プロローグ
presented by Red Destiny様
時は現代。ある所に赤井駿という大学生がいた。駿は、友達の所へと向かう途中で、薄暗いトンネルの中に入ったが、なかなかトンネルから出られなかった。
「あれ?一体どうしたんだ。」
駿は後ろを振り向いたが、出口は見えない。
「おいおい、冗談だろ。」
駿は、背筋が寒くなった。
『おいで……。おいでよ……。』
「ひいっ!」
急に男の子の声が聞こえたので、駿は驚いて声をあげてしまった。
『おいで……。こっちにおいでよ……。』
声は、幻聴ではなさそうだ。小さいながらもはっきりと聞き取れた。
「な、何が起きたんだよ〜っ。」
駿は頭を抱えた。
「はっ。」
駿は、波の音で目を覚ました。駿は、何故か海辺にいた。だが、なにおかしい。
「こ、これは……。」
そう、海が紅かったのだ。
「ごめんなさい。こんなところに呼んで。」
呆然としていた駿の後ろから、急に声がしたので、駿はびっくりして振り向いた。
「お、お前は、碇シンジ!」
なんと、そこにはアニメの主人公、碇シンジそっくりの少年が立っていたのだ。
「そう。僕は碇シンジです。すみません、こんなところに呼んでしまって。」
その少年−碇シンジ−は、本当にすまなさそうな顔をした。
「な、何で俺がここにいるんだよ。」
駿は、シンジに詰め寄った。
「それは、僕が呼んだからです。」
シンジは、駿の顔をまともに見ていなかった。おそらく、悪いことをしたという意識があるからだろう。
「どうして?」
駿がさらに食ってかかると、シンジは言いにくそうに口を開いた。
「お願いがあるからです。」
しかし、そんな答えでは駿は納得出来ない。続けて問い詰める。
「何を?」
「僕の力を受け継いで、僕の代わりに時間を遡ってやって欲しいことがあるんです。」
「あはははっ、冗談だろ。何でお前がやらないんだよ。」
駿は、本当に冗談だと思った。だが、シンジは思い詰めたような、真剣な表情で言った。
「僕じゃあ、上手くいかないと思うからです。いえ、もっと悪いことになるかもしれません。そこで、代わりの方を呼んだんです。」
そこで駿は、シンジが内向的な性格だったことを思い出した。自信家ではないことも。そうなると、シンジは本気で言っているような気がしてきた。でも、駿は自分に何のメリットも無いのに、トラブルに巻き込まれるのは嫌だった。
「冗談じゃない。今すぐ俺を元に戻せよ。」
駿はシンジに詰め寄ったが、シンジの答えはある意味予想通りだった。
「それが、出来ないんです。あなたが過去に戻って、力を蓄えないと。」
「冗談だろ。」
駿は、冷たく言った。シンジが嘘を言っていると思ったので、強引に断ればなんとかなると思ったのだ。
「すみません。本当です。」
だが、駄目だった。でも、もう一回試してみる。
「嫌だね。断る。」
なおも駿は首を横に振ったが、シンジが駿の耳元で何事かを囁くと、途端に態度を変えた。
「ちっ。しょうがねえ。嫌だが、そこまでして頼むのならやってやる。」
「ありがとうございます。」
シンジは安堵し、にっこりと微笑んだ。
そして、この時から、何かが動き始めた……。
碇シンジは、寂しがりやだった。
夕暮れ時に、他の子供が母親に連れられて帰って行くのを見て、一層寂しさを募らせていた。
……トウサン、ナンデボクニアッテクレナイノ?サビシイヨ。
シンジの父は、シンジを親戚のおじさんに預けたきり、殆ど会っていない。
シンジの母も、小さい頃に死んだと聞いている。
……ボクニハ、ナンデオカアサンガイナインダロウ。
シンジは、自分の母親が何で死んだのか、噂で聞いていた。
シンジの父親の行った実験が失敗し、帰らぬ人となったのだという。
……トウサン、オカアサンガシンダノハ、トウサンノセイナノ?
シンジは、父にそのことを聞いてみたかった。だが、殆ど会えない父に、そんなことを聞けるはずもない。
シンジを引き取って育てている親戚のおじさんも、その話を聞いても答えてくれなかった。
……トウサン、オネガイダカラコタエテヨ。ボクノハナシヲキイテヨ。
だが、いくらシンジが心の中で思っても、何も変わらない。
友達は、夕方になるとお母さんが迎えに来て、笑顔で帰っていく。
最後に独り残されたシンジは、砂山を壊したり、何か物にあたったりして、虚しい日々を過ごしていた。
そんな日が、ずっと続くと思っていたある日、転機が訪れた。
「くそっ!くそっ!くそっ!」
いつものように、砂山を蹴飛ばして憂さを晴らしていたシンジの耳に、聞き慣れないメロディーの鼻歌が聞こえてきた。ベートーベンの第9だが、幼いシンジにはそんなことは分からない。シンジが辺りを見回すと、すぐに鼻歌の主が見つかった。血の様に紅い夕陽を眺めている、黒髪の少年だ。シンジからは、少年の背中しか見えない。白いポロシャツらしきものに、ジーパン姿であることが分かる位だ。
「あれ、一体誰なんだろう?」
シンジが不思議に思って近付くと、その少年は前触れも無しに突然振り向いた。少年の背は、シンジよりも頭一つ以上高く、少し見上げる形になった。顔立ちは、シンジに似て中性的なものだ。しかも、目を凝らして見ると、シンジに良く似ている。
「歌はいいね。歌は、心を潤してくれる。ヒトが生み出した文化の極みだよ。そう感じないかい、君も?」
まるで友達に話しかけるように、自然体で話しかけてくる少年だが、突然のことに、シンジは何も答えられなかった。
「僕の名前は、飛鳥シン。君の名前は?」
だが、その少年は、屈託の無い笑顔で、続けて語りかけてきた。シンジは、何故か懐かしい感じがして、思わず答えていた。
「い、碇シンジ。僕の名前は、碇シンジって言うんだ。」
その少年は、にっこりと笑った後にこう言った。
「そうかい、シンジ君かい。いい名前だね。好意に値するよ。」
シンジがもう少し大きかったならば、この少年のことを単なる変人だと思っていたことだろう。だが、まだ幼いせいか、それともいつも寂しい思いをしていたためか、シンジはこの少年の言葉を素直に受け取ると共に、少年の柔らかな感じのする笑顔に魅せられてしまった。でも、シンジは少年の言葉の意味が良く分からなかった。
「あの、コウイってなんなの?」
「それはね、好きってことさ。」
シンジの質問に、少年は再び笑顔で答えた。
「え、ええ、ええっ!」
シンジは、びっくりしてしまった。こんな恥ずかしいことをさらっと言う友達なんて、シンジの周りには誰もいなかったからだ。
「あの、お兄さんは、ここの近所の人なの?」
シンジが問いかけると、少年は首を横に振った。
「いいや、かなり遠くから来たのさ。」
道理で見ない顔だと、シンジは思った。シンジは、どういう訳かこの少年の笑顔が気に入ってしまい、会話を続けたくなって、他のことも聞くことにした。
「お兄さんは、ここに遊びに来たの?」
「いいや、人を探しに来たのさ。」
それを聞いたシンジは、手伝えることがあればと思い、聞いてみた。
「あの、誰を探しているの?僕で良かったら、探すの手伝ってあげるよ。」
すると、少年はにっこりと笑って首を横に振った。
「ありがとう、シンジ君。でも、もういいのさ。尋ね人には会えたから。」
それを聞いたシンジは、なあんだと思ってがっかりした。もしかしたら、この不思議と懐かしい雰囲気を感じる少年とは、仲良くなれるかもと思ったからだ。尋ね人に出会えたなら、もう自分には手伝えることはない。そうなると、この少年と会うのはこれっきりになりそうだ。そう思うと、なんだか寂しい気持ちになった。
「そうなの。じゃあ、僕には手伝えることはもう無いんだね。」
ガックリと肩を落とすシンジに、少年は再び首を振った。
「いいや、違うさ。僕が会いたかったのは、碇ユイの息子。すなわち君さ。」
「!!!」
シンジは、今度こそ驚いて、何も言葉に出来なかった。
2008年秋の、ある晴れた日の夕方の出来事。
これが、碇シンジと飛鳥シン(=赤井駿)の、初めての出会いだった。
To be continued...
(あとがき)
『ながちゃんが好き』にお集まりのみなさま。初めまして。Red Destiny と申します。
最初に、お詫びします。先日は、色々とお騒がせしてしまいまして、すみません。
このたびは、ながちゃん様のご好意で、なんとか投稿させていただくことになりました。
ふつつかものですが、よろしくお願いします。
今回は、プロローグを投稿します。
この作品は、Arcadia というサイトにも投稿しているのですが、
こちらの作品とは、プロローグがかなり違います。
こちらは、プロローグVer.2というところです。
なお、色々と誤解があるようなので、最初に申し上げますが、
私はLASが好きというわけではありませんので、誤解のないようにお願いします。
「アスカが大活躍する。」「アスカがシンジとくっつく。」と思っている方は、
今後の展開によっては、多大なダメージを受ける可能性がありますので、ご注意ください。
但し、LRS、LAS、LMSのいずれになるのかは、ほぼ決まっていますが、
話の展開によっては、予定を変えるかもしれません。
また、色々と混乱を招くおそれがあることから、当面掲示板には書き込みませんので、
どうしても返事が欲しいという方がいましたら、メールをいただければと思います。
但し、お返事が遅くなる可能性もありますので、その節はご容赦下さい。
作者(Red Destiny様)へのご意見、ご感想は、まで