「ごめんなさい。」



 ビルの上で僕たちを助けてくれた女性は、そう謝った


  だから僕はこう返した









  『ありがとう』って







 

 
そう言われるのは何年ぶりだろう?


 
彼女は、もう、生きては居ない


 
けど、僕には彼女に出来ることがあった


                           それは「」


                        だから僕は彼女ののそばにいる


                        何時でも、そして、これからも








                          ふと、空を見上げた





                              ああ





                   ――今日は――こんなにも――月が――綺麗――だ――





















月の夜に咲く福音という名の運命

第四話 ユウジン

presented by 鷹使い様




















 金色の蝶の夢を見た


 自分が蝶なのか蝶が自分なのかわからない


 どこかでコレと似た話を読んだことがあるな・・・


 どこだったろうか?


 少し考えてみる



 ――――――くん



 ――と―――く――の―――くん



 「遠野くん!いい加減に起きて下さいっ!」


 「うわっ!!」


 びっくりして跳ね起きる


 「あれ?先輩?どうしてここに・・・・」


 俺の目の前にいたのは、いつものように眼鏡をかけたシエル先輩


 「ほんとにもう・・もう先輩じゃないですよ?寝ぼけてるんですか?」


 そういって両手で顔を押さえる先輩


 っと、先輩じゃなかった


 「シエル。」


 「はい?なんですか?」


 しまった何も考えてない


 「えっと・・・」


 俺は辺りを見回して気がつく


 「ここ、何処?」


 本当に何処だろ?此処


 「私と貴方のお店じゃないですか?忘れたんですか?」


 ああ、そういえばそんな気がする・・・・


 確かカレー屋をやるって


 そして俺は手探りで眼鏡を探す


 しかし、なんか眼鏡のある反対方向を向くのが妙に怖い


 それでも先生から貰った眼鏡がないと心細いというか何というか・・・


 まぁ、いいか


 「んじゃ、お店あけようかシエル。」


 「ええ。」


 俺はこれからカレーの仕込みをする


 それが日課だったはずだ、何で忘れてたんだろう?


 「そんなわけありますか。」


 背中に声がかかった


 「え〜と・・・」


 「志貴、シエルの言っていることは嘘です。貴方は暗示にかけられています。」


 綺麗な紫色の三つ編みが揺れる・・・彼女は


 ああ、思い出した、シオンだ


 「暗示?」


 そんなわけで、俺は気になった事を聞いた


 「ええ、カレー屋は貴方とシエルの店ではありません。」


 それはどういうことだろう


 「え・・・」


 「ちぃっ、シオンめ、起きていましたか。」


 先輩の目が変わった


 ああ・・・思い出した


 確かに此処はカレー屋だけど、名義はシオンで、俺はシエル先輩と一緒にシンジの手伝いをしに此処に来て


 で、一番問題なのは


 「シオン・・・・何で裸なの?」


 「昨日あれだけ貪っておいて、何を言いますかその口は。」


 ・・・・何した、俺?













 ――――――――――――――――――――――――カレー料理専門店 メシアンツーで・・・・


































 「ふぅ・・・」


 シンジは大きくため息をついた


 「どうしたのよ?」


 シンジの仕草に不安を覚えたのか舞子が聞いてくる


 「いやね・・・学校に行くのが重いなぁ・・・・って。」


 舞子がああそうか・・・といった顔になる


 シンジの友人であるトウジの妹が誘拐されたのは結局の所、シンジの父親の欲求を満たすためでしかなかった


 救えたとはいえ、どうしても罪悪感を感じてしまうのだ


 シンジは優しい


 故に彼は彼を頼るものを裏切りはしない


 唯一、「」を殺したモノを除いては・・・・


 「んじゃあ、さぼ━━━━ガシッ!


 そんな心の動きを感じ取った舞子はシンジを強引に外に連れ出す


 行き先は学校の近く


 【カレー料理専門店 メシアンツー】


 「って!舞子!ここって・・・」


 あわてて逆方向へ駆け出すシンジ


 「あまいっ!」


 すかさずつかむ舞子


 そのままシンジを引きずってメシアンツーへと入っていく


 「やっほー。」


 のんきな声をだして中にいる人たちに挨拶する舞子


 「おはよう、シンジ君。」


 真っ先に店員の男から返事が返ってきた


 「おはよう御座います、志貴さん。」


 釣られてシンジも挨拶を返す


 「じゃ、僕は学校があるのでっ!」


 カレーな人に会うまいと先ほど言っていた言動をひっくり返して叫ぶ


 そして、ダッシュ


 「何処に行くんですか?」


 捕まった


 「し・・・シエルさん・・・」


 にがしてくれ、後生だから、ランアウェイ


 「せっかく来てくれた事ですし、カレーでもごちそうしますよ。」


 「先輩、シンジ君は学校だそうですから。それに俺達も行かなきゃ。」


 「へ?」


 「新東京市 市立 第壱高等学校。俺が通う高校だよ。」


 ぼけっとしているシンジに志貴が言う


 「君の手伝いをしようと思ってね。迷惑だったかい?」


 「いっ・・・いいえ いいえ。」


 一生懸命首を振って答える


 「ああ、そろそろ行った方がいいな。」


 そう言って、志貴が駆け出す


 「急がないと遅刻だよ。」


 シンジも駆け出す


 「あ、忘れ物ですっ!」


 そう言ってシエルはシンジに紅いボールを投げ、見送る


 「はぁ・・・私も入っちゃいましょうか。」


 「それは留まった方が賢明だと推測します。」


 メシアン2に残されたシオンとシエルはそれぞれため息を付いた


 舞子はいつの間にか消えている



そして、きょうも一日が始まる

























 in ネルフ



 「さて、今回の使徒の顛末ですが・・・・」


 リツコがモニターをにらんで言う







  ━━━━━━━━━ ハード スクエアッ!!!! ━━━━━━━━━






 モニターに移っていたのは第七聖典という いんだすとりあるな武器を打ち込んでいるシエルの姿があった








 パタン



 即座に倒れる司令と副司令


 「・・・・」


 ふう、とため息を付いてリツコがこの人物を捜すように指示を出す







 見つからなかったことを明記しておく


 ああ、探したのが一般人だったからということも言っておく


 










 さて、シンジの方に視点を戻そう


 シンジは、クラスのみんなと共に食事を取っていた


 時間は昼休み


 「それでさー」

 「えー?そりゃねーだろよ」

 「いやいや、マジだって」


 止めどなく、そしてどうでもいい会話が続く中、シンジは何気なく窓の方を向いた


 窓の外の青い空と、その手前に座っている女性の青い髪が目に入る


 「お、シンジは綾波がお気に入りか?」


 クラスメイトの一人がシンジの視線に気が付き、茶化すように言う


 それに対して


 「そんなわけないよ・・・ 空が綺麗だっただけ。」


 シンジは、何の抑揚もない冷たい声で返した


 「・・・そ。 そうか・・・ 」


 シンジに問いかけたクラスメイトはすごすごと退散していった


 (それにしても・・・トウジ・・・遅いな)


 シンジが、ふと、考える


 トウジは今日、学校に来てはいなかった


 何があった と言うわけではない


 一応、トウジの妹には護衛をつけている


 今回は守るよりも攻める護衛


 前回は守りの護衛をつけたために後手を踏んだので今回は変更済みである


 トウジの妹にはエトはもちろん、ロボ、クールトーと呼ばれるモノたちが常時警護している


 彼らは獣でありケモノであるがゆえ


 その超感覚を持って警護対象に害なす者を滅するだろう


 話がそれた


 何が言いたいかというと、トウジの一家に危害が加わる訳がないということ


 故にトウジが学校に来ない理由は、途中の事故ではなく本人の意思


 しばらく考えてみる


 まぁ、解っていると思うが答えは出る


 (・・・そりゃあ、しばらくは休むかもなぁ・・・)


 当たり前である


 少し考えれば解ると思うが、妹が誘拐されたのだ


 そして帰ってきているとはいえ、情け容赦ない者以外心配するだろう


 そして、トウジは情にあつかった


 そういうわけである


 (・・・帰りに寄ってみるか)



 
 そして、何事もなく放課後


 シンジは、一人でトウジの家の前に立っていた


 友人が薄情なのではない


 彼らは知らないからだ


 トウジに起こった事を


 唯一 知っている友人は知りすぎるが故に


 この場合はトウジの妹が家に帰ってきていると知っているが故


 結果として、ほとんどが只の体調不良だと思っているだろう


 そんな事を考えながら、シンジはトウジの家のインターホンを押した


 『はい?』


 家の主・・・ではなく、シンジの思ったとおり、トウジの声がした


 「あ、と・・じゃなかった。鈴原君?」


 「あと・・・ 碇か。ちょっとまっとれ。」


 ガチャガチャと、ドアから幾重にも掛かっていた鍵を外す音が聞こえる


 (さすがに・・・)


 神経質にもなるな、と


 シンジは考え、それを表に出さないように笑顔を作った


 「ああ、まぁ・・・なんや、とりあえずあがりぃ。」


 ドアを開けたトウジは周りを見渡し、シンジしかいないことを確認すると家に招いた


 シンジは居間に通された


 「で、何の用や?」


 トウジがシンジに向かって聞く


 「ああ、鈴原君 今日休んだでしょ?プリントとか持ってきたんだけど。」


 もちろん、シンジの真意はそこではないが、一応の言い訳である


 「ああ、すまんな。」


 トウジがシンジから差し出されたプリントを受け取る


 「「・・・・」」


 しばしの沈黙



 「・・・・なぁ」


 先に口を開いたのはトウジ


 「ん?」


 「ありがとな。」


 トウジから発せられたのは、礼の言葉


 「なんで・・・」


 シンジも戸惑う


 (なんで・・・ あ!)


 自分の行動を思い出す


 前回、自分はトウジの話を聞いたとたんに駆け出した


 イコール [自分は何か知ってますよ]と言っている事に変わりない


 「ああ、そんなに気にせんでええねん。碇やろ? 妹を助けてくれたん。」


 シンジは首を振る


 事実は正解で間違い


 言うなれば正解


 でも間違い


 「助けたのは僕じゃないよ。」


 シンジが返す


 これも正解


 でも間違い


 「なんやそら?」


 流石にトウジが聞き返す


 「別に、気にしないで。」


 そう、只の言葉遊び


 正解でもあり、間違いでもある、だからこそどうでもよくて、どうしようもない戯れ言


 「それはそうと、妹さん。」


 シンジが目線をやると、トウジの後ろ


 トウジの後ろにあるドアを開けてトウジの妹が立っていた


 「お姉ちゃん?」


 トウジの妹はシンジを見るなりそう言った


 「ん?なんや寝ぼけとるんか? 確かになよっとして、頼りないが碇は男やで。」


 「えぇ・・・」


 トウジの妹は目をこすりながらシンジに近寄る


 「・・・お姉ちゃんの友達でしょ?お姉ちゃんと同じ感じがするよ?」


 「!」


 子供は大人よりも物事を見ているのかも知れない


 そして無邪気で・・・


 何より怖い者知らずだ




 「トウジ・・・ この子可愛いね。」


 脈絡のないシンジの言葉


 「ああ、妹やからな。守ってやらないけん。」


 はっきりと、そして


 シンジの言葉に警戒を隠さないトウジの言葉


 シンジはトウジの妹に視線を合わせるようにしゃがみ込む


 「お兄ちゃんに昨日のこと、話した?」


 「うん。」


 「そう・・・」


 やっぱり、と、シンジは少し暗くなる


 細かい話を彼女が覚えているのならば


 それはトウジを異常に敏感にさせる十分な材料だろう


 シンジはどうしようかと悩む


 「そうだ、お姉ちゃんに会いたいならいい子にしてれば会えるからね。」


 思いつきでそう言ってトウジの妹の頭をなでる


 「うん!」


 笑顔の返事にシンジは笑う


 そして、おもむろに立ち上がり、トウジに告げる


 「もう気にしないで良いようにする。明日からは学校に来ていいよ。」


 トウジに告げた後


 返事も聞かずにシンジはトウジの家を後にした


 トウジに告げた言葉はトウジに届かぬまま











 再度、ネルフに視点を戻そう


 現状ネルフは、第三使徒と第四使徒を倒した人間の出来る限りの情報を集めていた


 第四使徒の死体も調べているが、現状では優先すべき事は此方であった


 と、いうか第四使徒の死体からの解析結果が出るにはしばらく時間が掛かる


 そのため、明らかに問題である此方の方が優先された訳である


 「はぁ・・・・」


 リツコがあきらめにも似た ため息を付く


 当たり前だが、何も情報が集まらない


 集まらないのは簡単な話である


 人を捜すとき、普通ならば顔などから名前、戸籍、現在地、など繋げていくのであるが


 これが、全く存在していなかった


 第三使徒の時は遠すぎて顔の判別が不可能


 よしんば見えたとしても仮面の上から素顔を探すことは不可能であろう


 とすれば、必然的に第四使徒を倒した人物の方に焦点が集まるのは必然であるが


 顔は解る、しかし、戸籍が見つからない


 詰まるところ、どちらにせよ手詰まりであった






 「はぁ・・・・・」


 再度、リツコはため息を付く


 (・・・こうなったら━━━━━━━━━)


 リツコは顔を上げた


 「マヤ、サード・・・いえ、碇シンジを連れてきなさい。」


 「は・はいっ!」


 指示を飛ばす


 リツコに言われてマヤは即座に部屋を出ていった


 なれば、と


 これはリツコの独断である


 すれば、この男が出てくるだろう


 「赤城博士・・・どういうつもりかね。」


 「司令。」


 当たり前だが司令である


 どんなに情けなくても司令は司令


 少なくとも、独断を許してはいけない


 現場の判断と言う奴なら少しは変わるが、ともかく今回の独断は咎めてしかるべきである


 「なぜ、サードチルドレンを呼んだ?」


 とりあえず司令らしく理由を聞く


 「は、サードチルドレン 碇シンジを召集する理由はもちろんエヴァに乗せるためです。」


 何のよどみもなく言い切るリツコ


 「詳しくきこうか。」


 いつものように司令は机に肘を付いて顔の前で手を組んで言った


 「は、理由としては使徒の即時殲滅が挙げられます。

  少なくとも、第四使徒の時点でサードチルドレンが即座に出撃していたならば第四使徒は殲滅できていました。

  上手くすればコアの回収もできていたでしょう。」


 司令の顔が少し歪むのが解る


 そのため、リツコは気圧されたかのように一旦言葉を切るが、持ち直して言葉を継ぐ


 「そして、何よりも訓練です。

  この先、使徒に対して何も手を打たずに、まごついているわけにも行きません。

  エヴァの改良はもちろんとして、操縦者の熟練もその一つです。

  故に、召集をする事にいたしました。」


 リツコが言葉を告げ終わると司令は言った



 「・・・・・・反対する理由は無い。このことは赤木君、君に一任しよう。」


 「有り難うございます。」












 さあて、この話、実は裏がある


 言うまでもないが、この司令が人の話を聞くわけがない


 なにせ、二回もシンジをエヴァに乗せることに失敗しているのだ


 その演技でも、少し気を利かせてアドリブをみせる素振りもなく


 あまつさえ、幼女に手を出す始末


 その思考は利己主義の塊とも言って良い


 まぁ、そんな奴なのだ


 そんな奴が自分より下の人間の意見を易々と採り入れるはずがない


 と、言うかそれが出来たらすでにシンジはエヴァに乗っているだろう


 少なくとも、相手の台詞を聞くことが出来るのだから


 そんな男がリツコの独断を何故簡単に受け入れられたのか


 それには少し時をさかのぼる必要がある





 それは数時間前・・・具体的に言うと司令が倒れて医務室で目覚めたすぐ後


 『さて、報告を聞こうか・・・』


 偉そうな素振りで司令に問いかける声があった


 薄暗い闇の中


 一人立っている司令とその周りを囲むように浮かんでいる板きれが数枚


 モノリスとかなんとか呼び名はあるのだろうが板きれは板きれ


 黒くて、01とか02とか数字が書いてある板きれの群


 その中の一つから先ほどの声が司令に向かって発せられた


 その言葉にサングラスをかけ直して向かう司令


 「何も問題はありません。」


 「問題が無い訳が有るか。」


 冷ややかな返答が返ってきた


 「報告は聞いているよ。使徒が倒されたそうだな。エヴァの手ではなく一般人の手で。」


 ここでの一般人は自分たち以外 つまりはネルフ以外の人間を指す


 「問題有りません。全て予測の範囲内です。」


 内心で冷や汗をかきながらも司令は返答する


 「ふむ・・・ まぁいい。しかし結果を出さなければいかんともしがたいのも事実。」


 「は、では・・・」


 「次回こそ、エヴァをちゃんと動かしてくれよ?

  玩具じゃないんだから。」


 そういって笑い声が聞こえる


 「ああ、そういえば君は自分の息子にエヴァのパイロットを任せるそうじゃないか。

  さぞ、大活躍をしてくれるのだろうねぇ・・・」


 「は、それはもちろん・・・私の手駒ですから。」










 さて、ここまで言えば聡明な読者諸君はおわかりと思う


 つまり、この司令は先ほどの言葉を


 【『碇シンジ』を『エヴァンゲリオン』に『乗せて出撃』させ『使徒を殲滅』】しなければならないと思ったのだ


 実際は只の嫌みなのだが


 そこら辺に気が付かないところ、この男の器が知れる


 というか、シンジをモノ扱いしている時点で人間としても駄目であろう


 まぁ何にせよ、それについてリツコの提案は渡りに船だったわけだ







 時間を現実に戻そう


 リツコが提案し、実行に移されたそれは


 現在、暗礁に乗り上げるどころか沈没していた









 現在の状況を説明しよう


 マヤがシンジを連れてくるまでは簡単にいった


 司令室にシンジと司令が対峙している


 地面にはなにやら文様が刻まれている


 これがセフィロトの樹と呼ばれるモノだというのは今はどうでも良い話


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 司令は無言でシンジに向かっている


 貫禄を見せようとしているのか威圧しようとしているのかは解らないがとりあえず無言で座っている


 対するシンジは


 「・・・・」


 「マヤさん。それにリツコさんでしたよね。

  何の用事ですか?

  そこに人形みたいなのが置いてありますけれども、何の行動もしないんで。」


 目の前の人を軽くスルーして、リツコとマヤに向き直った


 まぁ、それもそうであろう


 前にいるのは手を組んで顔を隠している髭親父と横に電柱のように立っている男というか電柱


 しかも、何もしゃべらない


 そりゃあ、呼ばれたのに用がなければどうしようもないので、シンジの方が正しい行動であろう


 「・・・・・・・・・・」


 マヤがリツコを見て、リツコが司令を見る


 一任されたとはいえ、それなりの反応を期待しての事である


 やるだけ無駄だが


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 無言


 「帰って良いですか?」


 「ああ、ちょ・・・ちょっと待って。」


 本当に帰りかけたシンジを慌ててリツコが引き留めて説明する










 「なるほど。」


 シンジがリツコの説明を理解する


 ━━━━━━━━━唇が歪んだ


 「その提案受けても良いですけど、いくつか条件があります。」


 「言ってみて。」


 リツコがそう言ったのを聞いてシンジは辺りを見回す


 「ここじゃあ何なので。」


 そう言ってシンジは司令室を出る


 慌ててリツコが追う


 その際、マヤに戻っておくようにと指示を出し、シンジを追った


 リツコが見ると、からかうかのようにシンジの移動が見えた


 角を曲がる所だけが見えた


 何度も


 何度も


 (からかわれている?)


 そう思うのも無理はない


 だが


 (それよりも!何で全力で走ってるのに歩いてる少年に追いつけないの!?)


 別の事実に頭をそらした


 そのまま数分、シンジは迷うことなくリラクゼーションルーム・・・休憩室に入っていった


 追ってリツコが入るとシンジはベンチに座ってコーヒーを飲んでいた


 「何のつもり?」


 「いえ、別にあの人がいると面倒くさいとかそう思っただけですから。」


 そう言ってシンジは笑う


 屈託のない笑みで


 リツコはその笑みに足を震わせた


 (な・・・なんなの?)


 決して好感ではないことが解る


 たとえるなら・・・ そう、飢えた猛獣の前に素っ裸で立っている様な心境をリツコにもたらした


 (落ち着いて、目の前にいるのは只の少年なのよ?)


 自分の心境にとまどいを隠せず、それでも何か話さなければいけない


 (こちらが有利になるような第一声は・・・)


 しかし、リツコの思考がまとまる前にシンジは話し出す


 「一つ目、命を懸けるのですから、それなりの給料・・・そうですね 月に・・・・って所でしょうか。

  二つ目、僕のプライベートに干渉しないこと。」


 ここで、シンジは一旦 言葉を切り ポケットの中からリツコに見えるように有るモノをとりだした


 「三つ目、呼び出しは常にマヤさんからする事 

  ああ、これは単純に知らない人に呼び出されたくないって事ですので。

  ・・・そうですね、リツコさんでも良いですよ。

  四つ目、当たり前ですが僕にこの中を自由に動ける権限をください。

  自分の命を預けるエヴァの整備をこの目で見れないってのも不安ですしね。」


 そこで、シンジは再度笑顔を作る


 リツコの足の震えが激しくなる


 シンジから笑みが消える


 「五つ目、僕に命令の拒否権をください。

  何驚いた顔してるんですか、当たり前でしょうが。

  作戦の為に死ぬなんてまっぴらごめんですよ。

  ははは、冗談ですよ。でも、現場の判断を優先したために銃殺刑なんてご免ですよ?

  まぁ、そう言う時のためです。

  ああ、作戦を立てた人が無能だと判断した場合やこのことが伝わってない場合は自分の意志で動きますので。

  まぁ、信頼できる人だとは お・も・い・ま・す・け・ど・ね。

  そうそう六つ目、僕に部下をください。

  ・・・・ふふふ、何でそんな顔をするんですか?

  一人で良いんですよ、基本的には只の連絡要員のつもりですから。

  呼び出しはマヤさんって言った?

  ええ、エヴァの戦闘の呼び出しはマヤさんですよ。

  でも、訓練とかの連絡事項はどうやって伝えるんですか?

  そんな顔をしないでくださいよ。

  僕がいじめているみたいじゃないですか。

  ああ、七つ目、僕にそれなりの権限をください。

  自分の知り合いを部下にするとかそう言うのです。

  信頼できる人がいないって辛いんですよぉ?

  あ、いい加減何言ってるんだって顔をしてますね。

  いいんですよ、僕はやめても、困るのはそっちでしょうし。」


 そこまで言った所でリツコが反論した


 「ふざけないで、条件は飲むわよ飲めない条件でもないし寧ろ当然だわ、でもね、やめても良いなんて脅しはやめなさい。」


 人類が滅ぶのだから・・と


 シンジが笑う


 「ああ、やっぱりそうなんですね。」

 と


 そして、笑いながら言う

 「六つ目の変更です。

  マヤさんを僕の直属の部下としてください。

  よく考えたら別の人を使う必要なんて無いんですから。」


 笑う笑う笑う


 「そうだ、八つ目。

  上に述べた全ての条件を満たしているときのみ『碇シンジ』は『サードチルドレン』として動きましょう。

  あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは。




 狂ったように笑う


 笑う



   笑う


             笑う笑う




















 音響のせいか、リツコは自分の耳がおかしくなったのだと思った


 それで、脳の判断がにぶっているのだと


 『碇シンジ』は内気で自虐的な少年で有るとの報告を受けていた


 まさに お役所仕事だと


 目の前にいるこの男は誰だ?


 少なくとも報告を受けた『碇シンジ』ではない


 「あなたは・・・誰?」


 笑いが止まる


 「言わなくても知っているでしょう?僕は『碇シンジ』ですよ。」


 小馬鹿にしたように笑う


 「そうだ、そろそろ戻った方がいいですよ。僕は帰りますけどね。」


 そう言って、シンジはネルフを後にする


 はずだったが、一度シンジはリツコに振り返った


 「ああ、そうだ。矢面に立つ人にとってはどっちでも良いんですよ?

  敵に討たれて死ぬのも、敵のせいで死ぬのもね。」


 リツコは返事が返せなかった


 故に気が付かなかった










 同時刻、司令室


 「だっ!誰だお前は!!!」


 司令の叫び声が響く


 それに対峙するのは、コートを羽織り、般若の面を着けた一人の人間


 「誰だと聞いているっ!」


 司令の後ろにいる電柱の言葉


 般若は答えた

 ━━━━━━━━━ 一つ  人の恨みを買い


     ━━━━━━━━━  二つ  不埒な汚職三昧


          ━━━━━━━━━   三つ   見事に蹴り飛ばす


 「誰だと言っているっ!」


 「貴様に名乗る名前はないっ!」


 声と同時に一本の剣が飛ぶ


 十字架を模したその剣は黒鍵と呼ばれるモノ





 トス



 軽い音を立てて、黒鍵は机を貫き、司令の太股と太股の間に突き刺さった


 「貴様を、今、殺すわけにはいかないのでね。」


 憎々しげに言って般若は司令の目の前から消える・・・・・一瞬で











 般若が消えたことを確認すると、電柱は気を抜いて司令に話しかける


 「あぶなかったな、いか・・・・


 司令を見た電柱の言葉が途中で止まった


 司令は白目をむき


 糞尿を垂れ流し


 泡を吹いて


 気絶しており


 ついでに盛大な血しぶきを上げていた


 何故か黒鍵は消えている








 まぁ、おわかりと思うが太股と太股の間には股間があるわけで


 そんでもって、この司令は男なわけで







 つまりはそう言うことである



 まぁ、男性ホルモンが出なくなったのでハゲる心配はなくなったろう









 そして、その夜、シンジの家



 「ふぅ、オツカレ。」


 舞子が般若の面をもてあそび、シンジに話しかける


 シンジもシンジでリツコに見せた有るモノ・・・盗聴器をもてあそびながら舞子の方を向く


 「ああ、オツカレ。」


 首尾はどうだったとシンジが聞くと


 舞子は食べさせちゃ駄目だった?と返し


 逆に舞子が聞くと


 笑って、舞子にキスをした





 「・・・んっ、 ふぅ。何時も唐突なんだから。」


 笑う舞子


 「いいけどね、シンジはシンジなんだから。

  あ、でも間桐のところのようなシンジはお断りだからね。」


 気をつけてよ、と、笑う


 ほのぼのとした日常


 それ故に異端で異常で異質


 彼らが普通の人間であるならば
















 そして三日後


 シンジに正式な通告が来た


 階級は特佐


 待遇は三佐


 これは、表面上を見れば大したことはあるが中身は大したことはない


 シンジの行った権限は存在しているがそれ以外がほとんど存在していない


 ちなみに、シンジが部下にした人間は三尉で迎えられることになる


 そして、それでもシンジはその通告を見て微笑んだ


 予定通りだ、と


 傍らでケモノを枕にして横になっている舞子も微笑んだ


 ケモノの紅い目が少したゆたった


 そしてシンジは詩を歌うように声を出す







 「さぁ、運命の歯車を回そう。

  右へ左へ後ろへ前へ。

  ああ、そうだ。

  その歯車を奪うものは自ら滅ぶだろう。

  歯車は決して前へと進まない。

  コワレタ歯車ハ我ラガ回ソウ。

  感情ヲ逆サマニ。

  世界ヲ逆シマニ。

  回ソウ、我ラガ手デ。

  世界ノ流転ヲ超エルタメニ。


  マワセ回セ廻セ舞ワセ姦ワセ━━━━━━━━━










To be continued...


(あとがき)

 お久しぶりです
 諸事情で間があいてしまいましたが投稿を再開したいと思います
 では、これからもよろしくお願いいたします
 とりあえずは次を早く送ることでしょうか

 なお、この世界の設定として、特撮系などのテレビ関連の娯楽は全てセカンドインパクト前のモノになっております
 仮面ライダーも、スーパー戦隊も、です
 と言うことで、それでは

 は、今回特撮系は出てこなかったっ!?

作者(鷹使い様)へのご意見、ご感想は、メール または 感想掲示板 まで