僕だって指揮部長!

第五話 謎の少年!

presented by ピンポン様


 僕はもう使徒もエヴァもどうでもよくなり、憎んでた人を殺すことに決めたんだ。

 司令室に案内してくれてるリツコさんの後ろを歩き、今までとは違った高揚感に満ちあふれ、僕の頭の中には、どうやって殺そうかなって考えがぐるぐると回っていたんだ。

 そんな事を考えてたら、リツコさんの足が止まったんで前を見てみると、いつの間にやら司令室の前に来ていた。

 インターフォンを押すリツコさん。

 僕はドキドキしながらドアが開くのを待っていたんだけど、インターフォンからは一向に父さんの声が聞こえてこない。

 不思議に思ったリツコさんがもう一度インターフォンを押した。

 でも、その返事は父さんの声じゃなく、部屋の中から聞こえてきた一発の銃声が答えたんだ。

「!? 司令!」

 それを聞いたリツコさんは、焦りながら自分のIDカードを使ってドアを開け、転がるように中に入っていったんだ。

 新たな展開に僕はさっきまでとは違う興奮が体中を駆け回った。まさか、父さんが撃たれた!? 一体誰が!? そして僕もリツコさんの後に続いて中に入っていったんだ。だけど、そこにいた人物にびっくり。

 司令室の中には、腰を抜かしてへたり込んでいる副司令に、椅子に座りながら銃を構えてる父さんがいたんだ。父さんの銃からは撃ったばかりだと言わんばかりに、一筋の煙が立ち上っていた。

 父さんが撃ったのか、誰を撃ったのかな? その相手を見て僕は開いた口が塞がらなかったよ。だって、その人は僕がシャムシエルを指揮した時と同じ格好をしてたんだから。

 背丈は僕と同じくらいの低身長。彼は僕が被っていたお面と同じ七つ目の面を被り、僕と同じ着物に身を包んでいたんだ。僕と違う点を挙げると、僕のお面は面が白くて目は黒いんだけど、彼の面は面が黒くて目が白いんだ。あと髪の毛。彼は純粋な日本人よりもっともっと黒い髪の色だったんだ。

 僕がその光景をポカンと見ていたら、父さんの近くに寄って震えていたリツコさんが勇気を出して口を開いたんだ。

「あ、貴方は、な、何者!? な、何が目的なの!?」

 恐怖してるのがよく分かるくらい声が震えていた。

 でも、彼はリツコさんの問いに答えず、じっと立ちつくしていた。その時、父さんがもう一発、彼に向かって発砲したんだけど、彼の前に八角形の紅い壁が出てきて、彼を守ったんだ。

 ATフィールド!? この人使徒なの!? でも僕の時はこんな使徒いなかったしなぁ、僕が過去に来た所為で新たに誕生したとか? それなら、どうして僕と同じ格好をしてるの?

 父さん達は恐怖に震えていたけど、僕はただ彼を見ているだけだった。

 すると、彼は僕に向き直り、暫く僕のことをじっと見ていたんだ。僕も見返してたんだけど、行動を起こす気はなく成り行きに任せていたんだよね。そしたら彼が僕が消える時みたいに急に消えたんだ。

 びっくりした僕は辺りをキョロキョロと見回したんだけど、彼の姿はどこにも見あたらなかった。

「……ラミエルを楽しみにしてるよ」

 僕の耳にまだ声変わりしてない感じの少年みたいな聞き慣れた声が聞こえてきた。

 僕が急いでその声がした方を向いても誰もいなかった。今の声はさっきの使徒? でも、何か聞いたことがあるんだよな〜。それに、ラミエルを楽しみにしてる? どういうこと?

 うんうんと考えていたんだけど、部屋になだれ込んできた黒服のおっちゃん達のせいで、その思考は中断された。

「司令! 不信人物は!?」

「大丈夫ですか!?」

 などと叫びながら父さん達に向かって駆け寄っていった。

 何か話してる父さんやリツコさんを見ながら(副司令はまだ腰を抜かしていた)これからの事を考える。

 よく分かんないけど、さっきの使徒はラミエルの時にまた会おうって事だよね? てことは、僕が今、父さんやリツコさんを殺してネルフを潰したら彼に会えない? それはいただけないな〜、僕のそっくりさんとはもう一度会ってみたいし。よし! 皆を殺すのは先延ばしにしよう! 何かわくわくするね〜、こんな事が起こると思ってなかったから楽しみでしょうがないよ。

 笑いを抑えることが出来ず、僕の口は自然と綻んでいった。

 未だざわざわとしている父さん達を放って、僕は司令室から出ていくことにした。

 謎の使徒(?)の所為で僕に構ってる暇なんか無いでしょ? またね、父さん。

 そして、踵を返して司令所を後にした。





 そんなイベントがあったから楽しくなってスキップしながら帰っていった。通りすがりの人は変人を見る目で僕を見てたけど、そんなのノー眼中。え? スキップなんか古いって? そんなの知らないよ。僕には古いも新しいも無いからね。

「たっだいま〜!」

 誰もいない家に元気良く帰ってきた。

 家の中に入るとこの前買ったちゃぶ台の上に一つのメモが置いてあった。食事はしないんだけど、雰囲気を出すために何となく買ってみたんだよね。

 そのメモを見ると何やら下手くそな字でこう書いてあった。

『君の指揮を楽しみにしてるよ』

 この一言。

 僕が使徒を指揮してることまで知ってるの? ふふ、がぜん楽しくなってきねぇ〜。それじゃ、ラミエルの指揮をバシッととらなきゃ。彼が失望してもう僕の前に出てこなくなっちゃうかもしれないからね。

 僕は暫くは来ないラミエルをどう指揮しようかあれこれと考えていた。










 ある日、家から出るとシンちゃんがいた。僕の家の前にいたんじゃなく、マンションから出てほんの数歩、歩いたら前方から歩いてきたんだ。

「あれ? シンちゃんこんな所でなにしてるの?」

 足を止めて彼に訊いた。

「おはよう、シンジ君。君もここに住んでるの? 僕は綾波に届け物があって……」

 お〜、やっとこの日が来たか。あれから退屈な日々を送りながらずっと待っていたんだよ。

 退屈って言っても周りはうるさかったけどね。あの日、リツコさんに全て話すって言ったのに黙って帰ってきちゃったから、ネルフからの使者がやたらと来たんだ。

 勿論、僕は何も話す気など無いからいつも通り撃退してたんだけど、いつだったかな、武装した黒服が五十人くらい来た時があったんだ。いや〜、あの時はすごかったね〜。

 僕を何とか生け捕りにしようと、四方八方からうじゃうじゃ黒服のおっちゃんが来る来る。拳銃は使ってこなかったけど、全員が警棒やら鉄パイプやら持って襲ってきた時には、一昔前の不良か!? って叫びたかったよ。

 人を集めたからって僕を捕まえることなど出来るはずもなく、鬱陶しくて手加減抜きでやったから全員殺しちゃった。最後の一人なんか僕を見てぶるぶる震えながら銃を撃ってきたんだけど、そんなモノ効くはずも無く僕の体に弾かれたんだ。その時の僕はネルフのしつこさにうんざりしてて、ちょっとだけ怒ってたんだ。だから、その最後の一人はネルフへの見せしめとして両手両足をもぎ取り、胴体と頭だけ残して段ボールにつめてネルフに郵送してあげたんだ。それからは、パッタリと黒服が来なくなって快適な生活を送ってたんだ。

 そういえば、学校にトウジとケンスケの姿が見当たらなかったな。どうしたんだろう? 今度、シンちゃんにでも…………

「…………ジ君! シンジ君!」

「え? なに?」

 いけない、いけない。どうにも考えに没頭しちゃう。長い間ずっと一人でいたからね。

「なにって……ずっと呼びかけてたのに返事がないから……」

 あらら、ごめんよ、シンちゃん。

「ごめんごめん。ちょっと考え事してて。どうしたの?」

「あの……綾波って本当にここに住んでるの?」

 まあ、女の子がこんな寂れた所にいるとは考えたくないよね。

「うん、僕の一つ上に住んでるよ。案内しようか?」

「あ、ありがとう。綾波って話し掛けてもそっけないから、どうにも一人で会うのが怖かったんだ。僕って嫌われてるのかな?」

「そんな事無いと思うけど? 僕が話し掛けたら返事すらしてくれないからね」

 そうだった。綾波は僕のこと完全シカトなんだよね。ちょっとへこむなあ……

「じゃ、行こう?」

 そしてシンちゃんを連れて綾波の家へと向かった。

 それにしても、どうしてシンちゃんは僕に普通に話し掛けてくるんだろう。僕のことネルフでは秘密なのかな? それとも、僕が人殺しなんかしないって思ってくれてるのかな? そうだったら何となく嬉しいね。同じ自分なんだけど。

 そんな事を考えてたいら綾波の家の前に着いた。

「ここだよ」

 シンちゃんの為に横にどいてあげた。

「うん、ありがとう」

 インターフォンをカチカチと押すシンちゃん。反応がないことに怪訝な顔をして、僕を見てきた。

「壊れてるのかな?」

「さあ? ドアを叩いて呼んでみれば?」

「そうだね」

 そしてシンちゃんはドンドンとドアを叩き出した。

「綾波〜、いないの〜? 綾波〜、あや……あっ」

「……何?」

 大声で呼んでいたシンちゃんだったけど、急にドアが開いて綾波が顔を出したのを切っ掛けに叩くのをやめた。

 僕の時はシャワーに浴びてたよね? もしかして、僕が考え事をしてた所為で時間をくったのかな? ちょっと惜しいことをしたかな?

「あ、その……ア、IDカードを渡すようにリツコさんに言われて……それで、その……」

 非常におどおどとしながら、鞄からIDカードを取り出し綾波に見せた。

「そう」

 綾波はたった一言そういうと、差し出したシンちゃんの右手からカードを奪い取った。

「…………何故、あなたがここにいるの?」

 すると、僕に気づいた綾波が鋭く僕を睨んできた。

「ん? シンちゃんに案内を頼まれたからだよ?」

「……」

 綾波から訊いてきたのに僕の返事を無視した。そして、僕らを置いて一人歩き出したんだ。

「ま、待ってよ! 綾波。これから本部に行くんだよね? 一緒に行ってもいいかな?」

 シンちゃんが歩き去る綾波の後ろ姿に呼びかけた。

「…………」

 振り返った綾波は無言でシンちゃんを見る。その目は冷たい。

「……構わないわ」

 そう言ったのに、シンちゃんを無視して歩き出した。

「そ、そう、良かった。……あっ、シンジ君、案内してくれてありがとう。それじゃ、僕はネルフに行くから」

「うん。またね?」

 綾波の答えに一安心といった表情をかもしだしたシンちゃんは、僕に向き直って別れを告げ、綾波を追いかけていった。

 一人残された僕はこれから来るラミエルのために準備を始めた。勿論、準備とは着替えのことだよ。










 前回、ラミエルが籠城を決め込んでいた場所で彼を待つ。

 待つこと一時間、遙か彼方に青い立方体が見えた。おっと、どうやら来たようだね。こうして見るとラミエルって綺麗だね。あのブルーがとても心を落ち着かせるよ。

 そして僕の目の前で止まるラミエル。

『やあ、ラミエル。こんにち……』

 初対面の挨拶をしようとしたらいきなり僕に加粒子砲を放ってきたんだ。

 びっくりしたけど、咄嗟に張ったATフィールドでしっかりガードした。それにしても、今のはヒヤッとしたよ。いきなり撃つなんてずるいじゃないか。

『危ないじゃないか! ラミエル。僕が分からない?』

 もう一度食らわせようと、ラミエルの内部にエネルギーが収束されていくのを感じた僕は、急いでラミエルに呼びかけた。

 すると、溜めていたエネルギーはピタッと止まり、僕に向かって撃ってくる気配が無くなったんだ。良かった、君も分かってくれたんだね?

 そういえば、そろそろ初号機が来る頃かな。

『いつでもさっきのを撃てるように準備しておいて。下から敵が来るから僕の合図に合わせて撃って欲しいんだ』

 分かってくれたらしく、再度エネルギーを収束し始めるラミエル。彼に加粒子砲って言わなかったのは通じなさそうだしね。

 それにしても、僕のそっくりさんは来ないのかな? もうラミエルが来ちゃったよ?

 そんな事を考えていたら、漸く初号機が出てきた。

『撃て!』

 指揮官っぽくてちょっと楽しい。

 ラミエルの先端が光り輝き、細い光線が初号機を襲う。装甲がみるみる溶けていくのを見ていたけど、結構経ってから漸く回収された。僕の時より長い気がするけど、シンちゃん生きてるかな? まあ、いいや。予定通りジオフロントに侵入しようか。

 ラミエルは初号機が消えてからは僕の命令待ちのようで、微動だにしない。

『ちょっと待っててね?』

 ラミエルにそう呼びかけて、僕は両手を下に翳した。

 僕の両手が光りどんどん輝いていく。このぐらいかな? 常人なら失明してもおかしくないくらいの光りの珠を造りだした。直径は十センチといった所の小ささ。それを真下に向かって投げた。

 それが地面に触れた瞬間、大爆発が起きて、ゼルエルが空けた穴など問題としないくらいの大穴ができていた。あちゃ〜、やりすぎちゃったかな。まあ、いいや。行こうか? ラミエル。

『さあ行くよ。おいでアダムの分身、そして僕の下僕』

 カヲル君のマネをしてみたんだけど、失敗したな〜。ここにラジカセを持ってきて第九を流せばもっと雰囲気出たじゃないか! しょうがない、今回は諦めよう……

 なんて下らないことを考えながらラミエルを引き連れて降りていく。

 とうちゃ〜く。さて、どうしようかね…………って、何で初号機が!?

 ジオフロントに降り立った僕は、どうしようか考えていたんだけど、目の前にパレットライフルを構えてるボロボロの初号機(さっきの加粒子砲をくらって装甲が熔けた)を見てびっくりしてた。それにいつの間にか、シャムシエルにやられた左腕は治ったようだね。

 この時の僕ってまだ意識不明で眠ってたよね? じゃあ、アレに乗ってるのは綾波? とりあえず牽制に一発撃っとこうか。

『ラミエル。もう一発たの……』

 頼むよ、って言おうとしたけどラミエルを見て言葉を失った。だって、ラミエルの体に穴が空いてたんだもん。

『ちょっ、どうしたの!? ラミエル!』

 僕に答えれないラミエルはただジッとしていた。幸いコアは傷ついてないようで、フワフワと空中に浮いていた。

 何があったのか確かめるべく、僕は辺りを見回してたんだけど何も無かったんだ。そして、ふとラミエルの後ろの下の方を見て驚愕した。

 そこには、周りの木々にカモフラージュして寝そべりながら、僕がヤシマ作戦で使った陽電子砲を構えてる零号機がいたんだ。どうして!? 誰が乗ってるの!? 何でもう準備がしてあるの!? まるで僕らがここに来ることを知ってるかのような作戦に、僕の頭の上にはクエスチョンマークが飛び交っていた。

 そんな風に混乱してたら、零号機がもう一発撃ってきた。早すぎる!? くそっ!

 ラミエルがATフィールドを張っていたが、そんなモノあっさりと破られる。そこで僕は、使徒戦には手出しをする気は無かったのに、自然とラミエルを守るようにガードしていたんだ。

 僕のATフィールドによって防がれる陽電子砲。ここで、ラミエルが零号機に加粒子砲を撃てば決着は着く。でも、僕はそんなの認めない。僕が手を出して勝ってもちっとも嬉しくないからだ。

『……一旦、退却するよ』

 僕は暗い声でラミエルにそう呼びかけ、僕らは僕が空けた大穴を昇って地上に向かった。

 地上に向かって飛んでいる僕の心の中には大きな敗北感が刻まれた。






To be continued...


(あとがき)

 ゲンドウと冬月が登場したんですが、一言も話しませんでしたね〜。まあ、後々出番はあるので、その時にでも。謎の少年が出てきましたが、彼のことは近々明らかにします。それでは、これからもよろしくお願いします。

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