僕だって指揮部長!

第七話 JAも〜らい!

presented by ピンポン様


 謎の使徒こと未来の僕と出会ってから初めての学校。

 彼がいなくなってからあれこれと考えていたんだけど、どうにも決まらなかったんだ。え? 何がって? 彼の呼び方だよ。『シンちゃん』はこの時代の僕に使ってるし、『シンジさん』は自分に向かってさん付けはちょっとね。『シンジ君』はシンちゃんが僕をそう呼んでるから却下。

 そんなどうでもいいことをずっと悩んでいたんだけど、結局まだ決まってないんだ。今度、彼に会った時にでも彼の意見を聞いて決めようかな。

 彼が僕の前に来てからというモノ、退屈だった毎日がバラ色になったよ。今だって授業中でひま何だけど、どうすれば彼に勝てるかなって考えるだけで楽しくなってきちゃう。何だか恋する乙女みたいだね。

 そんなこんなで昼休みになった。

 僕はいつも通り校舎裏でひなたぼっこしようと廊下を歩いていたんだ。その時、トウジとケンスケにすれ違ったんだけど、彼らの外見を見てびっくり。

 何故なら、二人とも左腕が無かったんだ。僕の時はこんな風になってなかったのにどうしてだろう……シンちゃんに訊いてみようかな?

 そう思った僕はさっそく彼に訊くべく2−Aの教室の中に入っていった。

 トウジとケンスケとお昼ご飯を食べてるシンちゃん。君も彼らと友達になったんだね? それが偽りとも知らずに。

 そして僕は三人の元に近づいていく。そんな僕に気が付いたシンちゃんが声を掛けてきた。

「あっ、シンジ君。どうしたの? 僕に何か用事?」

 にこやかに言ってくるシンちゃん。

「やあ、別に用事って訳じゃないけど、何となくシンちゃんの顔が見たくてね」

 流石にトウジとケンスケの前でダイレクトに訊くわけにはいかないからね。

「僕の顔って、君も同じ顔じゃないか……」

「あはは、まあ、いいじゃない」

 そんな会話をしてたらトウジが話し掛けてきた。

「なんや、シンジとそっくりやな。親戚かいな?」

「全然、全くの赤の他人だよ。でも、偶然にも僕も碇シンジって言うんだ」

 親戚どころか本人なんだけどね。

「へ〜、そんなことって本当にあるんだな。テレビに投稿したら売れるんじゃないか?」

 ケンスケがそんな事を言いながら、愛用のカメラで僕を撮っていた。

「そんなことで売れても嬉しくないよ。……そういえば、君達はこの前校舎裏でシンちゃんと喧嘩してたよね? 仲直りしたの?」

 左腕のことを訊くために軽くジャブを放ってみた。

「えっ!? な、何でシンジ君がそれを知ってるの?」

「何でって、そこに僕もいたからね〜。シンちゃん達が来て何するのかなって思ってたら、いきなりそっちのジャージ君に殴られてるのを見てたんだよ」

 動揺してるシンちゃんなんかお構いなしに、僕は拳をあっちへこっちへと殴るジェスチャーを交えながら話した。

「あの時トウジの妹がちょっとケガしてシンジにあたってたんだよ」

「トウジ?」

「ん? ああ、こいつの事だよ」

 そう言ってジャージマンを指差した。

「ふ〜ん、でも何で妹がケガしたからってシンちゃんを殴ったの? 話が全然見えてこないんだけど」

 いつの間にか僕は三人の輪に加わり当然のようにそこにいた。

「まあ、あん時はついカッとしてしもうて……シンジは悪うないのに、すまんかったな〜シンジ」

 そんな事言っても心の中ではシンちゃんのことを憎んでるんでしょ?

「い、いいよ。僕が全く悪くないって訳じゃないし……それに…………」

 手をぶんぶんと振って否定したシンちゃんだったけど、最後の方は言葉が小さくなってトウジの今は無い左腕を見ていた。

「この事も気にせんでええ。考え無しに外に出てったわしらが悪いんやし」

「そうだぜ、シンジ。俺達が悪いんだから気にするなよ」

 シンちゃんの視線に気づいたトウジがそう言うと、ケンスケもそんなことを言っていた。シンちゃんは二人の謝罪に申し訳ないって顔をしてる。

 ケンスケ達が悪い? てことは、この前の戦闘で? 二人があのままエヴァに乗ってたとしてもどうして彼らが傷つくんだ? フィードバックでエヴァと同じ状態になるなんて僕の時はならなかったよなぁ。それにシンちゃんだけが無事なのは何故? 被害を受けるとしたらシンちゃん一人のはず。…………ひょっとして……

「シンジ君。五時間目のチャイムが鳴ったから戻った方がいいよ?」

 おっと、考えに夢中になってたよ。

「うん、じゃあまたね。シンちゃん、トウジ君、メガネの君」

「おう、またな」

「メガネって……」

 だってケンスケの名前聞いてないし。

 そして、今や僕一人となったB組へと戻っていった。僕のクラスメイトはここに来た時五人いたんだけど、気付かない内に皆疎開したみたいなんだ。たった五人しかいなかったけど、いなかったらいなかったでちょっぴり寂しいかな。










 僕は毎日次に来る使徒、ガギエルのことばかり考えていたんだ。だから、この日の事をすっかり忘れてたんだよね。

 いつも通り学校に登校して、A組の前を通ったらトウジとケンスケの会話が聞こえてきた。

「そういえば、日重が対使徒用のロボットを完成させたらしいぜ」

「日重? なんやそれ?」

「日本重化学工業共同体のことだよ。知らないのか?」

「お前や無いんやし、そんなもん知るかい! そんでロボットって何やねん? エヴァンゲリオンなんか?」

「いや、どうやらただのロボットらしい。それの完成披露宴が今日行われるらしいんだ。見に行きたいけど、つまみだされるのがオチだしな〜」

「ほんま、お前は…………」

 二人がそんな事を話してたんだ。

 JAか、確かネルフが失敗させるんだったよね。まあ、あんなんじゃ使徒に傷一つ付けられないし…………ん? 待てよ。僕が改造すれば対エヴァにはなりそうだな。使徒とJAが組んだら面白そうだし。よし! 奪ってこよう!

 そして僕は勝手に早退して、JAを貰うべく国立第三実験場へと向かった。





 僕がいつもの衣装に着替えて慌ててJAの元に行くと、そこではもう起動実験が始まっていた。

 ちょっと遅刻しちゃったな。まあ、別に問題は無いんだけどね。

 そしてゆっくりと歩き始めるJA。すぐにネルフの工作で暴走するはず。なら、暴走してから頂こうかな。何かの間違いでリツコさんがJAに踏みつぶされたら面白いし。

 すると、僕の予想通り暴走してむちゃくちゃに走り出すJA。会場を踏みつぶしてったけど、残念なことにリツコさんは無事みたい。まあ、悪者はこんなつまんないことで死なないって決まってるしね。

 結構な速度で走るJAをあっさり追い抜き、JAをATフィールドで囲み動けないようにした。

 さて、どうしよう……このまま持って帰っても置き場所が無いし。そうだ! あそこにしまっとこう。あそこなら僕以外手出しできないし、好きな時に使えるしね。

 良案を思いついた僕はJAに向かって手を翳し集中した。すると、JAの足下に黒い闇が広がり、どんどんとJAを呑み込んでいった。ディラックの海なら完璧だよ。誰も干渉できないからね。

 僕はJAの足下にディラックの海を展開させたのだった。こんな事もあろうかと、あの赤い世界で練習してたんだよ。勿論、嘘だけどね。

 JAが完全に呑み込まれ大満足。もうこんな所にいる理由は無いからさっさと帰ろうとしたんだ。だけど、何故か初号機がいて僕に攻撃してきたんだ。

 何で初号機が? ……そっか、JAを止めるためにミサトさんが呼んだんだね。それより、僕は君と戦うつもりは無いって言ってるじゃないか! いい加減しつこいと僕だって何するか分かんないんだよ?

 僕に向かってプログナイフを振りかぶってくる初号機に心の中で愚痴っていた。そして、初号機を無視して帰ろうと思ったところで閃いた。

 ここで僕がイスラフェルに間に合わないように初号機を大破させたら、もしかしてユニゾンはアスカと綾波? それはちょっと面白そう……でも、未来の僕がユニゾンで来るとは限らないし……まあ、いっか。彼に賭けよう!

 そう思いついた僕は初号機に向かってATフィールドの刃を四本飛ばした。それは、正確に二本の腕の付け根と、足の付け根に当たった。その結果、初号機は手足を切り取られダルマみたいになった。

 念のため徹底的にやろう。

 そして、切り取った手足をATフィールドの箱に包ませて徐々に圧迫させていき、押しつぶしてこの世から完全に消し去った。

 ここまでやればイスラフェルまで修復は間に合わないよね? ちょっぴり痛そうだけど、君が何回も喧嘩を売ってくるから悪いんだよ? シンちゃん?

 やることを終えた僕は一刻も早くJAを改造したくて颯爽と帰路についた。





 家に帰ってきた僕は早速ディラックの海を展開してその中に入っていった。真っ暗な闇が広がり、上も下も分からない状態。

 こんなんじゃJAがどこにあるか分かんないよ。作業だって出来ないし……こうしよう。

 僕はこの空間に太陽なるモノを造ろうと手に力を集めた。その球体はどんどんと光り大きくなっていく。直径が軽く10kmはありそうな火の玉を造ってみた。

 このぐらい明るければいいよね。でも、流石にちょっと疲れたな…………さてと、JAはどこだ…………おっと、あれかな?

 僕が目を向けた方には微動だにしない巨大ロボットがあった。

 あったあった。さて、どういう風に改造しようかな〜、知識はあるからどうとでも出来るんだけど、ただ強くするだけじゃつまんないし。あっ! その前に材料が必要じゃないか! 僕としたことが迂闊だったな〜。じゃ、どっかから拝借してこよう。

 そして適当な工場から安っぽい材料を、これでもか! ってぐらいパクッてきたんだ。

 僕にかかればどんな材料だろうが関係ないしね。う〜ん、とりあえず対エヴァって事でライフル的なのは必要でしょ? あとは、近戦闘用に剣? 次に…………

 そんな感じで対エヴァ用としてJAを生まれ変わらせた。

 よし! かんせ〜い! 以外と楽しかったね〜。見た目は全く以て変わってないから、性能が断然にアップしてるとは誰も気付かないでしょ! さすが僕!

 自分の良くできた仕事ぶりに自分を褒めた。

 いつJAのお披露目をしようかな〜、次に来るガギエルは海上だから使えないし…………う〜ん、……そうだ! あの使徒の時にしよう! 彼の時ならピッタリだよ! でも、彼が来る前に僕がエヴァに勝っちゃったらどうしよう。折角のJAが無駄になっちゃうよね? まあ、その時はJAを使ってゼーレのボケじじいでも殺しちゃおう。

 久しぶりに有意義に使った一日に大満足して、僕は元の世界に帰っていった。





 僕がディラックの海から戻ってきて今日がいつなのか調べてビックリ。ディラックの海の中は時間の進み方が違うからね。

 僕は大慌てで支度を始めた。今日はガギエルが来る日じゃないか!? まずいよ、もうアスカが倒してたらどうしよう。とりあえずさっさとオーバー・ザ・レインボウに向かおう! まだ間に合うかもしれないし!

 そして、急いで太平洋へと飛んでいった。

 暫く飛んでいると、一際大きな船が一隻と、それを囲むように四隻が僕の視界に入った。

 あれかな? 船が五隻もあるし、一隻大きいのがあるしね。それより、まだ船が無事って事はガギエルが来てないって事かな? 一応、確かめてみよう。

 僕は弐号機が積まれてるであろう一隻に飛んでいった。

 ここかな? …………あっ、あった! 布に包まれたままだし、濡れてない。良かった、間に合ったよ。

 安堵してホッと一息吐く。

 そこで二人分の足音が聞こえてきたんだ。僕はずっと姿を消してるから、そのまま待機していた。

 そのうち一人が弐号機によじ登り、覆っていた布をバサッと剥ぎ取ると、残った一人に偉そうに話し出した。

「どう! これが世界初の実戦用に造られたエヴァンゲリオン弐号機よ! 本部にあるプロトタイプやテストタイプとはワケが違うのよ!」

 どうやらあれはアスカのようだね。いや〜、懐かしいねえ〜。今は勝ち気でいるけど、それがいつまで続くかな?

「紅いんだね、弐号機って」

「違うのは色だけじゃないわよ! 他にも色々と…………」

 シンちゃんののほほんとした答えを無視して、自分の世界に入っていたアスカだったんだけど、突然の振動でその演説は終わったんだ。

「きゃあ!」

「うわっ!」

 アスカが弐号機から転がって落ちていき、シンちゃんを下にして助かったみたい。そういえば、シンちゃんはJAの時の痛みはもう治ったのかな? 全然平気そうにしてるけど。まだシンクロ質が低いから?

 ピンピンしてるシンちゃんの体の事を考えていたんだけど、僕にはやるべき事があるのを思い出して動き出した。

 そんな事より、こんな所で二人に構ってる暇は無い! さっさとガギエルに会わなくちゃ!

 そうして僕はガギエルの元へと向かった。

 ガギエルは次々と艦隊に体当たりして船を沈めていた。僕はATフィールドを僕の周りに円形に張って海の中へと潜っていった。こうすれば呼吸が出来るからね。

 僕が海の中に入っていくと、僕に気付いたガギエルがこちらを向いていた。敵意が感じられなかったから手を上げながら陽気に挨拶したんだ。

『やあ、ガギエル。待ってたよ』

 僕の呼びかけを聞いたガギエルは、子供が親に甘えるみたいに僕に擦り寄ってきた。あはは、君は甘えん坊なんだね? よしよし。

 僕はATフィールドから器用に右手だけを出して、彼の背中を優しく撫でてあげた。すると嬉しそうにそこら辺を泳ぎ回るガギエル。

『僕の言うことを聞いて欲しいんだけど、いいかな?』

 その答えに大きな口を一杯に開き僕を呑み込んだんだ

『ちょ、ちょっと! 何するのさ!?』

 突然の彼の行動に驚いた。

 呑み込まれた僕はガギエルのコアの真ん前にいた。何となく触ってみると、彼の体がぶるぶると震えだしたんだ。気持ちいいのかな? そう思った僕は何度も優しく撫でてあげた。その度に震えるガギエル。いつまでやれば気が済むんだろう? そんな事を考えていたら急に吐き出された。

 口から出てきた僕の前でじっと僕のことを見てる。

『もういいの?』

 そう呼びかけると、頷くかのように体を上下に動かした。

『じゃあ、僕の言うことを聞いてね?』

 今までの使徒とは違い、甘えてくるガギエルに何となく優しい口調になる。

『それじゃあ、行くよ』

 そう言った僕は海上へと顔を出す。

 僕の後を着いてきてくれたガギエルは僕の真下でくるくると泳いでいる。

 オーバー・ザ・レインボウの上ではこちらに向かってプログナイフを構えてる弐号機がいる。僕はキョロキョロと未来の僕がいないか探したけど、見つけることが出来なかった。まあ、いいや。どこかにいるんでしょ? 今回は僕が勝たせて貰うよ!

 今日のために考えていた作戦を頭に思い浮かべ、弐号機がぐちゃぐちゃになった姿を想像して、僕はニヤッと笑った。

『行くよ! ガギエル!』






To be continued...


(あとがき)

 JAを徴収して改造させました。ある使徒戦で登場予定です。トウジとケンスケの左腕が無くなっていた理由は後々書きますが、感の良い読者ならすぐに分かると思います。これまで連戦連敗のシンジ君なんですが、ガギエル戦でちょっと良いとこを見せようと考えております。そんなわけで第八話へ。

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