序章
presented by 流浪人様
2005年。
「捨てられちった」
彼――【碇 シンジ】は1人、公園で砂山を作りながら呟いた。空は赤く、既にシンジしか公園には彼1人しかいない。
彼はつい先日、実父である【碇 ゲンドウ】に捨てられたのだ。家に帰れば叔父夫婦とか言う赤の他人が待っており、非常に気が重い。
「どうしよ……」
4歳という年齢で微妙に達観してるっぽいけど、ボーっと砂山を高くして行く。
「…………あれ?」
再び顔を上げると、今までの風景が一変していた。目の前にあったジャングルジムは巨大な門になっており、変な模様が描かれていた。
「うわ〜……大きい門。何だろう?」
いつの間にか砂山も消えており、そこにはシンジと門しかなかった。いや、扉の前にもう一人(?)いた。
『よう』
「………誰? お化け?」
それは、人型ではあるが光に包まれており、ハッキリとした顔形が分からなかった。シンジがお化けと言ったのも無理はない。
『おお! 良くぞ聞いてくれました! 俺はお前達が“世界”と呼ぶ存在』
「世界?」
『そう。あるいは“宇宙”。あるいは“神”。あるいは“真理”。あるいは“全”。あるいは“一”………そして、お前でもあるんだぜ』
そう言うと、彼はピシピシッと姿を象っていく。それは銀色の髪に紅い瞳をした少年だった。だが、何故か学生服を着ており、非常にミスマッチだ。シンジは何処かで見たような顔だな〜と思いつつ、ジ〜ッと少年を見上げる。
『初めまして、碇 シンジ君』
少年は優しく微笑んでシンジの頭を撫でる。シンジは恥ずかしそうに顔を赤くして、少年を見上げる。
「は、初めまして……お兄ちゃん……誰?」
『えっと……神様かな?』
「神様?」
『厳密に言うと僕は君だよ』
「ふぇ?」
『う〜んとね……とりあえず、あの門の向こうに入ってくれない?』
「え?」
少年が言うと、突如、門が開き、黒い手が伸びて来た。
「な、何!?」
『大丈夫。身を委ねてごらん……それで分かるから……“真理”が』
「う、うわあああああああああ!!!!!!!!」
少年に微笑まれ、シンジは門の中へと引き込まれて行った。そして、頭の中に色々な映像が浮かんで来た。
父に呼ばれて訪れた第三新東京市。
未知の怪物と戦わされる自分。
不思議な月のイメージを持つ少女との出会い。
明るい太陽のイメージを持つ少女との出会い。
親友の足を奪い嘆く自分。
ようやく会えた初めての理解者を握り潰した自分。
壊れていく心。
神の下へと帰ろうとした老人達。
愛した者の為だけに人の道を踏み外した父。
紅く……何処までも続く血の世界。
唯一、生き残った自分。
人でありながら、人でなくなった自分。
世界そのものになってしまった自分。
それら全てがシンジの頭の中へと流れ込んで来た。
バタンッ!!
門の閉じる音がしてシンジはハッとなる。ゼェゼェと息を荒くし、顔中、汗でベットリになっている。シンジは顔を上げて、自分を見つめる少年を見る。
「お兄ちゃんは……僕?」
『そう……僕は未来の君、これからの君の可能性』
少年はシンジの汗をハンカチで拭ってやり、彼の目線の高さに合わせてしゃがんだ。
『未来は滅びる。僕以外の生命は全て紅い海に帰る』
「お父さんと……ゼーレ?」
『うん。僕は世界と同一化させられ、言わば神になった。けど、僕はそんな事よりも過去を変えたかった。過去を変えて、あんな世界は避けたかった。
でも、あの世界でもある僕は神の力を持っていたとしても、時空を超える事は出来ない。だから、過去の僕である君に、未来を変えて欲しいんだ』
少年の言ってる事は、とても4歳児に理解できる内容ではない。だが、シンジには理解できた。心理を見て、知識を得た今なら少年の言う事が理解できる。
「でも……僕にそんな事が……」
『僕は君に力を与える。だから未来を変えてくれ……等価交換だ』
「等価交換?」
『何かを得る為には、同等の代価を支払う必要がある。門の向こうで分かっただろ?』
シンジがコクッと頷くと、少年は微笑んだ。すると少年はおもむろに、自分の胸に指を突っ込んだ。そして、小さな赤い石を取り出す。
『これは僕のコア……賢者の石だ』
ギュッと少年は賢者の石をシンジに握らせる。シンジは石を握り締めると、力強く頷いた。少年はシンジの決意を見て、彼の頭を撫でた。
『これからは君の思うように生きると良い。君が望み、行い、成すんだ。自分の信じた道を歩み通せば、きっと未来は変わる』
「うん……僕、やるよ」
ニコッと少年が微笑むと、周りが光ってシンジの姿が消え去った。少年は溜め息を吐くと、先程の光の人物と分かれた。少年は心なしか体が透けている。
『お前も物好きな奴だね〜。自分を代価にして、過去の自分に会おうなんてよ。分かってんのか? 歴史ってのは大きな木だ。お前の歩んだ歴史も、過去のお前がこれから歩む歴史も枝の一本に過ぎないんだぞ?』
『分かってるよ。そして世界そのものである僕を代価に支払った事で、僕の歩んできた歴史の枝は消える』
『そうまでして変えたいかね〜?』
『僕の勝手だよ。彼が、あの世界を防いでくれるなら僕は安心して無に帰れる』
すると透けていた少年の体が、足下から消えていった。
『悪いね。歴史を繋げるなんて荒業やらして……』
『しかも強引に枝を一本増やしやがって……』
少年はフフッと笑うと、突如、門が開いた。少年の体は光の粒子となり、門の向こうへと消え去っていった。
シンジが気が付いたら元の公園に戻っていた。
「………夢? ううん、違う」
シンジは首を振って先程の事が夢でないと分かった。今なら、どんな難しい数式だって解ける。そして、手を開くと赤い石――賢者の石が確かに握られていた。
「えっと……」
とりあえず賢者の石をポケットに入れ、シンジは自分の両手を見つめる。そして、それをパンと合掌し、砂場に触れた。
すると電流のような光が迸り、砂が黒くなっていった。黒くなった砂は近くのジャングルジムに引き寄せられ、砂場の砂は綺麗サッパリ無くなった。
「お〜……これが錬金術か」
門の向こうで得た知識と、未来の自分によって与えられた力。正確には、未来の自分が編み出した【錬金術】である。神の力は未来の自分そのものと言っても良いので、シンジに与える事は無理なのである。
故に未来の自分が編み出した錬金術の力と知識を門の向こうで見せ与えたのである。
錬金術は、普通なら陣を描かなければならない手間があるのだが、真理を見たシンジには必要なかった。
一応、試しに砂を全部、砂鉄に練成してみたが、まさか本当に出来るとは思っても見なかった。
「っと……そういえば、こんな事してる場合じゃないんだ。あの家にいたら心が壊されるんだっけ」
まさか、実の父がそのような事を考えていたとは。シンジは無性に情けなくなって溜め息を吐いた。しかも、セカンドインパクトの件にも深く関わっていて、ある意味、超大量殺人犯である。シンジは、一瞬、ゲンドウ殺して自分も死のうかと考えてしまった。
シンジは、とりあえず此処から離れる為、急いで家に戻った。
叔父夫婦とか言う家というが、シンジが住んでるのは物置を改造したような所だった。本人達は自立の為とか言っているが、明らかに厄介払いであった。しかし、4歳の子供にこんな事をするとは、倫理的にどうかと思う。
シンジは嫌な境遇に生まれたな、と思いつつリュックに荷物を詰める。そして、本を幾つか重ねる。両手を合わせて、本が光に包まれる。すると本は、あっという間に札束に変わった。
「良し。コレで当面の資金は大丈夫………」
札束をリュックに入れ、シンジは家から飛び出した。その日、碇 シンジは行方を眩ました。
そして、時は流れる。
To be continued...
(あとがき)
流れ流れに小説を書く物書きこと流浪人です。エヴァ+ハガレンで、逆行モノか再構成モノか微妙な所です。
まぁスパシンではありますね。後、カップリングとかは未定ですが、確実に言える事は、ゲンドウは悪人って事です!
では、以後、よろしく。
(ながちゃん@管理人のコメント)
流浪人様より「福音の錬金術師」の序章を頂きました。
ハガレンとのクロスは初めて読んだので、とても斬新に感じました。
作者様の言うとおり、逆行+再構成に準じる分野でしょうか。
まさかあの紅い珠が賢者の石だったとは・・・ナイスな着眼点です。
ここのシンジ君、幼いながらも精神的に強くなったようだし、一読者として管理人も安心しております。
それにつけても紙幣偽造とは・・・末恐ろしいお子様ですな。これも等価交換なのでしょうか?(笑)
とても面白そうな設定ですので、これからの展開が楽しみです。
ネルフ(ゲンドウ)にギャフンと言わせちゃって下さい。
次作を心待ちにしましょう♪
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