ようこそ、最終使徒戦争へ。

プロローグ

presented by SHOW2様


紅い世界−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 


………白い砂浜。



聞こえるのは、波の音。それ以外の何も聞こえないこの状態が、一体どのくらい続いているのだろう?

 ……これを聞いているモノはいるのだろうか?

  ………空を見れば月が、星が見えるが、夜ではなさそうだ。 
  
そしてソコには、紅い虹が架かり、太陽が、雲がなかった。


……これを見ているモノはいるのだろうか?


白い砂浜には赤い服。 その服は紅い液体に濡れていた。 

その横に、ちょうど先ほどまで人が居たような跡があった。

しかし、ソコには誰も居ない。 

動くモノが居ない世界。


……よく見れば足跡が砂浜についており、赤い服とは反対側の方へ点々と続いていた。 


”ガッガッガッガツ……ガン!”


泣きはらした顔をした一人の少年が、

 砂浜に朽ち捨てられていた木の杭の上に、白いロザリオを石で打っていた。 

「ッ! いてっ。」


……白いカッターシャツに、黒いズボン、というより学校の制服を着た少年。


背は決して低くはないが、細身である。

その手の先には、さきほど打ち付けていたロザリオ。

…よく見てみると、そのロザリオはさびた釘で杭に打たれているが、

  この少年が下手なのか、打っていた時に使っていた石のカタチが悪いのか、

   その釘は最後まで打ち切る事ができず、曲がっていた。 

少年は何とかロザリオを固定できた杭を見た後、足を引きずるような気だるい足取りで、

 赤い服の近くまで戻ると、それを砂浜に打ち立てた。

涙で濡れていた頬を乱暴に手の甲でぬぐいながら、暫し呆然としたように佇んでいた。

「……さようなら、みんな……」





白い砂浜で−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−





さて、この少年は最初から一人でこの砂浜にいたワケではない。 

なぜなら、先ほどの赤い服は少年のものではないのだから。

この世界に成ってから、一体どのくらいの時間が経っているのか正確に知るものはいないだろう。

今、唯一動いているこの少年以外には誰も居ないようだし、この少年自身、わかっていない。 


……が、何事にも最初はある。


少年の意識が戻ったように、ふと気が付いた時、横に赤い服を着た少女が横たわっていた。

少年は、この少女のことを知っていたので、話しかけて、手を、顔を触れてもみた。

しかし、この少女は焦点の合っていないような瞳を開けたまま、瞬きもせず、また動かなかった。  

いつまで経っても、何の反応もないので、発作的に少年が首を絞めた時に、やっと一言だけ、

「……気持ち悪い。」

 と呟き、その少女の右手が何かを確認するかのように、少年の頬に触れた瞬間、

  彼女は紅色の液体になって溶けるように消えてしまった。 


……その後、少年は呆然と紅く染まった海を眺めていた。


彼が好きだった少女も一瞬、紅い海に見えた気がしたが、

 ソコに向かって名前を呼んでも、叫んでも…いつまで経っても、何も見えず、動くモノの気配もなかった。


……ココは絶望の果てなのか?


彼は、寝そべって体を丸くし、この世界を拒絶するように、目を閉じ心を殺そうとしたが、

 なぜか一向に睡魔も訪れず、相変わらず波の音だけが耳に届いていた。

ふと何の気なしに寝返りを打った時、ズボンの右ポケットに何か入っている違和感を感じた。

なんだろう、と手を入れて確認してみたのが、先ほどの白いロザリオだった。

少年は暫しそれを見ていたが、自分の知っている人たち、自分が知っているその世界との決別に、

 また、赤い服の少女の墓標代わりにと、何かないか砂浜を歩いてようやく探し出したのが、

 先ほどの石とさびた釘が刺さっていた朽ちた杭だった。


……もう、誰も居ない、誰とも会えない、この世は自分一人だけ。


寄せては引いていく波の音が聞こえる度に、

 まるで、この世界は決して夢などではない、現実なのだと教えてくれているようだった。


「あやなみ………はぁ………」


座っている白い砂浜から見える海は相変わらず紅い色のままで、

 白昼夢のような、あの非現実的な出来事の最中で望んだ他人は、

  誰もいる気配はなく、自分と同じように紅い海から出てくる感じもなかった。





動く刻−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−





一般的に人間とは、一人でいる時ほど、その考えていることが口に出ているものである。


……さびしいのだろう。


その例に漏れず、この少年も先ほどの呟きを何度と無く繰り返していた。

そして時間が経ち、誰もいないことに慣れてきたのか、少年は無意識の内に”ブツブツ”喋りだしていた。

「…僕が望んだ世界? これが? いつからナニを望んだんだろう?

 僕が他人を望めば? 確かに望んだかもしれない。…でも、ここには誰もいないよ?

 ココには、綾波がいない。あの時、会えたカヲル君もいない。

 ナゼか、アスカは居たけど…消えてしまった。

 はぁ……なぜ?」


「やっぱり、僕は綾波が好きだったんだ。

 今まで、人を好きになるっていう事が、どういう事かよく判らなかったけれど…

 だけど、誰もいない…この世界で考えるのは………綾波のことばっかりだ。

 …情けない僕がエヴァに乗ったばっかりに、世界が、人の世界が終わっちゃったんだね。」


……この少年、かなりの内罰的思考者のようだ。


世界がたった一人の人間のせいで終局を迎えるのならば、

 かのノストラダムスが予知し予言した”魔王”とは、この少年の事だったのだろうか?


……もっと気楽に考えてみることをオススメしてみたい。


まぁ、こんな調子のこの少年は、周りの変化に気付いては………勿論、気付いていないので、

 相変わらず体育座りで膝の上にオデコを乗せ、下を向き”ブツブツ”逝っちゃっているが、

  少しカメラを引いてみると先ほどはなかった”事象”がいくつかある。

まず、少年の正面1m程のところに、蒼銀に淡く輝いている小さな”玉”が浮いていた。 

このままでは、少年は何時まで経っても気付くハズはないし、お話も進まないのだが、

 そうは世界がさせない。 





女の子−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−





「…あやなみ。…はぁ。……綾波ぃ。」

「なに?」

「…僕は、えっと、その、僕はキミのこと、好きだったんだ。」

「そう。」

「…うん。」

「ねぇ? あなた、碇シンジ君でしょ?」

「うん。…そうだけど。…って……えっ?」

「クスクス。…そういう大事なことは、目の前にいる子にちゃんと直接伝えるべきだよ?」

「そうだね。って……へ? えっ!?」

後ろから声が聞こえてきたが、最初は幻聴だろう…と少年は気にもしていなかった。

…が、その勝手にしゃべっている声は間違いなく幻聴ではないと、少年は気付いてあわてて振り返る。

そこには、微笑んでいる女の子。

そう、この少年が願って止まなかった少女、…とそっくりな幼女が後ろ手に立っていた。



「???」



……少年は、自分の瞳が写す情報をうまく咀嚼できていないようだ。


「う? …ありゃ? ……もしかして、違うの?」

その子は、綺麗な紅い瞳を丸くして、顔を傾げて困ったような顔になった。

「…って、え?」

「あ、そうだよねぇ。いけない、いけない。…まず、自分からだよねぇ。

 えへへっ…ゴメンなさい。 

 私は、一人目の綾波レイを基にしているリリスだよ。」

「? ……はぁ。」

「はぁ。じゃ〜ないでしょ! 
 
 私は…あなたは、いかりシンジ君なんでしょ? …って聞いているんですけど?」

イマイチ反応の薄い少年に”ズイッ”と、一歩前に出た幼女の足にはなぜか、黄色い長靴が。

シンジは首だけではなく、彼女に向き直るために体ごと後ろにひねった。

「うん、そうだけど…」

「じゃ、正解だね♪」

幼女はニッコリとうれしそうに笑った。



「えっと、君って……誰?」



そのもっともな質問をした少年、碇シンジ君は、思考能力が一時停止しているようだ。 

どうも、かなり”間”と思考の回転スピードが宜しくない。


………親切な誰かが右斜め45度から叩く必要があるかもしれない。


「あれ? さっき自己紹介したんだけど、判らなかった?

 あぁ…それとも、聞いてなかったのかな?」

ニッコリ笑顔も可愛いかった幼女は、とたんにジト目になった。 

そんな変化にあわてるシンジ。

「…え、えと、一人目? 綾波? ……でも、あの、キミって…小さいよ?」


……余計なことも言っているようだが、
 
 ちゃんと聞いてましたと、少年は最大限のアピール中だ。 


その様子にまた微笑む幼女。

「そう、一人目。この身体が小さいのは、自我が薄い幼年期にこの子が赤木ナオコに殺害されたからよ。

 …でも、今の私が入るには丁度都合がよかったんだから!」

「? …入る?」

「…そう、綾波レイの霊的因子の大半は私、リリスですもの。

 でも、二人目と、三人目は自我が強くて……と言うより、今の2人の意識が混ざり合っちゃった、

 しかもソコまで魂が疲弊している状態で、私が入っちゃうとそのまま消滅しちゃうから無理ね。

 …かわいそうだったし。」

そう説明して、平らな胸をそらし、良く知っているでしょ? …と、なぜか得意気だ。

「え? 消えちゃうって………じ、じゃ、まだ消えていないの? 

 綾波は、綾波は、どこかにいるの? …どこにいるの? …ねぇ!教えてよ!!!」

やっと、他人と話ができる事態にフリーズしていた、シンジ君CPUは漸く回転速度を上げてきたようだ。

そして、幼女の肩を手に掴むと、お約束のように前後にゆすり始めた。


……もちろん、かなり激しく。


「っ!! わ、わ、わわ! えっ、ちょ、ちょ、ちょぉぉお!」

そんな事をしていても、会話はできないし、もちろんお話も進まない。

「ねぇ! …教えてよ!!!」

 ”ッポン♪”という、何かが抜ける”いい音”と共に、やっぱり何かが当たる音。 


”ごちんっ!”


……ご愁傷様だ。


「ッ!! …ぅうぅ〜…ぃたぁあ〜」

シンジ自身が現状を把握できた時には、頭を抱えて砂浜を転げる幼女が。 

どうやら、肩から手が外れた勢いでお約束のように、砂浜にあった石に頭が当たってしまったようだ。

「ご、ごめん! 大丈夫かい? …そ、その、ホントにゴメン!」 

幼女を抱き起こし、当たったであろう後頭部を優しく触れて”そっ”と撫でる。

「ぅう〜」

涙を溜めて潤む紅い瞳がシンジを責める。

「…っゴメン。……どうしよう、あぁ。」

シンジは、彼女の頭を優しく抑えながら、何かないかと周りに目をやった。

「…………ん?」 

そこで初めてシンジは空中に浮いている、蒼銀に淡く輝く玉を見付けた。

相変わらず聞こえる波の音と、紅い景色と浮かぶその玉に、目が離せなくなり呆然とそれを見ている。

「…うぅ〜、シンジ君ってば、ひっどいのぉ。 

 傷つけた女の子より、好きな女の子しか頭にないのね。」

幼女は撫でられて、気持ち良かったのに、勝手に手を止めたシンジを見て、更にジト目で責めた。

「そ、そんなんじゃ、ないよ。…って…え?」

言われた言葉の意味を咀嚼できたシンジは驚いて幼女を見た。

「そうよ。あそこで淡く光っているのが、君の知っている綾波レイよ。

 ま、できれば…早めに”お別れ”の挨拶をしたほうがいいと思けど。」

「わ、別れ?」 

シンジが今最も聞きたくない、恐れさえ抱くようなその言葉に、目を勢い良く淡い光のあった方へ向ける。

淡く輝きソコに佇んでいた玉は、まるで彼らのやり取りを聞いていたかのように、

 ゆっくりシンジのほうへ近付いてきた。


……だが、近付くだけで、それ以上動くわけでも、話しかけてくるわけでもない。


その光の玉をシンジはただ動くことなく、呆然と凝視していた。

暫くすると、その玉の光の強さが変わってきているのか、明陰し始めた。

「あれ? ……お別れの言葉は要らないのかな?」

特に動くこともないシンジを見て、幼女は意外そうな顔で呟いた。 

その言葉に弾かれる様にシンジの顔が幼女のほうに向く。

「アレは、綾波? ……綾波は消えちゃうの? どうしてさ! …もう、話もできないの?」


……彼の紅い瞳から涙が溢れてきた。


「? …話し方、知らないの?」 

幼女はワケ分からないと、顔を傾けた。

「話し方?」 

シンジは、どうして良いのかまるで分からず、幼女にただ、懇願の顔を向けだけであった。

「! ははぁ、シンジ君ってば…もしかして、自分のことも分かっていないのね。」

ようやく幼女は理解できた、と手を”ポムッ”と打った。

「え? 僕のこと?」

シンジはこれ以上ない位、混乱していく。 

「うん、そう。シンジ君、アナタ自身の事よ? よしっ、しょうがない。

 今は早くしないと”愛しの姫”が消えちゃうから、このおネエさんがお話できる方法を教えてあ、げ、る♪

 まずね、光の玉を両手で優しく包んで…そう。そして、瞳ではなくて、”心”で、

 光の中を見るような感じで話しかけてみてね。……優しくだよ?」

おネエさんと自称した幼女は、シンジと蒼銀の光の邪魔にならないように、

 ほんの少しだけ離れた位置に立ってあげた。





レイ−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−





幼女が離れた後、シンジにとってはもちろん訳が分からなかったが、

 兎に角、光のほうを向いて言われたように手でそっと光を包んだ。

「………? ぅわぁ、なに? …すごく温かいや。」

感じたことを無意識に呟き、知らずに微笑んでいた。




『………………な、何を言うのよ。』




「…え?」

驚いて、シンジは光を見た。

『…碇君。』

その光の中に意識を集中すると、逢いたいと切望していた少女の姿がイメージとして視えた。

「…あ、あやなみ、綾波なんだね? …逢いたかったよ。」

彼は、自然と顔が綻んでいく自分が解かってしまい、更に”カァッ”と頬が熱くなってしまった。


『…ごめんなさい。』


「は、え?」

いきなりの謝罪の言葉に、流石のシンジも”?”になってしまう。

『やっと、碇君に逢えたのに、私にはあまり時間がないの。』


……困惑と愁嘆のイメージがシンジに伝わってくる。


「ど、どうして? やっぱり消えちゃうの? そんなの嫌だよ! 綾波が消えちゃうなんて!

 …ねぇ、どうにかならないの? 綾波!!」

『…サードインパクトの時、碇君に私の力をあげたから。』

少年に、彼女の澄み切った透明な笑顔のイメージが伝わる。

「そんな事、判らないよ。綾波、でも、でも僕は嫌だ!!!

 ねぇ、返すよ、そんな力。……そんなの僕、いらないよ!?」

『…ありがとう、碇君。でも一度離れた力は、戻すことはできないの。』

レイから申し訳なさそうに俯くイメージが伝わってくると、シンジは涙が溢れて、それでも必死に懇願する。

「いらないよ! …僕はいらない! だから、だからお願いだから、そんな事言わないでよ!」


……ここで、離れていた幼女からため息が漏れた。


「…ふぅ。シンジ君、さっきも言ったように、あなたって今の自分の状態がよく分かっていないのね…」

この場に関係ないような彼女の言葉に、流石のシンジも”カッ”と食って掛かった。

「…なんだよ、それ? 知らないよ!! 僕のことなんて関係ないじゃないか!!

 綾波が消えちゃうんだよ!? …今はそんな事、どうでもいいだろっ!!!」

しかし、幼女は一歩、一歩”ゆっくり”と彼に近付くと、

 蒼銀に淡く輝いている玉をこの世で一番、貴重な宝のように抱く少年に言った。

「フフッ。…碇シンジ君、この宇宙のルールは君なのよ?」 

少年に顔を近付いた幼女は”にこっ”と笑った。

「? な、なんだよ…それ?」


……言われた本人は、その意味を全く理解できていないようだが。


「だから、今の君は{光、有れ。}なのよ? 

 この次元、宇宙、世界、その他もろもろの全てのルールであり、それに縛られない自由なカタ。

 …多分、今理解できないのは知識がないからなのね。

 やっぱり、魂の霊的プロテクトを全く無視していきなり”力有るカタ”に成っちゃったのは、

  この宇宙始まって以来、初めてだもんねぇ。」

「?」

シンジは目も頭の中も”?マーク”である。


……こちらとしても、もう少しテンポ良く会話をしてくれると助かるのだが。


「…ま、知識なんてそこらの海に転がっているし、君の姫はそんな悠長な時間なんてなさそうだし。

 って事で、説明は後ね。う〜んと、取り敢えず確認したいんだけど、

  シンジ君はその手に抱く綾波レイの”心の消滅”を阻止したいんだよね?」

「う、うん。」

ようやく彼女の話が自分に理解できる言葉になって、慌ててシンジは頭を縦に振った。

「そんでは、簡単に。


 {わがてにある、あやなみれいの、こころよ。

  われのぞむ。

  われとともに、ときをきざむことを。}


 て、いうような事をお腹に力を入れて、真剣に願いながら言ってみて♪」

得意気に人差し指を立てながら、満面の笑みになる幼女。


……何も願いを平仮名にしたからって、そのやり方が簡単になるものではないと思うのだが。


だが、物語の主人公は真剣な表情で目を瞑り、手の中の温もりに意識を向けながら呟くように言葉を発した。


「{我願う。我が手にある、綾波レイの心よ。我と共に時を刻むことを。

  我と共に永久の時を刻む事を!}」


……それは若干、幼女のセリフとは違うが間違いなく効き目はあったようだ。


今では、明陰というより、薄っすらと消えようとしていた蒼銀の玉が、

 シンジの呟いた言葉を受けた瞬間、力強く光り輝きだした。

その変化を見てシンジは、

「やった?」

 と、満面の笑みになっていた。

そして光の中のレイも美しい微笑を浮かべていた。

「ふふっ。…成功したようね。さすが、{言 霊}を操る神様ね。」

リリスである幼女は、さも当然とばかりに言うが、その表情はやはり”ニッコリ”と笑っていた。

暫くレイのイメージを見て、消えるような事がなさそうだと判ると、

 シンジは安心し、先ほどからの幼女の言葉にふと疑問が湧いた。

「ねぇ? これって、どういう事? …それにキミが言った僕の状態ってなに?」

幼女のほうに向きながらシンジは問うた。

「うん? …あぁ、そうね。説明してあげると、

 まず、今の君の状態は、創造主であるモノと同等の力を持っている唯一の存在よ。」


……シンジの問いに紅い瞳を閉じながら、言葉を紡ぐ幼女。


「創造主? え? 神様ってこと? …ぼくが? …どうして?」

瞳を閉じたまま、言葉を選ぶように幼女は言う。

「う〜んと、憶えているかな?

 シンジ君は、サードインパクトの依り代として、

  聖痕が手の平に刻まれた段階で、人類史に記載されているキリストと同等になったの。

 うん、まぁ…いわゆる神の御子ってヤツね。

 あの儀式は本来ならば、そこでキミが依り代として第18使徒リリンとなり、

 終了って感じだったんだけど、シンジ君はその階梯を上がる段階で、

 想定以上の膨大なエネルギーと、予想外にもアダムとリリスの力を受け継いじゃったのよ。」

「?」

シンジ君の頭の中に、クエスチョンマークが”サンサン”と輝き回転している。

「う〜んと、そんで、魂の階梯を、”すっぱぁ〜ん”って感じで駆け上り切って、

 なぁ〜んにも知識のない神様が、出来上がり〜って、何だか、これってレンジで”チンっ”て感じだねぇ。

 …ん? あれ? ちょっと、ソコ!! ちゃんと私の話を聞いてるの!?」

幼女は面倒くさい話が無事に終わったと、得意気に瞳を開けて見ると、

 目の前には間抜け顔を”ポケ〜”と満開にしている少年が映った。


……そんなモノが瞳に映れば、まじめに話をしていた自分が馬鹿らしくなる事、請け合いだ。


「う? …うん。き、聞いてたよ、ちゃ、ちゃんと。」

突然の幼女の剣幕に驚きながら、生返事をする少年。


……う〜ん、このまま続くと何時終わるか解からないので、

 こちらでまぬけ少年と、幼女のやり取りを省き、要点をまとめて説明をしようと思う。





願いは−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−





……あの時、少年はサードインパクトの依り代として初号機に乗っていた。


当初、ゼーレ主体のインパクトとしては、

 S2搭載型エヴァ9体による高次元エネルギーを持って魂の解放を行おうとした。 

そして儀式の最中、予定外の事が起きた。

リリスが目覚め、月よりオリジナルのロンギヌスの槍が戻ってきてしまった。

これは、S2エヴァなしで行う正式な儀式と同じである。

つまり、2回分の高次元エネルギーが第3新東京市上空にあったのだ。

そして、ゼーレにとっては一応想定内ではあったが、

 この時のリリスはゲンドウ主体の儀式の為に、アダムを内包していた。

また、これで1回分のエネルギー追加である。 

あの儀式の最終局面では、計3回分のインパクトを行える高次元エネルギーがあったのだ。

そして、最大級の事象原因として、

 ゼーレ、ゲンドウ、死海文書を残した先史第一始祖民族の科学者の誰もが、

  全く想像すらできなかった事があった。


……全宇宙的、歴史上、碇シンジにしか成し得なかったこと。


それは、単体の生物として完成している使徒に興味を抱かせ、友好を図り、愛を交わせたこと。


……最も、シンジとしては、カヲルの愛は友愛と信じたいと思っているのは秘密だったが。


これにより、心が壊れかけていたシンジの為に”力になりたい”と思う純粋な心が、

 アダムとリリス両方の創造の力として等しくシンジの中に入っていったのだ。

インパクト3回分の高次元エネルギーと、第1、第2、第18使徒の力を内包したシンジの強大さは、

 さきほど幼女が述べたように、この世を創造した神と等しかった。


………意識をすれば背に現れる、その白銀に輝く大きな翼は”1対”だが、

 その羽毛1枚は天使の翼と同等の力を示しているのである。


……比較の仕様がない。


その強大な力の発現法は、

 幼女が教えたように言葉に神気を乗せれば{言 霊}という事で実現されるようだ。

また、矛盾する事象になる場合は、

 親切にも回避方法が頭の中に選択式(3択程度)で羅列され選べるようだ。


……正に至れり尽くせりである。そんな便利なシステムは一体どこにあるのか?


その答えをちょうど幼女が説明している。

「えっとね、世界樹っていうか、ユグドラシルシステムだよ。 

 今まで、管理人がいなかったから、システムは自動更新機能で維持してたけど、

 今回の事で、シンジ君が新しく管理人になったみたいだねえ。」

「え? いなかったって? …神様って、この世に居ないの?」

少年は、宗教上にある神の事を聞きたいようだが、そんな彼にリリスはかぶりを振った。

「あのね、この世を創造したカタって、いわゆる人類の宗教に在る神とは少し違うのよ。

 人類が記している神は価値観を持っているけど、創造主はそんなモノ持っていなかった。

 …つまり、人の期待する処の”神”とは違うから、いない、ってことになるのかねぇ…」


……つまり、神は居た。


しかし、次元、時、生命を創造しても、”ソレ”は、それらに価値を見い出す事はなかったのである。

創ってみたのは、自身にある知識の確認であった。

意識した時に、全てを創り、また壊せる力を持っている”モノ”が、

 自身が創ったものに価値を見い出す、などと言う事はあるだろうか? まず、ないだろう。

つまり宗教に登場する神とは、信者のための存在である。


……それは創造主とは違う。


さて、全ての知識の確認をしていた創造主は、ある一つの問いの答えを知ることができなかった。

…というより、その疑問の答えを確認し、体験することができなかった。

その問いとは、自身が”無”となった場合、どうなるのか、というもの。

己の存在の消滅。

”カレ”は自分が消滅した先の世界が知りたくなったのである。

そして、それは”カレ”の初めての欲求だった。

モチロン、ただ消滅してしまったのでは、自身がいた”存在証明”がなくなるので、

 創った次元と、時、生命を残せるように工夫して、”無に向かった”のである。


……リリスは、いつの間にか砂浜に座っていた。


「だから、この世の”神”は空位だったし、

 神になれる存在は未来永劫、現れないはずだったの。」

幼女は難しい説明が終わりそうだったのでご機嫌なようだ。

「あのさ。…キミは、リリスだって言っていたけど、僕の中に”在る”っていう、リリスの力とは違うの?」

少年は幼女に質問した。

「う〜ん、私は余りものみたいなもんだねぇ。ちょっと、寂しい言い方だけど…」

彼女は、ちょっと口を尖らし、顎に指を当てている。

「表現するなら、リリスの知識体って感じがピッタリかも。

 あ、それと、対のアダムの知識体は存在できなかったみたいね。」

なぜか、ちょっと残念そうだ。

「アダムの知識体が出てきた場合の姿って、たぶんラストだったゲンドウだよ♪

 親子でゆっくり、話ができたのにねぇ。」

リリスは、にんまり笑っている。

「い、いやだよ!そんなの要らないよ!」

シンジはその様子を想像し、慌てて周りを見ていった。

「フフッ。…ま、いないけどね。」

ちょっぴり顔を真面目にした幼女が聞いてきた。

「…さて、シンジ君はこれから、どうするの?」

いきなりな質問に、シンジはまたクエスチョンである。


……それでも、少年は暫く考えていると、何かに閃いたように顔を上げて、微笑んだ。


「ねぇ、綾波はどうしたい? 

 今度は、僕が君の望みを叶えてあげたい。」

シンジは優しく彼女に言った。


『…私は、碇君と共にいたい。…それ以上の望みは、……………』

そこで言いづらいように、黙ってしまったレイにシンジは心配そうに言った。

「…? 良く判らないけれど…うん、ずっと一緒にいよう。

 でも、他にも何かあるなら、言ってよ?

 僕に何ができるか分からないけれど、全力で頑張るからさ。」


……少年はいつの間にか、随分前向きになったようだ。…いい傾向である。


『……できれば、あの、その…』

その、もどかしい様な雰囲気に、”ピン!”と来た幼女は、また顔を”にんまり”して言った。


「あっ! ふ、ふ、ふぅぅ〜ん。…レイちゃんってばぁ、もう♪ お姉さんは判っちゃったけど、 

 シンジ君は”にぶチン君”だからねぇ。ちゃんとはっきり言わないと判ってもらえないわよぅ♪」

「へ? な、なんだよ、それ。」

いきなり、往年のミサトのような悪戯っぽい顔をした幼女にシンジは慌てて、

 レイを見ながら声をかける。

「…ごめん、何のことか判らないよ。…ごめんね、綾波、何か言ってよ。」

『…からだ、が…欲しいの。』

光玉のレイは紅くなった顔を俯かせながら、怖ず怖ずと小さな声で言った。

「え? へ? か、からだぁ!?」

我知らず顔を真っ赤にしてしまったシンジを見た幼女は、さらに目を細めた。

「あれ? しんちゃんてばぁ、えっちさんだねぇ。一体、ナニを想像したのかなぁ?」

幼女は”プププ”と笑いながらシンジの顔を覗いてきた。

「え? ち、ちがうよ!? …そ、そんな。」


……真っ赤シンジ君は、フリーズしてしまった。


幼女は、そんな少年をバッサリ切って、

「…まぁ、冗談はともかくとして、難しいお願い事だよ? それってば。」

 と、真面目な顔をして、カップルに向かって言った。

再起動中のシンジ君は何とか幼女の方を向いて反論する。

「ど、どうしてさ。…か、神の力があるんだから、か、簡単なんじゃないの?」


……やはり、呂律が宜しくなさそうだ。


「あのねぇ。さっきの神様の話を聞いてた? 

 神は自身を消滅させる時に、創ったモノと自分の因果律を切るのに物凄い力と長大な時間を使ったんだよ。

 つまり、”ささっ”とシンジ君の力で創っちゃったら、

 レイちゃんの望みは叶わないって言うことかな…」

因果律とは、原因と結果の法則のことであり、

 自分が何かを成した場合、どんな事でもお互いが影響を与え合うようになってしまう。

まぁ、ない事態だろうが、シンジが消滅すれば創造物も同じくである。

また、創造主に対して絶対的な意識ができてしまうので、対等なパートナーにはなり得ない。

それは、シンジの望みではないだろう。

「じゃ、どうすれば綾波の望みを叶えられるの?」

シンジとしては、今、レイの願いを何とかしてあげたい、その一心である。

「まぁ、時間はほぼ無限にあるわけだから、

  まず、知識を得て、理解し、力を使えるようになるのが早道なんじゃない?」


……ぶっちゃけ、幼女としてはそろそろ自分で考えろって顔だ。


「その紅い海の中に入り、意識を集中すれば欲しい知識が手に入るわよ。

 …ただし、要らない事を、知らないほうが良いって事を多く知ってしまうかもねえ。」

「?」

「つまり、人類の黒い感情、負の面とかよ。

 一度知ってしまったモノは知識として、忘れることはできない。

 …全人類の暗い感情、狂気を”知って”しまったら多分、シンジ君はぁ…」

「ど、どうなるのさ?」

困った顔をしている幼女に、シンジは怯えた様に聞いた。

「全知全能、最高の邪神誕生ってトコかなぁ、
 
 …ま、それはレイちゃんが望まないだろうから、ナシね。

 う〜ん、よし。じゃ、この私がサポートをしてあげましょう♪」

リリスは、いい事思いついたと、満面の笑顔で手を”ポムッ”と打った。

「えっ? …手伝ってくれるの? うん、お願いするよ。

 …どうすればいいのか、その、良くわからないし。」

シンジもうれしそうに微笑んだ。

「じゃ、紅い海に入りましょ〜♪」

”よしっ”と、振り向きもせず”テクテク”歩く姿は、海水浴にでも行くかのようなノリであった。

「ま、待ってよ! …そ、その、ぼ、僕はお、泳げないんだ! ねぇ!」

慌ててシンジは、幼女を追いながら叫んでいた。

「? …浸かっていればいいのよ。…泳ぐ必要はないわ。」

…と、彼女は構わず”ザブザブ”入っていく。

シンジも幼女に続いて入っていったが、水面に映った自分を何気に見て足を止めてしまった。

「??? …だれ?」


……水面には白銀の髪と、紅い瞳の少年がいたが、渚カヲルではなかった。


「え? ぼ、ぼく? …って、色が違うよぉ!」

シンジは取り乱したように慌てるが、そんな少年に幼女は冷たく言い放った。

「私と会った時には、その色だったよ? 

 それに、カラーなんて力で変えたい放題なんだから、ドウでもいいと思うけれど?

 それよりも、ハイッ! ここで横になる!」

そう言って幼女は水面を”パシパシ”叩いている。


……さっさと、早くしろってモンだ。


「う…わ、わかりました。」

その迫力に押される情けない神シンジ。

少年は頭を幼女に抱えられて、紅い水面に浮かぶように横になった。

「それでは、リリスちゃんの特別講座の始まりぃ♪」

にこやかに笑うその顔は、やけに楽しそうだ。

シンジの仰向けになった胸の上で光っている玉、レイも興味津々の雰囲気だ。

「それではぁ、りらっくすしてぇ、めをとじてぇ♪」 


……ナゼか幼女も瞳を閉じる。


それに倣うようにシンジも瞳を閉じて、頭を抱えてくれている幼女のほうに意識を向けた。

そして、温かさを感じた後、

 徐々に時間の概念が消え、波の音も消え、水に触れている感覚もなくなっていった。

シンジの知覚できる世界に残ったものは、幼女と、綾波だけを感じる世界でたゆたっている自分だった。


……レイは暖かいシンジの胸の上で次第にまどろんでいった。


そしてシンジが、ふと額の中央に明るい光を感じた時だった。

リリスの選んでくれた情報が、その知識が遥か上空から自然と落ちてくる滝のように止め処なく流れてきた。

シンジはその不思議な世界の中で、宇宙の真理、物の理、科学、始まりから今迄の歴史等のかなり上等で、

 高等なモノから、美味しいコーヒーの淹れ方、お掃除、お洗濯、家事実践編といったような、

  何だかやけに生活感のある知識まで頭の中に刻んでいった。





向かう先−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−





…………………………そして、時は過ぎる。


……温かく頭を包んでいた幼女の感覚が、ふと遠くなった気がして、

 シンジは久しく動かしていなかった瞳を開けて幼女の方を向いた。


「…どうしたの?」


……シンジの問いの先にいた幼女は微笑みながら少し離れた。


「うん。しんちゃんは、私の知識を完全にモノにしたの。…だから、そろそろ私は消えるのよ。」

そう言った幼女は、一瞬寂しそうな、それでも透明で澄み切った、何か悟ったような瞳をして微笑んでいた。

シンジはゆっくりと立ち上がった。

「…僕が、君を知ったから?」

レイもシンジの横に佇むように浮かんだ。

「そう、知ったから。…私は知識体だもの。私は、シンジ君の知識なのよ。」

幼女はそう言いながら、その姿は薄っすらと霞んでいく。

「…でも! でも!」

シンジは知っているから、俯く。

「…碇シンジ君、あなたの願いを、レイちゃんの望みを、叶える方法はわかったハズよ?」


悔しそうに、考え込んでいたシンジは、”ガバッ”と頭を上げて言った。


「…でも、君の意識は知識じゃない! 僕が、消える事を許さない!

 知っているだろう? ルールは、この僕だ!!


{君は、僕のための意識体として在る事を許す。その意識を知の源として我が手に有れ!}」


そう言い放った少年が、幼女のほうに手を向けると、霞んでいた幼女は淡く輝き出した。


……その中の幼女の表情は、驚きに満ち満ちていたが。


「しんちゃんってば、強引さんだねぇ。…まさか、こんな私の存在を望むなんて。」

幼女の光が完全に消えた後、少年の向けた手の先には、一冊の文庫本サイズの本が浮いていた。

「ふふっ。…君は、君だよ。

 僕の為にしてくれたホンのお礼のつもり。まぁ、君が望んでいなくてもね。」

「ふ〜ん。ま、いいけど♪」

幼女だった本は嬉しそうな雰囲気を出し、

 知識の本”アカシヤブック”のようになった事など、特に気にしていないみたいだ。

「…僕は、人としての勝手な価値観を持っている、傲慢な神だからね。

 他人がドウ思うと関係ないよ。…したい事をする。……僕と綾波の為に。」

「じゃ、レイちゃんの願い、望みの叶え方…どういう方法で実行するのかな?」


……綺麗な紅い革の本は嬉しそうに聞いた。


「やっぱり、僕が綾波を創ってしまうわけにはいかないから、過去に戻るよ。

 …うん。手早く因果律を回避したいしね。

 そして、今の綾波の精神体を過去の綾波に上書きし、魂も補完する。
 
 …もちろん、僕もね。

 そして、せっかく過去に行くんだから、あの繰り返される”使徒戦争”という舞台に参加し、

  本当の”終わり”にする。

 それに、あの出来事がなければ綾波に逢える事も無かったわけだし、

  今の状態なら、何でもできるから ”使徒戦争”を綾波と楽しみながら、過ごしてみたいねぇ。」
 
微笑みながらシンジはレイの玉を大事そうに右手に包んだ。

「ねぇ、綾波? 過去に戻って君の体に精神体を上書きしよう。

 僕の因果律に左右されない肉体を得るには、ソレが一番の方法だと思うんだ。 

 それとさ、ついでに使徒戦争をやってみようよ。…今の僕らなら、楽しめるんじゃないかな?」

『ええ、それは構わないわ。でも、何時に戻るの? …碇君。』

と、聞き返すレイは、シンジと一緒なら何処でも、何でもよさそうだ。

「う〜ん、そうだね。…一番都合がいいとユグドラシルが判断する時間にしよう。

 それと逆行する時は、綾波、君を保護する為に、僕の中に入っていて欲しいんだけれど?」

『わたし…碇君と、一つになれるのね。』

ナニを勘違いしているのか、

 首まで紅くした綾波サンは照れているようで、俯き、手をモジモジさせている。


……全く、器用なイメージだ。


「う、うん。…そ、それじゃ、いくよ?」

シンジは右手をそのまま、自分の胸に優しく押し当て、

 穏やかに輝いている、綾波の光玉をゆっくりと、自身に溶かすように入れた。

一息ついたシンジは周りを見渡し、アカシヤブック”リリスの本”へと呟いた。

「ねぇ、リリス。この世界は僕が消えても在るのかな? 僕が行く過去はいわゆる並行世界かな?」

「この世界は残るわよ。…神シンジが存在しているかぎり。

 でも、逆行する過去の世界は、先代の神が創った世界、だから平行世界ではないわ。

 パラレルワールドは次元を変えれば、すぐ出来上がるもの。

 …わざわざ、時間に干渉するまでもないわね。

 でも、それは結局…しんちゃんの因果律の世界。先代の因果律の世界は、過去にしかないものね。 

 だからこそ、過去の世界にすでに存在しているものから、

  何かを変化させたり、作ってもしんちゃんの因果律に触れないわ。

 …………”無から有”を創らない限りね。」

「…そうだね。うん。…じゃ、行こうか。」

リリスの本を左手に取ったシンジは{言 霊}を唱え始めた。

「{我が力は全て綾波レイのために。

  我の望みと、綾波レイの願いの為に我の時間を過去に。

  我と、我が中にいる綾波レイの魂、リリスの本を過去に。

  我は、我と綾波レイの願いの力である。}」

シンジの体が眩く光り輝いていった。

そして、周りの景色が歪み始め、目も眩む様な明るさになった刹那、

”ポンッ”

 という音と共にそこに在ったモノはなくなった。




残されたのは変わらぬ波音を響かせる、主を失った紅い世界だけだった。







第一章、第一話「目覚めた時」へ










To be continued...

(2006.12.16 初版)
(2008.01.19 改訂一版)


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