新世紀エヴァンゲリオン Enemies of Female

第一話 サキエル、襲来

presented by Red Destiny様


西暦2015年初夏のとある日。碇シンジは、第三新東京市へと向かう電車の中にいた。シンジは退屈そうに、窓の外をゆっくりと流れていく緑に覆われた山々を眺めている。だが、本来の歴史と違い、シンジは一人ではなかった。飛鳥シンという、一見20歳前後に見える長身の青年と一緒だったのだ。その飛鳥シンだが、体育会系を思わせるたくましい身体に似合わない中性的な顔立ちをしており、シンジとは兄弟のように良く似ていた。ちなみに、3年前のシンの写真を見ると、今のシンジと瓜二つという位似ている。

「シンさん、すみません。こんな所まで付いてきてもらって。」
シンジは、何を思ったのか突然シンの方を振り向いて、本当に済まなさそうに謝った。だが、シンは気にするなと言って笑った。
「それにな、俺もこっちの方に用があるんだよ。だから気にするなよ。それに、俺とお前の仲じゃないか。水臭いぞ。」
「そう言ってもらえると助かります。」
シンジはそう言いながら、安堵の笑みを浮かべた。シンとは、あの日に出会って以来7年越しの付き合いである。その後何があったのかはいずれ明らかになるのだが、二人は本当の兄弟のように仲良くなっていた。シンはいつもシンジに優しくしてくれるのだが、親しき仲にも礼儀有り。シンジは、シンに対して常に感謝の気持ちを示すことは欠かさない。仲が良くなるのに比例して、シンの言葉遣いが砕けてきたのとは対照的だ。
「でもな、やっぱり車で来た方が良かったんじゃないかとは思うがな。」
そう言ってシンは苦笑した。そのうち電車が止まることが予想出来ていたからなのだが、シンジには分かるはずもない。
「でも、シンさん。車だと運転手が必要でしょ。ご迷惑をかけるとまずいし。それに、タクシーだとお金がもったいなくて。」
シンジは、自分で生活費を遣り繰りしているせいもあってか、結構貧乏性だった。シンが大金持ちだということを知らされていないからでもあるが。
「まあ、いいさ。でもな、電車が遅れるようなことがあれば車に乗ってもらうぞ。」
シンの言葉に、そんなことはないですよと言いながらも、シンジは首を縦に振った。



一方その頃、海岸線では国連の戦車隊が使徒−サキエル−を迎え撃っていた。海岸沿いの道路上に、渋い緑色をした戦車隊が数十台以上も所狭しと並んでいる。使徒の接近と共に激しい砲撃を加えるが、使徒は全く意に介さずに上陸していく。

そして、某所で巨大なモニターに映し出されるサキエルの姿を見つめる二人の男がいた。
「…15年ぶりだな。」
「ああ、間違いない。使徒だ。」
そう、ネルフ副司令の冬月と、総司令碇ゲンドウである。ゲンドウは手を組んで、口元を隠しながら座っている。その右斜め後ろで、冬月は手を後ろに組んで立っている。二人が会話をしている最中にも、サキエルは次々と戦闘ヘリを撃墜していく。
「ヘリじゃ駄目だ。ミサイルを撃て!」
ゲンドウ達から少し離れた所に座る国連軍幹部が怒鳴りながら命令を下す。その命に従って、大型爆撃機から巨大ミサイルが放たれる。だが、サキエルは平然とそのミサイルを片手で受け止める。大爆発が巻き起こったが、爆煙が収まると無傷のサキエルがその姿を現した。
通常火器兵力による攻撃が、使徒に対して無力であると判断した国連軍幹部は、特殊兵器であるN2地雷の使用を決断した。
「くそうっ!N2を使えっ!」
軍幹部の一人が叫ぶと、間髪を入れずに侮蔑の感情を含んだ、とても冷やかな女性の声がした。
「今はやめてもらいたい。あなた方は、町を一つ犠牲にする気ですか?」
軍幹部達が声のする方を見ると、歳の頃は20代の前半だろうか、黒いショートヘアの精悍な顔つきの女が立っていた。
「お前は誰だ?何故ここにいる。」
一人の男が問い質すと、その女は目だけを動かして冷やかな視線を向けてきた。
「私は、西ヨーロッパ方面軍第7機甲師団所属、ナタル・バジジール准将だ。我々の部隊は、今後ネルフの指揮下で戦う予定なのでな。指揮官の私が先に到着したというわけだ。」
それを聞いた男達は目を見開いた。西ヨーロッパ方面軍の第7機甲師団と言えば、遠く日本にもその勇名が轟いているほどの勇猛果敢さで知られる精鋭部隊だ。その師団の指揮官が、アイスハートのナタルと呼ばれて恐れられていることも知っていた。敵に回すとかなり厄介な相手であることも。
「わ、分かった。攻撃は少し待とう。おい、使徒を市街地の外に誘い出せ!」
結局、軍幹部はナタルの言葉に従って、町を犠牲にすることは避けることにした。こうして、N2地雷は市街地の外で使用されることになり、町が一つ救われた。



「おい、冬月。お前は彼女のことを聞いていたか。」
ゲンドウは、ナタルのことが気になったらしく、冬月に尋ねた。すると、冬月は少しだけ驚いた素振りをしたが、お前に報告書はあげてあるんだがなと、前置きした上で答えた。
「ああ、昨日国連本部から連絡があったな。2週間以内に5千人規模の旅団が到着すると。その指揮官のナタル准将が、先行して数日以内に到着するともな。」
「老人達の差し金か。」
ゲンドウは、急に厳しい表情になったが、冬月の次の言葉を聞いて元に戻った。
「いや、そうではないらしい。ナタル君は、セカンドチルドレンと面識があるそうでな。その縁からネルフへの助力を上層部に進言し、認められたと聞いている。一応、彼に裏もとってもらってある。」
彼とは、もちろん3足わらじの加持のことである。
「では、こちらの駒となると考えていいのだな。」
ゲンドウは、ニヤリと笑う。
「ああ、そうだな。ナタル君は、階級が下の葛城君の指揮にも従うと言っているらしい。他の国連軍や戦自の連中も同じだと楽なんだがな。」
「ふっ。手柄を立てたい指揮官に、使徒の力を見極めたい上層部の妥協の産物だろうな。まあ、いい。問題なかろう。戦自へのいい牽制にもなる。」
「しかも、彼らの給料はこちらで負担しなくて良いことなっている。それどころか、武器弾薬の費用もだ。少し話がうますぎるきらいはあるがな。」
「だが、予算を割かなくてもよいのは助かりますよ。」
「ああ、そうだな。おっと、N2が爆発するぞ。」
国連軍は、なんとか人気のない山中にサキエルを誘い込んで、N2を使用した。閃光が走り、爆煙がサキエルを包んだ。

「やった!」
「これで決まりだな。」
「ふん、ネルフなどに頼らんでも、使徒ごとき我々で倒してみせる。」
国連軍幹部は、満面の笑みを浮かべた。だが、ナタルが水を差した。
「ふん、おめでたい奴らだな。」
「なんだと!どういう意味だ。」
幹部の一人が睨むと、ナタルはモニターを顎でしゃくった。
「爆心地にエネルギー反応!」
シゲルの声がした後、モニターに傷つきながらも健在だったサキエルの姿が映し出された。
「ば、ばかな…。」
「あり得ん…。」
「N2でも駄目なのか…。」
「信じられん…。」
国連軍の幹部は、揃って肩を落とした。



一方、シンジ達は途中で電車が止まったため、途方に暮れて…………いなかった。シンが、手際よく運転手付きの車を呼んだからである。
「初めまして、シンジ君。私は、アサギ・コードウェル。アサギって呼んで下さいね。」
金髪の若く美しい運転手が、赤いマツダRX−8から優雅に降りてきて、首を傾げながらにっこり笑ってシンジに手を差し出した。肩に少しかかる長さの、少しウエーブがかかった金髪が印象的な、優しい感じの女性だった。
「は、はいっ!アサギさん、よろしくお願いしますっ!」
シンジは、今まで見たことも無い様な凄い美人を目の前にして、大いに慌てた。握手をすることはしたが、体がカチカチになってしまい、アサギに笑われてしまう。そのため顔を真っ赤にしたシンジは、恥ずかしさを隠すために急いでRX−8に乗り込む。そして、シンとアサギも続けて素早く車に乗り込み、3人はネルフへと向かった。

しばらく無人の道路を走っていると、シンジは急にアサギに声をかけた。
「すみません、僕のために。」
シンジが謝ったのは、急に呼び出して運転手をさせてしまったことが、なんとなく後ろめたかったからだ。だが、アサギはにっこり笑った。
「いいんですよ、気にしないで下さい。運転手を務めるくらい、なんてことありませんから。それどころか、お役に立てて光栄です。」
「でも、後ろの方で誰かが戦っているみたいですし。こんな危ないところに来てもらって、申し訳ありません。」
シンジがそう言った直後、N2爆発の衝撃波が襲ってきた。
「くっ!」
アサギは、思わず声をもらした。車が衝撃波の影響で蛇行する。だが、かなり離れたところで爆発が起きたせいか、車が横転したりするようなことはなかった。やがて車は長いトンネルに入り、カートレインに載って箱根・第3新東京市地下空洞部にあるネルフ本部へと向かった。シンジの眼下には、広大な光景が広がる。ジオフロントと呼ばれる地下空間だ。地下にあるにもかかわらず、どういう訳かオレンジ色の淡い光が溢れる幻想的な光景の世界だった。その地下中心部に、ネルフ本部はあった……。

「さあ、もう少しで到着しますよ。」
アサギがそう言ってから間もなく、シンジ達はネルフに着いた。だが、入口にはアサギに負けない位の美人が待っており、シンジの胸を再びときめかすのだった。



To be continued...


(あとがき)

基本的に活躍するのはエヴァキャラです。主人公はシンジですから、シンジを中心に話が進むことが多いでしょう。ミサト、レイ、アスカ、リツコ、加持、マヤなどの主要エヴァキャラや準エヴァキャラであるマユミを中心に、話が進むこともあるでしょう。
オリキャラのうち、飛鳥シンだけは他のエヴァキャラと同等以上の扱いになると思います。
今回オリキャラが二人出まして、今後も続々と登場しますが、出番はあまり多くないと思います。そのため、10話ごとに一覧表を作ることを予定しています。

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