Paper Must Be

02 サキエル

presented by るしざわあまる様


「シュウ」

 ……あれ、もうついたの?
 早いなぁ。
 ……ああ、また途中で止まったのか。

「おはよー」

 僕はそう言うとベッドから降りる。
 ついでだったので、ブロックに戻しておいた。

「おはよーじゃないよ。途中で止まっちゃったんだから」
「へえ。……とりあえず待ってみる?」
「いや、次の駅だからね。歩いちゃおうよ」

 そうだね。
 僕はブロックを持ち上げて、電車から降りる。
 それに続いて、トランクを持ったシンジが降りる。

「さて、歩こうか」
「だね」


 十分も歩くと、待ち合わせの駅に着く。
 まだ来ていなかったので、僕たちは休憩することにした。
 ベンチが無かったから、作ったけど。

「飲み物、あったらよかったのにね」
「だね」

 ちょっとのどが渇いたよ。
 うーん、どこかで売ってないかな?
 えーと……あ、あそこに自動販売機がある。

「兄さん、あそこの自動販売機で貰ってくるけど、何か飲む?」
「……変な言い回しだけど、とりあえずお茶かな」

 分かった、と頷いて僕は自動販売機の前に立つ。
 うーん、お金使うのはもったいないし。
 なんだかだーれも周りに居ないし。
 というか非常事態警報が発令されてるし。
 ま、問題ないでしょう。
 僕は右袖の先を少しだけ切って、刃渡り16センチのナイフを作る。
 そのナイフを一閃すると、見事にドアが壊れた。
 よし、これでもらえるね。
 シンジはお茶だったかな、よし、このお茶にしよう。
 僕もお茶かなぁ、甘いのは微妙だし。

「はい」

 僕はお茶を投げる。
 それをあわててキャッチしたシンジは、後ろに何メートルか飛んだ。
 何してるんだろ?

「何してるの?」
「……いや、強すぎ」

 あ。
 サポーター解除するの忘れてたのか。
 まあ、かなり早いしなぁ。

「いたた……それにしても遅いね」

 シンジが席に座りなおして言う。
 そうだね、なかなか来ない。
 待ちぼうけ食らったりして。

「はは……有りうる」

 まあ、もうちょっと待ってみようよ。


 ……ひゅー、と風が通り過ぎる。
 シンジがやったわけではないと思うけど。

「……一時間、たったね」
「ははは……先、行っちゃおうか」

 だね。
 場所は覚えてる?

「……うん」

 シンジがちょっと遠い目で言う。
 何かあったのかな?
 まあ、いいや。

「シュウ、紙でシート作ってくれる?」
「大きさと薄さは?」
「大きさは無制限。薄さは……そうだな、3ミリくらいで」

 わかった。
 僕は二つの椅子になっていた紙をそのままシートに変える。

「もしかして飛ばすの?」
「うん」

 ならばそんなに大きくないほうが良いよね。
 僕はシートに手すりをつけることによって、大きさを制限した。

「はい、出来上がり」
「ありがと。乗ろうか」
「うん」

 僕たちは切れ目からシートの上に乗る。
 二人と荷物がのったのを確認すると、僕は切れ目をなくした。
 うーん、下から風を吹かせるならちょっと浮いたほうが良いよね。
 僕はシートを1メートルほど持ち上げた。

「よし、行くよ」

 瞬間、一気に軽くなった。
 風のおかげだね。
 僕は形の維持にだけ力をまわすことにした。


 15分後。


 予想外に早くついた。
 僕たちはカードキーを使って、中へと入る。
 二人とも目的地は直感的に理解しているため、直線的に進んでいた。

「この先だよね」
「うん。この扉の先……」

 ケージだよ。
 入ろう。
 ……僕は扉を開ける。
 すると、真っ暗だった。
 僕はそれでも歩いた。
 前が見えないけど。
 ……あれ。
 なんか、今スカってしなかった?
 あー……落ちてるね。

 どっぼーん。

 水柱が上がった(と思う)。
 つ、冷たい!?
 水よりも絶対冷たいし……この匂いって、血……だよね?
 暗いからどっちが岸か分からないし……!
 突然、ガシっと掴まれる。
 その手によって、僕は血のような水から引き出された。
 た、助かった……って、え?
 がん、という衝撃を頭に受けて、僕は意識を手放す。
 ……紙、なんで使えなかったんだろう……?


 ふと目を覚ますと、そこは大きなスクリーンのある場所だった。
 ここは……どこ?
 スクリーンには、シンジが頭に変なものを乗っけてどこかに座っているのが見える。

「シンクロ、開始します」

 え?
 ……僕の頭の中に、本来の僕の記憶が横切る。
 シンクロ……エヴァ……母さん……死……っ!?

「だめぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 僕の声が聞こえたのか。
 それとも、別の何かに反応したのか。
 シンジは目を見開いた。
 そして、何秒かの沈黙。
 ふと見れば、目の前には三人、人間が居た。
 女性が一人、男性が二人だ。
 そして沈黙をといたのは、シンジの言葉だった。


「母さん……なんで、ここに」


 ……シンジ?
 今、何ていったの……?
 母さん?
 ここってどこ?
 エヴァの中?
 え?
 うそでしょ?
 うそだよね?
 うそって言ってよ?
 あの時母さんは死んだ、そうだよ。
 そう、死んだ。
 死んだんだよ。
 ……死んだの?
 どうして死んだって分かるの?
 死体も無いのに。
 でも、死んだんだ。
 だって、あそこから消えちゃったんだから。
 そうだよ、消えたんだから。
 そうだよね、消えたんだ。
 なら死んだんじゃん。
 そうだよ、死んだんだよ。

 でも、生きていたら?

 固体が液体になるように、人間も液体になるのかもしれない。
 いや、液体とは限らない。
 気体として、どこかに溶けているのだとしたら。
 ならば、どこに?
 ……エヴァの中。
 殺人機の中だ。
 だって、そこで溶けたんだもん。
 もし、もしもだよ?
 そこで、液体でも気体でもなんでもいいから、そんな状態になって……溶けてる状態なら。
 もしかしたら、固体、人間にもどるのかもしれない。

 ……イヤだ。

 そんな発想、しちゃいけない。
 そう、ありえちゃいけない。
 有ってはいけない。
 これはあくまで妄想だ。
 そう、妄想なんだ。
 ……だから、そんなこと無い。

 でも……正しかったら?

 正しかったら、どうなる?
 僕は、こっちに来る前に何をした?
 ネルフに行った。
 それまでは遊んでた。
 ネルフに行ってからは何をした?
 ……ケージに行った。
 そして、殺人機を……エヴァを、壊した。
 そう、破壊した。
 世の中から完膚なきまでに抹消した。
 二度と作り直せないほどの爆発が起きたから。

 もし、この世界と同じで……溶けてるだけだったら?

 僕は一体、何をした?
 母さんに、何をした?
 ……斬った。
 ふつうに斬った。
 そう、斬って、斬って……。
 壊した。
 殺した。
 何を?
 エヴァを。
 誰を?
 エヴァを。
 本当は?
 エヴァだって。
 絶対に?
 そうだよ!
 壊したのは、殺したのはエヴァだ!
 ……でも。

 母さんだ。

 母さんを、殺した?
 誰が。
 そうだ、あの殺人機だ。
 そうだよ、あれに乗ったから死んだんだよ。
 そうだよね。
 うん、そうだよ。
 ……違う。

 いいや。

 本当は分かってるんだ。
 分かってて、理解したくないだけ。
 認めたくないだけ。
 怖いから。
 怖い。
 ただ、ただ、怖い。
 単純に、純粋に。
 怖いんだ。

 恐怖――

 二度目だ。
 こんな恐怖を抱くのは、二度目だ。
 二度目?
 一度目って、何?
 何があったんだろう。
 分からない。
 ……二度目。

 僕が、母さんを殺した……。


「シュウ!」


 シンジ……?

「大丈夫!?顔が真っ青だよ……?」

 そうだ。
 あくまで想像なんだよ。
 そう、想像。
 妄想。
 そんなこと、無い。

「だい、じょう……ぶ」

 声がかすれて、震えて。
 そんなことを、自覚しながらも大丈夫、という。

「大丈夫……だから」
「……わかった」

 ごめん。
 僕には、応援することも出来ないみたいだ。

「シンクロ率、81.34%」
「誤差±0.01%、ハーモニクス正常」
「エヴァ初号機、起動しました」

 よかった……。
 シンジは。
 シンジは、死ななかった。
 溶けなかった。
 ……本当に、良かった。

 そう思ったとき、僕の意識は飛んでいた。










「ようやく、会えそうだね」
「……そうね」











 また、目が覚める。
 知らない天井が見えた。

「……ここは」

 どこだろう。
 病院……かな。
 服は、同じだから……あのまま、ここに運ばれたのか。

「シンジ……?」

 ……シンジは?
 僕はベッドから降りると、病室を出た。
 ……まず、右か左か。
 いいや、勘で行こう。


 二十分後。


 つかれた……。
 ようやく、見つけた。
 なんでこんな、死角になるようなところにドアを作ったんだよ……。
 まあ、いいや。
 僕はノックする。

「兄さん、入るよ」

 ドアを開けると、そこにはシンジだけではなく、もう一人女性が居た。
 ……誰?

「あら……シュウ君ね」
「誰ですか、あなたは」
「……私は葛城ミサト。ネルフの作戦本部長よ」

 作戦本部長。
 つまり、作戦を練る人って事か。
 なんで、こんなところに?

「お見舞いよ」
「……部長のあなたが直々に?」
「ええ。おかしい?」
「おかしいです。……普通、部下が来るものですからね」

 そう、部下が来るはずなのだ。
 何で、部長が来るのか……あやしいとか、そう言うレベルではない。
 何か、裏がある。
 絶対に――裏が。

「別にいいでしょ」
「ですね。……で、お見舞いは済みましたか?」
「いいえ……見ての通り、シンジ君はまだ寝てるから」

 ……え。

「僕が気絶した後……何があったんですか」
「……カード、持ってるわよね。そこの端末から見れるわ」

 わかりました、と僕は端末に向かう。
 カードを通す場所があったので、そこに通してみると……NERVと、ロゴがでる。
 えーと……これかな?
 第三使徒サキエル戦……。





「エヴァ初号機、リフトオフ! ……シンジ君、さっき説明した通りよ。ATフィールド、展開してみて」
「……はい」

 シュウを助けるためには、乗ってあれを倒さないといけない。
 風使いだからって、完璧なわけじゃないのに……。
 でも、どうしてあの時、紙が発動しなかったのだろう?
 ……考えても仕方が無いか。
 僕は敵……使徒を拒絶をする。
 その拒絶の意思を、初号機が……母さんがATフィールドにして展開してくれる。
 あとは野となれ山となれ。
 僕の前に、“八角形”のATフィールドが生まれた。
 フィードバックのせいか、僕自身、そのATフィールドを展開する初号機の感覚を感じている。
 ……あれ?
 この感じって……風?

「すごいわ!一回で成功させるなんて……」

 風、ならば。
 やってみる価値は……有る。
 僕は風を操るイメージで、拒絶した。
 風は突風……強烈な――風を。

 瞬間だった。

 何も無い、初号機の周りの空間にATフィールドが発生する。
 しかも――複数の。
 それだけじゃない。
 そのATフィールドは、三角形だった。
 ……“三角形”のATフィールドは、強烈な風に乗ったかのように、使徒の身体へと向かってゆく。
 使徒も“六角形”のATフィールドを展開するが、“三角形”のATフィールドはそれをたやすく貫き、赤い玉へと突き刺さる。

 使徒は十字架の炎と共に、消え去った。

 そして僕は、風の力を使いすぎたかのような疲労感に襲われる。
 こんな疲れるのは、久しぶりだ。
 いつ以来だったかな……。




 ……以上のように、サードチルドレン、碇シンジはATフィールドを自在に操り、敵を殲滅した。
 しかしドイツの弐号機のATフィールドや同本部の零号機のATフィールドとはタイプが違った。
 パイロット、もしくはエヴァによりATフィールドのタイプが違うようである。




 使徒を、瞬殺……か。
 このATフィールドとかいうやつ、バリアーかと思ったけど……違うな、武器にもなるんだ。
 むしろ、武器として使ったほうが効率的のような気もする。
 ……で、シンジが使ったこのATフィールド……風だね。
 きっと風を固形化したものなんだ。

「……ん」

 声が漏れる。
 シンジが起きたのだろう。

「おはよ、シンジ」
「……シュウ」

 にこ、とシンジは笑う。
 よかった、疲れただけなんだね。
 ……ほんとに、よかったよ。

「……あれ、あなたは確か」
「ええ、葛城ミサトよ。……ちょっと、お願いがあって」
「お願い?」
「そう。……これからも、あれに……乗ってくれないかしら?」
「……いいで」
「ダメです」

 シンジがいいですよ、と言おうとするのを。
 僕はより大きな声で、ダメ、と言った。
 絶対に、アレに乗っちゃいけない。
 今回平気だったから、次回が平気とは限らないんだから。

「シュウ……?」
「乗っちゃダメ。……絶対、ダメ……」

 いかさない。
 縛り付けてでも、行かさない。

「……良いんだ。僕は、乗ります」
「どうして!」

 どうして、そんなに乗りたがるの?
 あれは……あれは僕たちの母さんを!

「いや……まだ、あそこに――」

 ほんの一瞬。
 いや、一刹那にも満たない内。
 紙の壁が、僕の耳を包む。
 あそこに、までしか僕には聞こえない。
 何かがその次の言葉を聴くことを拒否している。
 ……こわいんだ。
 僕はそれを解除して、心配そうに見つめるシンジに、ゴメンと言った。

「そのこと……もう、言わないで。乗っても、いいから」
「……そう」

 ……と、忘れてた。
 葛城ミサト作戦本部長が居たんだっけ。

「あ、あなた……今……!」
「何か、ありましたか」
「か、紙が……」
「気のせいです」
「……そうよね、気のせいよ。目の錯覚。そうよね、そうなのよ。ええ、私はちょっと執務室行くわ。とりあえず総務部に顔だしてね」

 何だかぶつぶつと良いながら、作戦本部長は出て行った。
 同時に、シンジがベッドから降りて、総務部へ行こうと言った。

 十二分歩くと、総務部がある。
 総務部では衣食住の管理をしてるらしい。
 僕たちがカードを渡すと、家について聞かれた。

「家はどうする?作戦本部長と同居するもよし、司令と同居するもよし、ネルフ内部に部屋を借りるもよし」
「土地を下さい。150坪の」
「150坪?……用意できるけど……分かったわ。この地図の場所に行きなさい、自由に使って良いわよ」

 という会話で、150坪という広大な土地を手に入れたのであった。
 人口が減った今、150坪程度は簡単に用意できてしまうらしい。

 ネルフを出て、10分ほど歩くと指定された土地についた。
 その土地は、どこからどうみても唯の荒野。
 ふむ、ちょうど良いね。
 でも紙が足りない……かなぁ。

「しかたないか」
「え?」

 シンジが何かを聞こうとしたけど、聞かない。
 実は、ネルフにちょっとずつ紙を落としてきてある。
 ……そこを中心に、特殊な力場を展開する。
 つかれるから、あまり使いたくないんだよなぁ……。

「……集」

 つぶやいてから二十秒たった頃。
 バサバサバサバサ、と鳥が羽ばたくような音が聞こえたかと思うと。
 僕を中心に、紙の束がズラーっ、と並んだ。
 これが僕の、最終手段。
 紙が足りなくなったら調達しようというもの。
 問題としては、自分の力を込めた紙がある場所から半径三キロまでしか効果を及ぼさないことかな。
 しかも、三キロでやったら死ぬほど疲れるし。
 実際は百メートルくらいだね。

「うん、これだけあれば足りる」

 僕は新しい家をイメージして、紙に指示を与える。

 一分後。

 ただの荒野だった場所に、豪邸が建っていた。
 しかも門もついてる。
 シンジは前回よりも広い家に期待満々ってところかな。

「さ、新居だよ。部屋の位置は同じあたりだから……って居ないし」

 早いよ。
 門が閉まってるからって空飛んで行くとは……。
 風の力って便利だなぁ。
 なんとなく、僕はぽっけを探る。
 すると、何故か一枚……変な紙が入っている。

「これは……?」

 それは、嵐とかかれた真っ赤な紙。
 心当たりは一切無い。
 ……なんだろ?
 まあいいや。
 そう思って、僕はそれを右袖に同化させた。


 それが本来の使い方だとは、知らなかったのに。













「先輩」

 なにかしら?

「初号機のATフィールド、解析完了しました」

 そう。
 報告してくれる?

「はい!……初号機が展開したATフィールドは二種類。双方共に肉眼で確認できるほどの強力なものです。一つは八角形に展開されたATフィールド。これは零号機や弐号機なども展開していることからエヴァ特有のものと思われます。そして三角形に展開されたATフィールド。これからこのATフィールドを便宜上、MATフィールド(マイクロエーティーフィールド)と呼称します。このMATフィールドは極めて高い殺傷能力を持っていると思われます。使用法は今回のように、目標に刺すようなもの以外にはないと思われます。又、初号機起動時の消費電力を100としたとき、MATフィールドを展開した瞬間から970もの電力を消費していました」

 ……長いわ、説明。
 あとで書類にして渡してもらえばよかったかしら?
 まあ、仕方は無いわね。
 ……それにしても、なぜかしら。
 本来同じ形を取るべきATフィールドがここまでかわるだなんて……。
 そう、私たちは何かを見落としている。
 まさか――能力が関係しているのかしら?
 いえ、それは無いわね。
 レイに……レイに能力は発現していないもの。



To be continued...


(あとがきと言う名のまとめ)

 1.ATフィールド

使徒が持つ力。
昔は人間にも使えた。


 2.“八角形”のATフィールド

初号機が発生させたATフィールド。
基本的に防御専用だとか。


 3.“三角形”のATフィールド

シンジ(初号機)が風の力を応用して発生させたATフィールド。
基本的に攻撃専用。
MATフィールド。


 4.“六角形”のATフィールド

使徒、サキエルが発生させたATフィールド。

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