新起動世紀ヱヴァンガル改

第二十七話 乱心、反乱・・・鎮圧?

presented by とりもち様




 司令執務室前の通路

 冬月達が現場にたどり着くと、既にそこには、数人の国連の監査官達と、その護衛であるらしい武装兵達が居た。

 その武装兵達の装備、更に、ここに集まっているかなりの人員を見て、冬月は息を呑んだ。

 なぜなら、そこには、銃器類どころか、UN軍の最新式のパワードスーツも着込んで、完全武装している者達が数多くいるのだ。

 しかも、その装備の中には、対人どころか、対重戦車・対武装ヘリクラスはありそうな強力なものまである。

 外に居るゲンドウの部下、それに自分がココに連れてきている部下達の装備や人数を加え、更に追加武装と増援を呼ぶ事を考慮しても・・・

 彼らに対抗するどころか、そこに居る半分の人数でも、余裕で自分達を制圧可能である事は、一応、そう言う事には、門外漢である冬月にもわかったからだ。

 無論、連れてきた部下達の殆どは顔を蒼くしている。

 少しでも最近の軍事の知識をかじった事のある者には、自分達の持っていた武器どころか、ネルフの持つエヴァ以外の一般武装の中で、最も強力なモノを準備していたとしても、相手の装備に比べれば、豆鉄砲みたいに見えるからだ。

 つまり、相手は、特務機関ネルフ総司令たるゲンドウを本気で拘束・更迭する気なのだ。
(もしくは抹殺?)

 状況によっては、人死にどころか、ネルフ本部を物理的に潰す事になってでも・・・

 ネルフにとって現状が、いかにややこしく、難しくややこしく、やばい事態になっているか・・・

 そして、自分の想像していた最悪の状況の斜め上を、スパイラル状に加速して飛び出した事態になっている事を再認識・理解した途端、冬月の意識は飛びかけた。

「「「「ふ、副司令!」」」」

 そのまま後に倒れかける冬月を、トモヒサ達があわてて支える。

「だ、大丈夫ですか?」

 トモヒサが、冬月に声をかけた。

「むぅ・・・」

 冬月はその声によって、意識を何とか留める。

 そして、ネルフ存続、それに自分や、部下達の命の為にも、ココで自分が倒れるわけにはいかない事を心の中で叫び、頭を振って、気を取り直した。

「だ、大丈夫・・・
 ココで倒れるわけにはいかんからね」

 心配そうに声をかける部下達にそう言って、冬月は指揮を執っている女性監査官・・・先日、執務室であった金髪の女性の傍にゆっくりと出来るだけ近づいて行って、声をかけた。

「あ、あの〜・・・すみません」

「・・・これは冬月副司令殿・・・
 そんなに部下を引き連れて、どういった御用ですか?」

 女性監査官は、冬月を白い眼で見つつ、冷たい声で、そう答えると・・・

 後ろの部下達の一部が、武器を構えて、冬月達を警戒する。

 もちろん、半径3m以内には近付けさせない。

「い、いえ・・・
 その、なにやら勘違いによる誤解が生んだ騒ぎが起こっているようなので・・・
 それを諌めに来ました。
 無論、諌めるのはうちの司令の方ですが・・・」

 その対応に若干怯むものの、冬月は両手を上げつつ、自分達に敵意が無い事を示しながら、そう言った。

 勿論、トモヒサの連れてきた者達には、前もって武器を構えないように言い含めてある。

 それに、元々、得物関係は銃器類を全て別所に置いてこさせていた。

 それゆえ、彼らも冬月に倣って、敵意は無いという証として、武器を持たずに手を上げている。

 反抗することは出来ないし・・・

 そのおかげで、警戒と身体検査以上の事はされずに、冬月達は話の出来る位置まで近付けたのである。
(無論、護衛の武装兵に銃器類を向けられている)

「・・・ふぅ〜誤解も何も・・・
 実際に、あなた方、ネルフの私兵達が、早朝、私を攫おうとし・・・
 更には、死人に口無しとばかりに他の監査員を殺そうと、我々の宿舎に強襲してきたのは、ゆるぎない事実ですよ。
 まぁ、元々、我々はネルフに関しては、あまり良い噂を聞いていませんでしたから・・・
 最初から警戒していたお陰で、一応の対処できましたが・・・
 少なからず、護衛の者達に負傷者が出ました」

 女性監査官は、何を今更と言う風にため息を吐きつつ、冬月にそう言った。

「(な!
 や、やはり、誤魔化すのは難しいか・・・)」

 既に護衛に負傷者が出ていた事を聞いて、冬月は顔をしかめた。

 被害が出た以上、なぁなぁで(実は抜き打ちの演習等とか言って)誤魔化すことなどできはしないのだ。

「それに、実行犯達から調書も取り終えました。
 更に、その調書も含め、報告書を参謀総本部へ、
“FAX”、“郵送”、“メール”“電話”“護衛をつけた部下による本部での直接手渡し”・・・
 これら5つ以上の手段で提出しており、既に3つは届いているのを私自身が確認しています。
 それに、アレをどうやって諌める気ですか?」

 更に、女性監査官が、冬月に止めを刺すかのようにそう言った。

 既に提出したと言う事は、報告をある程度、抑え気味にして貰う等をしたり、途中ですり替えたりしたりして、ネルフの不利になるような事を軽減する等と言う事が絶対に出来ないからだ。

 しかし、5つ以上の手段で送るとは、徹底した提出法である。

 実はこの方法、セカンドインパクト後・・・

 国連下部組織の癖に、国連上層部に対しても、色々と不透明であり、不信感の塊である組織が存在し・・・

 しかも、その関係者が色々と不可解すぎる犯罪行為をその権限でもみ消し続けていた為に新たに設定された提出法である。

 いわゆる、自業自得なモノで、ネルフや某委員会にとっては不利極まりないことであるが、表立って反対するわけにも行かず、また、某不遜な髭に対する牽制?の為にも、(しぶしぶ)某委員会は認めたのである。

 この方法なら、諜報部員やマギを使った誤魔化し(報告書の偽造)も出来ないとされている。

 なぜなら、確実にどれか一つはオリジナルの報告書が届く。

 そして、報告書が届く度に出した人間に、その内容を確認する事となるのだ。

 もしも、出した本人が行方不明になってしまっていた場合は・・・

 国連軍の監査法の規定により・・・

 その監査対象となった組織が何らかの誤魔化しを行う為に、監査官に何かをしたとみなされ・・・

 その組織に対して不利な報告書、もしくは、全ての書類の中で、その組織に対して不利になっている項目が本物とみなされる事となっているのである。

 その為、監視員達が来た場合、その組織は自らその監視員達の安全を守らなければならないのである。

 勿論、監視員による不正が行なわれないように、報告するのは数名の監視員だけではなく、監視員達も知らない護衛などに扮した覆面の監視員もいると言う徹底振りである。

 その為、送り込む時は、護衛・影の監査官も含め、百人単位になる事になるので、余程の事が無い限り、この監査団は出される事は無いのであるが・・・

 ちなみに、これが制定された当初、ゲンドウはこれを使って、第十六に対し、姦策を謀ろうとしたのだが・・・

 だが、姦策をかける以前に、監査のタイミングも、監査の人事も掴めず・・・
(ゲンドウが裏のツテで監査団を出させたのだが・・・
 そのスケジュールは、厳重な機密であり、しかも、カウンターの偽情報に振り回された)

 更には、急遽、国連軍で一新された為、報告書に必要な印字のダミーもマトモに手に入らず・・・
(実は毎回、印字は替えられ、それを知るものは、反ゼーレ筆頭である国連軍総司令と任命された監査官のみである)

 何とか監査の最終日辺りに、監査日程を掴み、監視員の一団を抹殺して、自分達にとって都合の良い(第十六を潰す為の)報告書をまぎれこませようとしたのだが・・・

 監査に気付いた時は、それが終わるまでの時間がもうなかったのである。

 それに焦ったゲンドウは、いきなり、しかも、あわてて、準備もろくにさせず、帰国途中の監査団に、報告書を奪わせる為に、部下達を突っ込ませるという暴挙をしてしまった。

 当然、ろくな準備をしていなかった強盗団?は、監査護衛団と第十六が出していた護衛団相手に、全員返り討ち、もしくは、捕縛されると言う事態を引き起こしていた。

 ゲンドウと、当時のゲヒルン(ネルフ)側は、使ったのがゲンドウの私兵、つまり、裏の人材だったので、表向きの名簿に名が載っていないので自分達に罪を着せようとするテロリスト集団と言って誤魔化そうとした。

 尤も、その前に証拠がある程度固まっていたので、そんな誤魔化しが通るのはかなり難しかった。

 その為、事件をもみ消し、ネルフの元となる組織(ゲヒルン)を存続させる為に、老人達は、かなりの散財をする事となったのであった。

 本来なら、こんな事をしでかした時点で、司令になるどころか、ゲヒルンから追い出される事となったはずだが・・・

 それまで、なぜかゼーレでは失敗していた作戦をいくつか上手く行かせていた功績もあり、しかも、既にゲヒルンからネルフへ組織変換の手続きが終わっていた為、ゲンドウを罷免するわけにはいかなかったのである。

 なぜなら、ゲンドウを罷免すれば、この襲撃疑惑の件を認めたこととなり・・・

 ただでさえ、国連内で財団連や国連軍総司令の手腕によって押されているのに・・・

 こんな特権塗れの組織に自分達の息のかかった司令をネルフへ送ることが出来ず、暗殺しそこねた国連軍総司令の息のかかった人材が送られる可能性が高かったからである。
(無論、襲撃の件に対するゲンドウへの厭味大会は、かなりの日数になったと言う)

 まぁ、それはさておき、女性監査官から冬月は、すでに報告された事実を聞かされ、呆然とするしかなかった。

 無論、その間にも彼女の護衛にトモヒサ達と共にボディチェックをされ続けているが・・・

 そして、全員が大人しくボディチェックを受けたので、とりあえず、警戒もある程度、解いてもらえた。
(一応、武器である警棒は没収されたが、銃器をむらられることはなくなった)

「(て、提出済み・・・
 しかも、徹底している国連軍の報告法にのっとって・・・
 ま、拙いな・・・)
 えっと・・・どのような報告を?
 できれば、読ませていただきたいのですが・・・」

 ボディチェックも終わった冬月は、顔を蒼褪めながらも、女性監査官にそう尋ねた。

「まぁ、あなた方は関っていないようですから、いいでしょう。
 このような報告書です。
 勿論、これは私が出した報告書のコピーであり、原本は他のコピーと共に提出・確認済みですので、変更はききませんよ」

 少し考えた女性監査官は、念を押すようにそう言って、部下に合図を出し、冬月に調書の束を渡した。

「(拙いぞ、どう見ても、ネルフが監査団をいきなり襲った事実は確実に覆せん。
 いくら、軽装とは言え、表に護衛がいたのにも関わらず、祝初施設に襲いかかっただと・・・
 しかも、宿泊施設の一部を爆破して、突入なぞ、言い訳なぞきかん。
 その所為で証拠と実行犯の確保付きだ。
 だが、この内容だと・・・
 六分儀ではなく、諜報特殊監査部の副部長から勝手に出された命令とも受け取らせる事もできるな・・・
 強引だが・・・
 よし、これなら何とかなるかもしれん)」

 その内容を読み、実行犯の一部は既に護送済み等と言う色々と拙いところがあるものの、何とか、光明(スケープゴート)が見えたので冬月は気を取り直した。

 あの襲撃事件以降、日頃から、こう言う命令は直接ではなく、別の者に命令を発せさせる癖をゲンドウにつけさせておいたのが幸いしたのであろう。

「ふむ、そうですな。
 しかし、仮にも、一組織の長がこのような短絡的破滅行動をとるとは思えません」

 そして、ゲンドウを庇う様にそう言ったが・・・

「しかし、今までのココが機密にしていた行動・・・
 普通、最低限、報告をしなければならない事すら、特務権限で強引に機密にしてきた事・・・
 特に、ココの一部門の長(作戦部長)と言う重職、重責のある地位の人間を始めとして、多くの所員達(主に司令の直属の部下)が行なっていた様々な職権乱用・・・
 しかも、その一部門の長にいたっては、自身の行なった犯罪を何度も誤魔化して、無かった事にしていた事等々・・・
 それも、短期間に何回も同じような・・・
 しかも、その部門長は日本だけでなく、前の赴任先であったドイツでも行っていた事が判明しています。
 これは個人ではなく、組織ぐるみで誤魔化していたとしか思えませんね。
 つまり、ネルフのトップである司令を始め、多くの幹部が、彼女の犯罪を容認していたのでしょう?」

 そのとことんネルフには信用が無いと言う言葉を聞き、冷汗を流す冬月・・・

 確かに、ゼーレの指示により、ミサトを強引に作戦部長に就任させた。

 依り代であるチルドレン達の心を砕く為に・・・

 更に、某事情により、使徒戦の行われる戦場には必ず、ミサトを近くに置いておかねばならないからである。

 その為、ネルフから追放するどころか、戦闘中、チルドレンに(理不尽な)命令が出来、尚且つ、常時(普通のお姉さんとして)接する事が出来るような役職に就かせておかなければならないのである。

 様々なゼーレとゲンドウの思惑によって・・・

 ゆえに、各国のネルフ支部長や副司令である冬月は勿論、ネルフ総司令たるゲンドウですら、クビにするどころか、作戦部の長という役職を取り上げる事をやらないし、出来ないのである。
(階級を下げることは出来るが・・・)

 まぁ、ゲンドウがゼーレに計画に支障が出ると上申すると言う最終手段はあるが、そうなると、操れなかった問いう弱味を握られ、更にゼーレの草確実な代わりの作戦部長を送られる。

 さらにミサトは降格させても、某事情により、殆ど本部に滞在させねばならない。

 となると、作戦部のトップで無いと言う鬱憤でナニをやらかすかわからない状態になってしまうので、出来なかったのである。

「更に言うなら・・・
 あれは、その地位である以前に、国連の組織に所属している事、事態が不思議なくらい無能・・・
 いえ、むしろ有害な人材という事は、事前調査で簡単に判ったハズなのに・・・
 あのような重職に登用した事・・・」

 彼女の言葉に、冬月は更に苦虫を噛みつぶしたような顔をする。

 何せ、ミサトの存在自体が、某太平洋艦隊から話が流れた影響で、『世界の』軍隊の七不思議のいくつかに挙げられているのだ。

「就任させたのが何かの間違いであったとしても、使徒戦で数多くのクリティカルなミスを・・・
 それも利敵行為を始めとした極刑モノの罪を明らかに多数犯しているにも関らず・・・
 いまだ、それを修正も訂正もしないどころか、虚偽の報告で誤魔化そうとする。
 しかも、そんな人材に高過ぎる地位を与え、更に高過ぎる給与を支払い・・・
 いまだ繰り返し行なっている犯罪を、ワザワザ生け贄を出してさえ庇い・・・
 そのまま使い続ける不透明さ・・・」

 この時ほど、冬月はミサトを葬り去りたいと強く思った事は無かったであろう。

 無論、ミサトの事は、調べる所が調べれば、すぐ、その本来の成績などが分かる状態だった。
(胡坐をかいたゼーレの手抜きだけではなく、某部隊関係の方々の手腕もある)

 その中には、ミサトには色々な失点の記録がかなりあり・・・

 それは、降格、懲戒免職どころか、利敵行為などで軍事裁判にかけて始末(死罪に)することさえ、比較的簡単な記録も山ほど出てきているのだ。

 繰り返し言う事だが、ミサトの役目からも、彼女を辞めさせたり、その地位から外したりすると、使徒戦から外す、外される事となり、どんな事になるか変わらないので、下手にいじるわけにはいかなかったのだ。

 ちなみに給与は無論、水増しして、某補填に充てていたので、さらに悪い。
(まぁ、焼け石に水どころか、マグマに水一滴程度だが)

 尤も、今回はそれも疑われる?根拠の一つとなってしまっているが・・・
(何せ、最初の一部はゲンドウの懐に入った証拠があるらしい・・・)

「更に、過去、約十年間、この地で行方不明になっているらしい女性達の数・・・
 不可解な横槍によって、その調査が打ち切りとなっていますね」

 冬月には、過去十数年から、現在に至るまでの第三新東京市内及び近郊で行方不明になった女性達の殆どには十中八九、ゲンドウやその直属の部下達が関わっているのだろう事には予測がついている。

 なぜなら、ちょうどその頃、ゲンドウが何度も冬月を通さず、警察など、あちらこちらに直接圧力をかけていたし・・・

 尤も、当時は、冬月自身、『自分には関係ない』と考え、特に何もしていなかったが・・・

 冬月は、今は諌めて、最小限にさせなかった事にかなり後悔をしていた。

「当然、この横槍も、ネルフがゲヒルン時代より、裏で手を回していた結果である証拠はあがっています。
 これら等を始めとした不可解さを考えると・・・」

 女性監査官は不信感をあらわにしつつ、ネルフの今までの拙い行動の一例を持ち上げた。

 ネルフが裏で手を回していた事がバレていると聞き、冬月は上手い言い訳が浮かばい。

「いや、いや、それは尤もな事ですが・・・
 ですが、ここは私に任せていただけないだろうか?
 このままだと、余計な被害が出そうですし・・・
 そのような事は、お互い、本位ではないでしょう?
 それに、ですね・・・」

 そして、冬月は冷や汗を流しつつも、何とか説得しようとするが、うまい言葉が思いつかなかった。

 なにせ、言い訳に使った被害も、出るのは人員、装備の関係上、ネルフ側だけだろう。

 しかし、ネルフでトップクラスの苦労人である冬月は、そこをナントカしようと、必死に話した。

 ちなみに、苦労人のトップリストには、他に赤木、青葉、伊吹と言う苗字の所員が含まれているとか・・・

「そうですね・・・
 最低でも、国連軍総本部にて、司令本人及び実行者達には、直接査問を受けていただきます。
 それでよろしいですか?」

 そして、ある程度、冬月の(苦しい)言い訳&説得を聞いていた女性監査官が、そう言った。

「わ、判りました」

 冬月はうなずく。

 確かに、こんな事を起こしたのだから、司令であり、命令者と疑われている(と言うか、確実に命令者である)ゲンドウの取調べも必要だろう。

「それと、後30分切っています」

「は?」

 突然、女性監査官が時計を見ながら言った事の意味がわからず、冬月は少し間抜けな顔をする。

「正確には、後20分経っても、篭城している司令と実行犯達の身柄をお渡ししていただけなければ、我々は、ここにある全戦力を持って、突入します。
 また、別働隊が、ネルフ主要部を制圧することになっています」

 女性監査官がそう宣言した途端、後ろの護衛兵達が、武器をいっせいに構えた。

 学者あがりの冬月にもわかる程、その眼はマジである。

「そ、それは・・・」

「既に、上層部の許可は出ています。
 それに、後40分後に更迭用のヘリがココの第七ポートに到着するまでに、六分儀司令の引渡しの準備が出来てなければ・・・
 確認したヘリのパイロットの報告により、国連承認の元、日本政府によるA−801が即発令される事になっています。
 そして、その一時間以内には、第十六独立連隊とその指揮下に入った国連極東部隊が、全勢力を持って、ココの武力制圧を行なう事にもなっています。
 反抗するそぶりを見せたネルフ所員を人質毎、始末する許可を与えられて・・・
 その為、後30分経っても不可能な場合、我々は実力で行使するか、即座に出来ないと判断した場合、巻き込まれない為にも、即座にネルフ本部を退去します」

 つまり、後25分以内にゲンドウを拘束し、急いでヘリポートに連れて行かなければ、事実上、今日中にネルフ本部は壊滅・・・

 いや、物理的に消滅させられるだろう。
 
 そして、冬月達のところからも、ここから一番近いヘリポート直通のエレベーターの所にも、何人かの武装兵がいて、すぐ上がれるようにエレベーターを確保しているのが見えた。

「な!
(そこまで準備を?!)」

「副司令、副司令、ある意味当然ですよ。
 何せ、只でさえ、機密、機密と言って、特務権限を使いまくり、色々と不透明にしていたお陰で、色々と黒い噂がありますし・・・
 作戦部長自身がアレで、使徒を倒すどころか、その被害以上の損害を出していますし・・・
 結果を何一つ出せなかったくせに、追加予算を無理やり出させ、各国の負担を増大させましたし・・・
 とどめに、上位組織であるハズの国連からそれらの件で、監査にやって来た監査官の一団を着いた次の日、実際に調査が始まる日の早朝にいきなり襲ったのですから・・・
 何か後ろめたい事というか、国家というか、国際反逆計画とか、世界征服計画、もしかしたら人類抹殺計画みたいなのが有りまくると思われても・・・」

 あまりの対応に、冬月が驚くも、後ろに控えていたトモヒサがそう耳打ちした。

 冬月はその言葉で、現状を考え始めた。

 確かに、ネルフの行動や実績(というか、出した被害・損害)等を考えただけでも、存在に疑問を投じられているのに・・・

 今回の行動を考えれば、相当、危険なテロ組織であると認定されても仕方がないだろう。

 しかも、実際に、ネルフには人類補完計画等と言った色々とヤバイ隠し事もあるし・・・

 また、ここに近い基地は、第十六の極東支部か、UN極東軍である。

 そして、その相手が(一応)対使徒軍であり、その兵器たるエヴァンゲリオンを保有しているネルフである事からも、自然とその制圧命令は、使徒殲滅にも実績がある第十六に行っているだろう。
(今のところ、使徒殲滅の実績は第十六にしかないが・・・)

 UN極東軍だけの場合なら、書類関係等で、多少遅れるし、その動きは黙っていてもゼーレの老人達の知る事となるだろう。

 そうなれば、ゼーレがネルフ(補完計画)を存続させる為にも、エヴァの存在を使って、時間稼ぎをし、更に(費用はかかるが・・・)何とかしてくれるかもしれないが・・・

 だが、あの碇シン上級大将ひきいる第十六が中核となって行動するとなれば話は違う。

 彼らはそんな余計な時間がかかるような作業はすっ飛ばして、即行動に移れる準備をしているだろう。

 それに某作戦部長の外交能力や日々の行動で、ネルフを何かと目の敵にしているUN極東軍にも、協力してもらう為に、その情報、作戦が通達されるだろう。

 そうなれば、(ゼーレに抱き込まれている一部の将官を除いた)上級仕官達、それに下士官以下大半が協力を申し出るだろうし、知り合いにも協力を求める?可能性がある。

いや、寧ろ、既に協力を求めているのかもしれないし、彼ら自身、進んで他の部隊に声をかけまっているだろう。

 色々と恨みのあるネルフを潰す為に・・・
(無論、その恨みの現況の99.89%位はゲンドウとミサトであろう)

 そうなると、時間が稼げば稼ぐほど、ネルフを攻めてくる軍は増え続け、準備万端になっていくだろう。

 無論、世界規模で、しかも、士気も確実に上がった状態で・・・
(本部だけでなく、全支部ごと攻撃対象になると言う事である)

 だいたい、全エヴァがマトモに動くとしても、UN極東軍+αを単なる烏合の衆と見ることは出来ない。

 何せ、相手には、現代の生きた英雄であり、ある意味、世界の軍隊のシンボルでもあり、エヴァ無しで使徒を殲滅し続ける超有能な指揮官達ついている。

 しかも、ネルフは甥(碇シンジ)を殺したことで恨まれているから、彼が直接指揮を執る事になるだろう。

 それに、なんとか動かせそうな2機のエヴァの内、1機・・・

 つまり、先日就任したフィフスチルドレンであるラミは、確実にこちらに反抗しそうである。

 ここにきて日が浅いだけではなく、アメリカ・ネルフ支部の行為の所為で、彼女は元々、ネルフに対して、反抗心を持っているようだし・・・

 事情を知れば、もう1機のフォースチルドレンであるトウジの方も・・・

 いや、それどころか、整備部を始め、チルドレンに近く、あの作戦妨害部長の日々の活動に被害を被っている殆どの部署が大義名分を得たとばかりに、司令部や作戦係長に表立った反乱と言う名の行動をとって、外部との連携をとるだろう。

 なにせ、裏の事情など知らないし、教えることも出来ないのだから・・・

 そして、あの碇上級大将ならば、必ずや積極的にネルフ内部にいる彼らと連携を取れるようにしているだろう。
(既に過去形・・・)

 そして、冬月は、ネルフ存続の為、補完計画の為、自分の知的好奇心による後戻りできない状況であり、ゲヒルン時代からゲンドウと行なってきた外道な事が、一部でもばれれば身の破滅である。

 現状を纏めようとしたが、お先真っ暗な未来展開しか浮かばない事に、再び冬月は一瞬気が遠くなるが・・・

「わ、判りました。
 早急に六分儀司令の身柄をお渡しします」

 だが、最終目的でもある某女性に一目会う為にも、何とか気を取り直し、冬月はそう言って、一礼をし、後ろの黒服軍団の一部を引き連れ、司令執務室前に出来ているバリケードの方に向かっていった。

 後ろからついてくるトモヒサ達や残っている者達が白いハンカチを白旗に見立てて、持って、振っているが・・・

 もちろん、後ろにいる監査団に対して・・・







「ふ、副司令」

 バリケードから覗いていた諜報特殊監査部の黒服達が、ゆっくり歩いてくる冬月を見て、構えていた銃をおろして、敬礼する。

「君達はいったい何をしているのかね?」

「そ、それが・・・」

 冬月の呆れたような声に、黒服は何も答えられなかった。

 ゲンドウ自身が選び、また、自分の言う事を忠実にこなす為の犬として、弱みを握った者や、徹底的に教育してきたおかげで、命令に忠実であまり考えない下位の者達だが・・・

 流石に今回の事は、やってしまってから、やばかった(いつもの様には誤魔化しが効かない)事に気がついていたのだろう。

「司令と副部長はどうしたね?」

 冬月がそう聞いた。

「お、奥で指揮を・・・」

 指揮とは言うが、奥に逃げ隠れているだけであろう。

「通してもらうよ」

「ですが・・・」

 中に行こうとする冬月を黒服があわててとめる。

 おそらく、誰も通すなと言われているのであろう。

「副司令であるワシがきたのだ。
 悩んでいるなら、奥の司令に聞いてきなさい。
『副司令が解決策を持って、態々、危険を冒してやってきたが追い返してよいですか?』
と・・・
 後、『このままだと、確実に身の破滅だと言われた』と付け加えても良い」

「わ、分かりました!」

 冬月の言葉を聞き、黒服はあわてて中に入っていった。

「は、それが、『副司令のみ通せ』と・・・
 それと『武器の類は持たせるな』とも・・・」

 そして、すぐ出てくると、そう冬月に伝えた。

 しかし、冬月1人とは、やはり、ゲンドウの臆病さのなせる業なのだろうか・・・

 冬月は呆れるしかなかった。

「ふ〜分かった、見ての通り、武器は何一つ持っておらんよ。
 トモヒサ君」

「は!」

「彼らが馬鹿な事をしないように抑えていてくれたまえ」

 ため息を吐くと、冬月は軽く手を上げ、武器を持ってない事を示しつつ、トモヒサにそう言った。

「了解であります!」

 トモヒサがそう答え、白旗をもった手で敬礼すると、冬月は中に入って行った。

「いいか、お前らも、死にたくなければ、変なマネはするなよ。
 いろんな意味で、現在、状況が微妙な綱渡り状態なのだからな」

「わ、解っています」

 トモヒサが釘をさすように言うと、全員が銃を仕舞い・・・

 いや、仕舞う前に、そのまま、トモヒサと彼が連れてきた黒服達に没収され、床に置かれ、監査団の方に流され、その場に立っているだけになった。

 無論、武器を没収された事で、文句を言う者も居たが、『状況と立場を考えろ』とトモヒサに一喝され、そのまま黙って立っているだけになった。








 ズキューン!! ズキューン!!



 しばらくすると、司令執務室から、二発の銃声が聞こえてきた。

 「「「「「なぁ?!」」」」」」

 見張りの黒服のリーダーとトモヒサは驚いたように互いの顔を見ると、頷き、あわてて中に入っていく。

 そして、中で見たものは、右腕を撃たれたのか、脂汗と、血を流しつつ、右上腕部を押さえている冬月と、倒れている副部長の右手の所にしゃがみこんでいるゲンドウだった。

「・・・えっと、副司令?
 とりあえず、止血します」

 なんと声をかけて良いかわからないトモヒサは、そう言って、冬月の傍によりつつ、白旗にしていたハンカチで、応急処置を始めた。

 ちなみに、見張りの黒服のリーダーは目に映った光景が信じられないらしく、口をパクパクとしながら、突っ立っている。

「うむ、冬月、良くぞ逆賊の手から私を守ってくれた」

 すると、何かをやっていたらしいゲンドウは、さわやか?な笑顔(本人はそのつもり)というか、とっても怪しい邪笑で、そう言いつつ、冬月達に近付いてきた。

「司令・・・どういうことですか?」

 事態を把握していないというか、信じられない見張りの黒服のリーダーは、ゲンドウにそう尋ねた。

「うむ、投降を拒否する主犯の奴を俺と冬月が説得しようとしたのだが、奴がトチ狂って、俺を人質にとったので、冬月と撃ち合いとなり・・・」

 ゲンドウが状況の説明を始める・・・が・・・

「そ、そうですか・・・
(う、嘘臭ぇ〜)」

「・・・(というか、無理だろ)・・・
 えっと・・・副司令、大丈夫ですか?」

 かなり無理のある設定に、黒服のリーダーとトモヒサが冷や汗と流しつつも、そう答えて、冬月の傍に行く。

「・・・・・・・・・・・・」

 冬月は、撃たれたらしい右腕を押さえており、脂汗を流しており、その痛みで、口を開いても、声が出せない状態だった。

 ちなみに銃は何処にも持っていないというか、ここに入る前に置いてきているし、入り口で持っていないことを示していたし、監査団のボディチェックを受けていたので、全員が持って居ないことを知っていた。

 つまり、とっさの撃ち合いなんか、出来るはずがない事は周知の事実である。(爆)

 しかも、確実に、第三者である監査団にもバレバレであろう。

「とりあえず、外に出ましょう」

 冬月に軽い応急手当をしつつ、トモヒサがゲンドウにそう言った。

「なぜだ?」

 憮然とした態度で、ゲンドウがそう聞き返す。

「司令ご自身に、説明していただかないと・・・
 副司令がこの状態なので・・・」

「必要ない」

 トモヒサの言葉を切り捨てるようにゲンドウが断言する。

「し、しかし、このままだと、司令が主犯と思われますよ。
(と言うか、主犯でしょうが・・・)
 ご本人が、人質になった事を説明しない(という設定で誤魔化さない)限り、無理ですよ」

「問題ない」

 トモヒサの説得?にも、面倒くさそうに、ゲンドウはそういった。

「そうなると、司令は自動的に解任されます。
 そして、拷問式の取調べを徹底的に受けた後、治療もせずにタバシリに直送と言う指示が、国連本部経由で、人類補完委員会の方々からも、直接出ているそうですし・・・
(まぁ、嘘だけど・・・)」

 トモヒサの言葉に、ゲンドウと冬月が驚いた顔をする。

 人類補完委員会、と言うか、ゼーレから、トモヒサに直接指示が来ているのかと思って・・・

 ちなみに、黒服のリーダーは話についていけないので、アタフタしているだけである。

「むぅ・・・(汗)
(なんと・・・えぇい、冬月め、使えん。
 老人共の草を連れているとは・・・)」

「(な、何者だ・・・この男は・・・
 いや、しかし、人類補完委員会は元々ゼーレの表向きの組織の1つだし、知っていてもおかしくないが・・・
 しかし、ここでゲンドウの説得に補完委の名を出すとは、まさか・・・)」

 2人は不審な目でトモヒサを見る。

 とは言え、人類補完委員会がゲンドウをネルフ司令にした組織であるから、ある意味、直属の上司達と考え、出してもおかしくは無い。

 ある意味テンパっているとは言え冬月には、ある程度思いついても、色々と劣化消失しているゲンドウには、その辺りは思いつかなかったようだ。

「ちなみに、後、5分以内にココを出ないと、同じことです。
 あ、当然、銃など、武器を携帯していたら、色々と拙いので、置いていってください」

 だが、そんな2人の様子を無視しつつ、時計を確認しながら、トモヒサがそういった。

「ふん・・・問題ない」

 いじけた駄々っ子のようにそっぽを向きながら、ゲンドウはそう言い切った。

「・・・ろ、六分儀・・・(汗)」

「司令・・・」

 何も考えてないように、いつものセリフを吐くゲンドウに、2人に呆れた顔で見られる。

 無論、打開策が何も思いつかなかったので、ゲンドウは、いつものセルフを吐いただけだが・・・

「・・・・・・行けばいいのだろう」

 流石に、2人の呆れた目線に気がついたのか、あわてて、そう言った。

「碇・・・」

「司令・・・銃を」

 2人に、銃を渡すように言われ、懐から出した銃を床に落とした。

「ふん、これでよかろう」

「いえ、念の為に、ボディチェックを・・・」

「問題ない!」

「「大ありだ!!」」

「司令、武器を持っていたら、即座に撃ち殺されるのですが・・・
 おい、一応、チェックして差し上げろ、司令や副司令、それに、俺達の命もかかっているんだ」

「すいません、これも司令の為なんです」

 そして、トモヒサに命令され、ボディチェックした黒服のリーダーに、あっさりと隠していた武器(ミニ銃系)を見つかってしまい・・・

 さらに呆れた目で見られながら、ゲンドウは目線をそらしつつ・・・

 見つかった全ての武器(仕込み靴とかも)を床に捨てさせられて、トモヒサと黒服のリーダーに促され、冬月に睨まれて、靴下のまま、出口の方に向かわされた。

 そして、トモヒサが補助をしつつ、冬月を立たせた後、2人は同時に溜め息を吐きながら、その後をついていった。








 外に出てくると、既に監査団護衛の武装兵団の一部が入り口近くを囲んでおり・・・
(銃声で乗り込んで来たのである)

 ネルフ側の黒服(ゲンドウの私兵やトモヒサの部下)達は、全員反抗も抵抗もせず、白旗を振ったり、手を上げていたりしているので、ゲンドウが睨みつけるが・・・

「六分儀・・・
 誰の所為でこうなっているか、考えろ」

 と後から冬月が小声でそうたしなめた。

「ふん、無能な裏切り者(諜報特殊監査部の副部長)の所為だろう」

 しかし、自分が引き起こした事態を理解できないのか、ゲンドウはそう答えた。

「・・・行くぞ」

 トモヒサに肩を借りている冬月は呆れつつも、そう言って、武装兵団の間を通り、監査員達の居る方に向かう。

 ゲンドウは、行き先にあの金髪のユイ似の女性監査員が居るのに気づき、(立場が判っていないのか)意気揚々と冬月を追い越し、先頭に立って、歩いていく。

 そして、ある程度、ゲンドウが女性監査員に近づいた途端・・・

 ガシ! ドガ! ガャチャガチャ・・・

 周りの武装兵達に、押さえつけられ、服を剥ぎ取られつつ、何重もの手枷足枷をつけられた。

 無論、まだ隠し持っていた(爆)単発式の小型小銃やナイフなども没収される。
(ちなみにパンツの中にもあった・・・よく調べたな)

「な、何をする!」

 半裸・・・と言うか、裸で簀巻きにされた状態のゲンドウがそう文句を言うと・・・

「何を勘違いしているかわかりませんが・・・
 我々は、国際テロリスト、その最有力容疑者を無力化しつつ拘束しただけです」

 白い眼で睨みつつも、金髪の女性監査員がハッキリそう言った。

 もちろん、下から覗かれないように、確りと離れた位置で・・・

「何だと!
 俺はネルフの総司令だぞ!
 貴様ら!」


 ゲンドウが文句を言おうとするが・・・

「申し開きは、然るべき所で行なっていただきます。
 さぁ、急いで連行して行きなさい」

 金髪の女性監査員は、そう言って、近づきたくも無いのか、ゲンドウから離れていく。

「ふ、冬つ、もが!」

 ゲンドウは冬月にも文句を言おうとするも、そのまま猿轡をされ、呻くだけで、何も言えなくなる。

「あぁ〜やったことを考えろ・・・
 お前自身が然るべき所で説明しないと何も解決しないだろうが・・・
(委員会が何とかしてくれるのを待っていろ。
 俺からも言っておくから・・・)」

 冬月は心底呆れたような顔をしつつ、そう言った。

 無論、片手での暗号手話でこっそりゲンドウに連絡するのも忘れない。

「副司令、治療を・・・」

「うむ・・・」

 トモヒサにそう言われて、冬月もその場を離れて言った。

 そして、ゲンドウ・・・とそれに従った者達はほぼ全員、拘束され、更迭されたのであった。

 ちなみに、他の黒服達は手錠だけだったが、ゲンドウだけ、簀巻き状態のままで、最後まで引き摺られて行ったと言う。
(裸状態だからだろうか?)








 どこか・・・

 暗い部屋ではなく、明るい健康的な部屋である。

 そこには複数の男女・・・と言うか、1人の少年と数人の少女達が居た。

 当然、我らがシンジ君達である。

「はい、判りました。
 では、予定通り・・・というか、時間的にはかなり速攻で、案の定、暴走したから、更迭できたってさ」

 シンジが受話器を置いて、そう言った。

「・・・(呆れ)
 彼女は設定上、似ているだけの存在で、それも、写真を見ただけのハズですよね?
 それを一日と経たずにですか?」

 マユミがレイに1000新円札を渡しながら、呆れたように言った。

「アレには関係ないわ。
 私にも、あの姿で直接会った事は無かったのに、写真だけで、アレだけの事をしてきたわ」

 それを受け取りつつ、何処と無くホクホクとした顔でレイがそう言った。

 どうやら、賭けていたらしい。

 ちなみに、“アレだけの事”とは、世界規模であり、尚且つ、国連にもかなりの権限を持ち始めた財団の重要な特務部隊の中核に所属していたレイ=アンカードに対して、当時、表向きは、たかだか民間の一研究機関であるゲヒルンの所長でしかなかったゲンドウがやった事である。

 例えば、ある時、給与の1/100以下で、引き抜こうとした。
(調べようともしなかったので、どのくらいの給与か知らなかったらしい)

 ちなみに、一方的な、しかも、命令口調の通達を国連軍参謀局にしたらしく、その所為で、ゲヒルンの立場が悪くなり、ゼーレの老人達が骨をかなり折った。

 しかも、当時はまだお互い特務機関ではなかったが、第十六も財団の護衛私設軍であり、国連軍とコネはあってもあまり関係は無かったのにである。

 またある時、第十六が、ゲヒルンに先駆け、特務機関になったばかりの頃であるが・・・

 部隊からクビになるような無理やり失点を作らせる為、彼女の仕事の資料(全て部外秘のである)を奪うおうと、国連軍総本部に、当時の特務監査諜報部を潜入させた。

 また、強引に監査を第十六に入れさせ、監査員達を殺し、報告書の中にかなり第十六とレイにとって不利な偽装の報告書を紛れ込ませようとした。

 冬月やリツコ達に黙ってやらせた所為で、当然と言うか、案の定、潜入しようとした者達や、暗殺をしようとした者達はことごとく、第十六の憲兵隊や監査員護衛部隊や、国連軍のMPに即効で捕らえられた。
(前述の事件である)

 無論、捕らえられた者達の文字通り、生命を切る事により、国連軍上層部や冬月達の追求の手から、強引に逃げたのである。
(捕らえられている場所ごと爆破させ、爆破犯もそのまま仕込んでいた体内爆薬で始末した)

 そんな色々と表ざたになったら拙い事をゲンドウはやりまくっていたのであるが、ネルフを作らないと、色々拙いので、かなりの苦労をして貰った後、色々と条件をつけて、ネルフへの転換を認めたのである。

 無論、一番苦労したり、散財したりしたのは冬月達やゼーレである・・・

 ゲンドウはゼーレへの下手な言い訳を考えるだけ・・・で、殆ど無口で通していた。

 ちなみに、ゲンドウ解任案も出ていたが、冬月とリツコの苦労、それに色々と都合があったシンジ達(爆)の根回しで、何とか司令になれたのである。
(無論、ゼーレが選んだ司令候補を文字通り消したり、失脚させたり、老人達の計画を教え、裏切らせ、辞退させたのである)

「まぁ、ペンペ・・・おっと、ペソペソ特務部隊が、潜入訓練?代りに睡眠学習をさせたしね」

「でも、一日と経たず、あそこまでやる?
 普通?
 一応、組織の長なんでしょ?
 しかも、上役がたくさんいる」

 カヲルが肩をすくめながら言うと、マナが呆れたようにそう突っ込みつつ、レイに1000新円札を渡した。

 どうやら、どの位で行動に移るかが賭けの対象だったらしい。

「使徒戦が始まるまで、僕らに関係する事以外は、前の世界に比べ、何故か都合良く、上手く行き過ぎていた事・・・
 どんな事をやっても・・・
 ネルフの司令になれた事で増長したようだね。
 それに、最近は、ストッパー役の人員が傍に居なかった事も原因だね」

「しかし、一応は実力?でゲヒルンの所長の地位に就いたのでしょ?」

 シンジの言葉に、マユミがそう疑問を投げた。

「元々はね・・・
 でも、それは、陰謀術とか、詐欺まがいの方法であり、故葛城博士達や、東方の三賢者、それに名も知られなかった優秀な博士や、技術者達の手柄を我が物にしていたからだよ。
 それなのに、一旦トップ、所長の座についたら、仕事は殆ど妻や部下任せ・・・
 裏の陰謀を思いついても、自分では殆どせず・・・
 電柱(冬月)、親猫マッド(ナオコ)、猫マッド(リツコ)、特殊監査諜報部のナントカって、ゼーレがストッパーの為、こっそり送り込んでいた部長に、穴だらけの作戦を補正してもらって、楽をして、甘えきった結果・・・
 ゲヒルン所長になる前に持っていた判断能力や悪知恵能力とかをどんどん劣化させていったからね」

 因みに、ゲヒルン時の表の仕事は妻ユイに、裏はナオコに押し付け・・・

 ネルフになってからは、両方とも冬月やリツコに押し付けていたのである。

「でもさ、補正できないようなこともあったじゃない。
 どう考えても、バレバレで、破滅クラブが必死こいてもみ消した事が・・・」

 マナが不思議そうに訊く。

「そういうのは、止めたり、別のことに意識を向けたりしていたようだよ。
 まぁ、殆どは別な犯罪だけど・・・
 実行を止められなかったと言うか、彼らが知らないうちに強引に行動されていた時のが、発覚していたんだよ」

「その証拠に、特務権限をもった後、表に出てくると、何も考えずに職権乱用し、なんでも力押し、強引にやって、マトモな交渉は一切していなかったわ。
 そのあたりの能力は劣化もいいトコ・・・消失したのかも」

 シンジの説明に、レイがそう補足をした。

 ちなみに、辻褄合わせというか、現状などを知る為に、ゲヒルンから、第三使徒が襲来するまで、レイは潜り込んでいたのだ。

 まぁ、ゲンドウが仕事で居ない時などは良く抜け出して、レイ=アンカードとしての仕事をしていたが・・・

「そうだったわね」

 マナがため息を吐く。

 使徒戦開始前、アレだけ準備をしていたのに、まさか相手がココまで無能だったとは、思わなかったのだろう。

 まぁ、バランスをとる為、第十六や財団連の事以外、何故か不思議と上手く行かせていたので、前史よりも、劣化しているのであろうから、無能になったと言い換えた方が良いのかも知れない。

「どの位、拘束するんだい?」

「そうだね・・・
 よもや、暴走髭と暴走牛が居るだけでネルフ排斥があそこまで進むとは思っても見なかったしね」

 カヲルの言葉に、シンジが腕を組んで考え込む。

「予測の2乗どころか、倍にして、4乗以上の進み具合だわ」

 レイが書類を見ながら、呆れたようにそう言った。

「せめて、ネルフには落下の第十までは潰れないで欲しいな」

 シンジがそう呟いた。

「牛の行動も、前史とはかなり違うね」

 マナがレイの見ている書類を覗き込みながら、そう言った。

「それは、思い通りになる手駒が居ない所為。
 後、使徒を倒せないし、自分で気付かずに第二のそれも大口のサイフを亡くさせたし・・・
 おさどん兼第三のサイフが手に入らなかったから・・・」

 レイがそう言った。

 ちなみに第二のサイフとはマコトの事であろう。

「後、前史より、権力範囲が狭まった破滅クラブのご老人達が、足元だけでも強化しようと、牛を使って、軍部やドイツ政府内に居る政敵とかを始末する為に、色々と誘導したり、甘やかせ過ぎたりしたのが原因だね」

「洗脳したんじゃないのかい?」

 シンジが付け加えると、カヲルがそう訊いて来た。

「その必要は殆どなかったみたいだわ。
 元々、酷い外罰的な性格だったアレが、使徒の劣化細胞を組み込むことによって・・・
 自己忘却、自己改革、自己弁護、自己欺瞞、自己陶酔、自己暗示、自己増長、自己顕示、自己主張、自己完結等・・・
 まさに自分に都合のイイ能力を発現、増強、増加、増殖させる事にもなっているみたいだし・・・
 ちょっと軽い誘導だけで、勝手に暴走、記憶まで脳内捏造したようよ」

 そのカヲルに、レイがそういった。

「ところで、今回の使徒はどうするんだい?」

 レイの説明を聞き、引きつった笑顔で冷汗を流したカヲルが、シンジにそう尋ねた。

「そろそろ、牛がアレを奪取?するはずだよ。
 シエルの報告がもうすぐ来るだろうし・・・」

 時計をチラッと見て、シンジがそう答えた。

「アレは仕込んだの?」

 レイがマナとマユミにそう訊いた。

「モチのロン♪
 チャンと、カラオケ機能付だよ」

「えぇ、ただ得点機能は付いておりませんので、音痴に歌っても大丈夫になっていますわ」

「本気で仕込んでいるんだ・・・アレ」

 2人の言葉を聞いて、カヲルがそう呟いた。

「と言うか、歌いませんと、アレは機能しませんし・・・
 最後に叫ばないとトリガーもひかれませんわ」

 カヲルの呟きに、マユミがそう言った。

「させるんだ・・・マジで」

「むしろ、一応、手柄を立てさせてあげるんだから、その程度の恥はかけってやつ?」

 再び、カヲルが呟くと、同じようにマナがそう言った。

「まぁ、本人が気付くかどうかは判らないわ・・・」

「だね」

 その間なの言葉に、レイとシンジが更に付け加える。

「そこまで面の皮が厚いのですか?」

 マユミの言葉に、シンジとレイが無言で頷く。

「まぁ、後は、予定通り、イスラフェルが発見されれば、修正どおりよ。
 それに、ブーストアイテムにも色々とね♪」

 話題の方向を変えるために、マナがそう言った。

「今頃、破滅クラブも焦っているでしょうね」

「・・・一旦放った使徒を止める術はアレ等にはないわ」

 マユミの言葉に、レイがそう言った。

「問題は被害か・・・」

「まぁ、一応、関係各所には、使徒以外の・・・
 つまり某所とかからの妨害にも気をつけるように言っているけどね」

 シンジが考え込むように言った言葉に、カヲルがそう言った。

「ところで、あちらには、GGシリーズはどの位、渡ったんだっけ?」

「3小隊分、つまり、9機よ」

 シンジの問いに、レイが即座に答えた。

「つくばの部隊は?
 確か、後、7小隊分の機体が残っているはずだよね?」

「えぇ、後、21機残っていて、現在、候補生達が実機訓練中よ」

 マナが確認するように言うと、レイが頷きながらそう言った。

「たしか、つくばの部隊は様子見に徹して、今回の作戦には、手は出さないって・・・
 一部とはいえ、無理やり、予算も出さずに横から奪った向こうのお手並みを見るってね」

 カヲルがそう言った。

 どうやら、戦自にいるゼーレ派(と言うか、ゼーレの草)の色々と焦っている将官が、自分の手柄を作る為、強引に持ってったらしい。

「増援は求めないというより、求められないでしょう。
 一応、同じ組織でも、敵対派閥ですし、そこの物資を強引に奪い、更にあそこの出張所に押し入り、階級を盾に、データ入力までさせましたが・・・
 まぁ、違約金を支払う約束を向こうの派閥の戦自の上層部にさせて、特別許可を出させましたけど・・・
 余程、厚顔無恥な・・・
 まぁ、暴走牛でない限り、救援を求めるなど無理でしょうね」

 マユミがそう言った。

「でも、やった事は同じじゃない?」

 マナがそう突っ込むと、マユミが硬直する。

 どこぞの牛のように、無理やり、奪ったらしい。

「まぁ、この場合は部下の神経の太さが問題になると思うよ」

 カヲルが冷汗を流しつつ、そうフォローを入れた。

「ところで、使徒の予定は?」

「おそらく、明日の朝から昼にかけて、使徒発見の報が入る予定・・・」

 シンジの言葉に、レイがそう答えた。

「一応、牛が斜め上を相似上にスピンアウトしつつ加速した行動をとらない限り、ブーストアイテムと本体で倒せるはずだよ。
 そうなれば、ネルフの功績になるから、電柱の手腕でネルフの寿命がかなり延びると思うよ」

 マナがそう言ったが・・・

「でも・・・牛が関るどころか、主演をやるんですよ?」

 今度はマユミがそう突っ込んだ途端、そこに居た全員が硬直する。

「ま、まぁ、もしもの事を考えて、準備だけはしておこう。
 今度は、どの機体を出すかなぁ〜」

 冷汗を流していたシンジは、気分を変えるように何かのファイルを開けつつ、そう呟いた。







 その頃、元・日本重化学工業共同体・特別秘匿研究所では・・・

 そこの重役室には、時田シロウと数名の管理責任者をしている部下達が居た。

「どうかね?」

 時田が、モニターに映っているに存在について尋ねた。

 その者達は、どこかで見た事があるような黒服を着て、こちらを伺っている者達や、潜入する為か、特殊装備をして、待機している者達だった。

 無論、バレバレであるが、ネルフの特殊監査諜報部の者達である。

「はい、こちらに監視されているとは気付いていないようです」

 部下の1人が時田にそう言った。

「しかし、奴らに、アレをまだ盗ませないって、どういう事ですか?
 もうかれこれ、奴らが張り込んで3日目ですよ」

「それよりも、偽装は?」

 部下の疑問に答えず、時田はそう聞いた。

「済んでいますよ。
 まぁ、所謂、上から見て気付かれない程度、しかも、動き出したら、胸部から下は外れても良い張りぼてでしたから、簡単に貼り付けるだけでしたし・・・」

「ならば、奪いに来るゲストが来れば大丈夫だな」

 時田はその答えを聞いて、頷きつつ、そう言った。

「え? ゲストって・・・
 アレはネルフに奪わせる予定ではなかったですか?」

「いや、確かにネルフに奪わせるのだが・・・
 それをさせるのは、あいつ等、ネルフ特殊監査諜報部ではないとの事だ」

「「「「はぁ?」」」」

 時田の答えに、部下達が首を捻る。

「なにやら、自称使徒殲滅の実働部隊の人?物らしいが・・・
 その人?物に奪わせたいらしい」

「どういうことです?」

 意味がわからず、部下のひとりがそう聞いた。

「その人?物だと、アレを非常に面白い使い方をする確立が高いからさ」

「どう違うのですか?」

「ある意味、味方を巻き込んだ被害しかない自爆かな?」

「はぁ?(汗)」

 時田の答えに益々わからない部下達・・・

 無論、数名は成るほどとばかりに頷いているが・・・

「でも、本当に別に来るんですか?」

「上手く誘き寄せているらしいよ。
 なにやら、色々と疑心暗鬼で都合のイイ状態になっているらしい」

「それで、こちらはどうするんですか?」

「そうだねぇ〜
 既にここの人員以外、全て脱出させているから、大丈夫とは思うが・・・
 最悪の事態に備えてくれ。
 まぁ、その前にココは放棄する事になっている」

「・・・そ、そんなに危険なんですか?」

 時田の答えに、部下の1人がそうきいた。

「あぁ・・・
 その人物は、こちらの最悪の想像の更に斜め上を二次曲線状にスピンダッシュする人物だ」

「どんな人物なんですか?!」

 数名が大きな冷や汗を後頭につけ、更に、その中の1人が代表して訊いた。

「飛行装置の起動歌・・・
 色々と入力しただろう?」

 つぶやくように、時田がそう言った。

「はぁ、でもいいんですか?
 あんな変な替え歌を・・・」

「あの歌は人物を話し半分以下にして、称えたモノだよ」

「え? お、大げさにではなく?」

「誇大にしたんじゃないんですか?」

「全然・・・
 本気で半分以下に抑えたのだよ」

「「「「「「マジですか?!」」」」」

 時田のセリフをきいて、弾かれたように殆どの部下がそう叫んだ。

 中々、スゴイ歌のようだ。

「マジだよ。
 ちなみに、ココに残っていた作業員、研究員達は殆ど退去しているよね?」

「はい、後は我々と護衛くらいなものです」

 部下の1人がそう答えた。

「じゃぁ、ゲストが着いたら、5分以内に撤収するよ。
 待機しているヘリ、もう起動させておいて」

 そういいつつ、時田は手荷物を持ちはじめる。

「わかりました」

「どう言う事です?」

 部下の1人がマイクで連絡をしていると、別の1人が時田にそう尋ねた。

「さっきも言ったと思うけど、ココは放棄するからだよ」

「本気で・・・放棄するのですか?
 これほどの設備を?」

 部下が勿体なさそうな顔をしつつそういった。

 なぜなら、殆どの資料は引き上げているとは言え、ココにある機材・設備は結構な値段がするのだ。

「そう」

 だが、荷物を持った時田はあっさりそういった。

「なぜです!?
 ココにはまだ消していないデータだって・・・」

「あぁ、それは全てアレの為だけのだし、ココ一帯の消滅の可能性が5割以上だし・・・」

「?・・・消滅ですか?
 破壊とか崩壊ではなく?
 しかも、研究所だけではなく、この地域一帯が?」

 言葉の違いに気付いた部下の1人がそう聞いた。

「うん、ぜ〜んぶ消滅の可能性だよ」

 あっさりと時田はそう言い返した。

「「「「・・・・・・・・・」」」」

 硬直する部下達・・・

「ど、どういう事ですか?」

 いち早く硬直が解けた部下が、そう言った。

「だから、そのゲストが引き起こすんだよ。
 この辺り一帯を消滅へと・・・
 あ、ちなみに、残りは崩壊が3割、半壊が1割、半壊以下は1割以下、建物だけがチョットあって、この辺りが無事なのは0♪」

「良いんですか?
 これだけの施設を?」

「あぁ、構わない。
 既にココは一応財団に売却済みだし、データは消去済みだし、もっと設備の整った研究所に移れるんだ。
 それに、ココは残っているだけで、今後、あちらさん、ネルフに色々されるだろうからね」

 つまり、廃棄しても損はないし、残っていても、ネルフが表でも裏でも、色々としてくると言うことである。

「・・・わ、判りました。
 では、行きますか?」

 部下が一応、納得し、そういって、自分の荷物を持った途端、外から肉を弾き飛ばすような音が響いた。

「ん・・・着いたかな?」

 モニターをチラリと見て、時田はそう言った。

 そこには、ネルフの特殊監査諜報部の人間を弾き飛ばしている車が映っていた。

「な、何ですかアレは?!」

「アレがゲストだよ・・・たぶんね。
 ネルフの作戦崩壊部長さん」

 驚いて叫ぶ部下に、時田があっさりそう答えた。

「な、なぜ同じ組織に所属している人間を」

 何ゆえか、ワザワザ逃げ惑う人間をワザワザ撥ねているとしか思えない車を見つつ、部下がそういった。

「財団関係の方から聞いているけどね。
 “アレは味方にすれば、最凶最悪の脅威だが、敵であれば、これほど頼もしい存在はない・・・
  まぁ、何をやりだすか判らないから、油断はできないが・・・”
 との事だよ。
 僕もその意見には賛成だね。
 資料を読んだし、チラリと映像で見たけど、やっぱり、アレの近くには存在していたくないよ。
 遥か彼方から、ほぼ無関係な位置で見るだけで良い」

 モニターには、そのまま、車に轢かれたり、弾かれたり、または避けて逃げ出すが、後から追いかけられる黒服や武装兵の姿が映っていた。

 完全に何のためにここにやってきたか、忘れているらしい。

 爆音が響くが、それは車の所為で彼らが持ってきた弾薬等が誘爆したらしい。

「そんなことよりも、オートガードを起動させるから、5分で撤収するよ。
 アレが本来の仕事に気がついて、この中に入ってくると、何処に居ても巻き込まれるだろうし・・・」

 時田はそう言うと、とある機材のスイッチを入れた。

 部下全員、モニターに映っていた映像で、時田の言葉を現実のモノとして、理解していた。

「「「「「「「「「「分かりました!」」」」」」」」」」

 そのまま荷物を持って、返事をして、時田と一緒に屋上に上がっていった。

 そして、3分後、2台の大型ヘリが飛び立っていった。






 更に、5分後

「ほぉ〜ほほほ!
 邪魔なのよ!
 私をハメようだなんて涅槃で反省していなさい!」


 完全に逝った眼で、ミサトは車を運転していた。

 ちなみに車は既にボコボコになっている。

『いい加減にしなさい!
 それよりもやるある事があるでしょうが!』


 ミサトが着けているインカムから、シエルの怒声が響いていた。

 無論、シエルは気付かれずに乗り込ませようとしていたのだが・・・

 ミサトのミスというか、わがままで、偵察というか、買出しに出ていた黒服達を見つけたのだ。
(えびちゅを買おうと、この付近にあるコンビニに寄ろうとした・・・お金も持ってないのに・・・)

 そこで、知らないフリをして、通り過ぎれば、何事も無かっただろうが、何を思ったのか、ミサトは、“見付かった”と叫び、いきなりその者達の一部を後から跳ねたのである。

 それはもう、ノンブレーキどころか、加速を付けて思いっきり・・・

 無論、他の者達は驚き、硬直したものの・・・

 Uターンしてくる車を見て、慌てて山の方へ逃げ出したのである。

 しかし、何を考えたのか、ミサトは、そのまま逃げた者達を追い、車道を外れ、山を登り始めたのだ。

 『証拠隠滅よ!』と叫びつつ・・・

 無論、普通の車なら、途中で追いかけられなくなるのだが・・・

 これはもしもの事を考えて(某方々に)チューンされた車であったのが悪かった。

 更に言うなら、車高も高いタイプの車だった。

 その為、山道と言う悪路で、人を追いかけることが出来たのである。

「ひ〜ひょひょひょ!!
 邪魔よ!
 死ぬのよ!」


 完全に逝っているミサトはそう叫びつつ、まだ弾いていない者達を追い掛け回していた。

『ふぅ・・・・・・・
(ストレスによる劣化と強化・・・
 抑えても、ココまで非常識になるなんて・・・
 消失も混じっているわね・・・
 元々、素養があったとは言え・・・
 さすが『最悪の予想の斜め上をスピンアウトしながら二次曲線状に明後日方向に駆け上がる存在』よね・・・
 でも、これ以上は、あの方々の計画が潰れる事になるわね)
 ピシ!』

 シエルは呆れたようにため息を吐くと、鞭の音を鳴らした。 

「ひ、ひぃ!
 な、何、何よ!」


 条件反射なのか、我を取り戻した?ミサトがそう怒鳴った。

『あなたね・・・
 そんな連中の相手をしているよりも、やることがあるでしょ?』

「へ?・・・」

 シエルの言葉に、ミサトは疑問符をつけた。

『また忘れたわね?
(ゼーレが無理やり定着させた劣化使徒細胞の所為じゃなく・・・
 元々、そういう存在だったんじゃないの?)』

「い、いやぁ〜そ、そんな事は・・・」

 あわてて言い訳をしようとするミサトだが・・・

 まぁ、色々と某進化?というか、強化?の影響で、記憶回路の一部が劣化し、自分の欲求以外の都合の悪い事は、鳥頭以下、速攻で忘れるところを見せ続けていたし・・・

 何でも『仕方がない』、『機密よ』で済ませてきて、そう言う事を考える能力もどんどん劣化している為、ろくに言葉を続けられないでいた。
(一応、少しは考えようとするので、消失ではない・・・と思う)

『良いのかしら?
 既に数名、乗り込んでいったようだけど?』

「へ?!」

 シエルの言葉を聞き、車を反転させて建物の入り口に車を向ける。

 逃げ続けていた連中は、ミサトが追いかけるのを止めたのには気付かず、そのまま森の奥に逃げていった。

『先に奪われるんじゃない?
 あなたの切り札・・・』

 シエルはそう言った。

 まぁ、ミサトに追いかけられて、逃げた者の中には、あわてて建物の中に逃げた者も居るので、入り口付近には足跡がある。

 幾らライトで照らされていても、その距離からは、普通、見えないのだろうが、そこはそれ、ミサトである。

 某影響による某肉体的強化により、無駄に見えたのである。

「ふ、ふざけんじゃないわよ!
 秘密兵器は私のものなのよ!」


『ば、馬鹿!』

 無論、某強化の副作用による某劣化の影響なのか、都合の良い?ように曲解?し、暴走を始め・・・

 物凄い勢いをつけた車毎、狭い入り口に飛び込んでいった。

 だが、狭い入り口は、当然のミサトの乗る車の車幅よりも、遥かに狭かった。

 当然、車が無事入れるわけも無く・・・

    どがぁ〜ん!!

 入り口と共に車は大破してしまった。







 少し離れた上空のヘリの中

「と、時田社長!
 あれ!」

 遠くに離れていく職場を双眼鏡で見ていた所員の1人が、いきなり明るくなった職場の入り口付近を見て驚く。

 そこには車で突っ込んだ跡が見えた。

 時田は双眼鏡を取り出し、入り口付近を見て、口元が引きつった。

「おや、まぁ・・・
(こっそり進入する予定でこれほどとは・・・
 流石に予測の斜め上を〜ですね)
 機材を廃棄してでも逃げてよかったと思いませんか?
 アレに巻き込まれるくらいなら・・・」

 そして、冷や汗をかきつつも、落ち着いた?声で時田がそういうと、一緒に乗っていた部下達はいっせいに頷いた。








 少し離れた丘

「・・・あれ?(汗)
 もしかして、任務失敗?
 そんな・・・
 生体反応は・・・・」

 ミサトを見ていたシエルは、壊れた車を見て、一瞬呆然とした後、あわてて、何かの装置をいじり始めた。

「よ、良かった!
 あるわ!
 連絡、連絡!」

 シエルは、バイクに積んでいた機械の反応を見て、ほっとした顔をし、とある所に連絡を入れ始めた。






 その頃ミサトは・・・

「ち、狭い入り口にやわな車ね!」

 壊れた車で埋まった入り口に悪態をつけていた。

 とはいえ、車幅よりも狭い人用で裏側にある入り口で、更に同じくらい狭い廊下が続いている所に猛スピードで突入すれば、壊れるのは当たり前と思うが・・・

 それはともかく、壊れたのが、電気自動車だった為、最初の爆発?というか閃光以外の、燃料タンクのガソリンに炎が燃え上がるなどという普通のガソリン車にある二次災害的なモノが無かった。

 そのお陰で、ミサトは無事に助かったのである。

 無論、ドアは車が通路に挟まって開かない為、フロントガラスを割って外に出なければならなかったが・・・

「ともかく、この中にあるのね!」

 ミサトはそういいつつ、建物の奥の方へと足を進めていった。

 そして、少ししてから、別な場所からサイレンと銃撃戦の音が鳴響いた。

 無論、時田達の置き土産と、逃げ込んだネルフ特殊監査諜報部達の争いが始まった音である。






 その後、ミサトはシエルの導きにより、何とか安全な道を通ってとある部屋に入り込んだ。

「ココは?」

『秘密兵器のキーのある場所よ』

 壁側に棚があり、真ん中に少し大きな台とその上に腕時計のようなモノを飾ってある透明なケースがあった。

「キーって何処にあるのよ?」

『確か、その部屋の中にケースのようなものがあって・・・』

「・・・真ん中に仰々しいのがあるわよ」

『どんなの?』

「透明なケースに腕時計のようなモノが入っているわね。
 説明文に“ひみつへいき・そうじゅうよう・おんせにゅうりょくまいくつき・うでどけい”って、ひらがなで書いてあるわ」

 呆れたような声でミサトが答えるが、アッチ(時田?)が想像したミサトのお頭の程度はこの程度なのだろう。

『・・・たぶん、それよ(汗)』

 シエルが言い辛そうにそう呟くと・・・

 ガン!

 いきなり、ミサトがケースを殴った。

「いたたた・・・
 硬くて開かないわよ!」

 保護ケースが壊れず、ミサトが怒鳴った。

『開き戸とか穴とかが無い?
 たとえば、上とか横とか・・・』

 シエルがロクに調べもせず、条件反射のように行動したミサトに呆れてそう聞いた。

「あ・・・
 あはは、開いたわ」

 ミサトが箱を触ると、確かに横から手を入れられ、触れる事が出来た。

 前の部分に強化プラスチックが立ててあるだけで、上も後ろも横もなかったのだ。

 と言うか、元々、箱じゃなかったのだ。

 ちなみに、開いたと言ったのは、それに気付かなかったのを誤魔化す為だろう。

『あなたねぇ〜(汗)』

「で、これをどうするの?」

 呆れたようなシエルを誤魔化すようにミサトは話題を変えた。

『・・・そのまま腕につけるのよ』

「それで?」

 シエルに言われたとおり、腕に巻くミサト。

『その近くに別の入り口が無い?』

「シューター見たいのがあるわね(汗)」

 入り口とは別のところに穴があった。

『・・・それに飛び込んで』

「はぁ?」

 シエルの言葉にまた疑問を投げかけるようにミサトはそう言った。

『だから、たぶん、それが秘密兵器の隠し場所よ』

「だ、だって、堂々と上に“うるとらひみつへいきとうじょういりぐち”って、ひらがなで・・・」

 穴の上に書いてあるひらがなを読みつつ、ミサトは焦ったようにそう言った。

『たぶん、親せ・・・もとい、そんなのを書いてあったら、普通、間違いだと思って入らないでしょ?
 ミスリードさせる為のブラフよ、ブラフ』

「ミスリードってナニ?」

 ミサトはシエルにそう言った。

 ミスリードも知らないらしい。

『・・・心理的な罠、トラップの一種よ。
 正しい答えを間違っているように思わせたり、間違った答えを正しいように思わせたりする』

「おぉ! そうだと思った!
 このミサト様を謀ろうとは無駄なことを!
 すぐ分かったわよ!」

 簡単な説明を聞き、最初から知っていたようにミサトはそう叫んだ。

『(嘘おっしゃい・・・)
 とりあえず、急がないと、別ルートで、あいつらがさ・・・』

「とう!」

 怒鳴るのを何とか抑えたシエルのセリフが終わる前に、ミサトはその穴に飛び込んでいった。







 たどり着いた部屋で、ミサトはきょろきょろとしていた。

「こ、ココは?」

『秘密兵器はないの?』

「入り口のような扉があるだけね」

『入ってみたら?』

「なにこれ・・・ロボットの上半身に下が戦車?」

『たぶん、その砲台が最凶の武器ね(後で後悔するような)・・・
 乗り口は?
 資料では頭の付近ってあるけど・・・』

「肩の上にハッチがあるわ」

『じゃぁ、早く入りなさい』








 秘密兵器?コックピット?内

「取っ手と足を引っ掛けるようなモノがあるわ。
 それに、取っ手の傍にはモニターも・・・
 椅子は・・・自転車のサドルみたいのしかないわよ」

『それはプロトタイプ、いわゆる試作機だったらしいわ。
 つまり、そんな良いものはついていないんじゃないの?』

「えぇ〜?
 試作機ぃ〜」

『普通は試作機の方が量産機よりも強いのよ。
 有名どころでは、ガン○ムとジ○の関係ね。
 元々、量産機は量産する為に色々手を抜いているから・・・』

「つまり、試作機は最強って訳ね♪」

『まぁ、そういうことね。
 じゃぁ、取っ手に掴まって、サドルにまたがり、モニターを見ながら、腕時計に向かって、起動と言ってみて』

「はぁ?」

『動かさないと、奪われるわよ』

「おぉ! そうよね!
 起動!」

 ミサトがそう叫んだ途端、モニターに電源が入った。

 愉快?な音楽と共に・・・








 次の日の某海岸線

「ふふふ・・・あの更迭されたグラサン髭モグラも、これでおわりだ」

 そこには、9機の量産型ガンガルと海岸線を睨む偉そうな軍人が居た。

 制服から、戦自の武官であることがわかる。

「しかし、良かったのですか?
 つくば研の部隊に納入されるはずだったファーストロットの内、3小隊分も・・・」

 偉そうな軍人、おそらく、この中隊の隊長の後ろに控えていた副官らしき男が、呆れたようにそう呟いた。

「ふ、こちらも同じ戦自だ。
 譲ってもらって何が悪い」

 しかし、その軍人、中隊長はそう言い切った。

「譲ってって・・・(汗)
 アレは書類も命令も何も無い状態で、中佐が無理やり輸送中の軍曹に階級差による強権で・・・」

 副官が組織内の手続きとか派閥とかの問題を考え、呆れたようにそう言った。

 同じ組織にいても、それ相応の手続きが必要なのに、どうやら、この中隊長は、どこぞの髭と同じように、そういうのをすっ飛ばしたらしい。

 それでも中佐と言う事は、何か裏があるのだろう。

「書類は送っただろう。
 それに使徒殲滅為には、仕方あるまい。
 大丈夫だ。
 ココで手柄を上げれば、更迭中のグラサン髭モグラに代わり、俺があの組織の長となるのだ。
 そうすれば、お前らも昇進して栄転だぞ」

 鼻息荒く、その中隊長はそう言い返した。

「(書類を送ったっていっても・・・
 私が何も送っていない事を知って、あわててメール作成して昨夜送ったんだし・・・
 正式な譲渡申請書類も、さっき私が本部に送ったんじゃないか・・・
 しかも、奪ったのは使徒発見する三日も前の事だし・・・
 はぁ〜いくら委員会と繋がりが有るとは言え、ココまで傍若無人なことをして大丈夫なのか?
 一昔前のネルフじゃあるまいし・・・)」

 副官は、中隊長の様子に、呆れてダメ息を吐くばかりだった。

 もうお判りだろうが、ここにいる戦自の部隊は、ゼーレ派の者達である。

 そして、中隊長と副官にいたっては、委員会、つまりは、ゼーレ最高評議会の老人とつながりがあると言うか、戦自内部に潜っている草なのである。

 しかも、中隊長は、ある意味、ゲンドウのような性格であり、補佐である副官は冬月のような役割であるようだ。

 しかし・・・この世界の副官は苦労する運命にあるのだろうか?

「で、準備は?」

 副官の呆れた様子に気付いていないのか、何処と無く、ワクワクしながら部隊長はそう尋ねた。

「はい、全員、某所(敵対派閥の訓練所)から・・・
 中佐が(こっちが上位階級であることを縦にして強引に)譲っていただいた(というより、強奪してきた)モールで・・・
 超短縮で(通常、基本のみで100時間以上かかるのに)50時間の即席訓練を終え・・・
 3時間休憩後、現在は中佐の命令通り、実機で(追い込み)訓練をしながら、準備をしていますが・・・」

 疲れているのか、何処となく投げやりな口調で副官が答えた。

「よし!」

 中隊長は意気揚々とそう言った。

 しかし、本当に役に立つのだろうか?

 不慣れな機体、疲労、過労、睡眠不足という悪条件の中では、本来の実力の5%も出せれば良い方なんじゃないだろうか?

 しかし、中隊長にとっては、そんなことは関係ないようで、彼はワクワクしながら海の方を双眼鏡で覗いていた。


そして、正史にない戦いが始まる?










To be continued...


(久々のたわごと♪)

え〜鬼のごとく久々です。

最近忙しく、書くのとかが出来なかったとりもちです。

先日、久々に知り合いに会った時、

「ストックはあるけど、Html化をしている暇がない」

と言ったら・・・

「そのままメールで出して、先方に任せろよ」

と言われました。

という訳で、今回、ながちゃんさんにHtml化は任せました。

出来うる限り、メールの返事は返しておりますが、遅れる事が多々あると思いますので、ご了承ください。

ただし、無責任なイタイ系のメールは無視させていただきます。

久々にメールを開けたら、たまったメール(殆どイタイ系・・・未だ居るのね)が鬼のように・・・

それでは、よろしくお願いします

作者(とりもち様)へのご意見、ご感想は、メール または 感想掲示板 まで