第十話 心の支え
presented by ピンポン様
あれから、レイ達三人は、必死の思いで走り、学校へと向かっていた。途中、一時間目が始まるチャイムの音が聞こえ、諦めたのか、ゆっくりと歩いていた。
彼女達は3−Aの教室の前に着くと、遅刻した言い訳を考えながら、忍び込むように静かに教室の中へと入っていった。だが、アスカが中を見ると力を抜いたように、ホッと溜息を吐いた。
「……こんな事なら、もっとゆっくり出来たじゃない」
既に、授業開始から三十分も経っているというのに、彼女はそんな事を言った。
「何で? ……って、そういうことね」
アスカに続いて、扉から顔を出したレイも不思議に思ったが、すぐさま現状を理解すると、あっさりと同意する。
何故なら、教室の中は、学級崩壊でも起こっているのか、というぐらいにうるさく、大人しく席に着いてる生徒など一人もいないからだ。居るべき筈の先生の姿が見当たらず、黒板には『自習』の二文字がデカデカと書かれている。
「久し振りね、三人共。もう、具合は良いの?」
そんな彼女達に気付いたヒカリが近寄ってきた。
「おはよう、ヒカリ。すっかり良くなったわ」
三人は、この一週間、インフルエンザで寝込んでいたことになっていた。
「そう、良かったわ。お見舞いに行きたくても、行けなかったから、心配してたのよ」
「ごめんね。でも、もう大丈夫だから」
心配そうに話すヒカリに、レイが微笑みながら答えた。
「お? 久し振りやな」
「よっ。もう大丈夫なのか?」
彼女達に気付いたトウジとケンスケも、笑いながら近づいてきた。
「トウジ、ケンスケ。うん、すっかり良くなったよ」
今まで一言も発していなかったシュウジも、そう言って笑った。
「そいつは良かった。……あれ? シンジはどうしたんだ?」
余りにも、皆自然だったから誰も気付いていなかったが、ケンスケがそれに気付くと、不思議そうにキョロキョロとシンジの姿を探し出した。
「あ、あの、兄さんは……」
「シンジは今、ドイツにいるわ」
「「へ?」」
言葉を濁らせていたシュウジを、遮るかのようにアスカがキッパリと言った。その後の「へ?」は、シュウジとレイである。
「アタシらは詳しく聞いてないけど、シュウジのおじさまが急な出張でドイツに行くことになったから、シンジも着いていったみたいよ?」
勿論、嘘である。
「ふ〜ん、じゃあ、何でシュウジは連れてかなかったんだ?」
「だから、アタシ達は何も聞いてないのよ。今日、起きたらママがそう言ってたの」
「よう分からんけど、学校さぼれて羨ましいのお」
「「……」」
そんな会話を聞きながら、レイとシュウジは呆然と固まっていた。二人がいくら記憶を探っても、シンジがドイツに行った、などと聞いた覚えは無かったのだ。しばし、固まっていたレイだが、正気に戻ると慌てて口を開いた。
「ちょ、ちょっと、アスカ……」
「ん? 何よ?」
そして、レイとシュウジがアスカを連れていき、トウジ達から離れていった。教室の隅の方へと移動した三人は、こそこそと話し始める。
「どういう事? シンちゃんがドイツにいるって……」
「ああ。咄嗟に思いついたのよ。こう言っとけば、シンジが暫く居なくても平気でしょ?」
「うん……」
アスカの咄嗟の機転で事なきを得たが、暫く居ない、の部分に反応したレイが暗い顔をする。シンジがいつ戻ってくるのか、それとも、戻ってこないのか分からないから。
そんな彼女の表情に気付いたアスカが励ます。
「たくっ! さっきも言ったように、いつまでも沈んでんじゃないわよ! アイツが帰ってきた時、笑って迎えるんでしょ!?」
「うん……ありがと、アスカ」
その言葉にレイが微笑むと、自然とアスカも笑顔になった。
今まで傍観してたシュウジは、アスカの話を聞いて納得していた。そして、話がついたと思ったところで、漸く口を開いた。
「じゃ、トウジ達の所に戻ろう?」
そうして、彼らがトウジ達の元へと戻っていくと、既に違う話題で盛り上がっていた。何を話しているのか気になったシュウジは、素直に訊く。
「なに話してるの?」
急に話に入ってきたシュウジに、何事も無いかのようにトウジは答える。
「お? それがやな、シュウジ達は遅刻してきたから、知らんやろうけど、転校生が来るんや」
「転校生? いつ?」
こんな時期に? っと、思いながらも、色々な事情があるし、っとシュウジは納得する。
「今日の昼に来るらしいぜ。何か手違いがあって、遅れてるってミサト先生が言ってたからな」
「そうなんだ」
「それにしても、最近多いわね。シンジ君も来たばっかりだし」
そこで、この話は終わり、次の話題へと移っていった。この辺りは中学生らしく、ポンポンと話題が出てきて、それから転校生の話が出ることはなかった。
「喜べ女子〜。これから、噂の転校生を紹介するわよん」
楽しい昼休みが終わり、眠気が誘う午後の授業が始まる時、ミサトが満面の笑みでこう言った。すると、女の子達から「キャ〜」っといった、黄色い声が飛んできた。
「じゃ、入ってちょうだい」
そう言い終わるや否や、前方の扉がゆっくり開くと、一人の少年が教室へと入ってきた。
その少年は、シンジと同じような銀髪で、シンジと同じような紅い瞳を持っていた。彼がゆっくりと歩き、ミサトの隣に行く様を見ていた女の子達は、頬を赤く染めながら熱っぽい視線を送っていた。
そこで、今までボーッとしていたレイがその少年を見ると、大声で叫びながら立ち上がった。
「あ〜!?」
彼女は目を見開き、少年を凝視していた。
しかし、少年はレイの声に反応するも、一瞥した後、何事も無かったかのように、黒板に自分の名前を書きだした。そして、決して大きくはないが、教室に響き渡る綺麗な声で話し出した。
「渚カヲルです。よろしく」
そして、カヲルは優しく微笑んだ。それを見たクラスの女子は皆、うっとりとしながら、熱っぽい視線をカヲルに送っていた。
そんな異様な空気の中、レイは呆然と突っ立っており、口をパクパクさせていた。
その様子を何か勘違いしたミサトは、嬉しそうにこう言った。
「あら〜、レイ、渚君と知り合いなの〜? じゃあ、渚君、君の席はレイの隣ね」
「はい」
そうして、カヲルはゆっくりとレイの元へと歩いていった。その間、女の子達が、嫉妬に狂った視線をレイに、熱い視線をカヲルへと投げかけるが、二人とも全く気付いていなかった。
カヲルがレイの隣に来ると、未だ固まっているレイに声を掛けた。
「やあ、また会ったね。それより、座ったらどうだい?」
「……え? !? そ、それより! どうしてあなたがここに居るの!?」
全くの自然体で話してくるカヲルに、漸く自分を取り戻したレイが叫んだ。
「それは、後々分かるよ。それより、座ったらどうだい?」
「え? あっ……」
しかし、カヲルは平然と答え、呆れたように言った。それで、初めて自分が立ってることに気付いたレイは、バツが悪そうに席に着いた。
それから、レイは隣に座っているカヲルを見るが、話し掛けようとはせず、ただ睨んでいた。彼を見ながら、昨日の彼との会話を思い出しており、警戒していたのだ。
そして、その後ろでは、アスカが怪訝な顔をしながら、考え込んでいた。
(レイの知り合い? でも、アタシはこんな奴知らないわよ……レイの顔を見る限り、親しいってわけじゃ無さそうだし…………怪しいわね……)
彼女はジッとレイを見ていた。彼女の視線の先にいるレイの表情は、友達と会って嬉しい、といったようなものじゃなく、不信人物を見るかのように、訝しげにしている。
「(まあ、聞いてみれば分かるか……)……レイ、レイ」
背中を軽く叩きながら、小声で呼びかける。
「……え? な、何? アスカ」
その声に反応したレイは、アスカの方へと振り向くが、チラチラとカヲルを見ていた。それを見たアスカは更に怪訝な顔をする。
「アンタ、こいつと何処で知り合ったの?」
「えっ……何処って言われても……」
何て言ったらいいのか分からないレイは俯く。
「知り合いなんでしょ? それとも、アタシにも言えない何かがあるの?」
そんな彼女の様子に次々と疑問が湧いてくる。
「……」
しかし、レイは何も話さない。それを見たアスカは、これ以上言っても埒が明かないと思い、この話を打ち切った。
「はあ〜、まあ、いいわ」
「アスカ……」
「でも、話せるようになったら、すぐ言いなさいよ」
「うん……ごめんね」
顔を上げたレイは、深く訊いてこないアスカに罪悪感を抱え、申し訳なさそう謝った。それから、彼女達はカヲルの話題を一切出さなかった。
太陽が天高く昇り、ジリジリとした熱気を出してる中、シュウジたち三バカトリオは、校舎裏の木の下でお弁当を広げていた。
「あっついの〜」
トウジは、購買で買ってきた焼きそばパンを口に頬張りながら文句を言う。
「うん……」
こちらも暑さにやられているのか、元気の無い返事を返すシュウジ。先程から、卵焼きを突っついているのだが、一向に口に運ぶ気配がない。
そんなに暑いなら、冷房の効いた教室で食事をすればいいと思うのだが「こないな良い天気の時は外で食わんと申し訳ないやろ!」と、トウジの謎の力説のおかげでこんな事になっている。
「だから教室で食おうって言ったじゃないか」
ケンスケは一応、抗議したらしい。
いつもなら反論するトウジも、へばっているのか何も返さなかった。三人はそのまま、一言もしゃべらず、ダラダラと食事を続けていたが、ケンスケが不意に口を開いた。
「……渚の人気はすごいよなあ」
ポツリと呟く。
ケンスケが言ったように、カヲルの人気は凄まじかった。休み時間の度に女子が周りに集まり、彼に質問の嵐を浴びせていた。それに対し、カヲルは嫌な顔一つせず、笑顔で答えていたため、彼の好感度は鰻登りだった。さらに、他のクラスからも女子が来ており、彼らのクラスからは騒ぎ声が絶えなかった。
他にも、カヲルが来た時に大声を出したレイの元へと、彼とどんな関係なのか聞きにいく人が絶えなかったが、レイはムッツリとして一言も話さなかったため、それはすぐにおさまった。
「渚がいれば、女子にも商売できそうだな…………そうだ。シュウジは渚と知り合いなのか?」
ケンスケは、アスカやレイといった可愛い女の子の写真を撮っては、無断で販売していたのだった。しかし、男の良い被写体が居ないため、女子への販売は出来ていなかった。
「え……僕は初めて会ったけど……どうして?」
不意に話し掛けられたシュウジは、だるそうに答える。
「綾波が知り合いだったから、お前も知ってんのかと思ってな」
「いや、知らないよ」
シュウジもレイがカヲルと知り合いだったことに驚いていた。勿論、アスカ同様、レイに訊きにいったが、何も答えてくれなかったのだ。
「そうか……」
「僕の話をしてるのかい?」
「「え?」」
それを思い出し暗い顔をするシュウジに、これ以上聞かないように相槌を打つケンスケだったが、二人の会話に割って入る声が聞こえてきた。
二人は同時に聞き返し、顔を確認すると、今、話題にしてた渚カヲルがいた。因みに、トウジは早々と食べ終わり、この暑い中、昼寝していた。
「僕も一緒に食事してもいいかな?」
「あ、ああ……」
急に現われたカヲルに呆気に取られながらも、返事を返すケンスケ。
すると、カヲルはシュウジの隣に腰を降ろすと、手に持っていたコンビニの袋からサンドイッチを取り出し、美味しそうに食べ始めた。
「サンドイッチはいいねえ。ドイツ人が生んだパンの極みだよ」
目を瞑りながら、咀嚼するカヲルは何処から見ても危ない人だった。勿論、シュウジもケンスケも引いていた。
「そう思わないかい? 碇シュウジ君」
そう言ったカヲルは、ゆっくりと瞳を開くと、ちょっと引いてるシュウジを見た。
「ぼ、僕の名を?」
「知らない者はいないさ」
「い、いや、そんな事は無いと思うけど……」
意味不明なことを言うカヲルに、シュウジは軽く後ろに下がった。
「わっ!」
すると、突然、奇声を上げたシュウジは、何故だか分からないが右手を勢いよく振った。
「君は一時的接触を極端に避けるね」
そう言ったカヲルの左手は、先程までシュウジの右手があった場所にある。どうやら、手を握ろうとしたらしい。しかし、そんなシュウジの拒絶を気にもせず、カヲルはゆっくりと微笑んだ。
「それは、好意にあたいするよ」
「こ、好意……?」
そして、カヲルは熱っぽい視線をシュウジに向けるが、シュウジは冷や汗をかきながら後ずさる。
「好きってことさ」
再び、カヲルは微笑む。その笑みは、女子と一部の男子が見たら、頬を染め、潤んだ瞳で見つめ返すだろうが、如何せん、シュウジはその他大勢の極普通の男子だった。
「き、君が何を言ってるか分からないよ。な、渚君」
理解できないものをカヲルに見たシュウジは、未だ食べ終わっていない弁当箱を慌てて片付け始めた。
「カヲルで良いよ、シュウジ君」
そう言うカヲルは初めっから名前で呼んでいた。
「そ、そろそろ午後の授業が始まるから行くね! じゃ、じゃあ!」
身の危険を感じたシュウジは、一目散に駈けていった。
「つれないなあ、シュウジ君」
彼はシュウジが走り去っていった方を見ながら残念そうに呟いた。
「じゃあ、僕も行くとするよ……おや?」
残っているケンスケに声を掛けるカヲルだったが、ケンスケは二人の会話を聞いてる内に何処かに行ったようで、そこには、未だ昼寝しているトウジしかいなかった。
「まあ、いいさ」
しかし、カヲルはそれを気にもせず、前髪を片手で掻き分けると、不敵に微笑んだ。
「シュウジ君は君にそっくりだよ、シンジ君」
彼は嬉しそうに呟いた。
やがて、その場からゆっくりと歩き去るカヲル。後に残ったのは、グースカいびきをかきながら、涎を垂らしているトウジだけだった。
学校が終わり、彼女達チルドレンはネルフにいた。
あれから、シュウジはカヲルが近づいてくると、ダッシュで逃げ出し、近づかないようにしていた。あの時の眼が怖すぎたのだ。そして、レイはと言うと、一言も話そうとせず、ジッと黙り込んでいたので、アスカもカヲルの事を話題にすることは無かった。
そんな彼らがいつも通り発令所に来ると「紹介する人が居るからちょっと待っててね」と、ユイに言われ、彼らは黙って待っていた。
暫く、待っていると、音も無く扉が開き、二人分の足音が聞こえてきた。二人の内、一人はユイだが、もう一人はユイの後ろを歩いていて分からなかった。しかし、近づいて来るにつれ、もう一人の姿を確認すると、三人は三者三様の反応をした。
「はあ〜?」
「げっ」
「……どうして」
といったように、三人が声を出した。因みに、上から、アスカ、シュウジ、レイである。
ユイはそんな彼らの反応を無視して、後ろにいた少年を隣に並べ、紹介を始めた。
「じゃあ、紹介するわね。フィフスチルドレンになった、渚カヲル君よ。仲良くしてね」
ユイがそう言うと、カヲルが一歩前に出て、挨拶をする。
「フィフスチルドレンになった、渚カヲルです、よろしく。特にシュウジ君」
微笑みながらすらすらとしゃべるカヲル。
「「「……」」」
それを聞いた三人は、口を開けながら呆然としている。
その様子を見て、尚もニコニコとしてるカヲルだったが、シュウジ達三人は示し合わせたように叫んだ。
「「「どうしてー!?」」」
話は一日前に戻る。
レイと別れた後、カヲルは、厳重なセキュリティーに守られてる、ここ、ジオフロントを何故か自由気ままに移動していた。そして、彼は目的地である総司令室にいた。
カヲルがここに来た時、まるで、彼を待っていたかのように、ゲンドウ、ユイ、レナ、キョウコ、ナオコの五人が揃っていた。
突然の乱入者に、皆慌てていたが、ゲンドウだけは落ち着いており、いつものゲンドウポーズをしながらカヲルを見ていた。その様子を見て、他の女性陣は平静を取り戻し、厳しい目でカヲルを見据える。
「……」
ゲンドウは目の前に立つ少年を警戒しながらも、ゲンドウポーズをはやめない。そんな奇妙な沈黙の中、カヲルが口を開いた。
「初めまして。僕はカヲル、渚カヲルといいます。以後、お見知り置きを」
そう言ったカヲルは、丁寧にお辞儀をした。
「……」
しかし、当然の如く、改まられても、ゲンドウ達は気が抜けず、一言も言葉を発さない。
「どうか、警戒しないでください」
「……」
カヲルは敵意は無いと、両手を上に向けながら言うが、それは無理な話だった。困ったように頭を掻くと、ゲンドウ達が興味を引きそうな話題を出した。
「僕はシンジ君の友達です。だから、どうか僕の話を……」
「シンジを知ってるの!?」
カヲルの目論見は成功したらしく、彼の話の途中でユイが叫んだ。
「はい。僕とシンジ君はずっと一緒に居ましたから」
その反応に気をよくしたカヲルは微笑む。
「シンジは何処に居るの!?」
すると、ユイは一週間ほど前に居なくなったシンジの手掛かりになるかも、と必至にカヲルに詰め寄った。
「それは、分かりません」
しかし、カヲルの返答は無情だった。
「けれど、そう遠くない内に帰ってくると思います」
カヲルは微笑みながら言った。
「……何故だ?」
そこで、今まで寡黙だったゲンドウが口を開く。
「僕がここにいるからですよ」
「「「「「?」」」」」
答えになってない事を言うカヲルに、一同は怪訝な顔をする。
「……どういうことかしら?」
厳しい口調でナオコが訊く。
「今、ゼーレ支部が次々と壊滅させられているのをご存じですよね?」
こくり。一同が同時に頷く。カヲルが言ったとおり、ゼーレの末端とはいえ、何者かに次々と壊滅させられてるのを知っていた。
カヲルはその様子に満足にすると、話を続けた。
「それはシンジ君がやっています」
「「「「「!?」」」」」
淡々と言うカヲルに、ゲンドウ達は驚きを隠せない。
「理由は色々あると思いますが、多分、僕を捜しているのでしょう」
「……何故?」
半信半疑だが、ユイは訊かずにはおけなかった。
「先程、レイちゃんと話をしました」
「!? レイに何をしたの!?」
予想外の返答に、レナが叫んだ。この少年は彼女達にとって怪しすぎる。その少年が、彼女の愛娘に何をしたのかと思うと、叫ばずにはいられなかった。
「ただ話をしただけですから安心してください。それで、彼女と話してみて、恐らくですが、シンジ君は彼女に拒絶されたのでしょう」
「!? レイがシンジ君を拒絶するはず無いわ!」
しかし、カヲルは彼女を安心させるように、出来るだけ優しく話した。それに対して、レナは一瞬、驚くも、レイがシンジを拒絶などするわけがない、と言い返した。
「彼女はシンジ君が使徒だって知っていました」
「「「「「!?」」」」」
予想外過ぎるカヲルのその発言に、何か言い返してくるなら言い返そうとしていたレナでさえ、驚愕に目を見開いた。
「それで、僕を捜しているのでしょう」
そこで、カヲルの発言は終わった。
「「「「「……」」」」」
レナ達は、カヲルの言葉を考えていた。確かに、シンジが居なくなってからのレイの様子はおかしい。何か怖がっているようにも見えた。それが、シンジが使徒だと知ったから、というのなら納得できる。
しかし、何故、この少年がシンジの事を知っているのか。
「……君は何者だ」
一番の疑問を口にするゲンドウ。
「使徒です」
「「「「「!?」」」」」
カヲルは事も無げに言う。
「ですが、貴方達に危害を加えるつもりはありません。やるなら、とっくにやっていますから」
事実、その通りで、カヲルはここに来てから何もしていない。
「僕は物心ついた時から、シンジ君と一緒にいました。だから、彼の気持ちは良く分かります。僕は彼を親友だと思っていますし、シンジ君もそう思っていると思います。僕は彼と、共に傷つき、笑い、心を通わせたと思っています。だからこそ、シンジ君が大事に思っている貴方達を傷つけるわけがありません」
そこまで言うと、カヲルは微笑んだ。
一同はカヲルの話を考えているようで、誰も口を開かなかった。カヲルも、それ以上何か話すつもりはないらしく、ニコニコと笑っているだけだ。
「……目的は何だ……?」
やがて、ゲンドウが言葉を発した。いきなり、ここにやってきた、自称使徒の少年の目的を図りかねていたからだ。
「僕の目的はただ一つ。シンジ君が帰ってくるまで、貴方達を守ることです」
「何故だ……」
「先程も言ったとおり、シンジ君が大切に想っている貴方達を傷つけたくないからです。僕はシンジ君の悲しい顔を見たくありませんから」
今まで微笑していたカヲルが、真面目な顔をしている。
それを聞いたゲンドウ達は再び考え込む。しかし、この少年の話の裏をとる術は無く、信じるしかなかった。
「…………信じていいのね?」
そして、恐る恐るといった感じでユイが訊く。
「勿論です」
しっかりと頷くカヲル。
それを見たユイ達は、この少年が使徒であろうと、信じるに値すると思った。それは、シンジがこの街に十年ぶりに帰ってきた時に、真実を語った時と同じ雰囲気だったから。
「……分かりました。貴方を信じます。これから、よろしくね、カヲル君」
だから、ユイは笑顔でそう言った。他の皆も同じ意見なのだろう、皆、微笑みながら頷いている。
「ありがとうございます。こちらこそ、よろしくお願いします」
それを聞いたカヲルは嬉しそうに微笑んだ。そして、和らいだ空気の中、ユイが訊く。
「それで、どうするの?」
「どうする、とは?」
その問いに、カヲルはクエスチョンマークを浮かべる。
「貴方のこれからよ。私達を守るって言ってくれたけど、使徒の力をシュウジ達の前で使うわけにはいかないでしょ?」
彼女が危惧してるのはこういうことだ。彼が使徒の力を使い、襲い来る使徒を撃退した時にくるシュウジ達の反応を心配してだった。
「そうですね……」
彼女が何を言いたいのか理解したカヲルは腕を組み、考え込んだ。しかし、すぐにそれを解くと、明るい声で話し出した。
「僕もチルドレンになったらどうです?」
「なれるの!?」
平然と言うカヲルに、驚愕するユイ。
「ええ、恐らくですが、不可能ではないと思いますよ」
彼はここに来てから、リリスの波動とでもいうモノを感じており、それは可能だと思っていた。
「それでは、実験してみます?」
そして、彼の実験後、フィフスチルドレンとして渚カヲルの名が登録された。
話は発令所に戻る。
三人は揃って大声を出した後、あんぐりと口を開けてカヲルを見ていた。そこで一早く復活したアスカが当然の疑問を口にした。
「こいつがフィフス!? そんなの知らないわよ! こいつがフィフスならフォースは誰よ!?」
そんな話を聞いたことが無いアスカは、顔を真っ赤にしながらユイに詰め寄った。
「落ち着いて、アスカちゃん。順を追って説明するから」
そして、ユイは軽く深呼吸すると一気に話し始めた。
「カヲル君がフィフスチルドレンとして登録されたのは昨日なの。だから貴方達が知らないのは当たり前なのね。そして、どうしてフォースチルドレンじゃなくてフィフスチルドレンかっていう疑問は、シンジがフォースだからよ。シンジが一度、エヴァの実験をした時に、シンジをフォースとして登録しなくてはいけなかったからなの」
ユイはそこまで話すと「分かったかしら?」とでも言いた気な顔をした。
「そういうわけで、これからよろしく」
そして、カヲルが笑顔でそう言った。
「「「……」」」
いきなりなことで、アスカ達は呆然として、誰も口を開かなかった。しかし、ここでユイが意外な一言を言うと、シュウジが叫んだ。
「あ、そうそう。これから、カヲル君は家で暮らすことになったから」
「えー!?」
To be continued...
(あとがき)
前回のあとがきに、昔のペースで書いていく、と言ったんですが、やはりちょっとさぼってしまい更新が遅れました。申し訳ありません。え〜、今話はカヲル君が出ずっぱりで、シンジはちっとも出なかったわけですが、近い内にシンジは出ますので。途中のカヲルとシュウジのやり取りを書いてる時が楽しくてスラスラと、そこだけは楽に書けました。だからと言って、僕はその気は無いし、好きな訳じゃないんで、そこのところよろしく! 前回、更新してすぐに人気投票に票が入れられてて物凄く嬉しかったです! こんな僕の拙い作品でも、楽しみにしてくれてる人が居ると思うと、執筆にも力が入りました。まだまだ、この物語は続くので、よろしくお願いします。それでは。
作者(ピンポン様)へのご意見、ご感想は、または
まで