「ど、どう言うことだ!」

 通信相手であるアメリカ第二支部長に向かって、冬月は焦ったようにそう怒鳴った。

『ど、どう言う事もなにも・・・
 フィフスチルドレンの父親であるラッシュ=スパーダは、そちらに向けてフィフスチルドレンを出荷して一週間ぐらいした時、地下の監禁所から、忽然と消えていたらしいのだ。
 今の我らの立場を考えると、表立って、ラッシュを強引に・・・
 それこそ、指名手配してでも、強引に探し出す・・・と言うわけにもいかん。

 こちらアメリカは、数年前からアッチ財団連の勢力がつよいからな・・・
 それに、ただでさえ、彼女の母親に関しての捜査の目がこちらに向きかけているのだ。
 現在、常に警戒されているから、下手なことは出来ん。
 だからこそ、今回のような秘匿回線を使わん限り、こういった報告もロクにできなかったのだ』

 本当にすまなさそうに、支部長が現状を話した。

 しかし、出荷とは・・・やはり、ネルフ支部の上層部には、外道が多いようだ。

 ちなみに、現在、ネルフとまったく関係ない一般市民であったラミを特務権限を使って、強引に徴兵していた為・・・

 地元警察はもとより、新生FBIや新生CIAな等の政府機関にも、アメリカの二つの支部は、かなり睨まれる事となっているのである。

 しかも、
彼女ラミの母親を攫ったのはネルフ・アメリカ第二支部の者ではないのか』
等という確信めいた噂事実が流れており・・・

 特に地元警察からは、一般所員にいたるまで、睨まれ、家族毎、半分監視されている状態だ。

 それに耐え切れなくなったゼーレ&ネルフの隠された事実、真の目的を知らない一般下級所員達が・・・

自分達のところ以外でも使徒が倒せる事実を知り、余計な世界を守れる職場はココだけだと言うしがらみがなくなり・・・

『こんな所に居られるか!』
と、叫んだり考えたりして、どんどん辞めていっているらしい。

 因みに、地元の警察どころか、現アメリカ政府の各機関からも、色々と疑われている為・・・

 肆号機記述通り自爆させる機体の代わりとなるエヴァ素体の搬入が半ば不可能に近い状況になるのだが・・・

「何故、今まで・・・」

『何度も司令執務室の秘匿回線を求めたに決まっているだろう!
 そのたびに、司令は忙しく、しばらくできないと返してくる!
 返事は来なかったが、司令への直訴書類とかも何度も出したぞ!
 “チルドレン関係に付き、急務、
 総司令専用秘匿回線の通信求む”
とな!』


 今まで報告をする為の努力をしなかった事を責め様と冬月が口を開こうとすると、
アメリカ第二支部支部長もそれを封じるがごとく、自分達が行ってきた事を怒鳴った。

 ちなみに、普通?の秘匿回線では、いくつかラインがある為、若干、外部に漏れる可能性があるが・・・
(可能性どころか、某所関係にはだだ洩れである)

 しかし、総司令専用の秘匿回線では、ほぼ1対1の支部本部間専用特殊秘匿回線しかないので、かなり安全らしい。
(無論、これも普通のよりは規模が少ないとは言え、洩れていたりする)

 ただし、その使用にいたっては、上位者である総司令たるゲンドウ側からしか、連絡を入れられないが・・・

 無論、ゲンドウは入院したり、面倒臭がって、無視したりして、
ロクに相手をできなかったか、しなかったからである。

 書類の方は、その影にペンギンに似た影のお陰で、某女性の入れなくなった彼女専用の執務室の山脈の中か、
既にセカンドハウスと化した部屋の山脈内の苦情書類の中に紛れている。

 ちなみに、苦情書類が連続して続くと、某女性はその量を減らすため、読まずにそのまま纏めて処分してしまう。

 纏めて処理?する為、重要書類毎、紛失することが多々あったり、拙いモノに認印をしてしまう事となる。

 無論、始末書や訂正依頼書を書かせた後は、しっかり、お仕置きである再生&追加書類等を更に喰らうが・・・

 そんな訳で、証拠が残っている可能性があるのは、
殆ど、その某女性が使えなくなった彼女の執務室に逝った書類で、
比較的新しい・・・書類の山頂辺りにあるモノくらいだろうが・・・

「し、しかし、現状では、どうするのだ?!」

 様々な問題を抱えつつ、冬月は焦ったように怒鳴る。

『だ、だから、現在、せめて、チルドレンの方の対策に、
 ラッシュの声とかをこちらのマギ・コピー内にあるデータから複製して、
 何とかマギ・コピーで受け答えが出来るように調整はしているのだが・・・』

 支部長が説明を始めると・・・

「会話をさせれば、本人じゃないとバレる可能性がある・・・と?」

 何が言いたいのか判った冬月は、難しい顔をしつつ、そう言った。

『あぁ・・・
 まだ、タイムラグも大きいし、映像もな・・・
 こっちのマギ・コピーは、本部のマギ・オリジナルに比べれば、その性能は落ちるんだ。
 それに、携わっている技術者も、本部の技術者に比べ、レベルがな・・・
 だからと言って、直属の部下に受け答えを任せるにも・・・
 映像をかぶせ、ただ声質とかを変えるだけだから・・・
 少しの事、しぐさとかで、話している相手が父親でない事に気付かれる可能性が高いのだ』

 ちなみに、某財団連が優秀な科学者・技術者を殆ど囲っている為、
ネルフ(&ゼーレ)全体の優秀な技術者は、本部の赤木博士関係(リツコやマヤ)や、
最初からゼーレ中枢に関りのある者等、本当に数えるほどしかいなかったりする。

「・・・ふむ・・・
(だからと言って、こちらのマギを使わせるわけにはいかんし・・・
 赤木君に助言を求め、負担をかけるわけにも・・・・
 伊吹君は・・・いかんな、相談するだろうから、確実に赤木君の負担になる・・・)」

 冬月は眉をひそめつつ、考え始めた。

 かなりの長考になるが、答えは出なかったので、
冬月は一旦、通信を切り、時間を確認すると、入院?中のゲンドウに相談に行くのであった。










新起動世紀ヱヴァンガル改

第二十六話 火事熾りて、混乱脱走おきる

presented by とりもち様











 ラミがネルフ本部に着任した日から、日付が変わったばかりの深夜

 第三新東京市・ジオフロント

 ウ〜ウ〜

 サイレンが鳴っていた。

 これは使徒の襲来の合図ではない。

 内部で、非常事態、つまり、何かの事故が起ったと言う合図である。

 ちなみに何が起こったかというと、火事である。

 ジオフロント内のネルフ本部施設内で、本来、起こりえないハズの火事が起こっていた。

 しかも、大規模になっている。

 多くの所員たちが消火ホース、消火器、バケツリレーをしながら、必死に火を消そうとしていた。

 ちなみに、殆どの消火ホースや消火器には使えない物が多いようで、消火活動のメインはバケツリレーになっているが・・・

 そうなっているにもかかわらず、ネルフは消防局に消火を依頼しない。

 いや、今、現在、あちらこちらのネルフの入り口から出てきている煙について、付近の消防局から、問いただしがあっているが、変な言い訳をしつつ、消防車両が入ってくるのを拒否しているのが現状である。

 なぜそんな非常識なことをするのであろうか・・・

 それは、一般の消防署員をジオフロントに入れるわけにはいかないからである。

 だいたい、いろんな意味で拙いモノがあるし、一緒にスパイとかが入ってきたり、覆面監査官が紛れ込んだりしていたら、大変だからだ。
(すでに拙いことになっているが・・・)

 その為、宿直だけでなく、他の地上に帰っている一般所員まで呼び出して、ネルフ本部所員のみの手作業で消火に当たっているのである。

 しかし、ネルフ本部は曲がりなりにも、数年前、ゼーレとゲヒルン研究所の最新?技術を使って作られた科学の地下施設である。

 そうでなくとも、地下ならば、スプリンクラーといった自動防火装置位あるハズである。

 いや、このネルフ本部には、それどころか、書類上、火事が大きくなる前どころか、規定以上の火、つまり、火事になる可能性が高い火に、即座に反応する探知機や最新式の消化装置があるはずである。

 無論、消火装置はあるにはあり、また、少しは働いてはいるのだが・・・
(圧倒的に動いてないものが多いが・・・)

 火の勢いが強すぎて、意味がない状態なのである。

 また、探知機は、最初のボヤの時は反応せず、もう手遅れに近い状態になってから、いきなり、動き出したが・・・

 なぜ、こんな事態になったのであろうか?

 まぁ、某司令(当時所長)が、多額の工事費を着服した為、かなりの手抜き工事が最初からあった所為でもある。

 それに加えて、使徒戦が始まる少し前には、まったく仕事がなかった某作戦(妨害)部長が、陰口で、給料泥棒と呼ばれているのを知り・・・

 それは、仕事がないからだと、考え・・・
(真相は、作戦部に仕事がないのではなく、部長だけが、仕事をせずに某部下に押し付けて、サボっており、他の部署の妨害をアルコールの臭いと共にしていたためである)

 シェルターの管理共々、無理やり使徒戦時の指揮系統等を理由に、仕事と“予算”を某部等から盗った所為とか・・・(誤字に非ず)

 そして、某ヒゲの所業で、只でさえ、少なくなっていた本物の探知機の点検の為の予算を、何で、追加予算が作戦部に出たのか、その時には、すっかり忘れていた某作戦(妨害)部長が、出た金額を某部下に聞いた後、こっそりと、その追加予算の殆どを研修・研究・外部会議費等の名目で、(殆ど某部長の)酒代に替えてしまった事実もある。

 無論、言い方を替えただけの着服である。

 尤も、防火責任等の資格を持つ某作戦(妨害)部長の某部下以外の所員達が、無理やり、その地区の責任者にされた為・・・

 もしもの事を・・・何かあったら、自分達の責任にされるのなら、せめて『自分達で点検させてほしい』という上申書をだしたのだが・・・

 トップである某作戦(妨害)部長が、そのまま、見ずに机の山脈の堆肥にしてしまったとか・・・

 上申書を持ってきた今は亡き?某部下に言われてから、なんで知らない予算が出たか思い出し、修理補修などがあるとその予算が必要となって、結果的に使い込みがバレると思い、隠そうとして、誤魔化し続けていたとか・・・

 また、隠れてチェック及び補修を自腹&自分の手でしていたマトモな所員達が、ある事件の後、ネルフから、全員、逃げ出し、居なくなった為、ロクに点検も整備もできなかったとか・・・
(そのお陰で、多少、動いているのがある)

 某作戦(妨害)部長が、酔った弾みや、イラついた八つ当たりで、消火装置やその配線等を壁ごと破壊しまくっていた等と言う根も葉も“ある理由は、 一切合切“あるのだ・・・(爆)

 それに加え、今回は止めとばかりな事実だが・・・

 実はこの火事の発生には、案の定というか、ミサトが直接かかわっていたりする。

 時間を少し戻そう。






 ミサトは日本に戻ってくるや否や、一緒に司令執務室へ着任報告に行くハズだったフィフスチルドレンにも、会わせてもらえず・・・

 案の定、セカンドハウスというか、メインハウス(住処?、定位置?)となっている独房に連れ戻された。
 だが、本来なら、ミサトはわかっていても(理解しようとしない為)暴れるのだが・・・

 今回はなんと、おとなしく従ったのである。

 問題を起こしたため、リツコの差し入れ、【えびちゅ】もないのに・・・

 それなのに何故か・・・

 実は、帰ってくる前に言われた言葉があったのだ。

『そう言えば、それに関する計画書とかが、まぎれていなかったかしら?
 アンタのお部屋(独房)にさ』

 その言葉が残っていた為、ミサトは、独房に大人しく戻り、
散乱している書類を貪る様に読み始めたのだ。
(それらしいのを見付ける為、軽く読んでいるだけだが・・・)

 当然、見張りの者達は、天変地異の前触れかと、焦りまくり、司令部に上申したのだが・・・

 そこで受け取ったのが、偶々、遊んでいる権力を使って無理やり看護師にパワハラをしている所を、相談に来た冬月に見られ・・・

 その結果、激怒した冬月によって、病院から強制的に退院させられ、不貞腐れていたゲンドウだった為・・・

 報告などをすべて・・・

『問題ない』

 の一言で終わらせたのであった。

 その後、ミサトは寝食を忘れて、必死に探したお陰で、目的の書類を何とか、目的の書類を見付ける事ができた。
(この時点でかなり時間が経っており、深夜に近い)

 そして、見付けた書類を大事そうに懐にしまうと、ミサトはありとあらゆる手を使って、独房から出ようと試みたのであった。

 仮病で監視員を呼ぼうとして・・・

 在りもしない賄賂で取り込もうとしたり、色気を使おうとしたり、脱いだり、独りでオ○○ーショーの真似事(途中で本気バージョン?)をしたりした。

 当たり前だが、全て失敗した。

 だいたい、元々、ミサトには、信用も信頼も無いが・・・

 何も反応が無いのは、いつも、上で見張っているはずの監視員(ゴム砲でミサトが暴れたら撃つ為にいる)や、通路の先で見張っている者も、

天変地異の前触れのような怖いものミサトが働いている姿なぞ見たくないと、早引けして、誰も居なかったからだったりする。
(許可を駄目元で求めた時、ゲンドウが『問題ない』と言ったので、全員に許可が出た・・・事になっている)

 それで良いのかと思うかもしれないが、この人払い的な人事は、某お方々の暗躍もあったりする。

 その後、しばらく、四苦八苦していた最後にミサトが使った手が、火を熾すことであった。

 火事のような事態になれば、いくらなんでも無視できないだろうと言う事で・・・

 まず、床に散らかっている書類をよけて、石の床が見える状態にし・・・

 そこで、筆記用にあったシャーペンと他の書類を使い、摩擦を使った原始的?な方法等で、必死に火を熾そうとし・・・
(その中には、来ない監視員にライターを求めるというモノもあった)

 それに失敗した(成果が上がらず飽きた?)後、八つ当たりで壊した電気スタンド(夜中でも書類整理をさせる為に机にあった)の電源部分が火花を散らしたのを、偶々、見たので、それを利用することにした。
(当然、少し感電した)

 そして、何とか、(偶然に)火がつき、それを元に大きくし、ある程、度煙も出てきたところで、ミサトはニヤリとすると、ドアの窓の格子を掴みつつ、叫んだ。

「火事よぉ〜♪」

 と・・・それはもう嬉しそうに・・・・・・(オヒ・・・)

 最初は、軽い気持ちで叫んでいたが、当然、誰も反応しない。

 まぁ、元々、近くには誰もいないし、ミサトの居るセカンドハウスは、元々、(ミサトから)精神汚染を受けないためにも、隔離された場所に配置されている。

 つまり、奥にある独房中でもかなり奥まった場所にあるのだ。

 しかも、現在、よほどの趣味人以外、仕事でない限り、誰も好き好んで近付こうとはしない場所(普段は、ミサトが騒いでいるし・・・)であった為、夜勤でいる者の所にも声は届かない。

 まぁ、届いても、ミサトだから、無視する可能性が大きいが・・・
(その声も、嬉しそうだし・・・)

 ちなみに、監視カメラは、今まで、上に見張りの部隊がいた為、殆ど飾りであるダミーしかついていないし、一個だけ本物があるが、本来、監視する人は誰も見ていなかった。

 因みに、この部屋、お仕置きの為に、上には別室を作ってある為、天井には消火装置等と言うものはついていなかった。
(まぁ、手洗い等、水の使える流し台とかはあるが・・・)

 そして、段々と火の勢いが強くなっていき・・・
(床にこぼれている書類にも火がつき始めた)

 ミサトの服どころか、最近、やっと生えて、伸びてきた髪の毛や皮膚までも、軽く炙り始めた。

 ここにきて、やっと、自分の状態、命が、非常にやばくなってきた事に気がついたミサトは、振り返って、必死に火を消そうとした。

 最初は、手や足で叩くが、当たり前に熱かったので、書類の束を掴んで叩いて消そうとするも・・・

 逆に束の間から少しずつ書類が抜けて、火に紙くべる結果になり・・・

 火の勢いが逆に強くなっていく。

 その後、部屋の端に何故かあった消火器を見つけ、これは良いと、本体を振り回して・・・・・、火を消そうと、暴れたのだが・・・
(中身は入っているが、コックを開けずに、本当に消火器本体を振り回すだけ・・・
 消火器の使い方説明書は近くに大きく絵で描いて、貼ってあったが見ていない)

 今度は、溜まり過ぎていた書類が仇となり、振り回すたびに、その影響で壁の傍に積んであった書類の山が崩れ・・・

 更に、火に紙と酸素がイイ具合にくべられて行く事となり・・・

 その火力が、マジで洒落にならないくらいになってきた。
(ちなみに、部屋に備え付けの手洗いの水道を開いて、水を出して消そうと努力するようなマトモな事をミサトは一切していません)

 さすが、作戦妨害部長、敵(火)の手助けになる事を自然にする。

 そして、かなり、火の勢いが凶悪になり、もうダメな事にやっと気がついたミサトは慌てて消火器を捨て、脱出しようと、ドアにタックルをすると・・・

 拍子抜けするくらいに簡単にドアが開き・・・

 ミサトは、そのままタックルの勢いで、長い通路を突っ切り、反対側の壁にぶつかった。

「あだだだ・・・

 何よ、鍵がかかってないじゃない!
 サボリね!
 減棒ものよ!」


 自分の立場を理解していないというか、忘れているミサトはそう言って、自分が出てきた方を見ると・・・

 ごおぉぉぉぉぉ

「・・・・・・・(汗)」

 ドアが開いたおかげで、更に新鮮な酸素が大量に流れ込んだのか・・・

 それとも、ドアの開いた影響で更に書類の山脈がイイ具合に、くべられた為か・・・

 あるいはその両方か・・・

 火というより、既に大火炎となっている炎が勢い良く、まるで火炎放射のように、ドアから噴出し始めた。

 その熱気が、ミサトの顔を軽く炙るくらい・・・

「あちちちち・・・
 えっと・・・
 わ、私の所為じゃないわよ・・・ね? ね?」

 熱かった為、後へ仰向けにひっくり返った事の元凶たるミサトが、何を考えているのか、誰に言っているのか、そんな事を呟きながら、立ち上がる。

 そして、完全に洒落にならなくなった状態を背にし、その場をダッシュで逃げ出したのであった。





 そして、セカンドハウス独房から、外に出る通路の途中の分岐路で・・・

 ガンガンガン!

「何よ!
 やばいのよ!
 何でシャッターが降りていんのよ!
 開いてないのよ!
 ちぃ! こっちに行くしかないの?!」


 何故か、防災?シャッターが片方に降りていた為、ミサトは、その場で足を止め、一旦、騒ぐものの・・・

 数秒後に、ココで見付かったらヤバイと思い出して、開いている方の道に飛び込んで走っていくのであった。

 しかも、分岐路の度にミサトは防火シャッターが閉じている方の通路に飛び込もうとして、防火シャッターにぶつかり、同じ事を繰り返して、無駄な時間を作っていった。

 だが、シャッターが閉まっていたお陰で、ミサトはネルフ本部第八駐車場に、迷う?事無く、ストレート?で逃げ出してくる事ができたのであった。

 ちなみに降りていた方は、出口とは逆方向で、ただループする道であったり、回り道だったり、あわてた保安部員が向かってくる道で・・・

 しかも、ミサトが居なくなってから少しして、なぜか、上がっていったという話もあるが・・・

「これも日頃の行いのおかげね♪」

 何を持って、そう言うのか、ミサトはそう言いながら、良さげな、自分好みの車を無理やりあけようとして、防犯ベルを鳴らしてしまった。

 その音に驚き、慌てて隠れると・・・
(手慣れている?)

 当然のごとく、駐車場の警備員達がやってきて、付近を見渡す。

 警備員達のライトが近付き、ミサトがヤバイと拳を固めつつ、身を縮めると・・・
(何をする気だ?)

 突然、警備員達のトランシーバーが鳴った。

 警備員の1人が慌ててトランシーバーを取り、一言二言話して、顔を蒼くして、仲間に何事かを話すと、全員、慌ててどこかに走り去っていった。

 実は本部内で大火災が発生しているので、消火の人員に、呼び出されたのである。

「ふ〜これも、日頃の行いのおかげね♪」

 やはり、何を持ってのたまっているんだと言いたくなるセリフをミサトは吐いた。
(まぁ、ある意味、ミサトの行いの所為だが・・・)

 そして、ミサトは防犯ベルがついていなさそうな別の車を物色し始めると、一台だけ、しかも、キーがつけっぱなしの車があった。

「ち・・・完全電気自動車か・・・この際、贅沢は言ってられないわね・・・」

 本気で何を考えているのか、問いただしたくなるような事を呟きつつ、ミサトは、段々、消火の騒ぎの声が近付いてきたので、その車に乗り、エンジンをかけた。
(火の勢いが、近付いてきたようだ・・・)

 ガソリンとのハイブリットでは無く、完全電気自動車の為、エンジンではなく、モーターが静かに回転し始める。

 大きな音がしないので、こっそり逃げ出すには丁度良い車なのだが・・・

「・・・やっぱガソリン車と違って、電気自動車じゃ、いい音は鳴らないのよね。
 こう、ぐぉんとか、ぎゅうんとかのイイ音がさぁ〜」

 やはり、自分の立場をすっかり忘れているらしい(理解できていない?)ミサトが、そんな贅沢すぎる事をのたまうと・・・

 ウ〜ウ〜

 本格的にサイレンが鳴り出し、人の騒ぎ声が近くまで聞えてきた。

「やばいわね・・・
 このままじゃ、あそこで起きた火事は私の所為にされてしまうじゃない」

 何を根拠にそういうのか・・・

 容疑者等という生易しい言葉ではなく、“主犯”とか、“真犯人”とか、“元凶”とか、 “原因”と言う代名詞がピッタリな気がする存在のミサトはそう呟くと、急いで車を出した。

 出口付近の踏切が上がるのも、もどかしかったのか、全て破壊して・・・

 無論、外に出てからも、暴走状態で信号は尽く無視であったりする。
(深夜でなかったら、事故が多発していただろう)





「ふ〜ココまで来れば・・・」

 ミサトが何とか郊外にまで出たところで、いきなり、車に付属されていた電話がなった。

 ミサトはあわてて、周りを見て、蛇行運転をしてしまう。

 当然、ガードレールなどにぶつかってしまうのだが・・・

「くっ!
 これも電話を鳴らすやつが悪いのよ!」


 そう叫びつつ、受話器をとった。

「誰よ!
 非常識ね!」


 ミサトはそう怒鳴った。

『・・・貴女ほどじゃないわ・・・
 で、どこに向かっているの?』

 冷ややかでどことなく呆れたような女性の声が流れてきた。

 普通だったら、(何も考えずに)怒鳴り返すミサトであったが、その声を聞いた途端、背筋に寒気を感じ、冷や汗を滝のように流し始めた。

『どうしたの?
 子猫ちゃん・・・いつから、口がきけないなら・・・
 それとも、この私を無視?
 いつから、そんなに偉くなったの?
 次はどんな悦楽(苦痛)が良いのかしら?』

 それは、外出についてきた調教役のあの女性であった。

 既にご存知だろうが、実はシンジ達が(ミサトの暴走であっさりネルフが潰れそうだったので)裏から手を回し、(まだしばらく遊ぶ為にも)ネルフを延命させる為に、派遣した使徒っ娘のシエルである。

 更に、最近、ミサトの中では、苛ついている時のリツコの人体実験?の被験者になるか、彼女の手加減抜き、バリバリ本気の調教?を受けるかという究極の二択にまでなっている存在である。

 ちなみに彼女の調教?は、何ゆえか、全然(ドーパミン等の脳内麻薬が流れない為)気持ち良くならず、非常に痛苦しい感覚が続くだけである。
(シエル本人曰く、気持ちよくする気が全く無いかららしい)

「い、いえ、な、
なんでごじゃりましょうか?!

 少し固まりかけながら、ミサトはそう言った。

『一つ聞きたいんだけど、貴女、何所に向かっているの?』

「へ?・・・・・・
 何所って・・・」

 ミサトはその質問に答えられず、しばらく時間が経った。
(無論、その間も車は動いている為、結構危ない運転をミサトはしている)

『・・・・・・(汗)
 なんの為に、あそこから出たのかしら?』

 受話器から呆れたようにシエルからの冷たい声が流れた。

「そりゃ〜火事が起こって・・・」

『起ってじゃなく、
貴女が熾したんでしょ!』


 ミサトの能天気な答えに、シエルは突っ込みの怒声を返した。

「はぁ?・・・私が?
 何の為に?
 そんな危ない事を!
(ヌレギヌをきせる気?)」

 やはり、既に忘却の彼方なのか、元凶であるミサトがそんな事をのたまった。

『・・・(か、完全に忘れているわね)』

 しばらく、イタイ沈黙が流れる・・・

『良い?・・・
 諜報部が貴女を排除する為に、某企業の対使徒用秘密兵器を奪取しようとしているから・・・
 それを防ぎ、更に使徒を貴女の手で殲滅する為にも、
それを貴女が奪取するんでしょうが!
 貴女の地位を確立させるに!
 あそこから強引に出てきたんでしょうが!』

 半ば?怒鳴りながら、シエルがそうミサトの状況を説明する。

「へ?・・・」

 しかし、マジで解らないらしく、ミサトはそんな呟きをもらした。

 そして、しばらく、またイタイ沈黙が続く・・・


『ヲヰ!』(←おい!)


「おぉう!
 そ、そうよ!
 私は汚名挽回、名誉返上で、
世界平和と私の地位を守る為に、
立ち上がったのよ!」


 シエルの(本気の)怒声により、やっと目的を思い出したのか、ミサトが意気揚々とそうのたまった。

『・・・(それを言うなら、“名誉挽回”に、“汚名返上”でしょうが・・・
 まぁ、貴女がやる事、やっている事に対してはあっているだろうけど・・・
 世界平和に為だけにはならないわよ・・・)
 わかったけど、で、貴女は何所に向かっているの?』

 シエルが呆れたようにそう訊いた。

 ちなみに、“名誉挽回”は、『一度傷ついた名誉を取り戻すこと、名誉回復』・・・

 “汚名返上”で、『着せられた悪い評判、不名誉な評判を返すこと、受け取らないこと』である。

 逆にしたら、
『ついた名誉を返す、受け取らない』
『一度ぬぐった、もしくは外した悪い評判、不名誉な評判を取り戻す(?)、または更に悪化させる』
 となり、トンでもない事になるのだが・・・(ミサトにとっては合っている様な・・・)

「へ?
 それは・・・」

 答えられないミサト・・・

 因みに、資料を持っている事は・・・やはり、忘れているようだ。
(もしくは失くしている?)

『・・・やっぱり、何も考えてなかったわね。
(脊髄反射で行動しているのかしら?)』

 更に呆れたようにシエルがため息を吐く。

「し、失礼ね!
 私が何も考えてないっているの?
 華麗にあの難攻不落?のネルフの独房から脱出してきた私が!」

 自尊心プライドだけは人の数十倍は強いミサトがそう怒鳴った。

『(あのままじゃ、脱出どころか、保安部につかまるか、黒焦げになっていたでしょうが・・・)
 じゃぁ、何所に行くの?』

 ミサトの言い様に呆れつつも、シエルはそう言った。
(ちなみに、ミサトが脱走し易いように、裏で色々と手引きしたのは彼女と某OP部隊である)

「それは・・・えっと・・・」

『なに?』

「き、機密よ!」

 やはり答えられないミサトはそう言って誤魔化そうとした。

 何せこの女、自分のわからない事で、外部に答えなければならない時は、ネルフの特務権限を利用し、そう言って誤魔化していた。
(必要最低限、知っておかなければならない事でも・・・)

 無論、内部では全く意味がないのだが・・・

 今は亡き?某オッパイ星人な某無能なる有能な部下が『機密』といって、ウインクをするだけで、彼の中だけで脳内補完をし、勝手に納得して、周りを説得したり・・・

 事情を知る彼女の某友じ・・・おっと、最近では、知り合いであった事実すら、抹消したがっている某知合いとかが呆れて、そのまま放置したりした為、ミサトは、誰にでも通ると勘違いしているのであった。

『・・・・・・
 そう、じゃぁ、諜報部員が向かった場所の情報とか、その場所の見取り図とか・・・
 潜入する為のキットとかも必要ないのね?
 因みに、すぐ謝ればナビ付きで提供してあげるわ。
 更に、10秒遅れる毎に30分のお仕置きフルコースタイム追加ね、じゃぁ・・・い』

 受話器から、シエルのミサトにとっては、無慈悲で冷たい氷の声が響いた。

「す、スミマセン、チョウシコイテイマシタ・・・
 ナニモシリマセン、オシエテクダサイマセ、オネエサマ
・・・
 (くっ・・・い、今は耐えるのよ、ミサト)」

 コンマ数秒とたたず、ミサトはそう言った。

『そうよ、チャンと素直にしてれば、協力してあげるんだからね。
 じゃぁ、先ずは・・・』

 そして、ミサトは進行方向を290度(何度かナビと逆方向等に曲がった為)変えて、しかも、何度も、何度も、道を(正確なナビ付だったのに)間違えながら、とある研究所兼工場に向かうのであった。




「あれに交通ルールを教えたと言うか、免許を持つ事を許可したボケは誰よ?」

 後に、ナビをする為に、ミサトの運転の様子を見ていたシエルはそう呟いたと言う。

 『安心しなさい、それを感じているのは、君だけではない』と言う言葉を送りたくなるような雰囲気で・・・

 まぁ、そのボケとは某老人クラブに命令された国連軍に潜んでいたエージェントなのだが・・・
(注:ちなみにココでは、ミサトは国連軍で、しかも、比較的免許の取りやすい場所で、
 他の厳しい所でやっている他人の数倍、時間をかけて取り、
 それを国際免許に強引に替えたという設定です。
 いや、ドライビングテクニックは良くても、交通ルールがね・・・
 ゆっくり走るテストコースのコーナードリフトをかましたり、信号の歩道人形を弾き壊したり・・・
 それに筆記も・・・)






 次の日の昼・・・

「・・・・・・・どういう事ですか?」

 司令執務室で、昨日の黒服と、別の黒服・・・監査員らしき女性を後ろに従えている?ラミが、冬月と珍しく(爆)居るゲンドウを白い眼で睨みながらそう言った。

 ちなみに、彼女に対する契約の詳しい内容を知った国連軍の方から、ネルフ本部内での彼女の安全を守る為と言う名目で強引に派遣された監査の人間である。

 なぜなら・・・
『ネルフは、一旦所属させてしまえば後は何をしても良いと言って、
 特務権限を使い部外秘にし、チルドレンとの契約内容を尽く破り、
 小さい子供を奴隷にする可能性が高過ぎる』
という意見が、国連軍の中から出たからである。

 しかも、それに対するマトモな反対意見は殆ど出なかった。
(出たのはあからさまに庇おうとしているのがまるわかりの苦しい言い訳だった。
 即座に突っ込まれ、冷汗を流しつつ何度もトチって却下されるような・・・)

 いかに、ゲンドウの傍若無人な噂に信頼性(爆)があるか、うかがえるというものだ。

 もしかしたら、某作戦妨害部長の方が強い理由かもしれないが・・・

 結局、今まで不透明だったというか、そこの抜けたどんぶり勘定とバレバレだった予算関係等の監査も、行なわれる事になっているので、司令執務室には(仕事をしているので)きてないが、かなりの人数と護衛がネルフ本部にきているらしい。

 当然、完全にゼーレ・ネルフ派ではない、むしろ、敵対しているといっても良い人員が派遣されるので、冬月は拒否しようとしたが・・・

 既に正式な書類が届いており・・・

 彼女達自身(当然、監査官はここにいる1人だけではありません)も、ネルフの上位組織である国連軍総本部、つまり、国連軍総司令からの辞令できているし・・・

 更には、ゲンドウも認めたと言う本人のサイン入りの書類だったので、流石に知らないと言って、追い返すわけにはいかなかったのである。
(何故ゲンドウがサインしたかは後でわかります)

「昨日の晩の火災は知っているね?」

「はい、大変だったそうですね。
 話に聞いていたネルフ本部の高性能な防火装置どころか・・・ 一般家庭クラスの検知装置がついていれば、あそこまで、悪化すること事態、ありえないとは思いますが・・・」

 冬月の言葉に、ラミはそう言った。

 嫌味を付け加えながら・・・

 因みに、チルドレンであるラミは、その保護?の目的の為、上の街にある(チルドレンの保護の為に)国連が準備した宿舎に寝泊りするので、夜には本部には居らず、被害は殆ど無かったのである。
(本部の個人ロッカーに置いていった小物が被害にあったらしいが・・・)

 必死に言い訳をしつつ、本題に入る冬月・・・

 ラミの目は非常に冷めていっているが・・・

「それで?」

 度重なる嫌味にもめげず?に言う冬月の言葉に、更に疑いの視線を強めながら、ラミはそう訊いた。

「その通信装置とかも壊れてしまっているのだよ」

「電話はどうなのですか?」

 映像がダメなら、声だけでも出来るでしょうと、ラミが訊く。

 無論、彼女は、事情を色々と知っているので、ネルフ上層部を弄る為にそんな無体な事を言っているのである。

 ちなみに、この会話は、某OP部隊N潜入隊により、天井裏や壁から録画されているらしく、某財団のお爺様達を楽しませる事になるのだが、今は関係ないだろう。

「い、一応、使えることは使えるのだが、火事の規模が大き過ぎてね。
 その影響で、ネルフ本部どころか、この第三新東京市の通信関係もおかしくてね。
 多少、音声の乱れとか、タイムラグとかが出そうなのだよ。
 それでよければ・・・」

 無論、偽の父の対応を誤魔化す為のブラフであるが・・・

「この時代に・・・ですか?」

 そのブラフを聞き、呆れたようにラミがそう言った。

「すまないね。
 何せ、こんな事が起こるとは想定してなかったからね」

ネルフ本部はかなりの予算をかけて世界中の一般人から血税を搾り取れるだけ搾り取って 建造された完璧な要塞と・・・
 そちらから提出された資料にはありましたが?」

 更に嫌味っぽく、ラミの後ろに控えていた黒服の女性(つぎから女性監査官と書きます)がそう尋ねた。

 確かに、ゲヒルン時代から、そういう名目で予算を、あちらこちらの国々から、国連の権力を使いたい放題にして、もぎ盗ってきているのである。
(誤字に非ず)

 もし、財団連の援助がなかったら、弱小国どころか、中堅どころの国もことごとく・・・

 下手すれば、セカンドインパクト前の経済大国クラスでさえ、1つ2つ滅ぶくらいに・・・
(しかも、その殆どは、ゲンドウやゼーレトップの隠し財産になったらしい・・・
 ゲンドウのモノになったのは利子付きで取り返したが・・・)

 つまり、ネルフはかなり怨まれているのである。

「いや、何事も、予測外の事態が起こると言う事で・・・
(彼女の声はどこかで・・・はて?)」

 女性監査官の声に、何か引っかかるモノを感じつつも、冬月は何とか言い訳をする。

「大規模とは言え・・・火事程度が、ですか?」

 だが、その言い訳に、女性監察官があきれて、そう言い返した。

 その目は明らかに、電話配線と火事とはあまり関係ないだろうといっている。

 まぁ、確かに、第三新東京市の外はネルフの管轄外だし、幾ら、市内の電話線の一部が悪くとも、外につながるのであれば、あまり関係ない。

「う、うむ」

 冬月は冷や汗を流しながらそういった。

 ちなみに、ゲンドウは何も援護をせずに、いつものポーズで、ラミを・・・ではなく、その後ろに居る女性監察官を見ている。

「普通、こうなる前に探知機とか、防火装置が働くのではないのですか?」

 女性監察官が訝しげにそう訊いた。

 何せ、その名目でも予算を普通の軍事基地と比べて、数百倍以上(爆)の予算を毟りとっていたのだから、当然である。

「て、テロ組織の妨害があったようで・・・
(六分儀ぃ〜貴様の所為だろう)」

 実はゲンドウの着服を確り知っている冬月は心の中で、手助けどころか、何も言わず、いつものポーズをとっているゲンドウに文句を言った。

「テロですか?
 人類の未来を護る為に設立されたハズ組織に・・・
 しかも、侵入されでもしたのですか?」

「何事にも、恨み事というのはね・・・
 理由なき攻撃というのはあるものだし・・・
 そういうのにかぎって・・・」

 ラミの言葉に、冬月は引きつりながらも苦しい言い訳をする。

「その割には、不透明にして、色々と変な事をしまくっていますよね?
 しかも、実際には、金看板に対しては、まったく役に立っていないようですが・・・
 その癖、更なる負担を強引な手口で各国にかけていますよね?
 それで怨まれないとでも?
 更に、予算が名目とは全く違う使われ方もしているようですね?」

 当然のように、女性監察官がそう突っ込みを入れる。

「いや、それは・・・」

「問題ない」

「ろ、六分儀!(汗)」

 今まで黙っていたゲンドウがトンでも無いタイミングでいつものセリフを言ったので、冬月が焦ったように、ゲンドウの方を向いた。

「問題ないとは・・・
 どういう意味で言っておられるのですか?」

 女性監察官が目を細めて白い目になってそう言った。

「ふ・・・」

 ゲンドウは女性監察官を見ながらニヤニヤとしている。

 金髪で、サングラスをかけていて、口調が違うし、髪の色も違うし、髪形も若干違う・・・

 それらに加え、服装も国連のものだった為・・・

 更に言うなら、多忙さや、様々な予測外の事態による精神的余裕の無さで、冬月には判らなかったが・・・

 実はその顔貌、背丈等が、ユイそっくりなのである。

 それ故に、派遣される人員の最初の書類に彼女の素顔の写真が載っているのを見て・・・

 最近、何かと敏感?になったゲンドウのユイ外道色欲・センサーがピピッと動き暴走しだし・・・

 派遣される理由・内容等、まったく確かめずにサインを出して送っていたのである。

 しかも、早急に頼むと言う一文を加えて・・・

 そして、実際に彼女を見て、さらにその声を聞いて、ゲンドウの妄想スイッチが入っていたのであろう。
(責めるような棘のある声だが、女性監視官の声は、ユイそっくりなのである)

 頭の中では、彼女を拉致って、1人お楽しみモードに入っているのである。

 最近、まったく仕事をせず、権力を使って色々と(立場上抵抗できない)看護婦を、無理やり、好き勝手に遊んでいたから、箍が外れやすくなっており、更に色々とその為の下準備をするという行動を忘れ去って能力が劣化しいたのだろうが・・・

「・・・あの、その司令・・・らしき怪しげな存在が、鼻血が出ていますが、大丈夫なのですか?(汗)」

 ゲンドウの様子に気付き、(自分ではないが、その余波で)身の危険を感じ始めたラミが嫌な汗を流しながら、ひきつつ、冬月にそう訊いた。

 そう言われて、冬月が横からゲンドウを覗くと・・・

 いつものポーズをとったまま、ほほを赤く染め、机の上によだれと鼻血を落としていた。

 サングラスの下の目は、おそらくイヤラシイ状態になっているだろう。

「お、おい、六分儀・・・
(い、いかん・・・妄想暴走状態に堕ちいっとる)」

 その状態を見て、ゲンドウに付き合って、十数年、苦労に苦労を重ねて来て、苦労性となっている冬月は、ゲンドウの状態を正確に把握した。
(というか、壊れている状態を気づき始めたのは最近だが・・・)

「・・・冬月副司令・・・
 彼・・・その物体が本当に六分儀司令なのですか?」

 そして、女性監察官も、嫌な汗を流しながら、そう訊いた。

「ふ、他人行儀な・・・ゲンドウさん、もしくはご主人さ」

 ゲンドウがトンでも無い事を口走ろうとしたまさに、その時、冬月は動いた。


 バキ!!


 ゲンドウが不穏当な言葉を発する前に、その幻の黄金?の右フックが素早くゲンドウの延髄を刈った。

 そのまま思いっきり顔面を机に打ちつけ、ゲンドウは気絶をした。
(それですむのか?)

「・・・何なのですか?
 これは?」

 完全に白い目で、ゲンドウを見つつ、指差して、女性監察官がそういった

「あぁ〜そのぉ〜まぁ〜昨夜の火災以外でも、色々と過労が溜まって居ったのでしょう。
 少し休ませたいので、また“後日”で良いですかな?」

「まぁ、あえて、何も言いたくありませんが・・・
 この司令が錯乱気味な事は総本部への報告書にあげさせていただきます。
 また、平常時、チルドレンの保護は我々がさせていただきます」

 冬月の言葉に、女性監察官が呆れた様にそう返した。

 つまり、『ネルフの運営は非常に拙いとか、狂人によって運営されている』等と言う、今後のネルフの運営上、非常に拙い報告がされるということである。

「そ、そんな・・・(汗)」

「まぁ、副司令である貴方が十二分にそのフォローをしている事も、報告しておきますので、安心してください。
 では、失礼します」

 女性監察官がそう言って、冬月に背を向けると・・・

「い、いえ、そう言う・・・」

「失礼します!」

 足を一歩前に出して、手を伸ばし、言い訳をする為に、女性監察官を止めようと行動しようとする冬月の言葉と行動を遮り、ラミが敬礼しつつ、そう大きな声で言って、彼女の後に続く・・・

 無論、止めようとした冬月をワザと邪魔をしたのである。

「え?・・・あ、その、失礼します」

 そして、手を伸ばしたまま固まった冬月を見て、ラミ御付の黒服の男も、冷や汗を流しつつ、あわてて、敬礼をしながら、そのまま、バックで外に出て行った。

 残された冬月は、そのまま出て行かれてしまい、止めるために手を伸ばしたまま、しばらく硬直した。

「・・・・・・
 クッ、これも全てこいつの所為だからな!」

 そして、気絶しているゲンドウを見て、青筋を立てると、そう言い残し、ゲンドウを放置したまま、自分の執務室に行き、仕事ゲンドウの尻拭いの続きを始めるのであった。

 妄想状態のゲンドウを気絶させたまま正気に戻さず(活を入れず、説教もせず)、放置していく危険性を忘れて・・・





 次の日の朝・・・

「ふぅ〜・・・
 しかし、あれをどう誤魔化すか・・・」

 朝早く、冬月が本部の仮眠室から出てくると・・・

「ふ、副司令!」

 後から、諜報特殊監査部の黒服が数名、大慌てでやってきた。

 まだ、所員の殆どが出所していないのに、珍しいなと思いつつも、冬月は立ち止まって、黒服が来るのを待った。

「こんな朝っぱらから、どうしたのかね?
 あぁ〜トモヒサ諜報特殊監査部・第肆課・課長補佐・・・だったかね」

 そして、黒服が追いつくと、冬月が何処と無く、疲れたようにそう言った。

 彼はトモヒサという名で、最近某事情により、足りなくなった人員補充の為に入った諜報特殊監査部の課長補佐である。

 後入社組みなので、比較的マモトな人という話がある。
(ちなみに彼は黒川ではありません。
 彼は、保安部の課長です)

「は、はい、そうです。
 そ、それよりも、司令達をとめてください!」

「どういうことかね?」

 焦ったように、そういったトモヒサに、冬月はそう訊いた。

「『国連から来た監査の人間を攫ってこい!』とか、
 『邪魔な護衛は殺せ!』とか命令したので、

トンでも無い事態になっています!」

「ぼふ!」

 その答えを聞き、冬月は吹き出しながら、前のめりにスッ転んだ。

「ど、どういうことかね?」

 起き上がろうとしつつ、冬月は詳しく訊こうとする。

「あの、昨夜遅く、司令が『監査でやってきた女性所員を攫え』と、
うちの副部長に命令したまでは、何時もの事らしいので、良かったらしいのですが・・・」

「良かったのかね?!
 しかも、いつもかね?!」


 その内容に冬月が驚いたように突っ込んだ。

「そりゃ、常日頃から私は非常に拙い事とお・・・
 い、いえ、今はそうではなく・・・(汗)
 普段なら、そういう無茶な命令に対しては、
時間稼ぎをしたり、念密な作戦を作り出したりする部長とか、
その直属の部下である零課の主要人員の先輩方が、
殆どアレに出払っていて、居なくなっているので・・・
 今度新設されたうちの第肆課が、その任につかされ・・・」

「や、やったのかね?!」

 既にやったのか、と焦って、冬月が叫んだ。

「いえ、つかされかけたのですが、私達の班は、元々、あれの予備兵りょ・・・
 もとい、別件で出ていた所を急遽取り消され、呼び戻されましたので・・・
 その、私共の班だけで、あの火事の後始末をする為に・・・」

「あぁ、それは聞いているよ。
 たいへんだったそうだね。
 それで、どうなっているのだね?」

「はい、詳しくは知らないのですが・・・
 功名心に駆られた副部長が、我々がその処理に時間がかかっているのはわかりきっているし・・・
 終わるまで待っていたら、すぐ部長に報告が行き、手柄が立てられないかもと考え、
他の課の者とかを使って、今朝、早々に・・・
 しかも、既に返り討ちに合って・・・」

「か、返り討ちかね?!
 という事は、結局やっているんじゃないか!
 では、向こうに・・・」

 かなり顔を蒼くしながら、最悪の事態を想定し、冬月がそう聞いた。

「えぇ、我々でない他の課の、計画実行者達が十数名、捕まっています。
 しかも、どうも、上からの命令と喋ってしまっているらしく・・・」

「やはり・・・お、終わったか?」

 がっくりと、膝をつきつつ、冬月はそう呟いた。

「そ、そこで、現在、司令と副部長が総司令執務室に篭城をしつつ、さらに無謀な命令を・・・」

「・・・(六分儀はつかまっていないのか?
 ならば、まだ何とかなるかも知れん)
 判った、即座に動かせる人員を集めてくれ!
 何とかしよう!」

「は!
 おい!」


 一縷望みを見出した冬月が顔を上げ、立ち上がりつつ、そう言うと、トモヒサが後ろに控えていた(おそらく部下の)黒服に声をかけた。

「「「「は!」」」」

 すると、なにをすべきか、すでに判っていたらしい黒服たちは即座に散った。

「それでは、副司令、今後の指示を」

「うむ!
 話し合いをするだけだから、銃器類は全て置いて行きまさい。
 誠意を見せ、何とかこの危機を乗り越えるぞ」

 トモヒサの言葉に、冬月は胃の辺りを押さえつつ、頷き、そう言った。

 ネルフ存亡?をかけた作戦が今始まる・・・

 と言えば格好良いが、実際は、司令ゲンドウの考え無しの暴走に対する尻拭いである事が、非常に悲しい冬月であった。










To be continued...


(たわごと?)

何とかプロットのサルベージが出来たし、時間も得たので、なんとか書けました。

いやぁ〜久々だから、やはりパワーが・・・(^^;)

時間が経っているので、多少、違和感がありますが、まぁ、勘弁してください。
(一応、何回か書き直し・・・)

しかし、映画版のエヴァ、やっと時間ができてDVDで見ました。

感想は一言・・・『うわ、TV版と違って、ミサトがかなりマトモになっている!』

まぁ、アンチモノがかなり(ゲンドウのよりも)出回っていますので、
イメージ払拭の意味もあるのかもと思ってしまいますね・・・
(また新たな謎を作っているし・・・回答でるのかな?)

でも、軍人としても指揮官としても、マダマダダメだな・・・と思いました。
(有能とするには・・・)

しかし、アンチものは減るかもしれませんね・・・あのミサトだと・・・

それはさて置き、ながちゃんさんへ、もう一つので送ったアレで作中に出るのは、どれが良いですか?
(2つ位後の予定なので・・・)

A、B、C、D、Eで答えましょう♪



(ご要望にお応えして、ながちゃん@管理人のコメント)

ABCDE全部ッ!!

どれも甲乙つけがたく、でも強いて選ぶなら「A&B」でしょうか。単品では選べません。

最新26話の感想ですが、相変わらずミサトが粗大ゴミ化してますな、ニシシシ。もう害悪も害悪、害悪その物。しかも性質の悪いことに罪悪感ゼロときた。
ゲンドウもゲンドウで脳内妄想でピンク化しているし、尻拭い役の冬月の髪の毛がまた数百本抜け落ちたねコリャ。
ネルフ再建のための大勢の血の滲む努力ですら、結局この害悪二人組のお蔭で、あっさりとスポイルされそうな予感。いやすでに決定事項か。合掌。
次話も期待していますよ。

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