新世紀エヴァンゲリオン Enemies of Female

第四話 初勝利

presented by Red Destiny様


第3使徒サキエルは、第3新東京市に向かってゆっくりと歩いてくる。対するシンジも、サキエルに向かってゆっくりと歩きだす。

「シンジ君、ケーブルの長さには限りがあるから気をつけてね。」
「はい、分かりました。」
ミサトのアドバイスに、シンジは素直に返事する。そして、ケーブルの長さとサキエルとの間合いを再確認し、ミサトに頼んで攻撃に最適な位置を割り出してもらう。
「よし、思い通りに動くようになった。うん、これならいけそうだ。」
独り言を呟くシンジに、発令所の人間は期待に胸が高まっていく。そして、さきほど計算した場所にサキエルが到達すると、初号機は急に走り出した。
「いっけえーっ!」
シンジは、掛け声と共にプログナイフをサキエルに向かって山なりに投げたかと思うと、少しスピードを落としてサキエルの右側へと回り込んだ。サキエルがそれにつられて初号機の方を向くと、次の瞬間プログナイフがサキエルの胸に突き刺さった。
「今だーっ!」
シンジはもう1本のプログナイフを握りしめ、コアめがけて突進した。だがサキエルが反撃しようかと身構えたその時、サキエルの胸にある顔が強力なライトで照らされた。このため、一瞬サキエルの動きが止まったが、その一瞬で勝負は決した。初号機のプログナイフが、サキエルのコアを貫いたのだ。
「パターン青、消滅しましたっ!」
シゲルの声の後、発令所は歓声に包まれた。ミサトはリツコと手を取り合って飛び跳ねる。それをマヤが横目で恨めしそうに見る。一方、ゲンドウと冬月の二人は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。初号機が暴走しなかったこともあるが、何者かの介入があったからである。目的が分からない正体不明の者ほど、扱い難いものはない。今回はたまたま助けてもらったが、次回は助力と引き換えに何かとんでもないことを要求されるかもしれないし、いつ敵対するのか分からないからだ。そのため、冬月は謎のライトについて、至急調べるように手配した。

その後、ケージへと戻り初号機を降りたシンジを、ミサト達が笑顔で出迎えた。
「シンジ君、初陣なのに凄いわね。あなたのおかげで人類は救われたわ。」
「えっ、そんな……。ちょっと大げさですよ。」
ミサトに褒められて、シンジは恥ずかしそうに頭を掻いた。そこにシン達もやって来た。
「おいシンジ、やったな。凄いな、大手柄じゃないか。俺も鼻が高いよ。」
「それもこれも、シンさんのおかげですよ。」
シンジは顔を紅くする。
「ううん、やっぱりシンジ君は凄いのね。初陣であれだけ戦える人って、大人だっていないのよ。そのうえ、相手が人間じゃなくってあんな怪獣みたいな奴だなんて。シンジ君は英雄よ。」
「そ、そんな。照れちゃいますよ。」
更に顔を紅くするシンジに、周りの者は皆どっと笑った。



同じ頃、戦自の二人組は撤収作業に移っていたが、唐突にステラが口を開いた。
「あのー、大佐。ちょっと聞いていいですか。」
「ええ、いいわよ。何かしら。」
タリアは、笑顔で答える。
「さっきの強力なライトはなんだったんでしょうか。ネルフがやったんでしょうか。」
ステラの問いに、タリアは首を横に振った。
「その可能性は低いわね。おそらくは、ネルフとは違う組織ね。」
「では、我が戦自の特殊部隊でしょうか。」
今度もタリアは首を横に振った。
「いえ、違うでしょうね。おそらくは、『あの方』の傭兵部隊の仕業でしょうね。」
タリアの言葉を疑問に思ったステラは、更に聞いてきた。
「それは、どういうことでしょうか。『あの方』は、戦自寄りのはず。ネルフとはむしろ敵対関係にあるのでは。今回の我々の任務も、私はてっきり『あの方』からの指示によるものだと思っていました。狙いは、あのエヴァンゲリオンとかいうロボットを破壊するための情報収集かと。それなのに、なんであのロボットを助けるような真似をするのでしょうか。使徒ならば、我々の秘密兵器で十分倒せると思いますが。」
「ふふふっ、色々と事情があるのよ。『あの方』のやることなすこと、私達には理解しがたいわ。でもね、きっと何か理由があるのよ。」
タリアは、意味ありげな笑みを浮かべる。ステラは、タリアの口調からこれ以上聞いても無駄と判断した。
「そうですか。大佐に分からないのなら、私にも分からないでしょうね。でも、いずれは教えていただけるのでしょうか。」
「ええ、多分近いうちにね。そうそう、ステラ。あなたは明日から本来業務に戻ってもらうわ。」
「えっ、本当ですかっ!」
タリアの言葉に、ステラの目が輝いた。本来業務とやらに戻ることが、よほど嬉しいのだろう。
「ええ、そうよ。あなたには今まで苦労のかけ通しだったけど、それも今日で終わりよ。明日からは、『あの方』のお側で働けるわ。」
「そうですか、とても嬉しいです。『あの方』に会うのは久しぶりですね。今まで凄く寂しかったんですが、我慢して耐えてきた甲斐がありました。」
ステラは、思わず満面の笑みを浮かべた。『あの方』に会うのが、心底嬉しい様だ。
「でもね、聞くところによると他のお仲間も集合するみたいよ。」
「えっ……。それは嬉しいような、悲しいような、複雑な気持ちですね。」
ステラは、今度は眉を潜めた。仲間とは仲良くやっているので、別の理由があってのことだ。
「それとね、あなたはネルフに出向という形で派遣されることになるかもしれないわよ。まだ決定ではないらしいし、形式上なのか実際になのかも分からないけど。他のお仲間の中にも、ネルフに出向になる人がいるらしいわ。」
「さて、どのような任務なんでしょうか。」
ステラは首を傾げる。自分がネルフに出向となると、スパイ任務や破壊工作以外には考えられないからだ。
「表向きは、さっきのエヴァンゲリオンのパイロットの護衛よ。実際は、本来業務が優先されると思うけど。」
「パイロットの保護?暗殺の間違いではないんですか。暗殺なら任せてください。ネルフのパイロットなんて、私がさくっと殺してみせます。ついでに作戦部長や技術部長も片づけてみせますよ。」
ステラは、そう言って胸を張る。ステラは、現在戦自で最も優秀な暗殺者である。そのため、最近は戦自の潜在的な敵とも言えるネルフの幹部やチルドレンの暗殺の訓練をしていたのである。そのステラがパイロットの護衛など、どう転んでもあり得ないことだ。ステラのターゲットは、ゲンドウ、冬月、リツコ、ミサト、レイの5人。彼らについての情報は、細大漏らさず調べあげており、命令があればいつでも暗殺が実行可能な状況にある。そのためか、自信満々に言うステラを見て、タリアは苦笑いした。タリアは、『あの方』の計画の概要を既に聞いていたからだ。
「それがねえ、ネルフの中にも殺していい人と殺しちゃまずい人がいるらしいの。いずれ分かると思うから、それまでは大人しくしていなさい。それとね、近い内にルナマリアもネルフに派遣されるみたいだから、陰ながら助けてあげてちょうだい。」
「えっ、ルナマリアがネルフに、ですか。ええ、分かりました。でも可哀相に。ネルフになんて出向させられたら、『あの方』に会う機会なんか無くなるでしょうに。」
ルナマリアはタリアやステラと同じ学園の後輩であったが、タリアやステラと同じように『あの方』のために働きたいと言ってタリア達を頼って戦自の情報部に入ったのが昨年のこと。だが、未だに『あの方』に会うことすら叶わずにいた。
「ええ、可哀相よねえ。」
だが、何故かタリアはニッコリと笑っていた。



一方、ウルクという組織のエージェントは、怪しい行動をしていた。戦闘現場跡で、何かを探していたのだ。そして、1時間ほど現場をさまよった後、どうやら目的を達したらしく、素早くその場を去って行った。



一方ネルフでは、シンジはようやく皆から解放されて、シャワーを浴びていた。シンジが着替えてロッカーから出ると、そこにはシンとアサギが待っていた。まさか二人がまだいるとは思っていなかったシンジは、少し驚いた。
「あっ、シンさん。どうしてここに。」
「なあに、シンジと一緒に帰ろうと思ったからさ。」
シンはにっこり笑う。だが、シンジは戸惑いを隠せない。
「でも、僕はこれからどこで暮らすのか、聞いていないんですけど。」
だが、シンは大丈夫だよと言って笑う。
「いいの、いいの。俺がシンジのお父さんと話をつけておいたから。シンジは、俺と一緒に暮らすことになったからな。まあ、自分の家だと思って気楽にしろよ。」
ゲンドウが了承したと聞いて、シンジは安堵した。
「えっ、本当にいいんですか。確かに、僕もその方が気楽ですけど。」
「そうと決まったら、さっさと行こうぜ。今日はシンジの歓迎会だ。」
こうして、シンジはシンと一緒に暮らすことになったが、これがシンジにとって大いなる波乱の幕開けとなる。



To be continued...


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