殺人鬼と天才と魔術師と

第一話 “殺し名”第三位零崎ぜろさき 零崎神識登場 〜零崎を開始させて頂きます〜

presented by sara様


一人の少年が泣いていた。

男の子が一人だけ、他には誰もいなくて一人ぼっちの男の子、一人で泣いていた。

腕を血塗れにして、体中に血痕を纏わせて泣いていた。

血塗れの少年は一人ぼっちで泣いていた。

もしかしたら自分がしたことを判っていないのかもしれない、少年は一人で泣いていた。

もしかしたら自分のしたことが恐ろしくて泣いていたのかもしれない、少年は一人で泣いていた。

もしかしたら自分がなんなのかわからなくて泣いていたのかもしれない、少年は一人で泣いていた。

でも、少年は寂しそうに見えた、寂しくて泣いているように見えた、寂しくて少年は一人で泣いているように見えた。

一人ぼっちが嫌で泣いているように見えた。

一人で居るのが怖くて泣いているように見えた。

一人が恐ろしくて泣いているように見えた。

一人が続くのを怖がって泣いているように見えた。

一人の寂しさに耐えかねて泣いているように見えた。

誰かを必要として泣いているように見えた。

孤独を拒絶して泣いているように見えた。

少年は、血塗れの少年は可哀想に見えた。

何かを求めているように見えた。

誰かを求めているように見えた。

その何かは、もしくは誰かは判らないけど、何かを必死に渇望しているように見えた。

だから少年は可哀想に見えた、それは孤独に見えたからだろう。





人の死体が散乱し束所、人間が完膚なきまでに他人の手によって機能停止に追い込まされたその場所で泣いている少年はそう見えた、人間だった物体に囲まれた少年は。





だけど、泣いたら、求めたら、助けが来る、誰かが助けてくれる。

そんな都合のいい存在がいるだろうか、そんな都合のいい世界があるだろうか、そんな都合のいい・・・・・・お話があるだろうか。

そんな都合のいいヒーローが、都合の良すぎるヒーローが存在するのだろうか、存在していいのだろうか。





暫くして泣いている少年に男が近づいた、男は長身だが針金のように体が細く、まるで針金細工のような体に似合わないスーツに伊達眼鏡を身に付けて、長い髪をオールバックにして後ろに流していた。

ルックスはそれほど悪い風には見えないが、変な男だった、完全無欠にこれでもかってぐらいに怪しさ満載の男だった、それはもう自分から怪しいと自己主張するぐらいに。

少年に近づくこの針金細工のような男は果たしてヒーローなのだろうか?

針金細工のような男は優しそうな表情で少年に近づいてこう言った。

「うん、君は凄い“才能”を持っているね、僕も感嘆するぐらいに凄い、いやはやその年頃でここまでやるとは。いやいや、これは間違いだろう訂正させてもらう“才能”と言う言葉は間違いだ。“性質”そう“性質”だ。そう呼ぶべきものを持っているね。才能は磨き上げるものだろうけど、性質は生来備わっているものという違いが有るからね。まぁ、些細な違いだろうけど、言葉は正しく使うべきだろうから、ちょっとした間違いがいらぬ誤解を生むことは間々あることだから、いらない齟齬は解消するべきだろう」

突然現れて泣いている少年に慰めもなく唐突に言う言葉ではないだろう、それにまるで訳が判らない、そう訳が分からない。

これでは少年に向けて喋ると言うよりは独り言、男の意志が一方通行に少年に向かっている。

針金細工のような男は少年を助けに来た、助けてくれる都合のいい存在なのか、それにしては言うことは訳が判らない。

だけどそんな言葉でも少年は興味を持ったのか顔を上げて針金細工のような男を見上げ、
針金細工のような男はやはり柔和に笑っていた、少年の視線に気付いて一際優しそうに微笑んで、そこに悪意は全く無い、隔意は全く無い、拒絶は全く無い。

そして男は続ける、まるで少年の血塗れの姿など気にも留めないように、いやそんな姿を当たり前のように受け入れているのかもしれない。

勿論散乱する人間の成れの果てにも気を止めない、どうでもいい事なのだろう男にとって。

「少年、名前は何かな。ああ苗字はいいよ、名前だけ判れば十分だからね。名前がわからないと不自由だろう」

名前を尋ねる針金細工のような男。

「シンジ」

針金細工のような男の言葉にポツリと呟くように答える少年、それを聞いて針金細工のような男は考え込むように口に手を当てて、また口を開く。

「シンジ、真嗣、神司、真慈、漢字でどう書くのだろうね。セカンドインパクト以来名前はカタカナ表記になっちゃったからね,別に自由にすればいいだろうに。シンジ君も漢字表記はわからないよね。でも、シンジ君か悪い名前じゃない。はじめましてだシンジ君、これからよろしく、まぁ色々仲良くならないといけないだろうし」

やはり男の言うことは訳が分からない、だがシンジに友好的だと言うことは判る、そして怪しいけど悪い人間ではないのかもしれない、話を勝手にドンドン進めていくように見えるが、まぁこの際話が進んでいくのはいいだろう、だってシンジ君に今会話は無理そうだし。

それに、どうやって血塗れの少年に会話を成立させろと、死体の中にいる少年になにを語れと。

「で、シンジ君、君私の弟にならないかい。おっと、私が名乗ってないな、これは失礼ってもんだろうこれは。私は双識、零崎双識という。もう一度言うけどシンジ君、僕の弟にならないかい。正確には僕達の家族にならないかい」

針金細工のような男はやはり何の脈絡も無く言った,自分の弟に成らないかと少年に,やっぱり訳が判らない。

それでもシンジは双識を、零崎双識を驚いたように見つめて、暫くして頷いた。

これはシンジの今までと、そして現在を考えれば救いの手だったのかもしれない、都合のいいお話の、都合の言い彼にとってのヒーロー、孤独から救い出してくれる英雄。

そんな存在がいるかどうかはどうでもいいが、目の前にいる存在はシンジにとっては救いになったのかもしれない、少年のそのときの表情がそれを物語るだろう。

血塗れの腕で涙を拭って僅かに笑顔を見せている表情が、それが少年碇シンジとしての最後の微笑みとなったのだけど、それは彼の今までの生涯で上等の部類に入る微笑だった、涙をぬぐったせいで顔まで血染めになっていたにも拘らず。

血塗れになる前もなった後も孤独だった少年はこの針金細工のような男、零崎双識の怪しげな勧誘でさえも孤独を癒す導になったのかもしれない、それに応える微笑かもしれない、血に染まった顔の微笑だったけど、それは極上の微笑で、何かが以前の少年とは何かが変わった、完全に何かが変化した微笑だった。

零崎双識は更に笑って応えた、それは頼れる兄貴の笑みかもしれない、やっぱり血塗れは気にしていない、人間の成れの果てにも気にしない。

その血塗れが人間の残骸が彼と少年を引き付けた鍵で絆なのだから。





なおこの時散乱していた人間の成れの果ての数は4名、皆十代後半の素行不良な男性。

殺害方法、刺殺、斬殺、撲殺、絞殺、殺害に使用された凶器、ナイフ、金属バット、ロープ、これらの凶器は被害者及び周辺へ落ちていたものを使用したと思われる。

極めて手馴れた人間の犯行、犯人は不明、目撃者無し。





四年間、シンジはそれから行方不明になった、彼の愚かな父親が彼の消息を掴むまでの四年間の行動は不明。

消息を掴んだのは愚かな男のシナリオと呼ばれるものが開始される寸前、ほんの数日前。

発見された少年は碇シンジではなくは零崎神識(かみしき)と名乗っていた。

シンジの“苗字”は“零崎”になっていた、あの時から碇と名乗ることは無かった。

勿論、愚かな父親は零崎の意味など欠片も知りはしなかった、知ろうともしなかった、知る価値が無いと判断した。

自分の息子を道具としてしか見ない愚かな男にとって息子の状態などどうでもいいものだったのだろう、道具を自分の意のままに操ることしか考えていないのだから、道具の意思など考えるはずが無い、道具の状態を考えるはずが無い、道具は道具なのだから、愚かな男は道具であるシンジを奴隷のように扱えると信じきっていた。

愚かな父親は愚かなシナリオの為、愚かなシナリオ通りに“零崎”を自分の懐に招いてしまう、それがどういう意味になるか欠片も知らず、“零崎”に牙さえ向くかもしれない、その結果がどうなることやら、どれだけの惨劇を生むことやら。

まぁ、懐に入るのは零崎だけではないのだろうけど。

それは作者たる私が知るところ、どんな都合のいい物語になるのやら。





ここで“零崎”とは何か。

“零崎”とは裏社会で有名な苗字,否、“総称”とでも言うべきだろうか、裏社会といっても殺人とか人殺しとかそういう方面、暗殺者とかいうね。

正確には“零崎”ではなく“零崎一賊”として名を馳せる。

裏社会で殺しに長けた一族“殺し名”と呼ばれる七つの一族の一つに数えられる一族、否一賊を“零崎一賊”と言う。

だが他の“殺し名”を冠する六つの一族と零崎は毛色が違う、異質、零崎は異質、零崎は異常、零崎は異端。

他の“殺し名”、“匂宮”は“殺し屋”、“闇口”は“暗殺者”、“薄野”は“始末番”、“墓森”は“虐殺師”、“天吹”は“掃除人”、“石凪”は“死神”となっている。

どの一族もどうしようもない“悪”党、どうしようもない人殺し達、どうしようもない人間達、どうしようもない一族、即ち人殺しの集団。

そのどうしようもない一族と比べても、“零崎”はさらにどうしようもない。

“零崎”は違う、“零崎”は異なる、“零崎一賊”とは“殺人鬼”、他の六つの一族とは違いすぎる、“零崎”とは比べられない、否比較することが間違っている、比較対象足りえない。

人殺しと殺人鬼は違う、人を殺す人間と人を殺す鬼はまったく別の生き物、一緒にするほうが間違っている、一緒にするほうが彼等双方にとっての侮辱、とんでもない侮辱。

だって、そうだろう、他の六つの一族はそれがどれだけの悪であれ、どれだけどうしようもないのであれ、彼等は人殺しの一族、人殺しを仕事と生業としている一族、人殺しをビジネスと見る一族、ビジネスと見れる一族、つまりは営利活動に等しい。

どれほど鳥肌の立つおぞましい一族だろうと彼等は人殺しと言う人間だから、人間には違いないから。

彼らの人殺しには意味があるから。

だから違う。

“零崎”は違う、“零崎”は他の六つの一族とは次元が違う、存在が違う、意味合いが違う、定義が違う、彼等は“殺人鬼”、読んでそのまま人殺しの鬼、人を殺す鬼。

人殺しと殺人鬼は存在次元そのものが異なる、これは力の差を示すのではなく、存在の差を示す、性質の差を示す。

“殺人鬼”にとって殺人とは、人殺しとは“生き様”、生まれ持っての性質以外の何者でもない人を殺す鬼、だから人を殺すことは当たり前、人を殺すことに理由は必要無い。

人を殺すことが当たり前と言うのが絶対の“隔意”、絶対の“差異”。

人を殺す鬼と言う生物にとって人殺しは当たり前、だから“零崎”は“零崎一賊”は異なる、違う、他とは違う、殺人鬼は殺人するから殺人鬼、殺人をしない殺人鬼なんて殺人鬼ではない、それでは言葉に矛盾が出る、人を殺さないでいられる殺人鬼なんているものか、人殺しの鬼なのだから、呼吸するが如く人を殺す。

彼らにとっての殺人とは、仕事じゃない趣味でもない、生き方、生き様、本能、習性、習慣、どれでもいいがそういうものだ、そういうものでしかないのだ、それ以上でもそれ以下でもないのだ、それ以外の価値の与えようがない。

それは他の一族とは違う、他の一族にとって人殺しは仕事だ、場合によっては人殺しをしない人殺しと言う存在も有りうる、人殺しを放棄することも出来る、彼等は人殺しをやめることも拒否することも出来るのだから。

だが、殺人鬼に殺人をやめることが出来るだろうか、性質である殺人をやめることが出来るはずが無い、彼らは殺人鬼なのだから。

だから存在定義が他とは違う。

故に“零崎一賊”は“殺し名”第三位に冠せられながら“殺し名”七つの一族で最も嫌われ最も恐れられる殺人鬼一族、絶対に敵に回してはいけない一賊。

“零崎一賊”。

最悪最狂最凶の殺人鬼一族、“零崎一賊”、人類最強といわれた赤い請負人も敵対を憂慮する最悪の名を欲しいままに冠する一賊。

まさしく最凶。





碇シンジ、否零崎神識は零崎双識の誘いにより一賊に加わった、一賊の一員となった、つまり零崎神識は殺人鬼、人を殺す鬼、人を殺す性質を持った化け物、否鬼。





因みに零崎は家族、零崎の名を冠するものは皆家族、孤独たる殺人鬼、人を殺す鬼であるが故に人と交わることの出来ない鬼達の家族。

零崎は零崎として生まれるのではない、零崎になるという認識が正しい。

生まれながらに殺人鬼の性質を持ってしまった殺人鬼達が、まぁ色々あって零崎になっていく、そう加わっていく、いつかその身に宿る衝動を抑えられず殺人鬼になった後に。

つまりは血族やそういう流れで一族を作るほかの六つともやはり違う点、彼等は殺人鬼が集まった“一賊”、山賊や海賊と同じ“一賊”、集団が形成する家族、ファミリー。

零崎神識を零崎に引き入れた針金細工のような男、零崎双識。

“零崎一賊”長兄“二十人目の地獄”の名を裏社会で冠せられる殺人鬼、少し変わった殺人鬼、“零崎”の中でも風変わりな殺人鬼、なにせ自分を平和主義な殺人鬼と自称するくらいだ。

先ず殺人鬼と平和主義と言う二つの言葉は相容れるのかと言う疑問を呈するが。

殺人鬼に変わっているも何も常人の尺度で判ぜれるものではないだろうが、まぁ変わってはいるのは確かだ。

それは零崎においても一般社会においてもと言う両方の意味合いで彼は変わっている。

“零崎一賊”に於いて最強に近い殺人鬼、彼は神識を助けたんじゃない、“勧誘”していたのだ、殺人鬼一賊“零崎一賊”に、殺人鬼としての性質を出していた零崎神識に、殺人鬼としての産声を上げていた零崎神識に。

自分達の家族にならないかと、自分達の孤独を癒す一人になってくれないかと、少なくとも零崎双識はそういう考えだったのだろうと思う。

殺人鬼は殺人鬼であるが故に孤独だった、殺人鬼といえど一人は嫌だったから、だから家族を欲する、孤独を癒やす為に、孤独を感じない為に、家族と言う繋がりを求める。

双識はシンジが哀れだったのではなく一人ぼっちの幼い殺人鬼が哀れだったのだろう。

無論この言葉に差なんてなくて、これは戯言だけど。

零崎双識はとても家族思いで、優しい兄貴だったから、“零崎一賊”に於いて、もしかしたら一番零崎を大事にする長兄だったから。

新しい弟の存在を欲していたのかもしれない、だから彼は神識を助けた都合のいい存在なんかじゃない、都合のいいヒーローなんかじゃない。

だが紛れもなくその時、その瞬間に於いては、零崎双識は零崎神職にとってヒーローだったのかもしれない、それは神識の主観問題だろう、そしてこれもまた戯言だ。

だって、兄貴が弟を助けるのは当たり前でそれが都合のいいことじゃなくて、不思議なことでもなくて、それは当たり前のことだろう。

家族の長が幼い家族を助けるだなんて事は当たり前だろう、そこに何の不思議がある。





第三新東京市、これより始まる舞台の地、妄執の地、欲望の地、饗宴の地、愚か者たちの地、そして殺戮の地、皆殺しの地、殺人鬼の舞台、天才達の遊技場、魔術師の談合場。

今日本日この時に零崎はこの地に立った、愚か者たちが自分で己が領地に招きいれた殺人鬼、その数三名、否三鬼。

零崎双識、零崎舞織(まいおり)、零崎神識(原作知っている方は、舞織と双識が同時に出れるわけが無いと突っ込まれそうだが、その辺はご都合主義と言うことで、便利ですよね、ご都合主義)。

針金細工のようなスーツの似合わない男、大き目の赤いニット帽を被ったショートヘアーで制服を着た見た目可愛い女子高生、そして双識のように髪をオールバックにして眼鏡を掛けて真っ黒のスーツを着た中学生ぐらいのやっぱり見た目のいい少年。

双識も見栄えはいいのに、その怪しさ爆発と言うか似合わないスーツのせいで見た目美男子が台無しになっているような気がする。

何故双識だと怪しくて神識だと怪しくないのだろうか、神識は完全に似合っているというのに。

まぁ、どうでもいいこと、まさにどうでもいい。

一見すれば少し変な人、変な三人組みで済ませられる三人が今駅で改札から出てきたところで、三人はそれぞれ口を開いた。

「さて、久々に遺伝子提供者の顔でも拝むとしますか」

と神識、口調も外見と一致して大人びている。

「ねぇ、神識。お姉ちゃんとハグしようハグ。姉弟のスキンシップは大切なのです」

と言いながら神識に既に抱きついている舞織、ブラコンだろうか。

「やれやれ。まぁ、私も一賊の長兄として挨拶くらいは必要かな。非礼に非礼で返すのは、同じレベルに堕ちることになるだろうしね。非礼にも礼で返す度量ぐらいあるってもんさ」

最後に双識、怪しいけどやっぱり兄貴っぽい、と言うか保護者。





で、この辺は本当に描写の必要などないだろうが、彼らが第三新東京市に来訪したのは。

その理由とは?

始まりは一通の手紙(?)。

恐らく言語中枢というか文書作成能力とか日本語表現能力,語彙力、その他諸々の言語、表現、意思疎通能力、もしくは人格形成に重度の欠陥があるというか重大な問題があるだろうと思われる人間が送り付けたであろう手紙、双識の言うところ非礼。

というか手紙か、これ?怪文書のほうが説得力あるぞ、と突っ込みたい。

「来い
                         碇ゲンドウ」


それ以外何もなし、何処に来いとか、何をしに来いとか意味を伝える語句は無い。

暗号かもしれないが、受取人がその暗号の解読法を知らない場合やはり暗号ではないのだろう。

よって差出人の言語関係の能力を疑うのは至極まともな選択となる。

因みに、受取人の名前は碇シンジと書かれていたりするが、これを受け取った本人は先ず受取人が自分であることを思い出すのに暫く掛かったらしいが、差出人を思い出すのに更に時間が掛かったのは言うまでもない。

彼は碇シンジではなく零崎神識だと自己を認識していたから、碇シンジはもう彼から見れば最も遠い他人のようなものだろう、彼からすればもう存在しない人間、永久に出会う事の出来ない人間に等しい、因みに碇ゲンドウは最も思い出したくない他人であった。

勿論同封された手紙の中に某対天使の名を冠する化け物殲滅機関のロゴの入ったカードと、第三新東京までの片道切符、緊急連絡先。

そして何より、変な写真、詳しく言うと猥褻写真、もう皆まで書くまでもないだろうが。

この女若作りして何考えてんの、これって風俗店のチラシ用の写真?(巨乳専門店)と確信できそうな際どい水着姿で胸を強調して写っている女(後一歩で三十路)。

本人の年齢を考えるとかなり痛い写真ではないかと思う。

加えて「シンジ君、私が行くから待っててね〜?+胸の谷間に注目!!!」と馬鹿っぽい文字で書かれていたりする(しつこいようだがこの人物29歳、精神年齢は不明(作者の推定では高くて小学校低学年、低くておサル以下である))。

やはりかなり痛い、何が痛いって、精神的なところを集中として色々と。

この写真を見ただけで判るのは、この人馬鹿なんだなぁと第一印象を持てそうだ、少なくともマトモな知的レベルの人間はこんな写真を男子中学生(女の子だったらいいわけではないが)に送ろうとは思うまい、しかも初対面に。

羞恥心が無いのだろうか、恥を感じる知性があるのならば絶対に送らないだろう、つまりは恥を感じる知性がない。

頭の中のレベルは街中でコート一枚、あとは全裸で徘徊するおっさんと大して違わないのではないだろうか。

言えるのは露出狂というか、痴女というか、まぁ殺人鬼だろうと人間だろうとその手の馬鹿に関わるのは嫌だろうし、差別の目で見ても致し方ない。

送りつけてくるほうが悪いのだし、しかし自分からその手の趣味を露見するのはかなり重症だろう、深くは言及しないが色々な意味において。

その手の性癖は隠して楽しむなら何の問題も無いが公共の迷惑になるのは避けるべきだし、この手の公序良俗に反する人間をなんと呼称するか。

世間様では大抵、偏見と差別を持ってこう表現されるだろう。

この手の人にたいしては変○さんもしくはキチガ○でも何の問題も無い。

因みにこの写真の人物を知る物が見た場合。

顔見知り程度なら、何故この女があのような立場、役職についているかを真剣に悩むかもしれない、もしくは単純に呆れるか、見下げるだろう、既に見下げられているのが更に酷くなるだけかもしれないが。

親友ならば、頭を痛そうに抑えて何故自分が親友をやっているのか原稿用紙数枚分は書けるぐらい悩むだろう(何を書いているのか、作者もよく分からないが、多分それぐらい悩む)、それに加えてこのような写真を送る人間の親友と認識されると自分の品位に関わるからその後の付き合いに関して、既に諦めてはいるだろうが再考するのはかなりの確率でしそうである。

最悪同族に見られたら頂けない、と言うか普通に生きていくのが困難になる。

なお、親友とは既に固有名詞に近い人物であるので悪しからず。





で、その手紙と呼ばれる文書形式に喧嘩を正面から売っている郵便物を受け取った当人の反応は?

当時を少し振り返ってみよう、といっても彼等が第三新東京市に来訪する数日前なのだが。

双識、神識、舞織の三人の殺人鬼、基本的には日本中フラフラしているのだが,殺人鬼なので定住しにくいのが事情かもしれない。

この時は偶々京都にいた、京都の知り合いの家に厄介になっていたのだ(碇家本家というオチではないのであしからず)、因みに厄介になっていた家は高級マンションを2フロア買い占めるような金銭感覚の無い金持ちである。

勿論知り合いとやらもとんでもない、殺人鬼と平気で付き合える人間がとんでもなくなんかないわけがないのだが、端的に言うと天才と分類される人種とだけ言っておこう。

その辺の人物紹介は後日と言うか後ほど、もしくは多分保証はないけど出てくるからその時。





厄介になっている知り合いの家に届いた怪文書が(作者はあれを手紙とは認めない)どういう経緯で届いたのかを神識は非常に疑問を受けた。

それも其の筈、自分の居場所を探るのはかなり困難である筈である、隠れたり逃げたりしているわけではないが日本中にウロウロしているのだ、郵便物が自分宛に届くことなど稀有を通り越して皆無。

居場所のわからない人間に郵便物の配送など不可能なのだから。

そんなことを深く考えない性格にここ四年間でなっていたのだが一応疑問は覚えた、疑問を覚えてもそれだけではあったが、只「不思議なこともあるんだなぁ」とかそういう感想を感じておしまい、自分の居場所を特定出来そうな人に心当たりが無かったわけでもないらしいが。

まぁ、神経図太くなっているんですシンジ君もとい神識君。

この場合、中身を見ればそんな疑念など吹き飛ぶだろうから大して問題ではないが。

それ以上の疑念が目の前にあるのだから、小さな疑問など吹っ飛ぶと言うものだ。

怪文書とイカレ女の水着写真+α。

送った人間の精神構造に疑問がいくのが間違っているだろうか、些細な疑問の前に重大な疑問がある場合それに目がいってしまうではないか、このイカレタ内容には矮小な些事など吹き飛ぶと言うものだ。

幾ら殺人鬼とはいえ世間一般の常識(?)は普通に弁えている神識である。

そりゃ殺人鬼になってから4年間の生活で変人奇人変態の様々な人間を知ってはいるだろうが、極め付けだろう、因みに自分がその奇人変人の一人であることぐらいは自覚している、奇人変人変体の筆頭が自分の兄、双識だと思ってもいるが。

そんな生活を送っている神識から見ても幾らなんでもこの手紙は無い。

と言うか怪文書だってもう少しホラ、なんか書くことがあるだろう。

「死」とか「怨」とか「殺」とか一文字で送られてくる怪文書のほうがまだ意味が通じるんじゃないだろうか、まぁこの例は判り易過ぎるが、何を願って書いたか一目でわかるから。

神識は自分宛だと理解する数十倍の時間を掛けて、いやもしかしたら数百倍かもしれないが何とか手紙の送り主と内容を(なんとなく多分そうじゃないかなぁ、という程度には)理解して。

にんまりと笑ってから。

唐突に。

本当に唐突に、予備動作無しに。

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!」

大爆笑を始めた、それはもう喉が裂けんばかりに、声が枯れんばかりに、天に届かんばかりに。

目から涙を滲ませて、口を大きく開けて、頬は引き攣り身を捩じらせて、肩を痙攣さえ腹を抱え、全身を現して大爆笑していた、これ以上愉快なものは無いといわんばかりに最高の大爆笑である。

気が狂ったとばかりに、この言葉は彼らにとっては戯言かもしれないが。

既に狂っているのかもしれないのだから、人間としては、飽くまで人間としてはだが。

何が彼をそれほど愉快にさせたのか、何が彼を其処まで笑いに引きずり込んだのか。

そこはそれ、色々である。





現実的問題として、屋内でそんな笑い方を長時間すれば本人以外の他人に興味を持つなと言うのは無茶と言うかいっそ暴力と言い換えてもいいだろう。

誰しも短時間であれば少し気に掛かる程度かもしれないが、それがここまで大音声、長時間に笑われると好奇心と言う猫が沸いて出てくるものである。

一部の人間はなにやら作業中であったのか来なかったが、そいつは集中するとこの程度の雑音を気にすることは無いだろうし、因みにそいつはこの家の家主だ。

来たのは双識と舞織、彼の真の兄と姉である(順序的には舞織は神識の後に零崎になったのだが年齢的に姉と呼んでいる)二人。

因みに弟の大爆笑に興味をそそられて来たのであって、弟が突然絶叫ともいえる大爆笑をしたことに対しては欠片も心配していなかったが、愉快なことがあると良く大爆笑するのである、確かに今回は過去前例が無いくらいの規模であったが。

二人の感想としては「また、何か面白いことでもあるのかな」ぐらいである、やはり世間からはズレてる二人だろう、まぁマトモなわけは無いのだが。

その後、目の前で既に声も出ないのか腹を押さえて、おそらく横隔膜が痙攣でも起こしたのだろうか時折体を痙攣させそれでもなお笑い続ける弟の復活を待ち。

手紙を見て、何故笑ったのか大体の説明を受けると、二人とも爆笑した、神識ほどではなかったが。

因みにまさにどうでもいいことではあるが、双識は「フフフフフフッ」であり、舞織は「キャハハハ」であったりする、双識の笑い方が不気味である。





更に追記すると。

双識が爆笑したのは、“零崎”に対してその手の手紙を送りつける神経とその文体である。

双識は碇ゲンドウなんて人物がどんな人間かなど知らないし、ネルフと言う組織も知らない、純粋に面白かったからと彼らの無知に対して爆笑したのである、そして興味もわいたらしい、この二人の馬鹿は何処まで馬鹿なのかと、馬鹿さ加減を見てみたいと。

舞織は痴女に対して殆どである,同じ女性として軽蔑できるものがかなりあるだろうがその辺の嘲笑を含めての爆笑、見た目若作りのオバサンの子供っぽい文字も笑いのツボだったらしいが。

因みに私の可愛い神識になんて破廉恥な手紙を送るんですか、と少し立腹でもあったらしい。

彼女は彼女でかなり家族愛が強く、特に神識に対しては偏愛といえるぐらいの愛情を注いでいる、まぁ、家族とはいえ血の繋がり等無いので何処までも行ってくださっても全く、これっぽっちも問題ないのだが、何処までいっているのかは不明だ、家族レベルであればいいのだが、まぁ、前述した通りそれ以上でも何の問題もない、やってくれていたほうが作者としては面白みが出てよろしい。

色々とナニを。

で、最後に神識、彼の大爆笑の理由は。

確かに、痴女もしくは風俗のチラシ用の写真や、あの怪文書以下の内容しかないものもかなりあったのだが、それは些細な要因だ。

それ以上の理由、最大要因。

期待だった、勿論あの父親のことを思い出して良い方に期待するほど楽観主義ではないし妄想願望も神識は持ち合わせていない、ましてそんな期待では爆笑はすまい。

あの男にその手に期待を掛ける価値など無いし、今まで存在を忘れていたぐらいである。

何を期待したのか?

それはどんな茶番が用意されているかと言うことだ、どんな思惑があるのだろうかという事に対する期待。

神識は現在の自分の遺伝子提供者が何をしているかなど知りはしないし興味も無い、この四年気に留めたことも無い、だが人となりは知っている、どんな人間かぐらいは知っている、自分を思って呼ぶなどありえないことなど理解しすぎるほど理解している。

父親と世間で定義される存在がどんな種類の人間であるかなど自分が一番理解しきっている、いや理解するしかなかった、幻想など抱く余地にはあの男は存在していない。

そんな価値は無い。

そんな風に神識に固定的に考えられている(そして間違っていない)男が、何の為にこんなものを送りつけたのか、そして自分を呼びつけてどんな思惑の茶番を繰り広げる気なのか、そして現在の自分をどうやってその茶番に組み込む気なのか。

期待することが多すぎる。

体中が興奮するぐらいに。

自分があの男の考える自分とは遠くかけ離れているはずだから。

“零崎神識”がどんな存在か,碇シンジとは遠く離れているのは自分が一番良く知っているから、今の神識をどのように茶番に組み込む気なのか。

自分がその茶番をどのように引っ掻き回せるのか。

愉快になれる期待が多すぎる。

あまりに多すぎる、抑えられないほど。

だから感情の発露としての笑いであり、それが度を越した大爆笑となった。

つまり零崎神識は父親の思惑に乗るつもりは無いがその用意された茶番がどんなものであるかと言うことに非常に興味を覚えた。

どんな茶番が用意されているかと考えると体が震え、興奮が抑えられなかった。

その茶番をどういう風に掻き回してやろうかと悪戯好きの子供のように胸が躍った。

久々の興奮をくれた父親に感謝の念さえ感じて、あの失礼な怪文書の内容に応じることにしたのである、無論前述の通り父親への良い方の期待感など零であるが。

一応ネルフに付いての情報は居候している家主に頼んで出来うる限りの情報収集をしてもらったが、その家主情報収集と言うか機械、特にコンピューター、情報工学系の知識ならばまさに天才、名は知られていないが世界一も過言ではない天才。

結果ネルフの殆どの情報は双識らの知ることとなっているのだが。

つまりはネルフご自慢のMAGIは誰に知られることもなく落とされたと言うわけである。

その無銘の天才を頂点とする“チーム”に。





神識は切符に記された日に双識と舞織と共に第三新東京市を訪れた。

己が快楽の為に。

因みに双識と舞織はただの興味本位でついてきただけである。

双識は馬鹿の顔を見物に。

舞織は写真の女を警戒して付いてきたと言う理由は有る「神識が悪い女に手篭めにされたらどうするんですか、まぁその時はその人の家族縁者知り合い友人皆殺しにしちゃうわけですけどね」と笑って神識に抱きつきながらのたまった、そんな心配は無いと思うのだが、神識は“零崎”なのだから、そう易々と手篭めになどされまい。

まさしく発想が殺人鬼、因みにこの場合家族に危害が加えられたと言う理由による殺人である。

その言葉に双識は呆れたように肩をすくめて、神識は姉に接吻で返したのではあるが。

熱々ラブラブな姉弟愛&バカップル、見ているだけでお腹一杯である。





さてここまで前置きが長かったがこの当たりがアニメの第一話の冒頭シーンだろうか。

本当に長いなと突っ込まないでいただけると有難い。

で、やっぱり迎えに来ない別の作品では有能とされる女性(作戦妨害部長としてだが)葛城ミサト、まぁ彼女が間に合うなど読者の誰も期待などしていないのでまさにどうでもいい。

本当にどうでもいいからだ、先ず間に合うはずが無い。

双識達、手紙に同封されていた電車よりもかなり早い時間帯の電車に乗り込んでいたのだ。

勿論到着するのも早いし、その辺では非常警体制など発令されていない、理由としては一番大きなものは舞織が破廉恥そうな女に出会うから彼女を無視して行こうと提案したからである、どうやら舞織、神識に対しての嫉妬心と執着はかなり高そうだ。

次点の理由は到着時間が茶番の仕組みの一つかなと神識が思いついただけで、それ以上の理由はない。

当たっているだけにいい感をしている、原作では時間の無さでシンジ君を追い込んでいた節がある、まぁ牛さんの遅刻や迷子あたりは向こうの予想外なのかもしれないが、牛に任せる時点でその程度予想済みかもしれないし。

ネルフの位置などの事前情報はとっくに入手済みである勿論非常回線の電話番号なども当然の如くである、準備の良い事だ。

よって駅前にあったタクシー捕まえてネルフの近辺まで移動。

後は目に付くところにいた守衛さんに手紙を見せて、守衛さんが上に連絡して暫く待ちぼうけであった。

手紙を見た守衛さんの反応が見物だったことだろう。





因みに非常警戒態勢に入ったのはこれから暫く後だった。

更に追記、牛さんは自宅でお腹を出してビールの空き缶に包まれて幸せそうに惰眠をむさぼっていましたとさ。

その牛がネルフと言う軍事組織の戦闘に関する最高責任者、葛城ミサト作戦部長なのであるがやはりこのSSでもネルフの恥部、葛城作戦妨害部長(このSSでは既にそう呼称されている、仕事はしない、主に技術部、リツコの邪魔はする、アルコールを飲んで業務時間中に徘徊し適当な人間を見つけてはカラムなどが命名理由である、勿論将来の作戦に必要な仕事も全くしないと言うのもあるが、本当に復讐する気はあるのだろうかと疑問に思う、現時点では他人の業務妨害から付けられた名称なのであるが、使徒戦で正式な意味合いとなるだろう)となることは確実なのであろう。

この後、部下から連絡を受け起こされるが。

やはりお年なので気になるのか身支度だけはしっかりして、と言うかこの女の取り柄は外見だけである。

ご自慢の愛車で待ち合わせから二時間以上遅れて駅に向かわなかった。

どうやら、サードチルドレン確保と言う自分の仕事を完全に忘れ去り、長年の復讐の相手が目の前にいるのだからそんなこと知ったことじゃないとばかりに異常に興奮してネルフに法定速度無視で暴走して駆けつけたようだ、多分迎えにいくこと自体を忘れていただけだとは思うのだが、まぁ牛なんだから。





で、時間を遡って双識達を迎えに出てきたのはネルフの才媛赤木リツコ,白衣を纏った金髪の妙齢の美女。

迎えに出てきたときの彼女の表情は辛そうな表情を貼り付けていた、何が辛いのかは判らないが、その辺はご想像にお任せしましょう。

あと何故にこの人忙しいはずなのに来るなんて突っ込みは無し、サードチルドレンはそれなりに重要なのですから。

重要な割には牛に任せたりと扱いがぞんざいだが。

「貴方が碇シンジ君」

どこか哀れみの篭った目線で神識に問いかけてくる赤木リツコ、まるで神識の未来を暗示するように、実際に彼女は神識の未来をある程度予測してそれに心を痛めているのだが、彼女は好き好んで中学生を痛めつける趣味もなければ、それに良心の呵責も覚えないほど非情な人間ではない。

その内心の感情が零れて表情や視線となって表れている、どうやらここのリツコかなり人間的にマトモなのかもしれない、ネルフ上層部では稀有な人格を有している可能性がありそうだ。

「いえ、まぁ確かに碇シンジでしたけど今は零崎神識と名乗っていますので、以後間違えないようにお願いしますね。この名前は私の誇りのようなものですから」

とやんわりと訂正するその目線には言い様のない迫力が篭められていた、間違えればどうなるか判らないそう思わせるだけの迫力が。

「それで貴女は、お名前を聞いていません」

神識がリツコに問いかけるその表情は柔和な微笑み、先ほどの威圧感などなかったかのように消えうせている、威圧感を出したときも微笑んではいたのだが。

傍目には表情さえ変化したように写ったのではないだろうか。

「ああっ、そうね、名乗っていなかったはね私は赤木リツコ、ここで科学者をしているの、シン・・いや神識君」

途中言い間違えそうになって慌てて訂正するリツコ、どうやらその間違いは危険だと本能が訴えているようだ、神識の威圧感如何程のものなのだろうか。

そしてリツコが続ける。

「で、神識君、その二人は誰なのかしら」

当然の疑問だろう、呼んだのは“碇シンジ”なのだから“零崎神識”でさえ当惑すると言うのに、ネルフの資料にはない二人、組織の性質上調べる必要があるし。

それに加えて気になるのが人間だろう。

「零崎双識と零崎舞織、私の兄と姉です、血は繋がっていませんが私の家族ですよ、赤木さん」

大人びた丁寧な口調で喋る神識、どうやらこの喋り方が彼の他人に対する接し方のようだ。

そして神識が続ける。

「今日の呼び出しには兄と姉も一緒に行かせて貰いたいのですが、構いませんか赤木さん。
別に構わないでしょう、私を捨てた父親が何の用事か知りませんが今更になって私を呼び出した。その席に今の家族が同伴しても何の不思議もないでしょう、もし駄目だと言われるならここで帰りますので」

なお神識はマジで言っていない。

これから起こるイベントに心躍ってはいるのだ、ここで帰るなどとんでもない。

それでも出来るだけ嫌がらせの要素を入れたいと考えている、それには自分の他に姉や兄がいたほうが盛り上がるだろうし、どうせなら兄弟で楽しみたい、それに姉は絶対に付いてくるだろうから。

態々捨てた息子を呼びつけたのだ、しかも怪しい組織に来るようにと、そのあたりを考えて自分に帰られたら困る事情でもあるのではないかと踏んでいるのでこの要求は通ると神識は確信している。

と言う以前に、初号機とやらのパイロットのところに既に碇シンジと書かれていたからここで返されることは無いと分かりきっているのだから、ちょっと性質が悪いかもしれない。

事実、ネルフとしては神識に帰られるわけにはいかない。

ここで帰られたら愚かな男のシナリオとやらが最初から躓いてしまう、愚かな男の目的には神識は絶対でないにしろ必要な駒なのだから、表向き裏向き両方にとって。

因みに神識が予想よりかなり速く来ているので、当初のシナリオからは少し既にズレているのだが、まぁその辺は些細な誤差でしかないだろう。

よって、リツコは僅かな逡巡の後こう言った。

「ええ、構わないわ、それではこちらに」

そうして彼らは地上から地下にあるネルフ本部へと向かった。





なお、この時点で既に本来の神識が駅に到着する時間を経過している。

勿論現在牛さんは睡眠と言う名の惰眠を貪っていたりする、起きるまで後暫く時間は掛かるだろうが。





目的の場所、リツコが神識を案内せねばならない場所に至るまでリツコは双識達と会話をしていた、まぁ、移動以外に他にすることがないのだから会話するだろう。

双識、神識、舞織、共に人当たりは悪くない、変わってはいるけれど、変人で済むレベルだろう、キチガ○に分類される人間の有害作戦部長殿と普段から付き合っているリツコにその手の変人レベル気にならないこともないだろうが受け入れられないレベルではないということだ、髭とか他にも変人で済ませられない人間がいるせいかもしれないと言うのは多分にあるだろうが。

「で、赤木さん、私は何であの遺伝子上の父親と分類される生物から呼び出しを受けたのでしょう、知っていますか?あの男が用も無く私を呼びつけるとは思えないんですが」

勿論髭の事であるが、神識、そこまで嫌なのかい、あれと血の繋がりがあることが、そこまで長ったらしい名称で呼ぶってことは、まぁ父親とは絶対思っていないだろうが。

嫌に決まっているか、ご面相はともかくあの態度や性格を片鱗でも知っていれば血縁関係は御免被りたいところだろう。

だが、この質問リツコは正直に答えることが出来ない「エヴァという兵器に乗って使徒と呼ばれる化け物と戦って欲しい、訓練無しで」、なんて言える訳がない。

まず信じてもらえないか、正気を疑われるだろうが、信じてもらっても今度は帰られかねない、リツコとしても神識を連れて行くのは不本意だが、ある事情により神識を連れて行くことの拒否は出来ない。

なお、神識のゲンドウに対する呼称に少し戸惑ったりもしていたりする、内心、嫌われていて当然ね、と思い直したので直ぐに納得したのだが。





でリツコの事情とは。

このSSのリツコ、赤木リツコは確かに天才に分類される科学者であり、ネルフに所属するエヴァンゲリオン開発に関わっている研究者であり、この点に違いはない。

だが、彼女は外道でも非情でも冷酷でも鬼畜でも人間の尊厳を放棄した人間でもない。

本来至極まとも良識的な人間で、善人と区分できる人間で、優しい人間と言っていい人間、まぁ優しさは人間の長所ではあるが欠点ともなるのだが、これは戯言。

ネルフに在籍しているのは亡き母の研究を引き継ぎ自分の知識欲を満足させるため、確かに彼女は人類の為と言う意識が薄いが、大体普通の人間に人類の為の戦いなど実感を持ちにくいだろう、あまりに事が大きすぎる、少なくとも始めはそうだった、母が死んだ当初は。

では何故、リツコはシンジ、否神識を使うような非情な非常識な無謀な手段をとることを承知しているのか、幾ら人類の為とはいえ、並の人間ならば断固として反対すべき愚考を承服しているのか、いや承服はしていないのかもしれないがそれを知って従うのか。

更に言うとE計画、人類補完計画という外道な業に生物の尊厳を踏みつけるような大罪に従事させられているのか。

この世界のリツコはゲンドウにレイプなどされていないし、赤木ナオコもゲンドウと男女の付き合いがあったわけではない、よってリツコはゲンドウとの男女の関係での弱みをもたれているわけでは決して無い。

赤木ナオコがゲンドウに殺されたのは変わりないが、それはリツコの知ることころではない、もし知っていれば尊敬する母を殺した人間の下で働くようなことはしないだろう、復讐するかは別として。

赤木ナオコが殺された理由と現在リツコがゲンドウの言いなりになって外道の研究を無理矢理やらされているのには共通項がある。

たった一つの共通項。

“綾波レイ”

たった一人の少女の存在。

赤木ナオコは当時幼少であったレイを娘のように可愛がった、リツコが嫉妬するぐらいに。

赤木ナオコはレイの出生の秘密を知ってなお可愛がり、愛することが出来た人間、人間としては上出来な部類に分類される人種。

リツコの幼少期、まだ研究者として駆け出しで女性であったナオコは天才といえどそれほどリツコに構うことが出来ず、ナオコの母、リツコの祖母に押し付けてしまって子供の世話を焼いたことのない反動かもしれないが身元不明とされていたレイの世話をよく焼いていた、自分の娘のように。

それはレイにリツコには出来なかった母親らしい行動をしたかったのかもしれない、そういう代償行為で可愛がっていたのかもしれない、それでも愛しているといえるレベルでレイに構っていたし、レイも懐いていた、本当の親子のように。

それならば代償行為でも、何でも構うまい其処に愛情が在るのなら、人と言う定義から外れる存在をそのように愛せるのなら。

リツコも当時、大学生で妹のようにレイを可愛がっていた、確かにナオコの世話の焼きようは実の娘としては複雑なものがあったのかもしれないが、素直な可愛らしく成長するレイを見ればそれでもいいかと思えるようではあった、リツコにもレイは懐いていたので可愛くない筈が無かったのだ。

そのまま成長すればレイは快活な、それほど悪い人間には成長することはなかっただろう、確かにアルビノという生来のハンディを背負っているが支えてくれる人間が居ればなんとかなるものだ、少なくともレイには姉と母の替わりになる存在が居た、間違いを正してくれる存在が居たのだから。

だが、それを快く思わない人間も居る。

綾波レイが普通の女の子に成長しては困る人間が。

つまりは碇ゲンドウ、リリスの申し子たる綾波レイ、妻の似姿たる綾波レイ、そして計画の要となることが判った綾波レイは自分に忠実で人形のような存在である必要があった。

自分の意のままに動き、自分を妄信する人形である必要が、まるで愛玩動物や実験動物のように。

この男はレイを、綾波レイを自分の都合のいい状態に追い込むためだけに赤木ナオコを殺し、二人目へと変え自分に依存するように自分を唯一視するよう教育、もとい調教した。

自分の欲望の為だけに。





母が死んで暫くリツコは綾波レイの存在を知ることは無かった、リツコ本人は母が死んだのだから別の誰かが引き取ったと考えていたようだが(この時リツコはレイがどういう事情を背負っている子供だったかまるで知らなかった)。

当時のリツコはネルフに入ったばかりで普通は子供一人養うという選択は少し難しいし、選択する前にレイはどこかに行ってしまっていたし、心配はしてもどうすることも出来なかったのが実情だろう。

再びリツコが綾波レイと出会ったのはそれから数年後、ゲンドウが人類補完計画においてリツコの才能が必要になった時であった、因みにそのとき髭は短絡的に赤木ナオコを殺したのを後悔したらしいが、後の祭りである。

その時、レイは感情も表情も希薄な少女でまるでお人形のようになっていた。

レイの様子を見てリツコはゲンドウに言及したが、勿論あの外道な男にそのような追求が通用するはずが無い。

何の思惑も無くこの男がレイとリツコを引き合わせるわけが無い。

ゲンドウはリツコの人間性もリツコとレイが姉妹のような関係であったことを利用した、嘗ての可愛らしさを失った無表情なレイに嘗ての様に「リツ姉さん」と呼ばせることでリツコの近親の情を思い起こさせたのだ、嘗て妹のように可愛がったレイへ注いだ愛情を思い出させるために、リツコへの妹への執着を植えつける為に。

なんとも厭らしいやり方、人の心をもてあそぶやり方、なんと外道なやり方。

そしてゲンドウはリツコに、レイを弱みとして研究を、おぞましい吐き気のするような研究の協力を迫ったのだ、リツコの人間としてのレイに対する姉としての感情を利用して。

非常な手段、非道な手段、外道な手段。

人間を怖がる愚かな男は、その臆病さ卑小さを隠すために卑劣な手段、人間の情を弱味を武器とする手管に長けていた、自分を保つ為に。

そしてリツコはレイを自分が預かるということを条件にゲンドウに下った、リツコはネルフからレイを連れて単身逃げることは不可能だと理解しており、自分ひとりが逃げ出してもレイがどうなるかが判らない、いや絶対に悲惨な目にあることを否応無しに確信させられていた。

故に完全なリツコに対する鎖としてレイは機能していた、ゲンドウの思惑通り。

リツコはレイが居る限り、ゲンドウの忠実な駒であり続けるしかなかった、それ以外の選択を与えられなかった。

因みにレイがリツコによって人間性を復活したり自分を求めなくなったとしても、その時は三人目にして、再度調教すればいいと考えていたりする。

なんとも外道な男である。





で、会話に戻る、神識の質問に答えたリツコの台詞は、因みに応えるまでに若干の間があった、どう応えるか逡巡していたのだろう。

「さぁ、私は知らされていないから、直接聴いてもらうしかないわね。でも確かに司令、ああ、貴方のお父さんはこの組織の司令なんだけど、司令が親子の情で呼び寄せたとは考えられないわね、そういう人間じゃないわ」

嘘はついているが、直属の上司に対してその実の息子に言うことではないだろう、これから神識に待ち受けていることを考えると疑念を与えるだけの言動だ。

最低限のリツコの抵抗だろうか、それとも神識にゲンドウに余計な希望を持たせないようにしている最低限の気遣いだろうか、どちらにしろリツコの些細な反骨精神の表れだろう。

少しでもゲンドウの思い通りにならないように、少しでも吐き気のするシナリオが破綻するようにと。

だが、神識は最初からゲンドウの仕組んでいる茶番を掻き回す為にここに態々足を運んだのだ、余計な気遣いだろう、彼はゲンドウの言いなりには決してならない。

だがその余計な気遣いが、双識達、MAGIでこの組織の内情、人類補完計画、その他諸々を知っている双識たちには僅かながら彼女に対しての考えを変えさせることになる。

いや彼女の評価が彼女にとって良い方に傾いたということか、その最終判定は目的地に着くまでの会話で決着が付くだろう。

判定、勿論それは“零崎双識の人間試験”、この双識の試験に“不合格”となった人間がどうなることか。

不合格者に待ち受けているものは何なのか、それは彼等が殺人鬼であることを考えたら容易で、容易く、明瞭に、簡潔に、安易に、結論付けられることには違いない。

「ふぅ、判っていましたが、評判が悪いようで。ああ、気にしていませんよ、あの男の性格は把握しているつもりです、まぁ記憶上、生涯数度しか会ったことがありませんが、逆にどんな人間かは想像が付きます、その程度しか実の息子に顔を合わせていない男なんですから」

言われるもんである、ゲンドウ未だ登場すらしていないのに扱いの悪さって言ったら。

「それに私は親子の情を深めに来た訳でもないですから、この怪文書を受け取ってそういう期待を持てる人は稀有でしょうし」

といって、スーツの懐から手紙、否怪文書(飽くまで作者はあの手紙を手紙とは認めない)を取り出す神識。

「その当の怪文書ですが見ますか、赤木さん」

リツコの目の前に差し出される封筒、リツコも怪文書と言う言葉に興味を覚えたのか受け取ると。

見て、一秒で固まった、それはもう擬音がするぐらいにガッチリと。

因みに、その後親友(多分)の写真を見た瞬間にはズッコケてくれた。

中々にいいリアクションを取ってくれる天才科学者である。

なお写真を見て暫くしたとき上記に記したこと(親友との付き合い方)をマジに考えたそうだ、考えたところで詮無きことではあるだろうが、個人的意見では早急に付き合いを止めることを提言する。

復活後、因みに律儀に双識達はリツコの復活を待っていたり、双識は起きるのに手を貸していたりする、何気に親切かもしれない、殺人鬼。

「その、何て言うか、・・・・・この手紙で来てくれたの、神識君」

このときリツコは内心(あの外道髭、日本語も知らないでよくあの立場に立っているわね)とか他にも色々、誹謗中傷(しかも間違っていない評価)を考えていたが、その辺は口に出していないが。

更に神識がここに来ているのもマジに不思議だと思ったりしていた、少なくともこの手紙で来る人間は稀有だろうと考えたらしい、実際あれ受け取ってくるやつ居るかなと作者も考える。

「まぁ普通は来ないでしょうが、ここまで意味の分からない怪文書だと、逆に興味をそそられまして。ほら、どんな茶番を企んでいるのかとか。それに兄と姉もこの送り主の顔を拝んでみたいようなので、あんまり面白いものじゃないでしょうけど」

なお神識が面白くないといっているのはゲンドウの顔の事で、茶番(シナリオ)のことは存分に楽しみにしている、娯楽に飢えているのだろうか。

「まぁ怖いもの見たさの見物気分見たいなものです。私達に怖いものなんて早々ないんですけどね」

と、笑顔で言う舞織、実際に彼女等が恐怖する存在など早々ない、最強の赤色くらいの化け物を除いて(この方は後で多分でます神識側で)、そして彼女は例外だ。

因みに双識はニヤリと笑って何も言わなかったが、何かを期待している種類の意地の悪い笑みを浮かべていた。

「そう、来てくれたことに感謝するわ。後、非礼にも謝罪を」

どうやら他人の不始末でも頭を下げ礼儀を尽くせる人間らしい、こういう点が双識達の評価に繋がっていくのだが、それはまた別の話。

双識が手を翳して「気にしていません」といった感じで受け応えていたりする。

そして会話は続く。

歩みも続くが、会話も続く。

「そういえば、神識君。何でこんなに早く来たのかしら、予定していた時間より随分早いようだけど。何か事情があったの」

普通に思いつく疑問だろう、だが応えは簡潔に一言でけりが付く、明確に。

「あんな破廉恥な写真を送ってきた人に会いたくなかったからですよ。何ですかあの人、ここは国連所属の組織のようですが、あのような知性の欠片もないような人が居るとは思えませんし、私の遺伝子提供者の愛人ですか?」

ゲンドウの愛人にされてしまう国連組織の幹部の一人葛城ミサト作戦部長、階級一尉。

但し神識達の評価。

巨乳のイカレ女、恐らく風○系。

なにやら会話を続けるたびにリツコの応えにくい方向に会話が流れて行っている様な気がする、なんとなくこんな会話の受け答えをしなければならないリツコが非常に哀れである。

哀れんでも状況が変わるわけではないが。

「そ、そう、早く来てくれてこちらも助かっているわ、あと彼女も一応ここの職員なのよ」

応えにくそうに誤魔化すリツコ、あんなことを言われた後に同僚でこの組織の作戦部長で幹部ですなんて言える訳がない。

なおリツコに神識の誤解(ゲンドウの愛人)を正す気はこれっぽっちも無かった、幾らなんでも自分にこんな答えにくい質問に返答を求められたささやかな復讐としては可愛いものだろうと。

因みに作戦部長に連絡が行くのはこれから更に後のことなのだが、そのせいで今回ほとんど出番が無いのだが、そんなことは知らん、自業自得である。

本来なら既に迎えに言っている時間なのだから。

神識にその後、この破廉恥な人ここで何をしている人なんです、と聞かれてリツコが答えられなかったのは言うまでもない。





ここで、双識が会話にと言うより神識が下がり、双識が先頭に立ちリツコと並ぶように立って歩き出す邪気の無い笑みを浮かべた自称平和主義の殺人鬼。

“人間試験”を趣味とする殺人鬼、本当に変わった家族を愛する殺人鬼、零崎双識。

「赤木リツコさん。リツコさんと呼ばしてもらっても構わないかな。いきなりで名前を呼ぶのも失礼かもしれないけど、私は見目麗しい女性には出来るだけ親しげに会話を楽しみたいと思っているんだよ。構わないかねリツコさん」

双識がフレンドリーな口調でリツコに名前で呼ぶことの許可を取ろうとする。

因みに口説いているわけではない、自分が零崎以外と親しくなれる人間は限られていることを理解しすぎるくらいに双識は理解している。

単純に話しやすいから、名前で呼ぶ許可を取っているのだろう。

「ええ、構いません、零崎双識さん」

リツコも拒否する理由は無い、丁寧に許可を求める行為や世辞に良い印象を持っているくらいだ。

その許可を受け、双識が口を開く。

「さてリツコさん。貴女は私の弟、神識がここに呼ばれた本当の理由を知っているのかい。おっと、聞き方が間違っていたかな、紛らわしくなってしまう。よし、言い直そう、貴女は神識がここに呼ばれた理由を知っているのだろう、赤木リツコ博士」

唐突に聞いた、あまりに唐突だったので、リツコの体が一瞬震えた、だがそれだけで回答としては十分。

双識はそんな人間の動きを見逃すほど注意力散漫ではない、それだけで“知っている”と言うことは理解している。

そしてリツコが口を開く前に。

「ああ、応えなくて結構、今の反応で十分判った。貴女は知っている。その内容を話せなんて言いやしませんから安心を。貴女が正直な反応をしてくれて大助かりだ、それで十分だ。これで神識に何らかの茶番が用意されているのが確信できたからそれでよし。大体何かあるかなってぐらいには分かっていたんだけど、確認は取らないと、こちらの勘違いで疑念を抱いては頂けない、失礼ってもんだ」

それに、それじゃあ間抜けってもんだろ。

そう双識がのたまい、更に双識が口を開く、ここからは独り言のような口調で呟くように、それは隣に居るリツコにさえ聞き取ることが困難なほどだった。

「ふむ、では何を企んでいるんだかネルフは。彼女が興味を示していたロボットのパイロット、幾らなんでも支離滅裂だろうに、そうだったら流石の私も驚くが、神識をそんな風に扱う。それは零崎に喧嘩を売るってことになるだろう。いやはや私は平和主義なんだが喧嘩を売らない限りは我慢しようってのに、喧嘩を売る限りは仕方が無い。人識じゃないが神識にそんなことを押し付けるつもりなら。殺してばらして並べて揃えて晒してくれよう、碇ゲンドウ」

何か思考に耽るような呟き、かなり物騒な内容だが、零崎に喧嘩を売れば絶対に避けられない運命だろう。

一瞬で殺され。

バラバラに解体され。

地に己が死体の破片が並び。

全身の部品が余す事無く揃わされ。

隠されること無く晒される。


零崎に喧嘩を売った者の末路は等しく似たようなものだ、殺して解して並べて揃えて晒される、喧嘩を売った本人も、恨みを買わぬように親類縁者知り合い友人も余す事無く皆殺し、一人残らず皆殺し。

ほんの僅かな関係者も見逃さない。

その後も思考から回復した双識が他愛無い会話をリツコとすることになるが、やはり変わったネタを振るわれるリツコは不幸かもしれなかった。

その間後ろを歩く神識は舞織に抱きつかれて、中々疲れる体勢で通路を歩いていたと追記す、本当にラブラブな姉弟である。

なおさらに追記すると、一連の会話で双識のリツコの評価は“合格”のようだ。





≪赤木リツコ――合格≫





そして、暫くの時間が経ち到着する皆殺しの野と化すであろう場所。

ネルフ、エヴァンゲリオンケージ。

この時、この先、この未来、血が迸り、血が噴出し、血が舞い飛ぶ饗宴の舞台。

零崎を知らぬ愚か者が零崎に喧嘩を売る舞台。

愚かな男は知らない、いつも姑息な矮小な手口で人を騙し蹴落として己の卑小さを持って成り上がった男は知らない。

喧嘩を売れば必ず勝てるわけではないと言うことを、そして自分の権力など物ともしない絶大な暴力が存在することを、その絶対の暴力を自分の腹の中に入れてしまったことを。

愚かな男はまだ知らない。

愚かな男は己の矮小な願望に縋るだけだから、矮小な望みこそが男の全てだったから。

大体、男がどれほどのものか知らないが、早々都合のいい話があるはずが無い。

数万数十万数百万数千万数億どれだけの人間を犠牲にしたか踏みつけにしたかは知らないが、己の妻に会いたいなどと言う我が侭極まりない願望が届くわけが無いだろう。

そんな都合のいい話が何処に転がっているというんだ。

御伽噺にも無いような都合のいい話が、もしあったとしてもそんな都合のいい話があるのだとしても、それならば都合のいい邪魔者がいてもいいと言うのが道理だろう。

愚かな男の愚かな企みを止める英雄がいてもいいのだろう、そんな都合のいい話がまかり通っていい筈だろう、都合のいい夢には都合のいい理不尽が存在しても何も問題は無いだろう。

まぁ、この場合は男の悪を邪魔するのは英雄では無く同じ悪に分類される存在だけど、そんなことは戯言に過ぎない、そうほんと戯言。





そして入室したエヴァケージ、目の前は真っ暗な空間が広がり背後の自動扉が閉まれば完全に闇に閉ざされる。

しかし、この暗闇もシナリオの一端なのだろうか、シナリオと言うよりは演出だろうが。

この演出、驚かせる以外の意味があるのだろうか、まさか省エネでもあるまいし、湯水の如く税金を使っている組織がそんなこと考えもしないだろう。

演出としては幼稚に過ぎるが。

「はぁ、真っ暗ですねぇ」

舞織が呟く、その呟きが終わらぬうちに付く照明。

目の前に現れる異形の紫の鬼、エヴァンゲリオン初号機、人が作り出した天使の似姿、否鬼そのもの。

存在するだけで威圧感を放つ人造人間、人の罪業の産物。

「リツコさん、これは」

未だリツコの隣を歩いていた双識がリツコに質問する、因みに双識達は一瞬驚いたようだが、事前に情報収集して存在を知っていたのでそれほど驚いていない。

質問したのは御約束といった所だ。

その問いにリツコは若干苦渋の表情を滲ませ、確かにそれは些細なものだが僅かだが覗かせる、それが彼女の人間性なのだろう。

目の前の鬼の実情を知って誇れるほどに彼女は破綻していない。

「私達ネルフの作り出した汎用人型決戦兵器。エヴァンゲリオン初号機よ」

それを言い切った、そこに自信も何も無く僅かな嫌悪と後悔の混じった声で、まるで最低の失敗作を語るように、確かに彼女にしてみればおぞましい失敗作以上の欠陥品だろうが。

「リツコさん、これを私達に見せてどうなるのかね。神識の血縁上の父親とやらが愉快な手紙で私達を招待したのはこの非常識で不条理でどうしようのない似非ロボットモドキを見せるためだとでも。フフフッ、それはお笑いだ、私達に見せる価値が判らない、ここの総司令とやらはキチガ○なのか。だったらお笑いだ。先ずはこう言おうかな税金を返せと」

そして小さな声で「零崎へと喧嘩を売るか」と呟いた。

因みにあんた等税金払っているのか(消費税、酒税以外)?

双識は低い声で笑いながらリツコの言に応える、リツコにそれを応える術は無い、応えようが無い、どう応えろと、答えはあまりに支離滅裂であまりに馬鹿らしい、答える気にもなれないくらい下劣で恥知らずで都合のいい愚鈍な答えなど。

だが返答の無いリツコの声に代わって意外に響く低く聞き苦しい男の声、声だけで不愉快になれる、陰鬱な声。

「久し振りだな、シンジ」

遥か上のガラス越しの場所から神識を睨み据え居丈高に威圧的な声を発する見た目から偉そうなヤクザ面の髭グラサン、碇ゲンドウネルフ総司令、階級二将(一応無垢なるの初期設定と統一してみました)、因みにスピーカー越しなので声が五月蝿い。

どうでもいいが、神識が早く来ているのでN2作戦やらはまだ行われていないのにここに来てもいいものだろうか、少なくとも指揮権は移っていないだろうし戦略自衛隊の偉いさんもモニターを睨みつけて怒鳴り声やら何やら挙げているだろうに、その辺は電柱に押し付けたか。

だが、不遜な声に対するは髭の想定するシンジのものではなく殺人鬼、零崎神識、零崎神識が臆病者の声で脅えるものか、仮初の威圧感などで。

「息災ですよ、一応私の遺伝子提供者、碇ゲンドウ。子供は彼方のような親が無くとも育つものですからね。後訂正しておきますが私は既に碇シンジではなく零崎神識です」

微笑みすら浮かべて髭の言葉にやんわりと訂正すら加える余裕、そして言葉に含まれた毒。

愚かな髭男の想定するシンジではありえないだろう、シンジを道具としてしか見ず、道具に意思は無いとばかりに対策を講じなかった男にとっては明らかなシナリオの外の事態。

因みにゲンドウは今のシンジが神識と名乗っているのは知っているはずなのだが。

そんなことは「問題ない」とでも呟いて忘れ去っているのだろう。

さぁどう対処する、陰険なる策士、貴方のミスの始まり、神識の愉しみにする茶番の始まりだ。





神識の対応に怪訝な顔をする、他人にはわからない程度に顔を歪ませる髭。

彼が想定していた“碇シンジ”とは違う、自分に対して脅えた目と求めるような目を向けるのが、髭の想定した“碇シンジ”、自分を見据え淡々と返答する“零崎神識”ではない。

単純に自分に生意気なことを言う息子に腹を立てたと言うのもあるのだが、自分の思い通りにならないと基本的に不機嫌になるのだ、この我が侭な男は。

だが、その程度の変化、否誤差を気にせず愚かな男は続ける、シナリオの通りに。

少なくとも既にこの男に降りかかる災厄は大小は別として決定しているのだから態度を変えてもあまり変わりは無いだろうが。

「出撃!!!!」

一応突っ込んでおくとゲンドウは四年前のシンジの資料しか満足に無く、現在の神識の資料はなんとか居場所を突き止めたのが精々だったので、今の神識の精神状態など全然知らない、四年程度で人間が変わる筈が無いと高を括っているのかもしれないが。

四年前の孤独で他人の拒絶を恐れる弱い子供だと、自分の願望どおりに育っていると思い込んでいるのだろう。

人間は変わるときは一月もたたずに変わることもあると言うのに。

で、ゲンドウの命令というか妄言を聞いているんだかいないんだか、髭男の下方に居る四人は。

リツコはあまりの言葉の足りなさに頭を抑え、無能で不遜な上司に対して呆れ。

双識は一応顔を見ておこうと思っていた珍獣の顔を眺めるようにゲンドウを見ているが微妙に表情が怒っているっぽい、予想通りに喧嘩を売ってきたからかもしれないが。

見物に来た馬鹿さ加減は今までで十分判ったことだろうし。

舞織は単純に髭の言葉の意味が即座には理解できなかったようだ、遺伝の不思議に悩んでいたから、ヤクザ面の髭と美少年の神識を見比べて、見比べていなくても理解に苦しんだのは確実だろうが、理解したら激怒しただろう。

心の中で信じてもいない神に感謝していたのかもしれない、似なかったことに。

確かにエヴァの不思議の一つゲンドウシンジって本当に親子?(それは疑ってはいけない疑問なんだろうが)。

そして神識は俯いて震えていた、何も脅えていたのではない、笑っていたのだ、期待した茶番が期待した通りの愉快な茶番になることを確信して、予想以上に愉快になることを考えて、嬉しさに、歓喜に震えていた。

まぁ、その様子を髭は自分に脅えていると思ったようだが、都合のいい思考をする男だ。

だが、一応突っ込もう、髭の言葉に主語は無いと、やっぱり意思疎通能力に重大な欠陥が。

「何に?」

神識が俯いたままそう返答する、その声が若干震えている、勿論愉悦で声が震えているのだがそんなこと髭に判るはずが無い、都合のいいように脅えていると判断するだけだ。

「目の前にある初号機だ、お前が乗るのだ、シンジ!!!!」

やはりシンジを神識とは訂正しないつもりらしい、子供のたわ言と処理しているのかもしれないが。

「何故?」

当然の疑問を口にする神識。

「お前しか無理だからだ」

答えになっていない。

そこまで会話が進み、まぁ会話とも呼べないだろうが今までうつむいていた神識が顔をあげその表情に嘲笑を浮かべて口を開き、たった一言を口にする。

「拒否する」

明確な隔意、拒絶、断絶、要求の否定意志、髭の予想しない堅実な意志を持った発言、彼の望む“碇シンジ”は自分の言葉に真っ向から反抗するような人格ではあってはならない。

自分の庇護を求め、それでいてそれを裏切られた人間、期待を裏切られてそれでも縋る人間の目をこの男は所望していたのだから。

「何故、何故私がそんな馬鹿げた彼方の妄言に付き合わないといけない、碇ゲンドウ。私は拒否する、拒否させてもらう、拒否させてもらうぞ。その手の冗談に付き合う趣味は無い、妄言なら精神科医としろ」

一変して強い口調で髭に毒を吐く神識、その表情は何処までも嘲笑に染まっている、無論その表情は俯いている時から浮かべていたものなのだが。

道具と思っていた神識の明確な反抗に髭は怒りを感じる、また自分のシナリオと彼の考えるシンジと異なる反応が怒りを募らせる、だが当たり前だ人間が思い通りに育つものか、その怒りは不当、男の傲慢だ。

「拒否は認めん」

「拒否すると言った。聞こえていないのか阿呆、それとも日本語が理解、いやあの手紙からみるに人間の意思疎通能力に明確な欠点でもあるのか碇ゲンドウ」

ゲンドウが一言言えばその数倍の量の言葉と、毒を吐き返す。

いい性格になったもんだ、神識君、兄貴の双識はそこまで性格が悪くないと思うのだが。

なおそのときリツコは自分を脅して従わしている髭と対等以上に会話している神識を見て驚いていた、ゲンドウに真っ向から逆らっているのだから。

彼女も愚かな男が望む計画に必要なチルドレンの人格は承知していたから。

因みにミサトが居ないお陰で余計な雑音が無くていい、なおまだ寝ている、そろそろ起きる頃かもしれない。





神識の不遜な言葉に怒りを覚えつつも、髭は神識の言葉には答えず傍らの通信機を取って何事か命令していた、恐らく「冬月、予備が使えなくなった。・・・・・・・・・・・」とか言っているのだろう。

だが、時間的猶予はまだかなり有る筈なのだからもう少しやりようがありそうなものだが、もしかして事前に用意したシナリオ通りにしか行動できないのか、この髭男は。

まぁ、怒っていたのか幾つかの台詞がすっとばされてはいるが。

今連れてきてどうするんだ、まだ指揮権移っていないだろうに。





その頃の有害作戦部長。

ミサイルや戦闘機が空を飛び交い、異形の巨大怪物が闊歩する異常な光景の中を、前述の通り駅に向かわずご自慢のスポーツカーで暴走行為といえるほどの速度で、使徒を肉眼で確認しつつ、ネルフに向かって爆走していた。

文字通り親の仇を見るような目で使徒を睨みつつだったが。

どうも、原作とは違いシンジがおらず何の注意もしなかったのが災いしたのか、それとも単に集中力の欠如か、視界から戦闘機が飛び去る光景に気付かず。

N2地雷の発動を完全に見過ごした馬鹿が爆発予定地点の脇を高速で車を爆走させていた。

因みに、作戦部長殿は作戦でN2が使われるのは知っていそうなものなのだが、多分忘れていたんだろう。

で、爆発後。

勿論爆発の余波で車は面白いくらいに横転、しかも今回防御姿勢をとっていなかったから中の人間は愉快なぐらい振り回されていることだろう、頭やらなんやらを天井なんかにぶつけて。

結果、ビルに突っ込んで何とか停止したもののご自慢の車は完全にスクラップになっていた。

普通なら運転手は死んでいそうなものだがそれは我等が葛城ミサト有害作戦部長、ご自慢出来るのは体力だけといっても過言ではないのだ。

無傷に近い状態で車から脱出して、曲がったドアを蹴飛ばしてこじ開けて這いずり出てきた、人間の耐久限界を超えた頑丈さだ。

勿論曲がった車のドアを蹴飛ばして脱出する脚力も並ではない、と言うか女性で三十間近だろう、この女。

曰く。

化け物だろうか、それとも使徒だろうか、一番確実なのはゼーレの改造人間といったあたりなのだが、それともアルコールが生んだ新種の生命体、色々諸説出せそうだがどれが一番信頼性があるだろうか、どれにしたって真っ当な人間ではないと言うのは確かだろう。

当の吹き飛ばされたご当人はというと、空に向かってなにやら叫んでいた、既に回復したらしい。

「戦略自衛隊の無能がぁっ!!!!人類を守る為に戦う私を亡き者にしようだなんて何考えてんのよ!!!!テロッ!!!私の華麗な指揮がないと人類は守れないのよ、人類が滅んだろうどうするつもりよ!!!!」

あんたの変わりは幾らでも居るだろうし、世界人類の為ならばここでくたばってくれたほうが何万倍も良かったんだが。

それに貴様を殺す為に戦略自衛隊もN2など使うまいに、貴様が寝坊せずに向かっていれば傷一つ無く自分の職場にたどり着くことが出来たと思うのだが。

まぁ、寝坊しなくても待ち合わせ場所に神識達は居なかったわけだが、それはどうでもいいとして。

そんなことを自己反省する能力は欠片として無いだろうが、先ず自分が悪いとは思っていないだろうし。

基本的にこの女のスタンス、身の回りに起こる悪いことについて自分は悪くない悪いのは回りと言う外罰主義者だから、何でも都合の悪い事は回りのせいにする性質の悪い女なのだ。

故に職場で有能作戦妨害部長と言う不名誉な二つ名を背負うことになる、他にも色々不名誉な渾名は山のようにあるが、それは以降色々出てくることだろう。

因みに原作より爆心地に近い場所で爆発を喰らったので、周りに無事そうな車も無く。

その後ネルフまで自分の足で走り、途中で無事そうな車を特務権限による強制徴収とかいって勝手に乗っていってしまった、いつも思うがいいのだろうか。

追記、途中唯一は知っている車を見かけたとき拳銃片手に止まるように威嚇射撃しながら怒鳴っていたが、相手に無視されて、更に走ることになった。





で、ネルフエヴァンゲリオン初号機ケージ。

どうやらやっぱりレイ、ファーストチルドレン綾波レイを呼びつけていたのだろう、ベッドに寝かされたレイが連れてこられる。

因みにこの世界ではレイは赤木リツコと険悪な中ではなく、リツコはレイを妹もしくは娘のように可愛がっているし、リツコはレイを盾にゲンドウに脅されて研究にも協力させられている。

因みにゲンドウが仕組んだ零号機の暴走事故だが、この時真っ先にエントリープラグに飛び付いて火傷も構わずハッチを強制開放したのはリツコだったりする。

ゲンドウが一応レイを自分に関心を持たせようとしたのだろうが、リツコに出し抜かれた形になった大間抜け、姉妹の情愛を舐めた結果である。

損失だけはキッチリ自分が処理しなければならないし、被害額とかの処理等。

手間だけ掛かって損失一杯の大損をやらかしていた。

追記、レイはリツコの手厚い治療のお陰でかなり回復しているがやはり未だ要入院であるのと、リツコの手には白い手袋が付けられていた、火傷を隠すためだろう。

で、そのレイを連れてきて噛み付くのが。

「司令、レイはまだ重傷です、使うおつもりですか」

レイの保護者である、赤木リツコ、因みに彼女はここでレイを使うことを聞いていない。

悪い言い方だが、パイロットとして使うことを現在でも重傷のレイと見ず知らずの少年を天秤に掛けたときに見ず知らずの少年を犠牲にすることをリツコは選択したのだ、選択させられたと言う言い方が正しいか。

だが、それを悪いと言えるだろうか、身近な人間を擁護して何が悪い、大切な人間の為に他人を犠牲にして何が悪い、褒められた行為ではないがそうするしかないではないか、そういう選択を迫られて自分の大切な人間を差し出すほうが外道だろう。

だが、本物の外道は返答する。

「他に使えるものがいないのだから仕方があるまい、赤木博士、これは人類の存亡を掛けた戦いなのだ」

リツコの反論を建前で論破する、勿論ゲンドウな何としても神識を乗せるつもりなのだが、このやり取りは神識を怪我人の女の子を乗せて、自分は逃げ出す臆病者とでもして悪者に位置づけ是が非でも乗せる為なのだが。

だが、自分は人類の為ではなく私利私欲の為に戦っている癖に言うものである、この髭。

これだって、負傷の少女を使うと言う少年特有の道徳心に訴えた茶番だろうに。

まぁ、子供なら良心が痛むだろうが神識は普通の良心などもっていないし。

論破されたリツコはその自らの脅迫相手を睨むことしか出来なかった、憎悪に塗れた目で。

「レイ、予備が使えなくなった」

未だベッドに横たわるレイに向けて命じるゲンドウ。

レイはゲンドウのほうを見ずリツコのほうを見るが、リツコは辛そうにレイを見て申し訳無さそうに見返すだけだった、何も言うことが出来なかったから。

只、リツコはレイから目を逸らさず、レイは何とか痛む体を起き上がらせようと苦闘している、まるでリツコの視線に応えようとするように。

そしてゲンドウは神識のほうに視線を向け、嘲る様に言った。

「臆病者は必要ない。乗らないならば帰れ」

本当に帰られたら困るくせに言うものである、まぁ最後の手段としては力尽くと言うものがあるだろうし、ゲンドウから見ると双識と舞織は人質にはうってつけの人材である。

どうとでもなると考えているのだろう、この男は手段など目的の為ならば選ぶ種類の人間ではないのだから、目的の為ならばどれだけ外道に堕ちようと構わない種類の人間なのだから、だが外道に堕ちると言う覚悟はあるのだろうか、この臆病者に、本物の外道と渡り合う度胸があるのだろうか。

本物の外道に堕ち生きているものと渡り合えるか。

いるぞ、お前の目の前に本物の外道、本物の人の道を踏み外した存在、殺人鬼が。





さて、臆病者の囀りにも少々飽いた。

そろそろ“零崎”もこの茶番に参加する頃合だろう、この愚かな男は自分が主役のパーティを開いているつもりだろうが、端役に過ぎないことを教えてやるべき時期だろう。

誰が主役で誰が悪役で誰がヒロインなのかを。

思う存分、心のそこから、その身に、その心に、その脳に、その魂に、零崎を叩き込んでやるべきだろう、“零崎”に喧嘩は売った。

売られた喧嘩は買うべきだ、殺して解して揃えて並べて晒してやるべきだろう。

だが、もう少し、もう少しだけ茶番を楽しもう、あの男が自ら生贄を差し出すその時まで。

もう少しだけ、もう少し変化するまで待とう。





髭の「帰れ」の叫び、で更に身を震わす神識、何が愉快なのか、それは男が自分の茶番が上手くいっていると思い込んでいること。

その声に篭められた不遜さを感じ取ったから、その可笑しさから湧き上がる愉悦。

既に双識はネルフへの敵対を確定している舞織は自分の弟への侮辱に怒りを募らせている。

いつでも“零崎を開始”出来る頃合、だがその前に神識が口を開く、更に更に嘲る様に。

「碇ゲンドウ、それでどうしろと、彼方の言いたいことが何なのか僅かなりとも理解しがたい、もう少し人間らしい語彙力を身に付けてからにして貰いたかったな。まぁ、帰れと言われている道理も無い、帰らせて貰うが、構わないのだろう、帰って」

と踵を返す、だが神識はこのまま帰れるなど思ってはいない、愚かな男の茶番は続くと確信しての行動だ、このまま終わっては期待外れに過ぎる、もっと茶番は続かなければ面白みに欠ける。

ただ、これから先の行動は彼にも想定外だったが、予測不可能だったとも言える。

神識が踵を返した直後、激震が周囲に走った、それは戦略自衛隊の使用したN2地雷の影響による振動が地下にあるネルフ本部にまで影響を及ぼしたのだ。

双識達は持ち前の運動能力で踏鞴を踏む程度で膝を着くことさえなかったが、踏ん反り返っていたゲンドウはものの見事に転倒し、リツコは前のめりに膝を突いて揺れに対処していた。

だが、この場で対処できない者がいる、無論のことベッドから起き上がろうとしていた重傷のレイで、振動でベッドから投げ出されていた。

今は地面に打ち付けられた痛みで身を震わせている、それでも起き上がろうとする姿は哀れさえ誘う光景だろう。

その姿をリツコが気付きレイに向かって駆け出す、せめて起き上がるのを助けようと咄嗟の行動だったのだろう。

だが、先ほどの振動の影響か天井数箇所から建材が落下してくるのはリツコがレイの元に辿り着いた時と殆ど同時だった。

その様子に気付いて神識が「赤木さん、上!!」と叫ぶが、神識は自分の方に落ちてこようとしている建材を後ろにステップバックして避けるのが精一杯、双識と舞織も同じく。

リツコはレイを助け起こそうとした所で落下物に気付くが遅い、出来るのはレイの上に自分の体で覆いかぶさるのが精一杯、避ける余裕は無い、いや落下物が何処に落ちるのかの確認さえ出来てはいなかったろう。

その時エヴァンゲリオン初号機の手が神識の上方、既に神識は回避確実なのであまり意味はないのだが、に翳され落下物から神識を守ろうとした。

本来のエヴァの機能上、今現在動くことは有り得ないと言うのに。

ただ、リツコはレイを守りに行っているし、髭は振動で転倒して顔面をガラスに強打したのか痛みでのた打ち回っていたのでエヴァのあり得ない動きに驚きの声を上げるのは居なかったのだが。

双識達は多少驚いたが、リツコのほうに気が行っていたので、それ程でもなかった。

なおリツコは運が良かったのか、間近に建材が落ちてはいたが何とかギリギリで避けている、と言うよりギリギリのところに落下している。

それでも無傷とは流石に行かなかったようで、破片が当たったのかリツコ、意識はありそうだが頭から血を流し、リツコの下にいるレイも苦しげに呻いている、こちらは意識は無いか。

落ちた衝撃と破片のダメージで傷が開いたのかもしれないし、新しい傷が出来たのかもしれない。

だが、愚かな男にとっては都合のいい展開かもしれない。

これでレイが使い辛い理由は出来た、寧ろエヴァに乗ろうとしない神識を責める材料が出来たと言うべきか。

だが神識を責める前に、神識によって準備が不十分な自分たちの見通しの甘さを謗られるだけではないだろうか。

何よりエヴァが神識を守ろうと反応した、愚かな男の望み通り初号機は神識に反応することが確信できる現象が起こったのだから是が非でも愚者は神識をエヴァンゲリオン初号機に乗せようとするだろう、己の望みの為に、エヴァンゲリオン初号機の覚醒と言う事象を起こさせる為に、初号機に眠る最愛の妻を目覚めさせる為に。

ただ、そのエヴァが反応した喜びを感じている男は先ほどの振動で顔面を強打してサングラスに皹が入り、鼻を打ったのか赤くした間抜け面になっていたが。

男の数少ない長所?ヤクザ面が少しポイントダウンである、と言うかこの男に人に誇れる長所ってあるのか。

しかしそんなことを意に介さず髭は声高に神識に命じる。

「シンジ、貴様が初号機に乗れ。拒否は赦さん」

先ほど“帰れ”と言った口は何処に行ったのかと言いたくなるほど掌返した発言である、自分の言葉が記憶に無いのであろうか、因みに似たような台詞を既に言っている。

だが、神識はその声を意に介さず、愚者の戯言など聞くに値しないと聞き流しリツコの元に歩み寄り呟く、そっとリツコだけに聞こえるように。

「貴女は本当に“合格”ですね赤木さん、そしてその少女もやはり“合格”かな?」

その呟きの意味がリツコに伝わってはいないだろうが。

リツコとレイに掛かる破片を払い除け「大丈夫ですか。赤木さん」と声を掛け、その声にリツコは「私は大丈夫だからレイを」と擦れた声で返す。

リツコをレイの上から移動させ、レイの状態を見ようとする神識に再び髭の声が降りかかる、一々煩わしい髭である。

大体部下が怪我をしているのだからお前が第一に救護班でも呼ぶべきだろうに。

「何をやっている、シンジ。貴様が乗るのだ、早くしろ」

だがそれを無視して、神識はレイの出血部位を診断して懐から出した布をあてがったりと応急処置を済ましていく。

雑音に反応するぐらいなら有意義な時間の使い方だろう、他人への治療行為というのは。

再三無視されている髭が、再び何か髭が叫びそうになるとき。

双識が髭に向かってそれほど大きくない声で「黙れ」と言い放った、本当に髭の叫びに比べればなんてことの無い声量の声で。

ただ、それだけだが、ただ、それだけで髭は黙らされた、双識の命令に従うと言う形で。

殺気の篭った殺人鬼の声は並の人間を震え上がらせるには十分で、殺人鬼の殺気の混じった声にこの臆病者が贖うなど、夢想に近い。

贖う以前に唯の声に恐怖を感じ萎縮してしまった男にとっては贖うなど夢物語。

愚かな男は知らない。

既に双識の人間試験に“不合格”を出されていることを、その結果を。

だが、愚かな男は自分から見て愚息が自分を無視するのと取るに足らない有象無象と思い込んでいる人間の声に自分が恐怖を覚えたのに理不尽な怒りを覚えた。

今までに無いほどに、自分が臆病者であるが故に恐怖の根源は捨て置けなかったのかもしれない、恐怖の根源を根絶することによって今まで息をしてきたような種類の男にとっては自分が恐怖する対象は明確な敵となるのだろう。

分を超えた力を用いて今まで自分の恐怖の恐れの対象を消し去ってきた男なのだから。

だから今回も、その恐怖の根源を潰してしまおうとした、だが、それが血の舞踏の始まりのステップ、それを己の足で踏み出した。

「保安部、サードとその連れを拘束しろ。抵抗するならば多少手荒に扱っても構わん、生きていればいい。そしてサードはエントリープラグに放り込め、子供の我が侭に付き合う余裕は無い!!!」

居丈高に命じる髭。

ケージへの扉が開き出てくる黒服=ネルフ保安部達、どうやら、既に扉の向こうに待機させていたらしい。

黒服たちが上司の命令通りに神識達を拘束しようと向かって来るが、殺人鬼から見ればその動きは素人に等しいことを自覚しているのか、自覚しているわけが無いだろう。

もし、自分たちが取り押さえようとしている人間が“零崎”だと知ったらこの男たちはどう反応するだろう、中には知るものもいるだろうから。

もし知っていたら、命令など無視して逃げ出す事を選択したのは必至、“零崎”は闘争の対象にさえなりうらない悪夢そのものなのだから。

敵に回すのは最悪に過ぎる、愚かに過ぎる、逃げるのが知恵を持つ動物の選択だろうが、知らない贄達はその最悪を相手にすることになる。

今、この時に、これから始まる血の饗宴の為の生贄の羊は投じられ“零崎を開始”する舞台は整った。





双識、舞織、神識の三人に群がる黒服たち、その数、それぞれ五人を越える、だが黒服が到達する前に。

双識は右手を懐に入れ。

舞織は両手に手袋を付け。

神識は左手を懐に入れ。

黒服が到達したとき、その瞬間に双識たちは行動を開始した、正しく“零崎を開始した”。

殺人鬼が殺人を開始した。

最初の異変は舞織のいた場所、彼女に群がった黒服は等しく、同じ刻に、時間的誤差なく、瞬く間に、その活動を停止させられた、訳も判らぬまま。

舞織が何かをする前に小さく呟いた「零崎を開始します」と、その呟きを聞き届けるものは居ないだろうが。

黒服達は悲鳴を上げる事無く、抵抗する事無く、何をする事無く、彼女に触れることすらなく、ただ近寄ったというだけで、ただ命令に従ったというだけで、恐らく自分でも死を自覚する前にその命を断たれたのだから。

舞織の周囲に散らばる人間の残骸、それは等しくバラバラで元の姿を想像するのが困難なくらい解体されていた、鋭い刃物で断たれたように、鋭い刃物で何度も何度も切断されたように、その身を何分割にもされ、周囲その人間の残骸から流れ出した血が血の風呂ブラッド・バスを作り出していた、舞織に血の一滴も振り掛ける事無く。

細切れの死体の中一人の少女が腕を下ろし佇んでいた、先ほどまで激しく複雑に動かしていた腕を下ろして。

腕の動きが為したのは彼女の両手の先から伸びる糸、微細で視認が困難なほどに細いそして強靭な糸、それを彼女は事前に自分の周囲に張り巡らせその糸の結界に踏み込んだ愚か者を、糸を刃物に変化させるほどの高速で切り刻んだ。

その為の腕の動き。

これぞ舞織の殺人技“曲弦糸”、さながら音も無く、気付かれること無く殺す多対一用惨殺技、有効範囲数メートルの殺人結界。

彼女に群がった者の全員は死を意識する事無く自分が何をされたか理解する事無く黄泉に旅立ったことだろう、恐怖も脅えも何も無く。

殺戮を為した舞織の表情は愉快でも不愉快でもなくただ淡々と邪魔者を払い除けたという程度の感慨さえ感じさせず、美しいといえるような顔で愚かな男を見据えていた。

“零崎”に喧嘩を売った愚かな男に視線を。

双識に向かった黒服たちは7名、男性+長身ということからの数の振り分けだろう。

不幸だったのは彼らが到達したのは舞織が惨殺を終える前、彼が黒服たちの近くに居た事だろう、そうすれば、もしかしたら彼等はもう少しマトモな抵抗が出来ただろうから。

まぁ、油断しきっていた彼らが悪いのは言うまでも無いのだが、零崎相手に油断も何も無いだろう、どちらにせよ結果は変わらない、運が悪かったとそれぞれの崇める神にでも呪い事でも吐いてもらうより他に無い“零崎”長兄“二十人目の地獄”に向き合った瞬間結果は決まったデキレースの始まりなのだから。

彼も呟いた「零崎を始めようか」と。

双識は間近に迫った黒服のなか最も遠い獲物に最速で無駄の無い動きで躊躇無く右手に握った得物で首を切断した。

ゴトリと音を立てて床に落ちて転がる人間の頭部。

切断された首から血が噴水のように迸り周囲を汚し、床を汚し、仲間を汚し、双識を汚す。

正しく血の雨、ブラッドレイン。

双識の右手に握られるは異形の得物、二つの両刃の刃物の柄に三日月の取ってを付け、双方を金具で固定した武器、まるで鋏のような形状、いや鋏にしか見えようが無い。

そのサイズは大きく、その使用用途が人殺ししか見出せないという点を除けば、それは紛れも無く鋏だろう、鋏以外形容しようが無いと言うべきか。

双識の愛器、“自殺志願”マインドレンデルと名づけられた殺人用鋏、その恐ろしいまでの切れ味で容赦なく首を切断した、まるでそれが当たり前の動作のように自然な動きで、無駄の無い殺しの動きで、恐ろしいまでの躊躇いの無さで。

恐ろしいまでの笑みを浮かべて、その姿は正しく人殺しの鬼の姿だろう。

悲鳴が上がる前に、いや首が落ちる前に双識は二人目、三人目の首を切断し、その生首が床に転がり、首を失った体が血の噴出口になって倒れ付す。

三人目が惨殺されたところで黒服たちは反応するが、最早遅い、銃を抜こうとするもの、警棒を持とうとするもの、だが、目の前で斬首の死体を目の前にして混乱しないほどには彼等は訓練をつんでいなければ冷静にもなれていなかった。

武器を探りながらその顔は恐怖に染まり、動きは硬直し緩慢になり、その喉は本能に忠実に悲鳴を上げる。

まるで脅える子供の様に。

「ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァッッッッッッッ!!!!!!!!!!!」

喉を劈くような悲鳴、本能から迸る悲鳴、それでもプロの根性か、それとも生物として逃亡は不可能と判断したのか双識に抵抗を試みる黒服たち、悲しい抵抗ではあろうが。

恐怖に凝り固まった動きで双識を捉えられるはずが無い、四人目と五人目は心臓を一突きされ、血の海に倒れ伏す。

恐怖に囚われた相手の動きから放たれる弾丸を双識は回避する、そしてまた最高の速度を持って迫る殺人鬼。

残りの二人は最初の三人同様首切り死体と成り果て、首の無い骸が床に横たわり、その血が床を、双識を汚していく。

血に塗れた双識の姿はまさに鬼、微笑を浮かべ理由無く躊躇い無く、人を殺す悪鬼羅刹の如し、猛々しい魔性の羅刹、“二十人目の地獄”。

双識は“自殺志願”を一振りし、こびり付いた血を払うと、舞織同様、愚かな男を見上げた、悪魔のような微笑を湛えて。

ついでに足元に転がっている生首を一つ愚かな男の眼前のガラスに放り投げていたが、これは完全に嫌がらせだろう。

最後は神識、神識は双識と殆ど同時に黒服に取り囲まれた、その数五人、小柄な神識には十分すぎる数だろう。

だが、神識は自分を遥かに超える体格を持つ男達に脅えずやはり小さな声で呟いた「零崎を開始させて頂きます」と。

消えるような速度で踏み込んだ、これには黒服が相手は中学生と完全な油断も合ったのだろうが反応することさえ出来ずに神識が左手を二回振ることで二人事切れた。

神識の左手に握られた刃渡り20センチを越えるような長大なナイフ、いやその刃は日本刀の特徴を有している小刀で瞬時に黒服二人の首を切り裂いた。

首から吹き出る血、それを浴びる事を意に介さず神識は振り向きざまに小刀を投擲する。

吸い込まれるように黒服の喉に突き刺さり相手を人間の残骸へと変える、ただの肉の塊へと、ここまで相手の反応を許していない、そこまでで三名惨殺、恐ろしいまでの速さ。

双識に対峙した男達と同様の反応をし、全く人間は同じところに叩き込まれて同じ反応しか出来ないのかと思えるほどに通った反応を返して。

悲鳴を上げ、残った二人が神識に銃を向ける、もう既に神識を殺さずに捕らえるということは彼らの頭の中には無いのだろう、命令などより自己の生存本能を優先させた行動。

だが、無駄だ、遅い、硬い、判りやすい。

黒服の腕に在った銃の引き金が引かれる前に神識が動く、神識の右手が左腰に伸び腕を一閃させ、一瞬後には黒服が手にしていた銃が指ごと弾き飛ばされている光景、千切れ飛ぶ指と銃器。

男達は反応することさえ出来ずに己の得物と利き手の指を失った、まぁ関係ない、指を失おうとこれから命を失い肉の塊と成り果てる輩に指を失ったことなど些細なこと。

神識の右手に握られる鞭がそれを為した、真っ黒の皮製の鞭。

曰く、鞭と言うとインモラルなイメージを持たれがちな武器であるがその実恐らく打撃系の武器で言えば総合的に見て恐らく最強の攻撃力を有しているのは鞭だろう、扱いの難度は高いだろうが。

高速で振るわれる鞭は物を切り裂き、使いようによっては打ち砕く、攻撃の軌道も読み辛く防御は不可能に近い、回避もまた然り、リーチも使用者の腕前を要求するが広く応用性が高い、達人になれば鋼鉄を切り裂き岩をも打ち砕く、また無傷で人間を捉えることも出来る万能武器といってもいいほど使い勝手のいい武器なのである、しかも持ち運びがそれほど難しくないという利点まである。

神識は紛れも無く鞭の達人だった、手足の如く鞭を使えるほどには。

神識は鞭使い、神識が二度目に鞭を振るう時には指を失った男たちの首が鞭により切断されていた、あまりに高速で振るわれた鞭は刃の切断力を有するまでになっていたから。

だが、神識はそれで留まらずさらに複数回鞭を振るう、倒れる前の首無し死体が幾度と無く鞭に晒され。

破砕させる振るい方をした鞭は容易く首なし死体を血の滴る肉の塊へと変貌させる、グチャグチャの轢死体のようになる首無し死体。

何の感慨も其処には無く、壊れた肉片が散らばる中、神識もまた、愚かな男へ視線をやった兄と同様鞭の先で絡め取った生首を投げつけて、それは勿論愚かな男の目の前に張り付き、そのガラスに血を振り掛け落下した。





さぁ、ここで一先ず彼らの殺しは中断だ、獲物が居なくなってしまったからね。

だが、言葉通り殺して解して揃えて並べて晒されてしまっただろう、これが零崎に喧嘩を売った末路、殺人鬼たちの殺戮。

快楽も感慨も愉悦も後悔も欲望も諦観も気概も憤激も躊躇も狂気も歓喜も自虐も加虐も。

彼らには何も無い、殺すことに対して何も無い、ただ自然に自分の行動を阻み抑圧する存在を退けた、其処に理由も無く、道徳も無く、優しさも無く、温情も無く、倫理も無い、敵対するから殺す、目の前に立ちふさがるから殺す、煩わしいから殺す、気分が悪いから殺す、目に止まったから殺す、注意を引いたから殺す、視界に入ったから殺す。

もし理由が必要ならその程度で十分だ、それで、それだけで、たったそれだけで零崎が殺戮をするには事足りる理由だ、それを彼等は正面切って敵対姿勢を出した。

この殺戮は当然の帰結、当然の結果、当然の結末、当然の終焉、当然の終末、当然の惨事。

当たり前すぎる殺戮風景。

だが、その当然は人間には受け入れられない殺人鬼の自然は人間の不自然と相対するものではないだろうが、この場合は相対するだろう。

愚かな男、ネルフ総司令、碇ゲンドウは目の前の光景に恐怖した、自分の振るった、勿論最大限の力ではないが、自分の力の一端を易々と退けた存在に。

自分はその何百倍では利かない人間を死に追いやったという癖に、目の前で自分の駒を惨殺した三人に先ほどの双識の声以上に恐怖した、それは生物的な恐怖。

理解できない存在に、理解できない事態に、想定していない事態に、思惑から外れた事態に、困惑し、動揺し、混迷し、暴走していた、そんな状態で何とか言葉を紡ぐ、紡いだ言葉は絶叫となっていたが。

だが自分の蒔いた種だ、自分が招いた事態だ、己から招きいれた危険分子だ。

その絶叫は理不尽だよ、碇ゲンドウ、お前は都合の言いシナリオを描いた。

それを邪魔する都合のいい存在が現れるのは当たり前だろう。

世の中早々自分思い通りには行かないものだ。





「き、貴様等、な、何だ!!!!私達にこのようなことをして只で済むと思っているのかっ!!!!」

男にとっての絶対の力、立場が与える権力を振りかざすことしかこの男には目の前の恐怖に贖う術を持たなかった、あまりに強大で、あまりに理不尽な存在に対して。

だが、敗北宣言に等しいだろう、その狼狽し恐怖に塗れた口調は、脅えの絶叫は。

強者の仮面を外し弱者の本性を垣間見せた男は恐れるに値しない、動揺に満ちた声には仮初の威圧感さえ存在しないのだから。

虎の皮を剥がれた狐に何が出来ると?

殺人鬼にその様な事を問うて届くわけが無い、只で済まないことを繰り返してきた一賊だ。

それに髭、お前が言うかお前のしてきた事のほうが只では済まないだろうに。

愚かな男の絶叫に双識が答える、名乗りを上げるように、血に塗れたその姿のままに。

「私達は零崎、“零崎一賊”、殺人鬼だ」

其処に誇りは無く、蔑みも無く、ただ自分の名を名乗ると言う行為を淡々とこなしただけという印象が強い、彼等は家族を大切に思うが、自分達の行為はなんとも思っていないのだから“殺し名”としての苗字は誇りに思うまい。

彼等は殺しに意味など見出していないのだから“殺し名”を誇りに思うことは無いだろう。

愚かな男には零崎と言う苗字の意味するところは通じ無いだろうが。

誰に喧嘩を売ったかということを理解するにはこの男は無知に過ぎ、その無知が今の事態を引き起こしている以上、無知は罪だろう。

無知の被害者となった愚かな男の部下は報われないだろうがそれが彼らの職分だ。





≪黒服17名――不合格≫





瓦礫の砕片を喰らい、頭から血を流しているリツコは負傷をして意識もままならないレイを抱きしめ、レイを抱きしめながら双識達の惨殺風景を眺めることになっていた。

並の女性ならば目を背け意識を失っても可笑しくない残酷風景、人間の破片が飛び散り、生首が転がる、殺人風景、正視に耐えぬ光景だろう。

だが外道の研究に身を堕とされていたリツコには、その光景に耐性に近いものがあったのかもしれない、この光景よりも残酷な行為を己の手で為した記憶があったのかもしれない。

だから目を逸らす事が出来なかった、最初は自分が案内した少年達が酷い目にあうことを目を逸らしてはいけないという自責から目を向け。

次には、無感情に若しくは悪鬼のような微笑を湛えて惨殺する人間達から眼を離せなかった、それは弱者故強大な存在から注意を外すことが出来なかったのか、それとも単純に恐怖に縛られたのか、それとも自分が持ちえない力への憧憬か。

只、リツコは負傷したレイを抱き締めながらそれ程恐怖していなかったのではないかと思う、それが死に対する諦観か、それとも神識の“合格”の意味がおぼろげに判っていたのか。

そして心のどこかでは確かに愚かな男の恐怖に染まった声に痛快のものを感じていたのも彼女にとっては事実だったろう、自分を脅迫する男の恐怖に染まった声、中々に痛快なBGMに違いない。

彼女には耳障りのいい音響となることは間違いないだろう。





赤木リツコの前で更に愉快な場面は続く、彼女を脅迫した絶対者は、その絶対者の仮面を剥がされ、ただの臆病者に成り果てた。

それでも臆病者は自身の固執にしがみ付き自分の息子、否殺人鬼の一人をエヴァに乗せなければならない、さてどうやって乗ってもらうのか。

懇願するか、土下座をするか、泣き落としか、哀愁を誘うか、隷属を誓うか、まァ、そんな期待外れな惨めな選択はしないだろうが、この臆病者は臆病者の癖にプライドだけは馬鹿のように高いから。

だが、髭が何かを言い出す前に神識が口を開く、嘲りを篭めて。

「どうした、私の遺伝子提供者。他に用件は無いのか。まさか私にあの木偶に乗って今地上で暴れている使徒と呼称されている化け物と戦えと言う用件で呼んだのか。それは都合が良すぎる、私がはいそうですかと承諾するとでも思っていたのか。それはあまりにお気楽だ、あまりに杜撰だ。それで貴方は国連組織の司令官、使徒と呼ばれる化け物の殲滅機関の長。これは滑稽だ、どうやら世界は阿呆が動かしているに違いない、これほど愉快な人物が特務権限を有する組織を動かしているのだから」

最後には神識は嘲笑さえ挙げていた、愚かな遺伝子提供者に向けて。

それは碇シンジだった頃の恨みから来た侮蔑か、それとも今現在の髭に対する感想か。

その嘲笑に対して髭は。

「シンジ。貴様!!」

道具に嘲笑され、一時恐怖を忘れ怒りの声と視線を神識に向ける髭。

だが、そんな怒声など効果が無い。

「なんだ、俗物。それに正気か?殺人鬼を兵器に乗せる。どういうことかわかっているのか、どうなるか判っているのか、私は殺人鬼だぞ。何をするかわからん貴方の理解の範疇外の生物だぞ。それを秘蔵の決戦兵器とやらに乗せる。これでは正気を疑われても仕方が無い。
仕方が無いだろう。そんな人間を阿呆と誹って何が悪い。碇ゲンドウ」

怒声に理論で構築された反論をもって応じる神識、確かに殺人鬼を使うなど常軌を逸している、髭がどう殺人鬼を見ているかは知らないがそんな人種を乗せる。

傍から見れば狂気の沙汰だろう、それとも双識の殺人鬼と名乗ったことを冗談とでも思っているのか、目の前で惨劇を目にしておいて。

たとえ現在使えるのが神識ただ一人だとしてもだ。

「くっ、お前にしか無理なのだ。仕方があるまい」

今までより若干小さい声だが、それでも執拗に神識を乗せることに拘る。

この愚かな男にとっては神識を乗せないことには意味が無いのだから。

「何で無理なのかそこのところを説明してもらいたいところですが。説明する気は無さそうですね。懇切丁寧に全て説明してくださるなら乗っても構わないが、それもえられそうに無い。全く馬鹿にしている。何も知らずに動くかどうかも判らない決戦兵器とやらに殺人鬼を乗せて戦争をしようと言うのだから」

その嘲りの言葉を止めることの出来ない髭は仇のように神識を睨むがこの小心者に出来るのは見据えることだけだ、それ以外何も出来はしない。

また人をよこしても、たとえ其れが重火器を装備していたとしても結果は変わらない。





髭と神識の一方的な口争いの背後で双識と舞織はというと。

舞織が通信機片手に現状の報告をしていたりする。

誰に、と言われると、上記に記した京都に居た時の居候先の家主、現代におけるコンピューターの天才“死線の蒼”玖渚友、19才の筈だが、19歳に見えない蒼い髪の美少女。

今回は彼女が何かをするというわけではなく、彼女も連絡役な訳だが。

通信機から返ってくる声は、因みにこの通信機も玖渚製の地球上なら何処でも使えると言う優れものだったりする。

「はい、はい、僕様ちゃんだよー。いおちゃん、僕様ちゃんに何用かな。あんまり遅いから僕様ちゃん待ち草臥れちゃったよ」

このよく分からない喋りをするのが玖渚友、今回双識達の最大級の“嫌がらせ”の計画立案者の一人だったりする、今回は只の連絡役だが、しつこいが天才ではある。

MAGIを落としたのもこいつだったりするのだから、裏の業界では存在だけは有名人だが名は知られていない。

「友ちゃん。予定通りです、潤さんに連絡をお願いします、やっちゃって下さいって。ここかなりムカつくんです、神識を馬鹿にしています」

舞織は玖渚にそう伝える。

さて、何をやるのか、そして潤とは誰か。

先ずは潤、哀川潤、“赤い請負人”“人類最強の赤色”“死色の真紅”、様々な二つ名を有する全てをこなす万能家にて人類最強。

原作(戯言シリーズ)ではリッターバイクに轢かれてもピンピンしていたと言う化け物ぶりを発揮していたよく分からない人物である。

常に何かに対して怒っているような様子を見せる、短気な美人、性格は破天荒そのものだが基本的に身内に甘いので情には厚いのかもしれないが善い人とは絶対に区分できない人種でもある、だが彼女は天才ではない万能家、何でもこなし、何でも達成する。

今回彼女が請け負った仕事は使徒と呼ばれる化け物を殺す事、それがネルフに対しての最大級の嫌がらせになる、因みにそれを提案して請け負ったのはこの女自身である、依頼人は零崎神識。

どうやってやるのかは知らないが、人類最強が出来ると言うのだ、出来るのだろう。

「了解、了解だよー。僕様ちゃん了解。潤ちゃんにはいーちゃんに連絡してもらうから。
でも。どうやってあんな化け物倒しちゃうんだろうねー。僕様ちゃんでもわかんないよ」

と、玖渚は疑問を口にして通信を終えた。

追記、玖渚にいーちゃんと呼ばれた“戯言使い”は件の人類最強に連絡を入れて、言葉で苛められた、つまりは遊ばれたようだったが。

これは何時もの事なのでどうでもいい、この“戯言使い”はよく人類最強に遊ばれるのだ、それはもう顔を見るたび、声を交わすたびと言う頻度で、ちょっと哀れ“欠陥製品”。





追記、件の人類最強の名前が出たとき微妙に零崎双識は脅えとも恐れとも、憧れとも取れる微妙な反応を出していたがそれは正にどうでもいいのだが。





地上。

真っ赤に塗装されたオープンカーに乗った女三人と男二人、怪獣同然の使徒が闊歩する仲高速ですっ飛ばしていた。

ステアリングを握るのは“赤い請負人”哀川潤、真っ赤なスーツを着た気の強そうな美女、
車と同じ真っ赤なスーツに身を固めた正に赤色、自身を湛えた三白眼で使徒を眺め、多分見物している。

オープンカーなので長い髪をたなびかせながら、ハイになっているのか何やら助手席に向かって叫んでいる。

「こりゃ盛大だ、御伽噺か、特撮映画化、アニメーションか、これは。愉快痛快だ、なぁ、零崎、お前の弟は私にいい依頼を持ってきたもんだ、お前じゃないが傑作だぞ、これは」

助手席に座る呼ばれた相手、零崎人識、“純粋なる殺人鬼”“人間失格”零崎の中の異端児と呼ばれる生粋の殺人鬼、見かけは15歳ほどの少年、神識よりは年上だろうが150cm程度の小柄な体躯。

頬に施された特徴的な刺青を歪ませて、笑いに歪ませて応える、因みにファッションはストリート系の派手なもので、髪は両サイドを刈り込み、後ろは長く束ねている。

彼も愉快そうに運転席に向けて叫んでいる、因みにこの二人はかつて殺し合いをしたことがあるのだが、今は和気藹々と話しているのだからどういう感性しているのだか。

「ああ、正に傑作だ。鬼殺し、あんたと仕事を同時に請け負うなんて思っちゃいなかったが。神識の野郎、愉快な話を持ち掛けてきてくれる。後で可愛がってやらぁ」

「そりゃ同感、私も神識を可愛がってやる、どんなのが悦ぶあのガキ」

可愛がり方がどんななのかなのかかなり怖い。

この二人の可愛がりは言葉の通りで無い気がプンプンする。

先ほどから前の座席では愉快そうに人類最強と殺人鬼最凶がハイになって叫び合っていたりする、どうにも現状が愉快でたまらないらしい、常人図れない神経の持ち主だろう。

何が愉快なのかはわからないがこの二人がハイになると禄なことにならない気がする。

ミスをするとは思えないが、そう何となく、禄でもないことが起こりそうな予感。

なお、途中で赤いジャケットの女が「止まりなさい!!」とか叫んでいたが、無視してと言うか気付かず爆走した。

勿論その女は作戦有害部長なのだが、多分走っている車を見かけて強制徴発でもして車を手に入れようとしたんだろう、だがもし止まったら解体されていたのは必至だろうなぁ、人識の手によって。

人類最強に殺気の篭った目で睨まれて終わりかもしれないがどちらにしても彼女のような小物が相対できる相手ではないと言うのは確かだ。

人類最強と人間失格。

殺されるのは必至だろう。

確かに、それはそれで残念、詰まらない所で牛を殺処分出来たのに。

まぁ、相応しい死に場所、死に方が彼女にはあってしかるべきかも知れないがね。





で、後部座席に座っている三名、前に座っている二人に比べて幾分、いやかなり静かだった、静かと言うか二名ばかし恨みや怒りのようなものを抱いているっぽい。

名前から言うと、蒼崎橙子、両儀式、黒桐幹也、適当にチーム“伽藍の堂”とでも名付けよう(本当に適当、某小説のキャラ)。

人類最強が引っ張ってきた人間である、正確には蒼崎橙子が引っ張られて来て、残りの二人は橙子に引っ張られて来たという関係図になるのだが、その辺は後で書こう(多分)、恐らくコメディになる。

蒼崎橙子、外見は何処かの社長秘書とでもいえそうな理知的な風貌だがその実、魔術師を生業とする変人、勿論秘書などと言う職業をすれば五秒で首になりそうな人格を保有している、恐らく二十代後半に美女、正確な年齢は多分もっと上だろうが、ある理由により彼女の年齢は不明である。

眼鏡を掛けているときと掛けていないときでは性格に差が出ると言うおかしな性質を保有しているのも特徴、本人は性格を切り替えているだけと言うが、殆ど二重人格に近い、眼鏡を掛けているときは比較的マトモ。

実力は現在世界に三人しか与えられない三原色の“赤”の称号を持つ稀代の魔術師、普段は人形師兼建築家、事務所名“伽藍の堂”営業。

従業員一人しかいないけど。

人類最強と知己になれる人間関係を保有するだけあって現状を楽しんでいる一人、今は眼鏡を掛けているがやはりハイになっている。

「ほら、黒桐君。怪獣ですよ。面白い、本当に面白い東映の映画ぐらいにしか出て来そうに無いものが目の前にいるんですから」

次にいこう。

黒桐幹也、何故ここにいるのか一番分からない人。

無理矢理橙子に連れてこられた被害者と言う表現が一番わかりやすい、何故か全身黒ずくめの服装を好む中肉中背に黒ぶち眼鏡の平凡な青年、まぁ普通じゃない能力が無いとも言えないが、現状では役に立たない、正確は至極常識的でマトモだがもしかしたらこの五人で一番ぶっ飛んだ行動をするのは彼かもしれない。

因みに現在諦めきった表情で化け物、使徒を眺めていた、最初騒いでいたのだが、騒いでも無駄と知ったのか今は諦観の表情で恨みがましそうに隣の雇用主、蒼崎橙子を睨んでいた。

橙子はそんなことをちっとも気にしてなかったが。

気にする神経は持っていないと思う、幾ら睨んでも。

最後。

両儀式、和服に革ジャンと言う良く言えば和洋拙中、悪く言えば適当な格好の、美人さん、服装は目立つのだが似合っているので問題なし。

幹也の恋人と言う説が有力だが、今回無理矢理連れて来られた被害者二号、因みに脅迫材料は恋人幹也、現在は不機嫌な様子で後部座席に座り不貞腐れている。

戦闘技能では零崎に匹敵しうる達人、特殊能力を保持しその力は万物が内包する死期を見定める“直死の魔眼”、全ての生物、非生物、現象に対して死と言う概念攻撃を加えることを可能とする、橙子が使徒を倒すために引っ張ってきた人間なのだが、どうやって殺害するつもりなのかは不明。





都合五名が、N2でボロボロにされた街を使徒に向かって爆走していた。

なお橙子の魔術で気配を消しているので、誰もいない街中でも使徒に気付かれることは無かったらしい。

既に戦力自衛隊は指揮権をネルフに渡したのか、人っ子一人いやしないし。

彼等は“戯言使い”いーちゃんから電話があるまで出来うる限り使徒に接近を試みていた。

なお、いーちゃんがからかっているときの人類最強の顔はそれはそれは楽しそうだったと言う。

助手席の“戯言使い”の類似品といわれる“純粋な殺人鬼”人識は「欠陥製品もご苦労なこって」と一応の友人に哀悼の意を告げていた、別に“戯言使い”は死んではいないのだろうが。





ネルフケージ。

玖渚との連絡も終わり、舞織は未だ続く神識とゲンドウの茶番の観賞に移る。

そろそろ佳境だろう、愚かな男が切れて更なる生贄を差し出すか、それとも地上の化け物が人類最強の手によって敗れるか。

どちらにしろ時間の問題だ。

もう少しで決着は付く。

神識が再び口を開く。

「どうしても乗って欲しいと言うなら、貴方が私の目の前に来て頼めばいい。素直に、当たり前に、礼儀に則って、私の目のまで懇願すればいい、そうすれば考えないことも無い。何故そんな壇上で居丈高に命じる人間の命など聞かねばならん。私は貴方の部下でもなければ息子でもない、他人に物を頼むときの礼儀ぐらい知っているだろう」

臆病者に殺人鬼の目の前に下りて来いと、恐らく絶対に受け入れられない提案を。

臆病者はその提案を聞き、顔を青褪めさせて黙りこむだけだった。










To be continued...


(あとがき)

新作、エヴァとクロスさせているのは西尾維新の戯言シリーズと奈須きのこの空の境界です、これからもし続けば、また他のもクロスするかもしれませんが。
殺人鬼シンジ君どうでしたでしょうか。一応は八十万ヒット記念で書き上げたものです。
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