遠野物語

エピローグ

presented by 紫雲様


〜5年後〜
NERV本部発令所―
 「伊吹技術部長、例の実験の報告書類ですけど」
 「はい、こちらにあります。確認をお願いします」
 「御話し中、失礼します。国連事務総長から連絡が入っていますが」
 ある理由で2代目司令の座を退いた日向の後に就いたのは、弐号機からサルベージされたキョウコである。今の彼女は愛娘とともに、第3新東京市で一緒に暮らしていた。
 惣流=キョウコ=ツェペリン―NERV3代目司令となる。東方の三賢者の最後の1人として、そしてまた1人の母親として精一杯生きる。
 青葉シゲル―退職した加持の後を継ぎ、NERV副司令に就任。その事務処理能力の高さから、NERVから青葉副司令が消えたら、NERVは1年以内に消滅する、と皮肉られるほどの存在となる。
 伊吹マヤ―退職したリツコの後を継ぎ、技術部部長となる。キョウコの存在は、彼女にとって新しい目標となった。青葉とはすでに結婚し、2人の子供をもうけている。

第2新東京市、国連本部―
「良い娘じゃないか?日向君」
 「そうね、日向君には勿体ないぐらいだわ」
 「ええ、彼女のおかげで事務処理が楽になりましたよ」
 国連本部の中で退室した秘書の事で3人の男女が会話していた。普段から『女性と縁がない』と嘆く日向の鈍感極まりないセリフに、自業自得ではないだろうか?と加持夫妻が頭を抱えている。
 日向マコト―NERV司令引退後、国連職員として就職。次の事務総長の有力候補として名前を挙げられている。結婚願望はあるのだが、その鈍感さが障害となっているようである。
 加持リョウジ―NERV引退後、国連職員として、日向とともに就職。紛争調停の為の調整人として世界中を飛び回る多忙の日々を送る。なかなか農業生活には打ち込めないようである。
 葛城ミサト―加持と結婚後、双子の男の子を産む。公の立場としては、加持と同じく紛争調停の調整人。夫の相棒として多忙な日々を送る事になる。

第3新東京市―
 「はい、どうぞ」
 「うむ」
 古びた和風家屋。スダレを通した柔らかい日光の中に、2人はいた。リツコが差し出した麦茶を、ゲンドウが義手で受け取る。2人の表情から、かつてのカミソリのような鋭さを見出す事はできなかった。
 碇ゲンドウ―リツコの激しすぎる求愛の前に陥落した彼は、リツコと一緒になる事を選択した。言葉使いこそ昔のままだが、今の生活をそれなりに楽しんでいるようである。
 赤木リツコ―NERVを退職後、ゲンドウを赤木家の籍に入れる。今は有名企業の契約プログラマーという立場である。ゲンドウとの間に娘を2人もうける。

 「こうしてみんなで集まるんも久しぶりやな」
 「でも、残念ね。遠野君達も来られれば良かったのに」
 「忙しいんだから仕方ないさ。それにあいつ等が元気なのは分かっているからな」
 今日は市立第1中学校2年A組同窓会の日。ケンスケの言葉に、トウジやヒカリも気分を切り上げ、談笑の輪に戻った。
 鈴原トウジ―高校卒業後、大学へ進学。現在は自分で会社を興そうと、色々と勉強中。ヒカリとは正式に恋人となっている。
 洞木ヒカリ―大学へ進学。将来は教師になるのが夢。トウジとは大学卒業後に結婚しようと考えている。
 相田ケンスケ―高校卒業後、フリージャーナリストになろうと新聞社等に出入りを始める。今はまだアルバイトの身だが、それなりに可愛がられているようである。

???―
 「さあ、授業をはじめるぞ。みんな、席につきなさい」
 激しい紛争が続き、満足な生活すら営めない過酷な地に、彼はいた。彼の前に集まったのは、目をキラキラと輝かせる多くの子供達。今の彼に名前はない。ただ『先生』と呼ばれるだけである。だがそんな状況に、彼は深い充実感を感じていた。
 冬月コウゾウ―法王の助力もあり、表向きは処刑されたということで解放。現在は紛争地帯に住む子供達の先生として生活している。数十年後、彼がその地で天に召された時、多くの教え子たちが、墓碑が隠れてしまうほどの花束を捧げたという。

三咲町、遠野邸―
 「それで、この子の名前は何にするんですか?」
 「志貴さん、こっちもお願いしますね、双子なんですから」
 「私のお腹の子も、お願いします」
 「私もお願いしますね、3カ月後には3つ子が産まれるんですから」
 「・・・ちょ、ちょっと待って。良い名前考えるから、少し時間をくれ」
 相も変わらず賑やかな遠野邸。産んだばかりの4人目を抱える秋葉。同じく産まれたばかりの双子を抱える琥珀。3人目を妊娠した翡翠。更に3つ子を宿し、お腹が大きくなってきたシエル。彼女達の足元を走り回る子供達。そんな家族に囲まれながら、志貴は名前を考える事に必死になっていた。
 遠野志貴―退魔の血統である七夜の血のせいか、秋葉との間に生まれた子供達に反転の兆しが見られず、安堵の日々を送る。
 遠野秋葉―遠野グループ会長として多忙の日々を送るが、志貴の正妻としても辣腕振りを発揮する日々。長女・春奈の成長は嬉しい半面、悩みの種でもある。
 巫淨琥珀―遠野家の一員として、多忙な日々を送る。子供が産まれた後、タタリの影響は静まったが、まさか子供にそれが受け継がれていたとは、誰も気づかなかった。
 巫淨翡翠―琥珀と同じく、多忙な日々を送る。彼女と志貴の子供は、琥珀と志貴の間に生まれた子供達と終生に渡ってライバルとなる。
 シエル―埋葬機関の一員として、相変わらず多忙な日々を送る。彼女の子供は特に霊的な力が強かったのか、成長した後、裏の世界で名を馳せる事になる。

三咲町、有間邸―
 「全く、父さんったら!」
 「確かに、あれはきついかなあ」
 「まあ、貴女達がストレス感じるのは無理ないけどね」
 遠野家女性陣の集団妊娠にストレスを抱え込んだ春奈とレオは、頼れる姉貴分である都古のもとに家出してきていた。おませな子供達の可愛いさに、苦笑するしかない都古であった。
 有間都古―高校卒業後、警察に就職。志貴の親友、乾有彦と正式に付き合い始める。数年後に結婚し、子供をもうける事になる。
 遠野春奈―父親の女性関係に頭を悩ます小学2年生。数年後、遠野家後継である彼女に言いよる男は多かったが、全て断り『撃墜王』と呼ばれる事になる。
 レオ―持って生まれた資質のせいか、成長した後、埋葬機関へ就職する事になる。ナルバレック家の娘と良い関係になる。

京都―
 「お兄ちゃん、水、汲んできたよ」
 「ありがとう、レイ。えーと線香と花束は、と・・・」
 「ここにあるわよ」
 3人がいるのは、京都にある碇家代々の墓である。先月、シンジを見守り続けてきた源一郎が他界し、その後始末がやっと終わったばかりであった。
 源一郎の死後、シンジの周囲によからぬ考えを持つ者が集まる事は想定済み。だからこそ、源一郎は色々と手を打っていた。
 遺言書はもとより、後見人に秋葉を指名したのもその1つである。
 「ついに明日から、僕が会長かあ・・・」
 「私が副会長、アスカが会長の婚約者兼副会長なのよね」
 「あれには驚いたわよ。まさか、シンジのお爺ちゃんが、アタシ名義で財産残すなんて想像すらしなかったわよ」
 ユイの実子であるシンジや、表向きユイの子供となっているレイが相続人となるのは誰もが認めるところであった。だがシンジの婚約者とはいえ、何の血の繋がりもないアスカに財産分与の遺言があったという事実は、関係者達を驚かせていた。
 実のところ、遺言書というものは法的拘束力が完全とは言い難い。状況が許せば、遺言書は法的に破棄される事も現実としてありうる。
 当然の如く、アスカの相続に関しては反対意見が持ち上がったが、そこはシンジの後見人に指名されていた秋葉の圧力で黙らせている。
 「それじゃあ、そろそろ帰ろうか。お爺ちゃん、お母さん、また来るからね」
 「また来ます」
 「心配しないでね、アタシ達、頑張りますから」
 3人以外は誰も知らない。墓の中には、初号機のコアが眠っている事を。
 「シンジ、書類仕事はアタシ達でやってあげるからね」
 「そうね。お兄ちゃんは目が見えないから」
 最後の戦いにおいて、初号機の投影から始まった魔眼の酷使は、結果としてシンジを完全な失明に追い込んでいた。眼球ではなく、視神経と視覚に纏わる脳細胞の壊死は、いかにNERVの技術力や、巫淨の血をもってしても癒す事はできなかった。
 「ありがとう、助かるよ」
 「気にしないで。アタシがそうしたいだけなんだから」
 「私も同じ、お兄ちゃんを助けてあげたいだけ」
 墓地を立ち去る3人。その影は、仲良く寄り添うように見えた。

 この後、数十年に渡って、3人は時間を共有し続ける事になる。時には喧嘩したり、離れたりもしたが、結局は3人一緒に暮らし続けた。
 それは3人が天に召されるその時まで、ずっと続いたという。



Fin...
(2010.11.20 初版)


(あとがき)

 紫雲です。最後までお読み下さり、ありがとうございます。
 改めて読み返してみましたが・・・何でこんなにミスが多いんだと恥ずかしさにのたうち回っておりますw多少のミスには目を瞑って下さると、とても助かりますw
 完全なハッピーエンドとは言えませんが(特にシンジの失明)、こういう終わり方もありではないかなと思います。大きすぎる力の代償として光を失う。でも支えてくれる少女達がいる限り、シンジがギブアップする事はないでしょう。
 ちなみにゲンドウの結末については、プロット通りの展開でしたwもしかしたら『リツコを嫁にはやらんぞお!』という方がいるかもしれませんが、笑って流してやってくださいw
冬月に関しては、即興で作った結末でした。本来のプロットなら、冬月には悪役としての結末が待っていた筈だったのですが・・・冬月先生の良心に脱帽ですw
 さて、話は変わりますが、次回作についてです。
 一応、来週の更新に合わせて、次回作の基本設定と予告編を掲載させていただきます。まだ書いていないAEOEのクロスになります。12月一杯はプロットを練って、1月から掲載の予定でおります。こちらも応援して頂ければ幸いです。
 最後に、今までお読みくださってありがとうございました。また次の作品もよろしくお願い致します。



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