僕だって指揮部長!

第六話 君も指揮部長!?

presented by ピンポン様


 一旦退却することにした僕は、ラミエルと共に太平洋上空にいた。

 さっきのはどういうことだ? どうしてもう陽電子砲の準備がしてあったんだろう。よく分かんないけど、僕の作戦はネルフに筒抜けって思った方がいいよね。なら、もっとちゃんとした作戦を練らないとさっきの二の舞になる。

 太陽の直射日光が僕に降りかかってとても暑かったけど、そんな事は気にならずどうすればエヴァに勝てるか必至に考えていたんだ。

 僕が作戦を考えてる中、ラミエルは暇ならしく、試し打ちと言わんばかりに加粒子砲を海に向かって撃っていた。そんな事どうでもいい僕は、ひたすらこれからの事を考えていたんだ。

 そしたら、いつの間にやら夜になっていたんだ。

 時が経つのを忘れて考えていたんだけど、何も良い案が浮かばなかった。

 このままじゃ、また負けちゃうよね。ちょっと敵状視察にでも行ってこよう。これくらいはやってもいいよね? 戦場では敵の情報を知るのは当たり前だし。

『僕は敵の様子を見てくるから君はここで大人しく待機しててね』

 ラミエルにそう呼びかけて、一路ネルフへと飛んでいく。

 第三新東京市に入り、ネルフの内情を知ろうと昼間僕が空けた大穴に入っていこうとしたら、山の方で明かりが見えたんだ。何だろう? ちょっと行ってみよう。そして僕はそっちに向かっていった。

 そこは、僕がヤシマ作戦を敢行した双子山だったんだ。

 注意深く見てみると、そこには初号機と零号機が静かに待機していた。もしかして、ヤシマ作戦? でも、僕らがここに来なかったら無駄骨じゃないか。僕らが今夜ここに来るって確信してるのかな。

 エヴァの近くを見ると、僕の時と同じくポジトロンライフルがあり、近くには指揮車があった。

 何故か分かんないけど、ネルフはヤシマ作戦でラミエルを迎え撃つ気らしいね。じゃあ、どう攻めようかな……とりあえずラミエルの元に戻るか。

 そして、僕はラミエルが待つ太平洋へと戻っていった。

 ラミエルは僕の言うことをちゃんと聞いてくれてたらしく、僕がネルフに行った時から一センチも動いてなかった。

 さて、どうしようかな。僕がやったヤシマ作戦を思い出してみよう。一撃目はラミエルも同時に撃ってきて、お互い干渉して外れたんだよね。そして、二撃目はラミエルの方が早くて綾波が守ってくれてその後に撃って勝ったんだっけ。

 僕の時のヤシマ作戦を一からなぞって考える。

 同じようにしたら確実に負けるよね。でも、ラミエルは加粒子砲しか攻撃手段がないから……う〜ん…………そうだ! 確か二発撃ったポジトロンライフルはその威力に耐えれなくて壊れたはず! なら今回も同じだよね。それなら………………

 勝利への一手が浮かび黙々と考え、シミュレーションが終わり、僕はニヤッと笑った。

『ラミエル、さんざん待たせてごめんよ。もうちょっとしたら出陣するから』

 作戦も決まり、出発は僕の時と同じ零時丁度にすることにした。

 この時、僕は気が付いてなかったんだ。昼間ジオフロントで二発撃ったポジトロンライフルが再度使われてることに。










 今は零時ちょっと前。遅刻しないようにちょっと早めに出発したんだ。

 僕らが双子山に着くと、寝そべりながらポジトロンライフルを構えてる零号機がいた。狙撃は初号機じゃないのか、すると盾になるのが初号機かな? どっちでもいいや、どうせ僕が勝つし。昼間は煮え湯を呑まされたけど今回はそうはいかないよ。今日限りでネルフは壊滅だ。

 自分の勝利を疑わない僕はお面の下で笑っていた。

『ラミエル、いつでも撃てるように準備しておいて』

 僕の言葉を聞いたラミエルは内部にエネルギーを収束していった。

 こちらが準備万端になって、僕は零号機からの攻撃を待っていた。

 僕の考えた作戦とは、二発しか撃てない陽電子砲を撃たせて、どちらもラミエルの加粒子砲と干渉させてかわす。その後、何も出来ないエヴァ二体に加粒子砲を喰らわせ破壊。そしてジオフロントに侵入してネルフ本部も破壊。でも、父さんやリツコさんとか、僕が殺したい人は僕の手で直接殺すんだ。

 我ながら完璧な作戦だよ! もしミサトさんだったらパーペキねって言ってるよ!

 僕達の勝利を微塵も疑わず、数分後の展開にうきうきしてた。

 そんな事を考えてたら、零号機が陽電子砲を撃ってきた。

『あの光線に当てて軌道を逸らして!』

 ラミエルにそう言うと、寸分狂わず陽電子砲に当ててくれた。

『その調子! もう一発来るから同じようにかわして。あっ、まだエネルギーは溜めないでね。敵に気づかれたら撃ってこないかもしれないから。僕の合図で溜めるように』

 再充填には確か三十秒ぐらい掛かったよね。こっちは五秒と掛かんないからまだ早い。

 そのまま、待機してそろそろといったところでラミエルに呼びかけた。

『エネルギー準備開始!』

 ラミエルの内部にエネルギーが収束されてくのを感じる。

 こっちの準備が整ったとほぼ同時に零号機が撃ってきた。一撃目と同じように干渉させてかわす。

 遠目から零号機を見てみると、ポジトロンライフルが爆発して壊れてるみたい。予想通りの展開に笑いを抑えることが出来ない。

『よし! あっちはもう抵抗できないはずだから攻めるよ! エヴァにさっきのを撃って!』

 すると、エネルギーを収束しきったラミエルの体が光り、一直線に零号機へと加粒子砲が襲っていく。バイバイ、綾波。

 心の中で綾波に別れを告げる。まあ、初号機が盾で守るからすぐには死なないんだけどね。その光景を心に浮かべながら成り行きを見ていたんだ。そしたら、僕の予想とはまるで違ったんだ。

 どこからか出した盾を自分で持って加粒子砲を防ぐ零号機。何で零号機が!? 初号機が防ぐんじゃないの!? それを見た僕はちょっと混乱していた。

 零号機の盾はみるみる溶けていく。それなら初号機は何処にいるの? 偵察に来た時は初号機もいたからどこかにいるはずだよね。…………まさか!?

 そして、呆然と見てた零号機からラミエルへと視線を戻した。そこには加粒子砲を撃っているラミエルがいる。けど、その後方にはこちらに走ってきている初号機の姿があった。

『まずい! 一旦撃つのはやめて! 後ろから攻めてきてる! すぐエネルギーを溜めて!』

 僕の言ったとおりに撃つのをやめ、再度エネルギーを収束し始めるラミエル。

 しかし、時遅くすでに初号機はすぐそばに来ていた。くそっ! 間に合わない!早くて五秒は掛かるエネルギーの収束など間に合うはずもなかった。

 ラミエルに襲いかかる初号機の手には、アスカがイスラフェルを一刀両断にした武器があった。それを見た僕は一安心。あれならラミエルを切れないはず。そんな僕の希望的観測はもろくも崩れ去った。

 両手を空高く掲げ一気に振り下ろす初号機。その武器には初号機が展開したATフィールドがまとわりついていた。それをATフィールドを中和しながら器用にやってのけたのだ。うそっ!? シンちゃんってそんな事出来たの!? その光景を見た僕は、驚いて目を見開いていた。

 呆気なく真っ二つにされるラミエル。自分の勝利を確信していた僕はただ呆然としていたんだ。すると、ラミエルを倒した初号機が僕に向かって攻撃してきた。それにハッとした僕は慌ててそれを避ける。

 僕に向かって油断無く構えてる初号機。僕は君達と戦うつもりは無いよ。僕は戦闘員じゃなく指揮官だからね。心の中でシンちゃんにそう伝えた僕は、雲一つ無い夜空へと向かって飛んでいった。










 綺麗なまんまるに輝いている月明かりの下で、僕はさっきの戦闘の事を考えていた。ちなみに衣装はもう脱いでいる。今日は暑いからね。

 今回は完敗だったな……あそこまでいいようにやられるとは…………それにしてもどうして!? なぜネルフは僕の作戦を知っていたの!?

 いいようにやられた僕は悔しくてしょうがなかった。

 空中にぷかぷか浮いて一人で反省会をしていたら僕の前に誰か来たんだ。

「今回は僕の勝ちだったね」

 えっ? だれ? 自分の世界に入っていた僕は、急に人の声が聞こえてきてびっくりしたんだ。声が聞こえてきた方を見ると、そこにはこの前司令室で会った使徒がいたんだ。

「うわっ!? びっくりした〜。驚かせないでよ」

 彼がここにいることに特に疑問を持たなかったんだ。

「ふふ、ごめんよ。それよりも僕がここにいることにあまり驚かないんだね?」

 お面を付けているからよく分かんないけど、その下では多分微笑んでいるんだと思う。

「うん。だって君も使徒なんでしょ? それだったら別に驚くことはないよ」

 だから僕も自然に微笑むことが出来たんだ。

「まあ、有り体に言えばそうだね」

「それで、さっき言ってた君の勝ちってどういうこと? 僕は君と何か勝負したっけ?」

 彼が使徒なんて分かっていたからこの答えは予想通り。それより彼が最初に言った言葉が気になったんだ。

「さっきの戦いだよ」

「戦い? でも僕はラミエルを指揮してエヴァと戦っただけで、君とは戦ってないけど?」

「僕がエヴァを指揮してるのさ」

「ええ〜!?」

 彼がエヴァを指揮!? どういうこと!? エヴァを指揮してるのはミサトさんじゃないの!? それより何で使徒の彼がエヴァを指揮できるの!?

 彼の言ったことを考えている僕の頭の上には無数のクエスチョンマークが飛び交っていた。

「混乱してるようだね? まず、僕の正体から明かそうかな」

 そう言った彼はお面を外した。

「うっそ〜!?」

 彼の素顔を見た僕は絶叫した。

 だって彼の顔が僕と全く同じだったんだよ!? 一体全体どうなってるのさ!?

「初めまして、って言っても同じ自分だから変な感じがするね」

 同じ自分!?

「い、意味が分からないんだけど」

「だから僕の名前も碇シンジ、君の名前も碇シンジってことだよ」

 どっかで聞いたことがあるセリフ。

「つまりどういうこと?」

 混乱しながら訊く。

「ん〜、僕は未来の君ってことだよ。要するに、君がこのまま長い年月を過ごして退屈になったから過去に戻ろっかな、って思って戻ってきたのが僕ってわけ」

 彼が未来の僕!?

「そんなに簡単に過去に戻れるものなの?」

 僕は彼の話を信じた。現に僕も過去に戻ってきてるからね。

「簡単には戻れないよ。ちょっと色々あってね」

「ふ〜ん」

 ん? そういえば……

「僕の家にメモを残していったのは君でしょ? ってことは、君も使徒を指揮してたの?」

「うん、そうだよ」

「それなら君の時も未来の君がいて、その彼がエヴァを指揮してたの?」

 何かややこしいことを言ったかな?

「僕の時はいなかったよ。だから、僕の時は君が考えたようにラミエルを指揮して、ここでネルフを潰したんだ」

「? どうして君の時は未来の君がいなかったの?」

「最初は僕らが父さんに呼ばれてここに来たよね?」

「うん」

「その時は使徒を指揮してる君も、エヴァを指揮してる僕もいなかったよね?」

 そういえばそうだ。過去に戻った僕がいるなら、最初にエヴァに乗った時に僕たちがいなかったらおかしい。

「そうだね。って、結局どういうことなの?」

「僕が考えるに多分僕らは平行世界に来たんだよ」

「平行世界? それってよく似た世界のこと?」

「そう。だから一週目の僕は僕たちの事を見てない。僕の二週目もエヴァを指揮してる僕がいなかった」

 う〜ん、ややこしいなあ。

「何だかんだ言っても、僕たちがここにいるのは事実なんだから、どうだっていいじゃないか」

 僕が悩んでると未来の僕が笑いながらそう言ってきた。まあ、そうだよね。うだうだ考えても仕方ないし、ここにいる以上どうやったら楽しめるのかだけ考えよう。

「そうだね。……ところで、どうやってエヴァを指揮してるの?」

 そうだよ! 未来の僕がどうやってエヴァを指揮なんてしてんのさ!?

「ん〜、簡単に言うと、父さんに餌をあげたんだ」

「えさ?」

「そう、碇ユイっていう餌をね」

 そして未来の僕は楽しそうに笑ったんだ。

「?」

 母さんがえさ? 何を言ってるの? よく分かんない僕はただ首をひねるばかり。

「僕がやったのは、父さんの目の前で初号機から母さんをサルベージして見せたんだ」

 な〜るほど、父さんには一番効果的だね。

「それを見た父さんは泣いて母さんに縋っていたよ。でもすぐに母さんを初号機に戻したけどね」

「どうして?」

 何でそんな事をするの? 不思議に思った僕が訊くと、彼はこれ以上ないぐらい楽しそうに笑ったんだ。

「決まってるじゃないか。母さんをいつでも出せるって事を分からせて僕の好きに出来るようにするためと」

 まあ、父さんの性格上、母さんが戻ってきたら彼のことは使徒と決めて敵に回しそうだしね。

「その希望を打ち砕くためだよ」

 そこまで言った彼は抑えきれない、といった感じで笑い出した。

「打ち砕く?」

 彼の言いたいことがよく分からない。

「ふふ、君なら分かると思ったんだけどねぇ、同じ僕だし。……まあ、それは置いといて。父さんのこと憎んでるでしょ? だから使徒を使って遊びながらネルフを潰そうとしてるんでしょ?」

「うん」

「さっきも言ったとおり、僕は前回ここでネルフを潰したんだ。父さんは勿論、リツコさんとかミサトさんとか皆殺したんだ」

 僕がやろうと思っていたことを君はやったんだね?

「でもね、あんまりすっきりしなかったんだ」

「どうして?」

「皆一瞬で死んでったからね、あまり達成感とか喜びとかが少なかったんだ。だから今回は精神的に殺してやろうって思ってね」

 ふ〜ん、じゃあ僕が今回そうしてたら僕もそう思ったのかなぁ。

「だから今はネルフの内部をぐちゃぐちゃにしようと頑張ってるんだよ」

「具体的には?」

「父さんに命令させて僕をネルフの指揮部長にさせたんだ。それでミサトさんの復讐を僕がするって感じで、今はミサトさんを追い詰めてるかな」

 ミサトさんにはそれが一番効くだろうね。

「でも、君はネルフで使徒ってバレてないの?」

 司令室であんだけやったのに。

「それを知ってるのは父さんとリツコさんと副司令だけだよ。君が司令室に来た時に見せただけだし。後は常にこの格好でいるから君と何か繋がってるんじゃ、って思われて皆に疑われてるけどね」

「ふ〜ん、君も色々やってんだね」

「まあね、でも僕が指揮部長になったのはミサトさんの嫌がらせが全てじゃないよ」

「僕のため?」

「うん。君のためっていうか僕自身のためでもあるしね。その方がネルフをいびるだけより楽しいと思ってね」

 多分、僕が彼でもそうするだろう。

「まあ、そういうわけでこれからよろしくね? 今日はちょっとフェアじゃなかったかなって思ったけど、君をビックリさせたくて」

「うん、よろしく。ビックリしたけどそれ以上に嬉しいから気にしてないよ」

「良かった。じゃあ、次はガギエルだね?」

「うん。次は負けないよ? 君がいるって分かったから、いくらでも対策は考えれるし」

「ふふ、楽しみにしてるよ。またね?」

「ばいばい」

 そして最後に僕らは微笑みあった。

 挨拶を終えた未来の僕はさっさと姿を消して僕の前から去っていった。

 未来から僕が来たっていうなら今日のことも頷けるね。でもちょっぴり悔しいかな。彼が僕より色々知ってるって事は分かったけど、あんなにこてんぱんにやられたんだもん。次は僕が勝ってみせるよ! 僕だって指揮部長なんだ!

 謎の少年こと未来の僕に会った僕は、今までより一層やる気になって満月に向かって叫んだ。

「かかってこいやー!」






To be continued...


(あとがき)

 そんなわけで、この前の使徒は未来のシンジ君です。シンジ同士の会話なんですが、とてもややこしくなってしまい、分かりづらかったら申し訳ないです。未来のシンジはネルフの内部を攻めてるんですが、この作品には詳しくは出てきません。ちょっとは触るかもしれないですけど。要望があればそちらを外伝が何かで書こうと思っております。あと、この作品は『使徒が嫌い、でもエヴァは好き』とは違い軽いノリで書いてるので、一話一話が短いのですが変える気はありません。ながちゃん様ごめんなさい……次回はJAが出てきますので〜。

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