今日も本を読む。
 学校になんて行かない。
 だって虐められるんだもん。
 でも、本は。
 紙は僕を護ってくれる。
 それに、知識だって入ってくる。
 最高じゃないか。

「シンジ!学校に行きなさい!」

 行かないよ。
 行ったって虐められるだけだもん。
 それとも、何?
 勉強しなさいって言いたいの?
 してるじゃないか。
 これが勉強なんだよ、僕流のね。

「……そう」

 そんなに僕が虐められてる所を見たいの?
 見れば良いじゃん。
 君自身で僕を虐めてさ。
 ……もう用事は無いんでしょ?
 早く下に行きなよ。

「……いえ、まだあるわ。ほら、この手紙を読んでおくのよ!」

 ……なんだ、結局これが目当てだったの?
 最初からそうすればよかったじゃないか。
 僕は入り口に置かれた手紙を、取る。
 いちいち歩いたりはしない。
 こっちに来てもらうからだ。

「どれどれ?」

 差出人は……書いて無いじゃん。
 目的地は書いてあるし、名前は確かに僕のだけど。
 とりあえずあけて、中を見てみる。
 そこには写真と紙、そしてチケットとカードが入っていた。

「チケット……電車の特急券?」

 紙には、「来い ゲンドウ」とだけ書かれている。
 誰だ、紙を無駄にしたのは。
 もったいないじゃないか。
 かわいそうだしさ。

「ゲンドウ……父さん……!」

 父さん……いまさら何の用なんだか。
 とりあえず、意思は伝わった。
 ……さて、どうしたものだか。
 とりあえず運動でもして考えようか。

「そうと決まれば」

 僕は読み終わった本を一冊もって、庭に出る。
 そしてそのまま僕はジャンプした。
 それは普通のジャンプ。
 垂直に跳躍しただけだ。
 25メートルほど。
 人間の限界を超えてると思われそうだから言っておこう。
 良く見れば分かるけど、間接部分に白いものがくっついてる。
 そう、これは紙。
 大体20倍くらいの筋力を擬似的に追加できる。
 まあ、服着てるから分からないだろうけどね。
 ……あ、気づいた?
 そう、僕のこの服。
 全部紙。
 下着もだ。
 ……本ばっかり読んでたら、紙を操れることに気づいて。
 いろいろと特訓したら、ほとんどのことは出来るようになっちゃってね。

「さってと」

 今、僕は長袖長ズボンという格好だ。
 暑くは無い。
 通気性は抜群だからね。
 僕は空中で腕を振る。
 すると、両袖がする、と切れるように抜けて。
 両手の中に集まり、ついには二本の白い刀になる。
 ……まあ、槍でも何でも作れるけどね。
 なんとなく、刀が気に入ってる。
 僕は空中に居る間だけ、それを振り回す。
 よし、オッケー。
 ということで刀を筒にする。
 その筒が腕を包み込み服と同化し、ついには長袖のシャツになる。
 究極の隠し武器。
 防具にもなるし。

「おっと」

 着地する前に、今度は長ズボンが半ズボンに変化する。
 そう、切り離したのだ。
 切り離された紙は空中にピンと張っていて。
 とん、と言う音と共にその紙に降りる。
 そのまま空中に停滞させる。

「ふぅ」

 さて、どうしたものか。
 行くのは簡単。
 でもきっと、帰るのは大変。
 まるでインパクト前のアポイントメントセールスだ。
 気をつけないといけない。
 でも親だしなあ、人殺しだけど。
 やっぱり会ってやるべきなのだろうか。
 うーん、何か変なことやらされるんじゃないよね。
 たとえば、ロボットに乗っけられて戦え!って言われるとか。
 それは簡便、生身のほうがまだ強いし。

「本気でどうしよ……」

 といっても、もう答えは決まってるんだよなぁ。
 行って、話を付けてみよう。
 そのためにも、今まで鍛えてたわけだし。
 そしていざとなったら。

「母さんを殺したんだ、父さんが死ぬのは当然だよね」

 いざとなったら、僕が父さんを殺すことにしよう。
 とはいえ、いくつも準備が要る。
 一つ一つ準備していくか。

「さて」

 僕は今立っている紙を地面まで下ろして、もう一度ズボンにする。
 必要なもの、何だろう?

「お金……だよなぁ」

 うん、お金がまず最優先だ。
 お金は……そうだな、稼ぐか?
 いやだ。
 もう抱かれるのは簡便。
 僕も男だ。
 じゃあ、角にある銀行で“もらって”こよう。

「あと」

 膨大な量の紙。
 僕にとって紙は必要不可欠。
 でもなぁ、紙で持っていったら怪しまれるかな?

「あ」

 本で持っていけば良いのか。
 ということで、お金を“もらって”、本を買う事にしよう。
 下着とか、洋服とかは紙があれば何とでもなるしね。



 翌日。
 僕は準備を終えていた。
 準備といっても、お金を“もらって”、本を買っただけだけど。
 そういえば今日、朝のニュースで面白いことやってたね。
 角の銀行に、強盗が入ったんだってさ。
 何でも、いつの間にか金庫が壊されてたんだって。
 金庫は極めて鋭利な刃物で切られちゃってたらしい。
 最近は銀行も安全じゃないんだね。
 僕は無実だよ?
 しっかりと、金庫から“もらって”きただけで。
 決して強盗なんてしてないもん。

「さて、しっかりと謝ってもらうからね、父さん」

 僕は電車に乗るべく、駅へと向かったのだった。
 大量の本とお金を持って。






Paper Must Be

00 懐かしい、僕

presented by るしざわあまる様







 誤算だった。
 まさか途中でリニアが止まるなんてね。
 仕方ないから、そこからは線路沿いに走ってみた。
 十分くらいで目的地にはつけたよ。

「遅いなぁ」

 もう一時間たってるよ。
 仕方ない、目的地は紙が教えてくれる。
 僕は近くの車の鍵を開けて、そのまま向かうことにした。



「ここかぁ」

 ピラミッド。
 って、ここは人工進化研究所?
 父さんが母さんを殺したところじゃないか。

「いや」

 名前が変わってる。
 NERV……ナーヴ?
 いや、ドイツ語かな。
 となると、ネルフだ。

「うーん、このカードで入れるのかな?」

 僕はカードを、自動改札のようなところに通す。
 すると、ガコンという音とともに入り口が開いた。

「おー」

 うーん、なんだかいやな予感がする。
 ……一応、戦闘を考慮しておこう。
 ということで、紙が肌に張り付く。
 こうすることで、防刃防弾防熱防衝撃という完璧なよろいになる。
 もっとも、傍目から見れば普通の服。
 そう、服の下に紙を敷いたのだ。
 ……まあ、欠点も在る。
 完全に貼り付けるから、上に服がないとダメ。
 何でか分かるよね?
 そう、身体のラインがそのまま出るんだよね。
 ……その、出てるところは出ちゃうわけで。
 誤解されないように言って置くけど、僕はむしろ痩せ型だ。

「おや?」

 ふと気が付くと、前から白衣の女性が歩いてくる。
 うーん、誰だっけ。
 どっかで見たことがあるような気がする。

「碇、シンジ君ね?……あら?ミサトは……」
「ミサト?誰、それ」

 もしかして、あの写真の人かな?
 まあ、誰でも良いけど。

「ミサト……また遅れたのね。ごめんなさい、私は赤木リツコ」
「ははは、冗談。リツコ姉さんは黒髪ですよ」
「……染めたのよ。って、覚えてるの!?」

 は?
 そりゃ、リツコ姉さんは仲良しだったからね。
 研究所では一番仲良しだったしさ。

「って、本当に本人?」
「そ、そうよ」
「猫が好きな?」
「え、ええ」
「いろんな意味で」
「……ええ」

 ちょっと頬を赤らめるリツコ姉さん(らしき人物)。
 まあ、本人なんだろうね。
 きっと。
 多分。

「と、とりあえず付いてきてくれる?」
「うん、構わないよ」

 リツコ姉さんなら、信頼に値するしね。
 僕はリツコ姉さんについて歩く。
 歩く歩く歩く歩く。
 ……どんだけ歩かせるんだよ。

「ご、ごめんなさいね。ちょっと動揺してたわ……」

 なるほど。
 だから同じところ歩いてたのか。
 それから何分もしないうちに、ケージに到着した。

「あれ、たしかここって」
「ええそうよ、エヴァのあるところ」
「……まさか、乗れって言わないよね」
「……ごめんなさい」

 イヤだよ。
 たとえそれがリツコ姉さんのお願いでも絶対にいやだ。
 ……僕を殺したいの?
 たしかに完璧な殺人機だよね、これは。
 だって死体が残らないもん。
 死体なき殺人事件で有罪判決という例は少ないし。
 てかあったっけ?

「……久しぶりだな」

 ――ゲンドウ……!




 僕は無意識下で、二本の刀を作っていた。
 例の、服から作るアレだ。
 ……父さんを見たとき、殺意が沸いた。
 そして今、それを抑える必要は無いと見た。
 僕は意識の下に、ズボンの下半分を切り離しプレートをつくり、その上に乗る。
 そしてプレートを持ち上げ、父さんと同じ高さまで浮かんだ。

「何のようだ……人殺し」
「…………」
「母さんを殺して、僕を捨てて……その後一体、何をしていた?」

 父さんは答えない。
 ……答えろよ。
 僕は両手の刀を振るう。
 すると、僕と父さんの間にあった分厚いガラス(多分強化ガラス)が切れた。

「答えろ」

 それでも父さんは答えない。
 いい加減に答えてくれないと、刺すよ?
 そんなことを考えていると、父さんがにやり、とした。
 そして背後に強烈な殺気……!?

「うわぁっ!?」

 僕は刀を分解し紙の壁を作る。
 刀の分しかつかってないから、紙一枚分の厚さにしかならなかった。
 それでも、10センチメートルの鉄板と同じくらいの強度のはずなのだ。
 自分で実験してるんだ、間違いない。
 ……これは錯覚か?
 見事に、手形が出来ている。
 つまり、10センチメートルの鉄板を軽々とへこませてるわけで。

「どんだけの筋力馬鹿なんだよ……!」

 僕は紙のプレートから飛び降りて、同時にプレートをズボンに戻す。
 ついでに紙の壁は再び刀の形を取らせる。
 そして、ぼくの目の前に居たのは……。

 蒼い髪の毛に赤い目の女の子だった。
 しかも、僕より四歳くらい上……ってくらいの。
 つまり、14歳かその前かってことだ。

「はぁっ!?」

 女の子……だよね?
 たしか目の色が赤ってことは、アルビノ……かな。
 それにしても何なの!
 この力って……っ!

「リツコ姉さん!何ですか、この非常識な力はっ!?」
「……私にとってはあなたのその刀のほうが非常識なんだけど」

 僕は僕。
 いつか説明してあげないことも無いから!

「彼女は綾波レイ。強化の能力者よ」

 強化……なるほど。
 今回は筋力の強化をしたわけか……。

「……司令……速やかに目標を排除……構いませんね?」
「レイ、だめだ。……シンジ、それに乗って使徒と戦え」

 使徒?
 僕はリツコ姉さんを見る。

「使徒……上に居なかった?怪獣」
「……見てません」
「そう。とりあえず、怪獣よ」

 なるほど。
 分かりやすい説明ありがとう。
 ……でも、あれには乗らない。
 絶対に乗らない。
 乗ってたまるか。

「どうしても、乗らないといけないの?」
「そうだ」
「……わかった、乗らないですむように……」

 それ、壊す。
 長ズボンの下半分を切り離し、両手に集める。
 その切れた紙と刀を合成して、一つの長い、大きい刀にする。

 そして。

 僕はその長刀を一気に振る。
 居合いの要領で、だ。
 ビュゥッ、と空気を切る音が響く。
 瞬間に、目の前にあった殺人機を完全に切り裂いた。

「なっ!?」

 そして駄目押しといわんばかりに、僕は縦にも斬る。
 途中、赤い丸いものもあったが完全に切り裂いた。
 瞬間、違和感を感じる。
 何だろう、この違和感は……。

 まさか。

 僕は思い当たることがあったので、リツコ姉さんを抱きかかえて服を全て分解する。
 勿論下着もなので、完全に裸になってしまっているがこの場合は関係ない。
 そして分解した紙と持ってきた本の紙で、僕とリツコ姉さんを完璧に包み込む。

 瞬間。

 グォォォォォォォォォォン、ととてつもなく大きな音がした。
 何かが爆発するかのような音。
 紙が悲鳴を上げているのが分かる。
 僕の力を上乗せにしているからこそ耐えているけど、そうでもなければただの紙だ。
 力が乗った状態でも、1200万度を超えれば燃えてしまう。
 ……多分、そとは600万度くらいだろう。
 まだ僕は“鎧”を解除しない。
 リツコ姉さんは僕の下で、目を見開いている。

 5分後。

 僕はようやく鎧の結合を解除した。
 どうじに鎧はそのまま長袖長ズボンに下着とサポーターになり、僕の身体に付く。
 そして僕とリツコ姉さんが目の当たりにしたものは。
 プラズマ化したからか、完全に消滅しているケージと。

 そんな中、中心でただ一人立っている蒼い髪に赤い目の女の子だった。

「……リツコ姉さん、本当にあれって人間なの?」
「……きっと防御力を強化したんでしょうね」

 ……なんだかなぁ。
 あ、ちゃっかり父さんも生きてるや。
 どうやったんだろうね?
 まあ、良いけどさ。

「あ、リツコ姉さん」
「なにかしら?」
「乗るもの無いんだし、乗らなくて良いよね?」
「……乗れないじゃないの。それに、この爆発よ……使徒も消えているわ」

 その予想は、さらに五分後、青葉シゲルという男性が駆け込んできてから正しいことが分かった。

 またまた、さらに五分後。

 僕は牢屋に入っていた。
 しかも、裸で。
 まったく、下着くらい良いんじゃないの?
 あ、だめ?
 やっぱり?
 まあ、下着でもあれば直ぐに抜け出せるしね……。
 リツコ姉さんはというと、自分のみに起きたことがいまいち理解できていないのか。
 僕のこの能力を深く聞いてくることは無かった。

 ところでこの牢屋さ、ちょっと酷いんじゃないかな。
 まあ、ベッドもあるしトイレもあるし。
 それなりに広い……というか、二十畳はあるし。
 お風呂も着いてたし、至れり尽くせりだよね。
 でもさ、僕は今裸。
 そんな状態でバンバン監視カメラ回ってるのは酷いんじゃないかな?
 ちょいと恥ずかしいんだけど。
 ……まあ、まだ十歳だから構わないんだけどね。

 それにしても、なんでこんなに……待遇が良いんだろう。
 なんだかいやーな予感がするんだよね。
 毒ガスでも流し込まれたりして?

 ……?
 なんか、今シューって音しなかった?
 空気漏れ見たいな……さ。

 ……やっぱりしてる。
 ありゃりゃ?
 なんだか眠くなってきたな。
 ……ふむ、とりあえずベッドに横になろうか。
 ふかふかのベッド。

 おやすみなさい。









 でも、僕が僕に目覚めることは無かった。
 なぜなら。
 ふと目覚めると、そこには……。

「……あ、シュウ、起きたの?」
「……誰?」
「誰って……シュウの兄ちゃんのシンジじゃないか」

 いや、誰だよ。
 ってかシンジは僕じゃん。
 そうおもって、身体を見てみると裸。
 うーん、身体は大して変わりないんだよなぁ。
 で、自称シンジの身体を見ると。
 僕が十四歳になったくらいの身体だった。
 まさにそっくりだったし。

「いや、誰?」
「シュウ……寝ぼけてるの?」

 ……まさか、パラレルワールド?
 本での知識しかないけどさ。
 たしか、セカンドインパクト以降死んだ人は。
 同じような世界にジャンプしちゃうことがある、とか。
 ……で、僕も飛んだと?

 てことは、この世界で僕はシンジじゃないわけだ。
 この自称シンジを信じるならば、碇シュンというのが名前だ。

「ねえ、兄さん。僕って、碇シュウだよね?」
「そうだよ……って、熱でもあるの?」

 どうやらそうらしい。
 で、この“兄さん”とやらが碇シンジなわけだ。
 ……いや、僕に何をしろと?



To be continued...


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