第二話 勝手に指揮部長!
presented by ピンポン様
「「うっそ〜!!」」
あ、彼も叫んだみたい。
やっぱりびっくりするよね? 僕だってけっこうびっくりしてるんだから。
これって過去に戻ったって事だよね? そうだよね? うん! 僕は過去に帰ってきたって事でよろしく! 別に誰に言うわけでもないんだけど、やっぱり嬉しくて興奮してるのかなあ。
そんなことを考えていたら、目の前のおそらくこの時代の僕が話し掛けてきた。
「……君はだれ?」
昔の僕みたいに人の顔色を窺いながら聞いてきた。やっぱり僕だよね?
「僕は碇シンジだよ。君の名前は?」
僕がどういう反応するか楽しみ。
「えっ!? 僕も碇シンジっていうんだけど……」
びっくりしながらも非常におどおどとしている。僕ってこんなに情けないヤツだったかなあ。
「へ〜、君も碇シンジなんだ。世界は広いようで狭いねえ」
僕は笑いながら僕の様子を見る。
「う、うん。でも顔もそっくりだよね」
少しは僕に慣れたのか、さっきよりは落ち着いたように見える。
「まあ、世界に同じ顔は三人いるっていうしね…………あっ、何かこっちに飛んでくる」
自分と話すっていうのもそう経験できるものじゃないから、楽しく会話してたんだけど、すっかりサキエルや戦闘機の事を忘れてて、サキエルに破壊された戦闘機の一機が僕らに向かって突っ込んできたんだ。
「えっ? う、うわああ〜〜!!」
僕はこんなんじゃ死なないから落ち着いてるけど、彼は驚いて腰を抜かしてた。まあ、それが普通の反応だよね。
彼のことも守ってあげようとATフィールドを張ろうとしたんだけど、僕の時と同じくここでミサトさんが来たんだ。
「碇シンジ君ね!? って、ふ、二人〜!? どういうことよ〜!?」
あ、僕らのこと見て驚いてる。それもそうか、って、速く逃げなきゃサキエルに踏みつぶされちゃうよ? ほら、こっち向いた。
「はっ! とにかく二人とも乗って!」
言うが早いがミサトさんは僕ら二人を後ろの座席に放り込んだ。もうちょっと優しくしてよ……
「飛ばすわよ! しっかり捕まってて!」
そしてスピードを上げながら走り出した。僕らがいたところを振り返って見てみるとサキエルの足があったよ、ミサトさん……ぎりぎりじゃないか……
サキエルから大分離れて落ち着いてきたミサトさんが僕らに訊いてきた。
「それで……どっちがシンジ君なの?」
隣にいる僕はあまりに早い運転に気持ち悪そうにしていたので僕が答えた。
「どっちも碇シンジですよ? と言ってもさっき初めて会ったばかりなんですけどね」
僕は笑いながら答えた。
「はあ〜? 二人ともシンジ君ってどういうことよ」
「だから僕の名前も碇シンジ、彼の名前も碇シンジってことです」
さっぱり分からないという顔をしてるミサトさん。
「どういう知り合いなの?」
「だからさっき会ったばっかりって言ったじゃないですか……ちゃんと人の話聞いてます?」
ちょっとからかってみた。
「そんなんで納得できるわけないでしょ!」
怒ったように言うミサトさんに、僕はそれもそうだよなあ、なんて思ってた。
「僕はこの街にちょっと用事があってきたんですが、彼を見かけて僕と似た顔をしてるから興味がでてちょっとしゃべってたんですよ。それで同姓同名ってことが分かってびっくりしてたんですよ」
あそこにいた理由を適当に話す。
「ふ〜ん、じゃ、そっちのシンジ君は?」
隣にいる僕に話を振ってきた。
「えっ、ぼ、僕は父さんに呼ばれて来たんですけど、降りる駅の前で降ろされてどうしようか悩んでたところで彼と会ったんです」
ふむふむ、僕の時と何一つ変わってないね。
「じゃあ、私が用事があるのは君のほうね。お父さんからIDカード貰ってない?」
「は、はい……え〜っと……」
彼はごそごそと鞄の中をあさりだした。
そういえばN2が来ないなあっと思って後ろを向くと戦闘機がサキエルから離れていく。我ながらナイスタイミング! って思いながら優越感に浸っていた。このことをミサトさんに教えなかったらどうなるかな? 放っといたほうが楽しそうだよね。
「葛城さん、ありまし……」
彼がミサトさんに話してる途中で後ろの方からものすごい光が襲ってきた。
「きゃあ!」
「うわあ!」
車は派手に転がっていく。
僕と僕にはATフィールドをマギに探知されないよう軽く張って守ったけど、ミサトさんは思いっきり無視した。遅刻したバツですよ? ミサトさん。
そのまま車は何回転も転がっていたが、適当なところで止まった。
勿論のこと僕らはケガ一つ負っておらず、何とか車から這い出た。
「大丈夫?」
一応訊いてみた。
「うん、何とか大丈夫だよ。それにしても何だったんだろうね。いきなりだからびっくりしたよ」
彼はくしゃくしゃになった制服を直していた。
「さあ?」
とぼけておいた。
「そ、そうだ! 葛城さんは大丈夫かな?」
彼は心配そうに運転席の方に駆けていった。
一応僕も見に行った。これだけの事故だから最悪死んでるかもね。どうでもいいけど。
するとくしゃくしゃになった車のドアが吹き飛び中からミサトさんが出てきた。それより、ひっくり返ったままの状態からどうやったんだろう?
「いててて……二人とも大丈夫だった?」
ミサトさんは左腕を押さえていて、ものすごい量の血が出ていた。
「はい、僕らは平気です。でも、葛城さんが……」
彼は心配そうにミサトさんを見ていた。
「それは良かった。でも、これじゃあ送ってくのは無理ね……今お父さんに連絡するからちょっと待ってて? それから、私のことはミサトでいいわよん」
ミサトさんは健気にも笑いながら大丈夫だとアピールしていた。それを見てもう一人の僕は涙目になって感動していた。はあ、これがミサトさんの手なのに……
電話してたミサトさんが携帯をしまいこっちに歩いてきた。
「今からヘリが来るからちょっち待っててね。それとあなたにも来て貰うわ」
最後は僕を見ながら言っていた。大人しく着いてこっかな、父さんがどんな反応するか楽しみだし。
「はい、分かりました」
僕はこれからのイベントに心躍らせながら軽く頷いた。
五分ほど待っていたら早くもヘリがやってきた。どうでもいいけど、五分でどうやって来たんだろう?
「さあ、行くわよ」
ミサトさんの後に続く僕ら。
ヘリに乗るのは初めてだからちょっぴり楽しみかな。
ヘリの中でミサトさんは僕のことを「シンジ君」、もう一人の僕のことを「シンちゃん」と呼ぶように分けていた。見分けが付かないって言われたので、Yシャツを脱ぎTシャツになってあげた。
期待してたヘリも大したことがなかった。スピードは遅いし音もうるさいし、これなら自分で飛んだ方が百倍楽しいよ。
そうこうしてる内にネルフに着いた。もう一人の僕、って一々呼びづらいから僕も「シンちゃん」って呼ぼう。でも何か変な感じ……。シンちゃんはミサトさんと共にどこかに行ったけど、僕は黒服の人に連れてかれた。彼は初号機のところに行ったんだろうけど、僕は「外は危険だから戦いが終わるまで保護する」って言われた。確かに危険だけど、怪しい僕を色々と調べる気なんだろうな。
連れてかされた場所は普通の一室で、黒服のおじさんが一人付いてるだけだった。
「あの〜、僕はいつまでここにいればいいんですか?」
愛想の無いおじさんに訊いてみた。
「安全が確保されるまでだ」
むっつりした顔で答えてきた。
「他の所に行ってもいいですか? ここって広いから探検したりしたら楽しそうですよね?」
「ダメだ」
僕もダメだと思って訊いたんだけど、たった一言で返すこと無いじゃないか。もっと、こう、ねえ? 会話にはキャッチボールが必要なんだよ?
黒服にちょっとむかついてたら大きな振動がきた。サキエルがここに気づいたのかな? もうそろそろ初号機が出るころだよな。あ〜、サキエル対初号機見たいな〜。う〜ん、よし! 見に行こう! でもこの黒服が邪魔だな。殺してもいいけど、後々めんどくさそう。じゃあ、気絶でもしてもらおうかな? どうにでもなりそうだし。
「あの〜」
僕は何か言いづらそうに黒服に近寄っていく。
「何だ」
相変わらず愛想の欠片も浮かべなかった。
「ぐえっ!」
死なない程度に腹を殴り気絶させた。また後でね?
黒服のおじさんを置いてさっさと部屋から出ていく。一応監視カメラに写らないように微弱なATフィールドを張り、僕の姿が見えないようにする。これが出来るようになるまで結構練習したんだよね。まあ、あの世界じゃ使いみちもなかったけど。
ところでここは何処? 見覚えの無い通路を適当に歩いているんだけど迷ったみたい。早く行かなきゃサキエルが死んじゃうよ。僕って方向音痴だったんだ。
目に付いたドアを片っ端から開けていったんだけど、どうにも外に出られそうな所は無かったんだ。時間がないのを焦っていたらやけに長い通路を歩き、行き止まりだと思って引き返そうとしたらドアがあったんだ。
そこを開けたら第三新東京市の街の中に出た。もしかして、ここって停電の時にアスカが迷ってきたところ? とりあえず外に出れたから良し!
さてと、たしかサキエルはジオフロントに侵入してるはずだから、彼が入っていった所を見つけようかな。
僕は背中から一対の翼を生やし、空高く飛び上がった。うん、やっぱりヘリよりこっちの方が楽しいね。え〜っと、どこかな? …………あ、あった!
キョロキョロと探していたんだけどすぐに見つかった。大きな穴が出来ていてその中へと入っていく。
いたいた。ちょうど初号機が出てきたところかな? 二人(?)共じっと動かずに見つめ合っているし。
早く戦わないかなあ。あっ、初号機が動いた! と思ったらすぐ転んだ! 全く以て僕の時と同じなんだね。
倒れている初号機に向かってサキエルがゆっくりと歩いていく。
サキエルは右手で初号機の左手を掴み片手一本で起こした。そのまま初号機の左手を力のままにへし折った。あれ、痛いんだよね。
そして、初号機をアイアンクローしたサキエルは手のひらからパイルを出し初号機をビルに張り付けた。そろそろ暴走かな?
暫く傍観してたんだけど、初号機を片付けたサキエルが僕の方を向いた。ちなみに僕はまだ姿を消しながら空を飛んでいる。上空からの方が見やすいと思ったからね。
サキエルはじっと僕の事を見ていた。よく見えたね? ATフィールドを関知したのかな? そんなことを考えていたら急に目を光らせて何発も光線を放ってきたんだ。うわ! 危ないじゃないか! サキエル。
けっこう余裕を持ってかわせたんだけど、びっくりしたから心の中で叫んだんだ。そしたら急にサキエルの動きが止まったんだ。
あれ? どうしたんだろう? おお〜い。不思議に思っていた僕だったんだけど、次のサキエルの行動にはびっくりしたよ。だって、僕に対して頭を垂れてるんだ。もしかして僕がアダムって分かったのかな? ていうかネルフの方は混乱してるだろうな〜。
サキエルにもう一度呼びかけてみよう、って思ったところでエヴァ再起動。タイミング悪いよ、シンちゃん〜。
サキエルに向かって走る初号機。いきなりの事でなすすべなく蹂躙されていくサキエル。何とか抵抗しようとしたサキエルは、もう体がボロボロで最後の手段とも言える自爆をして華々しく散っていった。
燃えさかる火の中に君臨する初号機を見てたんだけど、僕の立場を思い出して急いで元いた所へと戻っていった。今回は迷わなかったよ。一回通った道だからね。
僕が戻ると黒服の人はまだ気絶していた。暇なので黒服のおっちゃんにいたずら書きしようと黒いペンを取りだしたところでドアが開いた。せっかくいいところだったのに……
「初めまして、私は赤木リツコ……彼は何してるの?」
ズカズカと部屋の中に入ってきたのはリツコさんだった。黒服を見て不思議がってる。
「初めまして、僕は碇シンジです。そのおじさんは何か急に倒れだしたんですけど、外に出たらダメだって言われてたんでそのまま放置してたんです。それより何で僕はここに閉じ込められたんですか?」
適当にごまかしてみた。それより、リツコさんも変わってないな〜。
「そう、そんなことより……あなたは何者?」
黒服はどうでもいいんだね。単刀直入なところがリツコさんらしいよ。
「え〜、何者って言われましても……碇シンジですけど?」
「嘘ね」
「どうしてですか?」
あっさりと僕の言葉を切ってきたリツコさんにびっくりしたよ。
「日本に碇シンジは一人しかいないわ」
「でも、現に僕がいるじゃないですか?」
僕の名前って珍しいんだね、知らなかったよ。
「だからあなたは何者なのって訊いてるのよ」
僕の挙動を何一つ見逃すまいって目で僕を見てくる。さすがにそんな態度だと腹も立ってくるよ。
「碇シンジ」
だから名前だけ言ってやった。
リツコさんは暫く僕を睨んでたけど埒があかないと思ったのか、溜息を吐いて視線を外した。溜息を吐きたいのは僕の方だよ!
「まあ、いいわ……あなたは何処に住んでるのかしら?」
「どうしてそんなことを訊くんですか?」
僕の正体を諦めたと思ったら、私生活に視点を変えたんだね。でも、その偉そうな態度にむかついてるから僕の声は刺々しい。
「送ってってあげるわ。無理矢理ここに引き留めてしまったから」
それで僕の家を知って監視するって訳か、相変わらずネルフの考えることは汚いね。
「僕に家はありませんよ。両親が死んでから一人で暮らしてたんですけど、全焼して無くなったんです」
ちょっと痛い過去をつくってみた。
「そう……嫌なこと訊いてごめんなさい……それならどうするつもりだったの?」
謝ってる割には顔色一つ変えないリツコさん。やっぱりリツコさんのこと嫌いだな。
「ちょっと途方に暮れてたんですけど、その時シンちゃんと出会ってここに連れてこられたって訳ですよ」
「シンちゃん?」
「ああ、僕じゃない方の碇シンジ君の事ですよ。葛城さんがシンちゃんって呼んでいたんで僕もそうしようって」
途方に暮れてたっていうか、喜びに満ちあふれてたんだけどね。
「それならネルフで新しい家を用意するからそこに住まない?」
「何故そこまでしてくれるんですか? 今日初めてあったばかりの僕に」
監視するためか、それにしてもリツコさんもよくこんな事にすぐ頭が回るよね。ちょっと感心するよ。
「さっきも言ったとおりあなたは怪しいのよ。住むところが無いっていうのなら、私達が用意して監視させてもらおうって思ってね」
本人の前でここまで言うリツコさんにびっくりだよ。
「僕が怪しいっていうのは心外ですけど、住居を提供してくれるなら監視がついてもかまいません。有り難くお受けします」
監視がつこうがどうでもいいんだよね。住む場所をどうしようか悩んでたところだから丁度良かったよ。ありがとう! リツコさん。
「良かったわ。それじゃあ、すぐに手配するから少し待っててちょうだい」
そう言うなりさっさと出ていった。どうでもいいけど黒服のおじちゃんはいいの?
結局あの後一時間もしない内に住居が決まった。いくら何でも早すぎるよね? てことは、最初から僕をどうにか丸め込もうとしてたって事だよね。別にいいんだけど、ネルフにはがっかりだよ。
今現在、さっきの人とは違う黒服の人の運転で僕の住居に向かっている。結構な距離を走ってるけど何処まで行くのかな。段々と寂れた方に向かって行ってるけど。
何となく見たことがある風景に、まさかね? なんて思うも、やっぱり僕の予想通りの場所だった。
「降りろ」
偉そうに言う黒服の人の言葉なんて無視してさっさと降りていた。
周りを見ると今にも潰れそうなマンション団地が建ち並んでる。ここって綾波の家だよね?
「お前の家はここの302号室だ」
黒服は目の前のマンションを指差し、家の鍵を僕に渡してさっさと帰っていった。
302号室って綾波のすぐ下だよね? 何でここになったんだろう……ま、いっか?
深く考えずに僕の家となったところへと入っていく。
中には何にも無く、ぽつんとパイプベッドが一つあるだけだ。あるだけましだよね。何か綾波と住んでるみたいでドキドキする。僕って変態かな?
やっぱり盗聴器や監視カメラがいっぱいあるけど、勿論のこと壊しておく。だって、僕は睡眠も食事もとらないからね。長い間一人でいたせいか独り言も多いし、迂闊なことしゃべったらめんどくさいじゃないか。
それらを全て壊し終わった後、ベッドに腰を降ろしてここに来てからの事を考える。
ミサトさんもリツコさんも僕の時と変わってないんだよね。この世界の僕も変わってないようだし。父さんには会えなかったけど、どうでもいいかな。どうして過去に戻ってきたのか分からないけど、せっかく来たからには楽しもう!
どうすればいいかな、正直ネルフなんかどうなってもいいけど、サードインパクトを起こされてもめんどくさいし、僕の苦しみを分かって欲しいよね。
僕はあれこれと考えながらベッドに横になった。
そういえば……サキエルは僕の言葉に反応したよね。服従のポーズみたいなのもとってたし。てことは他の使徒にも僕の言葉は通じるのかなあ。
「そうだ!」
いい考えが浮かびベッドから立ち上がる。
「僕が使徒を指揮してエヴァと戦わせれば絶対おもしろいじゃないか!」
そうだよ! 使徒と意思の疎通が出来て、しかも、僕に服従してるなら僕の言うことを何でも聞いてくれるはずだよ!
ミサトさんの指揮なんかに負けるわけないよ! よし! そうしよう! 楽しみだな〜。
久しぶりに興奮しながら僕は次に来るシャムシエルの事に思いを寄せていた。
早く来てよ〜、シャムシエル〜。
To be continued...
(2007.06.02 初版)
(2007.06.23 改訂一版)
(あとがき)
てなわけで、このシンジ君はエヴァには乗りません。使徒を操ってネルフをめちゃくちゃにしていきます。シンジの一人称で書いているんですけど、思ったより難しいですね。それでは、よろしくお願いします。
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