「犀は投げられた。」



ベルベットの商人シンジ

-Bellaque matribus detestata.-

第二話

presented by レノ様




少すがるような目つきで誰もがメインスクリーンを見る。現在使徒はジオフロント内部への道を探していて初号機には興味を示していない。
と、いうのも初号機は射出されてからこのかたピクリとも動かなかったためだ。
そして今、正真正銘碇シンジと初号機がシンクロをスタートさせた。


「マヤ、エントリースタートして。」

「はい、初号機、再エントリー開始します。再起動シーケンス立ち上がりました。



・・・・・初号機、起動。シンクロ率37.4%です。起動成功しました!!」


発令所が歓声に包まれた。ガッツポーズをするものまでいる。先ほどのシンクロ率2%に比べれば遥かに自分達が生き残る確率が上がったのだから当然だろう。

発令所の喜びを他所に、碇シンジは冷静だった。
彼の身体に染み付いた戦場の記憶は彼に日常と引き換えに生き残るためのエッセンスを与えた。

そんな彼だからこそ、初号機が起動した直後、使徒の意識がこちらへ向いたことに気づいた。

「(動かし方は・・・・・・・確か動きをイメージすればいいとか言ってたな。まずは歩いてみるか。)」







「初号機、歩きました!!」

再び発令所では歓声が上がる。シンジは苦虫を潰したような顔になった。

(動くかどうかも分からない代物に命を賭けようとしていたわけか。大馬鹿者の集まりだな、ここは。)

二度目の歓喜に沸いた発令所は戦闘態勢へと移る。すなわち、誰もが勝利のために自分の仕事をまっとうしよう動き始めた。
各所からの報告は次々と上がる。当然、使徒が入り口を探すために行っていた破壊工作を止めているといったことも上に集まる情報の中には含まれていた。
しかし葛城ミサトはこともなげに言った。


「今よシンジ君。使徒が余所見をしているうちに攻撃!!」

使徒が余所見をしているとは微塵も感じていないシンジは早々に指揮官に見切りをつける。
そもそも、彼自身が細かい指示を与えられて動くタイプの人材ではない。
それでもこの状況下で発令所の望む仕事を果たそうと考えた。

「武装は?」

「ごめんなさい。ほとんどが出来ていないわ。今あるのは肩のプログレッシブナイフぐらいよ。」

「どうやって出せばいい?」

「あなたが肩のナイフを意識すればいいわ。」

直後、初号機の肩のウェポンラックが開き初号機がプログレッシブナイフを装備した。

「弱点はわかるか?」

「あの赤いコアよ!!いきなさい!!攻撃よ!!」

「了か・・・・・・・・・、なぜあの赤いのが急所だと分かる?」

「勘よ!!」
「話にならないな。」

シンジは彼女の要求にこたえるのを放棄した。なにより彼自身、あのわけの分からない生命体と殴り合いをしようという人類初の快挙に挑もうとしている身だ。
その思考はさくっと切り替えられた。


「こちらの判断でやらせてもらう。いいか?司令。」

五月蝿い女に関わっていられないと判断したシンジは話を自分の父親に持っていった。

実に10年ぶりの父との会話はこうして始まった。

「構わん。」

そして終わった。


「了解」
「し、司令!!」


何やら抗議したそうな作戦部長がいたが、碇ゲンドウは彼女の判断や作戦指揮などはまるで当てにしてはいなかった。

「(所詮はお飾りの客寄せパンダ・・・・か。)」

隣に立つ冬月は、シンジが碇ユイを覚醒さえさせればよい、と碇ゲンドウが考えているのを承知していた。


ところで、碇シンジ少年は一人で来たわけではなかった。仮にもベルベットの要人であったわけだからベルベットが彼に護衛をつけないわけは無かった。そこはもちろん碇シンジである。彼らは御殿場あたりで既にまかれていた。

「隊長!!ヤバいっすよ安全なところまで下がりましょう!!なんか戦闘機が飛びまくってると思ったら突然地震が起こるし。」

「くそっ!!連中め!!コリン、それは地震じゃなくN2地雷だ。」

「それはともかく卿はどこへいったんでしょうか。無事に届けることが今回の任務ですから、彼に死なれては困りますね。まずありえませんがね・・・・・・・・・。」

「いっそ死んでくれていたほうが俺の心の平穏は保たれるのだが。サド、あいつを見失ってから何時間がたった。」

「きっかり二時間です。」

「どこかにヤツの死体が転がってれば俺は神のケツにキスをしてもいい。」

「二人とも大げさですね。まだ若いし、仮にも彼は救国の英雄なんですよ。」


「「(・・・・・・・・・・・・若い(涙))」」



「いいか、コリン。確かにヤツはベルベットを救った。ただしそれもあいつの楽しみの一つに過ぎん!!正直、俺はヤツはもっと犠牲の少ない勝ち方を考えていたかもしれんとおもっている!!」

「な・・・・そんなわけ・・・・。」


「ヤツに限っては常に最悪の事態を想定して常に対処できるようにしておけ!!それでもヤツは俺たちの考えうる最悪の少し斜め上を行く!!」






さてさて、そんな会話が交わされているとはつゆ知らず。当の碇シンジは機嫌が悪かった。

「(やれやれ、自分の生まれた国なんか来るもんじゃないなホント。そもそも親権を剥奪しに来たんだけどな。
だが・・・・・・・・・しばらくはこの玩具で楽しめそうだな。)」


「使徒、初号機に再接近!」

「シンジ君!!」

叫ぶしか能が無いのか!?と誰もが心の中で突っ込む中、事態は発令所の予想外の方向に進んだ。
発令所のオペレーター青葉シゲルは彼が座っている席では未だ見たことが無かった、そして待ち望んでいたことがモニターに表示されているのにいち早く気づいた。

「初号機、ATフィールドを発生させました。使徒を接近させません。」

「嘘!?彼はATフィールドを自在に操れるというの?」

メインスクリーンの向こうには”こっちに来んな”とばかりに右手を使徒に向けて半身で立っている初号機が写っていた。

「赤い壁?あのデカブツの来るのを阻んでるな。結構高性能じゃないか。このガラクタ・・・・・・ちがうな。(これは目の前のデカ物とおなじモノだな。ということはこの壁も長くは持たないか。)」

碇シンジは右手を下げ左手に持ったナイフを握りなおした。

「面倒だな。」

不意に壁がなくなったために使徒は体勢を崩し、前のめりになった。

シンジはシンプルに右手に持ったナイフを使徒のコアめがけて突き刺した。

イメージでは。しかしシンクロ率が50%を割っている状況下では使徒にとっても大して危険なものではなく、逆に腕をはたかれてナイフを落としてしまった。

「完全なシンクロはしないってことか。脳みそと脳みそをつなげてるわけじゃないのか。(媒介がいるな・・・・。)」

蹴り飛ばすイメージを浮かべるものの、実行される前に使徒が初号機の腕を握り潰そうとする。

「ぐ・・・・・・あぁっ!!・・・・・・がぁああああああああ!!」


「シンジ君。それはあなたの腕じゃないわ!」

(苦痛は苦痛なんだよこのクソババァ!!・・・・・・・・・・なんだ?何をするつもりだ!?)

使徒は初号機の頭を鷲掴みにし、肘から奇妙に伸びた鳥類の骨格を思わせる外郭を収縮させ、初号機の顔面を撃った。
一度、二度、三度。そのパイルが打ち込まれるたびに初号機の頭部装甲にヒビが入る。それとともにコクピットの中に映し出されている映像にもヒビが入る。どうやらカメラを割られたようだ。

「があああああああっ!!!」

初号機は潰されていない左手で使徒の右手をつかみ、全力で握りつぶしにかかった。


「あああああああああああああああああああああっ!!」

ついに使徒の手は初号機の頭部から離れた。シンジは間髪いれずに使徒を蹴り飛ばした。


「おい、シンクロ率は上げられないのか?・・・・おい!?」

「ごめんなさい、今すぐには上がらないわ。」

赤木リツコは使徒との初めての戦闘で若干参っていた。
そのため反応が遅れた。

初号機と使徒は再びにらみ合う。初号機はプログレッシブナイフを落とし、右腕をへし折られている。対して使徒は同じように右手を初号機によって折られているが未だ左手は健在であり、パイルは当然左腕にもある。その上使徒には再生能力までついている。

「再生能力はあるか?右腕を治すことは?」

「無理よ。」

「何が出来る!?」

「・・・・・・・・肉弾戦だけよ。」

「・・・・・そうか。」

シンジとリツコのやりとりは改めて発令所に現実を突きつけた。
人間は得てして見たくない現実は見ない。

「人を呼び出しておいてその体たらくか。」

たった14歳の少年を呼び出し、無理やりエヴァに乗せ、戦場へとおくる。それもまた発令所の面々にとっては見たくない現実であった。

「(どうする。肉弾戦で殺せるか?右手はない。左手だけだ。まずは相手を止めることだ。・・・・・・それも無理か。動きが遅いことがすべてを不可能にしている。・・・・・む!?)」

対峙していた使徒の左目が不意に光を放つ。碇シンジは思考をめぐらせながらも集中は切っていなかった。
一対一の戦闘。それも肉弾戦において、身体を自分が思ったように動かせること、相手への集中を切らないことは最重要事項である。いや、もはや重要事項というのも馬鹿らしいほど明白なことである。

碇シンジは集中力は切れていなかった。だが、彼の今着ている身体は彼の思ったようには動かせなかった。
低シンクロ率によるエヴァの反応の鈍さが生み出した空白は接近戦では致命的だった。

「ぐっ・・・・・。」

使徒の放った光線は初号機の頭部を狙ったものだった。シンジの反応に助けられ真正面からの直撃は避けられたが初号機は左肩をえぐられ、激しく血が噴出す。

「(歩くことが出来るだけか。それだけで倒せ、か。やれやれだな。)おい、初号機を出した穴、他にどこにいくつある?落とし穴に使うぞ。」


「ちょっと待ってて、日向君、射出口のマップを出して。」
葛城ミサトは久しぶりに口を出せた。口を開いてはいたが今までのそれは格闘技を観戦するおっさんのそれと全く同レベルのものだった。
だが久しぶりの指示にも関わらず、彼女の部下は優秀だった。即座に命令に反応し、初号機のモニターにはマップが表示された。


「よし、一番近いのは後方200メートル。近いな。あのふざけた顔したヤツをおびき出す。タイミングよく適当な高さで落とせるか?」

「やってみせるわ!!シンジ君。新しいナイフを出すわ。受け取って。」

射出されたナイフは800メートル先のビルから出てきた。その上初号機は両腕を動かせないでいる。
(これが作戦部長?面白い冗談だな。頭痛がするぐらいに。)

シンジは右足を半歩左足の前に出し、半身に構えたその姿勢のまま300メートルほど後ろに数回ステップして辿りついた。

(さて、ふざけ顔がさっきの光を撃ってきたらアウトだな・・・・・っていきなり!?)

シンジは今度は先ほどよりも早く反応したが、自身が動くわけにはいかなかったため動かせないなら、と要らない両腕を盾にした。両腕は勿論吹き飛んだ、交差させていたためより外側にあった右手は肘から先がなくなってしまった。だが腕が折れていない左手をギリギリ残すことには成功した。

(ま、気休めに過ぎないけどね。)

「使徒、射出口まで100メートル。」

(もう半分か・・・・。)

使徒は自分の優位を確信しているのか、先ほどの光線以来滞りなくこちらに向かってくる。

「残り30。」

「今!!」

メガネをかけたオペレーター、日向マコトは即座に命令を実行した。
使徒の腰の高さまで位の深さまで射出口は下げられた。だが、

「くっ!まだ早い!!(使徒が穴のこちら側に来たのを蹴り倒して落とさなければ仰向けにはならないだろう。思考の瞬発力ってものがまるでないな。金髪といいあの作戦部長といい、ヤツの好みで人選がされてるみたいだな。)」



そのとき発令所にて。

「ぅんっ!?」

「先輩、どうしたんですか?」

「何かものすごく失礼な噂をされた気がするわ。」

「先輩に対してそんな失礼な噂をする(恐いもの知らずは)いませんよ〜。」

「そうかしら。」







他方シンジはあせっていた。まさか味方の方からプランをぶち壊されるとは思っていなかったからだ。
もともとシンジには自由で独創的な発想をする母親譲りの思考と、育ての親によって叩き込まれた合理的に効率よく活動するための組織を築く才能があった。今までシンジは自分のバックアップをする組織は自分で作り上げてきた、そのため、バックアップとは阿吽の呼吸が出来るものと思い込んでいた間が長く、今自分がいる場所が全く知らない土地であり、知らない連中に背中を預けているというのも失念していた。だがこの状況下ではそれを失念するのも仕方のないことだろう。

「シンジ君、今よ!」

『少し黙ってろウシ。たった今プランが壊された。』

「何言ってるの!!相手は今落とし穴の中で倒れてるのよ!!命令よ。行きなさい!!いまさら恐くなったの!!」

『うつぶせに倒れている。今の俺にヤツを仰向けにしてコアを踏み砕くことは出来ない。
おい、金髪、射出口の床をぶち抜けるか?落ちた衝撃で仰向けになるかも。』

ギリッ。

作戦部長の歯軋りする音が聞こえる。
「もう一度よ。日向君、落とし穴を戻して。そこから西に400メートルの射出口でもう一度よ。」

『無理だ。二度も油断するほど馬鹿じゃないだろう。』

「やってみなくちゃわからないわ!!」


(それで失敗して世界が終わったらどうするつもりだ?)

「日向君!」

「了解。」

『チッ。(出来るとは思わない。今出来る限り蹴倒すのがベストか。)』


『はっ!!』

射出口の床がせりあがり使徒が僅かに見えた。初号機は迷わず使徒をインステップで蹴飛ばした。
使徒は丁度起き上がろうとしたところで初号機の足はそのふざけた頭に直撃し、使徒は派手に倒れた。弱点といわれているコアを晒しながら仰向けに。

「やった!コアを攻撃して!」

相手を蹴り飛ばした時点で初号機は追撃のためにさらに前へと出た、状況は作られるものではない。自らで作るものだ。ためにこの一言が言い終わったのは初号機が既に使徒まで後一歩の距離まで詰めた時だった。
肉弾戦における指揮官は不要だということを示した一例である。
もっとも、そのようなことは健全な人間によって運営されている軍事組織ならば話にならないほど当たり前のことなのだが。
そして使徒まで後一歩に迫った初号機は目の前の使徒に起き上がる暇を与えなかった。


『もらったぁ!!』


初号機は左足で地面を蹴り、全体重を乗せ、踏み込んだ。

一般的に、体重70キロで運動ができる人間が本気で踏み込むと、その踏み込んだ足には約400キロの衝撃がかかる。

エヴァのサイズで行えば、コアを砕くことなどたやすいことだった。

だが、地面を蹴り飛び込んだ初号機は赤い壁に阻まれた。

「「ATフィールド!!」」
作戦部長と技術部長がはもる。生産性が全くない行為だ。
絶対領域が初号機を邪魔する。使徒の意識は倒されながらもこちらを向いていた。

(このバリアは張ったり張られなかったりか。意識がこちらに向いていなければ張られないわけか。)

「シンジ君。西に移動よ。」

「待ちなさいミサト。ケーブルの長さがもたないわ!!」

「何言ってんのよ!そんなもの途中で換えればいいじゃない!」

「初号機は今両手を使えないのよ!!」

(決定的に馬鹿だなコイツ。一つ覚えたら一つ忘れる。・・・・・ケーブルか。)

『このケーブル。伸びるのか?』

「?・・・・・えぇ。若干なら伸びるわ。ただし中にある電源などのコード類はある程度伸ばすと断線するわ。」

『まぁ、当ぜ・・ぐっ。』

使徒は再び初号機を狙って光線を放った。

シンジは横っ飛びでそれをよけた。先ほども避けようと思えば避けられたのだが、落とし穴に落とすのが目的であったり、ビルが邪魔をして動けなかったのだ。
今回は十字路にいたのが幸いした。

そして横っ飛びの後、シンジはそのまま前、つまり使徒のいる向きとは90度違う方向に向かって走り出した。
発令所から喚き声やらなんやら聞こえるが気になどしない。

「初号機電源ケーブル残り100。」
不意に聞こえた声にシンジは反応する。

「シンジ君、止まって。ケーブルを・・・・・。」

赤木リツコが報告をする前に電源ケーブルには限界が来た。
不意にシンジは笑みを漏らすとそれでもさらに前進をする。

「電源ケーブルに負荷がかかりすぎです!!ケーブル、もちません!!」

次の瞬間コクピット内が赤く点滅し、モニターに残り稼働時間5:00が表示された。ケーブル内部の電源コードが折れるか切れるかで断線したようだ。

『後300秒か。』

「逃げてないで戦いなさい!!」

ボクシングのセコンド以下の働きしか出来ない作戦部長の評価は下がりっぱなしだ。主にパイロットの脳内で。



『・・・・・・問題ない。』

どこかの悪の親玉もどきの真似をしてみるが、発令所は水をうったように静かになった。

(あれ?受けてないなー。碇ゲンドウなら確実にそういうと思ったのに。)

この状況下で冗談に気づくような人間が発令所にはいないだけである。いや、おそらく地球上には2、3人程しかいないだろう。

そして冗談を言いながら(本人以外気づいていないが。)も初号機はしっかりと足を踏ん張り、腰を落とし、這うように僅かずつだが前進をし続けている。
電源ケーブルはまだパージされていない。

「電源ケーブル、早くパージして!!」

『待て!!』「ミサト!!今の命令は取り消しよ!!パージは彼の判断で行って!!」

日向マコトは行いかけた命令をすんでのところで止めた。非常に優秀なオペレーターである。
だが優秀な部下とは違う葛城ミサトは怒りをあらわに旧友に食って掛かる。

「リツコ!なんでよ!!越権行為よ。」

「黙ってみていなさい。今に分かるわ。」


一方初号機内のシンジは低いシンクロ率の中でバランスを保つのに苦労していた。

(くそ、まだヤツとの距離が遠い。あの光線を打つ前にさっさとこっちに来い。)

使徒はじっくりとこちらに寄ってくる。そして長いようで短い数瞬が過ぎた。

「俺はそれほど気が長くはないんだ。特に主導権を握ってないときは。
ふざけアタマ。知ってるかな?ゴムは縮むんだぜ。」

そしてシンジは叫んだ。

『ケーブル、パージっ!!』

初号機は電源ソケットをパージする。蓄えられていた弾性エネルギーは一気に解き放たれ、ソケットは使徒の両足を巻き込む形で当たった。

使徒は再び倒れた。

そしてシンジはこれが最後のチャンスだと確信していた。使徒との距離をおかず。フィールドがはれないほど密着、いわゆるマウントポジションを取ると、初号機はためらいもなく、使徒のコアに向かって頭突きをはじめた。
発令所の面々には狂気を孕んだ特攻のように見えたかもしれない。だがシンジにとっては冷徹な計算に基づいたものだった。
右手左手でコアを破壊するだけの衝撃は生み出せない。そして足は再びフィールドに阻まれる可能性もあった。

(ま、多少痛いのも”しょうがない”んだろうけどな。)

ガンッ!ガンッ!ガンッ!!




ピシッ!!


度重なる初号機の頭突きについに使徒のコアに亀裂が入る。

だが初号機のほうも無事ではない。シンボルマークともいえる額の角はとうに折れ、頭部の装甲は割れ、既に中の素体が見えている。
シンジには、フィードバックされてくる痛みからも初号機の破損状況がどれほどひどいものかも容易に理解できた。



『しぶといん・・・・・・・だよぉっ!!』


気合の篭った頭突きにとうとう割れた。


初号機の額が。






『グァッ・・・・・。』


シンジはうめき声をあげ、頭を上げてしまった。

そして初号機は忠実にシンジの思考をトレースしてしまった。初号機の上体は使徒から離れてしまった。

そのとき、使徒の目が光る。

もはや光線を放つ力もなくした使徒は初号機に抱きつく。





「まさか自爆!!」




次の瞬間。初号機は光と爆発に包まれた。









第一次直上決戦はこうして幕を閉じた。






人は夢を見る。

それは二種類ある。現実における情報を整理する夢と、そうでない夢。
空から落ちる夢を見たと思ったら、現実ではベッドから落ちていた、などは前者である。
そしてその夢は、実は予知夢などではなく。落ちてから脳が現実と夢の間に整合性を持たせるために一瞬の間に作り上げた虚構だという。












=???=

【私の、赤ん坊はどこぉーーーーーーっ!?】



















碇シンジが目覚めた時、夢は覚えていなかった。



To be continued...


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