第八話 フィッシング!
presented by ピンポン様
さてと、予定通りまずは弐号機を無力化しよう。
『エヴァがいる船以外を体当たりして全て沈めて』
僕の呼びかけを聞いたガギエルは、弐号機が乗っていない船を確実に沈めていった。弐号機はそれに対して何も出来ず、ただ見てるだけだった。
そして僕の目の前にはオーバー・ザ・レインボウ、一隻だけが残っていた。よし! 次は、その上にいる弐号機を海中に引きずり込むんだ。
『次はエヴァに思いっきり体当たりしてエヴァを海中に落として』
するとガギエルは一旦距離をとり、加速を付けて弐号機に突っ込んでいった。
それを受けた弐号機はプログナイフを前に構え、何とか踏ん張ろうとしてたけど、ガギエルの力に負けて海中へと落ちていった。
ここまでは僕の作戦通りだけど、未来の僕が何もやってこないのが気になるなあ。まあ、当初の予定通り進めよう。
『あのエヴァと繋がってるケーブルを噛み切って!』
オーバー・ザ・レインボウからは弐号機と繋ぐアンビリカルケーブルがひたすらに延びていた。僕の命令通りそれを噛み切るガギエル。
よし! これで弐号機はあと五分で何も出来なくなる。そうなれば僕の勝利は確定だね。
『何もしないでちょっと待っててね?』
そして僕らは電源が止まるまで待つ。
待っている間ひまだから未来の僕を捜そうかな? ちょっとオーバー・ザ・レインボウに近寄ってみよう。
そして、前回ミサトさんがいた艦長室の前に飛んでいった。そこには、憎悪を込めて僕を睨んでくるミサトさんに、恐怖に脅えた艦長やら副館長らしき人がいるだけで、未来の僕の姿はどこにも無かった。
あれ? 今回は指揮をする気は無いのかな? それなら、今回は圧勝だね。来たばっかで悪いけどアスカには早々に退場して貰いますか。
くるくる泳ぎ回ってるガギエルの上に戻り、僕は初勝利にうきうきしながら五分経つのを待っていた。そこで、僕は気付いてなかったんだ。さっきまでいたシンちゃんがミサトさんと一緒にいなかったことに。
そろそろ五分経ったよね? それじゃ、行きますか。多分、五分ほど経ってるはず。まあ、経ってなくても海中じゃあ弐号機はろくに動けないし、危険は無いよね。
『待たせてごめんね? さっきエヴァが沈んだところに行くよ』
そして、僕とガギエルは海深くに潜っていった。
暫く進んでいくと、紅いエヴァンゲリオンが静かに立っていた。目の前まで行き、顔の部分をコンコン叩くも何の動きもない。よしよし、ちゃんと電源が止まってるね。
『好きな様にしていいよ。でもたっぷりと痛ぶってね?』
それを聞いたガギエルは弐号機の右腕に噛み付いた。
ゆっくりと咀嚼しながらそれを噛み切る。次に距離をとり勢いよく体当たりして、弐号機の装甲をボロボロにしていった。何回か体当たりしていた様だが、今度は右足に噛み付いた。弐号機から出る血の色に染まった海の中で、ガギエルは弐号機をグチャグチャと噛んでいた。
僕はその光景を満足げに見ていたんだ。だけど、弐号機の右足がもう千切れそうってところで、急に零号機が突っ込んできて、その楽しい時間は終わった。
ガギエルを吹っ飛ばした零号機を見てみると、背中や手足にプロペラみたいなモノを付けていて、水中でも自由に動けるようになっていた。
まさか、零号機が来るとは……全くの予想外だったよ。これが君の作戦かな? 未来の僕。でも水中戦闘用のガギエルに海で勝負を挑むとは失敗だったね。零号機も弐号機と同じようにしてあげるよ。
『大丈夫? ガギエル。新しい敵が来たけどさっきと同じように、エヴァと繋がってるケーブルを噛み切って。そうすればまた動かなくなるから』
吹き飛ばされたガギエルは全然平気そうだった。
零号機のアンビリカルケーブルは上に延びている。おそらくウイングキャリアーにでも繋がっているんだろう。
僕の言うことを遂行すべく、一直線にケーブルに向かっていくガギエル。途中で零号機の妨害が入ったけど、断然ガギエルの方が速く、余裕を持ってかわしていた。ケーブルに辿り着いたガギエルはその大きな口を開けてケーブルを噛み切ろうとした。でも、それは達成されなかったんだ。
ケーブルに触れる直前、何か紅い壁が見えたんだ。ATフィールド!? 零号機がやってるの!? でもATフィールドでケーブルを守ってるってことは、自分に対してATフィールドを張ってないって事だよね? なら直接狙っちゃうよ? 動きも遅いし楽勝だね。
『ガギエル、ケーブルはもういいよ。本体に直接攻撃して。体当たりでじっくり行こう。一度当てたら距離をとって、また攻撃の繰り返し。いいね?』
諦めずにケーブルを噛み切ろうとしているガギエルにそう言った。
僕の言葉を聞き、零号機に向き直り凄いスピードで体当たりをかます。そして、僕の命令通り距離をとる。そのヒットアンドアウェイを繰り返していたら、零号機の動きが鈍くなってきた。
結構ダメージを受けたようだし、そろそろ止めといこうか。
『相手が弱ってきたから止めに思いっきり噛み砕いて』
ふふ、今回は僕の完全勝利だね。ここで零号機を倒して、ネルフに残る手足の無い初号機を倒せば僕の勝ち! 笑いが止まらないよ。
ガギエルが零号機に噛み付いたところを見ながら、僕は一人ニヤけていた。でも、それもすぐに終わった。何故なら、噛み付かれていた零号機がガギエルと共に上に引っ張られていったからだ。
もの凄いスピードで上に引っ張られていくのを僕は呆然と見ていた。二体の姿が完全に見えなくなったところで、僕はハッとして急いで海上に出た。
そこには、零号機に噛み付いてるガギエルが二本の槍のようなモノで、零号機と繋がって空中にぶら下がっていたんだ。零号機のアンビリカルケーブルの先には、上空で巨大な飛行機が待機していて、まるで零号機を餌にした釣りのような光景だった。
僕は予想外のその光景をポカンとしながら見ていたけど、ガギエルの無事を確かめるべく彼に呼びかけた。
『ガギエル! 大丈夫!?』
僕の呼びかけにも微動だにしない。ガギエルは水の外だからか分かんないけど、全く動いてなかったんだ。それよりも、あの槍は何処から出てきたの!? 零号機を囮にしたってこと!? でも、ここからどうするんだろう?
零号機も弱っているの様で、ピクリとも動かない。おそらく未来の僕の作戦なんだと思うんだけど、また上手くやられて悔しがっていたんだ。だけど、どうやって止めを刺すのか気になっていたら、遠くから何か飛んできたのが見えたんだ。
初号機!? あの状態からもう修理したの!? って、右腕しか付いてないよ。でも何か持ってるね、何だろう? …………あれは、この前ラミエルを倒した時に使った武器? でも空中だったら、自由に使えないんじゃ……
ウイングキャリアーに積まれた初号機がこちらに飛んできたのだ。JAの時、シンジが切り取った手足は何故か右手だけ直っており、その手にはラミエルを倒した武器を持っていたのだ。
僕がどうやって攻撃するのか見ていたら、ウイングキャリアーが零号機に向かって飛んでいった。かと思えば目の前でホバリングして見せた。そうすると、初号機の前には丁度ガギエルがくる。目の前の敵に初号機は右手を振り上げ、ラミエルの様にまたもや一刀両断にしてみせた。
僕の目の前には真っ二つにされたガギエルが海中へと落ちていく姿が映った。まさか負けるとは……何が悪かったんだろう……未来の僕を侮りすぎてた? エヴァ三体も来るとは思いもよらなかったし…………
僕が自問自答してる中、初号機を積んだウイングキャリアーは飛んできた方へと帰っていった。零号機も飛行機に積まれ、第三新東京市へと帰っていった。
僕はそれを呆然と見ていたんだけど、あることを思い出して呟いた。
「……アスカは?」
弐号機は未だ海底に沈んでいた。
あの戦闘の後、まさかの敗戦のショックから何をしたか覚えていない。気が付けば家にいたんだ。
今一つはっきりしない頭で窓の外を見ると、もう真っ暗だった。暫く外を見ていたんだけど、何か部屋の中に気配を感じて、視線を部屋の中に移すと、そこには未来の僕がいた。
「今日は惜しかったね? 途中まで負けたと思っていたよ」
彼が楽しそうに言ってきた。
「どこからが君の作戦? 弐号機には指示を出してなかったでしょ?」
急に来た彼に疑問を抱かなかった。それよりも、彼と戦闘について語りたかったんだ。
「うん。弐号機は無視したんだ。どうせアスカは僕の言うことを聞かないと思ってね。まあ、本部に来たらそこら辺は徹底させるけど……僕の作戦は君も分かってるんでしょ? 零号機を投入したところからだよ」
「やっぱりか、オーバー・ザ・レインボウに君がいなくて不思議だったんだけど、零号機が来て君も来たって確信したよ」
でも、惜しかったってどの辺りの事かな?
「もっと早くガギエルを釣り上げる予定だったんだけど、中々上がってこなくて焦ったよ。やっと来たと思ったら何故か零号機はボロボロだったし」
「弱らせてから一気に噛み砕こうと思ってたんだけど、ガギエルが噛み付いた瞬間、引っ張られてね。何が何やらワケが分からなかったよ」
「あれは、零号機に噛み付いたら機体から大きな銛が二本出るようにしてあったんだよ。それで捕獲して初号機で止めって作戦ね」
そういうことか。てことは、もっと零号機を弱らせて、アンビリカルケーブルを守っていたATフィールドを出させなくして、それを噛み切ってれば僕の勝ちだったのか。
「ほんのちょっとの差だったね」
僕がそんな事を考えていたら、彼がにこやかに言ってきた。
「うん。もう少し零号機を弱らせれば勝ってたのに」
「ふふ、でもまあ次は僕が不利かな?」
ちょっと拗ねたように言うと、彼は微笑しながらそんな事を言ってきた。
「何で?」
「君が初号機を壊したからだよ。イスラフェルが来るまでに直らないんだ。全く、指揮官が手を出すか〜?」
「あ、あれは、シンちゃんが毎回僕に向かってくるのがしつこくて、ちょっとむかついてたから……」
「むかついたからってあそこまでやる〜? 手足をちょんぎるならまだしも、破片を残さないのはやりすぎだよ。そのおかげで修復に時間が掛かってるんだから」
いいわけをするも、彼はジト目で僕を見てきた。
「ま、まあ、いいじゃないか。君の方が色々詳しいんだし、ちょっとしたハンデって事で……」
「ふ〜ん、そういうこと言うんだ。君のためにアスカと綾波でユニゾンさせようとしてたんだけど、本気でいくことにするね? 覚悟しててよ?」
彼は薄気味悪く笑ってた。
「え!? 僕の考えを分かってくれてたんだね? それじゃ、アスカと綾波のユニ……」
「やだ! 手加減はしない!」
聞く耳持たずって感じで、僕の言葉を途中で遮ったんだ。
「分かったよ……今回は僕が悪いんだし……でも、次こそ負けないよ!」
「ふふ、楽しみにしてるよ」
そして、僕らは微笑みあった。
「そういえば、この前訊くのを忘れてたんだけど……」
「何?」
いけない、いけない。これを訊かなかったら気になって眠れないじゃないか。まあ、睡眠はとらないんだけど。
「ラミエル戦のことを詳しく訊きたいんだ。最初に初号機に加粒子砲を喰らわせたのにどうしてジオフロントにいたの? シンちゃんは重体じゃなかったの?」
「ああ……加粒子砲を喰らった時は初号機に誰も乗ってなかったんだ。そうすれば君が油断すると思ったからね。君が体験した時より長かったでしょ?」
そういうことね。まあ、あんなに長く喰らってたら流石に死んでるか。
「うん。あと、どうやって陽電子砲のエネルギーをあの時に集めていたの? 別に停電とかになっていなかったけど」
「ふふ、僕らなら簡単じゃないか。適当な装置を作ってそれに僕の力を込めただけだよ。まあ、リツコさんあたりは騒いでたけどね」
なるほど、でも、ちょっとずるいんじゃないかい?
「ふ〜ん、それと……」
「まだあるの?」
嫌そうにしている未来の僕。ちょっとぐらいいいじゃないか。
「これが最後。シンちゃんは何であんな事出来たの? ATフィールドを中和しつつのATフィールドの発生」
「あれは、僕がちょっとばかり初号機を改造したからだよ。だから君が乗ってた時より強いって考えた方がいいよ」
「か、改造〜!? それはやりすぎ何じゃないかい? 僕が圧倒的不利じゃないか!」
「そんな事無いよ、シンクロ率が極端に低いからね。確か20%とかだったかな? その分フィードバックで受けるダメージは少ないけど」
2、20パーセント〜!? どんだけ低いんだよ!
そこで僕の質問が終わると彼が帰ると言ってきた。
「じゃあ、そろそろ帰るよ。ネルフにも行かなきゃいけないしね」
「うん、またね」
「じゃあね」
そして、彼が玄関に向かって歩いていく姿を見てると、彼に相談することがあるのを思い出したんだ。
「ちょっと待って!」
そうだった。彼を何て呼ぶか訊こうと思ってたんだよ。
「? どうしたの?」
僕に振り返って不思議そうに訊き返してきた。
「ねえ、君のこと何て呼んだらいい?」
それを聞いた彼はポカンとしていた。予想外の質問だったかな?
「別に何でもいいけど。君の好きな様に呼んだら?」
どうでも良さそうに言ってきた。
「それが、ずっと考えていたんだけど決まらなくて。この世界の僕は『シンちゃん』で、彼は僕のことを『シンジ君』って呼ぶから君は『シンジさん』かなって思ったけど、同じ自分に『さん』付けはちょっとなあって思って……で、結局決まらなかったから君の意見を聞こうと思ってたんだよ」
それを聞いた彼はちょっと考え込んでる。
僕はそれを静かに見ていたんだ。すると、結構悩んでいた彼がやっと口を開いた。
「……じゃあ『シン』でいいよ」
「シン?」
「そう。シン」
『シン』か、うん! 呼びやすいしそれでいいね!
「分かったよ。これからもよろしくね? シン」
「よろしく。シンジ君」
彼も僕のことは『シンジ君』って呼ぶことにしたらしい。
「それじゃ」
「うん、またね?」
そして彼は姿を消して消えた。
どうでもいいけど、消えるんならさっき玄関に向かったのは何だったんだろう?
次の日、いつもの様に学校へ行った。
僕以外誰もいない教室で、先生が来るまで窓の外を見ながら暇を潰していた。
それにしても、昨日の負けは悔しかったな〜、もうちょっとだったのに。でも、次は初号機が使えないから僕が有利かな? でも、シンは本気で来るって言ってたから、もう作戦でもあるんだろう。彼の考えを読んで、一手先を考えていかなきゃまた負けちゃうよね。どうしよっかな〜。
そういえば、シンに訊くのを忘れてた事があったな〜。トウジとケンスケの事。彼らの左腕はシンがやったんでしょ? 次に会った時にでも訊いてみよう。
僕がそんなような事を考えていたら、漸くチャイムが鳴って担任の先生が来た。
「碇はいるな?」
先生が疑問系で話してきたけど、僕の返事を聞く前に僕がいることを確認すると、さっさと教室から出ていった。
この人はいつもこんな感じ。
「はあ〜」
学園生活っぽくないこの状況に溜息を吐いて外を見ていたら、隣のクラスから大きな声が聞こえてきたんだ。
「惣流・アスカ・ラングレーです! よろしく!」
アスカの元気一杯な自己紹介の後に、男子の喜びの雄叫びが聞こえてきた。
……アスカ……助かったんだね?
To be continued...
(あとがき)
結局、シンジ君は負けちゃいました。未来のシンジ君の呼び方を、シンにしたんですが、深い意味はありません(ちょっとは意味があるけど)。まあ、そんな重大な事でも無いので軽くスルーしてください。この八話を書いててアニメの進みと全く一緒ということに初めて気付きました(笑)そんなワケで、終わりを26話にしようと考えております。ぶっちゃけると、この作品は詳しい設定や、ちゃんとしたプロットを立てておらず、八割方思いつきで書いてるんです。なので、第二話のあとがきにネルフをめちゃくちゃにするって書いたんですけど、シンにやられまくってそれどころではなくなってしまいました。このまま、やられキャラ一直線になっていきそうです……そんなどうしようもない作者ですが、これからもよろしくお願いします。
作者(ピンポン様)へのご意見、ご感想は、または
まで