新世紀エヴァンゲリオン Enemies of Female

第三話 シンジ、初陣

presented by Red Destiny様


シンジはミサトに連れられてケージへ行き、エヴァと対面した。

「こ、これは……。」
紫色の巨大な顔を見たシンジは、絶句する。すると、タイミング良く上の方からゲンドウの声が聞こえてきた。
「それは、エヴァンゲリオン初号機だ。」
シンジは、はっとして上の方を見た。逆光で良く見えないが、ゲンドウらしき小さな影がシンジの目に映る。
「シンジ、久しぶりだな……。」
シンジは、大きく目を見開いてゲンドウを見つめ、問いかける。
「父さん、これはなに?何で僕を呼んだの?」
「お前が乗るんだ、シンジ……。」
シンジの問いに、ゲンドウは感情を押し殺した事務的な口調で答える。
「う、嘘でしょ。父さん……。こんなの、僕に乗れなんて……。」
シンジは、どういう訳かワナワナと身体を震わせる。
「説明を聞け、シンジ……。お前なら……乗れるはずだ。」
お前しか乗れないと言いかけたが、ゲンドウは飛鳥シンのことを思い出して別の言葉に変えた。シンジの側にいるミサトとリツコは、何も言わない。二人は軍人であるらしいシンがエヴァを起動出来ることを知ったため、無理して一般人のシンジに乗せなくてもいいと思っているのだ。
「僕に、これが乗れるの?それ、本当なの?」
シンジはいつの間にか俯いているが、ゲンドウは、構わず力強い声で言う。
「ああ、そうだ。お前なら乗れる。」
それを聞いた瞬間、晴れやかな顔をしてシンジは飛び上がる。
「やったーっ!本当に乗っていいんだねっ!分かったよ、僕、これに乗るよ。任せておいてよ、父さん!」
シンジの顔は紅潮していたが、嫌がっている素振りは無い。むしろ、喜んでいるようさえ見える。それは、シンによってヒーロー願望を持つ様に教育されてきた結果なのだが、ネルフにはその情報は隠蔽されてきていた。そのため、ゲンドウはシンジになんとなく違和感を感じた。



エヴァの起動はリツコの指揮のもと、またもや特にトラブルもなく行われた。

「……シンクロ率、41.3%ですっ!」
シンの時よりも更に高い数値に、マヤの声はうわずる。

「かまいませんか?」
ミサトがゲンドウを振り返って念を押す。ミサトも内心では迷っていた。一応軍人らしいシンが戦った方が良いと思うのだが、リツコはシンクロ率が高い方が戦闘に有利だと言う。さりとて、戦闘経験のなさそうな14歳の、しかも初対面の子供を戦場に送るのは気が引けるのだ。ミサトにとって唯一の救いは、親であるゲンドウの反対が無いこと。
「勿論だ。使徒を倒さぬ限り、我々に未来はない。」
だが、ミサトの心の中の葛藤などどこ吹く風のゲンドウは、表情を変えずに答える。
「碇、本当にこれでいいんだな。」
冬月が尋ねるが、ゲンドウは答えない。ただ、口許がかすかに歪んでいた。シンジ以外に初号機にシンクロ可能な者がいたという、シナリオの狂いが原因だろうか。

一方、シンジを心配そうに見つめる目があった。シンとアサギである。
「シンジ、頑張れよ。」
シンは、ミサトの後ろからシンジを見守っている。シンは、ほぼ間違いなくシンジが勝つと分かっていたのだが、それでも可愛い弟分のことは心配なのだ。
「シンジ君、無事に帰って来て下さいね。」
シンの横では、アサギが祈るように手を組んでいる。アサギは何も知らないから、顔からは血の気が引いて青くなっている。

「発進!」
そして初号機は、ミサトの号令と共に戦場へと射出されていった。



シンジの乗る初号機は、第3新東京市の郊外に射出された。サキエルは、まだ第3新東京市から幾分離れたところにいるが、ゆっくりとだが着実に近付いて来る。
「いいわね、シンジ君。」
「はいっ!頑張りますっ!」
ミサトの声に、シンジは元気よく返事する。
「最終安全装置解除、エヴァンゲリオン初号機、リフトオフ。」
ミサトの号令と共に初号機の拘束具が外れ、初号機はゆっくりと歩きだすが、バランスを崩して足元がふらついてしまう。
「シンジ君、今は歩くことだけを考えて。」
「はい、分かりました。歩くんですね。」
リツコの指示に、シンジは素直に答える。シンジは深呼吸をして気分を落ち着かせてから、精神を集中させる。すると、徐々にだが初号機の動きがなめらかになっていく。
「ミサトさん、このロボットって凄いですね。本当に僕でも簡単に動かせるんですね。驚きましたよ。きっと、物凄く優秀な科学者が造ったんでしょうね。」
それを聞いて、ミサトはニヤニヤしながらリツコを見る。リツコは、思わず顔を紅くしていた。マヤは、当然ながらしきりに大きく首を縦に振る。
「そうよ。でもね、今は操縦に集中して。もうすぐ使徒がやってくるわ。」
ミサトは、素早く真顔に戻る。そこに、恐る恐るシンジが聞いてきた。
「あの、使徒って何ですか。」
「人類の敵よ。放置しておけば人類が全滅しかねない、そんな恐ろしい敵なのよ。」
「ええっ、それって本当なんですか。」
「ええ、本当よ。これは、現実の出来事なのよ。ゲームと違って、やり直しはきかないの。だから、全力で戦ってちょうだい。」
「分かりました。」
シンジはミサトの指示に従って、プログナイフを右手に持ち替えた。
「さあ来い、使徒って奴。僕がやっつけてやる。」
シンジは、遠くからゆっくりと歩いてくるサキエルを睨み付けた。



同時刻、第3新東京市から少々離れた小高い丘の上に、1台の車が止まっていた。その中に、初号機の姿を見つめる目が4つ。二人の女性がいた。

一人は20代前半の、短い茶髪で落ち着いた感じの美しい女性。名前はタリア、戦略自衛隊情報部所属の大佐である。決断力、胆力共に優れており、その行動の速さから、『ライトニング・タリア』と呼ばれている。
もう一人は十代半ばの、ナスのヘタみたいな髪型をした天然ボケな感じの金髪美少女。名前はステラ、タリアと同じく戦自の少尉である。

「タリア大佐、エヴァンゲリオンが発進しました。どういたしましょうか。」
初号機の発進を確認したステラは、タリアの指示を仰ぐ。
「そうね、ステラ。出来得る限りの情報を収集しておいて。」
「了解しました。」
ステラは、返事をするなり後部座席に積んである各種機器を、慣れた手つきで素早く操作し始めた。
「使徒は、現在エヴァンゲリオンから3キロメートルの距離を歩行中です。」
「そう……。ステラ、そのまま続けて。」
タリアは、初号機を鋭い眼でじっと見つめた。使徒は、なおも初号機に近付いていく。
「さあて、エヴァンゲリオンとやらがどれほど戦えるのか見てあげるわ。果たして、我々の秘密兵器よりも上か、下か。使徒に、果たして勝てるのかしら。」
タリアはそう言うと、にっこりと笑った。



だが、初号機やサキエルを観察しているのは、戦自だけでは無い。各国のスパイやエージェントらが、大勢観察しているのだ。タリア達のいる所から少し離れた場所でも、ウルクという組織のエージェントが二人、エヴァンゲリオンとサキエルを観察している。

一人は、癖のある長い茶髪で、丸顔だが整った容姿をした穏やかな感じの少女だった。
「あれが、ネルフのエヴァンゲリオンね。あまり強そうに見えないけど、本当に使徒に勝てるのかしらね。」
少女が呟くと、パーマをかけたような短髪で丸顔の、大人しい感じの少年が答えた。
「そうだね、姉さん。我々の準備が整うまでは、ネルフに頑張ってもらわないとね。でも、エヴァンゲリオンも使徒のコピーだって言うじゃないか。十分勝てると思うけどね。」
少年の答えに安心したのか、少女はふっとため息をついた。
「侯爵夫人の言葉に間違いが無ければ、私達のギルガメッシュとエンキドゥは、エヴァンゲリオンの2割増しの強さ。一方、ネルフのエヴァンゲリオンは、本部に現在2体。今のうちならネルフを倒せるわ。なのに、何で指をくわえているのかしらね。」
少女のボヤキに、少年は肩をすくめた。
「姉さん、タロンのことを忘れてるよ。あいつら、どんな兵器を隠し持っているのか分からないじゃないか。僕達からすると、ネルフよりもまずタロンを何とかしなくちゃ。」
タロンというのは、どうやら彼らと敵対する組織のようだ。
「そうね、確かに。それに、ネルフだってどんな兵器を隠し持っているのか分からないしね。まっ、そっちの調査の方はフウコ達に頑張ってもらわないとね。」
二人はそう言い合いながらも、エヴァンゲリオンの動きを目を凝らして見つめていた。



To be continued...


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