新世紀エヴァンゲリオン 〜神断つ牙〜

第一話・後編 降臨

presented by 蒼麒様


「シンジくん、まずは歩くことを考えて」

無能牛……もとい葛城ミサトは初号機に乗るシンジにそう指示を出す。
ちなみに使途はもう目の前にいたりするが……

「……本気ですか?」

シンジは画面越しにあきれた顔をしてミサトに問いかける。

「あたしの考えた完璧な作戦よ、大丈夫だっての」

「はぁ、分かりました。どうなっても知りませんよ」

シンジはそう答えると初号機を動かそうと動かそうとした
それに答えるように初号機がその足を動かす
「「おぉ、動いた!!」」

それを見た技術部の職員たちがざわめきを上げる
……起動試験できてなかったのか?オイ

しかしその喜びも一瞬だった


ガッ



異音がした次の瞬間に初号機がサキエルに持ち上げられる

「ちょっと、シンジくん私はそんな指示してないわよ!?」

ミサトがシンジにそう告げる、無理を言うな

「そんな事言っても……うぁぁあぁっぁ!!?」

サキエルが持ち上げている腕と反対の腕を上げ腕に光のパイルを出現させ初号機の頭部を貫く
そのまま、初号機を地面にたたきつけマウントポジションを取り、両腕で何度も初号機を殴り続ける

「ちょっ、私は歩けとは言ったけど攻撃させろとは言ってないわよ」

ミサトが事故保護のためかそんなことを言う……無茶を言うな
このときの初号機の位置は使徒から100mも離れていない位置
まさに至近距離に射出したのである……それであの命令
死ねといったも同然だと思うのは気のせいだろうか?


「があ゛っあ゛あ゛あ―――!!」


シンジの叫び声が指令所に響く
モニターに写るシンジの姿は正に死人
青白い顔で眼からは血涙が流れ落ちLCLに血が混じっていく


「落ち着いて、それはあなたの体じゃないのよ」

落ち着きを取り戻させるためかリツコがシンジに通信を入れる
しかしそんなものが救いになるだろうか?
いきなり初号機に乗せられてフィードバックの説明もされずに痛みを受けた
そんな状況では落ち着くことなど無理だろう……通常の人なら
もしかしたらミサトなら出来るかもしれない、えびちゅでも見せれば

「シンクロ率低下、パイロットの意識混濁!!」

オペレーターの声が発令所に響く、初号機以外の戦闘方法はネルフの知っている限り他にないのだ、ゆえにあせる
ゲンドウなどの裏の事情を知らぬものは……

「なっ!? パルス反転、及びシンクロ率上昇!!」

しかし次の言葉はゲンドウ達でも予測し切れなかったものだった
本来ならばここで予定通り暴走しなければならない
しかしそのシナリオに反してのシンクロ率の上昇
これはゲンドウ達でさえも予測し切れなかったものだった

「碇……いや六分儀か、どうするのだ?」

「問題ない、ユイがシンジに過剰に反応しているだけだ…」

「それだけならばよいのだがな…」

ゲンドウと冬月の会話は一時そこで中断される
予想もされていなかった事態は終わったわけではなかったのだ

「シンクロ率上昇100.150……止まりません!!」

オペレーター……いや、マヤの叫ぶような声が響き渡る

「マヤ、停止信号を」

「停止信号受け付けません」

マヤとリツコの努力もむなしくシンクロ率は上がり続け……そして、

「400超えました、プラグ内の映像出ます」

マヤがそう言うと画面に初号機のプラグ内が映る
其処にはシンジが着ていた服のみが映り、肝心のシンジの姿が映っていない

「リツコ、シンジくんはどこに行ったのよ!!」

「……あなた、資料読んでいないの?
シンクロ率が400を超えた過剰シンクロをした場合
コアにパイロットが取り込ませる可能性があると書いてあったはずよ……
読んでないとは言わないわよね」

リツコの冷たい声と指令室に居るスタッフの冷たい視線がミサトに突き刺さる
額に冷たい汗を流しながらも其処は葛城ミサト、見事な記憶置換を行っていた

「あー、読んでるわよちゃんとね……サインも行っているでしょう」

「まぁ……ね」

リツコはミサトのその言葉を一応は信じることにした
確かにサインはされていたらしい
らしい、と書いたのはリツコがそれを確認していないからだ
もしサインを見たらこう言っていただろう
「これは、ミサトの字じゃない……多分ミサトの部下が書いたのだ…と」
そんなやり取りをしている間にも事態は進行していく、傍観者達を無視して
その異変の始まりは唐突だった

「!? 初号機内部の映像途絶えました、更に全監視装置停止!?」

「何でって!?」

マヤの伝えた言葉はあらゆる意味で事態を進行させた
初号機の内部の状況がわからない……先ほどまでは確認できたと言うことはリツコに思い浮かぶ状況は唯一つ

「初号機が内部の状況を確認されることを拒否した!?」

ある意味でその予想は正しかったのかもしれない
ただし、拒否した人物は別だろうが……

「初号機、再起動!? 頭部及び全身の傷が回復していきます!!」

「まさか…暴走」


ルゥオォォォォン



リツコの言った暴走と言う言葉に呼応するかのように初号機は、その顎を拘束する拘束具を破壊し雄叫びを上げる

「勝ったな」

「あぁ」

ゲンドウたちの言った一言の呟き……この場でこれを否定できる人物は……いない


グシャ


サキエルと対峙する初号機がその腕を刃と見立てるように振るい。サキエルの右腕を破壊する
そのまま、追撃を行おうとする初号機に対しサキエルはその仮面より光を放つ
それは初号機の胸部を破壊せんと近づくが初号機はそれを一歩引くことで回避する

「使徒の右腕が再生していきます!」

サキエルは初号機が後ろに引いている間に自身の右腕を再生する
再び初号機がサキエルを破壊せんと腕を振り上げるが、その腕はサキエルの前に発生した赤い壁に遮られる

「ATフィールド、やっぱり使徒も持っていたのね」

リツコがその眼を輝かせて、使徒の発生させたATフィールドの解析を行っている
初号機はその壁…ATフィールドの中心辺りに両手を当て引き千切ろうとする
その初号機の両腕を包むように、サキエルの作り上げているATフィールドと同じものが包んでいることには誰も気がついていない
そのまま初号機はATフィールドを突き破り両腕で使途に襲い掛かろうとする……が


斬っ!



使徒のコアの少し下辺りに構成されていた穴から打ち出された光のパイルに左腕を切り落とされる

「使徒が戦闘の間に進化しているとでも言うの!?」

リツコの予測は正しかった
サキエルの姿は全体的に見れば最初のときと比べると、両腕の肘辺りに在った角のようなものは消失し、その場所に腹部にあるのと同じような穴が構成されている
それ以外にも全身が引き締まったような構成になっており全く違うとまでは行かないが、別のものになったように見える

「使徒の動きが止まった?」

しばらくの間、初号機とサキエルは激しい攻防戦を行っていた
左腕を失い再生する隙間のない初号機
少しずつ進化を行いながら戦ってはいるが決定打が無いゆえに勝つことの出来ないサキエル
その両者が動きを止め、まるで次の一撃に全てを賭ける様に体制を変えていく
サキエルに意思があるのかは不明だが、あるのならばこう思っているのだろう
「次で決着をつける」…と

1分ほど経っただろうか……不意に初号機とサキエルが相手の方向に駆け出す
初号機は右手を引き、サキエルは左手を引きパイルを発生させ………
そして両者が激突する!!


ザクッ



初号機の右腕がサキエルのコアの右側部を貫き、サキエルの左腕が初号機の左胸の辺りの装甲を突き破り貫通している
その装甲の隙間からはサキエルが胸部に持つコアに近似している物が見えている

「初号機、並びに使徒活動停止……いえ使途の方にまだ動きがあります」

最強の矛たる初号機のネルフにとっては恐怖以外の何者でもなかった
しかし使徒の進化は今までのそれとは全く違うものとなる
コアを包むように全身を変化させ、まるで蛹……いや、今の形からすれば異形の繭のようなものとなる

「……回収しろ」

「は?」

「初号機を回収しろといっているのだ!」

激情したゲンドウの声が指令室全体に響く

「司令、使徒が先ほどの戦闘で弱まっているのは確実です。
 だから今のうちに」

「葛城一尉、どうやって使途を倒すと言うのだ。 初号機は中破でしかもパイロットが居ない、零号機は凍結中 今の戦力で使途を倒すのは無理なのだよ」

ミサトの珍しくまともな意見に対し冬月がそう答える。
確かに正しそうな意見だが、使徒の姿が変わったのが罠だとか、そんなことは考えなかったのだろうか

「N2を投下すれば……」

「却下だ、ここは人が住む都市だぞ」

ゲンドウが更にミサトの意見を却下する
まぁ、自分の妻の入った初号機を置き去りにしてN2を自分達の頭上に投下するなどと言うことは、誰であっても嫌がるだろうが

「………了解しました」

結局、ミサトは諦めて初号機の回収を行うことになる
ネルフ初の使徒戦は引き分け……いや初号機の暴走を抜きにすれば完全な敗北と言う形で終わるのであった

少し時は遡り、シンジが初号機に取り込まれた時の話である
ゲスト室……今はシンジと共に来ていたご一行を閉じ込めるために使われている部屋では、シンジのそばにいた少女…朱鷺那が座っていた椅子から立ち上がっていた

「大十字様、シンジ様の気配が消えました」

そう言った後、朱鷺那は床に崩れ落ちる

「そうか」

「アルさん、シンジ様のことが心配じゃないんですか!!」

そっけなく、簡潔に答えを返したアルに対して朱鷺那は怒りを露にする

「朱鷺那、汝は己の主のことも信じられぬのか? 妾は九朗のことを信じたぞ!」

「いえ……私は信じます」

朱鷺那は何かを見つめるかのように両手を組み祈りを捧げる

「ならば信じろ、シンジは必ず汝の前に帰ってくる」

「はい……シンジ様、どうかご無事で……」

少女は主を待つ……己の全てを賭けて護るべきために………






To be continued...


(あとがき)

お久しぶりです、蒼麒です。
とてつもなく久しぶりの更新となりましたが、まずは遅れて申し訳ありませんでした
まさか、ここまで書けないとは思いませんでした……
さて、本編の解説に参ります

敗北した初号機とネルフ
初号機に取り込まれたシンジ
果たして繭となったサキエルは何になるのか……
まぁ、それは次の話でってことで

では、新世紀エヴァンゲリオン 神断つ牙 第二話 『降り立つ闇……そして機神』でお会いしましょう
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