第四話 めんどくさいんだよ!
presented by ピンポン様
今、シンちゃんが駆る初号機が僕らに向かってパレットライフルを撃ってきた。その弾が劣化ウラン弾を使っていたらしく、何発かシャムシエルの体に当たって砕け、僕の目の前にはその粉塵が広がっている。
僕は現在、シャムシエルの真ん前にいる。指揮官らしく、後ろの方から色々指示を出そうと考えていたんだけど、そんな僕の考えなどお構いなしに、シンちゃんが撃ってきたんだよね。
僕は黒っぽい煙に覆われてる中、シャムシエルの後ろに飛んでいった。
後ろからシャムシエルを見てみると、いきなりの攻撃に腹が立ったのか、二本の触手というか、ムチを出していた。僕はそれを見ながら考える。
僕がシャムシエルと戦った時は訳も分からない内に勝ったけど、よく考えてみたら、こいつって結構強いんだよね。しかも、僕はこの戦いの成り行きを知ってるからフェアじゃない。どうしようかな……このまま圧勝しても面白くないし…………そうだ!
『ちょっと待った! その二本の触手は使わないで』
今にも初号機に向かってムチを振るおうとしている彼にストップをかけた。
僕の言葉が通じピタッと動きを止め、ムチを消してくれた。
『ありがとう。君の攻撃方法は体当たりのみ。いいかな?』
分かったとでもいうように、目みたいな所を光らせた。
『じゃあ、早速エヴァに体当たり! 手加減はしなくていいよ』
そして、シャムシエルは煙がはれない内に初号機に突っ込んでいった。
煙の中からいきなり出てきたシャムシエルに対応できず、彼の体当たりをまともに食らい吹っ飛ぶ初号機。何とか起きあがろうとするも、シャムシエルがその図体からは想像できない早さで体当たりを繰り返す。初号機はその度に吹っ飛び、最早パレットライフルは壊れ、手に持っていない。
何の反撃も見せず、装甲がボロボロになっていく初号機。ふらふらとした感じで、立っているのが精一杯といった感じが目に見えて分かる。
ハンデをあげたのにこの程度か、ちょっと早いけど、トドメを刺しちゃおう。
『シャムシエル、距離をつけて思いっきり体当たりして。もう殺していいよ』
僕の言葉を聞いたシャムシエルは、滑るような動きで僕の遙か後ろに飛んでいき、思いっきり初号機に体当たりした。
初号機はアンビリカルケーブルが引きちぎれ、さらに山の方まで吹っ飛んでいった。倒れ伏したままピクリとも動かない。僕もシャムシエルも待機状態。そのまま傍観してたら、初号機がゆっくりと起きあがり、エントリープラグを排出させていた。
何やってんだろう? 何かあったっけ……山……飛ばされる……エントリープラグ……あっ!
『今はダメだ!』
再び襲いかかろうしていたシャムシエルを止めた。
そうだった! ここにトウジとケンスケがいたんだよね〜。全く、大人しくシェルターの中に居ればいいものを。別に二人が死のうがどうでもいいんだけど、この後のシンちゃんの行動を見てみたいし。……おっと、どうやら二人を収容したようだね。シンちゃんはミサトさんの指示に従うのかな?
傷ついた所為もあるだろうけど、初号機はさっきよりも明らかに動きが鈍い。異物を二つも入れたからシンクロ率が下がってるんだろうな。
どうするのかな? 向かってくるのか? それとも、撤退するのか? どっち!? 何て考えていたら、初号機はおぼつかない足取りで、僕らとは正反対の位置に向かっていき、直立不動になったかと思えば地面に吸い込まれていった。
ふ〜ん、君はミサトさんに従うんだね。それはそれで嬉しいよ。僕の時と違う展開になったからね。じゃあ、僕らも初号機を追っていこうか。
『シャムシエル、今エヴァが入って行った所から追撃しよう』
そしてシャムシエルは初号機が吸い込まれていった所に立ち、僕がATフィールドで薄い地面を破り侵入していく。シャムシエルも僕の後ろに着いてくる。
エヴァの射出口を順調に下に進んでいってたんだけど、僕らに気づいたネルフが、行く手をシャッターで防ごうとしてきた。こんなモノ、僕にとって時間稼ぎにもならない。戦闘には手を出さないけど、妨害を防ぐのには黙っていないよ。
ATフィールドで次々と破りながら進み、漸く地面が見えた。僕はフワフワと空中に浮き、シャムシエルは僕の前に出た。
初号機を探してキョロキョロしてたら、すぐに見つかった。ジオフロントの真ん中にいたよ。
新たにアンビリカルケーブルを装着し、ボロボロの体でパレットライフルを構えていた。
ライフルは効かないって分かったじゃないか、シンちゃんにもミサトさんにもがっかりだよ。
僕が彼らに失望して溜息を吐いていたら、バカの一つ覚えみたいにライフルを撃ってきた。
再び視界が黒に包まれた。シャムシエルに命令を出そうとした瞬間、シャムシエルの目の前に初号機の姿があった。煙に乗じて突っ込んで来たらしいね。
予想もしてなかった展開にシャムシエル大ピンチ。初号機の右手にはプログナイフが握られてる。彼の体勢からして狙いはコア。
最高のタイミングだったんだけど、初号機の動きが遅くてかすっただけですんだ。一旦、初号機と距離をとる。
今のは危なかったな〜、いい作戦だったけど詰めが甘かったね。ひょっとして、まだトウジとケンスケを乗せてるのかな? まあ、僕らがすぐに追ってきたから降ろす時間なんて無かったか。
ミサトさんとシンちゃんのどっちが考えたか作戦だったのか分からないけど、心の中で素直に感嘆していたんだ。だけど、シャムシエルの様子がおかしいことに気づいて彼に訊いた。
『? どうかしたの?』
あっちへふらふら、こっちへふらふらしてるシャムシエルに疑問を持った。
僕からの意思を伝えることは出来るけど、あっちからの意思を聞けないのが難点だな〜。彼からの返事を聞けず悩んでいたら、コアが欠けていることに気づいた。
自己修復はできる筈だけど、やっぱりコアは無理だよね。ごめんよ、シャムシエル。僕がうかつだったばかりに。
心の中で謝罪して、全力を出すように伝える。
『触手を出していいよ。そうじゃなきゃキツイでしょ?』
そうすると、待ってましたとばかりに、素早く二本のムチを出した。
それを見た初号機は、彼の変わり様に戸惑い硬直していた。シャムシエルは感覚を確かめるように、辺りのビルにムチを振るっている。
僕が体験した時より遙かにムチのスピードが遅い。コアを痛めたからかな? それでも、手負いの初号機とは、どっこいどっこいといったところだね。
肩慣らしを終えたシャムシエルは、その二本のムチを初号機に振るった。初号機は何とかかわし、一旦距離をとる。しかし、シャムシエルはそんな初号機に襲いかかっていく。
先程の作戦は使えないと判断したのか、初号機はライフルを捨ててプログナイフを構えた。どうするんだろう、あの動きでシャムシエルのムチをかいくぐれると思ってるのかな?
僕は特に指示を出さず二人の戦いを見ていたんだ。
すると初号機は、シャムシエルのムチに対し猛然と突っ込んできたんだ。左腕を捨てたようで、襲い来るムチを左腕一本で防いだんだ。そんなことして無事で済むはずもなく、初号機の左腕は吹っ飛んだ。
うわ〜、痛そ〜、何て考えていたら、初号機はそのままシャムシエルに突っ込んでいったんだ。完全に無防備のシャムシエルの真ん前に現われた初号機は、残った右手にあるプログナイフでシャムシエルのコアに突き立てた。
さっきの攻撃でコアが傷ついていたシャムシエルは、あっけなく活動を停止したよ。
あ〜あ、負けちゃったか……でも、シンちゃんもやるね〜、片手を捨ててくるなんて予想もしてなかったよ。これはシンちゃんの独断かな? ミサトさんだったら偽善者ぶってそんな作戦を使うはず無いしね。
そんな事を考えていたら、シャムシエルを倒し終わった初号機が僕に向かって構えていた。
僕は君と戦う気は無いよ? 今日は楽しかったよ。またね〜。
そして、僕は入ってきた射出口を通り家へと帰っていった。
僕は今日の戦いをマンションの屋上に上って星を見ながら考えていた。
今日は楽しかったな〜、でもシンちゃんがあんな大胆な行動をとるとは思いもよらなかったよ。やっぱり独房に入ってるのかな? ちょっとかわいそうだよね。彼の行動が無かったら世界は終わってたっていうのに……う〜ん、思い出してきたら腹が立ってきたな〜。よし! 次にラミエルが来た時はネルフに侵入させて恐怖を与えてやろう。うん、決めた!
次の事を決めた僕は楽しみで頬を緩めていた。でも、今日の僕の行動に納得できなくて再び考え始めたんだ。
でも、今回の戦闘で指揮らしい指揮をとらなかったな。僕もミサトさんとあまり変わりは無いんだろうか……だからといって、本気で使徒に命令すると絶対に勝っちゃうし。何てたって僕は全てを知ってるからね。
どうすればいいかな、使徒に自由に戦わせても僕が面白くないし。やっぱりある程度ぐらいしか命令できないよね。
僕は屋上で寝そべりながらあれこれと悩んでいた。
そうだよね、ちょっとハンデをあげて偶に口を出すぐらいでいっか。うん、決定!
明日は暇だし、シンちゃんの家にでも行こうかな? 多分居ないだろうけど。ミサトさんにも久しぶりに会ってみよう。
そして、僕は誰もいない家の中へと帰っていった。
僕は今、ミサトさんの家の目の前に立っている。只今の時刻はお昼を回った頃、昨日の騒ぎで学校は休みになっている。ミサトさんは仕事でいないかもしれないけど、さぼって家に居るかもしれないからね。
ここに来るのは久しぶりだな〜、あの頃は何も疑わず楽しく家族ごっこをしてたんだっけ。今はミサトさんに憎しみしかないけどね。
そして、インターフォンを押した。
中から、ドタドタと歩く足音が聞こえてきた。やっぱり仕事をさぼったんだね……
「は〜い」
ミサトさんの声が聞こえ、ドアが開いた。
「あら、シンジ君。どうしたの?」
予想外の客にびっくりした顔をしている。
「あの〜、シンちゃんは大丈夫ですか? 昨日の戦闘でケガをしたんじゃって思って様子を見に来たんですけど」
「へ? き、昨日の戦闘って、シンちゃんは何も関係ないわよ」
僕の質問が以外だったらしく、顔が引きつっていた。
「もう学校中にばれてますよ。シンちゃんがエヴァンゲリオンのパイロットだって事は」
笑いながら言ってやった。
「あ、あら、そう……シンちゃんは今、ネルフの病院に入院してるわ」
言いづらそうに言うミサトさん。
「入院って、そんな大ケガしたんですか!?」
一応、驚いておいた。
「ちょっちね。これからお見舞いに行くとこだったんだけど、あなたも行く?」
「いいんですか?」
独房に居るんじゃないのかな? それとも、思ったより左腕が重傷とか?
「勿論よ。じゃあ行きましょ?」
そして歩き出したミサトさんの後ろに着いていく。
それより、不信人物の僕をネルフへ勝手に連れて行って大丈夫なのかな。それとも、ミサトさんは僕の事を何も聞かされてないの?
僕は深く考えずにミサトさんに着いていった。
「シンちゃ〜ん、入るわよ?」
ミサトさんは返事を待たずに病室へと入っていく。僕も苦笑しながら入っていく。
中にはベッドに上半身を起こしたシンちゃんがいた。左腕にはギプスをつけ、首から下げている包帯に吊していた。
「具合はどう? まだ痛む?」
ミサトさんがシンちゃんに訊く。
「はい、大丈夫です。昨日は痛かったんですけど、起きたら少し痛みが引きました。……? シンジ君? どうしたの?」
微笑みながらミサトさんに答えていたシンちゃんだったけど、僕に気づき不思議そうな顔をしていた。
「シンちゃんの様子を見に君の家に行ったんだけど、入院してるって聞いてここに連れてきてもらったんだ」
シンちゃんとミサトさんって喧嘩してないのかな? 僕の時と違って仲良さそうだけど。
「そうなんだ。ちょっと左腕をケガしたんだけど大したこと無いよ。ありがとう」
そして、僕に微笑んでくれた。
「でも、どうして僕の様子を見に来たの?」
「君がエヴァのパイロットだって事は皆知ってるからね。それで昨日あんな事があって君の様子が気になったんだよ」
僕も彼に微笑む。
和やかな雰囲気だったけど、突然の乱入者によってその時間は終わった。
「碇シンジ君。何故、貴方がここにいるの?」
リツコさんがいきなり病室に入ってきたかと思ったら僕を睨んできたんだ。監視カメラで僕を見つけたんだろう。
「なぜって、葛城さんに連れてきてもらったんですよ」
そんなリツコさんの態度など無視して平然と答える。
「ミサト。貴方は何をやってるの?」
恐ろしいほど冷たい声で言い放つリツコさん。
「な、何怒ってんのよ〜。シンちゃんの友達を連れてきただけじゃない」
ミサトさんはリツコさんの険悪な態度にちょっとビビリながら答える。
「貴方、また書類を読まなかったのね……まあ、いいわ。碇シンジ君、私に着いてきて貰うわ。訊きたいこともあるから」
リツコさんはミサトさんに呆れて溜息を吐いていた。書類って僕に関すること? まあ、僕は正体不明の謎の少年だしね。今回は大人しく着いていこう、シンちゃんの前だしね。
「分かりました。シンちゃんまたね?」
そして、リツコさんに着いて部屋の外へと出ていく。
「ちょ、ちょっとリツコ!」
「え? シンジ君!?」
廊下に出た僕の耳にミサトさんとシンちゃんの声が聞こえる。また学校でね? シンちゃん。
ひたすらリツコさんの後ろを歩いていく。そういえば、トウジとケンスケはどうなったんだろう? 僕が訊くのも変だし、ま、学校に行けば分かるか。それより、どこまで行くんだろうって思っていたら、リツコさんの執務室に辿り着いた。
中に入ったリツコさんは慣れた手つきでコーヒーを用意する。
「そこに座って」
僕の分もコーヒーを入れてくれたらしいリツコさんは、自分の椅子に腰掛け、目の前のパイプ椅子に僕を座らせ、コーヒーをくれた。
「ありがとうございます」
嫌いな相手でもお礼はちゃんとしなくちゃね。
「それで、僕に訊きたいことってなんですか?」
コーヒーを一杯口に含み訊いてみた。
「貴方がこの二週間でネルフの諜報部員を殺したり、盗聴器や隠しカメラを壊したりしてたのはこの際置いておくわ」
やっぱあの人たち死んでたんだ。あんまりしつこいから手加減しなかったんだよね。それに僕の目の前で、盗聴器とか隠しカメラの事を言ってもいいの? 開き直ってんのかな?
「そんな事より、貴方は昨日どこにいたの?」
探るような目つきで僕を見てくる。
そういえば、学校の皆はシェルターに行ったんだよね。そのことは全然考えてなかったな。
「家にいましたけど?」
だから、とぼけてみた。
「非常事態宣言が出ていたのに? 何故?」
「あんな化け物が暴れたら、シェルターにいようが関係ないと思いましてね。死ぬ時は一人で死にたいって思ったんですよ」
適当に言ってみたけど、リツコさんは全然納得してない感じ。
「嘘ね」
「どうしてですか?」
「貴方も知ってる通り、貴方は常に見張られてるわ。昨日も一人の諜報部員が貴方をつけていたんだけど、家に帰ってから出てこないのを不信に思って侵入したら、貴方はいなかったと報告してるわ」
あっちゃ〜、うかつだったな。昨日は興奮しててそんなことにまで手は回らなかったんだよ。う〜ん、どうしよう。
そんな風に悩んでいたら、リツコさんが僕にパソコンの中に写る一枚の画像を見せてきた。
「これは、貴方なんじゃないかしら?」
そこには、シャムシエルの後ろに飛んでいる僕の姿が写っていた。
中々リツコさんも鋭いね〜。でも、もしこれが僕じゃなかったらリツコさんはマズイよね? だって、ただの一中学生にこんな極秘資料を見せてるんだから。てことは、リツコさんはこれが僕だって確信してるのかな?
「何言ってるんですか。僕は何処にでもいる普通の中学生ですよ」
「いいえ。貴方は普通じゃないわ」
即座に否定してきたリツコさん。
「ただの中学生が訓練している諜報部員を殺せると思う? 盗聴器や隠しカメラを見つけるのだって無理よ。それに、貴方がここに運び込まれた時、私の前で消えて見せたわ。マギのログにも残っていなっかたわ。こんな事をしでかす貴方は異常よ」
異常か……僕にとっては普通のことでもやっぱり普通じゃないんだよね。……何かもう、めんどくさくなってきたな。色々干渉してくるネルフや、こうやって別人ぶるのに。
「……このことを知ってるのは赤木さんだけですか?」
僕は俯いて暗い声で話した。
「? いいえ。司令と副司令も知っているわ」
急に態度が変わった僕の様子に怪訝な顔をするリツコさん。
「じゃあ、その二人の所に連れて行ってください。そこで全てを話しますから」
そうだね。全て話して皆殺しちゃおう。僕が憎んでいた人全てを。
リツコさんが父さんと連絡を取っている姿を僕は醒めた目で見ていた。
To be continued...
(あとがき)
次回でシンジ君をネルフと関わるようにしてみました。これまでお気楽シンジ君でしたが、ちょっと変えました。やっと登場するゲンドウと冬月ですがどうなるんでしょうか。それでは、これからもよろしくお願いします。
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