僕だって指揮部長!

第九話 瞬間、心重ねれず!

presented by ピンポン様


 どうにか弐号機が海底から引き上げられたらしく、アスカが一中に転校してきた。

 彼女が転校してきてから数日が経ったけど、まだ一言も言葉を交わしてない。まあ、アスカは僕のことを知らないんだろうし、僕から話し掛ける気もないしね。

 そしてある日、僕が学校の廊下を歩いてると、前の方からシンちゃんとアスカが並んで歩いてきた。ん? この時期って、もうアスカと仲良かったっけ? 偶々会っただけなのかな?

 そんな事を考えていたらシンちゃんが声を掛けてきた。

「あ、おはよう。シンジ君」

「おはよう、シンちゃん」

 挨拶をする僕らをアスカが不思議そうに見てきた。

「ん? あんた、シンジに似てるわね。親戚?」

 僕とシンちゃんを交互に見比べている。どうでもいいけど、トウジと全く同じ事を言ってるよ。そこで僕はちょっとからかってみたくなったんだ。

「実は、僕とシンちゃんは双子なんだ」

「へ〜、どうりで似てるわけね」

 僕の嘘に見事に引っかかってくれた。てか、僕とシンちゃんが『シンジ君』、『シンちゃん』って呼び合ってるから普通嘘だって分かると思うんだけど……

「ち、違うよ! 僕とシンジ君は双子じゃなくてただの友達だよ!」

 焦ったように否定するシンちゃん。

「はあ〜? じゃあ、今こいつが言ったのは何なのよ!」

 僕を指差しながらシンちゃんに怒鳴ってる。

「いや〜、ちょっとした冗談だよ。それに、僕らの呼び方ですぐバレると思ったんだけどね」

 おろおろしてるシンちゃんに助け船を出した。

「まあ、いいわ。それで?」

「それで、って?

 対して気にしたそぶりを見せずアスカがそう僕に訊いてきたんだ。

「だからあんた達はどういう関係なのよ! そんなにそっくりなんだから赤の他人って事は無いでしょ?」

 いちいち怒鳴らないでよ。耳が痛いじゃないか。

「それが全くの赤の他人なんだよ。さらに、偶然にも僕の名前も碇シンジって言うんだ」

「ふ〜ん、世界は広いのね」

 あっさり納得するアスカ。もっと疑うモノじゃない? 普通。

「あたしは惣流・アスカ・ラングレーよ。よろしく」

「よろしく、惣流さん」

 以外にも人当たり良く自己紹介してきたアスカにビックリした。この頃のアスカって猫被ってたんだっけ?

「あ、ホームルームが始まる。行こう? アスカ」

 頭上から聞こえてきたチャイムを聞いたシンちゃんがアスカにそう言った。

「分かったわ。またね、シンジ二号」

「またね、シンジ君」

「うん、じゃあ」

 アスカとシンちゃんが笑顔でそう言うと教室に入っていった。シンジ二号って……別にいいけど言いづらくないのかな?

 もの凄く久しぶりにアスカと話したけど、特に思うことは無いね。今は人当たりが良くても、徐々に余裕が無くなって攻撃的になるんだし。それより、アスカはこの前ガギエルにやられた所は大丈夫なのかな? 全然普通にしてるけど。

「君。早く自分のクラスに行きなさい」

 そんな事を考えてたら扉の所に立っていたA組の先生に怒られた。

「あ、はい」

 そんな僕の返事を聞いた先生はさっさとA組に入っていった。

 さてと、僕も誰もいない教室に行こうっと。





 その後は、いつもと変わらない退屈な学校生活を送っていた。たった一人で授業を受けて、昼休みは校舎裏で日向ぼっこなんかをしてた。

 そして、ようやっと授業が終わり帰り支度をして下校したんだ。

 帰り道を暫く歩いていると、シンちゃん、綾波、アスカの三人が並んで歩いてるのが目に入ったんだ。三人で歩いてるって事はネルフに行くのかな? 何か話してるし、ちょっと盗み聞きしてみよう。

 そして、シンちゃん達に気付かれないように距離をとって、全神経を耳に集中させたんだ。僕は普通の人より耳がいいからね。ちょこっと力を使ってるけど、マギには探知されない程度だから大丈夫。

「…………カみたい。政府に流された嘘のセカンドインパクトのことをずっと話してるなんて」

「え? 嘘ってどういうこと?」

「あんた知らないの!? セカン…………」

 どうやら延々とセカンドインパクトを語るボケ教師について語ってるみたいだね。そういえば、僕はこの時セカンドインパクトの事を全く知らなかったんだっけ。何で誰も教えてくれなかったんだろう。

「…………にしても、シンジ二号とあんたはホントそっくりよね。性格は全然違うけど」

「ハハ、僕も初めて彼と会った時はビックリしたんだ」

 うんうん、僕もビックリしたよ。

「……シンジ二号?」

 ここで初めて綾波が口を開いた。

「ああ、隣のクラスの碇シンジ君の事だよ。綾波も話したことあるでしょ?」

「…………あの人にはあまり近づかない方がいいわ」

「え!? ど、どうして?」

「得体が知れないもの……」

 そんな事思ってたのか……まあ、得体が知れないって事は認めるけど、それでもちょっとぐらいは僕と会話してくれてもいいじゃないか……それより、綾波がシンちゃんにちょっとだけ友好的になってる。何かあったのかな?

「得体が知れないって……もしかして、ネルフで噂になってることを言ってるの?」

 ん? ネルフの噂?

「……ええ、それに…………」

「あんなのデタラメだよ。シンジ君はいい人だし、あんな事する人には見えないよ」

 綾波が何か言いかけてたけど、シンちゃんはそれを遮ってそう言った。

「……」

 無言になる綾波。

「シンジ二号の噂って何よ?」

 僕も気になる。多分、諜報部を殺したとかだろうけど。

「うん……その、シンジ君が……諜報部の人を何人も殺してるとか……」

 言いづらそうに言うシンちゃん。

「あいつにそんな事できるわけ無いじゃない! 諜報部って言ったら格闘のエキスパートよ!?」

 へ〜、そうなんだ。知らなかったよ。まあ、誰が相手でも僕に勝てるはず無いんだけどね。

「……僕はそんなこと信じてないけど……でも、ネルフの中で凄い噂になってるんだ……」

「嘘に決まってんじゃない! 全くネルフも何が楽しくてそんな嘘を広めてるんだか」

 シンちゃんはやっぱり信じてなかったんだね。ありがとう。だけど残念なことに、全部事実なんだよ。

「それよりも、シンジ二号のこと何かよりあいつは一体何者よ!?」

「あいつって?」

「ネルフにいるいっつもお面被ってこの前の使徒そっくりなヤツよ!」

 お〜、僕もその話は是非聞きたいね。

「さ〜? 僕もよく分かんないけど指揮部長だよ。第四使徒を倒した辺りからいるんだ」

 ネルフでシンについて詳しい情報は流されてないのかな?

「いるんだ、って、あんた気になんないの? 明らかに怪しいじゃない!」

「でも、あの人のおかげでいっつも勝ってるし……」

「勝てばいいってもんじゃないでしょ! 何で使徒とおんなじ格好してるのよ!」

 そういえば、シンはあの格好でうろついてるって言ってたっけ。

「照れ屋なんじゃない?」

 ずれた回答をするシンちゃん。

「そんなわけ無いじゃない!? しかも命令ばっかりして、逆らったらクビって言われたわよ!」

「へ? 誰に?」

「司令よ! 全くなんなのよ! ミサトはあいつに邪魔者扱いされていつもキレてるし!」

 ふ〜ん、父さんがね〜。よっぽど母さんに会いたいんだろう。まあ、シンが母さんを初号機から出すとは思えないけどね。それと、ミサトさんに何かやってるのかな? 気になるな〜、今度シンに変わって僕がネルフに行ってみようかな。衣装を着てるからバレるわけ無いし。

「ファーストはあいつのこと何か知ってんの?」

「…………知らない」

 でも聞かれた綾波が一瞬、ピクッてなったけど。もしかして中身が使徒だって気付いてるのかな?

 そこまで聞いていたけど、シンちゃん達がバス停に止まったのを見て、僕は後を着けるのはやめたんだ。

 もっと色々聞きたかったけど今度シンに訊けば分かるしね。それじゃ、またね〜。

 そして、僕はクルッとUターンして元来た道を歩いていった。










 ある日、家でゴロゴロしてたら、使徒の波動とでもいうものを感じた。ATフィールドみたいなモノかな。

 そういえば、イスラフェルが来るのって今日だっけ? でも、今日は行く気は無いんだ。シンはああ言ってたけど、僕の為にアスカと綾波のユニゾンで来てくれる気がする。だから、僕の時みたいにN2で時間稼ぎしてくれるのを期待して待ってるんだ。

 もし、シンが全力で来てイスラフェルが死んじゃったら、それはそれで諦めるよ。

 僕はそんな事を考えながら家で暇を潰していたんだ。

 そして日が傾いて夕方になった頃、僕はイスラフェルの元へと飛んでいった。

 そこには、外皮が溶けながらも二体になってATフィールドで自分を守り、自己修復中のイスラフェルの姿があった。

 それを見た僕は自然と笑顔になった。

 やっぱりシンは優しいね。同じ自分を褒めるようでちょっと変な気がするけど……確か、治るまでに一週間は掛かるはずだから、その間にしっかり作戦を考えておこう。

 僕は暫くイスラフェルを眺めていたんだけど、彼らの顔が僕に向かって動いたのを見て、その場から飛び去っていった。

 バイバイ、また一週間後にね〜。





 イスラフェルに会ってから早くも三日が経った。

 僕はいつもと変わらず学校に通いながらも、シンに勝つ方法を必至に考えていたんだ。しっかりと作戦を考えておかないとまた負けちゃうからね。

 そして授業が終わり、下校しようとしてA組の前を通ったら、僕の耳にトウジとケンスケのこんな話し声が聞こえてきたんだ。

「シンジが学校休むようになってからもう三日やで? どないしたんやろ」

「この前の戦闘でケガでもしたんじゃないのか? 綾波と惣流もいないし」

 どうやらシンは僕の考えを汲んでくれて、アスカと綾波にユニゾン訓練をさせてる様だね。

「なあ、見舞いに行かへんか?」

「そうだな、先生にもプリントを届けろって言われてたし」

「ほな、行くで」

 僕もトウジ達と一緒に行こうかなあ。でも、せっかくシンが僕の為にやってくれてるのに、それを偵察するのは何か卑怯くさいし……うん、僕は行かないでおこう。

 そう決めた僕は、トウジ達の足音が聞こえてきたので急いでその場を後にした。










 そんなこんなで日々を過ごし、いよいよ今日は決戦の日。

 僕がイスラフェルの元に行くと、もう全身を修復し終わったイスラフェルが一体に戻っていた。ゆっくりと彼の前に近づいていき彼に呼びかけた。

『こんにちは。君には僕の言うことを聞いて欲しいんだ』

 特に警戒するそぶりを見せなかったので、安心して呼びかける事が出来た。

 僕の声を聞いたイスラフェルは頷くかの様な行動をとった。

『ありがとう。じゃあ、もうちょっとしたらこの間の敵が来るからそれまで待っててね』

 シンはどうやって攻めてくるんだろう? まさか、ユニゾンだけって事は無いだろうし。それに綾波とアスカのユニゾンは上手くいかない気がする。でも、他に手段は無いしな〜。

 そんな事を考えていたら、地面から弐号機と零号機が飛びだしてきた。僕の時と同じでアンビリカルケーブルをパージさせてる。ってことは、62秒しか動けないはず。

『二体に分離してそこらにあるビルを壊しながら逃げ回って! そうすれば敵はすぐに動けなくなるから!』

 そうすると、再び二体に分かれたイスラフェルはエヴァとは逆に走りだして、電源ビルや武装ビルなんかを壊していった。

 よしよし、このまま逃げ切って活動停止するまで待とう。あっ、弐号機と零号機が固まってる。そりゃそうだよね。まさか自分達に向かってこないとは思ってもいなかっただろうし。でも、早くしなきゃ動けなくなっちゃうよ?

 僕の視線の先では、突然の展開に固まってる弐号機と零号機がいた。でも、すぐに動き出してイスラフェルを追っていった。その動きはとてもユニゾンされてるとは思えないほどバラバラだった。

 例えば、弐号機がイスラフェルにライフルを撃つんだけど、零号機とタイミングが合わないからすぐに修復する。逆に零号機が槍みたいなモノを投げても、弐号機はそんな零号機を無視して違う攻撃をしてるから全く効果がない。

 僕はそれを見ながら呆れていた。

 確かに綾波とアスカのユニゾンで来たら面白いかな、とは思ったけど、ここまで酷いと逆に申し訳なくなるよ。シンもよくこんなんでGOサインを出したな〜。ここまで酷いとは思っていなかったんだろうか?

 そんな事を考えていたら、どうやら62秒経っていたらしく、弐号機と零号機の動きが止まっていた。それに気付いたイスラフェルも逃げるのをやめて、僕の命令を待って待機状態。

『そのエヴァ二体はもう何も出来ないから破壊しちゃって』

 それを聞いたイスラフェルは、エヴァ一体につき一匹で、おもちゃを壊すかのようにボロボロにしていった。暫く攻撃していたイスラフェル達だったけど、どうやら止めを刺す事にしたらしく、二体同時にコアに重い一撃を放った。

 弐号機と零号機がいた所から天に向かって十字の炎が上がった。弐号機からは赤の炎、零号機からは青の炎が。

 僕はそれを見てちょっと切なくなっていた。

 こんな呆気なく決まるとは思わなかったよ。流石のシンでも初号機が使えなかったらこんなモノだったのか。今頃、発令所では「あやなみー! アスカー!」ってシンちゃんが叫んでそうだね。

 僕はやっと手にした勝利があまり嬉しくなく、そんなどうでもいいことを考えていたんだ。でも、二本の火柱が収まったところに立っている物体を見て、僕の瞳は驚きで見開いていたんだ。

 そこには、気持ち悪い笑みを浮かべて口から涎を垂らしているエヴァ量産型が何故か一体だけ立っていたんだ。

 エヴァ量産型!? 一体しかいないけど何で!? この時点で完成していたの!? それより誰が乗ってるの!? まさかトウジ!?

 まさかの展開に僕はパニック状態。

 僕は唖然と量産型を見ていたんだ。すると量産型は僕とイスラフェルを見て、その大きな口をいやらしく笑わせると、背中から大きな翼を開いて空高く飛翔した。

 僕の知らないカードを何枚も持っているシンに僕はただ驚いていたんだ。

 でも、空から量産型がイスラフェルに向かってくるのを見て、僕は楽しくなってきて声を出して笑ったんだ。

「ふふ、そうだよね。君があんな作戦で終わるはずがないもんね? これからがホントの勝負ってことかい?」

 いつも僕の考えの一歩右斜め前を行くシンに感嘆しながらも、僕は楽しくてしょうがなかった。






To be continued...


(あとがき)

 書いてて気付いたんですが、話を進めようとするたびにトウジとケンスケを使いすぎてしまってますね。これからは改善していきます。感想掲示板の方に今回のアップで設定のおかしいところを載せると書いたんですが、おそらくこれからもそんな状況が出てくると思うので、一番最後に載せようと思います。なので「あれ? 変だな?」という事が出てくるかもしれませんが、最終話で全部を明かすということで、今後ともよろしくお願いします。

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