新世紀エヴァンゲリオン Enemies of Female

第二話 初号機、起動

presented by Red Destiny様


「お久しぶりですね、ミサトさん。」
車から降りたシンは、アサギと同じかそれ以上の美人−ミサト−を見ながら微笑んだ。どうやら、シンとミサトは面識があるらしいことがシンジにも分かった。ミサトは少しためらっているようだったが、直ぐに気を取り直してニッコリ微笑んだ。
「お久しぶりね、シン君。それから、初めまして碇シンジ君。」
ミサトは、シンと握手した後にシンジにも手を差し出した。
「は、はい。初めまして。」
シンジはおずおずと右手を差し出したが、少しは慣れたのかアサギの時ほどには慌てなかった。そのシンジの手を、ミサトはしっかりと握りしめた。
「私の名前は、葛城ミサトよ。よろしくね。」
「は、はい。よろしくお願いします。」
だがシンジは、またもや顔が赤くなった。アサギの時と同じで、美人のお姉さんという感じのミサトの手を握ったため、恥ずかしくなったのだ。シンジは、女性に対してはまだ奥手だった。
「まっ、挨拶はこれくらいにして急ぎましょう。話は途中でゆっくりとね。」
ミサトは、シンジの手を握ったまま歩きだした。シンジは、内心ではちょっぴり喜びながらミサトのなすがままに連れて行かれた。もちろん、シンも一緒だ。
「あっ、私も行きます。」
アサギも少し遅れて付いて行く。



一方、爆心地に立つサキエルは、徐々にダメージを回復しつつあった。
「予想通り自己修復中か。」
冬月が偵察機の映像を見て呟く。
「そうでなければ単独兵器として役に立たんよ。」
ゲンドウが答える。その時、サキエルが光線を発し中継映像が途切れた。偵察機に気付いたサキエルが撃墜したのだ。
「ほう、たいしたものだ。機能増幅まで可能なのか。」
冬月は感心した。
「おまけに知恵もついたようだな。」
「この分では、再度侵攻は時間の問題だな。」
「さて、国連軍の次の手はいかがですかな。」
ゲンドウが意地の悪そうな笑みを浮かべた。



「……というわけで、シン君とはドイツで知り合ったのよね。確かシン君が11歳の時かしら。私が国連の事務所に用事があって、そこでつまずいたシン君にジュースを頭からかけられて、お詫びにビールを一杯貰って、そのお礼にシン君を色々な場所に連れて行ってあげて、またまたビールを貰って……。2年位してシン君は日本に帰ったんだけど、ちょくちょくドイツに来ていたから、それからも結構会っていたわよね。」
ミサトはネルフ内の廊下を歩きながら、シンジに聞かれるままに、シンとどうして知り合ったのかを話してくれた。
「でも、驚いたわ。シンジ君……」
「おっと、ミサトさん。お仕事の話をしなくてもいいんですか。」
何かを喋ろうとしていたミサトに、シンが口をはさむ。
「あっ。ちょっちまずいわね。シンジ君にはネルフの説明をしなくちゃね。私達は、特務機関ネルフの本部に向かっているの。」
「は、はあ。特務機関ネルフ、ですか。」
シンジは、何のことかよく分からない。それが、表情にも思いっきり出ている。
「そう、国連直属の非公開組織なの。」
ミサトはそう言いつつも苦笑したが、シンジは気付かないまま話しを続ける。
「父のいるところですね。」
「まっねー。お父さんの仕事、知ってる?」
「人類を守る、大事な仕事だと先生から聞いています。」
シンジは、そう言ったと同時に少し嬉しそうな顔をした。シンジにとって、父は誇りでもあるからだ。
「そうよ。大事な仕事よ。」
「でも、なんで僕が呼ばれたんですか。まさか、アニメじゃあるまいし。いきなり巨大ロボットに乗って戦え、なんてことは絶対にないですよね。」
アハハと笑うシンジに、ミサトは当たり前じゃないと言いつつも、しっかりと顔を引きつらせた。



発令所では、国連軍幹部がこれからどうするのか、議論をかわしていた。傍から見ていると不毛な議論であったので、ゲンドウや冬月は無視していた。ちなみにサキエルはまだ動いていない。
冬月は、不毛な議論を黙って聞き続けるのに嫌気がさしたのか、少し毛色の変わった国連軍幹部に話しかけた。
「そうだ、ナタル君。確か君以外にも国連軍の幹部がもう一人来ると聞いていたのだが、誰だか知っているかね。」
「はっ、知っております。」
「ほう、どのような人物かね。」
「人並み外れて優秀な軍人です。私など、彼の足元にも及びません。」
「ほう、アイスハートのナタルをして、そう言わしめるほどの人物か。そうだ、伊吹君。その情報が分かるかね。」
「は、はい。今調べます。」
マヤは、ナタルからその人物の名前を聞き、MAGIの端末を操作して、すぐに該当する人物の履歴を呼び出した。
「はい、見つかりました。」
「ふむ、どのような人物なのかね。」
「えっ……。」
だが、マヤは驚愕の表情を浮かべて何も言わない。さすがに冬月も不快な表情になった。
「どうしたのかね、伊吹君。早く言いたまえ。」
マヤは、冬月の叱責を受けて我に返って報告したが、その内容は驚くべきものだった。

その男は現在中将で、世界各地の戦場において多大な戦果をあげ、作戦成功率は国連軍でもトップクラスなのだが、特に女性に関する素行が悪く、女性の敵などと呼ばれて、他の部隊の多くの指揮官からは憎まれ、蔑まれているているというのだ。これほど有能にして外道と言われる男は他に例が無く、並ぶ者は唯一人、碇ゲンドウだけであるとも。
マヤが言い終わると、辺りはシーンとなった。マヤは、あまりの外道振りに皆が呆れたと思い、こう言った。
「ねえ、青葉さん。この男酷いですよね。まさに鬼畜、最低な男ですよね。」
だが、シゲルは恐る恐るこう言った。
「マヤちゃん。うちの司令の名前、忘れてるでしょ。」
「あっ!」
その瞬間、マヤは凍りついた。そして、背筋に冷たいものが走る。
「す、すみません!本当にすみませんっ!」
マヤは、真っ青になってゲンドウに向かって、米つきバッタのように何度も何度も頭を下げた。そう、今にも泣きそうになって。マヤはシゲルに言われて初めて、自分がとんだ失敗をやらかしたことに気付いたのだ。

失敗その1 ゲンドウの名前を出したこと。

『有能にして外道』と言われているのは確かなのだろうが、衆人環視の中であえて言わなくても良かったはずなのだ。ちょっと気が利く者ならば、『並ぶ者は唯一人、碇ゲンドウだけである。』の代わりに『並ぶ者は誰一人としていない。』と言っていたはずなのだ。

失敗その2 ゲンドウの名前を出した後、続けて「彼」のことをけなしたこと。

「彼」をけなしたこと自体は悪くない。問題なのは、ゲンドウの名前を出した後でけなしたことだ。もしゲンドウのことを悪く思っていないのなら、『あまり悪い人ではないかもしれない。』などという言葉が続くはず。
そうならなかったということは、すなわちマヤがゲンドウのことを『まさに鬼畜、最低な男』だと思っているということに他ならない。

上官、それも最高司令官を罵倒したにも等しいマヤの所業は、普通の組織ならば許されない。減俸、降格或いは左遷とになっても不思議ではない行為なのである。それがやっと分かったからこそ、マヤは半ベソをかきながら謝っているのだ。
気が利かせず、上司の悪口を言い、都合が悪くなると泣く。マヤは組織人として最低のことを続けて行っているのだが、それに全然気付いていない。
だが、マヤにとって幸運なことに、ゲンドウは悪口を言われることに慣れていたためか、使徒のことが気になっていたためか、さほど怒らなかったようだ。
「構わん、職務を続けるんだ。」
ゲンドウが静かに言うと、マヤの顔はパッと明るくなった。
「あ、ありがとうございます!」
大声で礼を言って、マヤは急いで席に戻った。そんな時、ミサトがケージに入ったとの連絡が入り、ゲンドウは冬月に発令所を任せてリフトに乗り込んだ。
「3年振りの対面か……。」
冬月は感慨深げに呟いた。



「これが、シンジ君のお父さんの仕事よ。」
ミサトの声が聞こえたため、ゲンドウは下方を見た。すると、初号機を向いてミサトと少年が立っているのが見えた。ゲンドウの立つ位置からは、初号機の角が邪魔になって少年の姿は見えないが、ゲンドウの横にあるモニターで、少年を正面斜め上からの角度で見ることができる。
3年振りに見る息子を見て、ユイに似てきたなとか、随分成長したなとか、写真はあてにならないな、などとゲンドウは感じたが、ゆっくりと首を振った。今は感傷に浸っている時ではないからだ。
「シンジ、久しぶりだな……。」
ゲンドウが声をかけると、少年の肩がピクリと震えた。ゲンドウは、長年ほったらかしにした息子にかける気のきいた言葉など思いつかず、親子の会話を続けることを断念して、用件のみを言うことにした。
「……出撃。」
それを聞いたミサトは、目を見開いて驚く。
「零号機は、凍結中と聞いておりますがっ!」
まるで叫ぶように聞くミサトに、ゲンドウは感情を押し殺した声で応える。
「初号機を起動させる。」
「でも、パイロットがいません。」
なおも食ってかかるミサトに、ゲンドウはなおも続ける。
「今、届いた。お前が乗るんだ、シンジ……。」
だが、少年はゲンドウの顔を見ようとはしなかった。
「別に構わないけど、俺がこれに乗れるのか?乗り方なんて知らないんだぞ。」
「構わん。説明を聞け、シンジ……。」
「動かなくても知らないぞ。いいんだな。」
少年はブツブツ言いながらも、エヴァに乗る準備をした。



エヴァの起動は、リツコの指揮のもと、何らのトラブルもなく進んでいく。
「……シンクロ率、33.04%ですっ!」
マヤが、驚きのあまり叫ぶ。何の問題も無くシンクロし、なおかつ高いシンクロ率を叩き出したのだから、マヤが驚くのも無理は無い。だが、驚いたのはマヤだけではなかった。
「驚いたわ。綾波レイでさえ、エヴァとシンクロするのに7カ月もかかったって聞いていたのに。あの子、国連で特殊な訓練でも受けていたのかしら。」
ミサトの呟きに、リツコは首を傾げた。
「ミサト、何を言ってるの。シンジ君は普通の中学生なのよ。国連で訓練を受けているわけがないでしょ。」
「えっ。あーっ!シンジ君のこと、忘れてたーっ!迷子になってたらどうしよう!」
いきなりうろたえるミサトに、リツコはますます首を傾げた。?マークが頭の上に見えそうだ。
「シンジ君なら、エヴァに乗ってるでしょ。おかしなことを言うわね、ミサトは。」
「えっ、何を言ってるのよ、リツコ。あの子はシン君よ。あんな大きな子が14歳のわけないでしょ。シン君は17歳なのよ。国連から派遣されたって言ってたから、てっきりパイロットなのかって思ってたけど、違ったの?」
「そ、そんな…。」
リツコの顔は、真っ青になった。初号機にシンジ以外の普通の人間がシンクロすることは、理論上あり得ないからだ。
「葛城一尉。シンジを急いで探し、ここに連れて来い。」
ゲンドウは、内心の動揺を微塵も見せずに命令した。



その頃、シンジとアサギは迷っていた。
美人二人に会ってドギマギしたせいか、急にお腹が痛くなったシンジがトイレに駆け込み、20分ほどフン戦している間に、シンとミサトがいなくなっていたのだ。
一人シンジを待っていたアサギと共にシン達の後を追いかけたのだが、どうやら途中で迷ってしまったようで、あてもなくネルフ内の通路を二人でさまよっていたのだった。

「すみません、アサギさん。僕のせいで。」
「いいんですよ、気にしないで下さい。」
にっこり笑うアサギに、かえってシンジは恐縮した。するとそこに、汗まみれの美人がやって来た。
「あーっ、見つけたーっ!シンジくんっ!」
シンジを見つけたミサトは、満面の笑みを浮かべる。一方シンジも、ようやく助けが来たと安堵した。
「よかった。随分迷ったんですよ。これで父さんの所に連れて行ってもらえますね。」
「てへっ。それがね、その前にちょっちやってもらうことが出来ちゃったの。」
ミサトのちょっちとは、一般人の感覚とは著しく異なるらしい。巨大ロボットに乗って戦うことの、どこがちょっちなのだろうか。

それはともかくとして、ようやく本来のパイロットである碇シンジがエヴァ初号機に乗ることになったのである。



To be continued...


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