱりシンが言うように平行世界に来たのかな。

「知らない者はいないさ。エヴァンゲリオンのパイロット、碇シンジ君とそっくりな君のことを」

「そう」

 僕はそう一言返すのが精一杯だった。こんな所でカヲル君と会うなんて思っていなかったから混乱してたんだ。

 ひょっとしてこの前の量産型のパイロットは彼!? だとしても、シンはどうやってゼーレを丸め込んだんだ? う〜ん……

「君は僕と同じだね」

「へ?」

 そんな事を考えていたらカヲル君が意味不明なことを言ってきた。

「ふふ、彼も僕と同じようだし、彼女もそうだろうね」

 空を見ながらそんな事を言っていた。彼? 彼女? まあ、カヲル君の言いたいことはいつも良く分かんないしね。それよりも、ここのカヲル君が僕の知ってるカヲル君と同じ性格でちょっと嬉しいな。

「何を笑ってるんだい?」

 おっと、いけない、顔に出ていたようだね。

「何でも無いよ。それより、カヲル君はA組に今朝転校してきた?」

「そうだよ」

 やっぱり! 朝、女子に囲まれてたのは君なんだね?

「どうやら、午後の授業が始まるようだね?」

 彼との楽しい時間は無情にも五時間目を始めるチャイムの音によって終了となった。

「うん、行かなきゃ」

「僕はまた君と話をしたいな。いいかい?」

 いつもの穏やかな笑みでそう訊いてきた。

「勿論! 僕も君と仲良くなりたいしね」

 これは僕の本心だ。僕が心を開いたたった二人の内の一人がカヲル君なんだから。

「良かったよ。それじゃ、また」

 そう言ってカヲル君はさっさと校内へと入っていった。

 僕は彼が行った後もそこに立ちつくしていた。何がどうなってるか分からないけど、もうカヲル君に会えるなんてサイコーだよ! 綾波は僕を無視するし、他の人とは仲良くなる気は無いなか、カヲル君が居てくれるなんて! 生きてて良かった〜。

 用務員のおじさんに声を掛けられるまで、僕はその場に立ちつくしていた。





 そして、放課後。ケンスケとトウジと共にシンちゃんの家に向かった。カヲル君も誘ったけど何か用事があるらしくて断られた。

「そういえば、シンジはどうして渚と知り合いなんだ?」

 シンちゃん家に向かってる途中でケンスケが訊いてきた。

「たまたま昼休みにしゃべって仲良くなったんだ」

 それを訊いたケンスケは「ふ〜ん」とどうでも良さそうにしていた。

「わしはあいつのこと好かん! あんなへらへらしとるヤツは漢じゃあらへん!」

 まあ、自称硬派なトウジはそうだろうね。

「でも、渚が来てくれて良かったよ」

「どうして?」

 ケンスケが嬉しそうに言うのが不思議だった。

「決まってるじゃないか! あんな美形が売れないわけないだろ? 現に朝からずっと女子に囲まれていたしな」

 なるほどね。確かにカヲル君なら女の子全員が彼の写真を欲しがりそうだよね。

「はん! あんなヤツのどこがええねん! 漢っていうのはやな…………」

 そして、トウジは漢を語りだした。前にこれを延々と聞かされた事がある僕にとってはうんざり以外の何者でもない。ケンスケもそれを知ってるようで、全く聞いてなかった。僕は時折「うん」とか「そうだね」などと適当に相槌を打ちながら、早くシンちゃん家に着かないかな、なんて考えていた。

 トウジの漢談義が盛り上がってきた(僕とケンスケは聞いてなくて、トウジ一人が盛り上がっていた)ところでシンちゃんの住むマンションに着いた。

「…………てなわけで、漢っちゅうのは……」

「いつまでしゃべってんだ? もうシンジの家に着いたぞ」

 トウジの熱弁を呆れたように遮るケンスケ。

「お? 夢中になってて気づかんかったわ。しゃあない、この続きはまた帰りにでも話しちゃる」

 そう言ってトウジは「ガハハ」と笑った。絶対に帰りは別々に帰ろう。

 そしてエレベーターに乗り、シンちゃん家のインターフォンを鳴らすケンスケ。中から反響した「ピンポーン」といった音が聞こえてくるのに誰も出てこない。

「誰もいないのか?」

 ケンスケがそう呟きもう一度インターフォンを鳴らした。でも、やっぱり中からは誰も出てこない。

「やっぱり入院でもしてるんとちゃうか?」

 そう言ったトウジがドアノブを回した。すると「ガチャリ」という音と共にドアが開いた。

「なんや、鍵もかけんと不用心な家やな〜」

 ミサトさんだけならそういうこともあると思うけど、シンちゃんがいるのにちょっとおかしいな。僕がそんな事を考えていたら、ケンスケがこう言った。

「入ってみようぜ? もしかしたらシンジが寝てて気付いてないだけかもしれないしさ」

 そして、メガネを怪しく光らせた。たぶん、アスカの部屋でも撮る気なんだろう。まあ、別にいいけどね。

「そうだね。じゃあ、行こうか?」

 僕がそう言って中に入っていくと、二人とも僕の後に続いた。

 居間に行くも誰もおらず、人の気配が全くなかった。

「シンジの部屋に行ってみようぜ?」

 ケンスケのその言葉に従い、僕らはシンちゃんの部屋に向かった。でも、そこにはシンちゃんの姿はなく、きちんと整理された部屋があるだけだった。

 僕とトウジがシンちゃんの部屋をキョロキョロと見てると、ケンスケの姿がいつの間にか消えていた。どうせ、アスカの部屋にでも行ったんでしょ? そう思い彼女の部屋に行くと、嬉々とした顔で部屋中を撮影してるケンスケが居た。左腕が無いハンディも何のそのって感じで、上手く右手だけで写真を撮っていた。

 全くこの変態には溜息しか出ないよ。そして、僕とトウジはケンスケを放っておいて居間のソファに腰掛けていた。

「今日はもう帰らんか? シンジもここにおらんようやし」

「そうだね。もう何日かしたら学校に来ると思うし、その時に話を聞けばいいしね」

「じゃあ、わしはケンスケを引っ張ってくるわ」

 そしてトウジはアスカの部屋へと歩いていった。

 僕はソファに腰掛けながら懐かしい感傷に浸っていた。あの時は毎日料理を作って、掃除、洗濯とか主婦みたいなことばっかりやらされてたんだよな〜。でも、あの頃はそれが楽しかったんだっけ。アスカに怒鳴られても、ミサトさんが全然家事をしなくても、僕は一人じゃないって思ってたんだよね。

 そんな懐かしいことを考えていたら、どこからか「ピチャン」と水の落ちる音が聞こえてきた。? 台所の水は止まってるし、空耳かな。なんて思っていたら「ピチャン、ピチャン」とまたハッキリと聞こえてきたんだ。

 気になった僕はその発生源を確かめるべく、うろうろと歩き回った。すると、どうやらお風呂場から聞こえているらしい。しっかり蛇口を止めておかなかったのかな? などと安易な考えでお風呂場を覗き込んでみると、そこには、浴槽のヘリに寄りかかり手首から血を流してるシンちゃんがいた。

「シンちゃん!」

 僕の大声にもまるで反応しないシンちゃんは、自らが流してる真っ赤な血の海の中で、まるで死んでるかのように動かなかった。






To be continued...


(あとがき)

 また設定を無視して書いているんですが、この小説はシンジ君の一人称で進めているため、他の状況が分からない形になってるからです。その辺りは僕の表現力の無さを痛感しています。前話のあとがきにも書きましたが、最終話には必ず全ての辻褄が合うようにしますので、暖かく見守っていてくれると嬉しいです。話を作品に戻すと、本来JAをあんな風にするつもりは無かったんですが、書いてる内に自然とああなっちゃいました……まあ、暫くは使うつもりはありません。早々とカヲル君が出てきたんですけど、彼は予想通りの役割です。最後にシンちゃんがリストカットして自殺してるんですが、どうなるかは次回をお楽しみに。

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