僕だって指揮部長!

第三話 待ってたよ〜シャムシエル〜!

presented by ピンポン様


 あら、もう日が昇ってる。

 あれからずっとこれからの事を考えていたら、いつの間にか朝になってたようだね。あの世界では時間の概念とか無かったから、こういうのは新鮮だな〜。

 それはそれとして、今日はどうしようかな? せっかく戻ってきたんだから、家に引きこもってるのは良くないよね。

 まず何をしよう。学校ぐらい行っとこうかな、あんまりいい思い出は無いけど、今の僕なら楽しめそうだし。よし! 決めた! それじゃあ、まず手続きでもしに行こう。

 そう思い立った僕は、ベッドから起きあがり(ずっと寝っ転がってた)シャワーを浴びて身支度を整えた。

「行って来ま〜す」

 応えてくれる人はいないけど、家を持てたんだから言っておきたかったんだ。

 外へと出た僕は、バスなど使わずてくてくと歩いていく。

「フンフンフンフンフンフンフーン♪フンフンフンフンフフフフフ〜ン♪」

 やっぱり自然があるっていうのはいいねえ。思わず鼻歌を歌っちゃったよ。勿論、曲は第九だよ。通りすがりの人が僕を変な目で見るけど、それすらも今の僕には心地良い。

 そんなこんなでいつの間にか役所に着いていた。

 中に入り転校の手続きをしようと受付のお姉さんと話してたんだけど、住民票とか持ってないことに気づきどうしようか困っていたんだ。そしたらそのお姉さんが不思議そうな顔でこう言ってきた。

「あら、君はもう第一中学校に転校したことになってるわよ」

「へ?」

 目が点になったよ。

「ネルフから碇シンジ君っていう男の子が二人転校するって連絡が来てね。あなたがそうなんでしょ? 写真と同じだし」

 何かの書類と僕を見比べている。

「でも、同姓同名ってだけでも凄いのに、顔もそっくりなんてびっくりよね〜」

 そう言ってお姉さんは楽しそうに笑っていた。

「それじゃ、これが転校書類だから。必要なところをしっかり書いておいてね」

 そしてお姉さんはA4サイズの茶封筒を僕に手渡した。

 それから僕は役所から出て公園のベンチに座りながらネルフの事を考えていた。

 それにしてもネルフにはびっくりだよ。僕がいない筈の人間で怪しいってのは分かるけど、逃がさにように監視を付けるだけじゃなく、勝手に学校に通わせるなんて。僕の正体が分かるまで手元に置いておきたいんだろうな。

 僕は溜息を吐きながら青い空を見上げた。





 それからお金を持っていない僕は何も買うことが出来ず、ただぶらぶらと街を歩いていた。

 日が沈んできた頃、そろそろ帰ろうと思いマンションに向かった。そしたら、マンションの前に何故か黒服のおっちゃんが三人立っていた。どうも僕を待っていたみたい。

「碇シンジ。我々に着いてきて貰う」

 三人の黒服が僕を囲んだ。

「嫌ですよ。何言ってんですか? いきなり」

 無視して中に入ろうとする僕の腕を一人の黒服が掴んできた。

「君の意見はどうでもいい。これは命令だ。大人しく着いてこないと痛い目にあうぞ」

 サングラスでよく見えないけど、僕を睨んでるんだろう。

「そんなこと知りませんよ。それに、僕に何かするんなら僕も抵抗しますから」

 一応警告したけど、どうせ聞かないんだろうな。

「子供の駄々に付き合っている暇は無い」

 そう言って、僕を掴んでいた黒服のおっちゃんが腰に下げていた警棒を振りかぶってきた。

 勿論そんなもの当たるわけもなく、軽やかな動きでかわしてその黒服の顔面を殴った。

「ぐあっ!」

 軽く五メートルは吹っ飛んだみたい。だから警告したのに。

「「貴様!」」

 残った二人が僕に銃を突きつけてきた。

「動けば撃つ」

 凄みを効かせて威圧してくる。

 そんなんじゃ僕は死なないよ? でも本当に撃ってくるのかな? ちょっと試してみよう。

 そして僕はいきなり走り出してみた。後ろから銃声が聞こえ僕の頬のすぐ横を銃弾が飛んでいった。うわ〜、ホントに撃ってきたよ……しかも頭を狙わなかった? 殺すつもりなの?

 そのまま逃げようかと思ったけど、当たって死んだフリしたでもしたらどういう反応するのか気になり、さらに発砲してくる一発の銃弾に当たったフリをしてみた。

「うっ……」

 我ながら下手な演技だと思う……一応血をつくって僕から流れてるようにしておいた。

 僕を撃った二人の黒服が近づいてくる足音が聞こえる。

「……これは、もう死んでますね」

「構わない。命令は生死を問わず連れてこいって事だったからな」

 そんな二人の会話を聞きながら、僕は唖然とした。生死を問わず? ネルフが腐ってるのは充分知ってたけど、ここまでとは……

「それじゃ、こいつを運ぶぞ。そっちを持て」

「はい」

 そして腕と足を持たれ車に収容される僕。トランクの閉まる音が聞こえ、黒服が車に乗り込んだ音も聞こえてきた。

「大丈夫か?」

「ああ……しかし、あのガキ何て力だ。鼻の骨が折れてるぞ」

 さっき殴った人、生きてたんだ。手加減しすぎたかな。

 そして僕を乗せた一台の車は走り出した。





 ネルフに着いた僕は、よく病人が使う寝台車に顔を隠されたまま乗せられ、どこかへと運ばれていった。

 暫く歩いていたようだけど漸く動きが止まり、一人の黒服が話しだした。

「失礼します。目標を連れてきました」

『入りなさい』

 インターフォンの奧から聞こえてきた声にびっくり。まさかリツコさんの命令だったとは。

 再び僕を乗せた寝台車は動き出した。

「抵抗したのでやむをえず射殺してしまいました」

「分かったわ。ご苦労様」

「ハッ」

 そんな会話をして黒服の人たちは部屋から出ていった。

 この部屋にはリツコさんと僕の二人っきり。僕の方に歩いてくるリツコさんの足音が聞こえる。

「……死んでてもいいわ、むしろ好都合ね」

 何か凄いこと言ってるなあ。

「この子は一体何者なのかしらね。シンジ君と同じ顔で名前も同じと言い張ってる」

 ちょっとずつ僕に近づいてくる。言い張ってるって……僕も碇シンジなんだよ。

「それでも解剖すれば分かることだわ」

 うわ〜、マッドだよ! 科学の為なら人の命なんかどうでもいいってやつ? まさに悪の女幹部だね。

「それでは、早速……」

「勝手に人を解剖しないでくれます?」

「きゃあ!」

 リツコさんが僕の顔を覆っている布を手にしたと同時に僕は起きあがった。でも、きゃあ、何て以外に可愛い声でびっくりするんだね。

「あ、貴方、生きてたの!?」

「勿論。どこも撃たれてませんからね」

 大声で叫ぶリツコさんを無視して僕は起きあがる。

「それにしてもずいぶん酷いこと言ってましたね?」

 唖然としてるリツコさんに笑って言う。

「き、聞いてたの!?」

「はい。死んだフリしてただけですから」

「し、死んだフリって……じゃあ、貴方に付いてるその血は!?」

「これは、こんなこともあろうかと思って作っておいた仕掛けですよ。ほら」

 そして、穴があいたビニール袋を見せた。さっきの車の中にあったビニール袋をちょっと拝借しておいたんだ。ビニール袋の中にはまだ暖かい血が生々しく付いている。

「ど、どうしてこんなものを……」

 渡されたビニール袋を見ながら僕に訊いてきた。

「いや〜、僕のことを怪しいからって監禁するような組織じゃないですか、ここって。それに監視するために家まで用意するし。だから万が一の時の為にそれを作っておいたんですよ」

 僕はさらに続ける。

「それに僕の家に盗聴器や隠しカメラを仕掛けたりしてくるから身の危険を感じたんですよ。あっ、勿論壊しておきましたから」

 にっこりと笑いながら言ってやった。

 リツコさんは頬をヒクヒクと引きつらせていた。首謀者も分かったことだし、もうこんな所に用は無いからさっさと帰ろう。

「それじゃ、さようなら」

 そう言い残し僕は出口へと向かう。

「ちょ、ちょっと待って!」

「やだ」

 焦りながら僕を引き留めようとするリツコさんを無視して外へと出る。

 追ってきたらめんどくさいので姿を消す。

「シンジ君!」

 やっぱり追ってきた。どうでもいいけど、僕のことも「シンジ君」って呼ぶんだね。

「消えた……」

 そんなことを呟きながらリツコさんはドアの前に立ちつくしていた。

 さて、帰ろうかな。でもこの様子だとまた僕を拉致しに来そうだな。ま、その時はその時で考えよう。

 僕はすたすたと歩いてネルフから出ていった、出ていこうと思ったら迷っちゃった。僕ってこんな方向音痴だったっけ? 

 そして僕は何故か病院を歩いていた。

 そういえば、綾波ってこの時期入院してたんだっけ。ちょっと会ってみようかな。そんなことを考えていたら、ガラガラとストレッチャーの音が聞こえ、僕の真横を通り過ぎていった。

 あ、綾波。懐かしいな、確かこの時父さんが綾波に話し掛けてるのを見て、嫉妬してたんだよね。てことは……

 そして振り返るとやっぱりシンちゃんがいた。

 呆然と父さんと綾波が話してる場面を見てる。うんうん、分かるよシンちゃん。辛いよね〜、などと彼に感情移入してたら、綾波と話し終わった父さんがシンちゃんを無視して通り過ぎていった。傷ついたような顔をするシンちゃん。そのうちいいことあるさ。

 お気楽に考え綾波に視線を戻すと彼女はもういなかった。あら、病室に行ったのかな。

 綾波と話をしようと思い、姿を消すのをやめ、彼女がいる病室の扉をノックした。

 やっぱり返事は無しか。じゃあ、勝手に入るよ。

「おじゃましまーす」

 明るい声で侵入。

「…………」

 無言で僕を見る綾波の目は冷たい。何かリアクションを返して欲しかったな、とちょっとショックを受けていたら、綾波が声を掛けてきた。

「……あなた、誰」

「え、ああ、自己紹介がまだだったね。僕はシンジ、碇シンジっていうんだ。よろしくね?」

 懐かしい綾波の声に感動した。

「碇?」

 碇の名に反応してきたけど、僕はこの時代の僕じゃないから、あんな髭とは関係ないよね?

「そうだけど、どうかした?」

「碇司令の子供?」

「碇司令? 誰それ? 僕の両親はとっくの昔に死んでるよ」

「そう……」

 そして綾波は僕に興味を無くしたかのように窓の外へと視線を向けた。

「それより、君の名前を訊いてもいいかな?」

 そういった僕に一瞬だけ視線を送り抑制の無い声で呟いた。

「…………綾波、レイ……」

 それだけ言うとまた視線を窓の外へと向けた。

「ふぅ〜ん、綾波さんね。同じ学校だと思うから退院したらよろしくね? それじゃ」

 僕の言葉に特に反応しない綾波に落胆しながら外へと出る。

「……あなた誰?」

 外に出た僕に綾波の声が聞こえてきた。もしかして僕の中のアダムに気づいたのかな?

 そして僕は再び姿を消し、家へと帰っていった。










 翌週から学校に通うことになったんだけど、職員室で先生を待ってる時に、シンちゃんと会ったんだ。同じ時期なんだ、とか思っていたら、彼は僕を見てびっくりしてたよ。

「また会ったね、よろしく。シンちゃん」

「う、うん、よろしく。……って何でシンちゃんなの?」

 僕が笑いながら言ったら彼も笑ってくれた。

「葛城さんが君のことをシンちゃんって呼んでたから」

「そ、そう。じゃあ、僕はシンジ君って呼ぶね」

「うん」

 何て会話をしてたら、担任の先生が来て教室に連れてかれたんだ。僕も彼と同じクラスだと思っていたら僕は2−Bだった。チルドレン候補じゃないからね。でもネルフが登録してたから彼と一緒かと思ってたよ。

 担任の教師に呼ばれ教室に入っていく。

「碇シンジです。第二東京市から引っ越してきました。皆と楽しくやっていきたいです。よろしくお願いします」

 これは本心だ。このクラスの人たちのことは全く知らないから、仲良くできればいいなあって思ったんだ。あと、いつの間にやらネルフが勝手に作った僕の戸籍に、ここに来る前は第二にいたことになってたんだ。

「じゃあ、碇君は空いてる席に座ってください」

 ちょっと年老いた男の先生が言った。

 そして僕はざっと教室を見渡してびっくりしたよ。だって、空いてる席ってほとんどじゃん! このクラスには生徒が五人しかいないよ! この前の戦いで疎開したのかな? そんなことを考えながら窓際の席に座る。

 このクラスの生徒はみんな暗いみたいで、誰一人僕に話し掛けてこようとする人はいなかった。先生がいなくなると本を読んだり、音楽を聴いたりしていた。

 何だよこのクラス……こんなことならシンちゃんのクラスの方が楽しそうだな。僕は溜息を吐きながら窓の外を見ていた。

 それからというもの、学校ではたまに会うシンちゃんと会話するぐらいしかすることがなかった。やっぱりシンちゃんはミサトさんと暮らしてるみたい。そういえば、あれからミサトさんと会ってないな、別に会いたくもないんだけど。

 そして家に帰れば新たに仕掛けられた盗聴器や隠しカメラを破壊して、たまに襲ってくる黒服を撃沈したりしていた。

 そんなつまらない毎日を繰り返して早くも二週間が経った。漸く綾波も退院したらしく、ギプスを腕に付けながら登校してきた。

 廊下で会ったり、帰り道で会った時に声を掛けてるんだけど、ことごとく無視される。ちょっとぐらい構ってくれたっていいじゃないか……それとも、僕のこと警戒してるのかな?

 そんな悶々とした日々を送っていたらトウジの姿を見つけた。懐かしいね〜、そういえば何でトウジっていつもジャージなんだろう? う〜ん、謎だ。紅い海のトウジの記憶からも分かんなかったし。

 そしてその日の昼休み、僕は校舎裏の芝生に寝っ転がっていた。っていっても、昼休みはいつも校舎裏にいるんだ。教室にいてもつまらないし、ここは気持ちがいいからね。でも、今日は珍しく僕以外の人が来たんだ。

 珍しいなって思ってたら、シンちゃんとトウジとケンスケだった。そういえばこのイベントを忘れてたよ。何て感傷に浸っていたら、僕に気づいてる筈なのに、僕の事などはお構いなしとばかりに彼らは喧嘩を始めた。

「ぐっ」

 シンちゃんがトウジに殴り飛ばされた。

「すまんなあ、転校生。わしはお前を殴らなあかんのや」

 トウジは殴られてうずくまってるシンちゃんを見下ろしている。

「…………」

 何も言い返さないシンちゃん。

「悪いね。こいつの妹この前の戦闘で大けがしてさ。じゃ、そういうことだから」

 そう言ったケンスケは歩いていったトウジの後を追っていった。

 シンちゃんは何も言い返さず、俯きながら殴られて赤くなった頬を触っていた。こうして見ると、僕ってものすごい情けないな……何か声でも掛けてあげようと思い彼に近づこうとしたら、どこからか現われた綾波がシンちゃんの前に立っていた。

「…………非常招集……先、行くから」

「え、あ、ま、待ってよ」

 言い終わってさっさと行ってしまう綾波を追いかけて走るシンちゃん。

 綾波の言葉を聞いて僕はシャムシエルが来たことを思い出した。そして僕は待ちに待った楽しみが来たことに胸を躍らせていた。

 やっとシャムシェルが来たか〜、そうと分かればこんなとこにいる必要は無い! 色々と準備があるから急がなくちゃ。

 そして非常宣言が鳴り響く中、僕は急いで家に向かった。










 僕はこの日の為に用意していた衣装に身を包み、こちらに向かってくるシャムシエルを今か今かと待っていた。

 ちなみに僕の衣装とは、顔をリリスに被らせていたお面(七つ目のゼーレのマークのやつ)と同じモノを被り、髪は力を使って白髪(カオル君のような綺麗な銀髪じゃなくて、年老いた老人のような白)に変えた。服は江戸時代を彷彿とさせる着物に身を包んだ。

 この格好に特に意味は無いんだけど、僕だってバレないようにする為と、ちょっとした遊び心だよ。お面はネルフやゼーレが混乱すると思ってね。

 そんな格好で僕は遙か上空で国連軍がシャムシエルに攻撃してるのを見ていた。

 そして僕に段々と近づいてくるシャムシエル。国連軍も退散し初号機も漸く出てきた。

 よし! 舞台は整った! 僕は笑いを抑えることが出来ず、付けているお面の下で口元を歪ませていた。

 静かに対峙しているシャムシエルと初号機。僕はシャムシエルの目の前まで飛んでいき、心の中で呼びかけた。

『初めまして、シャムシエル。僕が誰だか分かる?』

 すると、初め僕を敵と見なし攻撃しようとしてたシャムシエルは、僕の言葉を聞くと大人しくなり、柔らかそうな体を僕に向かって曲げてきた。

 良かった、ちょっと不安はあったんだよね。サキエルで上手くいったからって今回も上手くいくとは限らないからさ。

『じゃあ、僕の言うことを聞いてくれる?』

 そう呼びかけると、シャムシエルはまるで頷くかのような行動をとった。OKって事だよね? よし! それじゃ戦闘開始!

「ミサトさんには負けないよ〜?」

 こちらに向かってパレットライフルを構えている初号機を僕は楽しそうに見ていた。






To be continued...

(2007.06.09 初版)
(2007.06.23 改訂一版)


(あとがき)

 ネルフがシンジの戸籍を勝手に作ったとありますが、ネルフが彼の事を調べようとしても何も出てこず、戸籍も見つからなかったので、勝手に作ったという裏設定です。トウジとケンスケをどうするかはまだ全然考えてません。それでは次回、シャムシェル対初号機をよろしくお願いします。

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